プリすば!   作:負け狐

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お家に帰るまでが旅行です


その62

 あの騒ぎから数日経った。街はそもそも何か騒ぎがあったのだろうかというレベルで、こちらの苦労のことなど知りもせず笑顔で生活している。だが、それでいい。余計なことを知る必要など無いのだ。

 そう、何も知ることなど無い。

 

「……あたしは、何も、関係ない」

「何言い聞かせてんだよ」

「うっさい! あんたに分かる!? この街の呪縛からは逃れられないって確定したあたしの気持ちが! 分かるのかコノヤロー!」

 

 胸ぐらをつかんでガックンガックンカズマを揺らす。やめろこのヤロー、とカズマはカズマでキャルの腕を掴んで《ドレインタッチ》をぶちかました。

 急激に魔力を吸われたことで彼女の膝がガクリと崩れる。死なばもろとも、とキャルはカズマの首を絞め落とそうとそこに腕を回した。

 

「……キャルさま、主さま。何をなさっているのでしょうか……?」

 

 結果としてお互い密着しながら床に転がる男女の出来上がりである。コッコロが何とも言えない表情で二人を見下ろしていたが、乱入者を見て固まっていたので上手い言葉が出てこない。

 

「朝からお盛んなんだね、弟くん」

 

 シズルである。笑顔でカズマとキャルが合体(誤解)している光景を眺め、頬に手を当てながらどうしようかと呟いた。どうしようもない。

 

「シズルお姉ちゃん? お兄ちゃんいました――ってなんとぉ!?」

 

 次いでリノがそれを見る。シズルよりは普通のリアクションをした彼女は、ちょっとそれはまずいですよと目を見開いて手をブンブンとさせた。

 落ち着いて、とシズルがリノへと頭突きを叩き込む。そういやこれも見慣れたな、と思いながら、カズマはゆっくりとキャルを引き離した。ついでに吸い取った魔力は返しておく。

 

「それで、どうしたんだ? お姉ちゃん、リノ」

「あれ? もういいの?」

「元々何もしてませんけどぉ!?」

「そう? 抱きつきたいなら、お姉ちゃんはいくらでもオッケーだよ?」

「じゃあ、後で」

「――主さま?」

「なんでもありません!」

 

 ピシぃ、と姿勢を正して何かを宣言する。された方であるコッコロは急なそれに思わずビクリと肩を震わせた。カズマが勝手に恐怖を感じていただけらしい。多分、恐らく。

 話進まない、と椅子に座ったキャルがぼやく。どうせ事後処理が終わったんでしょと言葉を続けると、シズルはそうだねと笑顔を向けた。

 

「キャルちゃんもちゃんとアクセルに帰れるようになったから」

「何と言われようとあたしは帰るつもりだったけど」

「マスターやマナさんもそう言うだろうって言ってましたね」

 

 二人の言うところによると、ハンスとの戦闘となった一帯はアクアが顕現した効果もあり浄化は滞りなく終了。ついでにアルカンレティア屈指のパワースポットとして近々新たな観光名所へと作り変えるらしい。何と言ってもアクシズ教徒が崇める女神降臨の地だ、祀らない理由がない。

 その一方で、あの時キャルへ与えられた女神の一時的な権能や加護は伏せられることとなった。その場限りの力であったので、もう一度使えと言われても使えず、そしてキャル自身も頑なに使いたがらなかったのが原因の一つだ。それによりアクシズ教の巫女としてこの地で讃えられるくらいなら死ぬと真顔で宣言したのがもう一つ。

 そしてもう一つは。

 

「一応、約束は守るらしいよ」

 

 それ、とシズルはキャルの首元のチョーカーを指差す。アクシズ教徒に戻さない証としてマナから貰ったそれは、紅い宝石が透き通るような蒼い宝石へと変化していた。名誉アクシズ教徒の証明だというそれは、破壊耐性が更に強化され、神器レベルの硬さを誇っている。

 

「最初から全部予測済みだったってだけでしょうに……」

 

