近衛隊長マモンとやらとその他大勢を吹き飛ばしたカズマ達は、そこで一息吐くと気合を入れ直した。この先が魔王へと続く大広間、そして更に進めば魔王だ。
魔王は二の次である。一番は、恐らくそのどちらかにいるであろうコッコロとの合流だ。
「行くか」
カズマの言葉に一行は頷く。そしてそのまま歩みを進め、扉を開き大広間へと足を踏み入れた。
瞬間聞こえる轟音。どうやら何者かが戦闘をしているようで、その余波で皆の服がバタバタと揺れた。
ちなみにカズマ以外皆スカートかそれに近い服装である。彼はしっかりと四人と一匹のめくれ上がるそれを記憶に残した。
そうしながら、その場所を見やる。戦っている片方は見知った顔で、そしてその近くにいる一行も皆見知った顔。その中でも一際お馴染みなのが。
「コッコロ!」
思わず叫ぶ。その声にハッと振り向いたコッコロは、カズマ達を見て目を見開き、そしてくしゃりと表情を歪めた。次いで、やはり来られましたか、と言葉にした。
「やっぱりとか言うなら最初から一人で出てくんじゃないわよ。この馬鹿コロ助」
「コッコロちゃん。行くも帰るも、わたし達は一緒ですよ」
キャルとペコリーヌもそうやって彼女に返す。その言葉を聞いたコッコロは何かを言おうとして口を開き、そして言葉にならないそれを飲み込むと、いいのですかと告げた。
「わたくしは、魔王の娘です」
「だからなんだよ。分かってるのか? 俺のパーティーメンバー、バーサーカー第一王女とアクシズの巫女とおまけのホワイトドラゴンだぞ? ここに魔王の娘が加わったからなんだってんだよ」
「それは……」
「フハハハハッ。そら見ろエルフ娘よ、こうなるに決まっているであろう」
「ふ、ふふふっ。そうですよね、やっぱりこうなりますよね」
「だろうな。ほれ、さっさと向こう行っとけ」
最後の確認。そんな思いで放ったコッコロの決死の一言であったはずのそれは、カズマが迷うことなくばっさりと言い切ったことで終わりとなった。バニルは当然として、ウィズやセレスディナまで笑いながらあちらへ合流しろと促している。そんな連中を見て、コッコロはそちらに振り返り、そしてその視線を受け。
「……ありがとうございます。みなさま」
ペコリと頭を下げると、カズマ達へと駆けていった。駆け寄ってくるそんな彼女を、カズマが、ペコリーヌが、キャルが、シェフィが受け止める。
「おかえり、コッコロ」
そうカズマが述べると、コッコロはコクリと小さく頷き、そしてカズマの服に顔を埋めた。こころなしか震えているのは、皆が見なかったことにした。
「はい、ただいま戻りました」
その声がちょっぴり涙混じりだったことも、皆は気付かなかったことにした。
「さて、あっちは感動の再会というやつですが」
「あらめぐみん、向こうの観客は良いの?」
一方、白い魔法使いと戦闘を行っていたちょむすけの横に、めぐみんがなんてことのないように並び立っていた。立たれた本人も別段なんてことのない様子で彼女にそんな言葉を投げかける。
問われためぐみんは、観客は足りてるのでいいでしょうと軽く言い放った。
「それよりも、師匠です。苦戦しているんですか?」
「まさか。ただ、ちょっと面倒なだけよ」
白い魔法使いの立っている場所に浮かび上がる魔法陣。あれが魔力供給をしているせいで回復もされ放題。一方のこちらはアクセルの奇人変人に名を連ねるだけあって途方もない魔力量を誇ってはいるが、あくまで限界はある。
いくら実力が上だからと言っても、そうなるといささか面倒な事態になるわけで。
「本当ですか?」
「あら、何? 師匠を疑っているのかしら?」
「なんだかんだ所長と師匠は波長の合う相手ですからね。そういう部分くらい持ち合わせていても不思議ではないでしょう」
「それを言うなら、めぐみんもそうじゃないの?」
「うへぇ、あの所長と波長が合うとかやめてくださいよ。鳥肌立ちます」
そう言ってお互い笑い合う。その間にもちょむすけは白い魔法使いと攻防を続けているので、文字通り片手間で戦闘をしている状態であった。
「それで、あの邪魔なやつはどうすればいいんですか?」
「そうね……。もう解析も終わったし、決めていいわよ」
そう言うとちょむすけも自身の足元に魔法陣を生み出す。それを見た白い魔法使いは、馬鹿な、いつの間に、と驚愕をしていた。
「それだけずっと見せてくれているのだから、当たり前でしょう?」
「本当に所長みたいですね、師匠」
「なんだかんだ、ネネカは私の友人だもの。似た者同士、かしらね」
そう言って笑うちょむすけにネネカを幻視しためぐみんは、再度うへぇと顔を歪めた。そうしながら、まあいいですと視線を驚愕している白い魔法使いに向けると、その恩恵は自分にも貰えるのかと彼女に問い掛ける。
