プリすば!   作:負け狐

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二章ボスに近付いてきました。


その36

「で、えーっと」

 

 目の前の、どう考えても普通ではないプリーストの女性に向かい、カズマはどう話を切り出そうか一瞬迷う。が、まあいいかとすぐに思い直して言葉を紡いだ。今回の事件について何か知ってるのか、と。

 

『はい。ここだけの話ですが』

 

 そう言ってルーシーは言葉を止める。コッコロと、カズマと、そしてペコリーヌを見ながら、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

『実は私、幽霊なんです』

「見りゃ分かんだよ!」

 

 半透明で浮いてりゃ馬鹿でも分かる。そんなことを言いながら、さっさと続きを話せとカズマは詰め寄った。既に遠慮は微塵もない。

 こほん、とルーシーは咳払いを一つ。そうして、今回の事件についてですがと改めてここにいる五人を見た。

 

『実は幽霊を集めている者がいるんです。私もその波長に誘われかけたんですけど、BB団を投げ出すわけにはいかないと我に返って』

「BB団にそこまで愛着持ってる時点で既に正気じゃねぇよ」

 

 何をどうやると幽霊がぼっちの集まりに共感を覚えるのか。そんなことをカズマは思ったが、むしろ幽霊の方がそういうぼっち思考に陥りやすいような気がしたので一人納得し続きを促した。

 ルーシーによると、その何者かが集結させた幽霊共が現在アクセルに蔓延している連中で、そしてそいつらが蔓延することで街の住人には特殊なバフが掛かるようになっているらしい。そしてそのバフこそが。

 

『プリン大好き、です』

「なんだって?」

『《プリン大好き》です。三度の飯よりプリンが好き、趣味はプリン、好きなものはプリン、興味があるものはプリン。とにかくプリンが生活の基盤になります』

「どう考えてもデバフだろ。呪いじゃねーか」

『言いたいことはあるでしょうが、バフなんです。本人はそれがプラスであると信じ切っているんでしょう』

 

 はぁ、とルーシーが溜息を吐く。ともあれ、現状街に幽霊が溢れている限り、《プリン大好き》を解除するのは難しい。そう述べ、ちらりと視線を動かした。

 机に突っ伏してピクピクしているキャルを見る。手遅れでしたか、と悲しそうに顔を伏せた。

 

「キャルさま!?」

「キャルちゃん! しっかりしてください!」

「うぅ……プリン、プリンがぁ……あたし、プリン、食べないと……食べない……プリン食べない……プリンプリンプリンプリン……」

 

 うわ言のようにプリンプリンと言い続けるキャルを見て、コッコロとペコリーヌは心配で駆け寄り、カズマはドン引きする。さっき解呪したはずなのに、そんなことを思いながらルーシーを見ると、ゆっくりと首を横に振った。

 解除は一時的な緩和にしかならず、放っておくと再び《プリン大好き》状態になってしまうので、一度浸透してしまうと治すのはほぼ不可能。そんな予想を彼女は立てており、そして実際目の当たりにしたことで間違いないだろうと確信を持った。

 

「私たちは初期に解呪されたので、なんとか耐えれていますけど」

「他の人は、多分もう……。あれ? でもリーダー平気ですよね?」

 

 神妙な顔をしていたアオイが、がばりと顔を上げカズマを見る。見られた方は、自分だけでなくコッコロもそうだと指差した。ペコリーヌは微妙なラインなので数に入れていない。

 

『不思議ですね。何か心当たりが?』

「確か、アメス様の加護で魅了とか洗脳とかそういうのに強いって話はこないだ聞いたな」

「アメス様の……? 成程、流石は主さまです」

「いや、そこはコッコロも同じだろ」

「……ああ、言われてみれば。そういうことでしたか」

「コッコロちゃん、たまに天然なところありますよね」

 

