プリすば!   作:負け狐

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わけあって間が空きました。


その90

 どやどやと入ってくる面々を出迎えたカズマは、しかしその代表であろう人物に遅いと言い放った。これでも急いで来たのだぞ、とその人物は不満を顕に。

 

「ダクネスよ。顔がにやけておるぞ」

「そ、そんなはずは……!?」

「おい辛うじてこっち側のドM。お前まさかわざとじゃねぇだろうな」

「それは違うぞ。私は手を抜いてなどいない。手抜きで罵倒されるのは失礼だろう」

「憤るポイントが間違ってはいないだろうか……?」

 

 モニカの呟きに反論するものはいなかった。いなかったが、まあそういうものだと皆一様に流しているのも感じる。リオノールも順応しているので、何を言っているのやらとむしろモニカに笑みを向けていた。

 

「それで? あたし達ミヤコに伝言頼んだの結構前よね?」

 

 話を戻すようにキャルが口を挟む。どこかに寄り道していたというわけでもないだろうけど、とフヨフヨ浮いているプリン好き幽霊を見たが、心外なのと言わんばかりにむくれているのでその意見を打ち消した。

 

「それなんだけれど。あなた達も見たでしょう? この街の惨状」

「うん、更に酷くなってたわね」

 

 自分の苦労が報われて悦んでいるドMに代わり、リオノールが進行役になる。とりあえずその問いに答えながら、一体それがどうしたのだとキャルは続けた。

 一方、その言葉を聞いたリオノールは不思議な表情を浮かべる。あれ? おかしいな。そんなことを言いながら、視線を他の面々に向けた。

 

「えっと、ねえキャル。そっちは何もなかったの?」

「何も、って何が? 苦労したって話なら、そこのペコリーヌの馬鹿を捕まえるために街中駆け回ってクタクタよ」

「街中駆け回ったの!?」

「な、何よ……」

 

 リーンの驚きにキャルが後ずさる。何か変なこと言っただろうか、と彼女は先行組を見たが、コッコロもカズマもよく分からないという顔をしていた。ペコリーヌも心当たりがないようで、頭にハテナマークが飛んでいる。

 そんな空気の中、アイリスを部屋に押し込み終えたユカリが戻ってきた。どうしたの、と首を傾げ、話を聞いてああそういうことと一人頷く。

 

「カズマくんとコッコロちゃんは女神アメスの加護のおかげでこの手の精神汚染は耐性があるのよ。キャルちゃんは……まあ、うん」

「あっ」

 

 リーンが察した。まあそれなら仕方ない、と深く触れないことにした。ダストも理解してあー、と何とも言えない表情を向けている。勿論当事者のキャルも理解した。理解して、チョーカーを思い切り握りしめる。勿論神器並みの破壊耐性が女神アクアから付与されているのでびくともしない。

 そうしつつ、これのおかげで助かったので彼女としてはこの行き場のない感情をどうぶつけていいのか本気で悩んだ。

 

「コホン。まあいいわ。とにかくあたし達が調べた時より酷いのは見て分かるけど、一体何が」

「感染がより強力なものへと変化しておるのじゃ。この短い間でな」

 

 やれやれ、と肩を竦めるのはイリヤ。自分のような存在ならともかく、普通の人間ならばあっという間にドMの仲間入りだ。そんなことを続けた。

 

「もはやこの街には感染したドMと、それを見て嗜虐に目覚めたが数に蹂躙されドMに堕ちた者しかおらんと言ってもいいじゃろうな」

「実質ドM一択じゃねぇか」

 

 ジト目でカズマがツッコミを入れる。うむ、と頷いたイリヤは、そういうわけだと話を締めた。何がどういうわけなのか思わず問い掛けたくなったが、しかしこれまでの話の流れから何となく事情が見えてきて。

 

