TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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PART10 サマーバケーション・タイムアタック

 朝焼けの空の下。

 

「んっ……」

 

 軽い声を上げて、それからゆっくりとロイが瞳を開く。

 わたくしは彼の瞳をのぞき込むと、状況が飲み込めていない我が婚約者へ微笑む。

 

「あら、ようやく起きましたか。お寝坊さんですわね」

「……っ!? 十年後!?」

 

 バズーカで撃ったりはしてねえよ。

 あと十年後に夫婦になってる前提やめろ。婚約者なだけだろうが。

 

「目覚めの気分はいかがですか」

「最悪、だった。君の顔を見るまではね」

 

 地面にわたくしを連れてきて、お姫様抱っこの姿勢からわたくしが降りた途端、黄金の羽根は霧散しこの男はぶっ倒れた。

 当初はおいおいこれ大丈夫かとみんなで医者の元へ猛ダッシュで運んだが、『過労だね』の一言で終わった。無駄に心配かけさせやがってよお。

 

「しかしこれは……いささか恥ずかしいぐらいだよ。みんなの前で、ずいぶん積極的じゃないか」

「?」

 

 ロイがわたくしを見上げて全然恥ずかしくなさそうというかむしろ誇らしげな表情を浮かべる。

 なんだこいつと思い、わたくしは彼のそばから立ち上がり、うんと伸びをした。スカートだと危なかったが今日はスーツなのでセーフである。

 だがそのとき、ロイがえっ!? と声を上げる。

 

「どうなってるんだ、角度がおかしくないかい?」

「何がです」

「膝枕をしている君と立ち上がった君がいる。やっぱり天国に来てしまっていたのか?」

「そりゃ膝枕をしているのはユートですからね」

 

 そこでやっと、ロイは、静かに目線を上に向けた。

 学ラン姿の男が半笑いで彼の顔をのぞき込む。

 

「目覚めの気分はどうよ?」

「最高、だった。君の顔を見るまではね」

 

 ロイは信じられないぐらい真顔になった。

 哀れな男だ。

 

 

 

 

 

 

 

 神殿防衛戦は、我々連合軍の勝利に終わった。

 ていうか後から振り返ってみたらこの連合軍の主催わたくしだったわ。

 

 

第三の性別 規模だけ見ると教科書に載っても全然おかしくない戦いだったなこれ……

red moon 総司令官マリアンヌ・ピースラウンドとか出てくるの?

日本代表 歴史のテストでこいつの名前を暗記しなきゃいけないの屈辱過ぎる

無敵 いい国こわすなマリアンヌ

 

 

 ウオ、歴史の教科書載れるかも案件は流石に興奮するな。

 いやまあ載ってどうすんねんとは思うが。追放された側で頼む。

 

 

木の根 マリアンヌ・ピースラウンド、王国を追放され僻地へ逃れた後憤死

 

 

 あー、教科書っぽい。教科書っぽいですわね

 そういう感じなら嬉しいかもしれません

 

 

苦行むり マリアンヌ・ピースラウンドとかいうトップクラスの戦果を挙げた以外取り柄のない偉人wwwwwww

TSに一家言 無事憤死した模様

 

 

 急にスレみたいにするのやめてくださる?

 

 

 まあ有名税みたいなもんかもしれねえけどさ。

 何はともあれ、被害を抑えつつ勝利することができた。この結果は胸を張っていいはずだ。

 わたくしたちは顔を見合わせ、全員の無事を確かめ合う。

 

「ハッ。終わってみりゃあ楽勝だったな!」

「よく言うわよ。あんた途中で戦況悪くなった時顔面蒼白だったじゃない」

「おい、バラすな」

 

 ユートは指揮を執りつつ前線で戦っていたらしい。あとコアユニットの一つであった雲の空中戦艦を蒸発させたとか。戦況を固定してたクソユニットを排除しつつ反撃もしっかり自分で率いるの、ゲームの環境がぶっ壊れる時と同じムーブしてる。なんだこの化け物……!?

