TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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PART11 悪役は唯一人

 意識飛んでた。

 血が足りない。魔力で出血箇所を覆い、圧迫して止血する。

 どれくらい飛んでた?

 気づいたら聖女リインが訳の分からない魔法を展開してる。

 禁呪の十三節、完全詠唱か。

 

 世界がぐらぐらと揺らぐ。

 視界が明滅する。

 恐らくわたくしが食らった攻撃は、わたくしと同様に十三節詠唱の禁呪を切り詰めたものだろう。『流星(メテオ)』で防いだ上でこれほどのダメージとは、流石は禁呪だ。

 だが。

 

()()()()()、わたくしが負けることはあり得ません……!」

 

 感覚が復旧されていく。世界に色が戻る。焦点を絞り、聖女リインの顔を真っ直ぐ見つめた。

 震える両足に力を込めて、立ち上がる。

 そうだ。こと暴力性能という面において、悪役令嬢が誰かに負けるなんてあってはならない!

 

「……マリアンヌ嬢、君は……」

「退いてください。退きなさい、騎士ジークフリート! わたくしはあの光を認めない! わたくしの信じるもののためには、絶対に負けられないのです!」

 

 腹の底から叫ぶと、ジークフリートさんは数秒黙った後、頷いて道を譲ってくれた。

 すれ違いざま、赤髪の騎士はフッと表情を緩める。

 

「大丈夫だ、マリアンヌ嬢。オレは……君が、君の優しさが勝利することを、信じている」

 

 励ましの言葉だった。

 背中を押されるような心持ちさえした。コロシアムのど真ん中に立てば、聖女リインと正面からにらみ合う形になる。

 

 やってやる、やってやろうじゃねえかこの野郎!

 わたくしとこのババア。

 どちらが真の暴力装置(せいじょ)か……白黒つけようじゃねえか!

 

 

 

 

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上位チャット▼


鷲アンチ これ配信画面見えてる?

木の根 だめっぽい

苦行むり 完全に頭に血が上ってますね……

ミート便器 聖女を名乗る異常者VS聖女を名乗る異常者

太郎 真聖女不在ってマジ?

適切な蟻地獄 一生勝手にやってろ

日本代表 偽物が本物にかなわない道理はない!

red moon どっちも偽物なんだよなあ

みろっく もうキレにキレ倒してる顔じゃん……

外から来ました 5人ぐらい殺ってる顔

火星 やっとらしくなってきたな

日本代表 聖女から全力疾走で遠ざかる女

無敵 本当に追放のこと覚えてるのかこいつ

日本代表 予備策用意したのをいいことに絶対覚えてないぞ

【早く来てくれ】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【本物の聖女さん】

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「まずいわよあんた! 禁呪相手にどうやって立ち向かうつもり!?」

 

 リンディは貴賓席からマリアンヌに向かって叫んだ。

 禁呪という存在そのものは王国に広く周知されている。大賢者セーヴァリスが生み出した、人道に反し、倫理を踏みにじる、計七種に及ぶ超弩級戦略魔法。

 たった一発で戦場そのものを破壊しかねない、封印された魔法だ。

 

「そうだマリアンヌ! 聖女リインの使っている禁呪は、恐らく不可視性に優れた特性を持つ隠密攻撃! 正面から挑むのは下策だ……!」

 

 何か自分にもできることがあれば、とロイは貴賓席からコロシアムに飛び降りようとして。

 

「よせ、ミリオンアーク君」

 

 マリアンヌから距離を置き、見守っていたジークフリートに止められた。

 何故、とくってかかろうとして。

 赤髪の騎士の視線の先を見て、ロイはハッとした。

 

「…………ッ!」

 

 魔法使いだからこそ、分かる。

 マリアンヌの全身を循環し、魔力が躍動している。これまでに見たことのない活性状態だった。

 本気も本気。幼馴染であり、恋い焦がれる少女は今──まさに、今に全てを賭けている!

