プリすば!   作:負け狐

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何か余計なイベントが挟まった感


その7

 ギルドの酒場。そこで難しい顔をしている一人の少年は、しかし答えが出ないとばかりに頭を抱えた。

 

「駄目だ……スキルを覚えられん」

 

 ちくしょう、とカズマはぼやく。彼の職業は《冒険者》、様々なスキルを獲得出来る代わりに、まずはそれを見るなり何なりして確認しなくてはいけないという色々と面倒な基本職だ。

 この間のカエルと前回のキャベツでレベルがもりもりと上がった彼は、そんなわけで新たなスキルを習得しようと街の冒険者に声を掛けようとしたわけだが。

 

「当たり前でしょ。悩むまでもないじゃない」

「黙れ奴隷」

「それよそれ! あんたのその態度のせいで、他の冒険者から総スカン食らってんでしょうが!」

 

 がぁ、とカズマのいる机の対面で飲み物を飲んでいるキャルが指を突き付ける。が、彼はそんな彼女を見て鼻で笑った。それは違うと言い切った。

 そうしながら、キャルと同じように目の前の飲み物をグビグビと飲み、それを叩きつけるように盛大に置く。

 

「主さま、また口元が……はい、こちらを向いてください」

 

 隣のコッコロがそんなカズマの口をハンカチで拭い、食器を乱暴に扱ってはいけませんよと笑顔で諭す。そうした後、目の前にあったイチゴを手に取ると彼の眼前に寄せた。

 

「主さま、あーんですよ、あーん」

「あーん」

「よく噛んで食べてくださいませ、主さま」

 

 むぐむぐとイチゴを咀嚼し、飲み込む。ふう、と一息ついたカズマは、何故かドヤ顔でキャルに向き直った。

 

「俺がドン引きされているのはこっちだ、お前への態度じゃない」

「だったら改めろぉぉ!」

 

 どん、と机を叩く。尻尾も猫耳もピンと立ち、どう考えても平静ではないのが伺えた。全力ツッコミをし終えたキャルは、そのまま肩で息をしながら残っていた飲み物を一気に呷る。

 

「というか、どっちにしろ総スカンなのは一緒じゃないの?」

「流石に総スカンってほどじゃないぞ。一部の冒険者だけだ。自分も甘えたいという奴らからの嫉妬と、根も葉もない噂によるこの鬼畜野郎という侮蔑が主だな」

「……前半の方は知りたくなかったわ」

 

 ついでにいうと後半も根はしっかり張っているし葉は瑞々しい。脱力したようにだらりと机に体を預けたキャルは、何だかもうどうでもいいやと投げやりになってきた。

 その状態のまま顔だけを起こし、それで結局どうするのと目の前のカズマに問い掛ける。

 

「スキル、新しいの欲しいんでしょ? よっぽど変なのじゃなきゃ別に協力してやっても」

「いや、そもそもスキルの種類がほとんど分からん」

「キャルさま。主さまはこの辺りの常識に疎いところがありまして」

「あーはいはい、そのやり取りは何回も聞いたから。んー……」

 

 体を起こしたキャルは、机を指でコツコツと叩きながら頬杖をついて何やら考え込む。何だかんだでこういうのを真剣に考えてくれる辺り、彼女は人がいい。素直さという点ではコッコロにダブルスコア以上つけられているので、カズマとしてはその辺りのツンデレさは今の所別に響いてはいないが。

 

「とりあえず、魔法系か戦士系か、そのへんを大雑把に決めたらどうですか?」

「ペコリーヌさま、お疲れさまです」

 

 横合いから声。視線をそちらに向けると、酒場のウェイトレスの格好をしたペコリーヌが三人に笑顔を見せていた。すっかり看板娘と化しており、彼女がいるかいないかで二割近く売上が違うらしい。

 そんな彼女はウェイトレスという立場上立ち仕事であり、座って食事をしているカズマ達相手では、覗き込むような格好になってしまう。

 

「戦士系か、魔法系、か……」

 

