『ただいまをもちまして、シュテルトライン王立魔法学園、中央校の、学園祭初日を終了いたします──』
「いやー今年は普段に増してひっでえな!」
「来て良かったわ、ピースラウンド家次期当主とハインツァラトゥス第三王子の決闘とかそうとう見れねえからな」
「見れねえっつかあっちゃ駄目な気もしたが……」
「伝説の木がついに滅ぶなんてな!」
「あの時ピースラウンドの長女さんと一緒に戦ってたイケメン、あれ誰?」
来校していたギャラリーたちが、興奮冷めやらぬ様子で学校を去っていく。
わたくしはそれを校舎屋上からぼーっと眺めていた。クラスの屋台は明日もやるので、鉄板を掃除して材料の残量チェック、明日の仕入れ確認だけして完了。今はもう自由時間である。
「……初日から疲れましたわ」
がくりと肩を落とす。
結果的にめっちゃ色々やったわ。カップルから伝説の木を守り、最後には伝説の木から生徒たちを守った。どういうこと? マジであの木、何だったんだよ……
「あはは、ごめんね~。こんな風になるとは思わなくってさあ」
「契約内容から大きく外れたのに関しては、こちらの把握不足でした。お詫びします」
転落防止の手すりにもたれかかったまま、わたくしは背後に振り向く。
生徒会長と副会長が、音もなく後ろに来ているのは感知できていた。
「まさか伝説の木が、ああいう風になるなんて分からなくってさあ。ほんとごめんね?」
「よく言いますわよ。大まかな絵を描いたのはアナタでしょうに」
ハッ、と息を吐けば、会長さんは困ったような笑みを浮かべたまま唇を開く。
「え~っと、どゆこと?」
「単刀直入に言いますが……アナタが伝説の木の防衛をわたくしに頼んだのは、わたくしを暗殺から守るためですね?」
「ああ、それかあ。
やはりな。
ヒントはあった。アルトリウスさんの、『君は愛されているな』という言葉がずっと引っかかっていた。
「例年あるポジションらしいですわね、伝説の木の守人というのは」
「まーね。記録に残ってる限りだと、君のお父さんもやったらしいよ~?」
「そうなんですか!?」
初耳である。ちゃっかり学生生活エンジョイし倒してた節があるんだよなあの人。多分ロイのお父様とか、アーサーとか、お母様とかとつるんでたんだろうけど。
不思議な縁を通り越し何かしらの宿命を感じ、頬がひきつる。
「ただまあ予定が色々変わっちゃったっていうのと、あと、大本命が潰れちゃったっていうのがねえ~」
「大本命、といいますと?」
「最後の騒動で、伝説の木の力が一日目なのに枯渇しちゃったみたいなんだよ……」
会長さんの表情がうへ~というものになる。
聞き流せない単語があったな。
「枯渇? 死んだのではなく? ほぼ切り株しか残っていませんが」
「あれぐらいなら二週間もすれば元通りになるんじゃない?」
「そもそも物理的な損傷で伝説の木を排除することは不可能です」
会長さんの回答を副会長さんが冷たい声で補足してくれた。
ってことは別に消滅するわけではないのにあんな気持ちよさそうに死んでいったのか? 単に顔の良い男女に仕留められて興奮してただけじゃねえか! なんて野郎だ……
「あんな木さっさと排除した方が学園のためだと思うのですが」
「え~? 結構あれ大事なんだけどな?」
「確かに今回の、
ん?
意味不明な大音量の騒音?
集合!
〇鷲アンチ はい
〇苦行むり はい
〇外から来ました 何?
もしかしてあの木、神聖言語で喋ってました?
〇日本代表 自覚なしに解読してたの!?
〇宇宙の起源 バリバリ神聖言語でしたね……
……いやあちょっと、分かんなかったです、はい
オートで訳されると区別つかなくなりますわねこれ
あ、ていうことはアレって上位存在だったんですか……?
〇みろっく このタイトルは詳しくない、原作だとどうなの?