 

「これは、彼女の戦いだ」

「それ、は……」

「譲れないものがあるんだろう。自分こそが最強であると証明したい少女が。()()()()()()()()()()()()()()()()()が──奇蹟を切り売りする、まがい物の聖女に負けるわけにはいかないんだ」

 

 過剰魔力がオーバーロードし、彼女の身体から零れ出す。

 それを見て聖女リインもまた、再度魔力を練り上げ始めた。

 

「ふん。令嬢が楯突くか。お前が何かするよりも早く、こちらは国王を殺せるんだぞ」

 

 脅し文句だった。王が渋面を作り、王子たちが青ざめる。

 だというのに。

 

「あら。あらあら。随分とまあそれらしい口調になってますわね。そちらが素ですか。やっぱりそちらの方がよく似合っていましてよ、聖女様」

 

 口元をつり上げ。

 魔力の奔流に身を委ねながら、マリアンヌが不敵に言い放った。

 

「随分と堅苦しく、似合わない演技でしたわ。今の方がずっと生き生きしているのではなくて? すぐに人質を取りにいく小物っぽさなんて抜群ですわね」

「────吠えたな、小娘!」

 

 聖女リインがその身から漆黒の魔力雷撃を放出する。無秩序に客席を破壊するその中で、彼女は手をかざし魔法陣を展開。

 

「ええ。そうでなくては。アナタのような存在相手に雌雄を決するならば!」

 

 それとマリアンヌが魔力を練り上げ終わるのは、まったくの同時だった。

 頂点に達した戦意に呼応し、黄金色の魔力光が、漆黒の魔力光を薙ぎ払う。

 

「その聖女という立場! 真に相応しい者に返しなさい──ッ!!」

 

 聖女リインは、いいや彼女の中に巣食う悪魔はぎょっとした。

 マリアンヌの貌を照らす光。彼女から溢れ出す威光。それは正しく神の如き神秘さを携えていたのだ。

 大地の中心に佇み。

 彼女は右手を起点に十三の魔法陣を展開、幾何学的に配置しながら詠唱を紡いでいく。

 

 

 

 ────星を纏い(rain fall)天を焦がし(sky burn)地に満ちよ(glory glow)
 
 ────星を纏い(rain fall)天を焦がし(sky burn)地に満ちよ(glory glow)
                                         

 ────射貫け(shooting)暴け(exposing)照らせ(shining)光来せよ(coming)
 
 ────射貫け(shooting)暴け(exposing)照らせ(shining)光来せよ(coming)
                                     

 ────正義(justice)(white)断罪(execution)聖母(Panagia)
 
 ────正義(justice)(white)断罪(execution)聖母(Panagia)
                                          

 ────悪行は砕けた塵へと(sin break down)秩序はあるべき姿へと(judgement goes down)
 
 ────悪行は砕けた塵へと(sin break down)秩序はあるべき姿へと(judgement goes down)
                                     

 

 

 

 

 何を詠唱しているのだという困惑。

 だが『それ』を知る者は、一様に顔色を変えていった。

 聖女リインも追随し、十三節に及ぶ詠唱を展開する。

 

 

 

 ────星の瞬き(stars rise)天は花開き(sky glory)地は砕ける(ground lost)

 ────怯えろ(frightened)震えろ(trembled)祈れ(prayed)歓喜せよ(delighted)

 ────不可視(invisible)右手(right)銀貨(coin)代償(compensation)

 ────罪業はヴェールに包まれ(sin hide out)私は悪魔の目を欺こう(nightmare get out)

 

 

 

 そんな馬鹿な、とロイは呻いた。

 リンディは何が起きているのか分からず、目を白黒させることしかできない。

 執拗なまでに、執念を感じるほどに精査された十三節の詠唱。敵対存在を欠片も残さず灰燼に還すための虐殺権能。

 七つ存在する、人類史の汚点。

 

 

 

 ────裁きの極光を、今ここに(vengeance is mine)
 
 ────極光よ、今この手の中に(vengeance is mine)

 ────今、汝の罪は赦される(forgive your heart)

 

 

 禁呪と禁呪が相対した。

 一手早く、マリアンヌが力を解放する。

 

 

完全解号(ホールドオープン)──虚弓軍勢(マグナライズ)流星(メテオ)ッ!」

 

 

 降り注ぐは天を砕き、大地に満ちる流星群(メテオ・シャワー)

 普段使っている流星(メテオ)とは比にならぬ質量、数。

 大陸の半分を覆い尽くすほどの最大レンジが今この瞬間、聖女リインという一点に集中する。

 

 

完全解号(ホールドオープン)──虚笛光輝(エリミネイト)激震(クエイク)ゥゥッ!」

 

 

 遅れて聖女リインが解き放ったのもまた、十三節完全詠唱の禁呪。

 ロイの推測は正しい。彼女が使う禁呪は『大激震(アースクエイク)』。一切の予兆なく、前動作なく、地面だけでなく空間すら伝播する震動衝撃を発生させる魔法だ。

 大陸が砕け海が割れるほどの大地震すら再現可能。

 あるいはそれは、こう言い換えることもできる──()()()()()()()()()()()

