プリすば!   作:負け狐

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デストロイヤー戦終わり


その24

 地上に戻ってきた四人が上を見上げると、デストロイヤーの上部から煙が上がっていた。どうやら破片が爆発したらしい。あの程度で済んでいるのだから、処理は成功で間違いあるまい。

 どうなるかを見守っていた冒険者達は、警告が消え、そして四人が戻ってきたことで歓声を上げる。やった、やりやがった。そんな声が聞こえ、口々にペコリーヌ、ダクネス、ネネカ、そしてカズマを褒め称える。

 

「いいえ。この成果は、皆さんのおかげですよ」

「そうですそうです。みんなが、英雄ですよー!」

 

 ネネカとペコリーヌがそう述べ、周囲に歓声が更に大きくなる。完全に祝勝ムードへと変わり、動かなくなったデストロイヤーを眺めながら冒険者達は街へと戻っていった。戻って宴会だ、そんな言葉が聞こえてきた。

 その波に逆らうように、コッコロとキャルがこちらに駆けてくる。二人が無事であったことを確認すると、安堵の溜息を吐いていた。これにて一件落着。いうなれば、そんな終わり方で。

 

「――ん?」

 

 デストロイヤーが振動した気がした。思わず視線をそちらに向けたカズマは、折れた足でゆっくりと立ち上がろうとしている機動要塞を視界に入れ。

 

「動力源ならぶっ壊しただろ、何でまた動いてるんだ!?」

「んなっ! ど、どうなってんのよ!?」

「これは……!?」

 

 蜘蛛の形をした複眼のような部分に数個光が灯っている。気のせいでもなんでもなく、デストロイヤーは再び活動をしようとしていた。

 音声が響く。内部バッテリーの動力を使い切らずに強制停止をした場合、エラーが起こる場合があります。電化製品かよ、というカズマのツッコミが虚しく響く中、未だ形の残っていたデストロイヤーが鈍重ながら一歩を踏み出し。

 

「これは、予想外ですね」

 

 ふむ、とネネカが呟いた。異常事態に気付いたのか、気の抜けていた冒険者達は一気にパニックになる。逃げろ、という声を皮切りに、皆口々に避難を始めた。

 コロナタイトがない以上、デストロイヤーはそのうち停止するだろう。そういう意味では、間違いなくアクセルの冒険者達は討伐を成功させたのだ。ただ、ほんの少しだけ運がなかっただけ。

 

「……カズマくん」

「何だ? 俺達も早く逃げないと」

 

 その状況の中、ペコリーヌは真っ直ぐにデストロイヤーを睨んでいた。あの機動要塞は死に体。何かしらダメ押しさえ出来れば、破壊は可能だ。ただ、緊張の糸が切れたことで、それを実行出来るだけの意志が足りないだけ。

 

「わたしに、あのスキルをかけてください」

「は? いやそんなことよりも」

「お願いです。そうしてもらえれば、わたしは」

 

 あの機動要塞をやっつけます。そうペコリーヌは言い切った。冗談でもなんでもなく、真剣な目で、そう述べた。

 ダクネスが慌てて彼女を止める。そんなことをしたら、とペコリーヌをなだめたが、今なら大丈夫ですよと笑顔で返された。

 

「今なら殆どの人も見てませんし。こっそりやれば、大丈夫ですって」

「一番見られたらまずい相手がここにいるのですが!」

「失礼ですねダクネス。私は徒に秘密を言いふらしたりする人間ではありませんよ」

 

 思い切り指を差されたネネカは、呆れたように息を吐いた。これでもきちんとわきまえている方だ。そう続けながら、くるりと踵を返した。

 

「そんなに信用がならないのなら。私は向こうの冒険者達をまとめてきます。その間に、済ませてください」

「ネネカ所長……」

 

 ペコリーヌが頭を下げる。ダクネスも、そんなネネカを見てすまなかったと謝罪した。

 ひらひらと手を振りながらネネカが去っていく。その背中から再度ゆっくりと動いているデストロイヤーに視線を戻すと、ペコリーヌはもう一度カズマに述べた。お願いしますと言葉を紡いだ。

 

