プリすば!   作:負け狐

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キャラ掴みの修業も兼ねてちょっと顔見せ


その91

「ふむ」

 

 ブライドル王国、聖テレサ女学院。部活動などのために開放されている部屋、とは少し違う位置にある一室にて、一人の少女が手元の魔道具を眺めながら呟いていた。その姿は小柄で、左右に編み込んだ髪型と相まって非常に可愛らしい印象を受ける。が、その表情は無邪気なものとはいい難く、言ってしまえば背伸びをしこまっしゃくれた子供に近い。

 勿論、彼女が本当に子供だというわけではない。こんな見た目でも一応それなりの年齢をしているのだ。

 

「あれ? ユニ先輩、どうしたんですか?」

 

 だから、水色リボンのアクセントを付け足した桃色の髪の、こちらは年相応の可愛らしい姿をした少女が『先輩』と彼女を呼ぶのも間違っていないのである。そんな少女は遠慮なくユニの背後に周り、彼女が見ている魔道具を覗き込んだ。

 

「うげ、何だか小難しい言葉の羅列が並んでるじゃないですか。そういうの見るのは一人でこっそりと周囲の目を気にしながらやってくれます? チエルみたいなハッピー美少女には刺激つよつよなんで」

「そんな思春期の男子の興味の大半をかっさらう書物とこいつを同一視するんじゃあないよ。大体、よく見給えチエル君。これはただの過去ログだ」

「え? あ、ほんとですね。……あー、これってあれですか」

 

 魔道具の文字を目で追っていたチエルが何かに気付いたように頷く。そうしながら、どこかドヤ顔で彼女はユニへと言葉を続けた。

 

「学院長に渡した、ユニ先輩お手製のなんたらかんたらっていう壊滅的通り越して絶滅しちゃってるようなクソダサネーミングセンスの魔道具の記録ですよね?」

「聞き捨てならないぞチエル君。あれは学院長も太鼓判を押したほどのクールでキュートなネーミングだ。やれやれ、これだから学術的美的センスを有しないやつは」

「いや学院長もユニ先輩もそういうセンスゼロぶっちぎってマイナスですよ。むしろ最初から地面にえぐり込んで掘り進んでる系?」

 

 笑顔でばっさりと切り捨てる。そんなチエルを見ながら、しかしユニはやれやれと肩を竦めた。彼女は彼女で間違っているのは自分ではないと主張するらしい。

 そういうわけなので、と二人揃って先程からこちらに干渉するのをやめていた人物へと向き直る。金髪を短めのツインテールにした目付きの鋭い少女は、二人の視線を受けて小さく溜息を吐いた。

 

「知らん」

「三文字! せめてどっちかに肩入れするとかしてくれちゃってもいいんですよ? 別にそのことでなかよし部がユニ先輩だけなかわろし部に変わったとしても、学院長なら気にせずお金恵んでくれますし」

「そうだぞクロエ君。君がチエル君を切り捨てたとしても、そこであぶれるのは彼女の方だ。多数決という数の暴力の前には、さしものチエル君でも抵抗は出来まい」

「いやなんで二人共自分の主張が評価されるとか思ってんの?」

 

 はぁ、とクロエは再度溜息を吐く。そうは言いつつ、彼女としてはユニのネーミングセンスが悪いというのには同意が出来た。が、それをするとチエルがやかましいのは分かりきっていたので、自分を巻き込むなと言外に主張しているのだ。

 何より、ついでのように聖テレサ女学院の学院長である彼女のこともボロクソに言っているのだ。別段それで彼女が気分を害することはないだろうが、気紛れで持ち出されて無理難題を押し付けられるのが目に見えている。

 

「んで? パイセン、何見てたわけ?」

「あ、ちょっとユニ先輩、この人今露骨に話題変えましたよ。そんなわざとらしさ前面フルオープンでチエル達にバレないとか思ってるんでしょうか?」

「そう言ってやるなチエル君。クロエ君なりに考えて出した結論なのだろう。我々はそれを黙って見守るというのが大人の矜持というものだ」

「見た目子供がなんか言ってるし。つか、話題変えるも何も最初の話がそれじゃん、文句言われる筋合いないんだけど」

 

