TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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PART8 女帝による高精度文化祭運営事情(前編)

次の配信は五分後を予定しています。
 
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苦行むり ついに学園祭か

幼馴染スキー 本当にここで大隊長と戦うのか……

鷲アンチ 控えめに言っても詰みでは?

ミート便器 異常レギュだしワンチャンないのかな

つっきー なさそう

適切な蟻地獄 明らかに底上げされてるから大隊長サイドもまあ……って感じ

日本代表 原作の段階でインフレしてたのに何なんだよ

red moon インフレとフラグ前倒しが止まらない

火星 もうパワーバランスはボロボロ

みろっく 大隊長って本来ならいつ出てくるの?

ロングランヒットおめでとう 出てこないんだなぁこれが!

みろっく 出てこないの!?!?

無敵 はい……

日本代表 設定資料集には出てくるんだけど、シナリオだと未登場で、続編に出るんじゃねみたいな話だけあったけど製作者がどっかいっちゃったから完全に死に設定になってたんだよなあ

【ワクワクドキドキ】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA CHAPTER4【大抗争学園祭編!】

1,321,989 柱が待機中

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 学園祭1日目。

 早朝に起きていつもの訓練を終えたわたくしは、集合までの空き時間、一人で空き教室にいた。

 普段は特別講義などで使われる教室は、学園祭当日なのもあって完全な物置にされている。誰かが来ることもまずない。

 

「……というわけで、ちょっとここらで現状を確認しましょう」

 

 わたくしは配信を開始した後、教壇に立ちチョークを手に取っていた。

 先生っぽさを意識して伊達眼鏡をかけてみたが、まあまあ邪魔。

 

「学園祭のいつになるかは分かりませんが、騎士団の大隊長クラスがわたくしの命を狙っているのは確定です。これは実行者であろうゴルドリーフさんが明言した以上、事実として認識します」

 

 わたくしという文字を丸で囲んだ後、騎士団大隊長(ゴルドリーフ)という文字を丸で囲み、矢印をぶつけ合う。基本的な構造としては、ここの対立というか抗争に近い。

 ……これ、他の二人がどうなのか、結構グレーなんだよな。騎士団全体に対して警戒するしかないのだが、例えばわたくしを守りに来てくれた他の大隊長がいたとしても、味方だと即座には判断できないのがキツ過ぎる。騎士の立場で即信用できるのはジークフリートさんぐらいだ。彼の部下ですら、構図としては大隊長の命を受けている可能性が否定できない。面倒くせえ状態だ。

 

 

トンボハンター 意外と構造はシンプルなんだよね

みろっく 今更禁呪を持ってるぐらいでガタガタ言われても……とは思っちゃうな

 

 

「いえ、どこまで強弁しても、やはり正義は向こうにあります」

 

 コメント欄の発言に、わたくしはぴしゃりと断言する。

 

「わたくしの前世……西暦世界の日本では銃を持つことは禁止されていました。わたくしが銃を使い悪人を裁いていたとしても、法に照らした際に罪があるのは明らかです。私的に銃を持っている犯罪者相手に、騎士が対処……すなわち警官が発砲するのは、流れとしては当然でしょう」

 

 

みろっく でもみんな魔法使ってるのはどうなの?

 

 

「いい質問だと思います。結論から言えば、魔法はあくまで凶器足り得ません。西暦で言うところの殴る・蹴るの延長線上に通常の魔法があり、禁呪が刃物や銃器に該当する……こう考えれば納得がいきませんか?」

 

 

みろっく ああ、なるほど確かにそうか……

苦行むり 説明が分かりやすい。本当にお嬢か?

宇宙の起源 みんな信じてないけど、この子本当は賢いんすよ

 

 

「根本的に世界観が違うので先ほどの説明がすべてとは言いません。てゆーかどちらかといえば、西暦日本と比べておかしいのはアーサー王の方ですからね。あのジジイ本当にちょっとネジ十本単位で吹っ飛んでますわよ」

 

 

red moon それは本当にそう

 

 

 ぶつくさ言いつつ、黒板で勢力図をまとめる。

 

「今までわたくしが庇護されていたのは、アーサー個人の意向に過ぎません。プライベートで王子の皆さんと接することはありましたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()、と考えればまあ……むしろやっと来たか、というぐらいですわね。私怨が大きな原動力となっているようですが、やろうとしていることは文句のつけようもない正義の執行です」

