「はぁ……はぁ……」
ぐったりとへたり込む自分を、クリスティーナが見下ろしながら何か考え込んでいる。魔法が使えない自分の欠点を補う、そういう名目で教え込まれたそれは、はっきりいってさらなる欠陥しか生み出さなかった。発動は出来ても、すぐに限界が来る。どれだけ頑張っても、技そのものを放てるかどうかギリギリだ。
「まあ、こんなものか?」
クリスティーナが呟く。所詮欠陥だらけの出来損ないでは、この程度が関の山だということなのだろう。彼女の言い分はもっともだ。ジュンとクリスティーナがせっかく教えてくれても、このざまだ。呆れて物が言えない。
「ユースティアナ様」
ジュンが何かを言おうとしていたが、クリスティーナに止められた。確かにそうかもしれないけれど、と彼女が言っているところからして、中途半端に慰めても意味がないとかそのあたりだろう。実際その通りだと思う。こんなことに時間を使うよりも、アイリスのために時間を使って貰ったほうがずっと有意義だ。
「相変わらず腐っているな、姫様」
「……そんなことはないです」
「その態度が既にそうだ。拗ねるとただのクソガキだな」
ケラケラと笑うクリスティーナを恨みがましげに見る。これでも真剣に悩んで、これでもクリスティーナ達を心配して。二人はこんなやつの教育係をやる必要はないのにと思ったのに。
「少なくともワタシは姫様の教育係をしていた方が楽しいからやっている。文句を言われる筋合いはないぞ☆」
「そうだね。私も、ユースティアナ様のことが好きだから、ここにいる」
「……」
そっぽを向いた。嘘ではないというのが分かってしまったから、恥ずかしくて、申し訳なくて、視線を逸らした。
ぼす、と頭に手を置かれた。クリスティーナのガントレット越しの手と、ジュンの鎧の手が自分の頭をぐりぐりと撫でる。
「大丈夫。ユースティアナ様なら、立派な王女になれるから」
「さて、それはどうかな?」
「クリスちゃん」
「姫様次第だろう? このまま腐っていればそこまで。だが、開き直れれば――」
開き直れれば、何だっただろう。あの時、クリスティーナは何を言ってくれたのだろう。
なんにせよ、自分は彼女達の望まない方向に育ってしまった。王族としての雑務をそつなくこなせるだけの、代わりなぞいくらでも用意できる王女になってしまった。実につまらない人間になってしまった。
十四歳に武者修行の名目で城を飛び出してもそれは変わらず。ただ、すちゃらかな仮面を被るのだけはうまくなった。脳天気で間抜けな姫になることだけは、得意になった。箸にも棒にもかからない、くだらない冒険者になっていった。完全に腐っていた。
でも、だから。だからこそ。
そんなくだらない自分を、そのままの自分を肯定してくれたあの人達は。
「アホリーヌ! ぼさっとしてないでさっさとやりなさい!」
「ペコリーヌさま! ファイト、でございます!」
「ペコリーヌ、お前が頼りなんだから頑張れって!」
ユースティアナではなく、ペコリーヌを信用してくれた友人はとても大切で、かけがえのないもので。
だから、わがままなんか言えない。本当はあんなことを言ってはいけなかった。離れないでなんて、厚かましかった。
みんなが、あの三人が。キャルちゃんが、コッコロちゃんが、カズマくんが笑ってくれるのなら、自分は――
準備が不十分なこともあり、二人の模擬戦は訓練用の武器を使い、魔法やスキルを使用しない近接主体のものとなった。クレアとレインはそのことにわずかに安堵しつつ、しかしまだ分からないと不安は完全に拭えずにいる。
「お姉様との模擬戦……久しぶりです」
「……そうですね」
ワクワクを隠せないアイリスとは対照的に、ペコリーヌはどこか表情に影がある。何かを思い詰めているような、何かを決意したような。そんな顔のまま、じゃあ始めましょうかと彼女は剣を構えた。