〇TSに一家言 基本的には無害な存在というか、あのビオランテスタイルは素直に初見というか……
〇火星 ライナーノーツだと戦闘が可能って言われてたから、そこで二次的に戦闘モードのイラストが上がったりとかはあった、でもそれだけだよ
〇red moon やってることとか話してたことを考えると間違いなく上位存在
〇宇宙の起源 あ~~~~レギュの上限撤廃でいっちゃったんじゃないのこれ、起源は変わってないはずだから、学園創立者がつくった魔法っていう点は同じだけどレベルが跳ね上がっているっていうか
〇日本代表 あいつ本当に殺したろかな
雷おじさん、そろそろ死罪なのでは?
〇日本代表 いいよ
〇つっきー 良くねえよ馬鹿
向こうは向こうで大変そうだなあ。
コメント欄を眺めながら辟易していると、会長たちが申し訳なさそうな表情で頭を下げる。
「ともかく、騒動を鎮圧してくれたことに関しては、本当にお礼を言いたいんだよ」
「ああ、いえ。お気になさらず。見過ごすわけにもいかないでしょう」
「ふふふっ。ピースラウンドちゃんはそう言うよね」
「会長、そういう風にして人の善意につけこむのはどうかと……」
「え~? それなりに政治的な場数踏んでるし、分かってるでしょ~?」
いやそれはもちろん分かっていますけども。
それ以上に。
……全然関係ないんですけど、このお二方って百合として認識できそうですわね
〇第三の性別 今雑に百合ラベル貼ったよな? 殺すぞボケ、そういうのじゃねえんだよ少し考えれば分かるだろ馬鹿が。人間二人の関係性をちょっと考える能力があれば分かると思うけど単純なレッテル貼りで成立する関係じゃないから。本当に大概にしとけ
うわっ……
濃縮還元5億%のキモオタ長文が来た。
キモい時本当にキモ過ぎるから正直キツい。
でも自分の好きなキャラでこれをやられると確かにキレる。気持ちが分かってしまう。
「……では改めて聞きますが。あの木を、生かさず殺さずのような形で維持しようとしていた理由は?」
「あれはさ~。学園を守る防護結界の役割もあるんだよね~」
会長さんの言葉に、わたくしは眉根を寄せる。
「そうなのですか? 大規模な詠唱なども問題なく行えましたが」
「ん~ん、そういうのじゃなくて、もっと概念的な守護っていうか……なんて言ったらいいのかなあ」
えーっと、と会長は頭の中で言葉をまとめると口を開く。
「今日、君の暗殺が行われなかったのは、向こうが『今日は様子見しよう』って思ったからかもしれないじゃん? もしそーだとしたら、その様子見しようっていう意思にすら、当人たちが自覚できない根源的な段階で、伝説の木の影響が刷り込まれているんだ~」
……だとしたらめちゃくちゃ大事な防衛拠点じゃねえか。
「現代を生きる我々では、完璧な解明の難しいレベルの魔法です。大魔術師オーレリウス・ジュカイン氏の最高峰の結界儀式ですので」
「オーレリウス・ジュカイン?」
副会長が発した名前を復唱すると、二人そろって頷いた。
「我らが中央校創立メンバーの一人、現代でいうところの土属性魔法を極めていたとされる大魔術師オーレリウス・ジュカインが残した、伝説の木……なぜか二人組を恋愛的に結びつける効果まで発揮してるけど、本質はそこにはないんだよね~」
そうか、道理で聞いたことある気がしたよ。魔法歴史学で出てくる名前だった。
だとすれば、筋の通る推論が一つ浮かぶ。
「あれはオーレリウス・ジュカインの魂の一部を保持しているのですね?」
「
とんでもない高等儀式魔法だ。
それがアレかよ。生前もあの感じだったのかな。モテないつってんのにカプ厨なの、こじれにこじれてるな。ていうかモテなかった理由そこだろ絶対!
