アクセル、領主の館。そこの寝室の隠し扉から繋がっている地下室に、不愉快さを隠そうともしないアルダープがズカズカと入り込んできた。カビ臭いその空間には、人影が一つ。
ヒューヒューと喘息のような音が途切れ途切れに彼の耳に届き、その不快さで更に顔を歪ませた。そのまま人影へと近付くと、躊躇うこと無くそれを蹴り飛ばす。
「マクス! 起きろマクス!」
ゴロリと転がったマクスと呼ばれた人影は、蹴り飛ばされたことなどまるで動じず、ゆっくりと起き上がるとアルダープへと視線を向けた。見た目は非常に整った青年の姿をした人影は、感情を見せないかのような無表情の瞳が彼を視界に捉えると、その口元だけを歪める。
「やあ、アルダープ。僕に何か用なのかい?」
「用なのか、ではない! 貴様、一体何をした!」
マクスの言葉に更に激高したアルダープは、そのまま彼を蹴り飛ばした。ゲシゲシと足蹴にされたマクスは痛いよと呟くが、アルダープはその動きを止めることはない。
「ヒュー、ヒュー。どうしたんだいアルダープ。今日は随分と悪感情を出しているね」
「貴様が! 貴様のせいだ! 何をどう辻褄合わせした!?」
「ん? 何がだい?」
「ララティーナだ! ワシが貴様に願ったのはララティーナを自分の物にすること! そのために必要なものは全て内包させる契約だったはずだ!」
「そうだったかな? まあいいや。それがどうしたのかい?」
とぼけるような物言いに、アルダープは歯茎をむき出しにしながら蹴りつける。手加減など何も考えず、全力でマクスを蹴り続けた。
暫しそれを続け、ゼーハーと肩で息をしたアルダープは、それでも変わらずマクスを睨み続けながら言葉を紡いだ。
「フラフラと世界を出歩く間抜けな第一王女を傷付け、その責をダスティネス家に負わせることで権力を削ぎ、ララティーナをこちらに差し出すよう仕向けるために! そのためにお前の力で辻褄を合わせたのではなかったのか!?」
「ああ、ああ、そうだったね。言われたことは、やったよ」
「どこがだ! あろうことか、王女暗殺の実行犯にララティーナがなってしまったのだぞ! このままではララティーナが、ワシのララティーナが処刑されてしまう!」
「ヒュー、ヒュー。凄い、凄い絶望の感情だよアルダープ。凄くいい」
「うるさい!」
再度蹴り飛ばす。ゴロゴロと床を転がったマクスは、しかし何事もなかったかのように立ち上がった。表情は変わらず、歪んだ口元だけが不自然さを醸し出していた。
「とにかく。まずはララティーナが実行犯であるという事実を打ち消せ。適当な貴族に……モーガン家の狂犬にでもそれを擦り付けろ。ふ、はは、あの女が実行犯になり狼狽える姿を見るのが楽しみだ」
命令しながら、自身の思うように変わる未来を幻視し口角を上げる。そんなアルダープの耳に届いたのは、マクスの分かったという返事ではなかった。
それが信じられなかったのだろう。アルダープは、笑いを止めるとマクスに問い掛けた。今お前は何と言った、と。
「アルダープ。それは無理だよアルダープ。僕にはそこまでの捻じ曲げは出来ない」
「……無理? 無理だと? お前が下級悪魔だということは知っている。この神器でランダムに選ばれた能無しだということも分かっている」
ポケットから丸い石を取り出す。何やら紋様のついているそれは、勇者候補の何者かが持っていたという神器の一つだ。所有者でない者が使えば制約がかかるが、それでもモンスターを召喚することは変わらず可能。そしてそれによって喚び出された悪魔が、彼の目の前にいるマクス。
「だが、そんなことは関係ない。いいからやれ! あの連中の認識を捻じ曲げるのだ! ララティーナがワシのものになり、あのモーガン家の狂犬が破滅するように、辻褄を合わせろ!」
「無理だよ。ヒュー、僕の力を気にしないやつと、通用しないやつがそこにいる。だから無理」