「いいけれど、あら、多重詠唱?」
「向こうの再会の後は魔王討伐ですし、ここで時間を食うのも悪いでしょうから」
「そうね。じゃあついでに」
魔法陣の恩恵をめぐみんにも付与しつつ、ちょむすけも爆裂魔法の多重詠唱に入る。流石にここで七重は城が吹き飛ぶので、抑えようと四つで止めた。
「さあ、研究の成果、改めて見てあげるわ」
「さっきは城の外だったので、振動くらいしか見せられませんでしたからね。理論の証明も実践も済ませたので、より精密にいけますよ」
「そこの一点だけは、あなたには適わないわね」
「師匠の教えが良いんです」
喋りながら四重の爆裂詠唱を終える。それがどれだけのものか、なまじっか最強の魔法使いを自称していた白い魔法使いには良く分かり。
「ま、待て。待ってく――」
『《エクスプロージョン・カルテット》!』
命乞いも出来ずに、二発の四重奏で魔法陣ごと消し飛んだ。
「じゃ、行くか。魔王退治」
「軽いわね」
「まあ、その方がわたし達らしいんじゃないですか」
「はい、その通りです」
カズマの言葉にキャルがツッコミを入れ、ペコリーヌとコッコロがフォローする。そうそうこれこれ、と言わんばかりに、シェフィとダクネスが頷いていた。
「だが、本当に大丈夫か? 相手は魔王だぞ、それに」
ちらりとコッコロを見る。そんなダクネスに、彼女は心配いりませんと首を横に振った。
「わたくしはコッコロ。田舎の村で育ったエルフで、アメスさまの信徒。そして、キャルさまとペコリーヌさま、主さまのパーティーメンバーのアークプリーストでございます」
「私のママでもあるわよ」
「ちげぇよ。おい大丈夫か? ここ一番で幼児化されると困るぞ?」
シェフィの言葉にちょっぴり心配になったカズマが彼女を見たが、どうやら純度百パーセント、通常の状態で述べていたらしいことを察すると溜息を吐いた。
まあつまり手遅れである。じゃあいいか、と諦めた。
「と、とにかく問題はないのだな? ならば私からはもう何も言うまい」
「というかお前ついてくるの?」
「ここで放置プレイの提案だと!? ぐぅ、貴様、なんという悪魔の囁きを行うのだ……!」
「……とりあえず扉開けてこいつだけ投げ込むか? いや、喜びそうだなぁ……」
あくまで平常運転のダクネスを見て溜息を吐いたカズマは、まあいいやと視線を他の面々にも向けた。めぐみんは当然ついていきますよと笑みを浮かべ、爆裂魔法のストックもありますからとマントをジャラジャラさせる。
「じゃあとりあえず俺達とシェフィ、ダクネス、めぐみんは確定っと。んで」
お前らはどうなんだと元魔王軍幹部連中を見やる。セレスディナはどっちでもいい、と言い放った。こっちで追加が来ないようにしてやる役目もいるだろうし、と鼻を鳴らす。
「素直ではないな、絆され実験体プリーストよ」
「うるせぇよ。で、お前はどうなんだバニル」
「我輩は魔王とは少々約束を交わしている。よって、直接の手助けはせん。エルフ娘が魔王にならぬのならば、これは向こうに適用されるのでな」
「回りくどいわね。殿をするんでしょう。……さてめぐみん、保護者の助けがいるかしら?」
「無用ですよ師匠。私だけでも魔王に爆裂魔法を叩き込んでやります」
「私も皆さんを信じて待っています」
「ウィズは別に来ても良くない?」
カズマのその言葉に、空気読めとばかりにキャルが彼の頭をひっぱたく。そんな彼女をジロリと見た彼は、だってそうだろうとキャルに述べた。
「ウィズだけ何か理由ふわっとし過ぎてるんだぞ」
「そこはあたし達を信じて待つとかいういい感じのカッコつけでじゅうぶ――」
「いや、あの、私元幹部と言いつつ実はまだ抜けていないので、この先に勇者側として行くのはちょっとだけ支障が……」
キャルの言葉が途中で止まった。ギギギ、とウィズの方を見ると、あたしのフォロー返せと言わんばかりの表情を浮かべる。ひぃ、とウィズは悲鳴を上げて後ずさった。
バニルはそんなやり取りを見て爆笑し、そして腹が満たされたとばかりにぽんぽんと叩く。本当に締まらないな、とセレスディナが呆れたようにぼやいていた。
「よし、じゃあ改めて。行くか、魔王退治」
メンバーも決まったし、とカズマは魔王の部屋に続く扉を見やる。敵感知を行うと、そこには一際大きな気配と、大小様々な気配。どうやら魔王だけで待ち構えているわけではなく、部下を大勢用意しているようであった。
「魔王のくせにみみっちいな。ここは一人でドンと構えてるもんじゃないのかよ」
「それは仕方あるまい。魔王の能力は味方のバフだ」
「ん? それって」
バニルの呟きにキャルが反応する。それを聞いたセレスディナが、ああそうだ、とバニルの言葉を補足するように頷いた。お前の思った通りだとばかりに言葉を紡いだ。
