プリすば!   作:負け狐

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アルカンレティア、オープニングイベント。


その51

「と、とにかく追い掛けましょう!」

「はいっ!」

「……いや、場所分かんねぇだろ」

 

 今にも走り出そうとしている二人をカズマは止める。突然のことにテンパっていたらしい二人はそこで動きを止め、ああそうでしたと振り返った。その視線は、指示を、アイデアを待っているもので。

 

「何か言ってただろ、名前。その辺から街の人に聞いてみればいいんじゃねえの?」

「あ、成程」

「えぇと……あの方たちが確か、マナさまと、ラビリスタさま、でしたでしょうか」

「後、キャルちゃんを祭り上げてゼスタとかいう人を退陣させるって言ってましたね」

 

 流石はその辺のスペックは高いだけある。ちゃんと記憶していたらしい二人は、では早速と聞き込みを開始した。しようとした。

 

「あの」

「どうしました? アクシズ教に入信でしたら、こちらに記入をどうぞ!」

「すいません、ちょっと」

「おやおや、お困りですか? それでしたらこちらの入信書に名前を書いていただければ、すぐさま事態は解決に向かうでしょう!」

 

 三秒で挫折した。アクシズ教の総本山なだけはある。街の住人の殆どがアクシズ教徒で、そしてことあるごとに入信を勧めてきた。ぶっちゃけ聞き込みとかそういうレベルではない。

 それも見越して即座にさらっていったのだったとしたら、流石の手際と称賛するしかないだろう。

 

「うぅ……どうしましょう」

「まさか、アクシズ教徒の方々がここまでとは……。あの押しの強さは、アメス教徒として少し見習うべきでしょうか……」

「大丈夫。コッコロは今のままで十分だから、アレを真似することはないから」

 

 怒涛の勧誘ラッシュに当てられたのか、物騒なことを言い出すコッコロを宥めながら、カズマはさてどうするかと思考を巡らせた。とりあえず通行人への聞き込みはまず無理だ。かといって、恐らく店でも結果は同じだろう。アクシズ教徒でない者を探すということも考えたが、絶対数が多すぎてそれだけで時間がかかりかねない。見分けがつくとしたら、それこそ一般人ではなく。

 

「……待てよ」

「どうしたんですか? カズマくん」

「主さま? 何かひらめいたのですか?」

「いや、よくよく考えたら」

 

 あの会話に出てきた名前、どう考えてもお偉いさんだろ。そのことを二人に述べると、あ、と揃って間抜けな声を上げた。

 

「確かに、陣営とか退陣とか言ってましたね」

「祭り上げる、ということは、キャルさまを何かの象徴に据えるということでしょうから」

 

 つまり、と視線をアルカンレティアでも一際大きい建物へと向ける。

 アクシズ教の大教会。様々な設備が内包されているその大聖堂が、恐らくあの二人の目指す場所だ。

 

「行きましょう! アクシズ大教会へ!」

「はい!」

「……言っとくけど、キャルを見付けて合流するだけだぞ。カチコミに行くんじゃないんだぞ」

 

 ともすればそのまま暴れかねない二人の様子を見ながら、意見言ったのは間違いだっただろうかと彼は頬を掻く。が、そうしなければしないで最終的に力づくになりかねない勢いでもあったため、まあしょうがないかとカズマは諦めることにした。

 ろくでもない連中だ、とキャルも言っていたし、まあいいや。そういうことにした。

 

 

 

 

 

 

 辿り着いてみると、予想以上にでかい。それがカズマの感想であった。街全体が観光地であるので、この場所もそれとして設計されたのかもしれない。そんなことを思いながら、とりあえず現実逃避から戻ってくる。

 あっという間の出来事だったのだろう。既に大教会は混沌と化していた。

 

「……やばいですね」

 

 ペコリーヌも目の前の惨状を見てぽつりと呟く。コッコロはどうしていいか分からず目をパチクリとさせるのみだ。

 端的に換言すれば、立てこもり犯だろうか。大教会の一角、恐らく中心の大聖堂であろうそこを、大量のプリーストとアクシズ教徒が取り囲んでいる。それを率いているのは二人、先程の狐耳の人物マナと、青の街で真っ赤な出で立ちのラビリスタだ。

 

「さ、いい加減観念してもらおうか」

 

 拡声器らしき魔道具を使って建物内部にいるらしい相手に声を届ける。が、ラビリスタのその声への返事は謎の液体の詰まった瓶の投擲であった。ガシャン、という音と共に瓶の中身のスライムらしき何かが広がっていく。

 

「あー! これ私のところてんスライムじゃないですか! 食べ物を粗末にするとかゼスタ様最低です!」

 

