プリすば!   作:負け狐

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今回は愚か者とか爆焔とかそんな感じの話(予定)。


第五章
その79


「はぁ……」

「ふぅ……」

 

 魔王城。そこに戻ってきた魔王軍の中でも最上級に位置する幹部の二人は、揃って溜息を吐いていた。丁度それが重なったことで、お互いにそちらを向き、似たような顔をしているのを確認する。

 

「何だシルビア。お前紅魔の里の襲撃に行ってたんじゃなかったのか?」

 

 黒い髪を肩口程度で切りそろえた泣きぼくろの女性は、その見た目とは裏腹にチンピラのような口調で隣へ話し掛ける。対するシルビアと呼ばれた相手は、右耳ピアスの長身の女性らしき者で、彼女の言葉にげんなりしたような表情を浮かべると再度溜息を吐いた。

 

「紅魔族って、頭おかしいわよね」

「……おう、そうだな」

 

 触れてはいけなかったらしい。まあ生きているならいいやと女性はそこで話を打ち切った。何もお咎めがないところを見ると、魔王軍トップである魔王も承知なのだろう。

 シルビアはそんな女性を見て、それでそっちは何でそんな溜息を吐いているのかと問いかけた。

 

「セレスディナ、貴女は確か幹部の欠員を埋めるために人材探索に行ったのよね?」

「ああ。……その途中でハンスがぶっ殺されたって聞いてな」

 

 追加で幹部候補を用意しなくてはいけなくなった。そんなことを言いながらセレスディナはガリガリと頭を掻いた。成程、と納得したような素振りを見せたシルビアは、そこで何かに気付いたように視線を動かす。

 今現在、魔王と謁見している者が二人いる。ということは。

 

「何か猛烈にアピールしてくる奴がいたから、そいつでいいやって」

「……あいつ、堕天使でしょ? 見たことあるけど、幹部やれるのかしら……」

 

 片方は魔王軍の占い師による指示でスカウトした者だ。勿論今話題にしているのはそうでない方。そんな適当でいいのかという視線をシルビアから受けたが、セレスディナは別にいいだろうと軽い調子で返す。

 

「どのみち、あのレベルを相手に出来る連中なんぞ一握りだろ」

「だから紅魔の里で散々な目に遭ったんだってば!」

「あー……魔術師殺しだっけか? あれを見付ければ余裕なんじゃなかったのか?」

「それが出来たら苦労しないの! 知ってる!? 紅魔の里、紅魔族以外にも頭のおかしいのがいるの! 施設と研究所を調査してる変なのがいるの! 上級悪魔がいるの! でもあの騎士はちょっとタイプだったわ」

 

 何かを思い出していやんいやんと悶えるシルビアをジト目で見ながら、ああはいはいと彼女は流す。それならとりあえず紅魔の里以外を攻めていればいいだろう。そんなことを思いながら、いや待てよ、と顎に手を当てた。

 

「ベルディアが消息を絶った場所と、ハンスがぶち殺された場所はどっちも違う……。ちょっと、調査した方がいいのかもな」

 

 さしあたってアルカンレティアは行きたくないので、必然的にもう一つの方になる。

 駆け出し冒険者の街アクセル。その枕詞に騙された魔王軍幹部がまた一人、哀れな犠牲者になろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「ど、どどどどどうしようどうしよう!」

「あわ、あわて、あわわててての濡れ手に粟泡!」

『落ち着いて』

 

 アクセルの街の西、そこに広がる小さな森には特徴的な大木がある。知る人ぞ知るそこで、一枚の手紙を広げながら完全にテンパっているゆんゆんがいた。アオイもついでにパニックになっている。若干浮いている幽霊プリーストのルーシーが、そんな二人を宥め落ち着かせていた。毎度おなじみ、BB団の光景である。

 

『それで、一体どうしたの?』

「あ、はい。実は」

 

 手紙をそこにいる皆に見せる。アオイはつまり見てもいないのに慌てていたわけだが、それはアオイなのでしょうがない。ともあれ、その手紙の一枚目を読んだアオイは顔を真っ青にして震えだした。ルーシーも、少しだけ真剣な表情を浮かべている。