 何とも言えない表情でキャルがぼやく。マナの固有特殊スキルとして、情報を集めることで予知に近いレベルの予測を立てられるものがある。今回の騒動も、あの時キャルという情報を手に入れた時に結末までを凡そ組み立てていたのだろう。

 

「まあでも、マナさんも流石にアクア様降臨は半信半疑だったみたいですよ。まさに閉店の串焼きってやつです」

「『青天の霹靂』って言いたいのかな?」

 

 ともあれ、とりあえず表向きは問題解決。カズマ達パーティーも問題なくこの街を出発できるというわけだ。

 それが分かったことで力が抜けたらしいキャルは、盛大に溜息を吐くと机にだらりと体を投げ出す。もう疲れた、と半ば死んだ目で呟く姿は、旅行にきた観光客とは程遠い姿で。

 

「……そういえば、ペコリーヌはどこ行ったの?」

「わたくしは存じませんが」

「あー、確か朝飯食ったらどっか行くって言ってたぞ」

 

 彼女の問い掛けに、コッコロは首を傾げ、カズマは記憶を辿るように述べる。ふーん、とそれだけを返したキャルは、まあ子供でもなし、そこまで心配することでもないかと再び体の力を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 突然呼んじゃってすいません、とペコリーヌは目の前の人物に謝罪する。それを受け、いえいえと手を振ったその人物は、それでと彼女に問い掛けた。

 

「僕に、一体何の用ですか?」

「はい。えっと、ミツルギさんは魔剣の勇者として有名なんですよね?」

「まあ、魔王を討伐したわけではないので実際は勇者候補でしかないですけどね。それが、何か?」

 

 ペコリーヌのその質問にキョウヤは少し拍子抜けしたように頬を掻く。思わず身構えたが、別にそこまで重い話ではなさそうだ。そんなことを判断したのだ。

 彼女は彼の言葉を聞いて、勇者候補として有名ならば、と言葉を続ける。王都に、王城に招かれたこともあるのではないかと問い掛ける。

 

「ええ、何度か」

「じゃ、じゃあ。アイリス……第二王女と出会ったことは?」

「え? ありますけど」

「どんな感じでした?」

「すっごくふわっとした質問!?」

 

 キョウヤのツッコミにペコリーヌは確かにそうですねと考え込む。なんて言ったらいいんでしょうかと首を傾げるその姿を見て、彼は何とも可愛らしいという印象を抱いた。

 

「とりあえず、アイリス様についてを言えばいいのかな? とても可愛らしい人でしたね。あ、いや、変な意味はないですよ?」

 

 カズマがある程度情報を持っている状態で居合わせていたら物凄い勢いでロリコンロリコンと罵倒しまくったに違いない発言をする。尚、その発言をした場合隣にコッコロがいるのでカズマにも突き刺さり自爆するのはご愛嬌である。

 それはともかく。キョウヤはそれを皮切りに、アイリス第二王女の印象を語った。聡明であることや、心優しいこと、そしてちょっぴりお転婆であること。まあ所詮表向き、対外的な態度ではあるんでしょうけど、とそこまで述べた後に苦笑した。

 

「いえ、実際もそこまで変わりませんよ。あの子はそういう腹芸には向いてませんし」

「……ん?」

「それよりも。アイリスのことなんですけど」

「……んん?」

 

 呼び捨て? アイリス第二王女を褒めちぎっていたからなのか、ペコリーヌの態度が若干おかしい。そんなことを思いはしたが、キョウヤは深く詮索しないことにした。

 

「どのくらい強いかは、知ってませんか?」

「え? ……一度だけ、見せてもらったことはありますけど」

 

 齢十二の少女が王城で政務を行っていること、そこに疑問を覚えたキョウヤが側近である女性二人に問い掛けた時の話だ。ベルゼルグ王国は実力主義、よって王族は冒険者としての強さも求められる。そう説明され、アイリスは論より証拠ですと着替えて剣を持ち出し。

 

「驚くほどの強さを、見せられましたよ」

「そうですか……」

 

 彼の言葉を聞いて、暫しペコリーヌは視線を落とす。何かを考え込むような、そんな状態で暫し動きを止めた後、よしと彼女は顔を上げた。

 

