王都から離れ、仲間のレベルアップを行っていた御剣響夜がそれを知ったのは全てが終わってからであった。王都に戻ってきた彼は、駆け出し冒険者の街にデストロイヤーが襲来したと話に聞き、アクセル壊滅を想像し顔色を変えた。
が、その後に続く、アクセルの冒険者達がデストロイヤーを討伐したという話を聞くと、今度は驚愕でその表情を変える。今まで誰も成し遂げなかった偉業を、駆け出し冒険者の集まる街が、はじまりの街であるアクセルがやってのけたというのだ。女神から神器である魔剣グラムを貰い、ベルゼルグ王国にもその名が知られる勇者候補の一人となったキョウヤであるが、彼がそれを達成できたかといえば。
話の真偽を確かめるため、キョウヤは仲間である少女二人と共にアクセルへと向かった。街が壊滅していないのは確かなので、所詮噂で本当は襲来していないという可能性も考えたのだ。
「……うわぁ」
「あれ、デストロイヤーの残骸だよね……」
「……凄いな」
が、彼らがアクセルへと辿り着いた時にまず目に入ったのは、そんな疑いを吹き消すかのような巨大な残骸。何者かの指示で解体、回収が行われているものの、未だ全ては片付けられておらず、特徴的なパーツもまだそこに残っている。間違いなく、あの機動要塞はここで討伐されたのだ。
街へと向かう。デストロイヤーは一体どうやって倒されたのか。彼が次に知りたかったのはそれだ。冒険者達が協力して倒したとは聞いたが、普通に考えるとどうやっても不可能なのだ。何かしらのカラクリが、あるいは決め手がある。
そう考えて聞き込みを行った結果、キョウヤは興味深い話を聞いた。確かに冒険者全員で討伐したことには変わりない。だが、その要所要所には欠かすことの出来ない者達がいた。結界にヒビを入れたアメス教なる聞き覚えのない女神の信徒であるアークプリースト、爆裂魔法でダメージを与えたアークウィザードの街外れの研究所所員と貴族がオーナーを務める魔道具店の雇われ店主、勢いの止まらないデストロイヤーの速度を削いだBB団なる謎の集団。動力源であるコロナタイトの分解を行った研究所の所長。
そして、それらの大半に関わっていたとされる、とあるパーティー。
「佐藤和真、か」
そこのリーダー、というよりまとめ役になっているらしい少年の話を聞いて、キョウヤは少しだけ興味を抱いた。彼の持つ不思議な力、それは恐らく。
「転生者……僕の他にも、そんな活躍をする人がいたとは」
女神に選ばれた自分以外にもこの世界に送り込まれた転生者が多くいたという話は聞いている。だが、実際に出会ったことも噂を聞いたことも殆どない。時代が違うのか、場所が違うのか。それは彼には分からないが、ともあれキョウヤにとってそれは久しぶりの同郷の存在であって。
ギルド酒場へと向かう。カウンターへ向かうと、彼の顔を覚えていた冒険者達やギルド職員は久しぶりだと声を掛けた。それに答えながら、彼は職員の一人に人を探していると述べた。
「人、ですか? 何かのクエスト関係で?」
「いや、個人的な事情なんですが。佐藤和真という冒険者を」
その名前を聞いた職員が怪訝な表情を浮かべた。何かやらかしました? とキョウヤに尋ね、思わず彼の方が面食らう。
「そういうわけではなくて。何でもデストロイヤー討伐で重要な役割を果たしたからと聞いたので」
「ああ、そういうことですか。良かった」
「……あの、その人は何か問題があるんですか?」
職員のその態度が気になったキョウヤはそう問い掛けると、いやまあそういうわけでもないんですけれどと苦笑する。
職員曰く、パーティーメンバーの実力は高く、性格も悪くない美少女達を連れているので評判自体は悪くない。精々彼らのことを知らない冒険者がやっかみを言うくらいだ。
が、時折引き起こすトラブルが普通の感性を持っている人間には割と致命的になりかねない。とのことで。