 そして二枚目。それを読み終えると、アオイは色々通り越したらしくキリリとした表情で佇んでいた。何かを決意した、そう思えるほどの顔である。

 

「あのさ」

 

 そんな三人の横合いから声。視線をそちらに向けると、森の象徴とも言える大木から体を出している女性が、呆れたような表情で三人を見ていた。どうしたんですか、とゆんゆんが女性に問い掛けると、彼女は呆れたような表情を崩さずにちょいちょいと手紙の端を指差す。

 

「紅魔族英雄伝って書いてあるけど」

「あぁぁぁぁあああ!」

 

 小説だったらしい。絶叫しながら手紙をくしゃくしゃにすると、ゆんゆんはそれを横にあった泉へと投げ捨てる。やめい、と女性はそれを寸前でキャッチした。

 

「ここはゴミ捨て場じゃない! ったく……」

「あ、ごめんなさい王女さん、つい」

「そもそもの問題として、ここをBB団拠点とかいうのにするところからやめて欲しいんだけど」

「え? でも安楽王女さんここ動けないじゃないですか」

「アオイ、何言ってんのこいつみたいな目で見るのやめてくれる?」

『まあまあ。おかげで討伐クエストも破棄されたことだし』

「その代わり養分になる孤独死の冒険者も来なくなったんですけどぉ! 光合成とあんたらの弁当で栄養を取るエコ生活まっしぐらなんだぞ!」

 

 ゼーハーと肩で息をする安楽王女と呼ばれた女性は、まあいいと諦めたように項垂れた。それでどうするのかとゆんゆんに問い掛ける。

 

「どうするって、何がです?」

「二枚目はともかく、一枚目は普通の手紙でしょ。何か物騒なこと書いてたやつ。それともあれも創作だったりすんの?」

 

 え、とゆんゆんは安楽王女から手紙を受け取り、改めて一枚目を確認する。こちらは間違いなく手紙で、差出人は彼女の父親。そして、この手紙が届く頃には既にこの世にいないという書き出しから始まっていた。

 アオイの顔が真っ青になる。焦点の定まらない目でキョロキョロと周囲を見るその姿は、当事者であるゆんゆんより相当危ない。落ち着いて、というルーシーの言葉で、ようやく呼吸を思い出した程だ。

 

「……紅魔の里に、行ってみます」

「手紙が本当なら、相当危険だと思うけど」

 

 ゆんゆんの言葉に、安楽王女はそう返す。それでも、と彼女は述べた。自分の故郷だから、たとえどうなっていても。そんな言葉を続けた。

 仕方ない、とルーシーが苦笑する。今の自分は、BB団の地縛霊。そこにBB団がいるのならば、彼女にとって縛られる場所だ。だからゆんゆんに同行するのは何の問題もない。

 

「わた、わたち、私も! び、びBB団の一員として! 一緒に行けたらそれはとてつもなく恐悦至極で」

「ありがとうアオイちゃん!」

「はひぃぃぃ!」

「いやいい加減あんたら二人だけのやり取りは慣れろよ……」

 

 がっしとアオイの手を掴むゆんゆん。そしてパニックが加速するアオイ。そんな姿を見ながら、安楽王女は呆れたように溜息を吐いた。

 そんな彼女に、ルーシーが問う。それであなたはどうしますか、と。

 

「は? 私はここに根を張ってんだから動けないっての」

『では、そこの苗木は一体なんでしょうかね?』

 

 ぐ、と彼女が呻く。戦利品の中にあったらしい植木鉢に植えられたそれは、超小型安楽王女とも言えるような苗木で。

 

『孤独死を看取り続けて養分にしていた魔物の方が、本当は孤独を抱えていた。それを見出してBB団に入れたあの二人の手腕は、流石ですね』

「ちっげーから! そういうんじゃないから! 実際獲物無くなって困ってんだからな!」

『はいはい』

 

