プリすば!   作:負け狐

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ペコリーヌ、クウカ、ユカリ、ミヤコ。
気付いたらダクネスと絡む面々タンク役ばっかだ。


その37

 驚愕の表情を浮かべていたカズマ。そんな彼に気付いたのか、コッコロがテテテと彼へと近付きその視線を追い掛けた。

 

「どうされました? 主さま。おや、あれは……ダクネスさまですね」

「よく似た別人だろ。あいつがあんな慈愛に満ちた女騎士みたいな顔してるはずがない」

「そうでしょうか? わたくしとお話をする際のダクネスさまは、あのようなお顔をされていることも多いのですが」

 

 マジかよ。そんなことを思いコッコロを見たが、当然ながら嘘を吐いている様子はない。となると、ああいう、年下の子供相手には案外ドMは控えるのだろう。そんなことを思いながら、改めてダクネスの隣にいる人物を見やる。

 ブカブカの袖の服で器用にスプーンと器を持ちながら、その少女は幸せそうにプリンを食べていた。年はコッコロと同じか少し下だろうか。タイツに包まれた足はプラプラと揺れていて、ベンチに座っている状態だと足がついていない。長い髪は立ったらそのままついてしまうのではないかと思わせるほどだ。

 

「ん~。プリンおいしいの」

「そうか、それはよかった。……もうあんな真似はするんじゃないぞ」

「はいはいなの」

「反省してないな……まったく、もう」

 

 そう言いながら怒っている様子もない。少女はそんなダクネスには目もくれず、目の前のプリンをパクパクと食べている。

 

「よう、ダクネス」

「ん? 何だカズマか。今日はペコリーヌさんは一緒ではないのだな」

「ああ、今ちょっとキャルの看病してるからな」

「看病? 風邪でも引いたのか」

「もうちょっと質の悪いやつかな……」

 

 ところで、とカズマは隣の少女を指差す。こいつは誰だ? そう尋ねると、ダクネスは苦笑しながら私も知らないのだと返した。何でも、屋台のプリンを無銭飲食しようとしていたので慌てて止めに入ったらしい。

 

「クソガキじゃねーか」

「そう言ってやるな。間違いを正し導くのも騎士の仕事だ。このくらいの年齢ならば、まだやり直しがきく」

 

 苦笑するダクネスを見ながら、カズマは改めて思う。誰だこいつ。少女の正体ではなく、ダクネスの存在について疑問を呈した。思わずコッコロを見やり、そして先程の言葉を思い出すと納得いかないが信じざるを得ないと溜息を吐く。

 そんなタイミングで、プリンを食べていた少女がジロリとこちらを睨んだ。

 

「聞こえてたの。誰がクソガキなの!?」

「いやお前だろ。人の金で食うプリンは美味いか?」

「プリンなんだから美味しいに決まってるの。オマエは馬鹿なの?」

 

 はん、と鼻で笑った少女は、視線をカズマからダクネスに向けた。ブカブカの袖ごと腕をズビシと突き付けると、勘違いしてるみたいだから言っておくのと頬を膨らませる。

 

「ミヤコは十四歳なの。立派なレディーなの」

「……無理して大人ぶる必要はないんだぞ?」

「むぅー! 信じてないの!」

「いや、だって……なあ?」

 

 自称十四歳の少女、ミヤコを見て、そしてコッコロを見る。頭一つ分、とまではいかないが、ミヤコは彼女より十センチくらいは低いであろう。それで年齢がコッコロより年上だと主張したところで、説得力はまったくない。

 

「そもそも、そうなるとあの二人がお前より年下になるんだけど。ありえないだろ」

 

 何か見付けたのか、とこちらにやってきているゆんゆんとアオイを指差しながらカズマが溜息を吐く。うんうんと頷くダクネスを見て、ミヤコはぐぬぬと顔を顰めた。

 

「で、お前ほんとは何歳なんだよ」

「だーかーら! ミヤコは十四歳なの! 子供じゃないの!」

「き、キャルさまも時々強情になる時がありますし、そう思えば」

「コッコロ、無理にフォローしなくていいんだぞ」

 

 自分でも苦しいと思っていたのだろう。申し訳ありませんと項垂れるコッコロに気にするなと返し、カズマはダクネスへと言葉を紡ぐ。それで、こいつが申告通りの年齢だった場合どうする。そう言いながら、どこか意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 

「い、いや、それでも私の考えは変わらんぞ。若いには違いないからな」

「ああそうかい」

 

 今回は本当に真面目だな。そんなことを思っていたカズマは、そこで本題を思い出した。ここ最近の幽霊騒ぎと、それに付随して街に蔓延した《プリン大好き》なる呪い。一応その説明をしたが、街の住人はほぼ手遅れだと聞いていたのでそこについてまともなリアクションは期待していなかった。肝心なのはその後、何か怪しい奴を見なかったか、という部分だ。

