プリすば!   作:負け狐

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ボス戦。
だけど、一章より緊張感がない……。


その38

「だから! 一刻も早く浄化するべきだってば!」

「い、いや、そうは言うがな、クリス」

 

 どん、とカップを机に叩きつけながらクリスが叫ぶ。そんな彼女の剣幕に圧されつつも、ダクネスもそれは出来ないと首を横に振っていた。

 当然クリスは更にヒートアップするわけで。

 

「何で!? アンデッドだよ!? どう考えても始末しなきゃいけない存在でしょ!?」

「確かにそうかもしれん。エリス教徒としては、クリスの反応こそが正しいんだろう。……だが、私はあいつと、ミヤコと約束したんだ。お前が満足するまで一緒にいてやる、と」

「呪われてる。ダクネスが呪われた……。倒さなきゃ、あの幽霊倒さなきゃ……」

「私は正気だぞ。というかだな、むしろ今のクリスの方がどちらかというと正気ではないような」

「あたしはこれ以上無いほど正気だよ!」

 

 いやいやいや、と会話が聞こえていた酒場の面々は一斉に心中でツッコミを入れたが、当然ながら彼女には届かない。アンデッドは滅するべしのクリスにとって、ダクネスやこの酒場にいるミヤコ許容派は正気を失っているようにしか思えないのだ。

 

「何かうるさいのがいるの」

「出たなアンデッド! あたしが今この場で滅してやる!」

「勝手に言ってろなの。それよりダクネス、プリンをよこすの」

「ああ、ちょっと待っていろ」

 

 ひょこ、とダクネスの後ろに現れたミヤコが、クリスを見て顔を顰める。吠える彼女を軽く流しながら、ミヤコはプリンが用意されるまで酒場をふよふよと漂っていた。

 

「……しっかし、ほんとここの連中懐が深いというか、何も考えてないというか」

 

 そんなミヤコを見ながら、別のテーブルにいたキャルが溜息を吐く。《プリン大好き》状態は解除されたので正常に戻ったが、当時の記憶はしっかり残っているので彼女としてはクリスの気持ちも分からないでもない。だが、しかし。

 

「……ぶっちゃけバニルよかマシなのよね」

「比べる対象間違ってんだろ」

 

 はぁ、と再度溜息を吐くキャルをカズマはジト目で見る。ついでに言うとカズマ的にはどっこいどっこいだ。なのでバニルが野放しなら別にミヤコも野放しでいいんじゃね、がスタンスである。

 

「バニルさまは、ああ見えてゴミ出しのルールを破った方に注意をしたり、カラスを撃退したりとご近所の主婦層には評判が良いのです」

「それはつまり、ミヤコはアウトって言いたいわけね」

「いえ! 決してそのような意味では」

「おいこらキャル、なにコッコロに因縁つけてんだ」

「何よ。あの流れではそう思っても不思議じゃないでしょ。まあ、コロ助がそういう事言うタイプじゃないのは知ってるけど」

 

 頬杖を付きながらキャルがぼやく。冬で仕事もなく飲んだくれている冒険者からプリンを貰いご満悦のミヤコを見て、もういいやと諦めたように視線を戻した。

 ミヤコ、とダクネスが彼女を呼ぶ。すいーっとダクネスのいるテーブルに戻ると、運ばれてきたプリンを美味しそうに食べ始めた。

 

「ところでミヤコ。ここのところよくどこかに出掛けているが、何をしているんだ?」

「ん? ちょっと野暮用なの」

「怪しい。ダクネス、こいつ絶対碌なこと企んでないよ! そもそもこいつらみたいな悪霊は、薄暗くてジメジメしたところが大好きな、言ってみればナメクジ以下の存在なんだから」

「こいつホントに言いたい放題言うやつなの」

「クリス、流石にそれはちょっと」

「何でダクネスはそっちの肩持つの!? このクソアンデッド! ただでさえムカつくのに、声がちょっと先輩に似てるせいで二倍ムカつく!」

 

 うがぁ、と拳を突き上げ吠えるクリスを横目で見ながら、ミヤコは面倒そうに溜息を吐く。このままだと延々とうるさいことを言ってくるのは想像に難くないので、仕方ないとばかりにダクネスを見た。

 