はい、とアイリスも剣を構える。普段のドレス姿から動きやすい服装に着替えた彼女は、その気迫からも手を抜く気がまったくないのが分かる。クレアはあそこに立っているのが自分ならばすぐさま倒されるだろうなどと思うほどだ。
「では」
レインが審判としての合図代わりに小さく魔法を唱える。それを上空に投げると、ゆっくりと地面に落下し、弾けた。
「ふっ……!」
先にしかけたのはアイリス。一気に間合いを詰めると、横薙ぎに剣を振るった。並の相手ならば反応すら出来ずに叩き伏せられ、よしんば反応したとしても彼女の斬撃に押し切られる。それほどの一撃を、初手から叩き込んだのだ。
「わっ」
それをペコリーヌはきちんと反応し受け止めた。思わず声を上げたアイリスの顔面に、遠慮なく剣の柄をねじ込もうとする。危ない、とそれを素早く躱したアイリスは、ならば次とばかりに横に跳ぶとステップを踏むようにペコリーヌの背後を取った。
即座にしゃがみ込む。ペコリーヌが思い切り姿勢を低くしたことで、アイリスの一撃は空を切った。その体勢のまま水面蹴りを放った彼女は、アイリスがジャンプで躱すのを確認すると同時に剣を振り上げる。
「く、うっ……!」
剣で受け止めたものの、空中では踏ん張ることも出来ない。そのまま弾き飛ばされたアイリスが受け身をとった頃には、既に眼前で剣を振るうペコリーヌの姿が。
剣と剣がぶつかり合う。ギャリギャリと音を立てる中、ペコリーヌがゆっくりと息を吐いた。
「アイリス……手を抜いてませんか?」
「そんなことはありません!」
双方が弾かれる。両手で剣を持っていたことで体勢が崩れたアイリスに対し、その瞬間片手を離したことでペコリーヌは自由に使える左手を振りかぶっていた。肘打ちをアイリスのみぞおちに叩き込み、一瞬動きが止まったそこに剣を振り下ろす。片手持ちであったことで威力が落ちたのか、アイリスは吹き飛ばされただけで勝負ありとはならなかった。
素早く受け身を取り立ち上がったアイリスは、楽しそうに、何かを噛みしめるように笑みを浮かべる。
勝てない。アイリスの頭の中で出した判断はこれだ。王族として、魔法も近接戦闘も両方こなせるように日々修練を行っているが、それでも目の前の姉には追い付けない。あのジュンとクリスティーナを教育係に付け、そのしごきをこなしきったのだ、むしろそうでないはずがない。
「余裕ですか、アイリス」
「もう、先程からお姉様、少し意地悪です」
ぶうぶう、と少し唇を尖らせたアイリスは、剣を構え直すと前傾姿勢を取った。こうして剣を交えてより一層思いが強まった。武者修行で身に付けたであろう我が姉の実戦に基づいた動きは、外を知らない自分では対処が出来ないのだ。だから小細工は通用せず、真正面からぶつかり合うのが一番可能性が。
「あ、れ?」
その一歩目を踏み出す頃には、既にペコリーヌが眼前にいた。向こうの斬撃に慌てて斬撃を重ねたが、所詮アイリスのそれは受け身の一撃だ。必殺の威力を込めたペコリーヌのそれとぶつかりあって、均衡を保てるはずもなし。
キン、と甲高い音が響く。アイリスの手から弾き飛ばされた剣が、訓練場の地面を転がりカラカラと音を立てていた。
「……まいりました」
ゆっくりと両手を上げ、降参する。負けた、そのことを彼女は疑う余地もなく。アイリスは敗北を認め、そしてペコリーヌを勝者だと讃えた。
ペコリーヌはそんなアイリスを、どこか濁った目で眺めていた。負けたと、敗北したのだと、どの口で言っているのだ。そんなはずはないのだ。
勝てない。ペコリーヌが常に前提条件として持っているのがこれだ。王族としての才能に溢れ、様々な英才教育を受けているアイリスには、出来損ないの自分では決して追い付けない。置いていかれないように必死でもがいている程度の相手に、遅れを取るはずがないのだ。
