TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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PART18 勃発-Incident-

配信中です。
 
上位チャット▼


火星 バブ……バブ……

みろっく どうしたん?

宇宙の起源 推しの輝きを過剰摂取し、彼は一時的にショックで赤ちゃんになってしまいました

苦行むり 神ったー復活したと思ったらまた障害起きてる……

木の根 ロイ推し全発狂してるからもうそりゃそう

雷おじさん うおおおお失礼します!なんか今神域からものすごい勢いで力を引き出された感じがあって……!

日本代表 ああ、もうそれいいよ、うん

雷おじさん いいんですか!?!?

日本代表 つかれたでちゅ

無敵 こいつも半分ぐらい赤ちゃんになってるな……

つっきー キツ

日本代表 あ?

つっきー お?

【発動!加速!】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA CHAPTER5【切り拓け!】

5,518,229 柱が待機中

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ヴァーサス決勝の対戦カードは、わたくしとロイの対戦となった。

 対抗運動会の締めになる決勝とあって、決勝戦の前には他のプログラムがいくつか挟まる。つまりわたくしとロイにとっての休憩時間だ。

 とはいえ、()()()()()()()()()()()と感じたわたくしは、ユイさんたちやロビンに怪しまれながらも席を立ち、制服に着替えて、一人で会場を出ようとしていたのだが。

 

「……えっ」

 

 廊下を歩いていたわたくしは、思わず頬をひきつらせた。

 そこにはベンチに腰掛けてにこにこと微笑む女性の姿がある。

 

「マリアンヌちゃん、こんにちは。頑張ってるみたいねえ」

「……ご無沙汰しております、マダム」

 

 それは中央校の庭園に秘匿されている、例の激ヤバ喫茶店の店主であるおばちゃんだった。

 

「なかなかお店の方に顔を出せず、申し訳ありません」

「いいのよお、あなたここのところ、ずっと忙しそうだったじゃない」

 

 ベンチから立ち上がろうとする彼女を、どうぞ座ったままでと手で制する。

 

「ご見学に来られていたとは存じ上げず。拙い試合を見せてしまったかと思いますが」

「まさかそんな、すごい試合だったじゃないの。よく練り上げられていたわ、研鑽を積んでいる証拠よ。それにしてもマクラーレン君や、オーレリウスみたいな戦い方をするのねえ」

 

 普通に褒められて、わたくしは頭を下げながら内心で首をかしげる。

 お父様と……ええと、オーレリウスって誰だっけ。

 ああ、いや、オーレリウス・ジュカインか。中央校創立メンバーの一人であり、土属性魔法を極めたとされる伝説的な大魔法使いだ。……はあ!?

 

「────っ!?」

「うん?」

 

 ガバリと顔を上げて、マダムをまじまじと見つめてしまった。

 お父様たちが学生の頃から居るのは、ギリで納得できる。だが流石に創立メンバーとなると、もう話の桁が違い過ぎる。何百年も前だろそれ。シュテルトライン王国の建国からは少し間が空くはずだが……

 コメント欄を開いて確認してみたいが、多分この人は、配信画面を見ることができる。

 前に喫茶店に行ってた時は普通に開いてしまっていたが、お父様やアルトリウスさん、ナイトエデンなど、画面の視認ができるクラスの人間の存在を知ってしまった後では、迂闊な真似はしたくない。

 ……カマを、かけてみるか。

 

「オーレリウス・ジュカイン様とは、仲がよろしかったのですか?」

「う~ん。私は可愛がってたつもりなんだけどね。他の子たちと違って、学校を作ってからもはねっかえりが強いままだったわ。でも誰より魔法の講義を真剣に受けてくれていた、いい子よ。ちょっと美男美女を見つけるたびにくっつけようとし過ぎてたけど……」

 

 う、うわ……っ。想定の中でも一番格が高い答えが返って来た。

 中央校創立メンバー相手に魔法を教えていたのがこの人、ってことかよ。それはもう人じゃねえじゃん。

 さすがに頬がひきつっているのを自覚した。マダムは硬直するわたくしに対して、優しく微笑みかけてくる。

 

「もっと知りたいの? でも残念、そのためには、もっと強くなってから来なさい」

「……重々承知していますわ」

 

 位階が違う、と感じる。

 なんていうか、レベル足りないから開放されてないコンテンツ、みたいな感じだ。あるいはクリア後に話しかけないと進まないやつ。

 とはいえ。

 

「まあ、最後に一番強いのはこのわたくしですから、そのうち聞きますわ」

「あら…………」

 

 ……あ゛っ!!

 ヤッベ! 口が滑った!

