プリすば!   作:負け狐

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原作のオチにはなりそうもない


その230

「魔王様をお守りしろ!」

 

 魔王の傍らにいた側近らしき者の一人が叫ぶ、それに合わせるように、その周囲にいた他の側近も動き、そして部下の魔物達も指示に従った。

 カズマ達はそれについて別段動きはない。第二ラウンドだ、と構えていた状態のまま、まっすぐに魔王達を睨んでいる。

 

「カズマくん」

「ああ。やっぱりあの側近たちが厄介だよな」

 

 ペコリーヌの言葉にそう返す。そうしながら、まあでもいけるだろうと口角を上げた。魔王とこちらのバフ効果は拮抗している。先程の女神達との邂逅によって、カズマの能力の持続時間も増している。現状この拮抗状態を続ける限り、カズマと魔王は双方動けないだろう。

 つまり、勇者側も魔王側も、バフを与えた者達の戦力がそのまま戦況に直結する。

 

「つまり、あの鬱陶しい側近連中をぶっ殺せばいいんでしょ? 分かりやすくていいじゃない」

 

 キャルが杖を一振して口角を上げた。変に難しいことを考えずとも、とにかく目の前の相手をぶちのめせばいい。単純明快だ。

 

「貴様ら、まさかその人数で我らをどうにか出来ると思っているのか?」

「そういうセリフは戦闘が始まる前に言っておけよ。見ただろ、その辺の雑魚じゃ相手にもならないってことを」

 

 側近の一人がそんな会話を聞いていたのか嘲るように述べたが、カズマは怯むこと無くそう言い放つ。なんだと、と沸き立った雑魚共は返す刀でペコリーヌとキャルに瞬殺された。

 

「ああ、そういうことか? 雑魚で消耗させればお前達でも相手になるかもしれない、とかそういうこと考えてるわけだ」

「貴様! 言わせておけば!」

 

 側近の一人が我慢出来んとばかりに突っ込んでくる。待ってましたとばかりにダクネスがそれを受け止め、そして逃げられないようにしっかりとその体を拘束した。突っ込んできた側近の一人はもがくが、フォームチェンジもしているダクネス相手には全くと言っていいほど効果がない。こころなしか、ダクネスもつまらんと白けた表情である。

 

「おい魔王軍。もう少しこちらが抵抗出来ない程の攻撃をしてくれないものか? これでは何もそそられんぞ」

「何を言っているんだこの変態は!」

「んっ。いや、いまいちだな」

「《エクスプロージョン》!」

 

 罵倒ソムリエをしているダクネスに爆裂魔法が叩き込まれる。断末魔を上げることもなく、側近の一体は木っ端微塵になった。爆煙が晴れた後に残るのは、ふう、と何かを味わった後のようなダクネスが少し汚れた鎧を手で払っているのみ。

 

「めぐみん、先程から爆裂魔法ばかりなので、少し味変がしたいと思うのだが」

「ペコリーヌかキャルにでも相談してくださいよ」

 

 やれやれ、と頭を振っためぐみんは、さて、とマントを翻し予備バッテリーの確認をする。バフで威力が上がった分消費も増えるかと言えばそういうわけでもなし。これならまだまだ爆裂させることも可能か。そんなことを思いながら、まあ言われた通り次は味変させてあげますかと一歩下がった。

 ドン引いたのは魔王軍である。先程もやられていたので学習しろよと言えばそうなのではあろうが、しかし側近までも同じように受け止められるとは思っていなかったのだ。あっという間に数を減らされた魔王は、忌々しげに舌打ちをし、これ以上無駄死にをさせんとばかりに側近に向かって不用意に前に出ることを禁じた。

 それを聞いて口角を上げたのがカズマである。じゃあ遠慮なくこっちから行くぞ。そう宣言すると、一気に戦線を押し上げてきた。雑魚ではもう露払いにならない。魔王様をお守りしろ、と雪崩のように迫る魔王軍はあっという間に駆逐され壊滅状態。戦える状態なのは魔王とその側近連中のみといった様相へと変わり果てた。

 

「だ、だがそちらの消耗も少なくは――」

「《オーロラサンクチュアリ》!」

 

 コッコロの呪文再び。傷を癒やし、追加のバフを与え、側近連中の出鼻を挫く。カズマとのアイコンタクトのみでそれを行ったコッコロは、クスリと微笑むと彼の方へと向き直った。

 

「わたくしも、少し悪い子になってしまったかもしれません」

「そんなことないさ。お前は最高だ」

 

 さて、とカズマは魔王達を見る。残る側近は黒マントの魔道士風が三人、騎士風が三人、角の生えた大柄の鬼のような魔物が一体、死神のようなローブと大鎌を装備した骸骨が一体だ。数で言えばこちらが不利であるが、しかし。

 

「ペコリーヌ! 纏めてぶっ倒せ!」

「無茶言いますね! でも、そうやって期待されたら応えたくなっちゃいます!」

 