 

 黒板に文言をつけ足していきながら、うむと頷く。

 なんかあれだな。教育系配信者っぽいな。子供向けに算数とか教えてるやつ。

 

 

苦行むり 〇分で分かる歴史の授業感凄い

鷲アンチ 子供に見せたい

火星 お前ほんと子供好きだな……

 

 

「ついでに企業勤めでは絶対に知ることのないお金稼ぎの方法でも教えましょうか」

 

 

太郎 チャンネル登録解除した

鷲アンチ 子供に見せたくない

外から来ました 低評価一億回打つ

 

 

 さすがに荒稼ぎさせてはくれねえか。

 舌打ちしながら、わたくしは全体の構図とは離れたところにチョークを走らせる。

 

「では全体の構図を理解した上で、次に各陣営の勢力差……具体的に言えば、強さの序列を見ていきましょう。ここ次第で対応も決まっていきますからね」

 

 カッカッとチョークが黒板を叩く音。ここ、何気に重要事項だ。テストなら絶対出る。何をすべきか以前の、何をしてはいけないかが分かるポイントだからな。

 そう思いながら式を書き終え、コメント欄に見せる。

 

 

『わたくし>大隊長』

 

 

つっきー 主観やば

日本代表 配信者の思想が強すぎる

 

 

「まず今回登場する勢力の中で、頂点に君臨しているのが誰かというと、言うまでもないですわね。わたくしです」

 

 コメントがぐわーっと流れていった。『詐欺師が』『ふざけんなテメー』『論拠出せねえオタクは死ね!』『思い上がりの永世七冠』と罵詈雑言の嵐である。フン、"真実"に目覚めていない愚民の言いそうなことだ。

 で話を戻すと、わたくしの次に多分大隊長が来る。聞いた感じだと化け物じみた強さらしいが、化け物ぐらい何匹も倒してきた。話にならねーな。

 

「それでは続けて、強さの序列を書いていきますが……」

 

 思案した後、わたくしの中で大隊長を除き今回巻き込まれている人間の中で一番強い人の名をチョークで書く。

 うん、こんな感じかな。

 

 

『わたくし>大隊長>ジークフリートさん』

「解釈違い!!!!!」

 

 

 わたくしはクソデカい絶叫を上げ、黒板の文字をごしごしと消した。

 

「わたくしとジークフリートさんの間に二段階の差があるのは解釈違いです!! 百歩譲っても大なりイコール!! 誰ですかこんなフザけた式を書いたのは! 数ⅠAマイナス3億点ですか!?」

 

 

宇宙の起源 セルフ発狂されると何も出来ねえからやめろ

鷲アンチ 自分で撒いた種の発芽にキレんな

無敵 理解ってんじゃん

 

 

 フーッ、フーッと肩で息をしながら、わたくしは正しい式を改めて書く。

 

 

『わたくし≧ジークフリートさん』

 

 

第三の性別 大隊長消えてて草

外から来ました 大隊長どこだよ

みろっく よく分かってないんだけど、実際はどうなの?

火星 レギュぶっ壊れてるからなんとも言えないけど……アーサー>大隊長は確定してるから、禁呪保有者がそもそも底上げされてるのを加味すると、原作での強さと今回の強さでかなり式が変わる

 

 

 へ~、そうなんだ。

 

 

火星 お嬢、ちょっと俺が言う通りに黒板に書いてくれる?

 

 

「はいはーい」

 

 

 わたくしはコメント欄に並んだ文字列を、そのまま黒板に書き写した。

 普通に考えると逆なのがなんかウケるな。黒板に写しちゃうのかよ。

 

 

『今回レギュの熟達した禁呪保有者(アーサー)=熟達した七聖使(マクラーレン)>今回レギュ大隊長≧原作最終覚醒ジークフリートさん>原作大隊長>今回レギュジークフリートさん>以下不明』

 

 

 完成した式を眺め、腕を組んで考えこむ。

 なんていうか……今回のレギュレーションによる変動、デカい気がする。

 ていうか、間違いなくデカい。

 

 