「こ、の……っ!」
再度激高したアルダープは、マクスを力一杯蹴り飛ばした。床に転がる彼を何度も何度も踏み付けると、この役立たずめと吐き捨てるように述べた。
「もういい。貴様との契約を解除して、他の力ある悪魔を召喚してやる」
「契約解除? ならば、願いの代価をもらわなくちゃ」
「願いなど何一つ叶えられていないではないか! 代価が欲しければワシの願いを叶えてから言え!」
マクスの腹を蹴り飛ばす。大きく息を吐くと、今言ったことを実行するため彼との契約を。
ん、と彼の懐にあるベルが鳴る。この地下室にいる際にも屋敷の様子がわかるようもっていたそれが、反応していた。訪問者、あるいは侵入者。そういった存在が来たのだと認識したアルダープは、舌打ちを一つすると踵を返し地下室の扉へと歩みを進めた。
「アルダープ、アルダープ。契約は、どうする?」
「黙っていろ。すぐに戻ってくる。その時になったら契約破棄だ。願いを叶えられぬ能無しめ」
「ヒュー、ヒュー」
ふん、と鼻を鳴らすとアルダープは扉に手をかけ。
「以上、ミヤコの突撃レポートでしたなの」
「――は?」
彼の後ろを、ふよふよと一人の少女が漂っているのに気が付いた。
「き、貴様!? 何者だ! いつからそこに!?」
「ミヤコはミヤコなの。いつからもなにも、最初からず~っといたの」
足元が半透明の少女はそう言って無い胸を張る。そうしながら、ブカブカの袖に覆われた手に持っているそれをアルダープへと見せ付けるように掲げた。
「でもって、これがマイクなの。オマエ達の会話を、アクセル中に放送するためのやつなの」
「――え?」
アルダープが動きを止めた。目の前のこいつが言った言葉が真実ならば、最初からずっと、自分達の会話はアクセルに流されていたわけで。
そう。自分が、一人の女を手に入れるためだけに王女に危害を加え、その罪を他人になすりつけようとしていたことも、全部。
「マクス! こいつを殺せ! その後は今の会話を全て無かったことにしろ!」
「ヒュー、ヒュー。アルダープ、無理だよ。この子、もう死んでるもの」
「だったら! さっきまでの会話を無かったことにするだけでいい!」
「対象が多過ぎて邪魔が入り過ぎてる、捻じ曲げられないよ」
「ふざけるなぁぁ!」
マクスへと駆け寄ると何度も蹴りつける。そうしたところで何も変わらないとしても、何度も何度も蹴りつけた。いつの間にか先程の幽霊はいなくなっており、奇妙な仮面が一枚落ちているのみだ。
すぐさま扉へと向かう。地下室を飛び出すと、寝室からエントランスへと駆けていく。そこまで進むと、執事がやってきた者達の対応を行っているところであった。
「お前達は……!?」
忘れるはずもない。ほんの少し前まで、法廷で顔を合わせていた連中だ。数人見覚えのない顔もあったが、そんなことを気にしている暇もない。
訪問者の一人が前に出た。先程まで真犯人だと言われ狼狽えていたはずの、自分がそれを覆し手に入れる予定であった女が、こちらを真っ直ぐに睨んでいた。
「アルダープ殿。私達の訪問理由は分かっているな」
「な、何のことですかな?」
「とぼけても無駄だ。お前の悪事は、悪魔とのやり取りは、この街のほぼ全ての者達が聞いた」
ダクネスは静かにそう告げる。アルダープが視線を動かすと、屋敷の者も揃って彼から目を背けた。
「言うなれば、街の住民全てが証人だ。お前がどう言い繕おうと、どうすることも出来ん。……お前の契約している悪魔も、似たようなことを言っただろう?」
「……っ」
よろけるように一歩下がる。それに合わせるように、訪問者達は一歩前に、アルダープを追い詰めるように踏み出した。
侵入者だ、とアルダープは口泡を飛ばす。目の前の狼藉者を引っ捕らえろ。逃げるように、縋るように。そんな命令を部下達に出すと、自身はすぐさまその場から離脱を始めた。
