プリすば!   作:負け狐

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野郎ばっか出てくる。


その29

「主さま? どうされました?」

 

 教会に戻ってきたカズマがげんなりしていたのを見て、コッコロはそう声を掛けた。そんな彼女の問い掛けにカズマが答える前に、ほっときなさいとキャルが述べる。

 

「酒場で、何かこいつの同郷に会ったのよ」

「同郷の方、ですか」

「そ。で、何か向こうは勇者候補らしくてね。カズマも同じようにレベルアップしろって」

 

 成程、とコッコロが頷く。そういうことでしたら、お手伝いさせていただきます。そう言って彼女は笑顔を見せた。

 その反応にカズマは何ともいえない表情を浮かべる。ぶっちゃけ面倒で、やる気がない。当面の生活費だってこの間のアキノの依頼で十分潤っている。コッコロがウィズの手伝いをするのは報酬目当てではないし、ペコリーヌのバイトは食事代だ。そういう事情がない限り、働く必要がない。だからこそカズマもキャルも酒場でぐだぐだしていたのだから。

 が、だからといって目の前のコッコロの信頼を裏切るわけにもいかない。正直やらないと答えたところで、彼女は文句を言うこともないだろうしでは次の機会にいたしましょうなどと続けて終わりだ。だからこそ、カズマはこの状況ではっきりと断れない。

 それでも何かしら言ってしまうのがカズマである。気分はつい母親に物申したくなる子供といったところか。

 

「いや、でも。今このパーティーでクエスト受けるの禁止されてるだろ? ミツルギにもそう言って説明したら渋々だけど引き下がったしな」

「そういえば……」

「いやまあ事実なんだけどさりげなくあたしの傷抉るのやめてくれない?」

 

 定期的に何かやらかしてはいたが、今回のダンジョン破壊は割と重かったらしい。事後処理が済むまでトラブルを起こされては堪らんということで、カズマ達は現在四人揃った状態でクエストを受けることが禁止されている。

 そんなわけで、まあしょうがない。そう言ってカズマが締めようとしたその話題であったが、コッコロは少しだけ考え込む仕草を取ると、ではこうしましょうと彼を見た。

 

「主さまのレベルアップですので、わたくしがお供いたします」

「……ん?」

「皆でクエストを受けなければいいので、キャルさまとペコリーヌさまは、その間その辺でピクニックでもしていただいて」

「……カズマ。ちょっとあんたの悪知恵がコロ助に伝染してるじゃないの」

「俺!? どっちかっていうとこういうのは俺じゃなくて」

 

 ちらりと視線を我関せずと食事をしているもう一人に向ける。山盛りチャーハンをペロリと平らげたペコリーヌは、どうしましたかと首を傾げた。

 

「ペコリーヌ。この発想はお前じゃねーの?」

「はい? わたしはただ、クエストがダメなら皆でピクニックでも行きましょうってコッコロちゃんと話してただけですよ?」

「ほらやっぱりあんたじゃない」

 

 ジト目でカズマを見るキャル。別にアイデアとしては悪くないと思いますよとしれっと肯定するペコリーヌ。状況にいまいちまとまりがないが、とにかくコッコロのその意見を採用するかしないかだけは答えておく必要があるだろう。

 

「流石に二人だと危険だろ。かといってピクニックに来てる二人が加勢したら規約違反だってギルド職員に何言われるか分かったもんじゃない」

「……確かに。わたくしの考えが甘かったようです」

「まあ、待て」

 

 しゅん、と項垂れるコッコロに、カズマは待ったをかける。二人だと危険なのだから、二人でなくせば解決だろう。そんなことを言って口角を上げた。

 

「誰か別の冒険者呼んできて手伝わせようぜ。俺のレベルアップ」

「こいつ、自分の成長を他人任せにし始めたわ……」

「いやまあ、言い方はアレですけどアイデア自体はまっとうですし」

 

 あはは、と笑うペコリーヌを見ながら、キャルはやれやれと溜息を吐いた。どうせ碌な連中が集まらないでしょうに。そんなことをついでに思った。

 