「やはりまだまだ、お姉様には敵いませんね」
「……本気で言っていますか?」
「勿論です。私は、お姉様が目標ですから!」
そう言って拳を握るアイリスを見て、ペコリーヌは顔を俯かせる。真っ直ぐに自分を見てくる彼女が眩しくて、見ていられなかった。純粋に自分を慕っている妹を見るのが辛くなった。
「……限られた条件だから、この結果なんです。アイリスが本気で、全力で戦えば、わたしなんか」
ペコリーヌのその言葉に、アイリスは首を横に振る。そんなことはないと、たとえ条件を変えても、自身が聖剣を持ち、姉が王家の装備を身に着けた状態の縛りのない全力戦闘であっても。結果は変わらない。勝てないのは自分だと、彼女はそう言い切った。
ペコリーヌはその言葉に思わず歯を食いしばる。ギリ、と奥歯が鳴るのを感じながら、彼女はゆっくりと、しかし視線は決してアイリスに合わさずに言葉を紡いだ。
「知っていますか? ……わたしは、魔法が使えないんです」
「え?」
「王家ならば出来て当然の、勇者の血統に連なる一切の呪文使用が出来ません。……本当の本気で戦えば、今のアイリスに敵うはずないんです」
見守っていたクレアとレインが息を呑むのが分かった。噂を、本人が肯定したのだ。完全なる不名誉を、他でもないユースティアナ自身が認めたのだ。
思わず二人はアイリスを見た。姉をあれだけ慕っていたアイリスが、この話を聞いてどう思うのか。これまでの彼女の理想が崩れて、間違いなくいい印象を抱かないであろうことを想像し、思わず顔を青褪めさせた。
「……ということは……お姉様は、魔法を使わずにそこまでの強さを身に着けたのですか!」
「……え?」
思わずレインが声を漏らした。目をキラキラと輝かせたアイリスが、これまで以上に尊敬した眼差しでペコリーヌを見詰めているのが視界に入り、なんじゃこれと目を見開いた。
「何を……」
「魔法が使えないということは、当然戦闘の手札も減ります。だというのに、お姉様は魔王軍の幹部を打倒せしめた。これが素晴らしくなくてなんだというのです!」
「わたし一人の手柄じゃありませんよ……」
「それでも、お姉様が勝利に貢献したのは紛れもない事実。私は、お姉様の妹であることを心から誇りに思います!」
「……そう、ですか。…………あなたは、そう言って、くれるんですね……」
一人はしゃぐアイリスを見て、クレアもレインもほっと胸を撫で下ろした。良かった、最悪の事態は避けられそうだ。そんなことを思いながら、二人の場所へと足を踏み出し。
す、と無言でペコリーヌが踵を返したことで思わず動きを止めた。アイリスも、突然どうしたのだと彼女を呼び止める。だが、ペコリーヌは返事をせず、無言で訓練場を後にしようとした。
「お姉様?」
「……」
「どうしたのですか? お姉様」
「……」
「……お姉様?」
「来ないでっ!」
その背中を追いかけ、彼女の手を取ろうとしたアイリスを跳ね除けた。え、と顔を青くするアイリスを見ることなく、ペコリーヌは震えながら、泣きそうな顔で口を開いた。
「ついてこないで……わたしに近寄らないで……」
「お、ねえ、さま……?」
「あ、はは……本当に、わたし一人で、馬鹿みたいじゃないですか……こんな……こんなことなら、こんな思いをするくらいなら…………いっそ見下してくれた方が良かった! 失望してくれた方が良かった!」
「お姉様! どうして、そんなことを……! 私は決してお姉様を見下したり、失望したりなど」
「聞きたくない! そんな、そんな言葉もう聞きたくない!」