「あ、あの野郎逃げる気だぞ」
カズマがそんなことを口にしたが、何か理由でもあるのか、それとも認識を捻じ曲げられたからなのか。アルダープの部下達である兵士は、一行を捕らえんと次から次へとやってくる。無視して追いかけるのは、流石に無理だ。
「クリスティーナ!」
「まったく。ボス、ワタシがあの時楽しんでいなければ即座に反逆していたところだぞ」
肩を竦めながら手にしていた剣を振るう。粗雑な作りのそれを一振り、それだけで周囲の連中が吹き飛んだ。倒れた状態で呻いているので死んではいないらしい。
そうして出来た道を、ペコリーヌは駆ける。アルダープを追いかけるために、彼女はその足を踏み出す。ダクネスがそこに続き、そんな二人に追従するように、目の据わったコッコロも足を踏み出した。
「コッコロ!」
「ご安心を、主さま。わたくしがあれをぶっ殺してまいります」
「微塵も安心できねーよ! しょうがねぇなぁ! 俺も行く!」
面倒な部分は回避したかったカズマであったが、このコッコロを放っておくことなど出来はしない。ちらりとキャルを見ると、行け行け、と手をひらひらさせているのが見えた。今回自身は深追いが出来ない、そう判断したのだろう。
「ペコリーヌ! 任せたわよ!」
「了解ですキャルちゃん!」
首だけを後ろに向け、笑顔で返す。そうした後、足に力を込め一気に人の壁を駆け抜けていった。
そうして露払いになったのはキャルとユカリにウィズ、そしてアキノとクリスティーナだ。正直一人で大丈夫そうだと視線がその中の一人に集まる。
「なんだアキノちゃん。オマエもノリノリだっただろう?」
「
「え? アキノさんも大概だったでしょ?」
「オーナー、嬉々として証拠捏造してましたもんね」
ユカリとウィズの追い打ちを食らい、アキノがぐぬぬと顔を顰める。人が警察署にいた間に、相当やらかしてたんだなこいつら、とキャルはそんな四人をジト目で見た。
「……まあ、でも。あたし達を助けるためだものね」
恩を受けたのだ。きちんと返さねば。杖を構え、ペコリーヌ達を追いかけようとしているアルダープの部下達を遮るように、彼女は一人真面目に立ち塞がる。
「さ、お喋りはここまでですわ。キャルさんもやる気のようですし」
「ええ、そうね。せっかくだし」
「私は、そこまでですけど……」
パンパンと手を叩きながらアキノが同じように立つ。そしてその横に割とノリノリのユカリ、苦笑しているウィズと続き。
明らかに自分の得物ではない粗雑な剣をゆらゆらと揺らすクリスティーナがその四人の前に立った。面白さは本命に遠く及ばないが、まあいい。そんなことを言いながら、彼女は剣を振り上げて。
「では、行くぞ。宴の始まりだ!」
「ハァ、ハァ、ハァ……!」
何故だ、どうしてこうなった。アルダープはその太った体に無理をさせながら、全力で走る。寝室の奥にある隠し扉を開け、地下室へと、かび臭く暗い安堵とは無縁であったその空間へと転がり込んだ。
息も絶え絶えで、彼は視線を巡らせ先程と変わらない場所にいるマクスで固定させる。無様とも言える動きでそこへと近付くと、アルダープはそこにいる彼の名前を呼んだ。
「マクス! ハァ、マクス……!」
「ヒュー。ヒュー。ああ、おかえりアルダープ」
「マクス! こちらにやってくる冒険者共を――」
言葉は最後まで言えなかった。ばぁん、と盛大な音を立て、閉めたはずの地下室の扉が開いたからだ。ビクリと肩を震わせたアルダープは、ゆっくりと後ろを振り返る。
四人の男女が、こちらへと歩いてくるところであった。その内の一人はララティーナ、彼がその身体を欲望のままに求めていた相手だ。
「ここまでですね、アルダープ」
先頭を歩く少女が述べる。何故ララティーナではなく彼女がそんなことを言うのか、アルダープは理解できない。たかが一冒険者が貴族の令嬢を率いるとはどういう了見なのか。