 

 

 

 

 

「で? 丁度いいお守りを探してるってわけか」

 

 ギルド酒場でそう言って笑うのは金髪赤目のチンピラ風の男。やる気あるのか無いのかわかんねぇな、と続けながら、カズマの肩をバンバンと叩いた。

 昨日のやり取りはこの男も聞いている。キョウヤがカズマにレベルアップをするよう勧めていたことも知っている。

 

「ま、俺はやらねぇけどな」

「知ってるよ。そもそもお前には最初から頼んでねーよダスト」

 

 へん、とカズマはチンピラ風の男、ダストを見て鼻で笑う。デストロイヤー討伐の一件から、彼の交友関係も何だかんだで広がってきた。その一つがこのチンピラである。事あるごとに人に酒をたかるような男ではあるが、悪い人間ではない。なんてこともなく、警察署の牢屋の常連だったりもするダメ人間だ。

 

「つってもな。そうそうお前の頼みを受けてくれるような奴はいねぇぞ?」

「へ? 別に無茶なことをするつもりもないし、なんならクエスト報酬の大半を渡してもいいくらいだぞ?」

「はぁー。分かってねぇ、分かってねぇなお前は。いいか? お前んとこのパーティーよく見てみろ」

 

 ぐび、と酒を飲みながらダストがその三人をそれぞれ指差す。コッコロとキャル、そしてウェイトレスをしていたペコリーヌがそれを受けて首を傾げた。

 

「実力者で、上級職で、しかもいい女。そんなのが三人だ。大抵の男は、そんなハーレム野郎の手伝いなんぞお断りだって言うだろうぜ」

 

 そう言いつつも、ダストはそこまで三人に興味がなさそうだ。あくまでそういう評判があるというだけで、彼自身はそう思っていないらしい。

 

「まあ、俺は守備範囲外しかいねぇから、羨ましいとは思わねぇけどな。ハーレム野郎とは思ってるぜ?」

「ああそうかい。酒奢るのやめるぞ」

「おいおいつれない事言うなよ親友。そんなお前に耳寄り情報があるってのによ」

 

 ほれ、と手を差し出す。金をたかっているのは明らかだったので、直接はやらんと酒を注文しダストに突き付けた。

 さすが親友、とその酒を一気に呷ったダストは、丁度良くお前の手伝いが出来るパーティーがいると笑う。何を隠そう、と笑みを浮かべる。

 

「俺のパーティーだ」

「知ってた」

 

 だって向こうで呆れてるのが見えるし。そんなことを思いながら、カズマはそこに視線を向ける。彼の基本のパーティーメンバーは、クルセイダーのテイラー、アーチャーのキース、そしてウィザードのリーンの三人だ。そこに加わったり抜けたりでクエストによってはメンバーが変わったりするようだが、とりあえず呆れているのは基本の面々らしい。

 

「いやー、丁度テイラーが用事で参加できないってんで他の人員探してたとこだったんだ。これはもう決めるしか無いだろ?」

「俺の手伝いじゃなくてそっちの手伝いになってんじゃねーか」

 

 はん、と鼻で笑ったカズマは聞いて損したとダストから視線を外す。やはり素直に変人のアテを使った方がいいかもしれない。そんなことをついでに考えた。

 そんな彼へと声が掛かる。その提案を受けてもいいのでは、そう言ってカズマの隣にコッコロが座った。

 

「お、カズマの保護者ちゃん、そっちは乗り気みたいだな」

「乗り気、といいますか……。せっかくご用意してくださったのですから、と」

「え、マジかよ。ダストの話だぞ? 絶対面倒押し付けられてるぞ」

「そうそう。このチンピラの話なんか聞いてもしょうがないわよ」

「あぁ? いきなりしゃしゃり出てきて余計なこと言うんじゃねぇよ猫ガキ」

 

 カズマの言葉に同意するように後ろの席から乗り出して来たキャルを、ダストはジロリと睨み付ける。普通の少女ならば萎縮してしまいかねないそれを受けても、彼女は別段気にしない。むしろ睨み返す始末である。