 

「成程。このプリンブームはそういう背景があったのか」

「あれ?」

「ダクネスさま? ひょっとして、正気を保っておられるのですか?」

「な、何だか暗におかしくなっていないことがおかしいと責められたような……っん」

「おいドM、お前コッコロ相手に発動したら容赦しないからな」

「くぅ……心配するな。望むところだからな」

 

 何かを期待したのか身震いをしているダクネスを見てカズマの目が死ぬ。次いで、この感情はこの間抱いた気がすると思い出したくもない記憶がフラッシュバックした。もういいから話を元に戻すぞ。そんなことを言いながら、彼は彼女へと犯人らしきなにかの心当たりを問い掛ける。既にダクネスが呪いにかかりきっていない理由は最初から手遅れだったからと結論付けていた。

 

「う、うむ。コホン、犯人、犯人の心当たりだな? ……いや、これといってないな」

「使えねぇな。お前それでも騎士かよ」

「あふん」

 

 嬉しそうにカズマの文句を聞いていたダクネスは、再度深呼吸で息を整えると、どうせだからとミヤコを見た。彼女にも聞いてみたらどうだろうかと彼に述べた。

 カズマはその提案をどうでもいい風に流す。さっきまでのやり取りやダクネスと一緒にいた経緯でこいつがプリン大好き状態なのは確定している。そんな奴から話を聞いたところで何の役にも立たない。そう判断したためだ。

 

「それよりも、だ。アオイ、ゆんゆん。何か見付けたか?」

「い、いいいえ! 何も、見付けられませんでした! あ、こんな勢いよく言っても誤魔化されませんよね、あ、ははは……はぁ」

「同じく何も。残りはルーシーさん頼りですね。後アオイちゃん、リーダー別に怒ってないから落ち着いて」

 

 アオイを何となくスルーしつつ、ゆんゆんの言ったように最後の一人であるルーシーの報告を貰おうと彼女を探すと、何やら慌てたような様子でこちらにやってくる彼女の姿が。一体どうしたんだと微妙に浮いた状態のまま駆けてくるルーシーに問い掛けると、どうしたもこうしたもとそこにいる人物を指差してまくし立てた。

 犯人の手掛かりとか心当たりとか、そういうレベルじゃないと彼女へ指を突き付けた。

 

『そこにいるのが、この幽霊騒動の犯人ですよ! 私の幽霊センサーに反応してるので間違いありません』

「は?」

「え?」

 

 思わず一斉にそこを見た。彼女が指差したその人物を見た。

 

「何なの? そんなに見てもプリンはやらないの」

 

 三個目のプリンを守るように抱いた、ミヤコを見た。

 

 

 

 

 

 

 ダクネスから奢ってもらったプリンを全て食べ終わったミヤコは、こちらを眺めている一行の視線を煩わしそうに手で払う仕草を取る、そうしながら、何か用事なのかと問い掛けた。

 

『あなた、幽霊ですよね』

「それがどうかしたのかなの」

 

 さらっと言い放った。隣に立っていたダクネスが思わず動きを止め、確かめるように彼女の肩に手を置く。ぽん、と触れたことで、何だ冗談かと胸を撫で下ろした。

 瞬間、ミヤコの姿がうっすらと透ける。触れていたその手が突如空を切り、ダクネスは思わずバランスを崩した。

 

「ミヤコは見ての通り幽霊なの。それで? だからなんなの?」

「今回の事件、起こしたのはお前なのか?」

「事件?」

「幽霊を集めて、この街のみなさまを《プリン大好き》状態にしたことです」

「何言ってるのかよく分かんないの。でもまあ、幽霊集めたのはミヤコなの」

 

 さらっと言い放った。言い訳も何もないその発言のために、BB団の面々も思わず目を見開き固まってしまう。

 こういうことに耐性がついてきた感のあるカズマとコッコロは、そんな中でも衝撃を最小限に抑えていた。突拍子もない行動や発言など、彼らにとっては日常茶飯事だ。というより、固まっている面々が普段はそっち側だ。

 

「あの、ミヤコさま。どうしてそのようなことをなさったのか、お聞きしても?」

「ん~? いつもお昼寝に使ってるお城を、ミヤコが寝ている隙に乗っ取った奴がいたの。気付いたらミヤコの寝ている箱が外に出されてて、ムカついたの。あいつら絶対許さないの」

「だから何だよ」

「そのためにもプリンが必要だったの。でも、アクセルの街にはプリンがあんまり広がってなかったから、幽霊を集めてもっとプリンを作るように囁かせたの~」

「……主さま。わたくしの理解力が足らないのでしょうか」

「心配するな。俺もこいつが何言ってるかさっぱり分からん」

 