「そこのはミヤコの話なんか聞かないだろうから、ダクネスに言うの」

「ん? 何をだ?」

「ここのとこミヤコが何をしてるか、なの。プリンも食べたし、いい加減ミヤコのお昼寝場所を奪ったあいつらをどうにかしてやろうと思ってたの」

「昼寝場所……? 確か街外れの廃城だったな、そこを乗っ取った連中を追い出すために最近出掛けていたのか」

「そういうことなの。あいつらゾロゾロゾロゾロ鬱陶しいから、とりあえず《プリン大好き》とかいうのにして回ってやったの」

「そうか。まあ、あまり迷惑は掛けるなよ」

 

 自分の住処を取り戻そうとしているのだろうが、相手が何なのか分からない以上ダクネスとしてもそのくらいしか言うことがない。頑張れはちょっと違う気がしたのだ。

 

「そこら辺は大丈夫なの~。あいつらアンデッドだから、もう死んでるの」

「成程な。……ん?」

 

 はて、とダクネスは首を傾げる。そんな廃城に大量のアンデッドが湧いたのならば、ギルドの方でも何かしら話題になっているはずだ。だというのに、そんな情報は入ってきていない。

 入ってきているのは、前回までの幽霊と、そして。

 

「っ!?」

 

 酒場に、否、街中にアナウンスが響き渡った。その声は緊迫しており、キャベツの時のような緩い緊急とは違うことを感じさせる。いうなれば、この間のデストロイヤー襲来時と同じ。

 酒場の冒険者もそのアナウンスがただごとではないのを察し、ギルド職員に促されるまま、装備を整え正門へと向かう。ダクネス達も勿論そうであるし、カズマ達もペコリーヌと合流して同じように現場へと駆けていく。

 そうして、集まった冒険者はそこにいる存在を見て動きを止めた。圧倒的な威圧感を放つそれは、漆黒の鎧を纏った首なし騎士。己が首を左手に抱え、フルフェイスの兜から鋭い眼光だけが見え隠れしている。

 

「お、おい。あれって、デュラハンか?」

「見りゃ分かんでしょ……!? ちょっと、ヤバいんじゃない!?」

「はい。あの方の放つオーラは、普通のモンスターとは桁が違います」

「……やばいですね」

 

 思わずカズマ達も息を呑む。何故そんな強力な存在がこんな駆け出しの街にやってきたのか。その理由は全く分からないが、ともあれデュラハンは大勢の冒険者が見詰める中、自身の首を掲げゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「俺はつい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部のものだ」

 

 その言葉に冒険者達がざわめく。そういえばそんな噂があったな、と周囲の連中と情報共有をする。冬場なこともあり、クエストを受ける必要もないため、討伐隊が編成されるまで仕事をしないなど当たり前過ぎてすっかり頭から抜け落ちていたのだ。

 それを確認すると、では今度は何故こんな場所に、という疑問が湧く。

 

「デストロイヤーを倒したという噂の街の冒険者を調べるために来たが、そこまで大した成果もなく切り上げようと思っていたのだ。……が」

 

 静かにそう述べたデュラハンは、しかしそこで言葉を止めると首が小刻みに震え始めた。まるで怒りを抑えているような、否、抑えきれない怒りが溢れていた。

 

「この一週間で! 部下をプリン狂いの呪いに掛けやがったのはどこのどいつだぁぁぁぁ!」

「ほらダクネス! 碌なことしなかったじゃん!」

「いや、それは……」

 

 結果論ではある。が、流石にこの場で反論は出来ず、ダクネスはバツの悪そうに視線を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 プリン、のワードで犯人はモロバレであったので、視線が一斉にダクネス達へと向く。それを承知なのか、ダクネスの肩にくっついていたミヤコがふよふよとデュラハンの前へと移動していった。

 え、とデュラハンが素に戻る。自身の城に嫌がらせをしてきた相手を見付けるべくやってきた彼の前には、おそらくその犯人であろう少女が浮いているのだ。浮いているのだ。立っているのではないのだ。

 

「えっ」

「なんなの? ミヤコに文句があるの?」

「いや文句があるからここまで来たんだが……待て。お前は幽霊だろ、アンデッドだろ?」

「だからなんなの?」

「な、何故俺に嫌がらせをした!? アンデッドは人に仇なす存在だろうに、冒険者の味方をするとは一体」

「オマエがミヤコの昼寝場所奪ったからなの」

「……えっ?」

 

 ちょっと何言ってるか分からない。そんな状態になったデュラハンは、すっかり先程の威圧感を捨て去り困惑の真っ只中にいた。ちょっと待て、と手で制すると、何かを考え込むように暫し唸った。