 視線は重力によってロケットになった張りのあるダブルバスト一直線だ。彼女の言葉を聞いて、悩んでいる素振りを見せていたものの、カズマの頭の中はほぼほぼ目の前のおっぱいで占められている。

 普段の装備だと戦闘が出来るように締めてあるからな。そんなことを思いつつ、それでも揺れるんだから素晴らしい、と心の中でスタンディングオベーションをかましていた。

 ちらりと視線を対面に向ける。比べるのもおこがましい慎ましさが視界に入った。

 

「あんたさっきから何考えてるわけ……?」

「スキルの話だろ。お前は何を言ってるんだ」

「こいつ……っ!」

 

 拳を握り込む。そのまま目の前の男に叩き込んでやろうかと半ば本気で思い始めたキャルだったが、隣のコッコロがそこまでにしておきましょうとカズマを諭し始めたのでゆっくりと下ろした。

 

「主さま。よろしいですか? 女性は、男性の思っているよりも視線に敏感なのです」

「……はい」

「ペコリーヌさまが魅力的であるのは仕方ありません。主さまもお年頃ですから、仕方ないとは思うのですが」

「はい、すいません、自重します……」

「そんな、気にしなくてもいいですよ。酒場のお客さん結構見てきますし」

「そういう同レベル扱いが一番心に来るぅ!」

 

 ジト目のキャルが見守る中。毎度おなじみ精神的致死ダメージを食らったカズマは、ぐわぁと頭を抱えるとそのまま机に突っ伏し動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

「それで、スキルの話なんだが」

「あ、ちゃんと話は戻すのね」

 

 暫し死んでいたカズマは、ペコリーヌの仕事が終わった辺りでようやく復活を果たした。テーブルにいるのが三人から四人となり、現在何だかんだでパーティーを組んでいる面々が勢揃いした。

 そんなわけでカズマは再度自身の悩みを口にする。出来れば持っているスキルポイントを有効に使いたい。あまり必要のないスキルよりは、使えるスキルが欲しい。早い話がそういうわけである。

 

「んー。カズマくんの武器はショートソードでしたっけ? そのままいくんですか?」

「いや、コッコロにコーディネートしてもらったこの冒険者服はともかく、武器はそろそろワンランク上げたいなとは思ってる」

「武器チェンジですね。何にします?」

 

 ペコリーヌの言葉にカズマはううむと考える。現在の彼がぼんやりと目指しているところは、せっかく色々覚えられるのならば剣も魔法も使いたい、だ。きちんと役割の決まっている職ではないことを逆手に取った遊撃手。この面々の穴を埋めるにも丁度いい。

 

「なら、あたしの魔法何か覚えてみる?」

「それもいいが……今のスキルポイントで足りるか?」

 

 ほれ、と冒険者カードを見せる。ふむふむ、とそれを眺めていた一行は、暫し考える素振りをしながら自身のカードを取り出し確認した。

 

「上級魔法は無理だし、個別のやつは特殊だからもっと無理。中級ならいけるかしら……? でも、冒険者だと結構スキルポイント使っちゃうし」

 

 どうやらキャルのスキル、アークウィザードのそれは中々カズマには厳しいらしい。出来そうなのは初級魔法くらいだ、と彼女は彼にそう言い放った。初級魔法は四属性の簡単な魔法を使用可能になるというものだが、殺傷能力は皆無と言っていいレベルのものしかない。

 

「それ、使えるのか?」

「初級魔法嘗めんじゃないわ。普段の生活で大活躍よ。急な大雨でずぶ濡れになった時とか、いきなり崖に落ちた時とか、山に入った途端吹雪になった時とかに重宝するんだから」

「最初はともかく、残り二つはお前にとって日常茶飯事なのか……?」

「やばいですね……」

 

 今までどんな生活をしてきたのか若干不安になる。ともあれ、工夫次第で使えないということはなさそうだ。そう結論付けたカズマは、とりあえず初級魔法を見せてもらい自身の冒険者カードに登録する。