「勇者佐藤和真と魔王八坂恭一は、同じ力を持っている者同士だ」
「ちょ、ちょっと待った。俺のこの力、アメス様から貰ったものだぞ」
「確かに魔王はかつて勇者であったものが闇に落ちたと言われていましたが」
まさか本当にそうだとは。めぐみんがそんなことを述べ、ペコリーヌの表情が真剣なものに変わる。もし、そうだとすれば、女神アメスはこのことを知っていてあえて黙っていたということになる。そんな疑念が頭をもたげたのだ。
「ん? あ、れ――」
そんなタイミングで、カズマがよろめいた。頭にちょっと弁明したいからこっち来て、という言葉が響き、心配する皆にどうやら女神達が話したいことがあるらしいという伝言を告げると壁にもたれるように腰を下ろす。
そのまま夢の世界に誘われたカズマは、三女神のたまり場となっているアメスの夢空間へと引っ張り込まれた。
「はいじゃあアメス。言い訳を聞こうかしら」
「カズマさんも呼びましたので、コッコロさんにもちゃんと伝わりますからね」
「さあ、どういう感じに言ってくれるのかしら。あ、ちょっとワクワクしてきたわ」
「先輩ったら。でも、実は私も」
「違うのよ!」
何が違うんだよ。呼び出されて早々三馬鹿女神のコントを見せられたカズマは、そもそも色々司る連中がこれでいいのかと疑問に思う。思うが、まあアクセルの奇人変人共をさんざんっぱら見ているのでもうこの程度ではどうということはない。
「こほん。まず伝えなかったことは素直にこちらの落ち度よ。でも、そもそもあたしの加護じゃないのよあれ。たまたま被っただけ」
「うわー、それ一番言っちゃいけないやつ。言い訳としては最底辺よアメス」
「やかましい! そもそも性質が違うでしょ! あっちは鼓舞に近くて能力を百二十パーセント引き出すタイプだけれど、こっちのは純粋に能力を底上げするんだから」
「何か違うんですかそれ」
「違うわよ。いい? カズマ、よく聞きなさい。あんたに与えた力でフォームチェンジのきっかけを作ったことがあったでしょ」
「キャルのフォームチェンジは私の力じゃない、なにしれっと自分の功績にしてるのよ。謝って! アクア様ごめんなさいって謝って!」
「うっさい! 今そういう話してない!」
「なあもう帰っていい?」
何で最終決戦の直前で駄女神コントを見せられなければならんのか。カズマの心中はそれである。エリスがまあまあと二柱を宥めにかかったが、結局巻き込まれて三柱でギャーギャー言い合うことになった。
カズマの目がどんどん胡散臭いものを見る目に変わっていく。
「こほん。気を取り直しましょう」
「もう無理だよ」
「いいから。あんたに与えた加護、多分今では割と自在に使えるようになったでしょう? だから、その次の段階を教えてあげるのよ」
その次、と言いながらアメスは指を一本立てる。さっきも言ったように、カズマの力はペコリーヌのフォームチェンジのきっかけを与えたことがあった。
だが、あれはあくまで勇者の装備の力を自力で引き出すためのきっかけに過ぎない。ぶっちゃけてしまえば、だからなんだ、である。
「そこよ。次の段階ってのは、別にそんなものがなくても、恒久的な力の底上げのきっかけをあげるっていうものなの」
「んん? っていうと、それはつまり」
これから戦うメンバー全員を、フォームチェンジさせられるようになる。そんな感じに思えばいいのだろうか。そう告げると、その通りとアメスは頷く。
ぽん、とカズマを胸を叩くと、はいこれでオッケー、と軽い調子で彼女は述べた。
「本当かよ」
「大丈夫よ、女神を信じなさい」
「この流れで信じろって言われてもなぁ」
アメス、アクア、エリスを見やる。まあ確かに女神なのだろう、そういう風のオーラっぽいものは感じはする。
が、いかんせんその立ち振舞を見ていると、アクセルの奇人変人どもに通じる何かを見出すというか、なんというか。
「いや、まあ」
逆に考えれば、あの連中と同じだとすれば、中身はともかくその実力は信じられるということになる。
よし、と頷いたカズマは、分かったとばかりに立ち上がると三女神に元の場所へ戻すよう伝えた。
「カズマ」
「カズマ」
「カズマさん」
「分かったってば、しょうがねぇなぁ、もう」
ぽん、と生み出された扉に歩みを進めると、カズマはそこに手をかける。今度こそ本当に、魔王退治に出発するのだ。なんでもないただの冒険者を適当にやるはずだった自分が、気付いたら、こんなところまで。
「んじゃ、ちょっと魔王しばいてきますかね」
多分倒すのは自分じゃないけれど。そんなことを続けながら、カズマは扉を開き、足を踏み出した。
「ペコリーヌ辺りかな、やるなら」