 優しい眼差しで自身を見詰めるルーシーに、安楽王女はあらん限りの罵詈雑言をぶつけ続けた。

 そして当然のように、苗木を介して安楽王女も同行することになった。

 

 

 

 

 

 

「はーい! こちら注文の品ですね!」

「ありがとーペコリーヌちゃーん!」

 

 アクセルの街、ギルド酒場。ここのところ連日大盛況のそこでは、久しぶりにウェイトレスに復帰したペコリーヌがあっちへこっちへと動いている。客はそんな彼女を見て、ああやっぱりペコリーヌちゃんは最高だ、と頬を緩ませるのだ。

 主に胸部の揺れを見て。

 

「……ったく。いい気なもんだ」

「あれ? ダストはペコリーヌ目で追わないの?」

 

 そんな酒場の一角で、アクセル随一のチンピラと名高い冒険者ダストが不貞腐れたような表情で酒を飲んでいた。その対面に座っているパーティーメンバーの少女リーンが、そんな彼の態度を見て不思議そうな顔をしている。

 

「俺にも好みがあんだよ」

「ふーん……?」

 

 どう見ても信じていない顔だが、リーンはそれ以上踏み込まなかった。何か事情があるのだろうと思ったのだ。とはいえ、多分くだらないものだろうとも思っていたのだが。

 そんなことを思っていると、件の人物であるペコリーヌがこちらにやってくる。注文の品ですよ~、とリーンの前に野菜スティックを置いた。

 

「ありがと。ねえペコリーヌ、最近何かあった?」

「どうしてですか?」

「んー、なんて言うのかな。これまでより、すっきりした顔してる気がして」

 

 そんな彼女の言葉に、ペコリーヌは目をパチクリとさせた。次いで、普段とは少し違う微笑を浮かべる。それはまるで、冒険者の少女というよりは、どこかのお姫様のようで。

 

「そうですね。……家族と、前より仲良くなりましたから」

「そっか。うん、それならよかった!」

「はいっ!」

 

 そう言って満面の笑みを浮かべる少女を見て、リーンも同じ様に笑顔になる。

 対面のダストは、そんな彼女を見てどこか苦い顔を浮かべていた。自分の古傷に触れたような、叶わなかった願いを見せ付けられたような。そんな嫉妬と八つ当たりのような感情が浮かび上がり、馬鹿馬鹿しいと彼は切って捨てた。

 それでも、やっぱり。

 

「貴族は好かねぇ」

「どうかしたんですか? ダストさん」

「別に。最近ご無沙汰だから、相手してくれる奴いねーかなって思ってたんだよ。何ならあんたでもいいぜ?」

「……本気で言ってるなら、そうですね……」

「え? ペコリーヌ迷うの?」

 

 ガタン、と椅子を倒しながらリーンが立ち上がる。考え直して、と思い切り必死の形相で彼女へと詰め寄った。

 詰め寄られた方は、いや迷ってませんよと即答する。勿論断りますし、とついでに続けた。

 

「わたしが考えたのは、あの人が怒るんじゃないかな~って」

「あの人?」

 

 ピクリとダストの眉が動いた。そうだよな、と心中で毒づく。目の前の相手は、まだ自分が『ダスト』ではなかった頃にも見たことがある人物。当然向こうもそれを承知だ。直接対面していないとはいえ、あのお方から話は聞いているだろう。お互いに詮索しないと暗黙の了解を保っていたが、どうやら吹っ切れたついでにデリカシーまでなくしてしまったらしい。

 これだから貴族は。そんなことを思いながら、ダストはジロリとペコリーヌを睨む。その視線を受けた彼女は、変なこと言ったお返しですよと目を細めた。

 

「ちょっとダスト! あんた決まった相手がいたの!?」

「いねーよ。ペコリーヌのでたらめだ」

「……ほんとに?」

「ああ。……ん? 何だ? お前ひょっとして妬いてんのか? ったく、俺に惚れてんならもっと分かりやぶべっ!」

 