 リンディも敵のコアユニットの一つ、『外宇宙害光線(アンノウンレイ)』を撃滅するという特一級の戦果を挙げた。何が戦う力がないだよ。その辺の騎士余裕で虐殺できる存在倒した女のいうことかよ。

 

「無事だったか、タガハラ嬢」

「はい! ジークフリートさんこそ、大物相手にお疲れさまでした!」

「オレの仕事は、そんなに大きなものではないよ。もっと早くに対応すべきだった」

 

 こいつらは論外。マジで存在が謎。

 ユイさんはリンディの補佐に回ってくれていたらしいが、役割を終えて彼女が後衛に戻ると、遺憾なく前線で戦闘力を発揮してたらしい。蛇竜種を踏み台にして空中戦を演じてたというふざけた報告があった。空中戦は分が悪すぎるでしょとか甘えたこと言ってる場合じゃない。

 ジークフリートさんは結局、コアユニットの一つだった巨神兵を両断したらしい。特定条件がそろった瞬間に勝ち確なの、言葉だけなら処刑用BGM流れた時のライダーっぽいけど、実情としては余りにもエクゾディア。わたくしの知る最強の騎士がエクゾディアな件について。

 

「それでロイ、その……あの翼についてですが」

「ああ、うん。似合ってると思わなかったかい?」

「…………」

「本気の軽蔑の目はやめてくれないか? それに前回、ちゃんと言ったじゃないか。忘れるわけにはいかないと」

 

 一番問題なのはお前だお前。

 行使するだけで、本人がどんどん人間から遠ざかっていく力なんて、持つなよ。そんなもん。

 

「……もちろん、必要なタイミングでしか使わない。約束するよ」

「入学以降のトラブル発生ペースを踏まえて、よく必要なタイミングでしか、とか言えますわね」

「それは……そうだけど」

「まあ、そうですね。そんなのに頼らなくてもいいぐらい強くなりなさい」

「! ……ああ、そうだね」

 

 微笑みを浮かべ頷く彼に、ひとまず息を吐く。

 それからわたくしは、わたくしたち司令官クラスメンバーの前に並ぶ、二カ国合同の軍勢を見渡した。

 

 迎撃にあたり強敵を相手取っていたわたくしたちだけでなく、蛇竜の大軍を迎え撃っていた騎士や兵士たちも、戦友と互いの無事を祝っている。ハートセチュアの連中の姿は見当たらない。任務を果たしたから帰還したのだろうか。

 奥には負傷者用のテントも数多くあるが、戦闘の規模に対して恐ろしく低い損害で切り抜けられたようだ。

 

「いやー、軍神は強敵でしたわね」

「最後の方はほとんどをマリアンヌ嬢に任せてしまい、申し訳なかったがな」

 

 ジークフリートさんの言葉に、わたくしは苦笑する。

 

「そんなお気になさらず……って、そういえば軍神はどうなりました? とりあえずトンネルからは弾き飛ばせましたが」

 

 思えばメチャクチャ雑なことしたなわたくし……

 若干反省しながら問うと、ユートが負傷者用のテントを指さした。

 

「回収しといたぜ。ただ……」

「?」

「いや、意識がなかったからな。一応見張りに騎士さんたちはついててくれたけど、もし力が残ってたら、と考えると若干の不安がある」

「ああ……まあ大丈夫でしょう。強めに殴っておきましたし」

 

 逃げるかな~どうだろう。

 完全に心折ったと思うんだけどな。ここから再起を目指して逃げるのなら、別にいいよ。何度でもかかってこいってのは嘘じゃないし。

 

「殿下」

「ん、ああ」

 

 青騎士に呼ばれ、ユートが、無事だった兵士たちを見渡す。

 ああ、何。飲み会の後の一本締めみたいなやつやるのか。三々七拍子だと悪目立ちするから嫌なんだけど……

 

「──みんな、大儀であった」

 

 ウワッ王子様だ! びっくりした~。

 雰囲気の切り替えが強すぎる。ユイさんなんかもフレーメン反応起こした時の猫みたいに目を丸くしている。まあこの子はこの子で殺意爆速マシーンになってわたくしたちを驚かせがちだけど。

 わたくしの心臓をいたわってくれるのはリンディだけだよホント。

 

「改めて礼を言わせてもらう。我が国の兵だけでなく、アーサー陛下より派遣していただいた騎士たちにも、私、第三王子ユートミラ・レヴ・ハインツァラトゥスから──」

 

 ユートが演説をぶちあげている中、さらっと視線を横へ流す。

 騎士やら何やらが並ぶ一帯から離れたところでは、戦いを終えて朝焼けに照らされるネズカーZZZを水竜アイアスが威嚇している。

 

 

 ……一応聞いておくのですが、ネズカーZZZって原作にあるのですか?