 

 神話の如き光景だった。術者二名を除き、全員が棒立ちになり、呆然と見守ることしかできなかった。

 天空から降り注ぐ流星群と、空間に張り巡らされた大激震が激突する。

 流星が砕かれ、割れていく。次から次へと無尽蔵に現れる火の星は、しかし聖女リインの元に届かない。余波でコロシアム付近の山々が根こそぎ蒸発していく。

 

「くははははははははっ!! やはり! やはりこの『激震(クエイク)』こそが最強の禁呪!」

 

 一方的に流星が打ち消されていく。

 その光景を見て、聖女リインが哄笑を上げた。

 

「不可視の衝撃波は攻防一体にして絶対無敵! 貴様の『流星(メテオ)』など、最も恐るるに足らぬ禁呪の恥さらしだ!」

 

 そこには技術などでは覆せない、圧倒的な相性差があった。

 勝利の確信に瞳をギラつかせながら。

 聖女リインはコロシアムを見下ろす。

 

 いない。

 マリアンヌ・ピースラウンドの姿がない。

 

「……は?」

「どこを見ていますの?」

 

 声が聞こえたのは上からだった。

 ガバリと顔を上げる。

 流星群と大激震の激突する、天地開闢の刻に等しい超爆発が咲き乱れる空を背に。

 コロシアムの中でも最も天に近い場所。

 国旗を掲揚するポールの上に、マリアンヌは佇んでいた。

 

 

苦行むり ば──

鷲アンチ ば──

日本代表 馬鹿だこいつ──────!!

みろっく 煙のお友達じゃん

 

 

 あの破壊の嵐に誰もが目を奪われている隙に。

 マリアンヌはしれっと移動し、ポールの上までよじ登っていたのだ。

 右腕を掲げ、天を指さしてマリアンヌは言う。

 

「一族の誇りにかけて、断言しましょう──勝利の栄光は、もうわたくしの手の中にあると」

 

 同時。

 上空で行われている大規模魔法激突とは別に。

 彼女の右の拳が──光を放つ。

 

「……は?」

「──第二完全解号(デュアルオープン)

 

 禁呪のエネルギーを充填した拳。

 令嬢に勝利をもたらす必殺の拳。

 先日クッソ適当に悪役令嬢パンチと名付けられたその拳。

 

「ば、馬鹿な。あり得ない! それは、それも禁呪だというのか!? 一体何時!?」

「分からないなんて、とんだお馬鹿さん。禁呪を詠唱しながら、禁呪を詠唱したのですわ!!」

「なんて???????」

 

 

太郎 禁 呪 重 ね が け

外から来ました ウッソだろおい

無敵 『流星』に『流星』を重ねて、自称聖女特有の暴力と極限の低能さが加われば1200%だーーっ!!

 

 

 ポールの頂点を蹴り、令嬢が宙を舞う。

 咲き誇る破壊の花たちを背に一回転、拳を矢のように引き絞った。

 落下先には聖女リイン。二人を阻む者は何もない。

 

「そんな、そんなことが──」

 

 禁呪の重ねがけ? 馬鹿な! あり得ない。悪魔を以てしても不可能な芸当だというのに。

 

「一体──何なんだ貴様は!?」

 

 ニィと口元をつり上げ。

 マリアンヌは、流星の如く駆けながら叫ぶ。

 

 

「──必殺・聖魔女令嬢パァアアアアアアアアアアアンンチッッ!!」

 

 

 最後の一撃は、それなりに重々しい爆砕音と、極めて著しい低知能発言と共に放たれた。

 頬にめり込んだパンチが、リインの身体を丸ごと弾き飛ばす。観客席からコロシアムへと叩き落とされ、グラウンドを数十メートル砂煙を上げて転がっていく聖女の身体。

 上空で流星群と大激震が勝利のファンファーレ代わりに一際大きく弾けて、それきり消えた。

 

 右手で天を指さし。

 いつものポーズを取り。

 血に濡れようとも変わらぬ美しさと尊大さで、マリアンヌは叫ぶ。

 

 

 

「世界の頂点に君臨する、魔の道を究め、聖なる意志に導かれた女! 最強の魔女とは! 最強の聖女とは! それはほかでもない──このわたくし、マリアンヌ・ピースラウンドですわッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「どっちだよ…………」

 

 ロイの呟きは虚空に溶けていった。

 

 








ネクストコナンズヒント
『処刑』

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