プリすば!   作:負け狐

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こっちのペコはこんなんなので、使うとしても格好と技くらい


その231

 第二ラウンドと称したそれは、概ねカズマの宣言通りに事が進んだ。強化する相手がいなくなった魔王は、それ自体が脅威ではあるものの、やはり強化された勇者御一行には分が悪い。善戦はするものの、結果としてボコされるという表現がふさわしい有り様となった。

 

「よし、このまま反撃のチャンスを与えずに潰すぞ」

「何と言うか……これでいいのかしらね」

「あはは。……とはいえ、相手は魔王です、油断をするとあっという間にこっちが不利になりかねませんし」

「そうね。よし、じゃあ一気に――ん?」

 

 このまま攻め立てる。そうしようとしたまさにそのタイミングで、キャルが己の異変に気が付いた。否、キャルだけではない。ペコリーヌも、シェフィも、ダクネスも、めぐみんも。そしてカズマの横にいたコッコロもそれに気が付いた。

 

「主さま!?」

「ん? あれ? なんでだ?」

 

 強化の力が弱まっている。先程までと同じように皆に線を繋げようとしても中々上手く行かない。通常の強化は出来るものの、アメス達から授かった超強化まで至らないのだ。

 魔王を囲んでボコしていた一行は、そこでコクリと頷くと一旦距離を取った。カズマのもとに戻ると、一体どうしたのだと問い掛ける。

 が、当の本人も何がどうなっているのかよく分からないのだ。

 

「ふっ」

 

 それを見ていた魔王が笑う。成程な、と一人腑に落ちたかのように頷くと、態勢を整えるために呪文を唱え始めた。

 

「おい魔王。どういうことだよ」

「それを教える義理もない。と言いたいところだが、よかろう。単純に、お前の器が適合しきれていないのだ」

「はぁ? 何を言って」

「貴様がどれほどの実力を持ち合わせているかは知らんが、女神の力、それもこちらに匹敵するほどの力を人が使うのはそれ相応の器が必要だ。本来ならば、扱うことが出来るように修行なりなんなりをする必要があるだろう」

「聞いてないぞそんなこと」

「女神のやりそうなことだ。それとも、そちらの実力を買い被っていたのか」

 

 どちらにせよ不幸なことだ。そう言って魔王は口角を上げるが、言われたカズマはふざけんなと抗議の声を上げた。魔王と、そして女神にである。そうしながら、だとしても、と悪態をつき続けた。

 そんな彼を見ながら、しかしふと疑問に思った魔王は口を開く。そういえば、確か、とカズマに問い掛けた。

 

「勇者サトウカズマ。貴様は冒険者がどうとか言っていたが」

「ああ? それがどうしたんだよ。何だよ、最弱職の冒険者が女神の力を貰ったらいけないってか?」

「お前、本当にただの冒険者なのか? 上級職でも、前衛職でも魔王使い職でもない、貧弱な冒険者? その冒険者が」

「だからそうだって言ってんだろ。その弱っちょろい冒険者が魔王と同等の力を得たのがそんなに気に食わないのか? 自分の価値が下がるってか? 何様のつもりだ、魔王様か!?」

「いや、そういうわけでは」

 

 カズマの逆ギレのようなそれに、魔王はちょっとだけたじろぐ。が、すぐに気を取り直すと、いかんいかんと頭を振った。向こうのペースに飲まれていては駄目だ。そもそも、相手が冒険者だからなんだというのだ。あの冒険者が、最弱職が、現に勇者パーティーの中心となって自身をここまで追い詰めたではないか。

 息を吸い、吐く。そうして冷静さをある程度取り戻した魔王は溜めていた呪文を解き放った。《クリエイト・アース》で砂を作り、それらを戦闘の衝撃で崩れ去った魔王の間の瓦礫と混ぜる。そして。

 

「《クリエイト・アースゴーレム》」

「なっ」

 

 魔王の間の瓦礫が複数のゴーレムとなって動き出した。ゆっくりと立ち上がったそれは、同時に魔王のスキルにより超強化される。先程の幹部と同じとまではいかずとも、魔王の魔力によって作られたそれはその辺の雑魚とは一味違う。何より、魔王の魔力さえあれば何度でも復活する。

 

「ふう。さあ、勇者達よ、先程の宣言を返すならば。ラウンドスリーだな」

「これは……」

「やばいですね」

 

 

 

 

 

 

 瓦礫のゴーレムの攻撃を掻い潜りながら、ペコリーヌは一撃を放つ。それにより両断されたゴーレムが崩れ落ちるが、すぐさま別のゴーレムが魔王を守るように前に立った。

 

「邪魔よ! 《アビスバースト》ぉ!」

 

 ゴーレムに風穴を開ける。ぐらりとよろめいたその隙に魔王へ向かおうとペコリーヌが足を踏み出したが、そこに一筋の雷光が飛来した。

 

「ユースティアナ様!」

「ララティーナ!?」

 