 ともあれ、アメスの加護を受けている二人は現状この《プリン大好き》の影響下にはないらしい。自分達ほど強くはないかもしれないが、ひょっとしたらユカリも多少は正気を保っている可能性もあるだろう。そんなことを思い、ついでにルーシーに伝えたが、他教のプリーストをこれ以上増やしたくはないと嫌な顔をされたので合流は没となった。

 

『……ちなみに、そこの方はどうして大丈夫なんですか?』

「わたしですか? ……多分、装備のおかげだと思いますけど」

 

 ちょいちょい、と自身の頭にあるティアラを指差す。色々な滋養強壮肩こり腰痛にも効果のある一品らしい。よく分からないがとりあえずそのおかげで《プリン大好き》が浸透しきっていないのだとか。

 それを聞いたゆんゆんが、あ、と声を上げる。そういう対策を常にしている人物ならば、この街でもまだ正気を保っているはずだ。そう考えたのだ。そしてその人物ならば。

 

「この犯人について、何か知ってるかもしれません」

『流石です、ゆんゆん。では、早速そこに』

「……もったいぶって出てきた割に肝心な部分丸投げかよ」

 

 カズマの呟きに、ルーシーはさっと顔を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 とりあえずキャルの看病をしなければ、とペコリーヌは彼女を抱え教会に帰ってしまったので、メンバーが減り五人となったカズマ一行は、ゆんゆんの心当たりである場所へと向かっていた。が、その入り口でピタリと動きを止めたゆんゆんとついでにアオイを見て、何やってんだお前らと彼はジト目で見やる。

 

「で、でも。約束もしていないのにいきなり訪ねて、相手が忙しい時だったら、き、嫌われるじゃないですか!?」

「何で断定してんだよ」

「そ、そうですよ! 用事があるならば一ヶ月前にまず連絡をすることを連絡し、そしてその連絡で忙しいかどうかを尋ねることを連絡して、そしてようやく」

「一発で聞け!」

 

 ゆんゆんとアオイの相変わらずのアレっぷりを見て、カズマは盛大に溜息を吐く。あんたは何でこんな連中の仲間になったんだよとルーシーを見ると、あははと苦笑しながら頬を掻いていた。

 

『私、見ての通り幽霊ですし、レジーナ教徒も生前の時点で自分一人だったものですから。こう、物凄く親近感湧いちゃって……』

 

 おかげで違う未練が出来てしまって当分成仏できない。そんな言葉を続け、どこか優しげにテンパる二人を見詰めると、さてでは気を取り直してと手を叩いた。

 

「それでは、参りましょうか」

 

 コッコロの言葉にカズマは頷く。ゆんゆんとアオイは街に広がっているものとは別の原因で混乱の極みであったが。知ったことかと彼はその建物の扉をノックしようとして、見慣れた呼び鈴のようなものがあるのに気付く。流れでそれを押すと、これまたお約束のような音が響いた。

 

「はい? あら、カズマくん」

「どうも、ちょむすけさん。こんにちは」

 

 開いた扉から顔を出したのはちょむすけ。カズマを見て、コッコロを見て。そしてその後ろの三人を、正確にはゆんゆんを視界に入れ目を瞬かせると、どうかしたのと問い掛けた。

 

「……お、お師匠様!? お久しぶりです、えっと、その、私は今日お尋ねしたいことがあって来たんですけどああでもその前にめぐみんがどんな状況かを知りたいからそれを、いや自分の都合より」

「落ち着け」

「相変わらずみたいね」

 

 ちょむすけが苦笑する。そうしながら、彼女の言葉を反芻し、大体の予想を付けて頷いた。カズマに視線を戻し、彼と、そしてコッコロを見て成程と口角を上げる。

 

「とりあえず中に入ってちょうだい。知りたいことは多分ネネカに聞けば大丈夫だから」

 

 踵を返す。その言葉に従い、四人は扉からその建物、研究所内へと足を踏み入れた。踏み入れようとした。

 ピクリとも動いていないアオイに気が付き、慌ててゆんゆんが運搬に戻ったのがすぐ後だ。

 ともあれフリーズしたアオイと四人は、案内されるまま研究所の所長室へと向かう。カリカリと何かを書いていた小柄なエルフの女性が、カズマ達に気付いて顔を上げた。

 