ぶんぶんと髪を振り乱しながら、ペコリーヌは叫ぶ。堰を切ったように、これまでの泥が溢れ出すように。アイリスの言葉も、本心も、彼女にとっては、その泥が流れ出るための後押しにしかならず。
「もういや! 嫌い! 大嫌い! アイリスなんか、だいっきらい!」
「――――っ」
「よし、ギリギリ間に合っ――てねぇ!」
「ペコリーヌ!?」
「追いかけましょう! 主さま、キャルさま!」
訓練場を逃げるように駆けていくペコリーヌ。それを目撃する羽目になった到着したばかりのカズマ達は、即座に反転し彼女を追いかけんと走り出した。
クレアとレインはそこで我に返る。慌ててアイリスへと駆けより、彼女に声を。
「――――」
立った状態と同じ体勢のまま、アイリスは倒れた。そのままピクリとも動かず、まるで呼吸すら忘れたように。
「アイリス様!? お気を確かに!」
「クレア様! アイリス様、息してません!」
いや流石にこれはちょっと。そんなことを言いながら、エリスの担当場所に行きそうであったのを慌てて押し戻す三人の女神がいたとかいなかったとか。
「ちっくしょう! あいつクソ速ぇ!」
「速度を増加させます!」
「ナイスコロ助! って、それでも中々追い付けない!」
城内を駆ける。ペコリーヌの背中を追いかけながら、カズマ達は全力で足を動かした。地の利も体力も圧倒的に向こうに分がある。が、それでも、絶対に見失ってたまるかと彼等はひたすら走り続けた。
「ペコリーヌ!」
「ちょっと、ペコリーヌ!」
「ペコリーヌさまぁ!」
呼びかける。それでも彼女は止まらず、振り返らず、駆けていく。何かから、大切なものから逃げるように駆けていく。
こうなりゃ、とカズマがショートソードを取り出したが、ちょっと待てとキャルが彼の行動を止めた。
「ここでブーストしてもあんたを連れてく奴がいないわよ」
「今はペコリーヌさまを追いかけていますので」
「あ、そうか」
剣を仕舞い、だったらどうすると走りながら思考を巡らせた。女神のブーストを使わないのならば、自分の持っている他のスキルで。そんな事を考え、とりあえず思い付くものを試してやろうと彼は弓を取り出した。
走りながらでは狙いがほとんど付けられないが、《狙撃》でその分をカバー。そして打ち出すのは鏃を取り払った代わりに別のものをくくりつけた特別製。
「そげっき!」
「っ!?」
横ステップで飛来した矢を躱す。背中に目でも付いてるのかあいつ、とぼやくキャルであったが、当のカズマは問題ないとばかりに飛んでいった矢を見ている。
次の瞬間、矢が弾けた。先端にくくりつけられていたロープがまるで生き物のように回避したペコリーヌへと襲い掛かったのだ。
「《バインド》!? ……あんたホント……」
キャルが目を見開く中、ロープはペコリーヌへと巻き付き、彼女を拘束すると床に転がした。よし、と彼女を確保するためにカズマはスピードを緩めることなく距離を詰め。
縄が食い込んで色々きわどいことになっているペコリーヌを見て思わず鼻の穴を広げた。いかんいかん、とすぐに煩悩を振って散らすと、身動き取れない彼女の横に座り込む。
「……何の、つもりですか?」
「何のつもりって、そりゃ……」
視線をキャルとコッコロに向ける。そうやって聞かれると、果たしてどういう理由で追い掛けたのかカズマは説明できなかったのだ。
仕方ない、と同じように拘束され転がされたペコリーヌの横に座ったキャルが、人差し指をピンと立てると説明をするかのように口を開き。
「……コロ助」
「えっ?」
その指をコッコロへと向けた。突然話を振られたコッコロはわたわたと手を振りながら視線を彷徨わせ、他に投げることの出来る者がいないのを確認すると小さく溜息を吐く。同じく拘束されたペコリーヌの横に座っている彼女は、具体的にこれといったものではないのですがと前置きした。