「こういう言い方はあまり良くないかもしれませんが……ほら、ミツルギさんって、普通の感性をしてるじゃないですか」
「ふ、普通の感性……」
何だか物凄く馬鹿にされている気がする。そうは思ったが、職員もそれを承知でそういう言い方をしたのだと理解しているので踏み止まる。
ともあれ、何かトラブルに巻き込まれたのではないなら良かったと職員は胸を撫で下ろした。その対応で大分不穏が渦巻いていたが、しかしキョウヤとしてはその人物に会わないという選択肢はない。話を元に戻し、佐藤和真は一体どこにと問い掛けた。
多分その辺でだらけていると思いますよ。そんな返答が来て、キョウヤは思わず聞き返す。冒険者だというのに、そして今は別にクエストの少ない時期でもないのに、何故。疑問はあったが、まずは会って話をすることが先決だと彼は職員にお礼を言うと、件の人物を探し始めた。
そういえば、とキョウヤは横にいた仲間、クレメアとフィオに問い掛ける。君達は知っているのかいという質問に、二人はんー、と首を捻った。
「そこまで、かな?」
「パーティーメンバーの娘達はそこそこ知ってるけど。ペコリーヌとか」
「ペコリーヌ?」
その名前は以前聞いたぞ。そんなことを思いながら、酒場でだらけているという佐藤和真の場所を聞いてそこまで足を進めたキョウヤは、テーブルの一角、猫耳少女をボードゲームでボコボコにしている一人の少年を視界に入れた。
「ほれこれで俺の五連勝な」
「おっかしいでしょ! ちょっとあんたイカサマしてんじゃない!?」
「ははは、人聞きが悪いな。バレなきゃイカサマじゃないんだぜ?」
「やってるじゃないの! そんなのノーカンよ! ノーカン! ノーカン!」
「……」
思っていたのと違う。そんなことを思いながら、キョウヤは目の前にいる少年を見た。
「ん? なんか用か?」
「ノーカン! ノーカ……ん?」
以前、美少女冒険者に背負われていた少年を、見た。
「やあ、はじめまして。僕は御剣響夜。……日本人だ」
「え?」
キョウヤの言葉に、カズマは思わず彼を見る。何だこいつ、ラノベ主人公みたいな名前しやがって、しかもイケメン。そこまで考えて、あー成程ねと一人納得した。
「悪いが俺はカマセになる気はない」
「いきなり何の話だい!? 僕はただ、デストロイヤー討伐の要になったという君と話がしたかっただけだ」
キョウヤのその言葉を聞いてカズマは、ゆっくりと視線を対面にいるキャルに向けた。俺って要だったか? そう言って問い掛けると、彼女はまあそうなんじゃないと返す。
「あんたのスキル無きゃ、結界壊せなかっただろうし」
「ああ、あれか」
正直途中のネネカや最後のペコリーヌのインパクトに掻き消されている感があったので、最重要みたいな扱いをされると首を傾げてしまう。
何より、結局やったのはユカリとコッコロだ。カズマがいたから、ではない。彼一人が褒め称えられるのは違う。
が、それはそれとして高評価されたのなら調子に乗ってしまうのがカズマという人間なわけで。
「成程な。俺の他に類を見ない女神の加護の力を知って、是非とも舎弟にして欲しい、と」
「そこまでは言っていない! と、やはり君の力は女神様から……?」
ツッコミを入れつつ、欲しかった情報が出たのでキョウヤは食いつく。カズマはカズマで、思いも寄らない箇所に食いつかれたので思わず素に戻った。
この世界に転生する際、神器や特殊能力を与えられている。先程は微妙に流された感があったが、日本人というキーワードに反応し、女神からの力を持った彼は間違いなく。
確信を持ったキョウヤは、どうやらそのようだねと笑みを浮かべた。同じ転生者同士、仲良くしようと手を差し出した。
「え、お前みたいなイケメンと仲良くしても俺に何の得もないじゃん」
「そこは素直に握手をしておこう!? ……大体、君だって随分と可愛らしい人達とパーティーを組んでいるんだろう? 人のことを言えないじゃないか」