 喧嘩売ったら即死なんだよね!? これ判定大丈夫!?

 

 

「……本当にそっくりね。因果なのか、それともイレギュラーであるが故の定石なのかしら」

 

 

 マダムは小声で何やらぼそぼそ呟いた後、納得したようにうなずいた。

 

「楽しみにしておくわ」

 

 どうやら命拾いしたらしい。

 は? 命拾ったりしてないが? これもう威圧勝ちに判定していいだろ。

 

「でもマリアンヌちゃん、これから決勝じゃないの?」

「少し野暮用がありまして」

「大変ねえ」

「好きでやってることですから。そういえばアナタは何故こちらに?」

 

 何気なく聞いてみると、マダムは視線をわたくしの後ろへと飛ばした。

 彼女が見ている先にあるのは、ロイとクライスが激戦を繰り広げていたステージだ。

 

「懐かしい気配を強く感じたから、思わず飛び出てきちゃったわ。でも、私が知ってるのとは違う方で今回は乗り越えたみたいね」

「……?」

「アルフレッドさんが見たらなんて言うかしら。でも年月が経って、あの力もだいぶん変質してるみたいだし……ユキさんは狙い通りって言うでしょうけど、アルフレッドさんはちょっとショック受けそうよねえ。ふふっ」

 

 知らねえ名前しか出てこねえな。

 話というか時系列のスケールがデカすぎて、どういう時代の人たちの名前なのかも分からん。そして踏み込んでいいのかも分からん。

 

「それじゃあ、あなたの使命を頑張りなさい、マリアンヌちゃん」

「わたくしの使命?」

「あなたのような子はいつもそうなのよ。連鎖を断ち切ろうとする。でも、それ自体が大きな一つの連鎖でもある」

 

 マダムは笑っていた。

 それは確かに、人間が浮かべる笑顔だった。

 

 

()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ……わたくしは無言で背を向けた。

 答えるまでもない愚かな願いだったからだ。

 わたくしの望みを誰にも否定させはしない。わたくしは燃え尽きる刹那のために生きている。それは単なる事実であり、覆すことのできない真理なのだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 年に一度のお祭りである対抗運動会が開かれているとあって、スタジアム付近は人でごった返している。 

 その分、王都中央、つまり王城のある区画は、普段よりも人気がない。

 王族や貴族たちは観戦に向かっており、外れくじを引いた騎士たちが警邏に勤しんでいるぐらいだ。

 

「──何だ、何が起きて……!?」

 

 その騎士たちは残らず地面にひっくり返り、苦しそうに呻いていた。

 王都に待機していた部隊全員が戦闘不能状態。

 彼らだけではない、市民たちも同様に顔色を変えて蹲り、立つことすらままならなくなっている。

 

「よーし……ばっちり機能してるみてえだな」

 

 死屍累々となった王都の通りを、レザージャケットを着た男──カートが闊歩していた。

 一人ではない。彼と同じように『禍害絶命』を発動させた人間を引きつれて、騎士たちを足蹴にしながら進んでいく。

 

「しかし我らがグルスタルク隊長もエゲつね~こと思いつくよな」

 

 カートの言葉に、仲間たちも引きつった笑いを返す。

 新生ピースキーパー部隊のやったことは簡単だった。

 王都に運び込まれる食糧に『禍害絶命』をかけた。それは指定されたタイミングで発動し、摂取した人々の体内で膨張し、まともに歩くことすらままならない状態に陥れたのだ。

 

「大隊長クラスの連中も、王様の警護でスタジアムにいるんだろ。狙うなら今に決まってる」

 

 当然別動隊がスタジアムに向かっており、外から魔力砲撃を撃ち込んでいる頃合いだろう。

 まともにぶつかれば殲滅されるのは必至だが、魔力すら自己再生できる軍勢が距離を取りつつ砲撃戦に徹するならば、時間を稼ぐことはたやすい。勝つ必要はないのだ。

 

「んじゃ王城にお邪魔して……いただこうか、クリスタルってやつをさ」

 

 市民だけでなく、騎士たちすらも行動不能となり、ロクに戦える状態ではない。王城内部も状況として変わらないのは目に見えている。

 計略が完全に成功したのを確認して、満を持して新生ピースキーパー部隊の実働部隊が出撃し。

 

 

 

 ──そして王城にたどり着くこともできず、市街地の戦闘で、半壊相当の被害を負った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 戦闘の余波で市街地の建物が粉砕され、区画の片隅は瓦礫の山となっていた。

 

「何故だ……」

 

 地に倒れ伏した新生ピースキーパー部隊の隊員が呻く。

 