 次いでコッコロに視線を向けた。以前彼女に支援魔法を掛けてもらったことで、それらは冒険者カードに登録はされている。とはいえ、覚えられるのは初級のヒールが精一杯。中級上級の回復魔法は現状逆立ちしても無理だろう。そんなことを述べると、ではこちらから気になったものを教えて下さいと冒険者カードを手渡される。

 

「えーっと、支援魔法と、解呪系統……他にあるのは、んー、槍スキルか……槍?」

 

 思わず二度見した。杖だと言い張っていた気がするが、やはり槍だったらしい。そんなことを思いながら確認を続け、槍を使った攻撃スキルも確認して確信を持った。

 

「何かありましたでしょうか、主さま」

「色々あるにはあったが、今の俺じゃ難しいのばっかだな」

「そう、でしたか」

「だからこれからも頼んだぞ、コッコロ。お前が頼りだ」

「っ!? はい! 主さま」

 

 目をキラキラとさせて笑顔を見せる。そんな姿を見ながら、キャルはやれやれと溜息を吐いていた。あれはある意味共依存というやつではなかろうか。そんなことを邪推する。

 まあ幸せなら別にいいんだけど。そんな邪推をすぐさま流すように思考を変え、最後の一人に視線を動かした。先程から、冒険者カードを己で確認はするものの、他人には見せないようにしているペコリーヌへと。

 

「ねえ、ペコリーヌ」

「はい?」

「あんた、クエストの報告の時にはどうしてるわけ?」

「……名前は見えないよう特注してあるので、その辺は大丈夫です」

 

 だから本当は見せても問題ないんですけど。そう言いながら彼女は苦笑した。そうしながら、こっそりとキャルへと耳打ちをする。知ってたんですか、と。

 

「……まあね。あぁ、あたしに相応の態度を期待しない方がいいわよ。汚い野良猫冒険者だもの」

「あ、一匹狼のくだり気にしてたんですね」

「うっさい!」

 

 こんにゃろ、とデコピンをしたキャルは、いいから向こうにスキル紹介してやれと訝しげな表情を浮かべているカズマを指差す。あいつはああ見えて無駄に鋭いところがあるから、万が一バレるとマズいだろう。そんなことをついでに視線に込めた。

 

「あはは、ごめんなさい。でも、わたしのスキルは戦士系とクルセイダーとその他少々なので、あんまりカズマくんには合わないかもしれません」

「あー。確かにクルセイダーは俺には無理だな。じゃあ、戦士系ってのは」

「両手剣スキルとか、片手剣スキル、後格闘スキルもありますよ」

「えぇ……」

 

 何この娘ステゴロもやれるの? ちょっとだけ引きながらペコリーヌを見つつ、でも回し蹴りとかなら見てもいいかもしれないとほんの少しだけ鼻の穴を広げた。

 コホンと咳払い。とりあえず現在の武器のことも考えて、片手剣スキルを教えてもらうかと述べる。了解です、とギルドの受付まで走ると、木製の片手剣を持ってきて軽く振るった。

 

「お、出た。これもポイントは一か。じゃあ初級魔法と片手剣をとりあえず」

 

 ポンポン、とスキルを上げる。どちらも使用ポイントは一のため、まだ多少残ってはいる。が、これ以上この面々から教えられたスキルを覚えようとすると足が出てしまう。

 

「何かいいものは……」

 

 視線を巡らせる。酒場の冒険者や置いてあるものを眺めながら、何かピンとくるものはないかと一つ一つ。

 ふと、それに目が止まった。アーチャーだと思われる冒険者の持っている武器。弓と矢に。

 

「弓矢って、冒険者でも使えるのか?」

「使えますよ? アーチャーの人から《弓》スキルを覚えれば」

 

 ペコリーヌの言葉に、それだとカズマは立ち上がる。自身が考えていた遊撃手という立場を明確にするためにも、魔法ではない遠距離攻撃というのは魅力的だ。加えるならば今の自分には《敵感知》や《潜伏》といった盗賊スキルもある。音も立てずに相手を暗殺、そういう某クリードみたいな立ち回りも可能になるはずだ。