 

「何よ。ほんとのことじゃない。大体、テイラーいないってことは前衛がコロ助だけってことでしょ? 却下よ却下」

「そう言われればそうだな。よしダスト、この話はなかったことに」

「さらっとアークプリーストを前衛扱いするお前らの思考もどうかと思うが、まあ待て」

 

 これ幸いと話を打ち切ろうとしたカズマにダストが待ったをかける。そんなことは織り込み済みだと笑みを浮かべながら、立てた指をゆらゆらと揺らした。

 テイラーの代わりはちゃんといる。そう言って、彼は不敵な笑みを浮かべた。

 

「じゃあ別に俺らいらねーな」

「そうね。ねえカズマ、BB団でも誘ったら?」

「こういうタイミングであいつらいないんだよな。リーダーの危機だってのに」

「主さま、アオイさまとゆんゆんさまでは結局後衛ばかりなのでは?」

「あー、そうか。となると」

「待て待て待て。お前ら俺の話は聞けよ」

 

 ハイ終了とばかりに話を打ち切っていたカズマ達へとダストが割り込む。これ以上何かあるのか、というカズマの問い掛けに、だからそこに参加しろよと彼は言い放った。

 

「お前そもそも前衛の当てそこまで無いだろ」

「そんなことは……」

 

 言い淀む。ペコリーヌがダメとなると、きちんとした前衛職で思い付くのがダクネスとアキノくらいになってしまう。コッコロを前衛とみなした場合にユカリがギリギリ引っかかる程度だ。

 そしてそのうち、アキノとユカリはデストロイヤーの残骸再利用で忙しいため不可。つまり残るは。

 

「やべぇ、ドM騎士しかアテがねぇ……」

「ダクネスなら最近家の用事だか何かでギルド来てねぇぞ」

 

 ダストの無慈悲な一言。その一撃を受けたカズマは、暫し呻くとがくりと項垂れた。そんな彼を見てダストはニヤニヤと笑みを浮かべている。だから最初から言ったじゃねぇか。そんなことを言いながら、ぽんとカズマの肩を叩いた。

 

「そうだな」

「お、じゃあ」

「やめるか。レベル上げ」

 

 そういうことにした。そもそもキョウヤに何かしらを言われた結果、コッコロにちょっと勧められて前向きに検討しただけの、ただそれだけの意見である。別段貫く意志もなし、やれないならやらない、そう決めても何ら問題はない。

 待て待て待て、と再度ダストがカズマに割り込む。別に無理するほどのもんでもないが、丁度いいものがそこにあるなら拾っておいて損はない。そんなことを言いながら彼を誘おうとまくし立てた。

 当然ながら胡散臭い。ジト目でそんなダストを見ていたキャルは、ねえちょっとと彼に問い掛ける。頬杖をついたまま、ちなみにクエストは何を受ける気なのだと尋ねた。

 

「あん? 別に何の変哲もないゴブリン退治だ。そろそろ寒くなってくる季節だからな。今のうちにこういうのを受けて金を蓄えておかねぇと」

「ふーん。……さっきクエストの報酬の大半を渡してもいい、ってカズマ言ってたものね。自分の代わりにクエスト受けて、報酬は頂くって寸法かしら」

 

 口角を上げる。それが図星だったのか、ぐ、と呻いたダストは別にいいじゃねぇかよと開き直った。

 

「お前達はレベル上げのためのメンバーが用意できる。俺は報酬がもらえる。Win-Winの関係だろ?」

「だ、そうだけど。カズマ?」

「その流れにお前いらねーだろ」

 

 はぁ、と溜息を吐いたカズマは、視線をコッコロへと向けた。彼の言いたいことを察したのか、笑みを浮かべてコクリと頷く。しょうがねぇなぁ、と頭を掻くと、彼は立ち上がり向こうに座っているパーティーへと歩みを進めた。ダストは無視である。

 