「ミツルギさん」

「は、はい?」

「ちょっと戦ってくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 宿屋にペコリーヌが戻ってきたのは昼を少し過ぎてからであった。体を動かす何かをしたらしく、随分と汚れている。そんな彼女の姿を見て、カズマ達は思わずギョッとした。ひょっとしてまだ何か問題が、そう思ったが、どうやら違うらしい。

 

「みんなはお昼まだですか?」

「もうちょっとしてもあんたが戻ってこなかったら食べようかって言ってたところよ」

「あ~、ごめんなさい。じゃあすぐ着替えてきますね」

 

 宿屋の部屋に戻り、手早く着替えを済ませるとペコリーヌはお待たせしましたと駆けてくる。じゃあ行くか、とカズマが述べ、一行はアルカンレティアの街へと繰り出した。

 明日には旅行も終わり。随分と長い間ここにいたように思えるが、実際には一週間にも満たない程度だ。かといって、ずっとここにいたいかと言えば答えは否。賑やかな空気は嫌いじゃないが、同じ賑やかでも、やはり違う。

 

「……」

「キャルちゃん? どうしたんですか?」

「ん? いや、帰ったら、ちょっと部屋の掃除した方がいいかなって」

「一週間ほど留守にしておりますからね」

「教会自体はユカリさんが管理してるんだろうけどな」

 

 流石に自室に立ち入ることはしないだろう。そんなことを言いながら、一行は買い食いをしつつ街を巡る。途中、シズル達のやっているクレープ屋にも立ち寄った。またすぐ会えるよ、と微笑んでいたシズルが、カズマにはやけに印象に残っている。

 

「……」

「お前何でさっきからちょくちょく黙るの?」

「別に、なんでもないわよ。……帰るんだな、って思っただけ」

「寂しいんですか?」

「まさか。余計なしがらみも出来ちゃったし、碌でもない思い出も増えたし。さっさと帰りたいくらい」

「……成程。キャルさまは、帰りたい、のでございますね」

 

 そう言ってコッコロが笑う。言葉の真意を読まれたと思ったからなのか、キャルはその言葉を聞いてそっぽを向いた。ペコリーヌも次いで気付き、何度も言ってるじゃないですかとキャルに抱きつく。

 

「あそこは、わたし達の帰る場所ですよ」

「……分かってるわよ」

「お前ほんとめんどくさいな」

「あんたが言うなぁ!」

 

 カズマの呆れたような声にツッコミを入れたキャルは、そのままペコリーヌを振りほどく。やけ食いでもするかのように屋台へと突撃し、お前らも来いとばかりに声を張り上げた。三人は顔を見合わせ、そして笑う。はいはい、と彼女のいる場所へと足を進めた。

 明日には帰る。故郷ではなく、自分の居場所へ。キャルは皆とアクセルへ、帰る。

 

 

 

 

 

 

 天界のとある場所。最近自身の管理世界で色々あって疲れ気味であった一人の女神は、そこを通り掛かると動きを止めた。見知った顔が、机に向かって何かをひたすら書いている。

 

「……何を?」

 

 恐る恐る声を掛けると、そこにいた二人の女神は猛烈な勢いで振り向いた。揃って彼女を視界に入れ、なんだエリスか、と溜息を吐く。そうした後、今忙しいから邪魔しないでと再度机に向かった。

 

「いやちょっと待って下さいよ! 何をやってるんですか!?」

「見て分からないの? 始末書よ、始末書」

「えぇ……」

 

 ガリガリと書いていた片方、アクアがそう言って鼻を鳴らす。分かったらどっか行けと言わんばかり、というか言った。その剣幕に、エリスは思わず後ろに下がる。

 じゃあひょっとして、とその横を見る。アクアの横の机では、同じように夢の女神アメスが死んだ目で始末書を書いていた。

 

「……大丈夫ですか?」

「これが大丈夫に見えるなら医者に掛かることをおすすめするわ」

 

 塩対応である。こちらを見もしない。普段はもう少し無愛想でポーカーフェイスだが何だかんだ優しく面倒見のいい女神なのに。そんなことを思ったエリスは、一体何をやらかしたのかとこっそり始末書の内容を覗き込んだ。