火星 今回っていうのは文字通り、今回お嬢が走ってるレギュでの現段階での認識だ。そんで原作って言うのが、原作における最終的な強さの認識でいい。今回レギュ大隊長と原作最終覚醒ジクフリさんの差はかなり推測でしかないんだけど……多分、今回レギュ大隊長の方が強そうな気配がある。これは完全に直感だけどね

 

 

「なるほど……って、原作最終覚醒ジークフリートさん強すぎません? エディットじみた連中を除去すると一強ってことは、完全に覇権キャラじゃないですか」

 

 

火星 無茶苦茶強いしこのゲームとしては珍しく強さのブレがないんだよね、猿がいたころのEMEmの認識で間違いない

トンボハンター QAAMみたいなもん

宇宙の起源 Xのメタナイトみたいなもん

カフェ引けねえ キタサンみたいなもん

 

 

「例え方がバラバラ過ぎるのに分かってしまうのが怖いですわね……」

 

 どうやら単に環境を制圧するだけではなく、それ以外を選ぶのは死に直結するようなレベルだったっぽい。それでも人気キャラであるというのがなんだか誇らしいな。あっやべ、彼女面しちゃった。

 

 

無敵 そりゃ原作のぶっ壊れインフレバトルの中で永遠に最強キャラ候補に挙がり続ける人だからね。凄いでしょ

宇宙の起源 なんでこいつ後方彼女面してるんだ……

無敵 ちがいまーす、加護与えてるんで後方後見人面でーす。あっ事実だから面でもないか笑

red moon は?

木の根 うざ

外から来ました キッショ

幼馴染スキー 推しと繋がったの自慢するオタほんまキツい

苦行むり 猛省しろカス

 

 

 危ねえな、もう少しでこれになるところだったのか。

 炎上しまくるコメント欄を眺め、わたくしは固く誓った。彼女面するのは内心に留めておこう。

 

「……ところで、七聖使って結構高い評価なのですね?」

 

 

火星 ああ……夏休み、軍神の権能を使ってる覚醒者と戦っただろ。あれを見る限り、原作レベルの禁呪保有者じゃマジで勝負にならないんだよ

 

 

 確かにそうだな。正直あのレベルを正面から相手取ろうとするのは厳しい。

 とはいえ、結局なんなのかよく分からん集団だけど。

 

「あれって正直なところ、出来の悪い二次創作に出てくるオリ組織みたいに認識しているのですが合ってます? 原作の勢力と対立する感じの……ISで言うと篠ノ之束に匹敵する技術力を持ってたり、HSDDで言うと黒歌とかオーフィスとかが所属してたりするあれですわよね?」

 

 

外から来ました おい!!!!!!

無敵 ふざけんな今すぐ黙れ

幼馴染スキー 急に殺人事件起こし始めるなバカ!!!

 

 

 壮絶なバッシングが始まった。

 確かに失言だったかもしれないな。

 

「チッ、うっさいですわね……反省してま~す」

 

 ちなみに出来の悪いとか言っちゃったけど、上みたいな感じでも面白いやつは普通に面白い。

 原作に存在しないキャラだけならまだしも、存在しない組織まで踏み込むと相当きっぱり評価が分かれてしまうという話だ。

 

 

日本代表 ああそうか、今回の表記がないと思ったけど、七聖使って原作にいないよな、完全に忘れてたこいつら原作にいないんだわ

つっきー マジで二次創作みたいな設定がデカい顔しやがって……

日本代表 お前昔書いてた夢で普通に設定捏造しまくってただろ

つっきー 殺す!!!!!!!!

 

 

 まーたやってるよこいつら。コメント欄はお前らのリングじゃねえんだけど。

 

「……で、この式、まだ未完成ですわよね」

 

 ずらっと並んだ名前には、唯一にして絶対の存在が足りていない。

 わたくしはチョークをくるりと回してから持つと、ガガッと黒板に走らせた。

 

 

わたくし>今回の熟達した禁呪保有者(アーサー)=熟達した七聖使(マクラーレン)>今回大隊長>原作最終覚醒ジークフリートさん>原作大隊長>今回ジークフリートさん>以下不明』

 

 

木の根 自己主張アマ五段みたいなことすんな

無敵 お前のとこだけ文字デカ過ぎだろ、ハイパーメガバズーカランチャーか?

