プリすば!   作:負け狐

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クランバトル


その39

「ふん。威勢のいいことを言っていた割には大半の冒険者は下がっていったではないか」

 

 デュラハンは下がった者と前に出た者を見比べ笑う。そうしながらも、つまりここにいるのがデストロイヤーの実質討伐者なのだろうと当たりをつけた。

 

「つまりは、ここにいる奴ら以外は有象無象というわけか」

「失礼なことを言わないでくださる? (わたくし)の大事な仲間は、あなた方が街の住人に被害を加えようとした時に備えて護衛を頼んでいますわ」

「そ、そうか……」

 

 アキノがそんなことを胸を張りながらのたまっていたが、デュラハンとしてはそんなところまで考えなくてもと若干申し訳なくなっていた。何故なら、部下の九割は本能がプリンに支配されたプリンの屍と化してしまったため、今この場には待機させている少数のアンデッドナイトしかいない。というよりそれが全戦力だ。正直街の住人に被害を与えられるかどうかも怪しい。

 

「ま、まあいい。どのみちこの場にいる冒険者を皆殺しにすればそれで事足りる」

「そんなことをさせるわけが!」

 

 クリスが飛び出す。持っていた短剣で斬りかかったが、デュラハンはそれを容易く避けるとどこからか取り出した大剣を振り上げ彼女の首へと振り抜く。

 ぐい、とクリスが何かに引っ張られ、デュラハンの斬撃は空を切った。もんどりうって転がった彼女の視線の先には、呆れたような目で見ているミヤコの姿が。

 

「もうちょっとでオマエもミヤコの仲間入りだったの。ほれ、感謝しろなの」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ。助かったのは事実だから何も言い返せない……」

 

 ちくしょう、と地面を殴り付けているクリスを若干引いた目で見ながら、デュラハンは手にしていた首をぐるりと周囲を見渡すかのように動かす。

 魔法使い達は呪文を放てるよう準備をしながらこちらの様子をうかがい、エルフの弓使いもそれに習うようにこちらを見ている。神官であろうエルフの少女が支援しているその横、そこに立っている何だか分からない男は、構えはしているが何かを行おうという気配がない。そしてバニルは笑みを浮かべながら立っているのみ。残りの二人、ウィズとウォルバクに似た何者か(デュラハン基準)は、サポートを行おうとしている様子であった。

 正直統一感があまりない。集団をまとめる役が足りていないような気がしたのだ。

 

「それならばそれでいい。さて」

「何を考えているのか知りませんが」

 

 ん、とデュラハンは首を向ける。どこからか生み出したのか、半透明の椅子に座っているネネカが、彼をじっと見詰めながら小さく笑みを浮かべていた。そこまでを述べた彼女は、視線をデュラハンからカズマに移す。

 

「ちゃんと、まとめ役はいますよ」

「ちょっと待て。今俺に押し付けただろ! こんな頭おかしい集団のまとめ役とか絶対やらねーからな!」

「心配せずとも。細かい指示など求めてはいません。貴方なりの答えを出してくれれば、それでいいのですよ」

「それが出来ねぇって話で、ああもう!」

 

 頭を抱えるカズマをコッコロが心配そうに見ていたが、そんな彼女へ横にいるペコリーヌが笑みを向けた。大丈夫です、と述べた。その横ではキャルがやれやれと肩を竦めている。

 

「そうは言いつつ、カズマくん、やる気ですよね」

「どうせあんたのことだから、しょうがねぇなぁって言うんでしょ?」

「……ああちくしょう! しょうがねぇなぁぁぁぁぁあ! おいペコリーヌ」

「はい?」

「あいつ倒せるか?」

「無茶振りしてくれますね。……あれを使うのは、この状況だと難しいですよ」

 

 カズマの脳裏に浮かんだのはいつぞやの、デストロイヤーにとどめを刺した彼女の姿。彼のブーストスキルがあれば可能なのではないかと考えたが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。

 が、しかし。まあでも、とペコリーヌが前に出た。腰のポーチから剣を抜き放つと、それを正眼に構え、デュラハンへと足を進める。

 

「やれるだけは、やってみます!」

 

 

 

 

 

 

「お待ちくださいな。(わたくし)も行きますわ」

「貴女様だけに無茶はさせられません」

 

 ペコリーヌの後に続くように、アキノとダクネスが駆ける。先陣を切る形になった三人の女騎士は、そのままデュラハンと対峙した。ほう、とその三人を見て、思わずデュラハンの目が細められる。