「お前は、お前だけはここにいないはずだろう!? ヴァーサスの決勝戦に進出したと確認しているのに……!」

「おあいにく様。アナタがたのやりそうなことなんて、大体わかっているのです」

 

 瓦礫の山の上に佇む、ワインレッドを基調とした学生服の少女。

 出撃したピースキーパー部隊を正面から迎撃し、圧倒する少女。

 その深紅眼から光を放ち、辺りを睥睨する様は──視線が重なっただけで相手の魂を砕く、戦場に君臨する女神に他ならない。

 

「すべてが癪に障る連中だと思っていましたが……ここまで徹底的にムカつくと、二周回って、笑う余地もなくムカつきますわね」

 

 崩落音を立てて、建物の上に飾られていた看板が彼女の背後に落下する。

 それは教会の権威を示す、天から地へと降り立つ、翼を持つ神聖な存在を描いた絵画。

 落下した看板は、彼女の背に翼を生やすように突き立っていた。

 

「この世界に悪は二つも要りません。それも美学の欠片もない、誰かの笑顔を踏みにじるような悪に、居場所を与えるわけにはいかないのです」

 

 明瞭過ぎる怒りを言葉の節々に滲ませながら、彼女がゆらりと周囲を見渡す。

 両眼から迸る深紅の光が空中に残影を描いた。

 

「くそぉっ! 吹き飛ばせ(blast)──!

「……フン」

 

 かろうじて動けていたカートが、彼女目がけて単節詠唱の攻撃魔法を放つ。『禍害絶命』の効果によって性質が大きく捻じ曲げられたそれに対して。

 マリアンヌは鼻を鳴らし、人差し指と中指をピンと伸ばして剣指を象ると、切っ先の如くカートへ突きつけた。

 

「ばん」

 

 一言だった。

 カートの風属性魔法を真っ向から粉砕した流星の光が、そのままカートの右肩を吹き飛ばした。

 

「あ、ぎゃあッ」

 

 痛みにのたうち回るカート。自慢の『禍害絶命』が効果を発動させる様子はない。

 その様子をつまらなさそうにマリアンヌが見つめていると、視界の外から影が投げ込まれた。

 ごしゃ、と音を立てて地面に投げ捨てられたのは、別の区画で戦闘していたピースキーパー部隊隊員だ。

 

「あらあら。お元気そうですわね、ロブジョンさん」

「そっちこそ、気合が入ってるじゃないか」

 

 名を呼べば、建物の陰から足音もなく男が現れた。

 普段通りの装いだが身に纏う雰囲気は違う。いつものくたびれた様子など一ミリもない戦士──ロブジョン・グラスだ。

 

「人数的に、これで半分以上は沈んだんじゃないかな」

「後詰めを叩いて終わりですか」

「前哨戦もいいところだね……ただまあ、勝利条件は結局変わらなさそうだ。今朝話した通り、二人を撃破すれば終わると思うよ」

 

 倒れ伏す敗北者たちには目もくれず、二人は淡々と状況を共有する。

 ピースキーパー部隊の構成員が相手なら、普通ならば詰めが甘すぎる。相手は不死身の兵士だ、再生を済ませれば逆襲してくるだろう。

 だが、マリアンヌとロブジョンが撃破したピースキーパー部隊の面々は、通常通りの再生が行われず、這いつくばって呻くばかりだ。

 

「一応聞いておくけど。君はどうやってるんだい?」

「攻撃に流星の粒子を付与して、傷口で持続的に暴れるようにしました。あくまでこれは第一プランで、通用しなければレオフォームの発動もやむなしと思っていましたが……案外簡単に攻略できましたわね」

「いや普通出来ないんだけどね……そういう持続性のある魔法にも耐性があるはずなんだけど……」

 

 まあ禁呪ってそういうものなのかなあ、とロブジョンは半ば思考停止した。

 

「そういうそちらは、どうやってるのです?」

「ああ、こっちはもっと簡単だよ。心が折れて魔法を解除するまで痛めつけてる」

「…………」

「昔はこれぐらいじゃ解除しない人たちばっかりだったから、こちらもあくまで第一プランだったけどね。まあ正規の訓練を受けてない人間なら、こんなものだろう」

 

 マリアンヌはドン引きした。余りにも野蛮だった。

 

「で、これからの話なんだけど。僕はグルスタルク隊長を押さえに行ってくる。君は──」

「承知していますわ。当然、殺すことはしません」

「助かるよ」

 

 その時だった。

 飛来した雷撃を、マリアンヌは片手で弾き飛ばす。

 

