プリすば!   作:負け狐

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どっちにしょうか迷ったけど今回は普通にプリンセスフォームでいきます


その229

 ゆっくりと扉を開ける。軋んだ音を立てて開かれたその先には、玉座に座っている一人の魔族とそれに付き従うかのように並んでいる多数の魔族やモンスターの姿があった。扉を開けた瞬間に奇襲でもしてくるのかと身構えていたカズマは、すんなりと魔王の部屋に入れたことに拍子抜けしてしまう。

 

「なんだ、攻撃してこないのか?」

 

 挑発じみたその言葉に、玉座の魔族――魔王はふんと鼻を鳴らした。当然だろうと言葉を紡いだ。

 

「我が娘を囮にされてはかなわんのでな」

「するかよ馬鹿。囮にするならこのドMだ」

 

 くい、とダクネスを指し示す。そうしながら、カズマは玉座に向かって改めて述べた。お前が魔王か、と。

 

「いかにも。それで、汝らは勇者か、それとも愚か者か?」

「勇者だよ。分かってんだろ?」

 

 ハッタリも込めて自信満々にカズマはそう言い放つ。そうしながら、ちらりと周囲に目配せをした。コクリと頷いた皆は、ゆっくりと武器を構え、戦闘態勢に入る。

 そんなカズマの仲間達を、正確にはその中の一人を見て、魔王はどこか苦々しい表情を浮かべた。

 

「こころ」

「……っ」

 

 コッコロがビクリと反応する。が、それも一瞬。すぐに気を取り直すと、彼女は槍を構え直した。その切っ先は真っ直ぐ相手に、魔王に、自身の父親と名乗った男に向けられている。

 

「わたくしはコッコロ。……もし魔王の娘だとしても、八坂こころだとしても。わたくしの心は、変わりません」

「……そうか」

 

 ゆっくりと目を閉じる。そうしながら、魔王は大きく溜息を吐いた。己の気持ちを切り替えるために、眼の前の娘を、敵としてみなすために。

 ならば、と魔王は言葉を紡ぐ。眼の前にいる勇者パーティーを打ち倒してみせよう。そう続け、周囲の部下達に攻撃の指示を出した。

 

「さあ勇者よ。その力を我が前に示すがいい!」

「言われなくたってやってやるよ。ペコリーヌ! キャル! コッコロ! シェフィ! めぐみん! ダクネス! 準備はいいか!?」

「勿論です」

「当たり前よ」

「覚悟はできております」

「いけるわ」

「まかせてください」

「無論だ」

 

 よし、とカズマは剣を抜き放つ。魔王の能力が部下の強化ならば、こちらの能力だって味方のパワーアップだ。アメスによって与えられたこの力を、先程強化されたこの力を見せてやるとばかりに全員を線で繋ぎ、そして。

 

「いきます! 変っ身!」

 

 フォームチェンジを終えたペコリーヌが、背中に羽を生み出し魔王の部屋を駆け抜ける。すれ違いざまに強化されたはずの部下達を薙ぎ倒したことで、魔王も思わず驚嘆の声を上げた。

 

「驚くのはまだ早いわよ! 変身!」

 

 次いで慣れているキャル。アクシズの力を最大限に発揮したことで姿を変えた彼女は、魔法陣を次々と生み出し強烈な魔法を射出する。ペコリーヌが打ち漏らした敵は、その真魔法であっさりと沈んだ。

 

「その力……女神アメスの……! 何故そこまで力を増している……!?」

「コッコロのおかげだよ」

 

 忌々しげに呟く魔王にそう言い放つと、カズマはさあ次々とばかりに皆を促す。当然、とばかりにシェフィが飛び出した。その姿は正体がホワイトドラゴンであることを証明するかのように白いドレスに身を包んでおり、オーロラのような翼がキラキラと輝いている。

 

「この姿なら、ドラゴンに戻らなくても! 《廻舞・姫銀氷竜(シュトルム・シュタンツ)》!」

 

 部屋全体が凍りついたかのような一撃。二人の攻撃を掻い潜ろうにも、さらなる全体攻撃によって魔王の部下達は動くに動けない。魔王は小さく舌打ちしながら自身の能力を更に強めたが、向こうも強化されている以上、それでこちらが圧倒的に優位に立つようなことなどない。精々が拮抗するくらいだ。

 それなら、と指揮官でありバフを撒いているであろうカズマを狙うべく部下に指示を出した。強化しているのは味方のみ、ならば、本人はその力を使えまい。そういう判断であり、確かにそこは間違っていない。

 だが、しかし。

 

「その程度で、この強化された私を貫けるとでも!?」

「ぐあ、なんだこいつ、恐ろしく硬い! 何の金属で出来てるんだ!?」

 

 カズマの力で強化され、白銀の鎧を身に纏ったダクネスが仁王立ちして攻撃を受け止めていた。額に装備されたティアラが輝き、その姿は仕える主であるペコリーヌに並び立つが如しで。