 兜で見えない状態だったが、その目は非常にいやらしかった。

 

「中々どうして、立派な騎士がいるではないか。魔王軍幹部であるこの俺と真っ向から勝負しようとはな。よかろう、アンデッドになりはしたが、こちらも騎士として戦ってやる。俺の名はベルディア、そちらの名も聞いておこうか」

「ウィスタリア家が長女、アキノですわ」

「ダクネスだ」

「お腹ペコペコの、ペコリーヌです」

「ちょっと待て」

 

 ベルディアと名乗ったデュラハンは、同じように名乗りを上げた三人を、正確にはペコリーヌを見て待ったをかける。

 

「そこの女騎士二人はいい。特に一人目、貴族の令嬢が騎士をやってるとか凄くいい。が、最後のお前! なんだお腹ペコペコのペコリーヌって、バカにしてんのか?」

「バカになんかしてませんよ。わたしの大事な仲間が付けてくれた、大切なあだ名です」

「あ、そ、そうか。……すまん」

 

 予想以上に真面目に返されたので、ベルディアもちょっと圧された。まあ前半部分はともかく、名前だけを見れば一応ありといえなくもない。ごほん、と気を取り直すように咳払いをすると、ベルディアは再度剣を構え直した。

 

「さあ、ではかかってくるがいい。魔王軍幹部の肩書が伊達ではないことを教えてやろう」

 

 向こうからは攻めてこない。ならば、とペコリーヌが一気に間合いを詰めて剣を振り抜いた。え、とその動きに一瞬呆気にとられたベルディアは、迎撃がほんの僅か遅れてしまう。

 

「むぅ、やっぱりダメですか」

「ぐ、ぅ。な、何だお前は!? 駆け出し冒険者の街にいる人間の動きではないぞ!」

「それは、秘密、です!」

 

 ベルディアの剣をかち上げた。体勢が崩れた相手に向かい、ペコリーヌは追撃を叩き込まんと足を踏み込む。

 即座に手首を返し、防御の姿勢に入った。ベルディアが首を放り投げ、両手持ちにした大剣を振り抜いたのだ。崩れた体勢でも狙いを外さないその一撃を受け止めると、剣と剣がぶつかり合うことでギャリギャリと音が鳴り、火花が飛ぶ。

 

「成程。首を上空に投げることで死角をなくしているのですわね」

 

 そのタイミングでアキノが攻めた。たとえ見えていても、動きを止められているのならば。そう判断した彼女の一撃は、ベルディアがぶつかり合っている剣を引こうと判断した時には既に遅く。

 

「ぐっ、ちぃぃぃ!」

「《ノーブルアサルト》!」

 

 アキノの斬撃に炎が纏われる。思った以上の攻撃に、ベルディアの体が思わずたたらを踏んだ。その隙を逃さず、ペコリーヌが回し蹴りでベルディアを蹴り飛ばす。

 

「白のレースぅ!」

「ダクネスちゃん!」

「今ですわ!」

 

 ペコリーヌもアキノも、ダメ押しだと言わんばかりに彼女の名を呼ぶ。その声に応えるかのように、ダクネスは己の剣を構え一気に駆け抜け、体勢を崩し隙だらけのベルディアへと叩き込むため、振り下ろす。

 

「……」

「……」

 

 盛大な音を立て、ダクネスの一撃は地面を抉った。滞空時間を過ぎたベルディアの頭が、全力で攻撃を外した彼女の目の前に降ってくる。それを受け止めた彼は、どこかバツの悪そうにその首の視界からダクネスを外した。

 振り抜いた格好のまま、ダクネスはプルプルと震えている。いくらドMといえども、周りがノーリアクションでは流石に恥ずかしいらしい。

 

「……もう一回やってもいいですか?」

「いいわけあるかぁ!」

 

 

 

 

 

 

「あなたという人は! ここぞという時に外すなんて……不器用にも程があるでしょう!」

「ぐぅ。昔馴染からの久々の罵倒、こんな時だというのに……私は」

「どうしようもねぇなあのドM」

「あふぅ」

 

 アキノの文句とカズマのダメ出しで少しは満たされたらしいダクネスを回収しながら、ペコリーヌはさてどうしましょうと首を捻る。先程の攻撃は半ば奇襲のようなもの。もう一度やったところで、上手くいく保証はない。となると、取るべきは違う一手だ。

 よし、と間合いを離し、彼女はカズマの下へと戻った。

 