「わたくし達は、ペコリーヌさまの笑顔を、元気なお姿を見たくてここに来ました」
ピクリと彼女が反応した。元気って、どういうことですか。そう尋ね、三人の答えを待つ。いつもの見慣れた、お腹ペコペコのペコリーヌ、大体そんなフレーズが出たことで彼女は自嘲気味に笑みを浮かべた。
「もう、無理ですよ……ペコリーヌには、戻れません」
途中でバインドを解かれたにも拘わらず動く気配のない彼女は、そのまま両手で顔を覆った。泣こうとして、でも泣けずに。ペコリーヌの、普段からは考えられないか細い吐息と鼻を啜る音だけが、そこに響く。困ったように頭を掻くカズマも、あえて何も聞かなかった。
どれくらい経っただろうか。ゆっくりと体を起こしたペコリーヌは、へたり込んだままポツポツと言葉を紡ぎ始めた。自分のコンプレックス、それを覆い隠す仮面、大好きな妹に向けていた暗い感情。だから自分はもう戻れない。そう結論付けるための言葉を述べる。
「……みんなも、わたしなんかよりアイリスと一緒の方がずっと」
「何言ってんのよ」
それを遮った。はん、と彼女の話を鼻で笑いながら、キャルがペコリーヌをジロリと睨んだ。
「魔法が使えない? 実は意外と悲観的? 妹大好きだけど自分の方が弱いから思うところがある? だから何よ、知ったこっちゃないわ」
「きゃ、キャルさま……」
「おいお前それこの状況で言っちゃいけないやつだろ」
コッコロとカズマの言葉を聞いて視線を二人に向けたが、キャルはそれがどうしたといわんばかりの表情だ。
「何よ。あんた達だってそうでしょ? こいつが今言ったのを聞いたところで、何も変わらないじゃない」
「それは、確かに。そうでございますね」
「むしろそんな理由でパーティー抜けるとか言われる方が困るな」
ふむ、と手の平を返したようにキャルの意見を肯定し始めた。その程度の理由など、自分達が離れる要因になりえない。三人の意見は、概ねそう一致した。
そういうわけだ、とペコリーヌを見る。魔法が使えなくとも、実は意外と悲観的でも、大好きなくせに妹へのコンプレックスを拗らせていても。だからどうした、なのだ。
「……優しいんですね、みんな」
俯いたペコリーヌは、そんなことを呟き泣き笑いのような表情を浮かべた。こんな役立たずの出来損ないにそんな事を言ってくれるなんて。そう続け、ゆっくりと首を横に振った。
頑固だな、とキャルは肩を竦める。否、違う、これは頑固というよりも。
「子供か。ったく、おいペコリーヌ」
痺れを切らしたのか、今度はカズマが口火を切った。確かこないだも言ったような気がするが、そう前置きして。
「お前いないとパーティー成り立たねーの。だから、何が何でもお前は連れてくからな」
「……でも」
「うるせー! 大体何なのお前? 今まであんだけ活躍しといて弱いだの役立たずだの、こちとら最弱職の《冒険者》様だぞ! バカにしてんのか!」
「え? いや、そんなことは」
カズマは叫ぶ。自分でもなんでこんなにムキになっているのか分からないが、それでも、絶対に彼女の言うことなど聞いてやらんとばかりに捲し立てる。キャルとコッコロがどこか満足そうな顔でこちらを見ていることなど気にせずに、彼はペコリーヌに指を突きつける。
「王族だから? 知るか! だったらそんなの大したもんじゃないって証明してやる」
「……え?」
「さっきまで散々お前が持ち上げてたアイリスに、この最弱職のカズマさんが勝利してやる。だから――」
完全に勢いだけで喋っている。それは恐らくキャルもコッコロも、そしてカズマ自身も分かっている。それでも彼は止まらない。呆気にとられているペコリーヌの反応など知るかと、思い切り宣言する。
「お前は絶対に、離さないからな!」
アイリスに勝つからお姉さんをください(意訳)