「めちゃくちゃ疲れたの。イリヤとミヤコで近くにドMがいないか調べて、感染らないように遠回りして……。ミヤコは大活躍したの、プリン一個じゃ足りないの。特大をよこすの、たくさんよこすの!」

 

 ふよふよ浮きながらブンブンとダボダボの袖を振り回すミヤコを見ながら、分かった分かったとカズマは流す。とりあえず料金はダクネス持ちにする算段を立てながら、いい加減こっち戻ってこいと味方側ドMにデコピンを叩き込んだ。

 

「む? その程度で私が悦ぶと思ったら大間違いだぞ!」

「誰もお前を悦ばせようとか思ってねーんだよ! お前一応責任者の自覚あんのか!? ドMだからドMの街作ってめでたしめでたしとか洒落になんねーからな!」

「ば、馬鹿にするな! 私はこれでも筆頭貴族、このような惨状を良しとするような心は持っていない」

「だったら」

「だ、だが、カズマ。お前がそう思うのならば、もう少し詰ってくれても構わないのだが……」

「なあペコリーヌ。こいつもついでに捕まえた方がいいんじゃねぇの?」

 

 割とマジ顔でそう言われたので、ペコリーヌとしてはあははと苦笑するしか無い。そんなこと言いつつ何だかんだ根は真面目だし、頼りになるんですよ。そうフォローはしたが、彼は変わらず疑いの目をしたままだ。

 

「……ねえ、なんで貴族のダクネスの処分をペコリーヌに頼むの?」

「さあな」

 

 尚、そのやり取りを見てリーンが首を傾げていたが、ダストは素知らぬ顔でそれを流した。

 

 

 

 

 

 

 ともあれ。その状況を鑑みると、ここまでやってきただけで後発組は限界に近いということである。ここから街の惨状をどうにかするために再び外に出ることは難しいと言わざるを得ない。

 

「そうなると、実際に外に出られるのは」

 

 リーンがアメス教会の面々を見渡す。コッコロはともかく、キャルもカズマもその視線を受け心底嫌そうな顔を浮かべた。なんで好き好んでドMが徘徊する街を歩き回らねばならんのだ。二人の心境はおおよそこれである。

 

「あ、そうだ」

 

 そんな中、リオノールが空気をぶち壊す発言をのたまった。自身の持っていた鞄をゴソゴソとあさり、中から腕輪を四つほど取り出す。げ、とモニカが物凄い表情を浮かべたのをダストは見逃さなかった。勿論ダストもそれには見覚えがあるので、心境的には彼女と同じである。

 

「これ、使えないかしら。神器には劣るけれど、色々な状態異常を防いでくれるから、ひょっとしたら」

「なんで持ってるんですか……」

 

 まだダストでなかった頃に、王族の護衛の際見たことがある。もしものことがあってはいけないと持たされていたそれは、ブライドル王国の国宝の一つで。

 そこまで考えて、別に持っていてもおかしくはないのかと納得した。今の状況が状況だが、確かに通常ならばもしものために持ち出していても不思議ではない。

 

「ユニちゃんがこの間同性能の腕輪作り上げたから、すり替えてどのくらいの期間バレないかなっていう実験を」

「嘗めてんのか」

「何よ。ユニちゃんを馬鹿にする気?」

「俺が呆れてんのはあなたなんですけどぉ!」

 

 ダストのツッコミをリオノールは軽く流す。まあそういうわけだから、あのドMが精神汚染系の状態異常ならこれで防げるかもしれないと机に置いた。数は四つ。つまり、天然の耐性を持っている連中以外で外に出られるのはこの中で選ばれた四人だけで。

 

「……全員分じゃねぇかよ」

 

 ダストが項垂れる。今この場でドMに感染する危険性があるのは、リオノール、モニカ、ダスト、リーンの四人だけだ。既にドMと地獄の公爵とプリン幽霊は必要がない。

 

「あ、じゃあ俺行かなくても大丈夫だな」

「そうね。あたしもここで良い知らせを待つことにするわ」

 

