プリすば!   作:負け狐

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拙者プリンセスストライクの締めのカーテシー大好き侍


その83

「それで!? この状況からどうやって各個撃破するんだよ!」

「うんうん、段々言葉遣いも荒っぽくなってきたわね。その調子で、最終的には名前を呼び捨てに」

「言ってる場合ですかね!?」

 

 全力ダッシュしながら叫ぶ。カズマ達とは微妙に離れてしまったおかげで、戦力の一点集中も出来ない状況だ。ダストはジロリとリオノールを睨むと、もう一度彼女に問い掛けた。それで一体どうするのだ、と。

 

『ぽーん。その質問には具体性が足りません。もう少し細かい指示をどうぞ』

「うるせぇ! お前には聞いてねぇんだよ!」

 

 ふよふよと浮かんでいるユニコプターが空気読めない音声を発する。無視できなかったダストが律儀にツッコミを入れていた。

 

「そうね。とりあえずマンティコアの方が知能は高そうだから、あっちを先にどうにかしましょう」

「軽い調子で言ってるけど、マンティコアって上位モンスターだよ!? 私とダストじゃ相手にもならないって!」

「ん?」

 

 リーンの叫びにモニカが怪訝な表情を浮かべる。どういうことだ、とダストを見ると、無言で肩を竦められた。ついでに、腰の剣を軽く叩く。それで合点がいったように苦笑すると、彼女は仕方ないと急ブレーキをかけて作戦変更だと剣を構えた。

 

「モニカさん!?」

「ここは私が引き受けよう。リーン殿、ダスト、お嬢様をよろしく頼む」

「ちょ、ちょっと!? 一人じゃ」

「おう、じゃあ頼んだぜ」

 

 躊躇うことなくダストはモニカを置いていく。手を掴まれているのでリーンもそれに引っ張られ、リオノールはそれを見て自分もとダストの手を握った。

 

「離してよダスト! モニカさんが!」

「馬鹿野郎、あいつの犠牲を無駄にするな。俺達は生き延びるんだ」

「だって……そんな……」

「ダストダスト、リーンちゃん信じちゃうからその辺にしておいたほうがいいと私は思うわよ?」

 

 へ、と涙を浮かべていたリーンが素っ頓狂な声を上げる。そうしながら、そういえばとリオノールを見た。行動を共にしていた彼女が、微塵も動揺をしていない。

 どういうことだ、と暫し疑問符が頭に浮かんでいたリーンであったが、ダストに引っ張られるまま駆け抜けた先、そこで見覚えのある人影を見付けて我に返った。どうやら彼の目的地はここだったらしい。

 

「おうカズマ、調子はどうだ?」

「俺を誰だと思ってんだよ。ペコリーヌ!」

「はいはい、っとぅ!」

 

 グリフォンを迎撃するペコリーヌをカズマはドヤ顔で紹介する。どう考えても自分の功績ではないと思うのだが、それを感じさせないくらい彼の言葉には迷いがなかった。

 すとん、とペコリーヌが着地する。少しだけ汚れていたが、目立った外傷は見られず、その表情には余裕も見えた。

 

「ん~。ここのところ大物と戦ってなかったんでイマイチ実感できなかったんですけど、やっぱり少し勝手が違いますね」

 

 くしくしと頭上のカチューシャを撫でながら彼女は苦笑する。それを見て、そういえばとリーンは気付いた。以前はティアラのようなものをつけていたはずのペコリーヌだが、今は違う。ちょっとしたイメチェンだと思っていたが、その口ぶりからすると何らかの事情で変更した装備だったらしい。

 

「まあ、ア――妹のイリスは普通のサイズのグリフォンなら多分一撃ですし、姉としてはもっと余裕でぶちのめしたいとは思うんですけど」

「通常サイズのグリフォンを一撃……?」

 

 横で聞いていたセレスディナが思わず彼女を二度見した。ところどころ聞こえてくる情報を纏めると、この街の戦闘力は頭がおかしいレベルに跳ね上がる。大袈裟に言っているだけだと切って捨てるのは簡単だが、もし本当だった場合、待っているのは魔王軍の敗北だ。なれば、魔王軍を勝利に導くためにも、より正確な情報がいる。

 

「でもあれ、明らかに大きいよね?」

「縄張り争いを続けていたからでしょう。やばいですね☆」

 

 キングサイズのグリフォンを見ながら呟いたリーンの表情は強張っている。が、現状それと同じ表情をしているのは彼女とセレスディナくらいだ。カズマはもとより、ダストもリオノールも言うほど緊張はしていない。気になるのは、ここでもう一体が再度合流するか否か。

 

『ぽーん。調査対象であるマンティコア接近中。おかわりもあるよ』

「は?」

 