「き、貴様……! 何の権限があってそんな態度を……!?」
「権限、ですか……」
アルダープのそれに、少女は、ペコリーヌは目を細める。そうですね。そんなことを呟きながら、口角を上げ彼へとゆっくり近付いた。
後ろの二人には聞こえないように。そんなことを気にしながら、彼女はアルダープへと言葉を紡ぐ。アクセルの領主という立場なのに、と前置きをする。
「わたしの顔を、見忘れましたか?」
「は……!? ――あ。あ、ああ……!」
その言葉に、アルダープは気にもしていなかったペコリーヌの顔を眺め、そして目を見開きカタカタと震え始めた。貴族としての家柄はダスティネスやウィスタリアに及ばずとも、彼は領主。王族と接する機会も、一度や二度ではない。
だから、彼は知っている。目の前の彼女が、一体何者なのかを。アルダープは、よく知っている。
「ゆ、ユー」
「口にしなくてもいいです。どうせ、フラフラと世界を出歩く間抜けですしね」
ひぃ、とアルダープが悲鳴を上げた。そうだ、アクセルの街中に先程の言葉が流れているのだ。目の前の人物も当然それを聞いている。そしてそれをなかったことにしようとして、失敗した。マクスが役に立たなかった。
ララティーナとともにカズマとコッコロもやってくる。顔面蒼白のアルダープは、もはや自分の力では打つ手が皆無に等しいのをようやく覚った。
「ま、マクス! マクス!」
それでも一縷の望みを懸け、アルダープはマクスを呼ぶ。すぐ後ろにいる彼は、その言葉になんだいと軽い調子で言葉を返した。
「こ、ここにいる連中を……廃人に、しろ。殺さずに壊せ!」
「それは契約?」
「元からの契約に入っているだろう! いいから早くやれ!」
「分かったよ、アルダープ」
ゆっくりとマクスが立ち上がる。人間ではないことを証明するかのように、後頭部が口のように割れ、そこから黒い闇が覗いていた。変わらず口角は歪められたままで、無表情の彼は真っ直ぐに目の前の相手を見て。
「遅れは取りません」
「よっこいしょー!」
何かをする間もなく、コッコロとペコリーヌの攻撃を食らい吹き飛んだ。刺突と斬撃、それらを叩き込まれたマクスは、そのままアルダープを超えて地下室の壁へと激突し動かなくなった。
「……は?」
アルダープは理解できない。下級とはいえ、悪魔が。少女二人の攻撃であっさりと倒されるなどと、ありえない。そんなありえないことが、目の前で、現実に起こったのだ。
「ば、馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」
「終わりです。覚悟の準備を、お願いします」
尻餅をついたまま無様に後ずさるアルダープに、コッコロが槍を突き付ける。待て待て待て、とカズマが止めに入らなければ、最悪豚の丸焼きの下ごしらえになっていたかもしれない。
そんなことを考える余裕がアルダープにはない。ただただ、自身の破滅を認められず、しかしどうにもならないという現状が突き付けられ、ぐるぐると回り続けている。
「い、嫌だ! ワシは、ワシはこんなところで終わらん! 終わりたくない! 終わりたくない!」
歯が噛み合わない。カタカタと鳴り続け、膝も笑っている。何と無様な、普段の自分が見たら唾でも吐き捨て即座に始末するであろうみっともない姿を見せているのだ。
それも全ては。
「あは、ははははは! 凄いよアルダープ! 凄くいい悪感情だ! 本当だ、バニルの言う通りだった!」
「は? ま、マクス?」
背後から声。思わず振り向いてしまったアルダープの視線の先には、先程吹き飛ばされたはずのマクスが、ボロボロの状態で笑っていた。そしてその横には、マクスと同じような服装をした仮面の男が一人。
「フハハハハ、初めましてだな領主。我輩は見通す悪魔バニル。そこのマクスウェルの知り合いでな。こやつの食事の手伝いをしにきた」