 地面の染みになったそれをひとすくいしたアクシズ教のプリーストの女性が目を見開き声を張り上げる。ラビリスタから拡声器を借り受け、言いたい放題の文句を叫び始めた。

 尚、追加で飛んできた袋詰めされたところてんスライムとかやらが命中し、彼女はスライムまみれとなった。

 

「……で、キャルはどこだ?」

「スルーしちゃうんですか!?」

「関わりたくねぇ……」

 

 どう考えてもアクシズ教の内ゲバだ。こんなのに関わったが最後、間違いなく旅行は終了するだろう。そう結論付けたカズマは、なんとかして無関係を装いながらキャルの居場所を探し出す方向へと舵を切る。

 よし、とペコリーヌとコッコロの手を取ると、彼は《潜伏》スキルを発動させた。

 

「成程。考えましたね」

「しかし主さま。この状態のまま移動は流石に困難では?」

 

 カズマを中心にお手々繋いでお散歩状態である。状況が状況のため多少の移動でも見付かりはしないだろうが、もしバレた時の絵面が最悪であった。カズマにとって、である。勿論コッコロの心配はそこではなく、単純に並んでの移動は難しくないかという普通の疑問だ。

 

「とりあえずなるようになるだろう。行くぞ」

 

 三人、手を繋いでゆっくりと歩き出す。集団の中に紛れたが、どうやら気付かれてはいないらしい。ふう、と息を吐くと、これからが本番だと視線を巡らせた。

 包囲している側がマナとラビリスタな以上、キャルもここのどこかにいるはず。そうあたりを付けた探索であったが、やはり人の多さがネックとなる。

 

「カズマくん」

「ん?」

「やっぱり、あの二人の近くにいるんじゃないですか?」

「わたくしもそう思います」

 

 ペコリーヌの言葉にコッコロも同意する。だよなぁ、とカズマも集団を眺めるのを止めてそこを見た。あそこまで行くと、間違いなく騒動の中心部に紛れ込むことになる。そうなると、否が応でも巻き込まれる可能性だって勿論あるわけで。

 

「ゼスタ。いい加減終わりにしましょう?」

 

 マナが大聖堂の立てこもり犯に声を掛けている。今度は先程と違い、顔こそ見せなかったが同系統の放送用魔道具で返事を行っていた。

 

『何を言いますか! そもそも、アクシズ教徒同士が何故争わなくてはいけないのです!?』

「……あなたに退陣要求を突きつけた時、こちらの署名を破り捨てたからでしょう?」

『過去にとらわれてはいけませんぞ!』

「ええ。だから未来を見据えたのよ。――あなたをぶちのめして退陣させるという、ね!」

 

 くわ、と目を見開いたマナは、ゆっくりと手を上げた。それに呼応するように、周囲のアクシズ教徒が彼女を讃え、ゼスタをディスる。最初こそ言わされている感があるかと思ったが、どうやらガチ文句らしい。

 

『な、なんたることだ……。マナさん、あなたは、なんということを……!?』

「ゼスタ。いくら自分が不利だからって同じアクシズ教徒を辱めるのは駄目だ。マナはこれでも真っ当に賛同者を集めたんだからね」

『いーや信じませんぞ! これでも私は最高司祭、皆の羨望を一身に集める――』

「ゼスタ様に人望なんか最初からないですよ!」

 

 スライムまみれのプリーストが聖職者としてやってはいけないハンドサインをしながら叫ぶ。それに呼応し、そうだそうだセシリーの言う通りと周囲のアクシズ教徒が拳を振り上げながら力説する。

 

『だ、だとしても! 最高司祭総選挙で私に勝つには』

「ええ。勿論集めたわ。前回あなたが破り捨てた量より、更に多い署名をね」

 

 どすん、とラビリスタが生成した箱一杯に詰め込まれたそれを前に出す。ゼスタは勿論それを見ることなく、立てこもったままいやまだですと往生際悪く反論した。

 

『数は少なくとも、今の私にはここに重要な司祭がいます! 彼ら彼女らを抱えている以上、私はまだ負けては――』

「ラビリスタ」

「了解」

 

 指を鳴らした。ぱちんという音と共に、彼女達の背後がせり上がっていく。まるでコンサート会場のギミックのようなそれによって、周囲の皆が見ることの出来るやぐらのようなものが出来上がった。

 そしてそこに立っていたのは一人の少女。

 

「はは! あ、ははは……!」

 

 カズマ達にとって、物凄く見覚えのある少女である。

 が、しかし。その姿は、三人にとって全く見覚えのないもので。

 

「き、キャル、ちゃん……?」

「キャルさま……?」

「……うわ」

 

 思わずそんな声が出る。ペコリーヌとコッコロは困惑、カズマはドン引きだ。

 それは普段の服装よりも露出が多く、そしてどこかキラキラしている。カズマの知識の中で合致するのは、いわゆるアイドル。

 そしてそんな彼女は、拳を握った状態で手首を曲げ、猫を思わせるポーズを取り。吹っ切れたのか、やけくそなのか、とにかく笑顔で言葉を紡いだ。

 