「つーわけなんだが、俺達も参加していいのか?」

「あー、うん。ごめんね、うちのダストが」

 

 ウィザードの少女、リーンがポニーテールを揺らしながらちょこんと片手を上げる。そうしながら、一応念の為と視線を残りの二人に向けた。

 アーチャーの青年キースは全然構わんと頷き、クルセイダーのテイラーも用事で参加できない自分が文句を言う立場ではないと返す。その答えを聞き、カズマは後ろにいるコッコロへと振り向いた。

 

「ありがとうございます。主さま共々、よろしくお願いいたします」

「う、うん。……ダストよりよっぽど大人だよねぇ」

「違いねぇ」

「そうだな」

 

 コッコロがペコリと頭を下げたのを見て、三人は口々にそんな感想を零す。聞こえてるぞ、というダストの抗議は無視をされた。

 そうした辺りで、ところで代わりの人員は一体誰なのかという疑問にぶち当たる。カズマがそのことを尋ねると、何故かリーンは視線を逸らした。

 

「おい、ちょっと待て。何でそんな――」

「す、すみません……! おまたせしました……」

 

 尚も問い掛けようとしたカズマに被さるような声が響く。視線を向けると、こちらのテーブルへと歩いてくる一人の少女の姿が。

 赤みがかった長めの髪を左右で少し結び、レオタードのような衣装に身を包んだその少女は、あろうことかチョーカーとブレスレットを鎖で繋ぎまるで犬の首輪や手錠のような装いに変えている。スタイルは素晴らしく、美人なその少女は、一見すると扇情的で。

 

「あ、遅刻ですか? 待たせてしまいましたか? で、では……クウカをどうぞ、お好きなように、煮るなり焼くなり、魔法の的にするなり、なんなりと……じゅるり」

 

 その口から発せられるワードと表情で即座にそんな気分が吹っ飛ぶレベルの女である。周りの面々は慣れているのか、はいはいと流してクエストの準備をするため立ち上がった。

 

「あ、あぁ……! 放置プレイというやつですね……! このまま置いてきぼりにされたクウカは、皆さんにいないものとして扱われ、押されて踏まれて、いざ出発となった頃にようやく、『あ、いたの?』と見下されて……っ! でゅふ、でゅふふふふふ」

 

 はぁん、とよだれを垂らしながら悶えるクウカから視線を外したカズマは、とりあえずコッコロがアレをなるべく見ないように間に立ち、そして抗議をするべくテイラー達へと声を張り上げた。騙したな、と。

 

「すまん。そんなつもりはなかったんだ」

 

 はっきりとそう言われるとカズマとしても何か言い辛い。タンク役としての能力は本当に優秀なんだと続けられ、決して嫌がらせなどではなく戦力として選んだということも強調されれば、文句を言う彼が悪人になってしまう。

 分かった。そう言って頷いたカズマは、そのまま踵を返すと酒を飲んでいるダストへと近付いた。見下ろす体勢のまま、彼は静かに言葉を紡いだ。

 

「覚えてろよ」

「はっ。……言いたかないが、マジでそいつ耐久力だけは半端なく高いんだよ。性癖にさえ目を瞑れば滅茶苦茶役に立つ」

「そこが一番問題なんだよぉ!」

 

 思わず胸ぐらを掴み叫んだ。落ち着け、大丈夫だ、大した問題も起きないだろうから。そう言ってカズマを宥めたダストは、ほれまあ試しにやってみろと彼を向こうへ送り出す。

 もう一回、覚えてろよと言い放ったカズマは、コッコロの手前ここで放り出すわけにいかず渋々ではあるが向こうと合流し出発していった。

 

「お前は良かったのかよ」

「好き好んで問題に突っ込んでいくほど変わり者じゃないのよ」

 

 はん、とダストの言葉にそう返したキャルは、散歩でもしてくるかと酒場を出ていく。まあ一応大丈夫だとは思うけど。そんなことを呟いていたが、もしそうだとしたらあいつも相当の変わり者だな。ダストはぼんやりとそう思った。

 




第二ドM推参。

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