 

「じゃあ、何だ? お前は、俺があの城にやってきたから、あんなことを?」

「それ以外に何があるの」

「い、いや、冒険者が、魔王軍の幹部であるこちらに嫌がらせをしているんじゃないか、と」

「そんなわけないの。大体、魔王軍の幹部のことなんか今オマエの話で初めて知ったの」

「……そ、そうか」

 

 凹んだ。自分の中では魔王軍の幹部として、街でも噂になるような存在だと思っていたのだ。が、実態はこれである。自意識過剰も甚だしい。

 

「い、いやデュラハンよ。一応魔王軍幹部の話はちゃんと冒険者には伝わっていたぞ。彼女は冒険者ではないからな、そういう情報に疎いんだ」

「そ、そうか? それならいいんだ――」

「え? ダクネス、ミヤコにそんな話一回もしなかったの」

「……ほらねぇ」

 

 そっと首を傍らの馬に乗せる。ポンポンと馬を撫でながら、どこか哀愁漂う背中を見せたデュラハンは、もういいと小さく呟いた。

 その言葉を聞いて、冒険者達は身構える。これはひょっとしてそういう展開なのではと勘繰ったのだ。すなわち、怒りに任せて襲いかかってくるパターンだ。

 

「帰る。……城、返せばもう嫌がらせしない?」

「何かキャラ変わってないか?」

「そうね。ショックだったんでしょ」

 

 あ、違うやつだ。そう判断した皆が緊張を解いた。カズマとキャルもそんなことを言いながら後は見送るだけだろうと能天気に眺めている。ミヤコも、まあそれならそれで、と軽い調子で流していた。

 そんな空気の中、人混みを掻き分けて数人の男女がやってくる。追い返そうと思ったが、別にその必要もなさそうだ。そんなことを言いながら、その面々は帰り支度をするデュラハンを眺め。

 

「ん? ――んんんん!?」

 

 振り向いたデュラハンは、その面々を見て動きを止めた。彼の目の前にいるのは、アクセルでも有名な集団二組。片方は大貴族の娘がトップを務める財団のぶっ飛んでいる担当、そしてもう片方は街外れの研究所の所員で存在がぶっ飛んでいる連中だ。

 

「フハハハハハ。汝の先程のやり取り、人の悪感情には及ばんが中々美味であったぞ」

「ちょ、ちょっとバニルさん……あまり刺激しちゃ駄目ですって」

「別に気にしなくてもいいでしょ。ああ見えてそこまで非道なことはしないし」

 

 魔道具店店員、バニル。魔道具店雇われ店長、ウィズ。研究所所員、ちょむすけ。デュラハンがその視界に入れて目を見開いたのは、その三人。

 

「あら、お三方。あの魔王軍幹部はお知り合いですの?」

「ちょむすけ。あのデュラハンは研究材料に出来ませんか?」

「あれが師匠の言っていたセクハラデュラハンですか……」

 

 残りの頭おかしい連中の発言が頭から飛んでしまうほどの、魔王軍幹部が絶句する衝撃を受けたのが、その三人だ。

 

 

 

 

 

 

 かつて、魔王軍の幹部は八人であった。魔王城の結界を維持するための、強力な力を持った存在、それが幹部であった。魔王が集めたその精鋭は、たとえ勇者候補ですら倒すことは難しい、そんな相手であった。

 現在の魔王軍幹部はかつての勢いが見る影もない。邪神ウォルバクはとある事件を機に消滅、リッチーは結界維持のお飾りのため魔王城から何処へと消え行方不明、ダークプリーストは最近何故か弱体化した。そして仮面の悪魔がついこの間倒されてしまった。

 そんな状況のため、デュラハンはなんとか立て直そうと残っている幹部と補充要員を選んだり担当範囲を広げたりしていたのだが。

 

「な、なななななななっ!?」

 

 目の前にいなくなったはずの幹部が勢揃いしていた。しかも見る限り生活は充実していそうである。

 

「お、お前ら、何で……!?」

「何を言っているか分からんな、最近セクハラ出来る部下がおらずフラストレーションが溜まっているデュラハンよ。我輩はしがない魔道具店店員である」

「嘘つけ! どう見てもバニルだろうが!」

「我が名はちょむすけ! 才能溢れる紅魔族の師にして、爆裂魔法を後世に継承させしもの!」

「え? ウォルバク、なにやってんの……?」

 