「あの、ダクネスさま、ペコリーヌさま。わたくし達は、ここにいてもよろしいのでしょうか?」

「出来るならあたしは逃げたいんだけど」

「む。そうだな……」

 

 どうしましょうか、とダクネスはペコリーヌを見やる。そうですね、と呟いた彼女は、もし出来るならばと言葉を続けた。

 見守っていて欲しい、と二人に伝えた。

 

「……わかりました」

「しょうがないわねぇ……」

「待て待て待て。俺を無視して話進めるな!」

「何よカズマ。ここまで来てやらない気?」

「主さま、お願いいたします」

「いややるけど、この流れで逃げることはないけど!」

「ごめんなさい、カズマくん」

 

 あはは、と苦笑するペコリーヌを見て、カズマはガリガリと頭を掻く。ショートソードを構えながら、彼女に向かって声を張り上げた。

 

「それだけ言うからにはお前、絶対成功させろよ! いいか、絶対だぞ! フリじゃねぇからな!」

「分かってます。絶対に」

 

 カズマの言葉に頷いたペコリーヌは、剣を構え、牛歩のような一歩で近付くデストロイヤーを見やる。そうしながら、ああそうだ、と声を上げた。

 

「この戦いが終わったら、みんなでご飯を食べましょう。カズマくんと、コッコロちゃんと、キャルちゃんと――他にも沢山の、みんなで」

「おいやめろ、なに死亡フラグ立ててんの!? そんなにお約束が好きか!」

 

 フリじゃねぇって言っただろうが。キリッとしたペコリーヌの頬を思い切り引っ張って伸ばしたカズマは、あぁぁぁぁと叫ぶダクネスを無視して溜息を吐く。痛い、と頬をさすっているペコリーヌを見ながら、改めてと後ろに下がった。

 

「よし、じゃあ行くぞ。準備はいいか?」

「たった今駄目になりましたよ~……」

「知らん、自業自得だ。さっさと気を取り直せ」

「はーい。……よし、行けます」

 

 深呼吸をしたペコリーヌが改めて剣を構える。そんな彼女に向かって、カズマは残っている魔力を消費してスキルを使用した。おっと、とぐらついたが、コッコロが彼を抱きとめる。

 

「……やばいですね☆ 体の奥から、勇気が溢れちゃいそうです」

 

 淡く光ったペコリーヌは、手にした剣を握り直すと、それを思い切り天へと掲げた。

 瞬間、彼女の服装が変化する。装飾が増えたその姿で手にしている剣は、普段のそれとは違う左右対称のデザインの両手剣。その煌めきは、勇者の持つ剣と言われても信じてしまいそうで。

 

「――ふう。成功しました。……あとは」

 

 変化した両手剣を構え、デストロイヤーに向ける。足に力を込め、目標を定め、そして。

 背後ではダクネスが固唾を飲んで見守っている。本当は意地でも止めたいだろうに、こちらの思いを汲んで立ってくれているその姿に、ペコリーヌはありがとうと呟いた。

 

「おいペコリーヌ」

「どうしました?」

 

 行くぞ。そう決めた直前、カズマが彼女に声を掛けた。さっきも言ったが、絶対にぶっ倒せ。そう述べた彼は、続けて、こんなことを言い出した。

 

「終わったら、あのデカブツの報奨金で好きなだけ飯食ってもいいから。だから絶対に成功させろよ!」

「主さま……いいのですか?」

「あんた、それ本気?」

「失敗してぺしゃんこよりはマシだろうが」

 

 コッコロとキャルの言葉にそう返し、分かったかとペコリーヌの背中に叫ぶ。それを黙って聞いていた彼女は、静かに、ゆっくりと言葉を返した。

 

「目一杯、食べますよ? いいんですか?」

「大丈夫だ。責任は俺が取る!」

「――はいっ!」

 

 腰を落とし、左手を前に突き出す。そこから生み出された魔法陣に向かい、彼女は思い切り突っ込んだ。それに合わせるように、彼女の背中から、オーラのようなもので構成された翼が生える。

 魔法陣の力で加速度を増したペコリーヌは、そのまま一直線にデストロイヤーへと飛んでいく。その姿は、さながら一筋の光のようで。

 

