TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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短めです。理由は普通に全体が長くなりすぎて分割したからです。


PART9 開幕-First Day-

 ──対抗運動会当日!

 

 全2日のスケジュールで行われる国内対抗運動会。

 超大規模スタジアムを丸ごと貸切って行われるこれは国内有数のお祭りでもある。

 スタジアム周辺には露店が並ぶし、観戦に来る平民たちで街はごった返す。完全な稼ぎ時なのだ。

 

「……で、君も出場するんだろ?」

「当然です」

 

 体操服に着替えるのはスタジアムに着いてからだ。

 そのためわたくしは中央校の制服姿で、早朝にロブジョンさんの喫茶店を訪れ、優雅なモーニングを楽しんでいた。

 元々センスがあったのだろう、今ではすっかりおしゃれな軽食や軽いディナーが瞬く間に出てくるようになっている。

 

「いいのかい? こんなところでくつろいでいて」

「選手の集合時間にはまだ余裕がありますので、問題なしですわ」

 

 コーヒーの味は本当に確かだからな。

 朝のリラックスタイムとして、ここはうってつけだ。超穴場だし。

 

「……それにしても」

「何でしょう? 今日は随分と、じろじろ見てきますわね」

「ああいや、ぶしつけだったかな、すまない。その……本当に貴族だったんだ、と思って」

「魔法を散々使っていたはずですが!?」

 

 いやいや、それってさあ。

 

 

 つまるところわたくしの立ち振る舞いの問題ってことじゃねえか! 殺すぞテメェ!

 

 

無敵 正体現したね

木の根 そういうところなんだよ

 

 

 我慢強さとポーカーフェイスに定評のあるわたくしだが、さすがにあったまってしまった。

 なんとかアンガーマネジメントにより怒りを鎮めていると、ロブジョンさんが口を開く。

 

「その、悪いね。何から何まで」

「いえいえ、お気になさらず」

 

 彼はわたくしの足元にある、レーベルバイト工房製の魔力型クーラーボックスを見て申し訳なさそうな表情をする。

 

「協力すると言ったこと、嘘にするわけがないでしょう。売れるまでは頑張りますわ」

「正直、助かるよ。試行錯誤してる間は、何かやっているという実感があるからね」

 

 サンドイッチを平らげた皿をカウンターに置き、わたくしはアイスコーヒーをずずっと啜った。

 相変わらず、店内は基本的にぶよぶよしたピンク色で覆い尽くされていた。余りにも通い過ぎて感覚が麻痺している。常識的に考えてこの環境で食事はできねえよ。わたくしの倫理観を返してくれ!

 

「しっかし、ついにわたくし以外の来客は来ませんでしたわね……」

「何回か、新生ピースキーパー部隊の手の者らしい襲撃はあったんだけど」

「……来客と襲撃の区別ぐらいつくと思っていましたが」

「つくよ! それぐらいつくよ!」

 

 ていうか襲撃あったんかーい!

 あ? 店無傷なんだけど。

 

「……撃退しましたの?」

「流石に先輩だからね。前回は予想外のこと過ぎて後れを取ったけど……ピースキーパーを名乗る相手である以上、元隊員として黙ってやられるわけにはいかない」

 

 しれっと言っているが──待ってくれ。

 

「どうやって……?」

「向こうにそこまでやる気がなかったんだ。簡単な嫌がらせをして、僕に王都を出ていってほしかったらしい。だから少し痛い目に遭ってもらって、来る気をなくさせた」

 

 なんてことはない、昨日どういうところを散歩したか報告するような声色だった。

 しかし嫌がらせのために来ていたとはいえ、不死身の兵士による襲撃を数度退けたと言っている。

 マジどうなってんだよこの人……

 

「それは大変でしたわね。わたくしを呼んでくださっても良かったのですよ?」

「流石に悪いよ。それにカートという男ほどでないにしろ、今の新生ピースキーパー部隊を相手取った場合、君は感情を制御できない可能性が高いからね」

「……ぐうの音も出ませんわね。ぐう」

「出てるなあ」

 

 軽口を叩きながらも、わたくしの思考は、別の方向で加速していた。

 嫌がらせのため、王都から追い出すためにロブジョンさんへ何度かちょっかいをかけた。

 カートの言葉が本当ならば、指揮官は放置の方針を取っていた。つまり現場レベルでロブジョンさんを排除したいというモチベーションがあったことになる。

 その結果が嫌がらせなのであれば──どちらかといえばそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という意思の表れのように感じるのだが。

 

「……ねえ、ロブジョンさん」

「なんだい?」

「あの魔法、『禍害絶命』。()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………ゴミみたいな適性だったよ」

 

 地の底を這うような、ドス黒い声色だった。

 本当のことを言っていると感じた。嘘ではない。

 