 

 

「ということで──方針決定。歯向かう奴は、殺しますわ!!」

 

 

宇宙の起源 独裁者になったトム・ブラウンのみちお?

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 王立魔法学園中央校に伝わる伝説。

 学園祭の日に咲き誇る、伝説の木の下で告白すれば、必ず結ばれるという。

 どんどんと花火が響き、学園祭の始まりが告げられる。

 

「さ~て、一仕事ですわね」

 

 校舎の屋上で屈伸運動をしながら、わたくしは独り言ちた。

 初日のシフトは生徒会を介してそこそこの休みをもらえた。焼きそばパンの調理手順は完璧にマニュアル化したし、あのパン娘が相当やる気なので心配していない。

 

 どっちかっていうと、わたくしがちゃんと役目をこなせるかだが……弱気になるな。わたくしは最強のプロフェッショナル。どんなミッションであろうと達成してやるさ。

 全身に魔力を循環させ、目をつむり、静かに詠唱を始める。

 

 

 ────星を纏い(rain fall)天を焦がし(sky burn)地に満ちよ(glory glow)

 

 

 流星の輝きが粒子となって散り、像を結んでいく。

 

 

 ────射貫け(shooting)幕を暴け(exposing)照らせ(shining)監視せよ(coming)

 

 

 普段使うツッパリフォームではない。単なる十三節詠唱でもない。

 学園祭に向けて準備していた、新たなる形態だ。

 

 

 ────正義(justice)潔白(white)断罪(execution)聖母(Panagia)

 

 

 魔力のうねりは、しかし他のフォームとは異なり、形を得た瞬間に存在感を失っていく。

 十三節の完全解号(ホールドオープン)なんて普通にやったら何だこの大魔法!? とみんなをびっくりさせてしまうわけだが、このフォームに限っては話が違う。

 

 

 ────悪行成すもの影に沈めど(sin break down)裁定者からは逃れ得ぬ(judgement goes down)

 

 

 詠唱改変完了。

 新生した力が形を成す。

 

 

 ────極光の下、その欺瞞は翻る(vengeance is mine)

 

 

 魔力が薄いヴェールとなってわたくしの身体に被さる。背中から身体の前面までを丸ごと覆うマントの形。

 両耳にアンテナポッドが取り付けられ、形態変成(フォームシフト)完了。

 

 

 

「マリアンヌ・ピースラウンド────ヴァルゴフォーム」

 

 

 

 外見に関して言えば、ほぼABCマントで隠れてる宇宙海賊に近い。

 だが武装の類は見当たらない。それもそのはず、こいつはわたくしがなんとか流星で隠密行動できないか訓練していて偶然到達した、直接戦闘にまったく向かない形態だからだ。

 

 ヴァルゴフォームの特性は、簡単に言ってしまえば超感知。

 遠方を視認するだけならばサジタリウスで事足りるが、伝説の木を中点とした広範囲を丸ごとカバーするにはやや方向性が異なっている。

 

 このフォームでは、()()()()()()を感じ取ることができる。

 

「…………」

 

 やはり伝説の木に向けて矢印を伸ばしている生徒が多数いる。そこに狙いを定め、意識を集中させていく。

 サジタリウスフォームと根本的に異なるのは、ヴァルゴフォームで拡張されるのは聴覚であるという点だ。今も、学園中の音が聞こえる。生徒と生徒の会話。その吐息やつばを飲む音すら聞こえる。出店の調理の音。油を引く音までもが個別に拾えてしまう。

 過剰な情報量に脂汗が浮かび、奥歯が砕けそうなほど歯を食いしばる。声をかき分けていく先に、伝説の木の下へ矢印を伸ばしている生徒が複数いる。

 

「……ふう」

 

 ヴァルゴフォーム解除。

 やっぱこれめっちゃキツイ。集中するにしても30秒が限度だな。

 だが……現段階で伝説の木を目指している生徒の位置と声と名前は全て把握した。

 

 屋上から飛び降りて人気のない陰に着地すると、すすーっと走る。

 流星を足の裏に張り付けて滑るように進む。今日に限っては、わたくしこそが世界一のトム・クルーズだ。

 

 出店が並ぶ中を音もなく駆け抜ける。すげえいい香りがする。あとで食べよ。

 狙った女子生徒の後ろにぴたりと張り付き、何食わぬ顔で歩調を合わせる。友人らと歓談しつつ、たこ焼きっぽいものをほお張る少女は、笑顔だった。

 