「……迎えに行く必要もありませんでしたか」

 

 瓦礫の山の上から、深紅眼が鋭い視線を飛ばす。

 その先には、全身に稲妻を纏う少女、エリン・グルスタルクの姿があった。

 

(……やはり禁呪保有者ともなると、存在感だけで圧し潰されそうになるな)

 

 二人を交互に見て、ロブジョンはごくりと唾をのんだ。

 身に纏う覇気を見ればわかる。マリアンヌとエリンは、両者既に十三節の完全解号(ホールドオープン)状態。

 静かに佇んでいようとも、身体内部を莫大な魔力が駆け巡り、活性化している。

 共に禁呪保有者として磨き上げられたその圧は、単なる上位存在程度ならば息遣いだけで屈服させてしまいそうなものだった。

 

「彼女を頼んだよ」

「任せてください。そして──アナタも勝ちなさい。自分の過去に、自分で決着をつけるのです」

「ははっ。戦場の女神に加護をもらえるなんてありがたいな」

 

 小さく笑みを浮かべて、ロブジョンはエリンを迂回する形で走り出す。

 マリアンヌは、『稲妻』の禁呪保有者がその背中をじっと見つめていることに気づいた。

 

「そういえば、お知り合いだったようですわね」

「昔はもっとシャキッとしてて、カッコ良かったわ。大人になったら結婚して、ってお願いしたりしてたわよ」

「あらあら、あと数年じゃないですか。結婚式には呼んでくださいね?」

「……おじさんはもう、()()()()じゃない。無理よ」

 

 吐き捨てるように言った後、エリンはキッとマリアンヌを睨んだ。

 

「でも、そうね。お前の首を晒せば少しは後悔してくれるかしら」

「やってみなさい。できるものならですが」

 

 禁呪保有者と禁呪保有者が、王都の中央で対峙する。

 問答をする余地はもうない。既に新生ピースキーパー部隊は一線を越えてしまっているのだ。

 

「さあ! 喧嘩の時間ですわ!!」

 

 マリアンヌは既に十三節のツッパリフォームを展開済み。

 足元の瓦礫を爆砕させて跳び上がると、エリンとの距離を一気に詰める。

 

「喧嘩? 違うでしょ、これは殺し合いよ!」

 

 前回の顔見せの時と同様、互いに流星のワイヤーと稲妻を展開、地面を走るように広げて陣地を取り合う。

 その中でマリアンヌが果敢に踏み込み、接近戦を挑もうとする。

 

「アナタたちが無様に敗北する様子をサブチャンネルにアップしてやりますわ!」

「さ、サブチャンネル……!? 何のこと!?」

「どうも忘れられがちですがわたくしはVTuberですからね! このマリアンヌ・ピースラウンドこそがアラサーで人生イージーモードでストゼロなのを思い知らせてあげましょうッ!!」

 

 拳で稲妻を叩き落とし、距離を詰めていく悪役令嬢。

 その姿にエリンはたじろぎながらも、冷静に魔法を展開、近づけさせない。

 

「何なのよッ、アラサーだのストゼロだの!」

「ストロングなゼロということですわ!」

「ッ! 強者(ストロング)であることと、『流星零剰(メテオ・ゼロライト)』の異名を合わせたというわけね! なかなかシャレてるじゃないの!」

「……そういうことですわ!」

 

 勢いですべてを誤魔化しつつ、マリアンヌはなかなか踏み込めないと見て間合いを取りなおそうとする。

 同時に流星のワイヤーが陣形を密にし、エリンの行動を制限。

 だがエリンは、年齢からは想像できない百戦錬磨の魔法使い。陣形の間隙を見逃さない。

 

「接近戦は嫌だけど……砲撃戦なら正面衝突は大歓迎よ!」

「!」

 

 刹那の判断だった。

 エリンは後退するマリアンヌ目がけ、ここまででの最大出力を収束、解放した。

 とっさに両腕をクロスさせ防御したマリアンヌに直撃、砕けた魔力が空間に散る。

 

「てっきりスピードを軸にしてくるかと思いましたが!」

「そっちもついでにできるわ。でも撃ち合いの方が得意なのよ!」

 

 エリンの砲撃に押し込まれて、じりじりとマリアンヌの身体が、地面をかかとで削りながら後退させられていく。

 刹那に収束した出力とは思えない魔力砲撃だ。質の高い、相手として文句のない技量がうかがえる。

 だが、しかし。

 

「へぇ──でも、わたくしの方が得意だと思いますわよ?」

「……ッ!?」

 