 

「私はあまり派手に姿が変わりませんね」

 

 トレードマークのマントと帽子、そして服装も普段より装飾のついた大きなものに変わっためぐみんが、受け止めていたダクネスごと爆裂魔法で吹き飛ばした。魔王の部下達は消し飛んだが、当然のごとくダクネスはびくともしていない。

 

「めぐみん。いい感じだ。次を頼む」

「ダクネスしかいない時に撃ってもしょうがないでしょうに」

 

 フォームチェンジしても当然平常運転の彼女を見て溜息を吐いためぐみんは、はてさて、とカズマを見た。それで、最後の一人は大丈夫だろうか、とそこを見た。

 普段より衣装がきらびやかな、胸元にリボンを付けたマントを纏ったまさにプリンセスだとでも言わんばかりの姿になったコッコロが、ゆっくりと両手を合わせ目を瞑っている。それに合わせるように彼女の背中から羽が生えた。魔王に与する者の、魔王の娘であるかのような証明である魔物の羽とは違う、透き通った妖精のようなそれを使い空中へと浮かび上がると、彼女はゆっくりと目を開く。

 

「わたくしのこの力――全て、捧げます! 《オーロラ・サンクチュアリ》!」

 

 瞬間、魔王の部屋の床全体に魔法陣が浮かび上がった。光が溢れ、魔王の部下達との戦闘で多少なりとも消耗していたペコリーヌ達の傷が癒えていく。同時にバフが掛かったのか、彼女達の戦闘力がさらに向上した。

 

「これは――!」

「凄いわよコロ助!」

「流石ママだわ!」

 

 行ける、と雪崩のように迫ってくる魔王の部下をペコリーヌ、キャル、シェフィの二人と一匹が薙ぎ倒す。彼女達が討ち漏らした、あるいは指揮系統を攻めんとした魔物達は同じくコッコロのバフを受け更に硬くなったダクネスが全て受け止めた。

 

「いいぞめぐみん、さあ、私ごと! さあ!」

「もはや爆裂魔法を受ける方がメインになってますね……」

 

 やれやれ、と帽子を被り直しためぐみんは《エクスプロージョン》でダクネスごと吹き飛ばす。先程より威力を上げたそれは、部屋の一角ごと吹き飛ばす勢いであった。四方を壁に囲まれていたはずの魔王の部屋は、それにより外の大広間と繋がってしまう。

 勿論ダクネスは傷一つ負っていない。

 

「おや、師匠たちが見当たりませんね」

「まあバニル辺りが見通してさっさと別の場所に移動でもしたんだろうさ」

 

 風通しの良くなった魔王の部屋から見える景色を眺めためぐみんがそんなことを述べるが、カズマは気にすること無くそんな言葉を返した。そうしながら、コッコロ、とスキルを使い続ける上空の彼女に声を掛ける。

 

「あんまり無理はするなよ!」

「はい。勿論でございます主さま。……っ」

「ほら見ろ。お前は向こうの連中とは違って変身初めてなんだから。いいからちょっと休んでろって」

「はい。ありがとうございます主さま」

 

 ゆっくりと地上に降りたコッコロは、羽を仕舞い一息を吐いた。そうしながら、まだ戦えると槍を構えた彼女は、しかしカズマに止められる。

 

「だーかーら、ちょっと休んでろって」

「いえ、主さま、わたくしは」

「そういうのいいから。ほれ、そこの物陰にでも座ってろ」

「カズマ、物陰というのはもしかしなくても私のことか……」

「そうだよ物陰。ほら、コッコロ」

「くぅ、こんな最終決戦の最中にまでこんな扱いをされるとはっ……あふん」

「喜んでるじゃないですか」

 

 めぐみんのツッコミは悶えているダクネスには聞こえていない。申し訳ありませんダクネスさま、と遠慮がちに座るコッコロも大分毒されているが、そこを気にするものもいなかった。

 す、とコッコロのスキルの魔法陣が消えたことで、ペコリーヌ達はお互いに頷くと一旦敵と距離を取りカズマ達のいる場所へ戻っていく。魔王の周りには薙ぎ倒した雑魚達とはまた違う強さを持っている側近が何体か、それとは別にひしめき合っていた雑魚もまだいる。

 ここらで一旦一息入れようと誰ともなく考えたのだ。それはカズマ達だけでなく、魔王側も同じで。

 

「こころ……」

 

 魔王が自身の娘の名を呼ぶ。だが、コッコロはそれを受け、ゆっくりと首を横に振った。先程も言いました、と物陰から立ち上がり向こうを見る。

 

「そう、だったな。……我が娘、こころはもういない、今目の前にいるのは勇者パーティの仲間の一人コッコロだ」

「そうやって言い聞かせてるのは、まだ割り切れてない証拠だな」

 