「カズマくーん」

「何だ?」

「次、どうします?」

「……もうバニルに倒してもらうでよくねぇ?」

「先程の奴の言葉の真意が気になってつい腹ペコ娘のスカートに目が行ってしまう小僧よ。我輩はオーナーに雇われている身ではあるが、向こうにも多少の義理はある。手助けはするが、我輩は主体にはならんぞ」

「私もそれでお願いします」

 

 ついでとばかりにウィズも続く。それでも手助けはしてくれるという部分は確定したので、多少は安心するべきなのだろうが、しかし。

 ちょむすけを見た。クスリと笑った彼女は、まあ少しはとカズマに返した。

 

「こうなった理由の一端は私だからそのくらいはね。でも、出来れば私も主体にはなりたくないわ。女神が積極的に魔王軍に喧嘩を売るなんてちょっとアレだもの」

「ぐふぅ……!」

「いきなり何悶えてるの?」

 

 ガクリと膝をつくクリスを眺めていたミヤコが首を傾げる。そんな光景を見つつ、カズマはならばと視線を魔法使い組に向けた。

 油断しているのか、余裕の表れか。ベルディアはこちらに積極的に攻撃を行ってきてはいない。ならばその隙を突く。

 

「つっても、盾役がいないとやっぱり厳しいか」

「そ、そういうことでしたら。遠慮なくクウカを」

「うおっ!?」

 

 いつの間に湧いて出た。そんなツッコミを入れたカズマを見ながら、クウカがふひひとだらしない顔で笑みを浮かべる。後方の護衛組になっていたものの、ダストから邪魔だからあっち行ってろと追い出されてこちらにやってきたらしい。が、ベルディアに集中していて誰も気付いてくれず、それがまた彼女の被虐心を満たし今まで悶えていたのだとか。

 

「あの野郎、こっちに押し付けんな! どうせならユカリさんとかよこせよ!」

「こちらでも、むこうでも、クウカは要らない奴扱い……。ああ、せめて肉壁にでもなれと拘束されたクウカはあのデュラハンの目の前に投げ捨てられ、嬲られるのですね。そしてその隙に魔法でクウカごと……じゅるり」

「ダクネス、ダクネース! ちょっとお前こいつとあのベルディアとかいうやつの前行って来い!」

「え? ああいや、望むところではあるが」

 

 てっきりクウカに任せると思っていた。そんなことを言いながらダクネスは再び前に出る。ほれ行け、とクウカを押し出すと、分かりましたと恍惚な笑みを浮かべながら彼女の隣へと躍り出た。

 

「作戦はもう少し小声でするべきだったな。盾役だと? 小賢しい、この魔王軍幹部たる俺の攻撃を受けきれるとでも」

 

 首を抱えたまま剣を振るう。ダクネスはそれを剣と鎧、そして己の肉体を駆使して受け止める体勢に入った。一方のクウカは普通にぶった斬られている。

 ふん、とベルディアは鼻を鳴らした。まともにこちらの攻撃を叩き込んだのだ。駆け出しの街にいる冒険者などひとたまりもない。そう確信を持って視線を二人から外し。

 

「ぐぅ……流石は魔王軍幹部。まさかこんな場所で鎧を少しずつ削り取る高度なプレイを行うとは……」

「はふぅ、何という一撃、クウカの全身にビリリと走るこの衝撃。ああ、このままなすすべもなく一方的に斬られ続けたら、クウカは、クウカはぁ!」

「えぇ……」

 

 その声を聞いて即座に視線を戻した後、戻すんじゃなかったと後悔しながらドン引きした。何なのこいつら、何で無事なの。そして何で悦んでるの。ベルディアの脳内でそんな疑問がぐるぐると周り、そして答えの出ないループに陥ってしまう。あまりにもあまりにもの光景で、彼はそこで動きを止めてしまった。

 

「今だBB団!」

「は、はぃぃ! 植物の力よ!」

「ぬぅ!?」

 

 アオイのスキルによりベルディアの足に太く頑丈な蔦が絡みつく。常人ならば身動きの取れないそれは、しかし魔王軍幹部にとっては少し邪魔な程度。デストロイヤー戦で使ったブーストアイテムもないため、足止め出来たのはほんの僅かだ。

 だが、それで十分。もとより動きが止まっていたのだから、それを少し伸ばす程度でも事足りる。

 

「フルパワーの、《カースド・ライトニング》!」

 

 ゆんゆんの呪文がそれに続く。己の魔力の大半を注ぎ込んだ黒い稲妻は、寸分たがわずターゲットへとぶち当たった。防御が間に合わず、ベルディアはそれをモロに食らってしまう。