 混乱の極みにあるデュラハンは、ひょっとして本当にこいつら自分の知っている魔王軍幹部じゃないのではと思い始めた。バニルはともかく、他は何か違う。こちらに話しかけることこそしていないが、あのウィズ似の女性も貧乏臭がせず、商才が死んでいるオーラも溢れていないのだ。

 成程、とデュラハンは頷いた。アクセルの冒険者と十把一絡げで考えていたが、どうやらあの連中がデストロイヤー破壊の鍵となった者なのだろう。かつての同僚と見間違ったのは、それだけの実力を持っていたからに違いあるまい。

 

「ふ、危うく騙されるところだった」

「おい何かあのデュラハン一人納得し始めたぞ」

「やばいですね」

 

 カズマ達の呟きなど当然聞いちゃいない。先程のしょんぼりした態度はどこ吹く風、再度頭を左手に持つと、その兜の奥の目を光らせた。

 

「ふん。まあいい。今の俺の仕事は調査と報告だ。とはいっても、どうせすぐに追加の任務が来るだろうがな」

 

 はっはっは、と高笑いを上げたデュラハンは、ばさりとマントを翻すと馬に乗る。震えて待っていろ冒険者達よ。そんな言葉で締めながら、彼は馬を駆り自身の住んでいる城へと歩みを進め。

 

「ちょっと待ったなの! オマエお城から出ていくんじゃなかったの!?」

「やかましい。そもそもお前が余計なことをしなければ俺は素直に帰ってたわ! ……そうだ、何故俺がお前みたいなしょうもない幽霊にビクビクしないといかんのだ」

 

 取り戻した調子はデュラハンの勢いも増したらしい。先程までとは違い、ミヤコをギロリと威圧するように睨み付ける。

 それがどうした、とミヤコは袖の余った腕をデュラハンに向かって突き付けた。

 

「ミヤコが下手に出てやったら調子に乗りやがってなの」

「おい待て。お前会話の最初から今まで微塵も下手に出てないだろ」

「問答無用なの! オマエはここでぶっ倒すの!」

 

 言い切った。他の冒険者達が見ている中で、ミヤコはそう宣言した。いや無理だろ、という大半のツッコミを無視して、彼女はズビシと指を突き付けた、袖で見えないが。

 ふ、とそんなミヤコを見て笑みを浮かべる者が一人。ダクネスの隣で静かに立っていたクリスが、ミヤコの横に立ち並んだ。

 

「よく言ったよ悪霊。アンデッドは滅ぼすべきだけど、今この瞬間だけは、あたしはキミの意見に同意してあげる」

「ふふん、そうなのそうなの。ミヤコをもっと褒めるの」

「そういうとこほんと先輩に似てるわ……」

 

 苦笑しながらクリスは武器を構える。ミヤコもどこからか取り出した巨大なスプーンを無駄にブンブンと振り回していた。

 そうなってしまうと、アクセルの冒険者も見ているだけというわけにもいかない。でも戦うのはどうかなぁ、と少しずつ下がっていく。そして反対に、それならば仕方ないとばかりに前に出る者達も、当然いる。

 

「主さま。どうなさいますか?」

「どうするもなにも。これ放っといたらあいつら倒されて次は俺達の番だろ? 逃げる暇もないし」

「……やっぱ、そうなるわよね」

「戦うのが早いか遅いかです。やりましょう」

 

 そしてそんな頭おかしい連中に混じるように、カズマ達もそれぞれ武器を構え、立つ。ミヤコとクリス、そしてダクネスと対峙するデュラハンを真っ直ぐに睨んだ。

 やぶ蛇だったなぁ、と杖を構えるちょむすけに対し、ウィズとバニルは前線に出ない。そこはまあ仕方ないかと苦笑しつつ、サポートくらいはしなさいよと彼女は述べた。

 

「ま、まあ、ミヤコさんは冒険者じゃないから、冒険者以外に手を出したってことで、ギリギリセーフ、ですよね?」

「汝も中々底意地が悪くなったな。まあ正直我輩の手助けがいるのか分からんが、オーナーもやる気なようだからな」

 

 かくして、一見駆け出し冒険者と戦う魔王軍幹部という絶望的な対決の火蓋が切られた。

 実際の内訳は、デュラハンのためにも語らないでおく。

 




ベルディアVSカズマ達とメ団(ウィズ・バニル込)とネネカ様達とBB団とミヤコ達アンドモア

数の暴力!

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