「……我々としては、貴女への暗殺計画を察知しつつもある程度余裕をもって構えられていた理由の大部分が消失したことになります」
「ええ、知っていたようですね。では手引きしているスパイが身内にいることも?」
「もっちろん!」
ぶい! と会長がピースサインを突き出してくる。
いや怖ぇよ。敵を懐で泳がせていたってことだろ。わたくしが知り合う人みんな政治的な策謀やりまくってて本当に怖い。
「まあそういうことでしたら。元々、その点でバックアップがあるとは思っていませんでしたし」
「ん~、どうするの? 結局さ」
会長が不意に、わたくしの目を真正面から見つめた。
「どうするの、とは?」
「だっからさあ──2日目、絶対に来るよ? 君を殺しに、騎士がさ!」
彼女は笑顔を浮かべて言った。
「もーこっちは打てる手がないからさ。本当に死んじゃうよ?」
「……今日は貴女の国外逃亡を手伝う準備ができている、と伝えに来たのです。伝説の木が排除されてしまった時点で、騎士による貴女の暗殺が成功する確率が30%近く跳ね上がっています」
「へえ、親切ですわね」
国外逃亡か。確かに外までは追ってこないと、思うよな。騎士が外まで殺しに来ることはあんまりない。
でもどうだろうな。あの人、存在が許せないとか言ってたぐらいだし来てもおかしくはないんだよな。
……っていうかさ。
これ追放カウントされたりしません?
〇日本代表 まあ無理だな
だろうな。
何より、それよりもどんなことよりも。
「背中を向けて逃げるくらいなら死にます」
「やっぱりい? そーなるよねえ。んじゃ、生徒会長として、やれることはやっておくよ~」
どうやら良い返事は元々期待していなかったらしい。
会長がさばさばとした様子で手を振り、副会長が沈痛な面持ちで視線を逸らす。
「いろいろと、お気遣いどうも。ですが大丈夫ですわよ、わたくし勝ちますから」
「ははっ──どうかな。後悔しないかな、その選択をさ」
「後悔するとしたら死ぬ時なので、幸いにも後悔している時間はあまりないかと」
「言うねえ」
フン。副会長の表情お通夜になってんぞ。
そんなに勝てない相手だと思ってんのかよ。まあ、多分、それが普通なんだろうけどさ。
「事情を知ってるメンバーでこれから作戦会議ですので。それでは失礼しますね」
「はいはーい。って、出口こっちだけど──」
会長の言葉を背に受けながら。
わたくしは、屋上からバッと飛び降りるのだった。
◇◇◇
「わーおダイナミック下校。下の子たちびっくりしちゃってるよ」
「見事な校則違反ですね。罰点をつけますか?」
「いやいや。あの子には借りがいくつもあるわけだし、今回は見逃してあげようよ~」
「はい……あの、会長」
「なに?」
「彼女は生き残れるでしょうか」
「本音言ってもいーい?」
「どうぞ」
「本当の敵は、本当に騎士だと思う?」
「…………ッ。どういう、意味でしょうか」
「ん~ん。私も分かんない!」
「えぇ……?」
◇◇◇
会長たちと別れた後、わたくしは迎賓館の客間を借りて、ユイさんたちと作戦会議を行った。
ジークフリートさん率いるミレニル中隊も、大隊長がわたくしを殺しに来るという内容に半信半疑であったものの、協力すると言ってくれた。命令違反というか、やってはいけないことをやっているのは向こうだしな。
『……以上が、私が次期聖女として知る限り全ての、ゴルドリーフ大隊長、並びに彼の直轄部隊幹部である白馬の三騎士についてのデータです』
『最も注意すべきなのが大隊長殿なのは変わらないが、次点は三騎士が一人、アバラ・カシリウス卿だ。三騎士自体が飛び抜けた存在なのだが、その中ですら彼は別格。オレは騎士団内の練習試合において、彼と十度戦い、八度敗れている』
『じっ、ジークフリート殿がですか……!?』
『ちょっと待てよジークフリート。練習試合ってことは加護をフルに使ったわけじゃねえだろ』
『彼は間違いなく悪性の存在ではない。故に、オレが全力を出したとて、結果は容易には変わらないだろうな』
『……そのクラスの相手が大隊長以外にもいて、数でも向こうが勝ってるかもしれないでしょ。だとしたら……』
会議は時々踊ったし、時々進んだ。
わたくしとしては、大隊長の加護の摂理を知れただけでも大収穫である。
「ふぃ~……」
女子寮に帰ったわたくしは、上着を脱いでブラウス姿でベッドに転がっていた。
読み止しの詩集が枕傍に置かれていた。学園祭が忙しくて、続き読めてねえなあ。ちょっと読んでから寝ようかなあ。
「…………」
いや眠い!!!!!!