 ユニコプターが何か言い出した。ふよふよと飛んでいるそれに視線を向けると、こちらに駆けている小柄な少女の姿が一つ。

 そして。

 

「すまない! マンティコアは番だったらしい!」

 

 それを追いかける、二体のマンティコアだ。

 

 

 

 

 

 

 グリフォンと二体のマンティコア。挟み撃ちの形になったことで、状況としては絶体絶命だ。

 先程ペコリーヌに弾き飛ばされたグリフォンは、小高い崖の上に立ったままこちらを見下ろして様子をうかがっている。あわよくば共倒れをしてもらおうと小賢しいことを考えているのか、それとも。

 

「ど、どうする……? 先にグリフォンか? それともマンティコアか?」

『ぽーん。一般的なレベルではマンティコアがグリフォンより格下です』

「おいオイ、そこの変なノ、言ってくれルじゃねーノ」

 

 最初からいたマンティコアの雄がユニコプターの音声を聞いて目を細める。どうやら挑発と受け取ったらしい。サソリの尾をムチのようにしならせ、一歩踏み出すと手近な相手にそれを突き立てる。最初から決めていたのか、その視線は真っ直ぐにカズマへと向けられていた。

 

「俺ぇ!?」

「オットコマエな兄ちゃんヨォ、俺の太いのを一発ぶすりト」

「させませんよ!」

 

 ペコリーヌが割り込み、サソリの尾を剣で弾く。あっさりと防がれたことでマンティコアの動きが一瞬止まった。そこを逃さず、リオノールが呪文を唱えぶっ放す。異様なデカさの火球が、カズマ達の背後から飛来した。

 

「すご……」

「やりすぎだ!」

「だってー。一撃で仕留めるにはあれくらい必要でしょ?」

 

 呆然とするリーンとは違い、ダストはそれくらい出来ると分かっていたので驚きは少ない。が、まさか遠慮なくやるとは思ってなかった。だからこその反応である。

 ちなみに火球はマンティコアに躱され、その背後にある崖に着弾した。当然爆発とともに吹き飛び、それまで開けていた空間があっという間に土砂で埋まる。

 

「成程ナぁ、逃げ道塞グたぁ、中々やるジャねぇか」

 

 余波でダメージを受けはしたが、そこは上位モンスター、それだけで倒されるほどやわではなかったらしい。目の前の連中が油断できない相手だと認識し、表情を引き締め雌のマンティコアに視線を送る。

 

「そうは、行きませんよ!」

 

 そのタイミングでペコリーヌが駆けた。注意が逸れた一瞬の隙を突き、マンティコアの懐へと飛び込む。

 

「セレナさん、支援頼んだ!」

「へ? あ、はい!」

 

 カズマの叫びに我に返ったセレスディナがペコリーヌに支援を飛ばす。そうしながら、何でこんなことやってるんだろうと自問自答して凹んだ。自分はただ、ちょっと街の様子を調査して帰るつもりだったのに。

 ギロリと雌のマンティコアがセレスディナを睨む。厄介な支援職を仕留めるのはセオリーだ。それを実行しようとペコリーヌを避けるように飛び退り、そして跳んだ。

 

「あぶねぇ!」

 

 とっさに彼女を掴むと、カズマは緊急回避を発動させる。一瞬遅れでサソリの尾が地面に突き刺さり、大地に亀裂を作った。セレスディナが食らえばハヤニエになっていたであろう。魔王軍幹部、マンティコアに殺られる。明日の魔王城はこの噂で持ちきりに違いない。

 

「チョロチョロ動き回ってんじゃねーよ! 《狙撃》!」

 

 心臓バクバクさせながら、それでもカズマは弓を放つ。最近紙一重で死に損なうことが多くなった気がする。そんなことをぼんやりと思った。が、まあ前回までよりマシだ。ついでにそう結論付けた。

 そんなものが効くかと言わんばかりに魔物は尻尾の先で矢を弾く。が、触れたそこから何かが発動したことでマンティコアはべしゃりと倒れた。体が思うように動かない。その原因が先程弾いた矢であるということに気が付くのに、そう時間は掛からなかった。

 

「……何をやったんですか?」

「ただの麻痺矢だよ。弾かれてもいいように《ブービートラップ》込みだけど」

 

 何いってんだこいつという目でセレスディナはカズマを見た。何となくやったことの予想はつくが、かといって理解できるかどうかはまた別の話。ひょっとしてこいつヤバいんじゃないか、と彼女はほんの少し彼の評価を上げた。

 そのタイミングでグリフォンが翼を広げた。今が好機、と考えたのだろう。邪魔なマンティコアと獲物の人間、同時に狩れるチャンスだ。

 