 マリアンヌは激しいスパークの中、唇を吊り上げた。

 彼女の背中から極光が迸る。それは弾丸として真上に射出されると、障害物越しに砲弾を撃ち込む曲射砲撃の如きカーブを描いて、エリンを頭上から襲撃した。

 同時、エリンは己が追い詰められたことを悟った。ワイヤーによる行動制限が回避行動を封じている。直撃コース。

 

「これが裁きですわ!」

 

 降り注いだ極光が、エリンの身体をクリティカルに捉える。

 行動不能とまではいかないだろうが、先制には成功したとマリアンヌが確信した刹那。

 

 

 エリンの身体が内側から弾け飛んだ。

 

 

「……え?」

 

 鮮血がびしゃりと地面に飛び散った。

 ばらばらになったエリンの身体が地面に転がる。その頭部、光の宿っていない瞳が、ぼんやりとマリアンヌを見つめていた。

 

「なに、が」

 

 乾いた風が吹き、マリアンヌの狼狽の言葉を流していく。

 他の区画での戦闘や魔法による爆音が響く中、この一帯だけは、恐ろしいほどの静謐に満たされた。

 

(なんで、馬鹿な、こんな、ここまで……)

 

 絶句するマリアンヌだが、思考停止には至らない。思考停止こそが真の敗北だと分かっているからだ。

 眼前で展開された光景には、違和感があった。それらを丁寧に拾っていく。

 

(そこまでの威力は込めていない。制御に失敗した? 違う。わたくしがそんなミスをするはずが……違う、そこじゃない。違うッ! わたくしの攻撃じゃなくて内側から弾け飛んでいる! つまりこれは……!)

 

 ハッとしたマリアンヌは、エリンの顔を見て叫ぶ。

 

 

「まさかアナタ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──」

 

 

 直後。

 その言葉の途中で、エリンの世界が暗転した。

 彼女は慣れ親しんだ死を受け入れ、そして──

 

 

 

 ────次を始める。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「へぇ──でも、わたくしの方が得意だと思いますわよ?」

「……!」

 

 マリアンヌは激しいスパークの中、唇を吊り上げた。

 彼女の背中から極光が迸る。それは弾丸として真上に射出されると、障害物越しに砲弾を撃ち込む曲射砲撃の如きカーブを描いて、エリンを頭上から襲撃した。

 同時、エリンはマリアンヌが放った攻撃の弾道を正確に思い浮かべた。

 

「これが裁きですわ!」

 

 降り注いだ極光を、エリンは砲撃を中断すると、即座に身をよじって回避する。

 まさかの挙動にマリアンヌはぎょっとした。

 

「裁かれる筋合いなんてないわよ!」

 

 流星の砲撃をしのいだエリンが右手をかざし、お返しとばかりに雷撃を放射する。

 マリアンヌは周囲に展開していたワイヤーを手元に引き戻し、束ね、円形に回転させることで盾を生み出し、雷撃を防いだ。その表情は驚愕に彩られている。

 

「な、なんですか今の動き……!? 読まれていた!?」

 

 エリンがその場から転がるようにして退避するのなら分かる。それを封じるためにワイヤーを展開し、必中を期して攻撃を放った。

 だが彼女は身体をよじっただけで、降り注ぐ流星の雨の間隙を縫うようにして避けてみせたのだ。

 まるで、どこに着弾するのか全て分かっていたかのように。

 

「『稲妻(ライトニング)』と『禍害絶命』のちょっとした応用よ」

「……ッ。わたくしの思考を、電気信号として読み取った? いいえ、だとしたらもっとやることがあるはず。一体何を、アナタは何をしているのです!?」

 

 動揺するマリアンヌに対して。

 エリンはその身に雷撃を纏い、腕を組んで宣言する。

 

 

「あたしの最大の強みはね──諦めが悪いことなのよ」

 

 














VS死に戻り、これがやりたかった


結構ロイとエリンの対決と言うかエリンによるロ脳破を予想している人が多かったのですが、この二人は雷撃属性こそ共通していますが今回で描いたようにバトルスタイルが根本的にめちゃくちゃ違うので、どちらかというとぶつけたくないなと思いながら書いていました
期待と違ったらすみません
ロイ君もう二回ぐらい覚醒イベント残ってるんで許してください


計算通りなら今月末か来月頭に運動会編が終わります
次章を始めるか、書籍版発売記念に何か間章でも挟むか悩んでいます
あった方がいいですかね?やるなら非現パロでのコミケ参戦編とか、ナイトメアオフィウクス世界線の話とかが残弾としてあります
他に何か希望あったら適当に教えてください(拾えるかどうかは分かりませんが…)

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