「あら、いらっしゃい。どうかしましたか?」

「はい。ネネカさま、実は」

 

 この場で、所長であるネネカの知り合いで、かつこういう説明が出来る人物に該当するのがコッコロしかいない。街の状況を伝え、そしてそれを打破する何かがないだろうかという懇願も伝えた。彼女の言葉に別段驚いた様子も見せていないネネカは、そうですねと頷くと机の横にある箱を開ける。

 

「概ね状況は把握しています。犯人の特定は、一応出来ていると言ってもいいでしょう」

 

 そう言いながら、箱から取り出したそれをひとすくいして口に入れた。

 プリンである。思わず視線をちょむすけに向けると、さ、と視線を逸らされた。

 

「駄目じゃん!?」

「失礼ですね。私はきちんとこの呪いを承知で受けています。自身をデータ取りの参考にしているだけなので、心配することはありませんよ」

 

 パクパクとプリンを食べながらそんなことを言われてもいまいち説得力がない。が、BB団二人ではそこについてツッコミを入れる気概がないし、ルーシーは傍観を貫いている。そしてコッコロはそういうことでしたらと納得の姿勢を見せてしまった。

 二つ目を取り出した。

 

「完全にやられてんじゃねーか!」

「承知の上、と言ったでしょう。本当に駄目というのは、ほら、向こうの部屋にいる彼女のことを言うのですよ」

「彼女?」

 

 指差したのは隣の部屋。視線をそちらへ向けると、そこから一人の少女が顔を出す。何やら騒がしいと思っていたら、あなた達ですか。そんなことを言いながら皆を見渡し、そして一人の人物で視線を固定させた。

 

「おや、ゆんゆん。何しに来たんですか?」

「え? ……べ、別に、めぐみんが心配だからとかじゃなくて、事件を、解決しようと、思ってただけ、なんだから……」

「何を言っているのかさっぱり分からないんですが」

 

 はぁ、と溜息を吐いためぐみんは、やれやれと肩を竦めながら手に持っていたプリンを食べる。空になった容器をゴミ箱に捨てると、どこからか追加のプリンを取り出して食べ始めた。

 

「なあ、ちょむすけさん。俺には所長もめぐみんも同じことしてるようにしか見えないんだけど」

「……まあ、一応、ネネカは自分から呪われてるだけあって判断力は鈍っていないのよね」

「あの、その説明ですと、めぐみんさまは」

 

 コッコロがちらりと彼女を見る。その視線に気付いためぐみんは、手に持っていたプリンを隠すように移動させるとジロリと睨んだ。

 

「あげませんよ。これは私の爆裂プリンの準備ですから」

「爆裂、プリン?」

「おやゆんゆん、知らないんですか? 我が爆裂道は、プリンと共にあり! プリンによって蓄えられた高密度の魔力が、私の爆裂魔法をさらなる深遠へと導いてくれるのです!」

 

 成程手遅れだ。そう判断した一行は、彼女のそれを適当に流しながらネネカから件の犯人とやらの情報提供を求めた。

 本音を言えばもう少しデータを手に入れたかったが、しょうがない。そんなことを言いつつ、彼女は机に置いてあったメモ帳を差し出す。曰く、これがその情報らしい。

 

「幽霊を操ることが出来るということは、その手のスキルを持った何者か、あるいはそういう能力持ちの魔物です。本来ならば、ですが」

 

 ちらりとルーシーを見る。そちらにもいるのならば手助けもいらないだろうと判断した彼女は、では頑張ってくださいと手をひらひらさせた。

 ちょむすけはそんなネネカを見て苦笑する。彼女がそう決めたのならば、自分としてもわざわざ余計なことをする必要もないだろう。なにせ、自身の本質は怠惰と暴虐なのだから。

 

「私もめぐみんを見ていないといけないし。解決はお任せするわ」

 