「そうでしたか、失礼しました」

「別にいいよ。それより君も、色々調べてみると言っていたが、どうだったんだい?」

 

 ロブジョンさんの質問に、わたくしは腕を組んで唸る。

 

「わたくしも……色々ツテを辿ってみましたが、空振りでした。念のため第二王子と第三王子にも報告しましたが、彼らですらピースキーパー部隊などというものは知らなかったと。アナタ本当に何者なんですか?」

「え? は? ……はあ!? お、王子殿下二名に報告したって!? どうやって!?」

「第三王子グレンとはたまに手紙を送り合っておりまして……」

「ちょちょちょ待って待って待って! いや君本当に何者なの!?」

 

 同じ言葉を返してくんなよ。それはこっちが聞きたいんだっつーの。

 

「とにかく、潜伏はかなりの精度で行われているようです。国内の危険な団体は、大まかにはグレンが把握しています。しかしそこにトラヴィス・グルスタルクの名前はありませんでした」

「今君、第三王子殿下を呼び捨てにした?」

「失礼。グレンの野郎が把握しています」

「失礼さが悪化している!」

 

 何にしても、警告はちゃんと政府にしておいた。

 今日と明日は対抗運動会でバタバタしているだろうが、終われば本格的な調査が始まるだろう。

 

 ──そこでふと、チリと、首の裏を嫌な感覚が走った。

 

「……気を付けてほしい」

 

 同時にロブジョンさんが、低い声で言う。

 

「グルスタルク元隊長は、タイミングというものをよくわかっている。相手に打撃を与える上で最大の効率を発揮する瞬間を、決して見逃さない人だった」

「……肝に銘じておきますわ」

 

 ああそうだ。

 世界を破壊と混乱に陥れたいのなら……狙われる可能性が高いものは、人が密集しているポイント。つまりお祭り騒ぎだ。

 

「有事の際は、わたくし直々に戦い、そして叩き潰しますわ」

「そうだろうね。そして、僕もきっと……戦うよ」

 

 空になったグラスの中で氷を鳴らして、わたくしは眉根を寄せる。

 戦う? もう引退したはずだろうに。

 

「念のため言っておきますが、わたくしは必要だからとか、使命感があるからとかで戦っているのではありません。新生ピースキーパー部隊が心底気に入らないし存在していてほしくない、存在していることが我慢ならない。故に叩き潰す、そういう意志があるだけです」

「それを聞いて安心した。やっぱり同じだよ」

「……同じ、ですか」

「ああ。放っておくことはできない。そんなこと、してたまるもんか。あの力を……破壊と混乱のために使うなんて、あっちゃいけないんだ」

 

 力強い断言だった。

 それを聞いて数秒考えこむ。あの力と言うのは、お父様が開発したチート魔法のことだろう。

 ロブジョンさん、やけにその魔法について……何と言ったらいいか。執着ではない。だが心の大きな、深い部分に、その魔法が存在している気がするのだ。

 

「アナタ、もしかしてですが」

「うん?」

「現役のころに、当時軍人だったマクラーレン・ピースラウンドと出会ったことがありますか?」

「!」

 

 少し目を見開いて、それからロブジョンさんは肩をすくめた。

 

「かなわないな。本当に学生とは思えない……でも、軍だけはお勧めしないよ。訓練めっちゃキツいからね。せっかくならここでバイトするなんてどうだい?」

「アナタからあの人は、どのように見えましたか」

 

 くだらないジョークを無視して、わたくしはカウンターに身を乗り出した。

 真っすぐに視線を重ねると、メガネの奥で彼の目が微かに揺れた。

 

「……君が知っている通りだ。魔法というシステムそのものに関して、完全に時代を塗り替えた世紀の天才。近代魔法において彼の恩恵を受けていない魔法使いは存在しない」

「教科書の文章そのまま読めとか言った覚えはありませんが? アナタはどう見たのか、と聞いているのです」

 

 思えば。

 軍人として戦っていたころのお父様を、わたくしはほとんど知らないのだ。

 だから聞きたい。どんな人だったのか。どう見えたのか。

 

「いい人、だった。だから……」

「…………」

 

 それきりロブジョンさんは目を閉じると、何かを振り払うようにして、薄っぺらい笑顔を浮かべる。

 

「ほら、いい時間になってきただろう。そろそろ行きなさい」

「……ええ、分かりました」

 

 ごちそうさまでしたと手を合わせてから、カウンターにお代を置く。

 

「では行ってきます。ちゃんと次は、いい人だったという言葉の続きを聞かせてください」

「善処するよ」

 

 席から立ち上がり、わたくしは店のドアを開けて外に出る。

 

「だから、きっと。僕たちはきっと、大きな過ちを犯していたんだと、思う……」

 

 背後で聞こえた小さな声は、わたくしには明瞭には聞き取れなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 対抗運動会の開会式を迎えたスタジアムは、静謐の中に緊張と高揚を含んで、揺れるようにざわめいていた。