「な、に、を……? そ、そうだマクス! 無事ならばさっさとワシを」
「アルダープ。契約はさっき終了したよ。僕は帰るね」
「……何を言っている!? ワシはそんなこと一言も」
「残念だったな、悪運のみの傲慢で矮小な男よ。すぐに物事を忘れるマクスウェルでも、そのたびに聞かせれば理解もする。そのために、わざわざ魔道具を使い放送させ、記録させたのだからな」
アルダープが絶句する。虚ろな目でマクスウェルを見上げると、彼は非常に満足そうに笑い声を上げた。
「凄い凄い。とっても美味しい絶望だ! ヒュー、ヒュー、ヒュー! うん、これだけあれば、暫く寝てても大丈夫そう」
「貴公はなんとも少食だな。契約が不成立だったことも影響しているか? ……まあ、どちらにせよ」
じゃあ、帰るね。そう言ってこの空間から砂のようにサラサラと消えていくマクスウェルを横目で見ながら、バニルはアルダープを挟んだ向こう側にいる面々を見やる。
「ほれ、腹ペコ娘よ。始末するならさっさとしておいた方がいいぞ。我輩もこの後棚卸しがあるのでな」
「あ、はい。……アルダープ、抵抗するなら……出来そうにないですね」
ひひひひひ、と壊れたように笑うアルダープを見ながら、ペコリーヌは苦笑する。流石にこの状態でボコボコにするのはなんだかな、と頬を掻いた。ちらりとコッコロを見ると、カズマに諭されたのか、拘束する方向で話を進めようと縄を握りしめ領主を見下ろしている。
やれやれ、とダクネスが溜息を吐く。目の前の領主、アルダープとは色々あったが、終わってみるとほんの少しだけ寂寥感が。決して自身の趣味に関係はしないが。そう言い聞かせながら、彼を。
「っ! アルダープ! 何を!」
「へ?」
ダクネスの叫びに緩んでいた空気が戻る。が、一歩遅い。ポケットから取り出した石を上に掲げ、認めんと彼は叫んでいた。こんな結末を認めるわけにはいかない。だからなんとしてでも、この状況を打破するのだ。半ばやけくそのようなその叫び、それに呼応するように彼の手の中の石は光り輝き。
「だから言ったであろう、腹ペコ娘よ。さっさと始末した方がいいとな」
「そういう意味だったんですか!?」
「いいから離れろペコリーヌ! ヤバいぞ!」
カズマがコッコロとペコリーヌの手を取り慌ててアルダープから距離を取る。ぐるぐると強烈な魔力が地下室に充満し、立っているだけでも息苦しくなるようなプレッシャーが周囲に広がり始めていた。
「これは、やばいですね……」
「私の後ろに。最低でも一撃なら、耐えてみせますので」
ダクネスが前に出る。三人を庇うように剣を構え、収束していく魔力の中心をじっと眺めた。
アルダープは目を見開き、そして歓喜した。咄嗟に使用した召喚で、まさかこんな強力な存在を喚び寄せるとは。絶望で壊れた笑みから勝利の笑みにその質を変え、彼はバニルとペコリーヌ達を見下すように睨んだ。
「……成程、確かに奴は相当な悪運を持っているようだな」
「バニルさま。何かお分かりなのですか?」
「ふむ、仲間の危機でタガの外れたエルフ娘よ。確かに我輩は見通す悪魔ではあるが、ある程度の力を持った存在相手には見通し辛くなる」
「おいバニル。それってつまり」
「今から喚び出されるのは我輩に近しい存在だな。具体的に言えば」
雷鳴のような音が鳴った。アルダープのすぐ横、そこに、先程までいなかったはずの人影が一つ、立っている。血のような赤と闇夜のような黒で彩られた巨大な斧らしきそれを床に突き立てながら、ぐるりと周囲を見渡していた。
そうして、召喚の神器を手に持っているアルダープで視線が止まる。
「ふん。わらわを喚んだのは貴様か。……何か期待していたのと違うのぅ。チェンジって利いたりせんか?」
「我輩と同じ、地獄の公爵だ」
「やばいですね!」
このすばに寄せたので悪魔扱いで。