「でも伝説の木、やっぱ人集まりそうだよね~」

「ね。あんたミリオンアーク君どうやって連れてくの?」

「もぐもぐ……そ、それはさ。こう、お願いして……」

 

 自殺志願者かよ。

 連れの女子生徒たちが頑張れ~と言ってふと気を逸らした瞬間。

 わたくしは女子の首根っこを掴むと、音もなく校舎の階段下の陰に引きずり込んだ。

 

「むぐぅっ!?」

「今日伝説の木に近づいたら殺す」

「……!?」

 

 たこ焼きを一個くすねて、彼女を廊下に突き戻す。

 顔面蒼白で彼女は周囲を見渡すが、既にわたくしは窓の外でたこ焼きをはふはふしていた。

 フッ、いい仕事をしたぜ。

 

 

苦行むり は?

ミート便器 お嬢、君、何してんの……?

 

 

 おっと、達成感に浸ってる暇はねえ。

 さっきヴァルゴフォームで確認した鎮圧対象は、実に100人近い。ふざけた連中だ。学び舎に何しに来てんだって話だろ。

 挙句の果てには過半数がユイさんかロイかわたくしを狙っている! 馬鹿が! わたくしの審査をパスせずにあの二人と付き合おうなんて妄言は大谷翔平になるより難しいってことを分からせてやる!

 

 

「ミリオンアーク君、来てくれるかな……」

「わたくしが行って差し上げましょうか? 行先は地獄に変更ですが」

「きゅうおおおあわああ!?」

 

 

「タガハラさん、どこかな。店番とかやってると流石に声かけにくいんだけど……」

「店番中です。声をかけてもいいですよ、それ以降一生喋れなくなりますが」

「ヒョエッ…………」

 

 

「やっぱタガハラちゃん可愛いよな~。喫茶店デートとかできれば」

「当身ッ」

「ぶべらっ」

 

 

TSに一家言 ど、恫喝……

太郎 シンプルな暴力やめろ

 

 

 何とでも言いなさい、必要悪なのです

 崇高なる使命の前には、倫理なんてゴミ以下の価値しか持たないのです

 

 

 次々に目標を制圧しながら、わたくしはコメント欄に向かって吠える。

 

 

 学園中の恋愛脳共が愛と勇気を求めるならねえ! それはそれとして、まず怖がらせるだけ怖がらせてあげてやるってんですよ!! 一生残る恐怖と衝撃をねえ!!

 

 

日本代表 一生残る愛と勇気は!?

無敵 闇堕ちした富士鷹ジュビロじゃん

 

 

 とはいえ、流石に伝説の木へ向かう生徒全てをシャットアウトしているわけではない。

 処理と並行して、逆に数組がぽつぽつと伝説の木の下で成就していくのも観測している。

 男女ペアや女子同士、男子同士、合わせて七組程度が伝説の木の下で告白していた。

 

 私怨で行動している面はあるにはあるが、あくまで生徒会からの依頼だからね。

 ただ、成立するのを見守っていて、ふと思う。

 

 

 薄々気づいてはいるのですが……これ、伝説の木の下に行くっていう行為に同意した時点で、普通に勝ち確状態なのでは??

 

 

日本代表 それはそう

火星 まあ片方が知らないパターンとかあるからね

 

 

 どんなパターンだよ、部外者ってことか?

 いまいち想像がつかねえなと思っていると、人混みを抜けて伝説の木の下にまた新たなペアが来る。さっき女子生徒から伝説の木の下に矢印が出ていたが、ユイさんやロイには出ていなかったのでいったん放置した女子だ。誰だろう。

 

「あの……あたしさ、結構、あんたといるの気に入ってるかもっていうか」

「そうですか」

 

 ウワアアアアアア!? クラスのギャルとジークフリートさんの部下の副隊長さんだった!!

 これか! 片方しか知らねーって! そうだよな副隊長さん知るわけねーもんな!