 そりゃいいやとばかりにカズマとキャルが乗っかる。ひょっとしたら無事な誰かが助けを求めて来るかもしれないし。そんなことを続けながら、自分達に任せてくれと食い気味に待機を申し出た。

 

「コッコロも、勿論残ってくれるな?」

「ペコリーヌ。あんたもよ」

 

 ついでにコッコロとペコリーヌも巻き込む。こいつら、と言わんばかりのリーンやダストの視線など何のそのだ。

 が、しかし。根っこはともかく基本ダメ人間寄りの二人に比べて、残る二人は普段から善人側である。それで大丈夫かどうか分からない面々を送り出して待ってますという提案に首を縦に振るかと言うと、勿論そんなはずもないわけで。

 

「主さま。申し訳ありません。わたくしはみなさまと一緒に外の調査に向かいます」

「ごめんなさいキャルちゃん。わたし……アイリスを、助けなきゃいけないんです」

 

 当然こうなる。コッコロはある意味普段通りだが、ペコリーヌはそれに加えて明確な理由が存在していた。だから決意の表情で述べた彼女のそれに、キャルがぐあぁぁと浄化された悪魔のようにのけぞり悶える。

 

「あーもう! 行けばいいんでしょ行けば!」

「知ってた」

 

 キャルの壮絶な手の平返しを、カズマは何かを諦めたような顔を浮かべ眺めている。まあそうなるだろうな、と何となく思ってはいたが。

 というわけで、残るのはカズマ一人。などということもなく。現状働く気が微塵もないプリン幽霊は当然拒否。イリヤもこやつ一人を残しておくと心配だと残留を申し出た。一応私はいるけれどね、と教会の守り人扱いになったユカリが苦笑している。

 

「そういうわけじゃからな。酔っ払いとプリン狂いと奥の部屋に閉じ込めておるドM感染者の対処をするのならばお主も残って構わんが」

「まだ酔ってないからね私! これからは、知らないけど」

「しょうがねぇなぁ。俺も行くぜ」

「日和ったわねこいつ」

 

 なんとでも言え。感染しないドMの調査について行った方が他の奴らの影に隠れられるだけマシだ。そんなことを思いながら、ジト目で見るキャルを睨み返す。お前だって似たようなものじゃねぇか、とこちらは口に出しながら彼女に指を突き付けた。

 

「はぁ? あんたみたいな消去法とは違うわよ」

「だったら何が違うんだよ」

「そんなの――まあ、それは、あれよ」

 

 勢いに任せて物凄く恥ずかしいことを口走りそうになったのに気付いたのだろう。急に歯切れが悪くなって彼女は視線を彷徨わせる。何だどうした、とそのチャンスを逃さんとばかりにカズマはキャルに詰め寄った。

 

「うっさい! いいじゃないのそんなのどうだって! ぶっ殺すぞ!」

「おぉやぁ? そんな言えない理由だったりしたんですかねぇキャルさんや」

「むっかつくぅぅぅぅ!」

 

 ダンダンと床を踏み付けながら叫ぶキャルを見て少しだけ溜飲が下がったカズマは、じゃあそういうわけだからと他の面々に向き直った。慣れていない二人以外は、いつものことだと半ば流し気味である。ペコリーヌはともかく、コッコロですら、だ。

 

「ふふっ。分かっております、主さまとキャルさまの優しさは。このコッコロが、一番」

「そうですね。そんな優しいキャルちゃんも、カズマくんも。わたしは大好きです」

『……』

 

 無言で二人から顔を逸らした。おい何だこの空気どうにかしろよとキャルを見るが、知るかあんたがどうにかしなさいよと視線で返される。声は発さず、ひたすら視線だけでお互い罵倒を繰り返した。

 