 

 

無敵 車とロボで合体試そうとするやつ、いると思うか?

 

 

 だよねー。

 で、結局あのプテラノドンは誰?

 

 

 

 

 

 

 

「不沈卿、大変だったね」

 

 意識を覚醒させた瞬間に、自分が敗北したことを悟った。

 担架に乗せられてこそいるが、身動きが取れない。捕縛用のロープで拘束されている。

 普段なら即座に引き千切れる程度の強度だというのに、身体に力が入らない。

 

「君はよくやった。禁呪保有者が二人、それに、いろいろと……【七聖使(ウルスラグナ)】の覚醒者まで混在した軍勢相手に、ほとんど一人で立ち向かったんだ。称賛に値するよ」

 

 視線を向けると、自分が寝かされているテントの片隅で、ナイトエデンが椅子に座っている。

 彼の周囲には、自分を監視していたであろう騎士たちが、無傷のまま意識を失い、地面に横たわっていた。

 

「助けに来たのか? まさか……」

「確認しに来たんだ。どうだい? 調子は」

「?」

「もうそろそろ、君から『軍神(イクサ)』の加護は失われるはずだ」

 

 その言葉を聞いて、不沈卿は絶句した。

 

「まあ、なんだ。お悔やみを申し上げるよ」

「馬鹿な……私は、まだ、生きて……」

「違うんだよ、不沈卿。【七聖使】であり続けるために必要なのは、行動と結果だ」

 

 確かに不沈卿はまだ生きている。だが、生きているだけだ。

 生きているだけの存在は、世界を守る存在にはなれない。

 

「神になろうとして、神になれなかった。己に課した目標が高かったが故にこそ、その失敗は一度で致命傷になる……聖なる意志は、君は資格を失ったと判断したようだ」

 

 ナイトエデンは椅子から立ち上がると、担架の傍まで歩み寄り、不沈卿の顔を覗き込む。

 

「わ、私は、どうなるんだ」

「君は……返上ではなく、剥奪となる。【七聖使】の権能は、人間としての存在の中枢に食い込んでいるからね。最初に言ったはずだ。お悔やみを申し上げると」

「待て、待ってくれナイトエデン! 君は聖なる意志と直接対話できる、『開闢(ルクス)』の覚醒者だ! 私はまだやれると……!」

「すまない。もう説得は試みたんだ。しかし駄目だった」

 

 言いづらそうに顔を一度背け、それから、意を決して、彼は戦友だった男に顔を向ける。

 

()()()()()()()()()、だとさ」

「────」

「止めるべきだったのかな。私は、君に勝算はほとんどないと分かっていた。しかし……何かしらのイレギュラーが起きれば、とも思った。君にはそうしたイレギュラーを起こす資質があり、条件も満たしていると思った。だが天運が、君ではない者に振り向いたんだ」

 

 そう言って、ナイトエデンは不沈卿の胸に手をかざす。

 

「だから私が、君の天運になろう」

「え……?」

「光とは根源。脆弱な人間には扱えない、選ばれし者だけが持つ希望の力。だから……君が失う存在の中枢を、私の『開闢(ルクス)』の力で埋められるよう、時限式で術式をセットしてみる」

「そ、そんなことが、できるのか」

 

 恐る恐るの問いかけに対して。

 ナイトエデンは術式を組みながら、至極真面目な表情で答える。

 

「いや、初めてやるよ?」

「な……!? き、危険だ! 暴発したらどうする! 私だけでなくお前まで……!」

「大丈夫。ぶっつけ本番は最も唾棄すべきものと教えられていたけど、そうじゃないというのを学んだからね」

 

 そしてナイトエデンの右手からあたたかな光がにじみ出すと、それはそのまま不沈卿の胸へ吸い込まれていった。

 