 ぷー、と息を吐きながら面倒そうにクロエが述べる。一方、それを聞いていたチエルはそういえばそうでしたねと頷いた。頷いたが、まあ別にそこまで気になってなかったんで別にいいですと流した。

 

「そういう意味ではユニ先輩のネーミングセンスとかもぶっちゃけ割とどうでもいいですよね。チエルとしては日常会話の軽いスパイス程度の話題提供だったんで、あんまり振りかけられると味が台無し、みたいな」

「あそ」

「まあ、でも確かにそっちの方はまだ少し気になる的な部分はあるんで、クロエ先輩のアシスト感謝です。ありがたやありがたや」

「いや意味分からんし」

 

 そう言いつつクロエは視線を逸らす。ユニはそんな二人を見ながら、まあ青春は青春として堪能すればいいのだがと魔道具をくるりとひっくり返した。

 クロエに見えるようにしたそこには、先程チエルが言っていたように何やら単語と短い文章がつらつら書かれている。ちょっとした行動をメモしたもの、といえばいいだろうか。まさしく過去ログだ。

 

「ふーん。んで? これ何なん?」

「学院長に渡した《コンパクトぷかぷかユニコプター》の過去ログだ。どうやら向こうで活躍しているらしく、発明者としては鼻が高い」

「ユニ先輩ユニ先輩、ここに『グリフォンと戦闘中のパーティにマンティコアを差し向けた』って書かれてますけど」

「活躍してんなぁ……」

「まったく。君達は大局が見えていないからそこだけで判断してしまうのだ。その後何も問題が起きておらず、クエストも無事に達成している。これはその行動が最悪の選択肢を与えたのではなく、最善であった可能性を示唆しているのだよ。端的に換言すれば、結果オーライ」

 

 ふーん、と二人は流した。そうしながら、じゃあ一体何が問題なのだとユニを見やる。

 その視線を受けて、彼女はふむと魔道具を操作した。最新の行動まで移動させると、ここを見給えと指し示す。そこにはどうやら特定の人物を探索するよう命令したことが記されており。

 

「ドM?」

「然り。どうやら学院長はベルゼルグ王国で特殊性癖を探索しようとしたらしい」

「え? どゆことですか? 学院長おかしくなっちゃいました? いえ、普段がまともかどうかっていうとぶっちゃけおかしいんですけど」

「案ずるなチエル君。これは学院長がおかしいのではない。向こうで何かしら問題に巻き込まれたと考えた方がいいだろう。これは戻ってきた時が楽しみだ」

「いやドM探す問題って何なん? もうその時点で大分おかしくない? 学院長無事に戻ってくんの?」

「そこは学院長ですから、別に問題ナシんこじゃないです?」

 

 クロエの至極まっとうなツッコミは、しかしチエルの先程の発言を秒で覆すが如き返しによってさくっと流された。

 

 

 

 

 

 

「えー、というわけでもう少し特徴を追加しましょう」

 

 ふよふよと浮いているユニコプターを見ながら、リオノールはそう宣言した。いっそ諦めて闇雲に探すという案もないことはないが、少しでも可能性を高めるのならばこちらも試すべきだ。そんなことを言われてしまえば、他の面々も否定はし辛い。

 

「じゃあ、クウカに該当する特徴を言えばいいのかな?」

 

 リーンの言葉に、彼女は頷く。成程、と顎に手を当てながら、しかし何を言えばいいのだろうかとリーンは暫し考え込んだ。

 

「とりあえず、年齢とか? クウカ、確か十八だったよね」

 

 彼女の言葉を聞いてユニコプターが記録する。それを見ていた他の面子も、そういうことならばと各々クウカに該当しそうな特徴を述べていった。

 髪型はロングヘアーで、結んでいる。スタイルはよく、胸が大きい。可愛いというよりは美人系の顔立ち。冒険者をやっている。

 