「全力全開の更に先!」

 

 デストロイヤーに接敵した。魔法陣と壊れかけの魔力結界がぶつかり合うが、何の苦もなく結界が砕け散った。所詮魔法を防ぐもの、物理攻撃スキルから守るようには出来ていない。

 

「超! 全力全開――」

 

 剣先がデストロイヤーにめり込む。勢いを失うことなく、鋭い閃光となったペコリーヌは、巨大な機動要塞を真一文字に切り裂きながら、ひたすら真っ直ぐに突き進んだ。

 

「《プリンセスストライク》!」

 

 通り抜ける。斬り抜ける。上下に両断されたデストロイヤーは、頭部で僅かに灯っていた複眼の光を消し、ガラガラと崩れ去っていった。

 ペコリーヌはそのまま近くの岩山に激突する。デストロイヤーとは関係ない場所が崩れたことで、彼女の姿を見守っていた四人は目を見開いた。

 

「ペコリーヌ!?」

「ペコリーヌさま!?」

「ちょっ、ペコリーヌ!」

「ユースティアナ様ぁ!」

 

 四人の彼女の名を呼ぶ声が重なった。駆け寄るにはかなりの距離がある。それでも向かおうと足を踏み出した四人の視界に、小さいがはっきりとこちらに駆けてくる人影が。

 ちょっと最後失敗しました。砂や岩で盛大に汚れたペコリーヌは、四人のもとへと戻ってくると笑みを浮かべた。五体満足で、きちんと、無事に。

 

「――あぅ」

 

 そして笑顔のままぶっ倒れた。慌てて駆け寄った皆が見守る中、彼女はか細い、絞り出すような声で、言葉を紡ぐ。

 

「お腹、ペコペコ――」

 

 

 

 

 

 

 

 デストロイヤー討伐から一週間と少し。この歴史的快挙によってアクセルの街はいまだ湧いていた。冒険者が力を合わせ、天災として扱われていたかつてないほどの大物賞金首は討ち取られたのだ。

 当然、その報奨金も膨大である。参加した街の冒険者全てに、冒険者カードの討伐の功績に応じた分配が今からされるらしいが、最小限だとしてもその金額はかなりのものであろう。ギルド酒場も、異様な熱気に包まれていた。

 

「みなさん! 改めて、デストロイヤー討伐、おめでとうございます! 最後はちょっぴり怖かったですが、無事にあの天災扱いの機動兵器は倒されました」

 

 あの後、デストロイヤーは残されたエネルギーで立ち上がったものの、数歩動いたところで限界を迎え自壊したということになった。どのみち倒していることには変わりないので、あの光景は伏せようということになったのだ。カズマ辺りが文句を言うかと思っていたが、予想がついていたらしく意外にもおとなしかったのでキャルは拍子抜けした。

 デストロイヤーの動力源をどうにかしたのは俺だから、貢献度が一番高いのも俺。だから何の問題もない。というのが彼の弁である。

 ともあれ、ルナを筆頭としたギルド職員は、冒険者達に分配された報奨金を順に渡していく。大小あれど皆かなりの金額を貰っており、その顔が一様に笑顔だ。

 どん、と大量の札束が机に置かれた。おお、と皆がざわめく中、それを受け取る人物、ユカリはそれを思わず二度見する。

 

「えっと、私魔力結界に魔法打ち込んだだけなんだけど」

「あれがなければこの結果はありえませんでした。ですから、遠慮なく受け取ってください!」

 

 わぁぁぁ、と酒場が盛り上がる。そういうことなら、と札束の山を受け取るユカリに続き、同じようにめぐみん、ちょむすけ、ウィズも大量の報奨金を受け取っていた。

 

「では、次は……アオイさん」

「は! は!? はぇいぁぇ!?」

「と、ゆんゆんさん」

「は、はいぃ!?」

 

 デストロイヤーを停止させた功績により、直前までの面々よりは少ないもののそれでも大量のエリス紙幣が渡される。その量もさることながら、注目されているという一点でアオイは完全に頭がテンパっていた。ゆんゆんは彼女よりは冷静であるが、それでもやはり慣れていないのかオロオロとしながらそれを受け取っていた。