 剣を構える。足に力を込め、上段に振りかぶり。光のオーラを纏ったそれを、全力全開で振り下ろした。

 

「《プリンセスヴァリアント》!」

 

 放たれた光の剣の奔流が側近達を飲み込む。ついでに射線上にいた魔王も。

 もはや魔王の部屋はどういう形だったかも分からないほどの惨状だ。残っていた僅かな雑魚も、その一撃に飲まれて消えた。

 だが、しかし。

 

「ごめんなさいカズマくん。駄目だったみたいです」

「いや、ひーふーみー……少なくとも三体はやったみたいだし、いいんじゃないか」

 

 死神風の一体と魔道士一人、騎士が一人見当たらない。どうやら魔王が全力で防御をしたらしく、側近に守られている彼も肩で息をしていた。息を整えながら、その技は、と忌々しげにペコリーヌを睨み付ける。

 

「ベルゼルグ王国の……何故こんなところに」

「いいえ、わたしはカズマくんのパーティーメンバー、お腹ペコペコのペコリーヌです。ベルゼルグ王国第一王女、ベルゼルグ・アストルム・ソード・ユースティアナとは関係がありません」

「戯言を……」

 

 再度剣を構え戦闘態勢を取るペコリーヌを見ながら表情を歪めた魔王に対し、カズマはまったく、と馬鹿にするように言葉を発した。

 

「まあ、目先の娘のことしか見て無くて他の面子の情報も碌に仕入れなかった魔王なんぞそんなもんだろ」

 

 それとも、魔王ってのはそうやって油断して簡単にやられるようなポンコツのことを言うのかね。そう続けたカズマは、側近達がその言葉に怒りを燃やしているのを見てほくそ笑んだ。

 聞いていれば貴様、と側近達が突っ込んでくる。待てお前達、と魔王が止めるのも聞かず、一直線にこちらに来るのを見たカズマはコッコロを伴い一歩下がった。

 

「まだ魔王が残ってるから、全力使い果たさない程度にしとけよ!」

「どこまでこちらをコケにすれば!」

 

 彼の指示に更に激昂した側近の一人は、しかしペコリーヌにあっさりとその一撃を止められたことで驚愕の表情を浮かべた。

 

「やらせませんよ」

「貴様、人間ごときが!」

「ならば、その人間ごときの強さを存分に味わってもらおう」

 

 その隙にもう一体の騎士が彼女を狙わんと剣を振り上げたが、ダクネスによってあっさりと止められる。先程から彼女の防御を切り崩せていないことを認識した騎士は、しかしこいつ以外の仲間を巻き込む広範囲攻撃は使えないだろうと口角を上げた。爆裂魔法で纏めて攻撃されなければ、この程度。

 

「ララティーナ!」

「はっ!」

 

 瞬間、騎士は咄嗟にしゃがみ込んだ。自身の首があった場所に剣閃が翻り、騎士は思わず冷や汗を垂らす。後一瞬でも遅かったら、間違いなく自分の首は落ちていた。よろめきながら立ち上がり前を見ると、二人の女騎士が背中合わせに剣を構えているのが見える。ああ、そうか、自分はあの立ち位置に移動するついでに倒されかけたのか。

 ゾッとする感覚。そして相手とのレベルの差。それらを感じた騎士は、傍らの騎士の横に立った。隣の騎士もほんの僅かなぶつかり合いで消耗しており、肩で息をしている。

 

「魔王様の能力でパワーアップしている我々が、こんな……」

「条件はこっちも同じですからね。そう簡単にはやられません」

 

 油断すること無く真っ直ぐこちらを見るペコリーヌを見て、側近の騎士は悟った。分かってしまった。

 次のぶつかり合いで、自分は間違いなく負けるということを。

 

 

 

 

 

 

「くっ」

 

 魔王は歯噛みしていた。自身のバフ効果を受けた側近が、眼の前の勇者のパーティーメンバーの前になすすべ無く倒されていく。それを見て、己の魔王としての役割をどうすべきかと思案した。

 

「勇者の小僧」

「ん? どうした急に、負けを認めたのか?」

「ふっ……そうだな。剣士には剣で、魔法使いには魔法で。相対する冒険者は、そやつらの得意分野でことごとく潰してやったものだが。……まさか、得意分野がこちらの戦い方とはな」

「しかも負けてるしな」

「違いない。……ああ、認めよう。私は魔王としての矜持が潰された。そういう意味では、間違いなく負けた。そうだ……私は、負けたのだろうな」

「お、おい、いきなりどうしたんだよ。もっとこう足掻けよ、まだ負けるわけにはいかないとか言えよ。調子狂うだろ」

 

 いきなりのそれにカズマが面食らう。そんな彼を見ていたコッコロも、魔王の、父親の言葉を聞いて思わず動きを止めていた。

 そんなカズマのことなど気にせず、魔王はゆっくりと辺りを見渡す。ペコリーヌ、キャル、シェフィ、ダクネス、めぐみん。カズマ達のパーティーは全員が健在なのにもかかわらず、こちらの側近は全滅。残るは、味方のバフ能力を発揮する相手もいない自身のみ。