 そのまま鵜呑みにした場合、今回の騒動はミヤコが普段昼寝に使っていた場所を何者かに取られたので、その連中を倒すためにもプリンが必要だと判断した彼女は街にプリンを広めるため幽霊を集め《プリン大好き》をばらまいたということになる。

 正当性も納得も何もないので、カズマとしてはこのまま退治してしまうのが一番手っ取り早い、そう結論付けた。幸い冬なので人通りも多くない、早いところ始末しようと彼はショートソードを構えた。

 

「いきなり何をするの!? 凶暴なやつなの、酷いの、クズなの!」

「うるせぇ悪霊。とっとと退治されるか浄化されるかしろ」

「あっかんべーなの」

 

 ふわりと浮き上がったミヤコは、カズマの攻撃範囲から離れるとんべぇと舌を出す。その顔にイラッときたカズマは、コッコロに目配せし指示を出した。が、流石にそれはと彼女は彼のその指示に躊躇いを見せる。

 

「コッコロ。あいつはモンスターだ、辛いだろうが、街のためなんだ」

「あ~、何かそれっぽいことで言いくるめようとしてるの。鬼畜なの、そんな小さくて可愛い子に何やらせようとしてるの!?」

「うるせぇモンスター。お前は黙ってターンアンデッド食らってりゃいいんだよ」

「はぁ!? ミヤコをモンスター扱いとかめっちゃ許せんの! ミヤコはいい幽霊なの! 謝るの! あ~や~ま~る~の~!」

「黙れっつってんだろプリン駄幽霊。いい幽霊は街をこんな滅茶苦茶にはしねーんだよ!」

「駄幽霊って言ったの! オマエは言ってはいけないこと言ったの!」

 

 ぶんぶんと腕を振り回しながらぷんすか怒っていたミヤコは、キッとカズマを睨むと、状況についていけてなかった面々の一人、近くにいたダクネスへと突っ込んでいった。そのまま彼女にぶつかるように重なると、掻き消えるようにミヤコの姿が見えなくなる。

 

「か、カズマ!? 何だか知らんが私の体が勝手に動くぞ!?」

『今ちょっと体借りてるの。あいつぶっ飛ばしたら返すから我慢するの』

「悪霊であること隠さなくなったぞあのヤロー」

「み、ミヤコさま!? 流石にそれは……」

 

 コッコロが説得をしようと口を開くよりも早く、ダクネスの体を使ったミヤコはカズマへと肉薄すると遠慮なしに彼を蹴り飛ばした。本人ほど十全に身体能力を使えていないとはいえ、クルセイダーの膂力によるそれでカズマはバウンドし地面に転がったまま動かなくなる。

 

「主さま!?」

「リーダー!?」

 

 状況についていけていなかったBB団もそれによって我に返る。何はともあれ目の前のミヤコを止めなければ話は始まらない。そう判断し、ゆんゆんもアオイもコッコロと同じように武器を構えた。

 

「ミヤコさま。流石にその狼藉は看過できません」

「リーダーの仇!」

「アオイちゃん、勝手に殺しちゃだめだよ」

 

 ダクネスに憑依したままのミヤコへとコッコロが肉薄する。似たような状況は以前ダンジョンで体験していたので、それと比べれば今回の方が乗っ取られた側が丈夫なので問題ない。大分パーティーメンバーに染まった考えのまま、彼女はその槍をダクネスへと叩き込んだ。

 

『躊躇いなく攻撃してきたの! こいつ頭おかしいの!?』

「くぅぅ。鋭い一撃が私を苛む! 中々どうして、コッコロも良い攻撃をする!」

『こっちはこっちで喜んでるの!? 頭おかしいの!』

「攻撃しても大丈夫ってことで、いいんですか、あれ?」

「多分、自信ないけど」

『いいわけないの! 常識で考えるの!』

「ああ、構わん。遠慮なく来い! 久々だからな、上級魔法や状態異常も問題ないぞ」

『問題ありありなの! なんなのこいつら、頭おかしい奴らばっかなの!』

 

 では遠慮なく、と雷撃魔法と麻痺矢をぶっ放した二人を見て、ミヤコが小さく悲鳴を上げる。逃げようとしても鋼の意志で攻撃を受けるため動かないダクネスの抵抗により、そのまま直撃することとなった。

 その直前、ひょいと彼女の体から脱出したミヤコは、やってられんとばかりにその場から離脱を開始する。とっとと逃げてプリンを食べよう、そんなことを考えていた彼女は。

 

「どこへ行く気だ?」

「ほぇ?」

 

