プリすば!   作:負け狐

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???「そっかぁ、つまり弟くんの好みのタイプはお姉ちゃんなんだね!」


その82

 と、いうわけで。

 

「だから駄目だって言ったじゃねーかよ! それはこの街の塩漬けクエスト筆頭なんですってば!」

「大丈夫よ。パーティーメンバーだって充実してるでしょ?」

 

 ダストが必死で説得を試みようとしているが、リオノールは聞く耳持たない。というよりも、問題ないと確信をしているようにも思えた。

 そんな彼と彼女を見ながら、カズマは非常に冷めた目をしていた。女好きで、金にだらしなく、不真面目なチンピラ。ダストを評価すると大体こんな単語がポンポン出てくる。そういう扱いをされている、街でも有名なダメ男がだ。

 あんな状態なのを、カズマが許容できる訳がない。

 

「せっかくの冒険なんだから、楽しまなきゃ損でしょ?」

「そりゃ、ひ、じゃない、リールは楽しめるでしょうけど。俺は全然」

「そう? その割には、口元緩んでるけど」

「……気のせいじゃないですかね」

 

 リオノールの言葉にそっぽを向いたダストは、そこで生暖かい視線を向けているモニカを視界に入れた。なんだかんだ言ってやっぱりそうか。そんなことを言わんばかりの表情であったので、彼は苦い顔を浮かべてうるさいと返す。

 

「……楽しそうじゃない」

「んあ? おいリーン、お前これが本当に楽しそうに見えるのかよ」

「見える」

「どう見ても変人に引っ掻き回されている気の毒な好青年だろ」

「好きな人と一緒になって騒いでる馬鹿にしか見えない」

「待て待て待て。誤解がある。お前は盛大に誤解している」

「愛してるわよダスト」

「リールはちょっと黙ってろ、ください!」

 

 あーあこれだからリア充は。吐き捨てるようにそんなことを思いながら、カズマは目的地までの道を行く。その隣で一緒に歩いているペコリーヌが、何だか不機嫌そうですねと苦笑していた。

 

「やっぱり、無理矢理誘っちゃったから」

「いや、それは別にいいって。あ、でも危険になったらちゃんと守ってくれよ」

「それは勿論。わたしに任せてください」

 

 どん、と胸を叩く。当然のようにばるんと揺れるので、カズマはそれを見てダストのモテっぷりの溜飲を下げた。

 その少し後ろを歩くのはセレスディナ。何でか知らないうちにプリースト担当として今回のパーティーに組み込まれた女性である。そして彼女の心中としては。

 

(どいつもこいつもイチャイチャしやがって)

 

 大分げんなりしていた。

 顔の造形はともかく、人間としてはパッと見どちらも冴えない男だ。美少女だと一目瞭然の面々が、そんな奴らを好意的に見ている。同性のセレスディナですらこれを見てそう思うのだ、異性の冒険者であったのならばもっと負の感情を湧かせていたことであろう。

 そういえば魔王軍幹部の仕事って出会いないわ。今更ながらそんな事実に気付いたセレスディナは、一人こっそりと目が死んだ。

 

「それにしても、えっとカズマ君だったっけ? 良かったの?」

 

 一通りダストをからかい終えたリオノールがこちらを向く。割と無理矢理連れてきちゃったけど、と少しだけ眉尻を下げながらそう続けるのを見て、意外と常識人なのかとカズマの彼女への評価が変わった。感覚が麻痺しているだけである。

 

「いいよな? カズマは俺の親友なんだし、こういうときは持ちつ持たれつだろ?」

「俺お前に持たれたことないんだけど」

「何言ってやがる。色々助けてやってんじゃねぇかよ」

 

 そう言ってニヤリと笑うダスト。その色々に何か含むものを感じたカズマは、はいはいそうですかと流しにかかった。

 

「ところで親友でもなんでもない知り合いのダスト」

「何だお互い固い絆で結ばれた親友のカズマ」

「……お前、彼女いたんだな」

 

 は、とダストの動きが止まる。一方カズマの言葉を聞いたリオノールは、ああやっぱり分かっちゃうかしらと頬に手を当てていやんいやんと体をくねらせた。

 