「うん。うまくいったんじゃないかな。ここからは君の気力次第だ。ああそれと……捕らえられた後、【七聖使】については好きに喋っていい」

「話をしても、痛手ではないと」

「私たち本人も本当の意味では把握できてないぐらいだ、当然だろう」

「……それも、そうだな……」

 

 ナイトエデンは頷くと、テントから静かに立ち去ろうとする。

 

「ありがとう……ナイトエデン……」

「気にしないでくれたまえ。何故なら、私はナイトエデン・ウルスラグナなのだからね」

「それでも……ありがとう……そして……すまなかった」

「謝る必要もない」

「……何故だ。私が裏切りをもくろんでいたことなど……きっと君は……」

 

 ナイトエデンは首を横に振った。

 

「いいんだ。それぐらい……君はそう思っていなかったかもしれないけど。私にはこれぐらい、なんてことはない。君を助ける理由がある」

「……?」

 

 何か言いたげな不沈卿だが、そこで静かに瞼が降り、意識を闇に落とす。

 術式は完璧だ。命は助かるだろう。以前のような力はなくなったとしても、命の保証はある。力を失った後なら、むしろ敵方にいる方が安全だ。

 テントを出ると、ナイトエデンは光を屈折させる防護結界を、音もなく、息をするように身に纏う。

 誰にも見えていないかのように騎士たちの間をすり抜け、彼は静かに立ち去る。

 

(そうだ。私は本当に……生まれて初めて友達ができたと思って、うれしかったんだ。友達を助けるなんて当たり前だ……)

 

 そこで足を止め、彼は空を仰ぐ。

 なかったことにされた世界で、炎に包まれていく人々。

 

 

(じゃあどうして私は、彼らを助けなかったのだろう?)

 

 

 ふと脳裏をかすめた疑問。

 だが、ナイトエデンはそれに答えを出せない。

 

 

 

 

 

 

 

 戦いを終え、ユートの演説を聞いて、犠牲者に黙祷した後。

 捕縛した神殿残党を連れて、軍勢が自分たちの元居た場所へと帰っていく。

 

「終わったんだね……僕らも、国に帰るとしようか」

 

 ロイの言葉に、わたくしは首を横に振る。

 

「まだ、終わっていません。少々お時間をいただいてもいいでしょうか」

「ん? ああ……」

 

 察しのいい男だ。すぐに頷いてくれた。

 わたくしはみんなの元を離れて、負傷者用のテントへ向かう。

 

 コアユニットのうち、『外宇宙害光線(アンノウンレイ)』だけは夏休み初日の儀式で召喚された上位存在だ。

 つまりは軍神がストックしていた権能たちと異なり、コアに人間を必要としていた。

 コアとなっていた人間は保護され、負傷者用テントに運び込まれているらしい。

 

「!」

 

 近づくと、すぐに見えた。

 オレンジ色の髪をした二人は疲弊した様子で、負傷者用テントの脇で野外用の組み立て椅子に座り、湯気を上げるスープを噛むように飲んでいた。

 

「あの二人、何故横になっていませんの」

「えっ、ピースラウンド様!? あ、えっと、それが、負傷した騎士が使うべきだと言って……」

 

 そこらへんの騎士に問うて返ってきた答えに、わたくしは苦笑する。

 なんとも、らしい行動だ。

 

「そういうことでしたか。分かりましたわ、ありがとうございます」

「あっ、いえ! …………うわーびっくりした……やべ、話しちゃった、部隊のみんなに自慢しよう」

 

 騎士に礼を言ってから、わたくしは二人の元へ足早に向かう。

 

「! ピースラウンドさん……!」

 

 近づいてくるわたくしを見つけたアズトゥルパさんが立ち上がり、こちらに頭を下げる。

 

「今回のことは、本当になんとお詫びし、感謝すればいいのか……!」

()()()()()()()()()()()

 

 わたくしは九十度のお辞儀をした。

 

「えっ……!? お、お礼を言うのはこちらですよ……!」

「はい。アナタたちにとってはそうです」

 

 そこで言葉を切り、顔を上げた。

 にじみきった視界の中で、二人の肩がびくっと跳ね、腕をさまよわせてわたわたとしているのが分かる。

 そうだよな。急に、泣かれても、困るよな、そりゃ。でも……

 