「きゃるきゃる~ん♪」

「……」

「……」

「……」

 

 三人が三人とも、無言で顔を逸らした。見てはいけないものを見た。そんな気分であった。

 一方のアクシズ教徒は大興奮である。いやっほー、と天に拳を突き上げる者達が大量にいる中、マナが立てこもり犯に向かって笑みを浮かべていた。さあ見ろと言わんばかりに口角を上げていた。

 

『ま、まさかまさかまさか!?』

「ええそうよ。あなたが推していた子よ。アルカンレティアが誇る猫耳少女キャル、だったかしら」

『アルカンレティアとアクシズ教が育んだ誇り高き驚異の猫耳美少女キャルちゃんですぞ!』

「ああそう。それで、そのキャルが今私の陣営なのだけれど。ほら、今パフォーマンス中よ?」

 

 バタン、と扉が開きゼスタが先程述べていた自称腹心達が即座にマナに下る。キャルちゃーん、とどこからともなく取り出したサイリウムのようなものをブンブンと振っていた。

 勝負ありだ。ラビリスタが開け放たれた扉に向かってそう呟き、それに伴ってセシリーの号令でアクシズ教のプリーストが大聖堂になだれ込む。やめろー、はなせー、とほぼ確保された立てこもり犯そのままのセリフを吐きながら、ゼスタが拘束されマナとラビリスタの前に転がされた。

 

「ぐっ……」

「無様ね、ゼスタ。……まあこの状況も喜ぶ変態に言葉は無用よ」

 

 ぐい、と彼の首についている最高司祭の証を引きちぎる。下っ端プリーストに即座に格下げ、と宣言すると、そのまま自陣営のプリースト達に連行させた。

 はぁ、と息を吐く。ようやく終わった、そんなことを呟きながら、ラビリスタに視線を向けた。

 

「さて、じゃあ早速。アルカンレティアの新最高責任者として、仕事をしようか、マナ」

「そうね」

 

 勝利に沸いているアクシズ教徒達に向かい、マナは声を張り上げる。それぞれの事後処理やこれからのアクシズ教についての簡単な説明を行いながら、ラビリスタと共にテキパキと騒動を片付けていった。

 これにて一件落着。そんな空気が流れる中で、やぐらの上でパフォーマンスをしていたキャルも動きを止め、疲れたように座り込んだ。

 

「あ、ははは……何やってんだろ、あたし」

 

 天を仰ぐ。もう帰らないと、ここは帰る場所じゃないとそう宣言したはずなのに。

 結局、マナの言うことを聞いて、ご機嫌を取って。こんなことをしてしまった。アクシズ教のノリに流されてしまった。

 もう違うと、自分はそうじゃないと言っていたはずなのに。

 

「違うはずだったんだけどなぁ……」

 

 逃げられない、ということなのだろうか。そんな事が頭をよぎって、違うと必死で否定する。ここで、アクシズ教徒として過ごすことこそ幸せだと囁く何かを、必死で否定する。

 そうじゃない。自分の幸せは、願いは、そうじゃない。

 

「そう、あたしは……。ほんと……あたし、いったい、何を願ってたのかなぁ……」

 

 はぁ、と視線を下に向ける。

 

「――え?」

『あ』

 

 そうして、衝撃の光景で思わず《潜伏》を解いてしまっていたカズマ達と目が合った。逸らしていた視線を戻したタイミングと丁度重なったことで、キャルは先程までの光景をバッチリ見られていたことを理解する。

 そう、きゃるきゃる~ん♪とか言っていたのをバッチリしっかり見られたのを彼女は理解したのだ。

 

「あ、あ、あ……」

 

 思わず立ち上がり、よろめく。目から光が急速に失われていく。落下防止対策のおかげで柵にぶつかるだけで済んだが、しかし間違いなく致命傷だ。

 精神的に、である。

 

「え~っと。キャルちゃん……可愛かったですよ?」

「は、はい。大変可愛らしゅうございました」

「あ、バカ! それトドメだって!」

 

 ブツン、とキャルの中で何かが切れた。乾いた笑いを上げながら、彼女はやぐらの上で虚ろな表情のまま動かなくなる。

 

「あはははは……は、はは……ははははは……」

「きゃ、キャルちゃぁぁぁぁん!」

「キャルさまぁぁぁぁ!」

「どーすんだよこれ……」

 

 途方に暮れているカズマを見ていたラビリスタは、マナにあれはいいのかいと問い掛けた。

 死んでないなら大丈夫よ、と即答されたことで、彼女はほんの少しだけ目を細める。

 

「しょうがないじゃない。今はそれどころじゃないのだから」

「……まあ、そうだね」

 




天丼。

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