 魔王の《カースド・ライトニング》を受け止めたダクネスが吹っ飛んでいくが、それを目で追うのも一瞬。今だと更に一歩、彼女は踏み出した。

 それよりもゴーレムの修復が早い。両手を握り、ペコリーヌを押し潰さんと振り下ろしてくるそれに、彼女は一度足を止めて迎撃をせんと剣を構える。

 

「《エクスプロージョン》!」

「めぐみんちゃん!」

「雑魚にかまっていないで、ペコリーヌは魔王を!」

 

 外部バッテリー装備とはいえ、流石にそろそろ体力も限界が来る。たらりと流れる鼻血を強引に手で拭いながら、めぐみんは足を止めるなとペコリーヌに叫んだ。木っ端微塵になったゴーレムであるが、瓦礫の山となった部屋には材料がいくらでもある。追加のそれが立ち上がるのを見ながら、彼女は思わず舌打ちをした。

 

「めぐみん、少し下がっていて」

「シェフィ。ですが」

「大丈夫。私だってホワイトドラゴンの端くれよ。強化されなくても――グルァァァァ!」

 

 ドラゴンの姿に戻ったシェフィがゴーレムを薙ぎ払う。吹き飛んだゴーレムが新たな瓦礫を作る中、彼女はそのままブレスを吐きゴーレムを氷漬けにした。

 次、とばかりに振り向いたそこには既に次のゴーレムが。タックルを食らいよろけたそこに、さらにもう一体のゴーレムが襲い掛かる。負けるか、と尻尾でそれを弾き飛ばすと、シェフィはもう一体と組み合った。

 

「クルァァァ!」

「分かってるわよ! アクア様、あたしに力を――《アビスエンドバースト》!」

 

 再度フォームチェンジしたキャルが呪文をぶっ放しゴーレムを薙ぎ払った。これで魔王への道はがら空きだ。元の姿に戻った彼女がペコリーヌに向かって叫び、それに応えるようにペコリーヌも魔王へと剣を振り上げ。

 

「くぅ!」

「惜しいな。だが、まだやられはせん!」

 

 振り下ろした一撃は、魔王の放った呪文とぶつかり合い相殺された。衝撃で弾き飛ばされたペコリーヌはゴロゴロと転がり、しかしすぐに受け身を取ると体勢を立て直す。が、魔王との距離は再度開いてしまった。

 

「ペコリーヌ! 大丈夫か!?」

「はい、まだいけます!」

 

 カズマはそう言いつつ、再度あれが使えないかどうか試行錯誤をしている。通常の強化は出来るので攻撃の際にはそれとコッコロの支援でまかなってはいるものの、その二つでは天秤が自分達に傾かない。

 加えるならば、もし再度超強化が使えても、今度はそろそろ自分の魔力や体力が限界である。冒険者のしょぼさを嘗めてはいけないのだ。

 

「やばいな……このままじゃジリ貧だ」

「主さま」

「いや、心配すんな。こういう時こそカズマさんの頭脳の見せ所ってな」

 

 コッコロの視線を受け、カズマはそう言って笑う。だからそんな顔をするな、と彼女へ励ますように言葉を紡ぐと、しかし実際どうするかと思考を巡らせた。

 魔王も正直苦しいはずだ。部下の超強化と言えども、用意出来るのは瓦礫のゴーレムのみ。いくら魔王といえども、超強化とゴーレムの生成で魔力はどんどん目減りしていくはずだ。問題はそういう持久戦をするとこちらが先にバテてしまうことだ。いくらゴーレムが簡単に倒せても、壁にならないほどの雑魚でない以上リソースは確実に削られる。

 となると、こちらでやれることはゴーレムが雑魚になるほど味方を強化するか、ゴーレムが雑魚になるほど敵を弱体化させるか。そのどちらも理想論で、現実的では。

 

「いや、待てよ」

「どうされましたか? 主さま」

「なあ、コッコロ。この部屋ってボロボロだけど、まだ向こうに無事な場所があるよな」

 

 あそこ、と戦線から一番遠い場所を指差す。はい、と頷いたコッコロであったが、それが一体どうしたのだと首を傾げた。

 そんな彼女に向かい、カズマは笑みを浮かべながら、こう問う。あの場所って、何だと思う? と。

 

「何、と言われましても。そうですね……ここがお父様――魔王の部屋だとするならば、寝室か、あるいは――っ!?」

「気付いたか。そう、あの場所は多分、いや、間違いなく」

 

 ペコリーヌ、とカズマは叫ぶ。どうしましたかと魔王とのぶつかり合いを収めてこちらに戻ってきた彼女に、先程コッコロにしたのと同じ問い掛けをする。そうして、答えを出して、彼女が目を見開くのを見て予想通りだと口角を上げた。

 

「なあ、ペコリーヌ」

「はい」

「その場合、どこまでいける?」

「後はカズマくんの支援があれば」

「よし、じゃあそれでいくぞ!」

 