 はん、と鼻で笑うカズマに魔王は憎々しげな表情を浮かべる。人の娘を人質にしてぬけぬけと、と吐き捨てるような言葉を返した。勿論カズマはそんな挑発に乗るわけがなく、そいつは残念だったな、などと言い放つ始末。

 

「こちとら魔王を倒すためにここまで来たんだよ。正々堂々とか、一対一とか、そういう王道な展開は別のやつにでもやらせてろよ」

「……貴様は魔王のことを何も知らんようだな。いいのか? それはそちらの首を絞める発言にもなるぞ」

「ならねぇよ。こちとら冒険者だぞ。持ってるチートも仲間がいなきゃ碌な役に立たない代物だ。俺がもし魔王と戦うんなら、仲間に任せるのが一番効率がいい」

「それでも勇者か、お前」

「なんとでも言えよ。大体、お前だって部下を強化してふんぞり返ってるだけじゃないか。人のこと言えるのかよ」

「……言ったな。ならばいいだろう、我が力を以てすれば、貴様らを消し炭にすることなど」

「キャル!」

「《アビスバースト》ぉぉぉぉ!」

「ごふぅっ!」

 

 立ち上がった魔王に向けてキャルが魔法を放つ。玉座ごと吹っ飛んだ魔王は、少しだけ煤けたマントを払いながら、しかし全くダメージを受けてないわけでもないのか、多少歪んだ表情でこちらを睨んでいた。

 

「おーおー、目標が狙いやすくなったんでついやっちまった」

「ほんとよね、大人しく玉座でふんぞり返ってればよかったのに」

 

 そう言って悪い顔で笑い合うカズマとキャル。そうしながら、しかしと表情を固くさせた。思った以上にダメージはない。やはり腐っても魔王、全力全開をもってしなければ、打倒することは叶わない。

 

「まあでもダメージ自体は食らってるみたいだし、いけるわね」

「そうだな、よしペコリーヌ」

「はいっ」

「貴様はとことん前に出んのか……」

 

 す、と剣を構えて前に立つ少女を見ながら、魔王はどこか呆れたようにカズマを見た。見られた方はそうだよ悪いかと開き直る。自分のステータスは弱いから、というのが理由の一つであるし大分比重は大きいのだが、それよりも。

 自身の強化が現在の戦力の要である、とよく分かっているからだ。そして魔王がそれを崩そうと挑発をしていることも、当然に分かっている。

 

「まあそう焦るなって。いざとなったら俺もこの剣をお前に突き立ててやるからさ」

 

 が、見え見えの挑発を受けたカズマは多少なりとも言い返したくなる。構えていたショートソードの切っ先を魔王に向けながら、どこか決め顔でそんなことをのたまった。

 対する魔王は目を瞬かせ、何を言っているんだこいつはという表情になる。そんなどこにでも売っているような、駆け出し冒険者の武器程度が何になるのか。そんなことを思い、そしてどこか憐れむように言葉を紡いだ。

 そんなもの、突き立てたら逆に武器の方が砕け散るぞ、と。

 

「あ、そうなのか。それは困ったなー」

「……?」

「これは、コッコロが! 俺のために! 初めて選んでくれた! 大事な大事な武器なんだけどな!」

「………………ぐはぁ!」

「魔王様ぁ!」

 

 カズマの宣言の数瞬後、魔王は膝から崩れ落ちた。こころの初めてのプレゼントだと、と目を見開き、荒い息をしながら剣を見る。もしあれが砕けたら、もしあれを折ってしまったら。娘が、こころがどんな顔をするのか。

 結局口ではああ言いながら娘への情を消し去れていない魔王八坂恭一は、その想像による精神的ダメージで一気に老け込んだ気がした。

 

「……ねえ、ペコリーヌ。あたし、今世界で一番くだらない魔王特効の武器誕生の瞬間を見た気がするわ」

「やばいですね」

「ああそうそう。俺の装備は全部コッコロが選んでくれたものなんだよな。俺を消し飛ばすってことは、そういうことだよなぁ」

「き、貴様ぁぁぁぁ」

「……対魔王用の装備の誕生って、もっとこう、何かそれらしいエピソードがあるわよね?」

「あはは……」

 

 ぐぬぬ、となっている魔王とドヤ顔のカズマを見ながら、キャルとペコリーヌはそんなことを述べる。

 そしてそんな光景を見ていたコッコロは、恥ずかしいです主さま、とカズマの裾をくいと引っ張った。

 

「それに、新しい服も装備も、無くなったのならばわたくしが新たに用立ていたしますので」

「コッコロ……いやそれはありがたいんだけど、なんかその、もうそれ完全に親から服を買い与えられる子供なんじゃないかなってカズマさん思うわけなんだけど」

「ぐはぁ!」

「魔王様ぁぁぁぁ!」

 

 が、出てくる言葉はいつもどおりのコッコロなわけで。まあ平常運転だけど、と思いつつなカズマと比べて、魔王にとっては大ダメージなやり取りであった。

 

 

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