「モニカ!」

「分かってます!」

 

 急降下からの鉤爪を、モニカのサーベルが受け止め、弾いた。体格の問題で同時に彼女も弾き飛ばされたが、それだけ。奇襲は失敗し、相手もこちらに注意を向けるようになった。グリフォンは悔しげに嘶くと、バサバサと空中で停滞する。

 とはいえ、こちらが有利には変わりあるまい。マンティコアもグリフォンも、挟み撃ちの状況である現状でそう考えていたし、撤退の選択をすることはない。マンティコアはもう少し考えを広げ、今のグリフォンの奇襲で雌の麻痺の効果時間終了を稼げたとも思っていた。自身の好みではあるが、どうにも貧弱な男。そんな冒険者の攻撃で受けた麻痺など、そう大したものではあるまいと結論付けたのだ。受けた雌ですらそう思っていた。

 

『ぽーん。麻痺の効果時間、残り三十秒です』

「お、助かっタぜ変なノ」

 

 ユニコプターが音声を発する。それを聞いて笑みを浮かべたマンティコアは、即座に飛び掛かった。向こうも今ので認識した以上、それを律儀に待っていては狙われる。

 ターゲットは先程とは違う男。こちらも中々にいい男だ。この程度の人数で、この程度の実力で。嬲ってくれと言わんばかりの。

 

「リーンちゃん」

「準備オッケー!」

「ハ?」

 

 分かっていた、とばかりにリオノールとリーンが振り返る。既に呪文は構築済みで、後は放つだけ。狙い通りに二人は杖を構え、狙い通りに突っ込んでくるマンティコアに向かってそれを――。

 雌が吠える。麻痺の効果が終わると同時、サソリの尾を二人に向かって振り抜いた。そうはさせんと、すぐに始末してやるとそれを振るった。

 

「甘い!」

 

 モニカが駆ける。サーベルを構え、走り抜けるがごとく、一気に。離れた位置から、マンティコアの尻尾が二人に届くよりも、疾く。

 

「食らうがいい! 《紫電一閃》!」

 

 それはまさに雷鳴が如し。切り飛ばされたサソリの尾は宙を舞い、ドシャリと地面に落ちた。マンティコアもまず視界にそれが映り、次いで切断の痛みが襲ってくる。それほどの速さ。

 

「――ハ?」

 

 だからこそ、雄のマンティコアも呆気に取られた。虚を突かれたが、それを覆した。そう思っていた矢先のそれに、思わず動きを止めてしまった。

 そこにリオノールとリーンの呪文が襲いかかる。メインはリオノールでリーンはサポートに近かったが、マンティコアにとっては何の関係もない。どちらにせよ、その攻撃で倒されるのだから。

 

「って、ん!? 何これ!?」

「カズマ、ナイス!」

 

 リオノールが素っ頓狂な声を上げる。自身に起きた変化に驚愕したのだ。突如、猛烈な勢いで底力が跳ね上げられている感覚。これから放つ呪文が、自分のベストを軽く更新する勢いに変わっていく。

 対するリーンは承知の上。自分がその対象になるのは初めてだが、成程こんな感じなんだとちょっとだけワクワクした。

 

「こっちも余裕ねぇんだから、決めてくれよ!」

 

 ショートソードを構え、二人に加護を繋げたカズマが叫ぶ。ダストを脅すのも込みで複合スキルを数回、ついでに緊急回避も数回使ったので彼には割と余裕がない。レベルアップで増した雀の涙ほどの魔力では節約しなければあっという間に枯渇するのだ。それでも、まだ少しはいける。口には出さずに、表面上は打ち止めに近いような口ぶりで述べながら、カズマはそんなことも考えていた。

 

「何だか分からないけど、とにかく強化されたのね。よし、いっけー!」

「適応能力高いなぁ……」

 

 二人の呪文が飛来する。咄嗟の回避も間に合わず、マンティコアはその翼と土手っ腹に魔法を叩き込まれた。盛大な爆発で体を吹き飛ばされ、マンティコアはぐらりと揺れる。目の光が段々と失われ、そのまま地面にどしゃりと倒れた。

 雌が吠えた。番が倒されたのだ、何も思わないなどということはあるまい。尻尾のダメージを無視し、呪文の終わり際で隙だらけの二人へとその爪を突き立てる。

 

「私を忘れてもらっては困る」

 

 モニカが再度割り込んだ。マンティコアの前足を切り裂き、サーベルを鞘に収める。今がチャンス、とばかりに、ダストがその横に並んだ。

 