 皆を呼び戻す。キャル、シェフィ、ダクネス、めぐみんに作戦内容を伝えると、皆は呆れ半分期待半分で、やってやろうじゃないかと頷いた。

 

「オーケー。ペコリーヌ!」

「はいっ!」

 

 一気に駆ける。今度は何をする気だと身構えていた魔王も、しかし一直線に駆けてきたことにより迎撃体制を取った。ゴーレムを全面に出し、そしてそれらを突破しても呪文を叩き込む。相談をした割には先程と同じような動きであることに若干の疑問を抱きつつ、それでも彼はその方法を取った。

 だから、彼女が魔王とは全然違う方向に飛び出したことで動きが一瞬遅れた。

 

「何を……」

「よそ見してる余裕はあるのかしら?」

「片手間で防げるほど、爆裂魔法は甘くないですよ!」

「むう……! ちぃ!」

 

 キャルとめぐみんの魔法攻撃により盾代わりのゴーレムは消し飛び、余波で魔王もダメージを受ける。だが、この程度のならば致命傷ではない。回復魔法で十分立て直せる。ゴーレムもまだ作り直す余裕がある。

 

「グルァァァァ!」

「ぐぅ!」

 

 それよりも早く、シェフィのブレスが魔王に襲い掛かった。咄嗟に魔王の障壁で防いだものの、周囲は凍り付き動きが制限される。これでは次の一撃は甘んじて受ける他無い。そう思い、しかしただではやられんと剣を振り被るダクネスを見据えていた魔王は。

 

「……」

「……」

 

 止まっている相手にも拘らずダクネスが見事に外したことで、辺りの時が一瞬止まったように思えた。

 魔王もまた、なんじゃこりゃ、と呆気に取られた。ここまでやっておいて、一撃を外す? それも、一番ダメージソースになるであろう第一王女でなく、盾役を担っていた騎士にそれをやらせるなどと。

 そんなことを考えて、そして何かに気付いたように視線を動かした。待て、ならば、あの姫騎士は一体何をしているのか、と。

 

「ダクネスが外すのは織り込み済みだ。それでお前が呆れてくれれば」

「カズマくん! 大当たりです! ここ、たっくさん料理がありますよ!」

「はぁ!?」

 

 声のした方を見る。魔王の間に併設されているそれは、魔王専用の食事処。彼が食べるための料理がところ狭しと用意されている場所だ。戦いに何の関係もないので全く気にもとめていなかったが、何故そこに彼女が。

 

「いただきます!」

「おう、遠慮なく食え! でもって」

 

 は、とカズマに視線を戻す。意味が分からない。戦闘中に何がどうなると飯を食い始めるのだ。そして何故向こうは皆作戦成功とばかりに笑みを浮かべているのだ。さっぱり分からない。

 状況についていけない魔王だけが、向こうの魔王専用食事処にある料理をペコリーヌが食い尽くしていく意味を理解出来ていない。今日の夕食と明日の朝食と、向こう数日間の食料が無くなってしまった、とかそういう問題ではない。

 

「おーい、ペコリーヌ。どうだ?」

「ふう。ごちそうさまでした、中々の美味でした。やばいですね☆」

「よし、じゃあ」

 

 なにがよしなのか。そんなツッコミを入れようとした魔王は、ゾクリと寒気がしたことで我に返る。即座に周囲の氷を溶かし、迎撃体制に入った。

 が、少し遅い。食事処からかっ飛んできたそれの一撃をまともに喰らい、魔王は盛大に吹き飛ばされた。

 

「がはっ。な、何が……」

「何って、決まってんだろ」

 

 空中で受け身を取って体勢を立て直した魔王の目の前には、一人の少女が立っている。剣を構え、真っ直ぐに、自身を、魔王を倒さんと。

 そんな少女を同じように見ながら、カズマは楽しそうに、企みが成功したのだと笑いながら声を上げた。

 

「ペコリーヌ、調子はどうだ?」

「はいっ! お腹いっぱい、元気フルパワーです! ちょっと食べ過ぎて、体重増えちゃったかもですけど」

「気にすんな。魔王倒せばチャラだチャラ」

 

 そう言ってカズマも思い切り息を吸い、集中する。まあ最悪超強化までいかなくてもいい、自分の持てるだけのそれを、全部彼女に繋げられれば。

 

「まさかっ」

 

 そんなことでパワーアップしてたまるか。思わずそんな文句が口から出かかったが、出来てしまっているのだからしょうがない。これが勇者か、と世界の理不尽を一瞬嘆きながら、しかしこれで終わったわけではないとゴーレムを生み出し、己のプライドを込めて強化を行う。

 

「――行きます。明日のおいしいご飯のために!」

「まだ食う気か貴様!」

 

 純白のドレスに身を包んだペコリーヌに向かい、魔王はそんなツッコミを入れた。

 

 

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