 そんなわけで。戦力は増えなかったが情報は増えた。研究所を後にしたカズマ達とBB団は、早速メモを元に犯人とやらのあたりを付ける。先程のネネカの意味深な言葉を考えると、頭のおかしいネクロマンサー辺りが犯人だとか、実はモンスターがどこかに潜んでいるだとか、そういう程度では済まない気がしないでもないが、しかし。

 

「とりあえず、幽霊の発生箇所とプリンの有無を手分けして探しましょう」

 

 コッコロの言葉に皆が頷く中、ただ一人。ルーシーだけはちょっと待ってと動きを止めた。現在地は研究所から街の中心部へと戻り始めているところ。普段カズマ達が生活している教会のある場所とは別の地区だ。

 彼女は何かを探るように視線を動かし、こっちだと皆を先導する。どうやら先程手に入れたメモを参考に、自身が幽霊であることを活かして街に溢れている野良幽霊の流れを探ったらしい。

 

「おお、さっきとは違って役に立っている」

『気にしてたんだからそういう事は言わない!』

 

 カズマの言葉にそんなツッコミを入れつつも、ルーシーはところどころつっかえつつではあるが、ぐるぐると渦巻いている流れの中心を探り、進む。やがて商店の並ぶ通りへとやってくると、この辺りのはずだと周囲を見渡した。

 

「……プリンばっかりだな」

「ここまでくると、壮観でございますね」

 

 出店も飲食店も、貼り紙やのぼりでプリンをこれでもかと主張している。よく見ると、雑貨屋や鍛冶屋ですらプリンありますの紙が貼ってあった。道行く人々も、手に持っているのは基本プリンだ。誰もがプリンを食べ、そしてプリンを喜びとしている。この状況を作った存在は、恐らく並々ならぬプリンへの思いがあり、そして相当に頭がおかしいのだろう。

 考えるまでもないその結論を出したカズマは、それでとルーシーに尋ねる。もう少し正確には分からないのか、と。

 

『偉大なる傀儡と復讐の女神レジーナ様。私に何か天啓を!』

「分かんねぇのか」

 

 よし次、とBB団を見る。ゆんゆんとアオイ。中身はアレだが、能力的には優秀な冒険者のはずなのだ。こういう時に案外役に立つ可能性が無きにしもあらず。

 え? と急に振られたことで目を見開いたのはゆんゆん。期待されている、ということを理解したのはいいが、そのことがかえってプレッシャーになったのか何かいい方法を見付け出そうと全力で思考し始め頭から煙を吹いていた。

 

「……アオイ、は、うん。無理しなくてもいいからな」

「とても優しい笑顔!? 確かに私はこういう時何の役にも立たないかもしれません。し、しかしですね。BB団団員たるもの、リーダーの役に立たねば死あるのみ。そんな鉄の掟をもって、私はここで自害を」

「誰も作ってねーし諦めるの早すぎだろ! せめて何かやれ!」

「はっ!? 無理するなから何かをやれに変わるということは、ひょっとして……! リーダー、それは私にちゃ……ちゃん、ちゃん、ちゃんちゃらちゃんぽん麺!?」

 

 何かないかな、とカズマは周囲を見渡した。現状怪しい人物は間違いなくここにいるBB団なので、それ以外に誰か。

 そんな視線が一箇所に固定される。どこかで見たような顔、というか知り合いがベンチに座っているのを見付けたからだ。どことなく困ったような顔で、しかし優しげな笑顔で。隣にいる少女を眺めている。

 それを見たカズマは、誰だあいつ、と思わず呟いた。その人物の隣のことではない。普段から罵倒されたり痛め付けられたりを好んで興奮している女騎士が、クウカとは別ベクトルのドMが、あんな表情を浮かべるなんて、と。

 あのダクネスが、まるで立派なお姉さんみたいな空気を醸し出しているなんて、と。

 




ダクネスの隣にいるのは一体誰なのか、さっぱり分かんないの。
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