「これで仕留めれば俺の討伐記録に載るな」

「……貴公、暫く見ないうちに随分と狡っ辛い性格になったな」

「さっきお前が言った言葉がそのまま返ってくるぜ。誰のせいだと思ってんだ」

「姫様の所為だろう?」

「分かってんなら聞くなっつの」

 

 ふ、とモニカが笑う。と、同時にその刃が煌めいた。神速の抜刀術により、目にも留まらぬ速さでマンティコアが切り刻まれる。完全に死に体となったそれの眉間に、ダストが思い切り剣を突き立てた。絶命したマンティコアの雌は、そのまま悲鳴を上げることもなく倒れ伏した。

 それはまさに、魔物にとってはあっという間の出来事だっただろう。ほんの少し様子見をした瞬間に、マンティコアが二体とも倒されたのだから。ホバリングをしていたグリフォンが、思わずその光景に圧されて引く。

 ちなみに、地面でそれを見ていたセレスディナもドン引きしていた。何だかんだで倒せてしまう駆け出し冒険者の街とやらにいる冒険者の実力は勿論のこと。

 

「……今のは、魔王様の」

 

 カズマが使った『何か』。それと近しいものを、彼女は見たことがある。ここに来る前に、魔王城で、何度も。味方の超強化、魔王軍を脅威足らしめている魔王の加護。それと同じものを、目の前の、冴えない冒険者が。

 

(何で!? どうして!? 何でこんな奴が魔王様と同じ能力を!? ちくしょう、何だってんだ! ただのクソ弱い冒険者だと思ってたのに……!)

 

 決定だ。こいつは絶対に魔王軍の障害になる。ステータスも低く、高潔な心も特になさげな、このサトウカズマとかいう男が。

 

「……サトウ、カズマ? ……サトウ!?」

 

 ば、とカズマを見た。そうだ、何故忘れていた。それは、魔王軍で忌々しい記録と共に伝わっている、かつて魔王軍を恐怖に陥れた伝説の剣士の名前ではないか。魔王と対極に位置する存在、いうなれば。

 

「そんな……こいつが……!?」

「ちょ! セレナさん前前!」

「――え?」

 

 余所見をしていたのが致命的であった。グリフォンがセレスディナ目掛けて急降下してきたのだ。仕留めやすいものを仕留め、相手の戦力を削ぐ。野生の感ともいえるそれで、しっかりと彼女を狙ったのだ。

 あ、やべ。これ死んだわ。どこか他人事のように、セレスディナはぼんやりとそう思った。

 

「ごめんなさい!」

「ごふぅ!」

 

 その瞬間に横っ腹に衝撃が走る。間に合わないと踏んだペコリーヌが、彼女を無理矢理突き飛ばしたのだ。ベルゼルグ王国第一王女というバーサーカーの遠慮ないタックルにより、ひょっとしてグリフォンの攻撃のほうがマシだったんじゃないかと思える衝撃を味わいながらセレスディナが横に吹っ飛んでいく。追突事故のような転がり方をした後、岩壁にぶつかってようやく止まった。

 セレスディナをグリフォンの攻撃から守ったペコリーヌは、急降下してくる相手の鉤爪を剣で受け止める。ギリギリと音は鳴るものの、彼女の体はぐらつかない。それどころか、足に力を込めると勢いよく押し戻す始末だ。

 バランスを崩したグリフォンに向かい、ペコリーヌは駆ける。王家の装備がなくとも、カズマのブーストがなくとも。これくらいやれなければ、アイリスに笑われる。そんなことを考えながら、負けてなるものかと彼女は剣を振りかぶる。

 

「細切れですよ!」

 

 ついでに、今日の晩御飯は鶏肉だ。そんなことを思いながら、ペコリーヌはそれを振り下ろした。一閃、そして、もう一閃。翼を、四肢を切り裂いて。落下するグリフォンに向かって、止めの一撃を叩き込む。

 

「《プリンセスストライク》!」

 

 首を刎ね飛ばされたグリフォンの体が地に落ちる。数瞬遅れて、残っていた首がその横にドスンと落ちた。それに合わせるかのように、着地したペコリーヌはスカートを軽くつまみ上げカーテシーを行う。どうだと言わんばかりに。アイリスに出来るのだから自分もやれるのだと言わんばかりに。

 

「……ちゃんと前に進んでるんだなぁ、ティアナちゃん」

 

 ぽつりと、リオノールが呟く。そうしながら、よし、と彼女は頬を張った。ほんの少しだけ迷っていた気持ちも吹き飛んだ。

 うへぇ、と解体されたグリフォンを見て引いているダストを見る。もう手放さないから。口には出さずに、彼女はそう宣言し口角を上げた。

 

 




セレスディナの扱いが酷い……まあ魔王軍だしいっか(投げやり)

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