 このスタジアム、普段はそれぞれの競技のプロリーグが行われている。そんな場所を使うとあって、将来的にはプロを目指す学生たちは興奮を隠せない様子だ。

 

 集っているのは、シュテルトライン王国が誇る王立魔法学園の五校。

 

 将来国政に携わるエリートを輩出することを主目的とした中央校。

 実力主義によってたたき上げの人材を育成するウエスト校。

 実戦的訓練よりスポーツ面での選手育成を重視するイースト校。

 基本を丁寧に扱い、生徒の将来に安定性を与えるサウス校。

 閉鎖的な環境から独自のカリキュラム、独自の魔法研究を行っているノース校。

 

 この五校が今日明日の二日間、しのぎを削るわけだ。

 

 ちなみにここまで全部人から聞いた情報。

 そうなんだ~って感心してしまった。それぞれに強みを与えているのは、間違いなくアーサーの方針だろう。あのジジイ、よくやるぜ。

 

 イベントごととあって学生たちのテンションはいやおうなく高まっていく。 

 そんな中で。

 

『選手宣誓』

 

 アナウンスが響き渡った後、体操服姿で最前列に立っていたわたくしは、静かに壇上へと歩いていった。

 振り向いて生徒たちを見下ろすと、肉声を拡張する魔導器(アーティファクト)に唇を寄せる。

 

「──宣誓。わたくしたちはすべての選手の名において、対抗運動会条項に則り、各種競技の栄光と、各校の名誉のために、今期対抗運動会に参加することを誓います」

 

 来賓として来ているアーサーや王子たち、観客席に座る貴族の保護者で視界は人で埋め尽くされていた。

 国内有数のお祭りごとは伊達じゃない。我が子の成長を見れる、いい機会だもんな。

 

 中央校の成績優秀者として、今年の選手代表はわたくしが選ばれた。この辺は流石に中央校が偉いらしい。なるほどこんな感じのくせに今までの運動会での成績が低ければ、ナメられるわけだ。

 正直中央校の評判とか知ったことではないが、そのナメられている対象にわたくしも含まれているというのは、非常に気に入らないな。

 

 と、いうわけで。

 

「宣誓ありがとうございました。続けて──」

「まあそれはそれとして」

「え?」

 

 進行しようとした司会の人が、素で疑問の声を上げていた。

 当然だろうな、台本上は、わたくしの言葉はここで終わりなのだから。

 しかしこのわたくしを選手代表に選出した時点で、台本を守らないこととか予想してしかるべきだと思う。よって責任はわたくしではなく、監督していた人々側にある。

 完璧な自己弁護を成立させた後、わたくしは肉声拡張魔導器を蹴倒して、自分の拡声魔法を使って会場中へと呼びかける。

 

 

 

「皆さん無駄足ありがとうございましたああああああああああああああ!!」

 

 

 

苦行むり 鼓膜返してくれ

一狩り行くわよ めちゃくちゃ馬鹿なの?

宇宙の起源 はい

遠矢あてお はいじゃないが

 

 

 知り合いが一斉に『やりやがった!!』と顔で物語っていた。

 ふふん、こんな最高のステージを用意してくれてありがとうな。お望みどおりにブチ上げてやるよ!

 

「今この会場で最強の魔法使いが、まさかわたくしマリアンヌ・ピースラウンドではないと思っている人なんていませんわよねェ! もしいらっしゃったら脳みそを丸ごと取り換えてもらうことをお勧めしますわ!! ここは! この対抗運動会は! わたくしが最強であることを見せつけるためだけに存在するフィールドッ!」

 

 天空をビシィと指さして、わたくしは魔力光を後光のように放出しながら宣言する。

 

「この宇宙に存在する真理はたった一つ! 至極当然にして単純明快! アナタたちが下で!! わたくしが上ッ!! 保護者の前でみっともない醜態を晒す前に、とっとと帰宅することをお勧めしますわ! フハハハハハハハハハッ!!」

 

 腹の底から笑い声をあげ、並ぶ学生たちを睥睨する。

 

『さ、流石マリアンヌ様……!』『ふざけんなあの女!!』『引きずり降ろせ!!』『絶対にぶっ殺してやるからなテメー!』

 

 ほお、さすがだな。

 ほとんどの学生たちが、最強はお前ではない、自分だと声高に叫び出している。

 いいじゃないか。これは楽しみだ。

 

 完全に収拾がつかなくなってしまった会場の中で、腕を組んで唇をつり上げる。

 数秒後、わたくしは壇上に猛スピードで駆けあがって来たアモン先生に頭を激しくシバかれるのだった。

 

 








コミカライズが連載中です、良かったら読み終わった後のgoodもお願いします。
https://ichijin-plus.com/comics/23957242347686
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