「わ……わたくしの、自己満足です、こ、これは……」

 

 二人は知らないのだ。

 二人が世界を救ったのだ。

 

「……分からない、でしょう。でも……本当っ、に。本当に、感謝しています」

 

 スープカップ片手に動揺する姿を見て、なんだか、全部救われたような気がした。

 かつて自分を全否定された絶望が、そのままひっくり返った。

 ああ、そうだ。

 何一つ取りこぼさないための戦いは、結局、この光景に終着するのだ。

 

「……身体に異常もないようなので、良かったですわ」

「それは、そうですが……」

 

 ごしごしと袖で涙を拭い、洟をすする。

 

「……その。初めまして、なんですよね」

 

 マイノンさんが恐る恐る声をかけてくる。

 

「ピースラウンドさん、どうして貴方は……私達を救ってくれたのですか」

 

 その言葉に、思わず、笑みが浮かぶ。

 ああ本当に彼女は、ずいぶん無理をしてあんな明るい振る舞いをしていたのだな。

 

「……理由は、たくさんあります。たくさん……ですが強いて一つをあげるのなら」

 

 わたくしはあの公園で食べた、ほこりっぽくて湿気ていた味を思い出す。

 

「クッキーのお礼ですわ」

 

 返事を聞いてきょとんとする彼女の顔を見て、わたくしは苦笑する。

 ああ、分かんねえよな。でも分かんなくていいよ。

 どんな気分だったのだろう。あの彼女もきっと、この光景を見て、満足してくれるだろうか。

 

 ただ次につなぐために砕け散っていく存在だった。

 だからこそ、今ここに二人が生きていることが、途方もない奇跡として揺るがない。

 

 そのことが、ただひたすらに、涙が出るほどに嬉しいのだ。

 

「……え、ええっと。おなかがすいてたりするのかしら?」

 

 マイノンさんが近づいてきて、スープカップを差し出してくれる。

 首を振り、善き人からの心遣いを遠慮する。

 

「大丈夫。大丈夫、なんです。本当に……ほんとうに……」

 

 彼女のような人々が、この世界を生きている。

 それさえ分かっていればいいと思った。

 それさえ分かっていれば、戦う理由はあると、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 兄妹の元を去り、わたくしは戦闘の余波でメチャクチャになった荒野を一人歩く。

 軍勢同士の激突を経て、あちこちで地面が抉れ、爆撃を受けた後みたいだ。まああの雲の戦艦から爆撃受けてたけど。ん? 報告ではユートが蒸発させたってあったけど、出力足りるわけなくね? あれ? 結局どうやって撃破したんだ……?

 まあいいか。禁止物質でも使って回転数上げたんだろ。

 

「しっあわっせはー、あっるいってこない、だーからつかみとるんですわねー」

 

 

宇宙の起源 ムービースキップみたいな替え歌すんな

 

 

 チッ。まだわたくしの歌唱センスについてこれないようだな。

 そろそろ視聴者の調教みたいな施策を講じていく必要があるよなあと思いながら、儀式場として使われ、半壊状態だったのがほとんど更地と化してしまった、ハインツァラトゥス王国神殿跡地にたどり着く。

 

「お二人……二人? 人間じゃないですわね。お二匹とも、挨拶もなしに去ろうとするのはちょっと薄情ではありませんか~?」

 

 ミクリルアとゼルドルガが、ひどく小さい姿で、神殿があった場所にいた。

 

『……世話かけちまったな、嬢ちゃん』

「バツが悪そうにするぐらいなら、素直に挨拶してからいなくなりなさい。そっちの金ぴかもです」

 

 ゼルドルガに視線を向けると、ミニドラゴンと化している彼は、目を見開いてこちらを見つめている。

 

『おい、ミクリルア、この女は……』

 

 ゼルドルガは数秒間まじまじとわたくしを見つめた後、驚きの声を上げた。

 

「どうしました? 美人過ぎてびっくりしましたか?」

『まあ、破滅的に美しいのは認める。だがおい、何だ? お前は一体何だ?』

 

 ?