 

「勝手に降臨したんですか!?」

 

 思った以上に駄目だった。正式な辞令ありき。こっそりと、あるいは分からないように。そういう正式な手続きを取った上で工夫をして世界に降りるのならばともかく、無許可で一時的とはいえ女神として顕現するなど、間違いなく始末書ものだ。というか始末書で済んでいる分有情である。

 

「何よエリス。あんた身分隠して降りれるからってえっらそうに」

「最近親友の交友関係が気に入らないらしいじゃない。こないだあたしの信徒に愚痴ってたから知ってるわよエリス」

「八つ当たりやめてくれます!?」

 

 特にアメスのそれはピンポイントに大ダメージだ。今まさにそれで悩んでいるのでエリスにとってはこんちくしょうと思わず言いたくなるほどで。

 はぁ、と溜息を吐いた彼女は、二人の隣の机に座った。どうやら始末書とはいいつつもそれ以外の書類も無い混ぜにした複合の仕事らしい。それだけのことをやらかしたのでまあ当然か。そんなことを思いつつ、二人の書類から手伝えそうなものを抜き取る。

 

「さっさと終わらせて、飲みにでも行きましょうよ」

「え? 何エリス? 奢り?」

「何で後輩にたかろうとしてるんですかアクア先輩!」

「あたしはあんたら高給取りと違って薄給なんだけど」

「最近信徒増やしてそこそこ給料増えましたよね。知ってますよ、それ元々私の給料でしたし」

 

 ズモモモモ、と謎のオーラを放ち始めたエリスを見ながら、ああこいつも色々溜まってるな、とアクアとアメスはお互い顔を見合わせて肩を竦めた。

 尚、飲み過ぎた結果、翌日アクア以外の二人は二日酔いになったとかなんだとか。

 

 

 

 

 

 

 ガタガタと馬車は揺れる。帰りの道中、疲れでうとうとしながらも無事に旅路は終わりを告げた。そろそろですよ、という御者の言葉を聞き、カズマが寝ていた三人を揺すって起こす。何故彼だけ起きていたかといえば、寝ていた三人が彼のすぐ近くでもぞもぞとしていたり、あぁんだのうぅんだのと吐息を零していたりしたからなのだが、まあ特に関係ないので詳しくは語らない。

 アクセルの馬車の待合所に辿り着く。起きた三人が馬車から降りるとぐぐっと伸びをし固まっていた体を伸ばした。約一名それによって盛大に特盛が上下したが、誰かは伏せる。

 荷物を馬車から降ろし、見慣れた街並みを歩いていく。たった一週間程度であったが、目の前の景色が何だか無性に懐かしくて、そして安心した。

 帰ってきたんだ、と思わせた。

 

「あたしたちがいない間に、何か変なこととかあったりしてないわよね?」

「さあな。その辺は後でギルド酒場にでも行って聞けばいいだろ」

 

 そんなことを言いながら歩き慣れた道を行く。特に意識せずとも辿り着けるようになった場所へと足を進める。

 

「そろそろ、わたしのアルバイトも再開できないですかね~」

「わたくしも、ウィズさまのお店のお手伝いを再開しなければいけませんね」

 

 明日からのことを考えながら、そろそろ見えてくる建物に向かう。何だかんだで、仮住まいといいつつ居着いているあの場所へ向かう。

 着いた。四人の目の前にあるのは、すっかり見慣れたアメス教会。自分の部屋がある、自分達の居場所。

 扉に手を掛けた。鍵は掛かっておらず、つまりは今は管理している彼女がそこにいる証拠で。ゆっくりと扉を開け、中に入る。礼拝堂の掃除をしていた彼女は、四人の姿を視界に映すと笑みを浮かべた。それにつられるように、四人も同じように笑顔を浮かべる。

 そうしたならば、後は。言うべき言葉は、一つだけだ。おかえりなさいというユカリに返す言葉は、一つだけだ。

 

『ただいま!』

 

 




第三章、完!
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