 ガシリとその腕を掴まれたことで目を見開いた。ルーシーに回復してもらったらしいカズマが、彼女をしっかりと掴んでいる。その表情は、ミヤコにとっては紛れもなく邪悪と表現していいもので。

 

「は、離すの! っていうか何で掴めてるの!?」

「ははははは。知ってるか? 俺な、《ドレインタッチ》使えるんだわ」

「え? ちょ、ちょっと待つの! やめるの! ミヤコ吸ってもおいしくないの!」

「待たないしやめない。よくもさっき蹴り飛ばしてくれたなぁ駄幽霊!」

「あ、や――あばばばばばばばば!」

 

 電撃を受けたようにミヤコの体が痙攣する。ぱ、とカズマが手を離すと、浮いていた彼女の体はポテリと地面に落ちた。退治する勢いで吸い取った割には無事で、思った以上に頑丈なそれを見て、浄化はひょっとしたら難しいんじゃないかと彼は顔を顰めた。

 

 

 

 

 

 

「……どーすっかなぁ」

「カズマ、終わったのか?」

 

 そんな彼へ、三人の攻撃を食らってツヤツヤしているダクネスが声を掛ける。コッコロ達もカズマが無事なことを知って安堵しているらしく、倒れているミヤコのことも合わせ先程までの空気は霧散していた。

 そんなわけで、カズマはダクネス達にそれを伝える。ただの幽霊とは一線を画しているのか、それこそ女神でもいない限り浄化するのは厳しいのではないか、と。

 

「……一つ、提案があるんだが」

「ん?」

「彼女を、私に預けてくれないか?」

 

 何を、と皆の視線がダクネスに集まる。彼女の表情はふざけているわけでもなく、どうやら本気で言っているらしいということが分かった。

 が、だからといってはいそうですかとはならない。ルーシーが何を言っているのだという表情でダクネスを見た。見る限りエリス教徒、アンデッドの存在などご法度の信徒が、幽霊を匿うなど正気か。そんなことをついでに述べた。

 

「幽霊に幽霊の処遇を疑問視されると少し困るが……どのみち、放置は出来んし、このままだと討伐クエストも発令されるだろう?」

『でしょうね。聞いた話によると私も討伐クエスト出ているらしいですから』

 

 ルーシーズゴーストの討伐、という随分前から塩漬けにされているクエストであるらしい。このままだと遠くないうちにミヤコもその一員になるのは想像に難くないわけで。

 幸い、原因が彼女だと知っているのはこの場にいる面々のみ。こちらで上手い具合に揉み消せば、ミヤコの存在はどうにでも出来る。

 

「……何でそんな気にかけるの?」

「お、復活した」

「う~。死ぬかと思ったの……」

「え、もう死んでるんじゃ……?」

 

 コントのお約束のようなやり取りをしつつ、むくりと起き上がったミヤコはダクネスを見る。どこかバツの悪そうな顔なので、一応暴れたことは反省しているらしい。

 そんなミヤコを見て、ダクネスは苦笑する。そう大した理由があるわけではないが。そう述べ、視線を合わせるように彼女は屈んだ。

 

「幼い子供が道を踏み外しそうならば、正してやりたい。そう思っただけだ。――私の仕える主、第一王女様も、きっとそう言う」

 

 そうだろう、と何故か同意を求めるようにカズマとコッコロを見やる。その視線の意味が分からず首を傾げる二人を見て笑みを浮かべたダクネスは、まあそういうわけだとミヤコに告げた。

 

「だから、ミヤコは子供じゃないの!」

「ああ、そうだったな。それはすまない」

「絶対信じてないの……。でも、まあ、分かったの。オマエの言うこと、ちょっとは聞いてやるの」

 

 ふよふよと浮かぶと、ダクネスの背中にくっつくように浮遊する。どうやら彼女なりの信頼の定位置らしい。傍から見ていると取り憑かれているようにしか見えないが。

 

「じゃあ早速、プリンをよこすの」

「分かった分かった。ああ、その前に、街の幽霊をどうにかしてくれ」

「そういえばそんなこと言ってたの。じゃあとっとと――」

「ちょっと待て」

 

 ミヤコの動きにカズマが待ったをかける。どうした、と尋ねたダクネスに向かい、彼は少し思ったんだがと言葉を紡いだ。

 

「ここでいきなり幽霊消したら、ギルドのクエストボードがまた面倒なことにならないか?」

「あ」

 

 結局、ルナとカリンの手を借りて、このプリン幽霊はダクネス預かりとなったそうな。

 




その後の魔道具店
ウィズ「~~~~~~(正気に戻って悶えている)」
バニル「うむ、予想通り。羞恥の悪感情、美味である」

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