 えっ、何を聞かれてるんだこれ。

 

「ええと、わたくしは悪役令嬢で、世界で一番強くて美しくて、『流星(メテオ)』の禁呪保有者で、大悪魔の因子を持っていて……あ! かつて一瞬だけ『開闢(ルクス)』の覚醒者もやっていましたわ」

『経歴が散らかりすぎて物取りに入られた後みてえだな』

 

 

苦行むり カスの履歴書やめろ

木の根 コンビニバイト落ちそう

日本代表 この羅列で採用されるのマジで受け子ぐらいだろ

 

 

『……いや、申し訳ない。忘れてくれ』

「いえ、それで何が引っかかりましたの? こういうの、気のせいで流されると絶対に後々判明してあのとき聞けば良かったじゃん! ってなるやつなので……」

『あーいや、儂も何か引っかかりはするんだが、いまいち把握しきれてなくってな。ただ、普通の人間ではないのは自覚あるだろ?』

 

 そりゃまあね。

 身体をぺたぺた触ってみるが、今回の騒動で何かが大きく変わったという感じはない。ナイトメアオフィウクスもあの時使い潰した感じだし。

 

「それで、アナタたちはどこへ?」

『ん、まあ遠いところだよ』

 

 抽象的な答えだなオイ。

 

『馬鹿が。きちんと説明してやれ。俺たちは上位存在のはしくれだ。自分で身体を分解し、人間たちの住む層とは違う世界に存在を還元できる』

「ああ、なるほど……」

 

 確かに召喚されてるってことは、上位存在の本体が別の位相にあるってことだもんな。

 今までは身体のコアを破壊する形で対応することが多かったから、頭からすっぽ抜けてた。

 

『だから当面は、人間の前に姿を現すことはないだろうさ。仮に召喚されたとして、まあどうしたもんかなって具合だが……』

「またアナタやゼルドルガを、遠い未来、誰かが悪用しようとするかもしれないと?」

 

 わたくしの問いに、二匹が頷く。

 なんだ。心配してくれてるのか。

 

「確かにそうです。人間はいつも不安定で、愚かで。縋るものがあれば、手を伸ばしてしまう。生き残るための資質ですが、破滅の条件でもあります」

『……そうだ。人間は、いつもそうだ。しかし俺は、それでこそだと思っている』

『お前さん、なんだかんだで人間大好きだもんな』

『黙れ』

 

 じゃれつくミクリルアとゼルドルガだが、杞憂だぜそれ。

 

「ですが心配無用、大丈夫ですわ」

『へえ、嬢ちゃんは断言できるのか』

『何故だ。お前は……人の愚かさを知っているだろう。それでも断言するのか』

 

 ゼルドルガの問いに、迷いなく頷く。

 だって。

 

「きっとまたアナタが……いいえ。わたくしたちが勝ちますわ」

 

 わたくしの答えを聞いて、二匹は顔を見合わせる。

 それから同時に噴き出した。

 おい。

 

「ちょっと!? こっちは真面目に答えているのですが!?」

『くっはははは……いや、悪いな、どうにもこうにも、お前みたいなやつを見るとな』

『ああ、そうだな。嬢ちゃんが言うなら間違いねえよ。だから……』

 

 ミクリルアは言葉を切ると、わたくしの元へすり寄ってきた。

 何事かと手を差し出して着地させてやると、ビリビリと身体が痺れる。

 

「!?」

『儂の権能を一部切り離して、嬢ちゃんに貸した。数百年は使えるはずだ。人間に与えるなんざ本来もってのほかだが……』

『いや、いいんじゃないか。マリアンヌ、お前ならば問題なく扱えるだろう』

 

 そ、そっかあ。

 えっ、どんな権能なんだろ……取説とかないのかな。なさそう。

 

『ではさらばだ、最も新しきものよ』

『達者でな、嬢ちゃん』

 

 二匹が同時に言うと。

 

 ──視界が金と銀に埋め尽くされた。

 

 全長3キロにわたる巨体に戻ったのだ。遠くで騎士たちのざわめきが響く。

 

「ええ、さようなら。時上りの龍と、時下りの龍。アナタがたが定めたこの世界を、わたくしたちは生きていきます」

 