「カズマ、いいか? 世の中にはな、言っていいことと悪いことがあるんだぜ?」

「どの口が言ってんだよ」

「リーンといいお前といい。どこをどう見るとこれが俺の彼女に見えるんだよ!」

「どっからどう見ても」

 

 てい、とダストに背中から抱きついているリオノールを見ながら、カズマがジト目でそう返す。鬱陶しい、とそんな彼女を背中から引き剥がすと、ダストはモニカへとそれを押し付けた。

 

「ちゃんと手綱握っとけ!」

「貴公がそれを言うのか?」

「どう見ても悪化しているだろうが」

「……だから、貴公がそれを言うのか、と私は言ったのだ」

「……ちぃ」

 

 心当たりがあったらしい。モニカの言葉にバツの悪そうに視線を逸らすと、カズマにもう一度だけ言葉を紡いだ。彼女ではないし、付き合ってもいない、と。述べた対象はあくまでカズマであったが、それはまるで別の誰かに向けていたようで。

 

「つーかだな。お前の方こそ、人に言えた口かよ」

 

 即座に表情を戻したダストが、カズマを指差して口元を歪めた。その指をほんのちょっとだけ横にずらすと、そこには一人の少女が立っているわけで。

 

「いつから付き合い始めたんだよ」

「はぁ? なにいってんのおまえ?」

「とぼけんなよ。……なあ、お前もうペコリーヌと」

「《クリエイト毒泥団子》」

 

 クリエイトアース、クリエイトウォーター、毒精製を組み合わせた《冒険者》というよりカズマならではのスキル。それを唐突に使用したということは、間違いなくダストにぶつけようと考えているわけで。

 

「まあ待て。それは冗談としてもだな。この間から結構話題になってんだぜ? あいつらなんか距離近くねぇかってな」

「いつもこんなもんだろ。大体こいつ、コッコロとかキャル相手だと抱きついてるし」

「そうですね~。あんまりそういうの意識したことはなかったんですけど…………近かったですか?」

 

 指をもじもじさせながらペコリーヌがカズマに問う。だから大して変わってない、と答えた彼は、ダストを変なことを唐突に言い出した奴という目でしか見ていない。

 そんなカズマをダストは暫し眺める。これは本当に彼女のそれを他の仲間のそれと同じだと考えているのか。それとも。

 まあいい、とダストはそこで思考を打ち切った。現状、これ以上突っ込むと自分に返ってくるのが目に見えていたからだ。リオノールがやらかさないはずがない。そんな信頼を持っていたからだ。

 王女がどこの馬の骨かも知れぬ冒険者と恋仲になる。そんな事例を目の前で繰り広げられたら、絶対に。

 

「あ、ねえカズマ君? ちなみに、あなたの好みのタイプってどんな人?」

「へ? そう言われても……しいて言うなら、ロングのストレートで胸が大きくて俺のことを甘やかしてくれる人かな」

「へー……」

 

 リオノールの視線が露骨に一人の少女に向けられる。リーンも思わず一人の少女に目を向けていた。モニカも何となく察し、思わず吹く。

 

「ペコリーヌじゃねぇか」

 

 ダストの呟きは、幸いなことにセレスディナにしか聞こえていなかった。そして聞こえていた彼女はというと。

 

「レジーナ様、偉大なる傀儡と復讐のレジーナ様……どうかこいつらに天罰を……! 畜生リア充呪われろ……っ!」

 

 思いもよらぬところでダメージを受けていてそれどころではなかった。

 

 

 

 

 

 

 クエストの目的地はアクセルから少し行ったところにある山岳地帯。そこにいるとあるモンスターをどうにかするのが今回の依頼だ。

 

「……一応、確認をしますが」

 

 セレスディナがリオノールから見せられた依頼書を再度眺めながら口を開く。既に一行はそこに足を踏み入れているため、該当の魔物に気付かれていてもおかしくはない。だから、逃げるのならば早い方がいい。そういう意味も込めて、彼女は述べた。

 