「けっ、イチャイチャするなら余所でやれ余所で」

「あら、何ダスト? イチャイチャしたいの? 私はいつでも構わないけれど」

「いりません。離れろ」

「ダスト、あんた……」

「いや今俺拒否しただろ!? ったく、妬くならもうちょっと分かりやすく、その貧相な胸で誘惑でもがっはぁ!」

「貴公の女の扱いの下手さは死んでも治らんな……」

 

 やれやれ、と杖のアッパーカットで飛ばされたダストを見ながらモニカが肩を竦める。そうしながら、決まったのならば作戦を開始するべきだと言葉を続けた。

 いや作戦といっても特に何も決まってないだろ。カズマのそのツッコミに、彼女は思わず呻いた。どうやら自分も勢いで突き進もうとしていたことを自覚したらしい。

 

「とはいっても、現状出来ることはこの状況を作り出したと思われる当事者を見付けることくらいだと思うのだが」

「そうだな。じゃあダクネス、言い出しっぺのお前なら心当たりあるだろ?」

「は? いや、そう言われてもだな」

「ダクネス、あんたならクウカと波長合うし分かったりしないの?」

「そんなこと言われても……」

 

 カズマとキャルにタッグで問われ、彼女はジリジリと後ずさる。どうでもいいが責められているので何とも嬉しそうだ。答えが出てこないと判断され、二人に揃って使えねぇと評価を下された時は思わず悶えていた。

 

「……」

「どうしたんです、だよリール」

「いや、二人の言っていることがちょっと気になって」

「何か気になることあったか?」

 

 無駄にコンビプレーでダクネスを責め立てていたようにしか見えないが。そんなことを思ったダストに向かい、ほらあれよあれと指を立てる。クウカとダクネスの波長が合う、というキャルが言っていた部分を復唱しながら、彼女は何故か口角を三日月に歪めた。

 

「お嬢様。また碌でもないことを考えましたね」

「ちょっとモニカ、私まだ何も言ってないんだけど」

「言わずとも分かります。ダストも同意見のようですし」

「あー、確かにリールちゃんのその顔、悪戯思い付いた時にするやつですよね」

「ペコちゃんまで!? もう、何よみんなして。私はちょっといいアイデア思い付いただけなのに」

「駄目だ」

「駄目なやつだ」

「傍から聞いてただけだけど、あたしも駄目だと思う」

「やばいですね☆」

 

 聞き役になっていたリーンも加えての即答であった。ぶうぶう、と文句をのたまいながら、そこまで言うのなら見るがいいと彼女は鞄から一つの物体を取り出す。あれ、とペコリーヌが目を瞬かせ、ダストとモニカがうげぇと顔を歪めた。それ使って何する気だ、とその表情が述べていた。

 

「リールさま。それは一体何なのでしょうか?」

「あ、コッコロちゃん気になっちゃう? これはね、《コンパクトぷかぷかユニコプター》っていって、割と雑に命令してもふわっと実行してくれる優れものなのよ」

「何一つ命令こなせてなかったけどな」

 

 無駄にマンティコアを連れてきてひたすら煽っていたことを思い出す。それでそのガラクタをどうするつもりだ、とダストはジト目でリオノールを見た。いつの間にやらカズマ達もこちらに注目している。分かっているカズマは顔を引きつらせ、ダクネスとキャルはハテナ顔だ。

 

「ふふん。いいから見てなさい。ユニコプター、そこの、ダクネスちゃんと同じ感じの人を探してちょうだい」

「それ街中を該当者にするだけじゃねぇの?」

 

 カズマのツッコミに、皆一様にうんうんと頷く。が、リオノールはドヤ顔をやめない。このユニちゃんの発明がその程度を見越していないはずがなかろうと思い切り掲げた。

 

『ぽーん。ドMと定義された個体が周囲に百件超え。該当者が多すぎます。もう少し条件を絞ってください』

「あれ?」

「駄目じゃねぇか」

 

 ダストの呆れたような呟きに、リオノールはあははと視線を逸らした。

 

 




どうせみんなどえむになる

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