 では次は、とルナがダクネスを呼ぶ。コロナタイト処理のメンバーということで報奨金が増えたらしいが、そこまで役に立っていないのだがと彼女は非常に複雑な表情をしている。孤児院の学校運営費にでも充てるか、少しだけ気持ちを切り替えそんなことを考えた。

 そしてネネカ。色々な場所で動いていた彼女の報奨金は頭一つ抜けている。研究にはお金がかかりますからね、と迷うことなくそれを受け取り自分のものにした。

 最後は、ととあるパーティーに視線が移る。結界破壊のための超強化と結界破壊、デストロイヤーの停止、そしてコロナタイトの処理。今回の作戦の重要な部分ほぼ全てに何かしら関わっていた四人パーティーへと、ルナはゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「カズマさん、コッコロさん、キャルさん、そしてペコリーヌさん。あなた方の功績は、デストロイヤー討伐の中でも群を抜いています。なので、報奨金は――」

 

 その金額を伝えられる。四人まとめてではあるものの、その膨大な額にカズマは思わず目を見開き、コッコロは口がばつ印になり、キャルは思わず頬をつねった。

 そうした後、おかしいぞと我に返る。その割には、自分達の目の前には何もない。どういうことだとルナに目を向けると、バツの悪そうな顔で目を逸らした。

 

「えっと、以上が報奨金の金額なんですが……。その後の、祝勝会の食事に掛かった費用諸々を報奨金から差っ引くということでしたから」

 

 ざわ、と辺りがざわめく。あの時の光景を思い出したのだ。デストロイヤー討伐の宴会で、どのくらいの量が食べられたのかを。

 

「ざっと……アクセルの街全体の食料三ヶ月分の代金と、一時的に枯渇した食料の補填料、通常まで状況を戻すために必要な経費を全て報奨金から引かせてもらったので……」

 

 す、とルナの横にいたカリンからエリス紙幣が四枚渡される。机の上ではなく、手渡し。四万エリス、それが諸々を全て差っ引いて残った報奨金らしい。

 静まり返った酒場の中心で、一人一万エリスを貰ったパーティーがゆっくりとギルド職員から離れていく。皆揃って、カズマ達から目を逸らした。

 

「……えっと。これ、みんなで分けてください」

 

 ペコリーヌが一万エリス紙幣を差し出す。が、いるかそんなもん、とカズマとキャルに返されすごすごと引き下がった。

 コッコロは貰った一万エリス紙幣を暫し眺めていたが、やがて何だかおかしくなって笑ってしまった。あの時はそれだけ馬鹿騒ぎしたのだ。だったら仕方ない。そんな風に、彼女は割り切ったのだ。

 

「主さま、キャルさま、ペコリーヌさま」

「ん?」

「なによ」

「どうしました?」

「せっかくですし、これで今晩のお夕飯の買い出しに参りましょう」

 

 そこそこ贅沢な夕食になるはずだ。そう言って笑みを浮かべたコッコロを見て、キャルも思わず笑ってしまう。それもいいかもね。そんなことを言いながらコッコロの横に立つ。

 

「はぁ……しょうがねぇなぁ」

 

 行くぞ、とペコリーヌに声を掛けた。他の連中は酒場で呑んだくれるだろうから、放っておけ。そんなことをぼやきつつ、彼も彼女達と同じように酒場の出口へと歩き出す。

 そうしてぱちくりと目を瞬かせていたペコリーヌも、次第に笑顔に戻り。

 

「はい、みんなでご飯を食べましょう!」

 

 四人が揃って酒場を出る。ワイワイとやかましい酒場を抜け、ガヤガヤと騒がしい街を歩く。アクセルの街は今日も平和で、そしてきっと、明日も明後日も。

 

「お金もないし、今度クエストでも受けましょうか」

「はい。お任せください、キャルさま」

「わたしも当然、行きますよ」

「おう、頑張れよ」

「あんたも行くに決まってんでしょうが!」

 

 とんでもない連中のいる街の日々は、続いていく。

 




一巻部分(?)完!

次から少しペースを落とすやもしれません。

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