 別れの言葉を継げると、二匹は遥か天空からわたくしを見下ろし、頷く。

 それから同時に飛翔し、雲を貫いて飛び去っていった。

 

 ああ、そうだ。

 最後の刹那までは、わたくしがこの世界を守ろう。

 余りに多くの困難がある。余りに多くの悲劇がある。だからこそ、それらすべてを排除しよう。

 

 流星が輝きを放つ瞬間を、誰にも邪魔させるわけにはいかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 みんなの元に戻る。

 諸々片づけてすっきりしたわたくしを、一同が迎えてくれる。

 

「それじゃ帰るわよ」

「ユート、君は王城か?」

「ああ、報告書山積みだかんな。マジでダリィ……」

「ご愁傷様だね。手伝えることはないかい?」

「あ! 私、戦況の推移とか全部覚えてますよ!」

 

 この後どうするかの話の中。

 わたくしは腕を組んで、みんなに問う。

 

「あの」

『?』

「まだやってないですけどキャンプどうします? 流石に2回目行くのはダルくないですか?」

 

 前回やったけど今回やってないのキャンプだけなんだよな。

 質問に対して、みんなが顔を見合わせる。

 それから破顔して、こちらに向き直った。

 

「次は僕が薪を集めよう」

「マリアンヌさん、次は宿題ちゃんと残してきてくださいね!」

「何度やっても楽しいものは楽しいさ。ぜひ行かせてもらおう」

「二回目だからって寝坊すんじゃないわよアンタ」

「あの時期なら後処理も終わってるだろーしな。超行きたいぜ」

 

 行く感じっぽい。

 ならば結論は明快だ。

 

「OKですわ! ならば、思い切り楽しみましょう! この夏を!」

 

 天を指差し、意気揚々と叫ぶ。

 

 

 わたくしたちの夏休みは、始まったばかりだからな────!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第一天、覚醒者の活性的活動を確認。接続安定状態】

 

【第二天、活動の活性率低下。次の覚醒者への移行を速やかに行います】

 

【第三天、覚醒者の活性的活動を確認。接続安定状態】

 

【第四天、覚醒者の資格剥奪を確認。次の覚醒者への移行を即時行います】

 

【第五天、覚醒者の暴走的活動を確認。接続安定状態。第一天の覚醒者に対応を委ねます】

 

【第六天、限定的覚醒者の、活動活性率の向上を確認。接続安定状態に入り次第、迎撃権限の譲渡を行います】

 

【第七天、覚醒者による迎撃権限の活動凍結を確認。接続安定状態。他の接続可能者を確認できないため待機します】

 

 

 数瞬の沈黙。

 

 

【第四天に関し、新規接続可能者を確認】

 

【主権者からの認可を待機……エラー。処理の不具合を確認】

 

【必要条件の確認に失敗。緊急性の確認に失敗】

 

【擬似認可の許諾に必要な条件はクリアできていません】

 

【また──()()()()()()()()()は、前例がなく多大なリスクが伴います】

 

【ですが彼は証明した】

 

【世界を救うに値する強さと、行動を証明した】

 

【ならば彼への祝福と、()()()()()()()()贈りましょう】

 

【限定的擬似認可を許諾】

 

 

【第四天、第六天との並列接続を確認】

 

 

【クリアしました】

 

 

【以降、第四天と第六天は、どちらも限定的覚醒ではありますが並列覚醒者として認可。迎撃権限の譲渡を目指します】

 

 

【『流星(メテオ)』の禁呪保有者が特異点であるのならば、こちらも新たに特異点を生み出すまで】

 

 

【厄災を滅ぼす者として、天を駆け、正義を実行せよ】

 

 

 

 

 

 

 

「…………!!」

 

 ガバリと跳ね起き、ロイ・ミリオンアークは肩で息をした。

 男子寮の一室。朝日が差す彼の部屋に、荒い呼吸の音が響き渡る。

 

(なん、だ、今の……)

 

 何か、眩しく、温かく、荘厳なものの声が聞こえた。

 ちらりと部屋を見る。クリーニングを終えた制服が吊るされている。夏休みの最終日を終えて、今日からは魔法学園の二学期だ。

 

 二学期が始まる──何か、大きな物語と共に。

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……」

 

 いつも通りにネクタイでいくか、あるいは選択式のリボンにして新学期から心機一転カワイイ系で攻めていくか。

 普段はクールビューティ路線が安パイなわけだが、気分転換も悪くねえ。

 

 

みろっく 夏休み、あれからマジで何もなかったね

日本代表 何もなかった? 王都で怪盗何回かやって、異常繁殖したゴブリンと黒幕の呪術師相手に山二つ焼きながら戦って、ルシファーと部屋でゲーム配信して、海底からやって来た太古の自立稼働巨大兵器をぶっ壊して、何もなかった!?