「可愛らしい、ね」
ちらりと目の前のキャルを見る。まあ確かに見た目はいい、間違いなくそれは事実で、認めざるを得ない。勝ち組か負け組かで判定するのならば、勝ち組と言っても問題はあるまい。だが、しかし。
「なあ、ミツルギだっけ? お前はここでの生活どんな感じなんだ?」
「え? 僕かい? 女神様から貰ったこの魔剣グラムを使って、人々の脅威となるモンスターを討伐しながら日々レベルを上げて魔王を倒すために」
「はい、ストップ。もういい。何だお前、主人公かよ」
「どういう罵倒!? いや、そもそもそれは罵倒なのか……?」
吐き捨てるようなカズマの言葉に、キョウヤがツッコミを入れる。傍から見ているキャルは、こっちにとばっちりこないと楽でいいわと呑気に眺めていた。
ともあれ、キョウヤは彼の言葉に、君だって同じじゃないのかと問うた。女神の加護を貰い、デストロイヤーを討伐した。そんな成果を持った人間が、魔王を倒すために日々努力しないはずが。
「ちょっと前に馬小屋生活から教会に間借りするようになったな」
「……うん?」
「おかげで住むところに困らなくなったから、スローライフをエンジョイしてるぞ」
「……はい?」
理解が追い付かない。言っている意味は分かるが、頭に入ってこない。キョウヤの中で、転生者は自分と同じ勇者候補として魔王を倒すべく日々努力を続けるものだと思っていたからだ。特別な力を持った者が、極々普通の冒険者のような日々を送るのは、女神を裏切る行為だと思っていたからだ。
「馬鹿な……! 君はそれでいいのか? 女神様の、アクア様に言われたことを忘れてしまったのか!?」
「いや、別に。というか俺そもそもそのアクアって女神しらねーし」
「は?」
思わず詰め寄ったキョウヤは、カズマの言葉に動きを止める。先程より更に理解出来ないその言葉を聞いて、思考がフリーズしてしまったのだ。
彼にとって、自身をこの世界に勇者候補として転生させてくれた女神アクアは絶対だ。だからこそ、同じ境遇であると思っていたカズマに憤ったのだ。
「……アクア様を、知らない?」
「おう。俺の知ってる女神はアメス様だ。なんかこう、ダウナー系ポーカーフェイスなんだけど意外と面倒見良くてコッコロのこと『たん』付で呼んじゃうし語る時はめっちゃ早口で言ってそうな」
「キャラ濃いな!?」
実はアクアもキャラが濃いなんてものではないのだが、キョウヤの記憶にある彼女は女神の仕事を淡々とこなしているところだったのでそれを知らない。知らないというのは幸せである。
ともあれ、転生の際に出会った女神が違うという事実はキョウヤにとって衝撃を与えた。そして同時に、何かそこに意味があるのではないかと勘繰りだしてしまう。
勿論何もない。ただ単にアクアが上司に説教されていたのでアメスが代わりの仕事をしていた時たまたまカズマが来ただけだ。が、真面目な性格をしている彼はそんな事が分かるはずもない。
「……佐藤和真。やはり君は、もっと魔王討伐に積極的になるべきだと思う」
「はぁ? なにいってんのおまえ?」
「僕と君を転生させた女神が違うということは、必ず意味があるはずなんだ。魔王を倒すための鍵に……そう、鍵だ」
「ちょっと何言ってるか分かんない」
熱く語り始めたキョウヤに対し、カズマはどんどん冷めていく。ボードゲームの続きやろうぜとキャルに視線を向けたが、こっち来んなと手で追い払われた。
とにかく、とキョウヤはカズマを見やる。今の自分はソードマスターで、レベルは三十七。信頼できる仲間もいる。
「君も、信頼できる仲間はいるんだろう?」
「まあ……」
コッコロと、ペコリーヌを思い浮かべる。はっきりと宣言されるとこそばゆいが、さりとて否定する気もない。
「なら、後は君が」
「カズマ、今あんたあたし省かなかった?」
「ち、バレたか」
「バレいでか! 何だかんだで一緒に生活してりゃ分かるわよ! ふざけてんの!?」