 そう結論付け、よし決まったと気合を込め。

 

「それで? あてはあるの?」

「……」

 

 キャルの言葉で、肝心な部分を失念していたことに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 なにはともあれ、とギルドカウンターへ向かい誰かいい人を紹介してくれないかと頼み込みにいったものの、大半の冒険者は「え、やだ」とバッサリである。世知辛い、と崩折れたカズマは項垂れながら世の中の理不尽さを呪った。

 

「いやだから当然でしょ……。さっきその話したじゃない」

「だったら何であてはあるのかとか話続けようとしたんだよ。どうせ教えてくれる奴なんかいねぇよバーカとか言っとけ!」

「逆ギレ!? というか、それ言ったら言ったであんたキレるじゃない」

「当たり前だろ、言葉を慎め奴隷」

「ぶっ殺すぞ!」

 

 ちなみに場所は受付の目の前である。ギャーギャーやり始めたタイミングで、そのまま外へと二人揃ってつまみ出された。ぽいと投げ捨てられ、そしてバタンと扉が閉まる。

 即座にコッコロとペコリーヌが扉を開けて外に出てきた。

 

「さて、どうするかな」

「何キメ顔で流そうとしてんのよ。追い出されたのあんたのせいだからね」

「はぁ? お前が突っかかってくるのが悪いんだろうが」

「突っかかってきたのはそっちでしょ!? 間違えるんじゃないわよ」

「あーあ、この猫はどうやらボケてしまったようだ。ほんの少し前のことすら忘れてしまうとは」

「何よ」

「何だよ」

 

 ぐぬぬと二人で睨み合う。どうしたものかとそんな二人を見ていたコッコロの横で、ペコリーヌは何かを思い付いたようにパンと手を叩いた。その音が思いの外大きかったからか、カズマもキャルもケンカをやめて思わず彼女の方を見る。

 

「さがしましょう」

「……何を?」

「カズマくんに弓スキルを教えてくれるアーチャーをですよ」

「さっきの惨状見てまだそんなこと言えるあんたも相当よね」

 

 やれやれ、とキャルが頭を振るが、ペコリーヌは笑顔のままちっちっちと指を振る。分かってないですねぇ、と何故か無駄に煽るような物言いをした。

 

「あそこにいるのは冒険者ギルドの常連さんです。つまり、カズマくんのことを良く知ってる人達ですね」

「……まあ、そうだろうな」

「それがどうしたのよ」

「あ、ペコリーヌさま、ひょっとして」

「お、コッコロちゃんは分かっちゃいました?」

 

 やりますね、と彼女はコッコロに抱きつく。そうしながら、顔をまだ分かっていないであろう二人へと向けた。早い話が、悪評を知らない冒険者を探せばいい。そういうわけだ。

 

「そんな簡単に見付かれば苦労しないでしょ」

 

 キャルは答えを聞いてもそんな態度である。そういうのはただの願望、妄想というのだ。そう言ってばっさりと切り捨てた。

 一方のカズマ。その言葉を聞いて、一縷の望みに賭けようと彼女の提案を受け入れる姿勢を見せた。それにはキャルも目を見開き、あんた本気なのと問い掛けるほどだ。

 

「まあ見ておけ。俺の幸運を嘗めるなよ。きっとこの街には、俺のことを知らない、ぼっちをこじらせたアーチャーがいるに違いない」

「頭イカれたんじゃない?」

 

 完全にシラけた目でキャルはカズマを見やる。ペコリーヌはそんな二人を見てクスクスと笑い、コッコロは頑張ってくださいと応援をしている。

 そんな三人を見ながら、任せろとカズマは力強く頷いた。必ずアーチャーを見付けてみせると宣言した。

 

「はいはい。じゃあ精々頑張りなさい。いないと思うけど、もし見付かったら三日くらいはあんたのこと奴隷らしくご主人さまって呼んでやるから」

「……その言葉、覚えておけよ」

 




立った、フラグが立ったよ
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