マジで眠い……なんであんな真剣な空気で数時間ぶっ通しで会議できるんだあの人たち。後半わたくし船漕いでたからな。リンディに強めにどつかれたけど。
寝ようと思えば一瞬で寝れちゃうな、と思いながらも、気合を入れて上体を起こす。
「見ての通り死ぬほど眠いのですが、何用でしょうか」
「特にない。顔を見に来ただけさ」
わたくしが目をやると、部屋の壁に背を預け、詰襟に制帽姿の男が佇んでいる──アルトリウス・シュテルトライン。
この女子寮の防護魔法が一部停止していたので、なんとなく来てるんだろうなと思った。破壊ではなく停止。普通できることじゃない。だが彼なら容易いだろうと思った。
「強盗の訓練でも積みましたか?」
「ああ」
「えっ」
「冗談だよ」
さすがにびっくりするわ。アルトリウスさんは苦笑して、サイドテーブル傍の椅子に腰かける。
椅子に座る動作一つとっても気品に溢れている。元王子は伊達じゃない。
「手土産を持ってきたぞ」
「あら、気が利きますわね」
彼はテーブルの上にケーキを二つ広げた。イチゴのショートケーキとチョコレートケーキだ。
「あら、これ王都で評判のお店ですわね。学園祭が終わってから買いに行ったのですか?」
「時間はあったからな。どっちがいい?」
「ではこちらのチョコレートケーキをいただきますわ」
店でもらってくれていたフォークを片手に、わたくしたちは箱の上で直接ケーキをつつき始めた。
「美味しいですわね、これは評判になるのも分かります」
「ああ。ここは最高だ。すべてを理解した人が作っている」
「言い方怖いんですけどもね」
真理に到達したパティシエ、まあまあなミスマッチだろ。
「……意外とは言わないが。詩集を読むのか」
「古代詩ですわ」
アルトリウスさんはショートケーキを食べながら、ベッドに置かれた詩集を一瞥する。
「ということは現代訳……いや、対訳か」
「ええ。右ページには古代言語がそのまま載っています」
「君は古代語が読めるのか?」
「少し嗜んでいる程度です。自力で訳せと言われてしまうと、流石に辞書なしは難しいですわ」
詩集を手に取ると、ちょっと読んでみますか? と差し出してみた。
彼はフォークを一度置くと、手を拭いて本を受け取る。わたくしがしおりを挟んでいたページを開くと、彼の唇が静かに動き出す。
「……都市の中で泣く白鳥。いずれ来たれと泣いている。干天の慈雨と、故郷へと開かれる稲妻」
「いやアナタも古代語読めるじゃないですか」
アルトリウスさんが読み上げたのは、右ページ側の詩だった。
「……乾いた塵の町で、白鳥が泣く。来るべきものを求めて。大地を流す雨と、自らを呑む雷光を」
次に左ページ、現代語に訳された詩を、元第四王子にして退魔の剣となった男が、低い声で淡々と読む。
「いい訳でしょう。実は前から、この方が訳しているのならと買ってしまう本が増えているのです。おすすめですわ」
「ああ、素晴らしいのは分かる……」
そこで言葉を切り、アルトリウスさんは首をかしげる。