「はぁ? 何? お前俺に信頼されたいの?」
「はぁ!? そんなわけないでしょ!? あんたが普段情けなくてあたし達に頼りっきりのくせにぞんざいな扱いをするのが気に入らないだけで、あたしは別に」
「じゃ、いいじゃん。コッコロとペコリーヌは信頼してるんだし」
「あたしをハブるなって言ってんの! あんたはもっとあたしに感謝してむせび泣きなさいよ」
「うるせぇ五連敗」
「そこ蒸し返すんじゃないわよ! ぶっ殺すぞ!」
何かを言おうと伸ばしたキョウヤの手が、力なく下げられる。ギャーギャーと言い合いを始めた二人を、酒場の面々はまたかといった様子で眺めており、ギルドの受付も苦笑するだけで何もしない。キョウヤが視線を動かすと、クレメアとフィオも驚いてはいないようであった。
「この光景は、日常茶飯事なのかい?」
「どうだろ? そこまでは知らないけど、この二人は割としょっちゅう喧嘩してるイメージ」
「そうそう。で、しばらくすると」
二人の言葉を体現するかのように、一人のウェイトレスがこちらにやって来る。はいはいそこまで、と笑顔でカズマとキャルに割り込むと、イライラした時は美味しいものを食べるのが一番ですよとメニュー表を差し出した。
「ついでなんで、わたしも一緒にお昼食べますね」
「……おう。んじゃランチを」
「あたしも」
かしこまりました、と返事をしたウェイトレスは、注文を厨房に伝えると再度こちらに戻ってくる。視線をキョウヤ達に移すと、笑顔で話しかけてきた。
「みなさんも、お昼どうです?」
「え? ああ、じゃあ日替わりをもらおうかな」
「私はサンドイッチ」
「おにぎりセットで」
「はーい」
再び厨房へ。そうした後、みんなが座れる場所に移動しましょうと大きなテーブル席へと案内した。
そこまでを終えて、キョウヤはこの少女が何者なのかさっぱりなのを思い出す。君は一体、と問い掛けると、少女は笑顔で答えた。
「はい、わたしはお腹ペコペコのペコリーヌです」
「は、はぁ……。僕は御剣響夜です、ペコリーヌ、さん? ……ペコリーヌ?」
そういえば、と思い出した。以前、勘違いだと結論付け忘却していたことを思い出した。彼女はとても良く似ている、と思っていたことを、思い出した。
「どうしました?」
「あ、いや。少し知り合いの……貴族の方に似ていたもので」
「……そうですか」
ピクリと反応した。が、何事もなかったかのようにその表情は笑顔に戻る。そうしながら、そんなにその人に似ていますかと彼女はキョウヤに問い掛けた。
「え? あ、はい。その方が成長したら、きっとあなたみたいになるんだろうな、と」
「成程。そうですかそうですか。…………ん~、わたしみたいになっちゃうのも、それはそれで問題ですよねぇ」
一度戻った方がいいのかな。皆に聞こえないようにそんなことを呟きながら、ペコリーヌは何かを考えるように腕組みをした。当然ながら胸部にある豊かなそれが押し上げられむにゅりと自己主張する。
「佐藤和真」
「何だ?」
「君は何をしている」
「気にするな。それより、お前は一体何を言いかけたんだ?」
めっちゃおっぱいガン見してるカズマに何か物申そうとしたキョウヤであったが、彼のその言葉にそれを飲み込む。そうだ、物凄い勢いで脱線した上いつの間にか皆で食事をすることになっているが、自分の話は終わっていなかった。それを思い出したのだ。
「佐藤和真、君には信頼できる仲間がいる。ならば、後は自身をレベルアップさせ、魔王討伐に向かうべきだ」
「無理」
「即答!? 何故だ? 君は女神の加護を貰っているんだろう? だから」
「だから無理だって。俺はそもそも最弱職の《冒険者》だし、何より」
今あのメンバーでパーティー組んでクエスト受けるの禁止されてるしな。しれっとそんなことを述べるカズマを見て、キョウヤはピシリと固まった。
ミツルギさんツッコミキャラとしてかなり優秀。