 

「それでまあ、なんかさ、連絡先とか、もらえたらなーって」

「……私は騎士で、君は魔法使いですよ」

「そんなの、知ってるし」

 

 慌てて離れた木の幹に隠れ、限界まで感覚を研ぎ澄ます。

 

「まあなんか、そんな重く考えなくていーし。ただこう、もっと、仲良くできたらさあ、って」

「ふむ……なるほど。それにしては随分と緊張しているような気がしますが」

「ふぇっ!? あ、あいや、別に……その、何か感じたり、してない……?」

「?」

 

 クソッじれってーな! オイ伝説の木! さっさと仕事しろ! いやでも騎士さんの感情を無理矢理ゆがめるのは純愛カウントできなくなって嫌だから、こう、そういえばこの子も女の子なんだよな……って改めて意識してしまうぐらいのレベルで作動しろ! そのために存在してるんだろうがボケ!

 物陰でハラハラしながら、思わず両手をぐっと握っている、その時だった。

 

「おっ……君、ここの生徒かな?」

 

 振り向くとチャラついた服装の男性が、わたくしの肩に手を置いていた。

 

「今ちょっと忙しいので後にしてください」

「え」

 

 顔を戻す。

 伝説の木の下に、もう人影は見当たらない。

 

「……ッ!?」

 

 どうなった!? え!? ギャル×騎士は成立したの!?

 見失った! クソが……!

 がくりと肩を落とし、それから改めて声をかけてきた男性に振り向く。

 

「……はい、それで、なんでしょうか」

「えっと君、一年生だよね。俺、去年卒業したんだよ~。だから多分、最初だろうし、俺色々案内できるよ」

 

 これナンパか? ナンパっぽいな。

 制服姿のわたくしに対して、向こうは外行きの私服。胸元を開いたシャツにジャケット、首に巻かれた金色のネックレス。魔法学園ってよりは歌舞伎町にいる人だろこれ。

 多分、貴族の子息だな。平民の私服ではないし。大学生が女子高生をナンパするみたいなもんか。事案だろ事案!

 

「それで提案なんだけど、ちょっと二人で回ってみない? 俺も後輩に挨拶したりしたいからさ~」

それわたくし要る?(はあ)

 

 相槌を打ちながら、だんだんダルくなってくるのを感じた。

 正直お前みたいな雑魚に構っている暇はない。蹴散らさせてもらうぜ。

 というわけでS・トリガー発動!

 

「すみません、実は友人を探していまして」

「そうなんだ! じゃあ一緒に探すよ、こんだけ混んでると、探すの大変でしょ」

 

 え? 全然トリガー通用してないじゃん。

 さすがに愕然とした。破壊耐性持ちなのか?

 

「ほら、じゃあいこっか」

「えっあっちょっ」

 

 右手を掴まれ、ぐいと引っ張られる。

 え? 思考が追い付かねえ。強引すぎだろ、何がしたくて──

 

 

 

「──ピースラウンド家の一人娘と二人で学園祭を回る。それ自体に価値があるということだ、少しは理解してやれ」

 

 

 パッと手が離れた。わたくしは数歩後ずさって、掴まれていた手をスカートで擦る。

 それから改めて状況を確認する。

 横から伸びた、黒い手袋に覆われた手が、ナンパ男の腕をギチギチと掴んでいた。

 

「い゛……っ!?」

「だが、スマートじゃない。百歩譲っても、手を無理につなぐのは良くない。何故なら、俺以外の彼女の知り合いに見つかった場合、君の命が危ないからだ」

「な、なんだよお前──」

 

 突然現れた詰襟姿の男性は、制帽をかぶったまま、微かに首を傾げた。

 自由になった身で、ふと気づく。

 

 あ、今この人、メガネを介さずに視線合わせてる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()

「──────ああ、そうだな」

 

 

 苦悶の表情を浮かべていたナンパ男が突然声色を変えた。

 がらんどうの声で、頷き、腕を放されるとそのまま歩き去っていった。

 

「……魔眼」

 

 知らずのうちに呟いていた。

 彼は、ふいと顔を逸らす。

 

「大人げなかったかな?」

「いえ……スマートだったと思いますわよ」

 

 いつも通りの服装と、低い声。眼鏡をかけた白髪の青年。

 学園祭の喧騒の中、一つだけぽつりと滴った非日常の青年。

 

 アルトリウス・シュテルトラインがそこにいた。

 

 

 ……ポケットからパンフレットをはみ出させ、片手に綿菓子とチョコバナナを持って、堂々とそこにいた。


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