「グリフォンとマンティコアが縄張り争いをしているので、その両方の討伐、ですよね?」

「ええ、そうよ。冒険者生活の第一歩として相応しい依頼でしょう?」

「最初の一歩で終わりを迎えるんですけどぉ! いや本気で、やるんですか?」

「……あのねダスト。私だってただ何も考えずに行動しているわけじゃないの」

 

 絶対嘘だ、とダストとモニカがリオノールを見る。その視線を受けても動揺することなく、彼女は指を立てながら言葉を続けた。確かに強力な魔物ではあるが、魔王軍幹部や大物賞金首と比べれば幾分かランクは落ちる。数が問題なだけで、各個撃破する分には十分な戦力が揃っていれば問題はない。ゆっくりと説明するように述べたことで、成程、と思わずリーンは頷いた。モニカとダストはハイハイソウデスネと流した。

 

「えーっと、リールさん?」

「どうしたの? カズマ君」

「十分な戦力って言った?」

「言ったけど。それがどうしたの?」

 

 リオノールを見て、モニカを見て。そしてリーンとダストを見た。

 

「無理だろ」

「おいカズマ。お前自分は十分な戦力側に入ってると思ってんじゃねぇだろうな?」

「当たり前だろ? 俺はな、あの王国最強の一角と言われたベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス第二王女をこてんぱんにのした男だぞ」

「……え?」

 

 リオノールが目をパチクリとさせる。視線をペコリーヌに向けると、苦笑しながら視線を逸らすのが見えた。間違ってはいないと言えなくもないんですけど、そう呟いているのがついでに聞こえた。

 

「……カズマさんは、それほどの強さなのですね」

 

 そして彼女以上に食いついたのがセレスディナ。思わず目付きが鋭くなったのを深呼吸して抑え、外面用の笑みを浮かべて彼に述べる。

 

「勿論。アクセルが誇る冒険者カズマ様とは俺のことさ。デストロイヤーの討伐という偉業も、この俺がいたからこそ」

「へぇ……デストロイヤーも」

 

 調子に乗ってペラペラと喋るカズマに笑顔を見せながら、セレスディナは言葉の真意を探る。ただのホラ吹きなのか、それとも本当に。

 ないな、無い無い。彼女はそう結論付けた。こんな大したステータスでもない冴えない男がそんな力を持っているはずがない。第一印象を全く覆せていないカズマは、セレスディナにとって評価に値しないレベルのままだ。大方この街にいるという変人の功績をさも自分のことのように語っているだけだろう。そんなことを思う。

 そうしながら、逆に言えばそれだけの力を持った何者かがこの街にはいるということだ。やはりベルディアが消息を絶ったのはここでその人物に討伐されたのだろう。警戒度を高めながら、彼女は後で報告をまとめ魔王城へと送ろうと心中で頷いた。

 そこまで考え、あ、ちょっと待ったと我に返る。

 

「あの……討伐は大丈夫なのですか?」

 

 目の前の男がホラ吹きならば、グリフォンとマンティコアの同時討伐など無理に決まっている。そして魔王軍幹部ではあるが、通常戦闘でいうならば普通の冒険者に毛が生えた程度であるセレスディナは、勿論勝てない。レジーナ教徒である彼女は相手から受けたダメージを反射させるという加護を持ち合わせてはいるが、最近何故か信徒が増えてきて加護の一点集中が終わったおかげで弱体化した上に任意発動に変更され、これを決定打にするには発動した上で殺されて呪いをばらまくことにしか使えないわけで。そもそも魔獣相手にそんな脅し的な加護などあってもしょうがない。

 つまりは、彼女はここで死ぬ。

 

「えっと、セレナ殿……? 流石に貴公の思っているほど絶望的ではないので、そこは安心して欲しいのだが」

「……信じてもいいのですか?」

「ああ。そこのカズマ殿は未知数だが、お嬢様とユ、ペコリーヌ殿は戦力的に申し分ないぞ」

 

 緊張をほぐすようにモニカはそう言って笑みを浮かべた。まあ確かになんだかんだ強いしね、とリーンもそれに同意するように言葉を続ける。まともそうな二人がそう言ったことで、セレスディナも表情を僅かに緩めた。ちなみに、セレナ、というのは彼女が名乗っている偽名である。変装を濃くした割には、名前の方は普段の偽名を使ってしまったらしい。