「しかし白鳥が望んでいるのは、古代語では恵みの雨と、その予兆としての稲妻だ。現代訳ではそれが、自らを破滅させる雷電に読み替えられている。これは……誤訳では?」
訝し気に問われた。その指摘は、別に間違ったものじゃない。
「正確に訳すことだけを意識するのならそうですわね。ただ、意図的なものでしょう」
「……白鳥は、水を求めていたわけではないと」
「不条理な暴力が、救済の暴力になることはままありますわ。まあ神話というよりは黙示録の傾向ですわね。ただ落雷はナンセンスですわ。痛いし」
「ふふ……雷に打たれたことがあったのか。意外だよ」
「言いふらすようなことではありませんので」
くくくっ、とアルトリウスさんが笑う。冗談だと思われてるなこれ。別にいいけどさ。
そこで言葉を切り、わたくしたちは視線を重ねた。
「アナタはどっちですか?」
「君はどっちだい?」
間髪を入れずに同じ問いを投げられた。
「白鳥は──幸福を、また来るものだと思っていた。わたくしはそう信じたいですが」
「俺は白鳥にとって、幸福とは、単に記憶の残像でしかなかったんじゃないかと思うよ」
そうか。そっちを選ぶ人なんだ、この人は。
しばし静寂が流れた。ケーキの大半を食べてしまっている。アルトリウスさんは上に載っていた2つの苺を箱の上に並べた。
「ゴルドリーフさんは元気そうだったか?」
「知り合いですか」
「まあな」
元王子なら顔を合わせたことぐらいあるか。
「やる気満々って感じでしたわよ。でもあれだけの立場があって……本当に、個人の感情であそこまで動けるものなのでしょうか」
「感情を侮ってはいけない。君が今まで逆境を覆してきた時も、その原動力には心の力があったはずだ」
随分とロマンチックなことを言うな。
でもそれを本気で信じてるって感じじゃない。冷笑しているような気もする。顔にも声にも出てないからあてずっぽうだけどさ。
紅茶があればなと思い、立ち上がろうとした時だった。
「本題に入りたいが、大丈夫か?」
「……な~にが顔を見に来ただけ、ですか」
そんなところだろうと思ったよ。
わたくしは紅茶を諦めて、ベッドに座りなおす。
「どうぞ。何でしょうか、うまく死ねとか、勝たないでくれとかそういう八百長なら……」
「騎士団による暗殺計画の阻止に、手を貸したい。端的に言えば、この一件を契機として、俺たちの仲間になってほしい」
え?
ん……んん~~~~?
ちょっと待て、一気に話が分からなくなってきた。
「これは……スカウトですか」
「そう考えてもらって構わない」
「組織的な存在だと? バックボーンは? 規模は? いいえ……アナタの目的は何ですか?」
こちらの問いに対して、アルトリウスさんは視線を皿の上に落とす。
彼は残していたイチゴの内1つを、フォークで転がした。
「クーデターを起こし、君を王に据える」
今日の天気を言うみたいな声色だった。
〇red moon はあああああああああ!?!?
〇太郎 何何何何
〇宇宙の起源 ちょっと待て何それ!? は!?
〇日本代表 おいクーデター√にアルトリウス絡んでることあったか!? ないよね!?