 

「これが、BB団コンビネーションです!」

「そ、そうよね!? これちゃんとコンビネーションよね?」

「そ! そ、そそそうですよ!? え? 違いました!?」

「落ち着け。ちゃんとコンビネーションだったから」

 

 何で撃ってからテンパるんだよ。あたふたしだすアオイとゆんゆんを一瞥し、よし次、と視線を動かす。同時に、ショートソードを構え二人へとそれを向けた。

 

「ふふふふ。カズマ、分かっているではないですか。ここぞという時に、我が爆裂魔法は輝くのですから! さあキャル、準備はいいですか?」

「カズマからのブーストも貰ったし、いつでもいけるわ。そっちこそ、遅れるんじゃないわよ」

「ふ、誰にものを言っているのですか。我が名はめぐみん! 爆裂魔法の伝承者! そんじょそこらの魔法に負けるようなやわな呪文など撃つはずもなし!」

「言ったわね……。だったら、見なさい!」

 

 めぐみんとキャル。二人の背後に巨大な魔法陣が浮かび上がる。片方は爆裂魔法独特のそれで、もう片方はブーストされたことによって巨大化した固有上級魔法。

 黒い雷撃を打ち込まれ、しかしそれほどのダメージを負っていないのか、ベルディアは煙を上げつつもさせてなるものかと二人へと剣を向け、そしてその兜の奥の瞳を光らせる。

 

「そうはいかん!」

「ね、狙うならクウカを!」

 

 そこへ割り込むドM二人。間違いなくこの状況ではあの魔法に巻き込まれるのだが、どうやらダクネスもクウカも問題ないらしい。命を捨てるかのようなその行為に、既に死んだ身だとしても戦慄が走る。

 

「ぐう……邪魔だお前ら!」

 

 半ば無理矢理引き剥がすように二人を押しのけ、呪文が完成する直前の二人へと指を突き付けた。

 

「そしてお前らぁ、一週間後にぃ、死にさらせぇぇぇ」

 

 《死の宣告》、デュラハンの持っているスキルの一つで、呪いを受けたものはその宣言の通りに死に至る。魔法での解呪は困難を極め、術者が解くか術者を倒すかしなければまず助からない。

 そんなものを食らえば、当然動揺し動きを止めてしまう。そのはずだ。

 

「む、無反応だと!? おいお前ら、呪ったんだぞ! 一週間後に死ぬんだぞ!」

「何言ってるんですか」

「あんた、ばっかじゃないの」

 

 呪文の詠唱を終えた二人が、呪われた二人がベルディアを見ながら笑みを浮かべる。お前は大事なことを忘れていると口角を上げる。

 

「今から倒すんですから、何の問題もありませんよ」

「あんたぶっ殺せば呪い消えるんでしょ? 問題ないじゃない」

「……え? なにこいつら、頭おかしい……」

 

 なんで最初からその思考で行動できるのか。一瞬たりとも動揺しないのはどういうわけなのか。先程のドM二人とはまた別の疑問で、ベルディアは思わず後ずさりする。

 めぐみんも、キャルも、普段の生活が生活だ。もういい加減、呪われる程度では動じない。というより、ついこないだまで呪われていたので慣れた、が正しい。

 

「現出せよ!」

「消え去れ!」

 

 魔法陣が一際輝きを増す。紅い魔法陣と、紫の魔法陣。それらが展開し、目の前のデュラハンを薙ぎ倒すべく、その力を解き放つ。

 

「《エクス――」

「《アビス――」

 

 は、と我に返った。ベルディアはその魔法から逃れようと足に力を込め。

 そこに、拘束されるような輪がはめられていることに気が付いた。

 

「これはっ……!?」

「駄目よベルディア。私の弟子の爆裂魔法、ちゃんと受けてもらわないと」

「ウォルバクぅぅぅぅ! やはりお前、本物の――」

「――プロージョン》!」

「――バースト》ぉ!」

 

 ベルディアの声は最後まで聞こえない。二つの呪文が起こした大爆発によりかき消されたのだ。その爆煙は、アクセルの街で避難していた住人ですら見えるほどで。

 

「くふぅ……流石だ、この威力、ズシンと来た……」

「あぁ……最高ですぅ……クウカ、もう」

 

 爆風で吹っ飛んできたダクネスとクウカは、恍惚絶頂で悶えていたとかなんとか。

 




やったか!?(フラグ)

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