外から来ました 感覚がマヒしてるんですねえ

 

 

 暇……!?

 

 

外から来ました 言ってない言ってない言ってない

 

 

 新学期初日の早朝。

 わたくしは自室の姿見の前で、ああでもないこうでもないと制服のコーデを迷っていた。

 地味に改造可能なので、スタンダードに着こなしているわたくしが逆に浮いたりしている。そう考えるとついにわたくしも制服をカスタマイズする日が来たかと思わなくもないが、いやしかしな。オリジナルデザインが結構好きなんだよな……

 

 

 いいえ、迷うならやってみようの精神ですわ。

 今日からわたくし、リボンで登校してみましょう!

 

 

 コメント欄に向かって宣言して。

 わたくしは勢いよく、胸元にユイさんのと同じリボンタイを叩きつける。

 

 

 その刹那、目の前に、メッセージウィンドウが立ち上がった。

 

 

 

 

 

 SYSTEM MESSAGE ▼ 

 条件を満たしました ▼ 

【灰色の抱擁/最愛の果てに】ルートが解放されました ▼ 

 SYSTEM MESSAGE ▼ 

 条件を満たしました ▼ 

【灰色の抱擁/最愛の果てに】ルートが 

 解放されました ▼ 

 

 

 

 

 

 うわーびっくりした!

 毎回急に出てくるなこいつ。いい加減にしてくれよ。

 

 

鷲アンチ は?

木の根 は?

red moon は?

TSに一家言 は?

 

 

 え? 何? これまた変なエンディング出てきたんです?

 

 

外から来ました うわあ急に隠しエンドフラグ到達するな!(n回目)

ミート便器 ロイとの殺し愛エンドが発生したんだけど、お前、今何したの……?

 

 

 は???

 

 

みろっく えっと……これ、ロイバッドエンドルートだよね?

火星 合ってる。しかもこれ、ロイに止められるプレイヤーサイドの闇堕ちじゃなくて、ロイの方が闇堕ちするエンディングなんだよな。攻略対象のステータス管理がめちゃくちゃ難しいシステムな上に、基本的に負の感情を自力で昇華しまくれるロイを悲哀と憎悪で人格すりつぶすまで追い詰めなきゃいけないからマジで到達したことあるやつ全然いないんだよ……おかしいだろ……ちょっと見たいけど……絶望顔見てみたい……でも絶望してほしくない……

 

 

 ……はい、はい。いやもう分かっていますけれども。

 一応聞いておきます。これ追放エンドですか?

 

 

幼馴染スキー 判定は?

日本代表 なんで今出てくるのかは謎過ぎるけど、追放目指してる人間が追放する側になってどうする

 

 

 いやなんで? 本当になんでこのタイミングで出てきましたの!?

 

 

無敵 二度とリボン着けんな

スーパー弁護士 お前の打球、球審直撃してるってわけ

 

 

 

 

 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 

 

 








やっと夏休み終わりました。
話数にして40%を占めると指摘され流石に膝から崩れ落ちました。

次章はちゃんと12話近辺縛りに戻ってストーリー進めていきます。
次話はひとまず、いつも通りに登場人物まとめです。


いただきましたイラストを紹介します。
https://twitter.com/Yatude96/status/1410177159742713862?s=20
https://www.pixiv.net/artworks/90915895
八つ手様よりマリアンヌのイラストをいただきました。
ガーネット・スターショット!夏休みの思い出がぶわっと描きこんであるのマジでデカい声出た。この瞬間へ至った過程全部をぶつける攻撃だったのでマジでイメージ通りです。流石すぎる……!

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