 これが負けでなくてなんだというのだ。はぁ、と溜息を吐いた魔王は、まさかこんな結末だとは思わず、ゆっくりと天を仰いだ。

 

「いや、違うな。これも、魔王の役目か」

「何言ってんだよさっきから。まさか本当に降伏する気になったのか?」

「馬鹿を言うな。降伏などするものか。たとえもう負けているとはいえ、最後まで貴様らと戦い、そして散る。それこそ我が役目よ」

「……お父様」

 

 ぽつりと、コッコロが呟く。それは無意識で零れてしまったものなのだろう、本人もそれを口にしたことに気付いていない。カズマは気が付いたが、それを指摘することなく、聞かなかったことにした。

 

「こころよ」

「っ」

「そう身構えるな。お前はコッコロで、私は魔王だ。……そうだ。お前にこんな魔王の役目など引き継がせるものではない」

「もう一人の娘に継がせるのはいいんでしょうか」

「めぐみん、多分今そこにツッコミを入れる場面じゃないわ」

 

 空気読めない紅魔族にツッコミを入れつつ、キャルはまあでも確かにね、と魔王を見た。なんか調子いいこと言ってるけど、そういうお涙頂戴は別のところでやってくれるかしら、と杖を構え真っ直ぐに睨む。

 

「コロ助に変な感傷植え付けてんじゃないわよ、ぶっ殺すぞ」

「キャルさま……」

 

 コッコロは彼女の方を見て、そしてゆっくりと目を閉じ、開く。そうでした、と迷っていた自分を振り払うように、決意を込めて魔王を見た。

 

「魔王様、わたくしは、あなたを――」

「こころ」

「ぶっ殺します」

「おいそこの猫耳娘、人の娘に何を教えている!?」

「あたしぃ!?」

 

 そんな何とも締まりの無いやり取りを合図にしたように、魔王もマントを翻し戦闘態勢に入る。呪文を詠唱し、狙うは。

 

「主さま!」

「うぉ、あぶねぇ!」

 

 緊急回避で咄嗟に躱したが、間違いなく直撃していたら頭が消し飛んでいた。そんな一撃が飛んできたことに思わず冷や汗を垂らし、カズマの集中力が切れる。しまった、と即座に剣を構え直すが、魔王の方が一手早かった。

 

「かはっ!」

「ララティーナ!」

 

 即座に間合いを詰めた魔王の一撃で、バフの切れた一瞬の隙を突かれダクネスが吹き飛んでいく。返す刀でペコリーヌを、と腕を振り上げた魔王であったが、その攻撃は彼女の剣に受け止められた。

 

「ぐぅ! あの小僧のバフ無しでもこれほどの力が!?」

「そう簡単には、負けません!」

 

 剣をかち上げ魔王の体勢を崩したペコリーヌは、即座に剣を構え直して振り抜いた。ベルゼルグ王国の、勇者の剣技の一撃を叩き込んだ。

 

「《プリンセスストライク》!」

 

 魔王が吹っ飛ぶ。が、ダメージ自体はそれほどでもなかったのか、空中で体勢を立て直しボロボロの魔王の部屋の床に着地をした。とはいえ、全く効いていないわけでもない。通常の攻撃とは違い、勇者の剣技は魔王の防御を貫くのだ。

 

「まったく……厄介な……」

「嘗めんじゃないわよ! 《アビスバースト》ぉ!」

「ぬうぅ!」

 

 そんな魔王に間髪入れずに魔法が飛ぶ。吹き飛ぶことこそなかったが、さりとてダメージが皆無というわけでもなし。アクシズの加護を受けている魔法はそれだけで、勇者の剣技に匹敵する効果を叩き出している。

 

「何故、こうもこちらに特効の連中を集めているのだ、小僧……」

 

 ベルゼルグの姫、アクシズの巫女、アメスの寵愛を受けている魔王の娘。一つ一つが魔王八坂恭一を苦しめる材料になっている。そんな存在を、まさか偶然、たまたま集めただのと、そんなことがあるはずがない。

 魔王のその考えは、カズマが知るかよと言い放ったことで崩れ去った。吹っ飛んでいたダクネスを回収した彼は、再び剣を構え皆を線で繋ぎながら、言葉を紡いだ。

 

「コッコロ以外はどいつもこいつも、成り行きで仲間になった連中だよ。お前を倒すために集めたんじゃない。倒せる仲間が集まっただけだ」

「貴様というやつは……とことん、こちらの予想を裏切るのだな……」

「お前みたいな爺さんの期待になんか応えたくないからな。よし、ラウンドツーだ。いくぞみんな! 魔王を囲んでボコせ!」

「言い方ぁ!」

 

 キャルのツッコミが飛んだが、いかんせん絵面はその通りなので彼女自身もそれ以上何も言えなかった。

 

 

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