 最後まで言うことなく、リーンが思い切り杖をフルスイングした。盛大に吹き飛ぶダストを見ながら、彼女はふんと鼻を鳴らし席を立つ。いつものことなので酒場の連中は何も言わず、騒ぎにすらならない。ペコリーヌもあーあ、という顔をしているだけである。

 そのまま酒場の入り口へと向かったリーンは、丁度そこに入ってくる相手とすれ違った。何とも小柄な少女で、恐らくコッコロと同じくらい。こんな酒場に子供が何の用だろうと彼女は思わず少女を目で追ってしまった。

 ふわりとしたツインテールに軍帽らしきものを被っているその少女は、酒場を暫しキョロキョロと見渡す。確かここにいると聞いたのだが。そんなことを言いながら視線を彷徨わせていたが、やがてお目当てを見付けたのかそこで動きを止めた。

 いてて、と立ち上がって頬を擦るダストを見て、である。

 リーンが目を見開いているのをよそに、少女はつかつかとそこへ歩いていく。途中で彼女はペコリーヌに気付くと、あれ、と素っ頓狂な声を上げた。

 

「……何をやっているのですか、ユースティ」

「いらっしゃいませー! お一人ですか?」

「え? あ、いえ。もう一人、います」

 

 少女の声を遮るようにペコリーヌが叫ぶ。そんな彼女に面食らった少女は、しかし何となく察すると言葉を返した。流石はうちの姫の友人をやっているだけはある。ついでにそう零した。

 

「は? おいちょっと待て! もう一人!?」

 

 そして少女の言葉に反応したのがダストだ。思わず立ち上がり、少女を思い切り睨み付けてしまう。

 対する彼女は彼を見て呆れたように息を吐いた。それはそうだろう、と言葉を紡いだ。

 

「貴公に代わりあのお方の無茶振りを受けているのは私だぞ」

「……ここに、来るのか?」

「既に来ている」

 

 ダストの反応は早かった。即座に反転し、酒場から逃げようと足を動かす。入り口は駄目だ、逃げるならば窓、それも上。そんなことを考えながら、階段を駆け上がる。

 

「あ! 待てライン! 何故逃げる!」

「当たり前だろうがモニカ! あと俺はダストだ! 間違えるな!」

「あ、そうだったな、すまない。ではダスト、昔のよしみで忠告させてもらうが」

 

 聞く耳もたんと二階に向かったダストは、そのまま手頃な窓から飛び出すために更に足を。

 

「どこへ行く気?」

 

 その足を払われた。うおぉ、とバランスを崩してすっ転んだ彼は、床に寝そべりながら何しやがると相手を睨み付ける。睨み付けて、即座に後悔した。

 酒場には似つかわしくない格好ではあるが、しかしそれは普段の彼女からすれば十分に地味だ。ドレスでもなく、普通の服装なのだから。そんな感想を抱きつつ、そういえばあの時の格好もこんな感じだったとダストはぼんやり思う。現実逃避である。

 トントンと階段を上ってくる音がする。先程の少女モニカと、ついてきたペコリーヌがどこか苦笑しつつすっ転んだダストと転がした少女を眺めていた。

 

「私が貴公に近付いた時には、既に侵入していたぞ」

「もう、どうして気付かないのかしらね。勘が鈍った?」

「……やばいですね」

 

 モニカと少女、そしてペコリーヌの声を聞きながら、ダストは何とも言えない、どうしようもない感情を持て余していた。

 ただ言えるのは、これはきっと。

 

「何でこんな簡単に来やがってるんですかちくしょーめ!」

 

 あの時の、あのやり取り。ひょっとしてただの茶番だったんじゃないのか。そんなどうしようもない後悔と。

 

「だって……会いたかったんだもの」

「……ぐっ」

「さて、私は何も聞いていません」

「護衛騎士も大変ですね」

「……そこの、今はダストと名乗っている彼よりはマシです」

 

 それでも、再会に心動かされている自分の女々しさだ。

 

 




グラブルじゃねーからな!

……神バハでもないよ(こっそり付け足し)
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