コメント欄が一気に流れていく。
わたくしも動揺を隠せなかった。フォークを取り落としそうになった。向こうは気にしてない。だが会話の主導権を握らせてしまったのを感じた。
「君が俺の味方になるなら、以前から計画していたクーデターにより、現国王を廃位させよう」
「それは、手段でしょう。目的は?」
「現政権の打倒が目的だ。他に何かあると思うか?」
「……分かりました、質問を変えます。アナタのモチベーションは何ですか?」
元王子。王位継承権を、返上したのか、剥奪されたのか。
あまりにも知らなさ過ぎて推測すら組めない。ああそうだ。すごく仲良くしてくれて、一緒に学園祭を回ったりして、面白い人だなって思ってたけど。
わたくしは──アルトリウス・シュテルトラインのことを何も知らないのだ。
「バランスを整えたいんだよ」
「へぇ……」
多分、嘘だろう。そう直感した。
根拠はない。わたくしは嘘発見器じゃない。
だが──本気の熱がこもった声じゃなかった。
今まで支えてくれた者の声。
今まで立ち塞がった者の声。
それらにはあった熱が、その言葉にはなかった。
「どうやら難儀なことになっているみたいですわね、アナタ」
「同情してくれるのか? これは有難いな」
「嘘おっしゃい」
「ああ。これは嘘だ」
軽く微笑み、彼は転がした苺にフォークを突き刺すと、一口で食べてしまった。
「君は強い。単なる強さ以上のものを持っている。俺にとっては必要な存在だ」
「……王を、倒すためにですか」
アルトリウスさんは力強く頷く。
「そうだ。力の使い方を、君は間違えない。自分の力を怖いと思ったことだってあるだろう?」
「全然ありますわよ」
「だが君は、それでも駆けられるんだ、天を……迷いなく、よどみなく」
な、なんだよ急に褒め殺しかよ。イケメンに高評価されると照れちゃうだろ。
髪を弄ってもにょもにょしていると、アルトリウスさんは目を伏せ、真剣な表情に一筋の影を落とした。
「君が空の果てを駆ける流星なら、俺は地の底を這う石ころだな」
「…………」
絶句した。
自己評価に何かしら歪みがあるんだろうと思っていたけど。
それでも、今の言葉は、わたくしは短い期間で知っていた彼なら絶対に言わないほど卑屈な言葉だった。
「……それは流石に、言い過ぎかと。アナタのいいところぐらい、短い付き合いのわたくしですら──」
「いや、端的な事実さ」
こちらの言葉を待つことなく、彼はさっと立ち上がると制帽をかぶる。
「さっきの誘い、今は答えなくてもいい」
「……猶予をいただけると。しかし襲撃は明日のはずです」
「そうだ。明日、大隊長と戦ってみろ。君なら勝てるかもしれない。だけど……俺たちは君を必要としている。そしてもし、君も俺たちを必要としてくれたなら、それ以上にいいことはないな」
彼は残った苺を一瞥し、苦笑する。
「買っておいてなんだが。やっぱり苺は、今は苦手だ。好きに食べてくれ」
音もなく、屋敷の防護魔法を復旧させながら、彼は部屋を出ていった。
わたくしの前には、残った一つの苺が転がっている。
◇◇◇
女子寮を出て、月明かりの下、アルトリウスは歩く。
決行は明日。明日ですべてが終わる。
「アルトリウスさん!」
鋭い声が背中に投げられた。
振り向けば、上着を着ることもなく、ブラウス姿のままマリアンヌが女子寮から飛び出して来ていた。
「苺も美味しいですわよ!」
「……は?」
そう言って、黒髪赤目の少女は、手に載せていた苺を一口で食べた。
「そ、それを伝えに出てきたのか?」
「……わたくしは」
苺を飲み込んだ後、マリアンヌが声を上げる。
「この輝きに負けないぐらい、眩しくありたいと思っています!」
「!」
「アナタだって。アナタだってそうでしょう!?」
真っすぐに。
銃口のように向けられた深紅の双眸に、アルトリウスは思わず顔を背けた。
「…………」
無言で背を向け、制帽を深くかぶって彼は夜の静寂を歩きだす。
後ろからずっと、ずっと流星の少女が見ていることなんて分かりながら。
「ああ……俺もだ」
ぽつりと。
零れてしまった言葉は、どこにも届かない。
「この力に見合うぐらい──強くありたかったよ」
夜が終わる。
そうして、朝が来る。
学園祭2日目が、来る。
君の運命の人は
ロイ
僕です
ユイ
私です
ジークフリート
オレじゃないがオレの運命の人は君
リンディ
私じゃない
ユート
僕じゃない辛いけど否めない でも離れ難いのさ(完唱)
グレン
今は違う
カサンドラ
アルトリウス
運命なんていらない
ルシファー
運命の人とかは知らんが運命はおれだと思う