「んー、何かもう一つくらい欲しいわね。ねえダスト、何か無いかしら」

「いやそう言われても……。あー、確かあいつ、意外と乙女趣味というか、純情なところがあるというか」

「へー。よく知ってるのね」

「いやリーンも知ってるから。だからその目で見るのやめてくれませんかね」

 

 リオノールの視線を無理矢理動かしたダストは、それでどうだと言葉を続けた。ユニコプターをちらりと見ると、ふよふよと浮かびながらキーワードに該当する人物の検索をしているらしく、音声が段々と人数を減らしていく。

 そうして、ぽーんという音声と共に、ユニコプターは該当者のもとへと移動を始めた。

 

『年齢十八、美人系、ロングヘアーを結んでいる、スタイル良し、巨乳、冒険者、意外と乙女、ドM。以上のキーワードに該当する人物を発見。対象をクウカと認定』

「……え?」

 

 すぐ近くに、である。ふよふよと彼女の周りを飛びながら、こいつがクウカだとユニコプターが断言する。条件に合致するのだと宣言する。

 

「……成程」

「十八歳で、美人系で、髪が長くて巨乳の冒険者で、ドM。うん、一致するわね。……乙女趣味だったんだ」

「あはは……」

 

 コッコロも、キャルも、そしてペコリーヌも。何とも言えない表情でクウカ認定されたその人物を見やる。勿論ダストとリーンも、ユカリやイリヤも同様だ。

 

「おいダクネス」

「私が悪いのか!? いや、確かにクウカの特徴と共通点を持つのは認めるところだが……。あ、ち、違うぞ! 私は別に、そんな乙女な趣味など!」

「変態なのにそんな純情さとかいらねーだろ」

「あうぅ……。違うんだ、私は、そんな……」

 

 恥ずかしさが勝ったのか、ダクネスはその場で頭を抱えて蹲ってしまう。どうやら胃痛を悦びに変えることは出来ても、乙女な部分を指摘されるのは駄目らしい。そこの線引きよく分からん、とカズマは彼女を一瞥し、再度リオノールを見た。

 

「大丈夫。該当者はもう一人いるでしょう? ユニコプター、そっちを検索して」

『ぽーん。条件、クウカに該当する人物はもう一名』

「よし」

 

 どうだ、と胸を張りながら彼女は皆に視線を向け、そして最終的にダストを見た。はいはい、と彼はそれを流し、分かったならさっさと行こうぜと促す。当然ながら、お前が積極的だなんてとカズマやリーン、キャルに目を見開かれた。

 ともあれ。目的地が分かったのならば。ダストではないがさっさと向かって原因をどうにかしたほうがいい。そんなわけで残留組に見送られながら、九名の選ばれし者達はユニコプターの先導のもとその場所へと向かうのだった。

 が、しかし。

 

「いや無理だろ」

「あれ突っ切るわけ?」

「やばいですね……」

 

 彼等の目の前にはドMの荒波があった。出来るだけ遭遇しないルートを選択したのだが、肝心要の目的地はどうあがいてもドMが立ち塞がる。それも、明らかに供給過多な量が、だ。

 

「なあ、カズマ」

「なんだよ」

「俺達は所詮道具で辛うじて無事なだけだ。加護を持っているお前達には敵わない」

 

 突如神妙な顔でダストがカズマにそう述べる。ぽん、と肩に手を置くと、だから自分達はここまでだ、と小さく頷いた。後は任せた、そう言って彼を繰り出そうとした。

 

「行くわけねぇだろ! 嘗めんな! 大体、そういう意味なら一番適任がそこにいるだろ!」

 

 そこに、とカズマは一人の人物を指差す。先程の乙女バレで若干凹み気味のまだ正常寄りなドMを指差す。ダストも彼のその指した先を見て、そういえばそうだなと頷いた。

 そういうわけだから。二人揃って笑顔でダクネスの背中を押した。

 

「いや、確かに私が適任ではあるのだろうが……。私だけ辿り着けたところで、一体どうすれば?」

 