 そんなことを言いながら山を登っていった一行であったが、そろそろ何も考えずに歩くにも限界が来た。警戒を怠ると、奇襲で大打撃を受けかねないからだ。

 ではどうするのか。そんなことを言いながら中腹辺りで足を止めたカズマ達は、リオノールが無駄に自信満々な表情を浮かべているのを見た。服の胸元に手を突っ込んで何やらゴソゴソとやっている。ちょっと見えそうだったが、そういうのに食いつくはずのダストは無反応、といよりもげんなりした顔をしていた。

 

「じゃーん。こんなこともあろうかと」

 

 そう言って彼女が取り出したのは何やら謎の物体。他の面々が首を傾げている中、カズマだけはどことなく見覚えがあるフォルムだったので眉を顰めた。

 

「ドローン?」

「あらカズマ君、これのこと知ってるの? でも違うわね、これは《コンパクトぷかぷかユニコプター》。搭載されている謎の愛玩鉱物量産型ロゼッタが何となくふわっと命令を実行してくれるすぐれものよ」

「優れたところが見当たらないんだけど。まあ、ある意味優れてるかもしれんが」

「はい、じゃあユニコプター、グリフォンとマンティコアがどの辺にいるか調査してちょうだい」

「それでいけんの!?」

 

 カズマのツッコミを余所に、ユニコプターはふわりと浮かび上がる。そのままふわふわと風船のように揺れると、ゆっくりと回転を始めた。

 

『ぽーん。調査対象のグリフォンとマンティコアの情報を雑に検索、これよりそれっぽいのをとりあえず探して追跡します』

「喋った!?」

「いやツッコミどころそこじゃねぇよ! いやそこもそうかもしれないけど!」

 

 ススイーっと飛んでいってしまうユニコプター。それを目で追っていった一行は、見えなくなるまで見送った後、視線をリオノールへと移した。あはは、と苦笑している彼女を見た。

 

「調査の役には立ったでしょ?」

「あれほんとに役に立ってるんですか……?」

「何よ、ユニちゃんの発明を疑うの?」

「俺はリールを疑ってます」

 

 ジト目のダストを受け流しながら、リオノールはとりあえず待ちましょうと近くの岩に腰を下ろした。ユニコプターが役立たずかどうかはその時に判断すればいい。

 ふと、その頭上に影が差した。曇ったのかと見上げたカズマは、そこで思わず動きを止めてしまう。

 バサリバサリと翼をはためかせながら、獅子の胴体と鷲の頭を持った魔獣が下降してくるところだったからだ。

 

「あ、グリフォン」

「言ってる場合じゃないですからね! モニカ、とりあえずリールを安全な場所に――」

『ぽーん。対象をグリフォンと断定。いい感じに引っ張ってきたマンティコアと合わせて調査対象コンプリート』

「――は?」

 

 背後からそんな音声が聞こえた。降りてくるグリフォンとは逆方向、そこに視線を動かすと。

 

「お、ナンカへんなモン追い掛けてきてみリャ、いいカンジのエモノがいるじゃネーノ」

 

 獅子の身体はグリフォンと共通だが、それ以外が異形の姿をした化け物。人間のような顔とサソリの尾、そしてコウモリの翼を持つ魔獣、マンティコアがそこにいた。

 

「ひぃぃぃめぇぇぇ!」

「タイミングが悪かっただけでしょ!? 私は悪くないわよ!」

「言っている場合ですか! ダスト、お嬢様を頼む!」

 

 がし、とリオノールの襟首を掴み、リーンの手を取ってダストがすぐさまその場から退避する。それに合わせるように、カズマもペコリーヌと共に急いで駆け抜けた。

 セレスディナもそれに続く。何でこんなことに、とぼやきながら。

 

「あたしは本来追いかける側なんだよぉ! 何で追い掛けられてんだぁ!」

 

 さもありなん。

 

 




おーけー、貴様さては理系だな?

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