 拒否はしない。ここでじゃあわたしが行きますとペコリーヌが言い出すくらいならば、ダクネスは迷いなく自身が犠牲になることを望む。ドMにもみくちゃにされるというのも、それはそれで新たな刺激になるかもしれないという打算もあった。

 が、それはそれとして。自分一人でクウカと出会ったとして、それで一体何が出来るのか。正直皆で向かっても結果は同じかもしれないが、考える頭数が多いか少ないかは重要だ。

 

「ここに連れてくればいいんじゃないかしら」

 

 さらりとリオノールが述べる。ああ確かに、と頷きかけたカズマ達は、そこでふと気付いた。

 だったら最初からダクネスを向かわせて自分達は教会で待っていればよかったのでは、と。

 

「よし、じゃあダクネス。後は頼んだ」

「おう、俺達は戻ってるからな」

「ちょっとあんたら……。いや、気持ちは分かるけど」

 

 しゅた、と手を上げるカズマとダストをキャルがジト目で見やる。そしてそんな彼女の横から、ペコリーヌが、でも、と眉尻を下げた。

 もし教会内でドMが加護を上回ってしまったら。その呟きに、二人は思わず呻く。現状知る中で唯一のセーフハウスが汚染されてしまうと、逃げ帰る場所すら失ってしまう。

 

「とりあえず、もう少しドMの少ない場所に移動しよう。ダクネス殿、そこに彼女を」

「了解した」

 

 最悪を想定して動くべきだろう。そう結論付け、結局ここで対処することに決めた。モニカの言葉に頷いたダクネスは、ユニコプターの案内でドMの大渦を泳いでいく。成程、これはまた新しい、という謎の嬌声が聞こえたので、皆一様に聞かなかったことにした。

 

「それで、結局どうすればいいわけ?」

 

 ダクネスを待つ間にアイデアを。そんなことを考え口火を切ったのはキャルだが、その質問に答えられる者はいない。正直クウカを始末したところでこの騒動は終わらないだろうというのは想像に難くないし、何より彼女を犠牲にするという選択肢は選びたくない。

 そもそもあれは始末出来ない、という根本的問題はスルーした。

 

「あの、クウカさま自身が何かしらの状態異常に陥っている、という可能性は無いでしょうか」

 

 コッコロがおずおずと手を挙げる。その発言を聞いて、カズマ達は顔を見合わせた。そういえば、犯人がクウカ、という前提でいつの間にか行動していた。そのことに思い至ったのだ。

 クウカの様子がおかしい、というところから始まったこの騒動、確かに最初は彼女がなにかしらされたという可能性も持っていた。が、事態が進むにつれ、そうだとしても実行犯はクウカで、加害者であるという認識が強まっていってしまったのだ。

 だから、彼女が完全なる被害者だったのならば。

 

「治療すれば、収まる?」

「試して見る価値はあるかと」

「つっても保護者ちゃんよ、何をどうすれば治療になるんだ?」

「それは――」

「それなら」

 

 コッコロが何かを言いかけたその時、横合いから声が飛んできた。皆一斉にそこへと視線を向けると、一人の女性がこちらにゆっくりと歩いてくるところで。

 

「彼女の状態異常を治療するアイテムが、ここに」

 

 そう言って、ボロボロの彼女は鞄から割れないよう保護されているポーションの瓶を取り出す。そうしながら、自分一人では無理だったと自嘲気味に笑みを浮かべた。そんな彼女を、この状況の中、未だ正気を保っているらしい女性を、ここにいる面々は暖かく迎え入れる。

 まさか、そんな状態で、この状況で。この人が犯人だなどということはありえないだろう。皆がそう思ったのだ。

 

「セレナさま、よくぞご無事で」

 

 コッコロのその言葉に、セレナ――セレスディナは曖昧な笑みを返しそっと視線を逸らした。どうしよう、久しぶりに人の暖かさに触れた。思わずそんなことを思ってしまった。

 

 




そろそろ決着かな
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