TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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PART22 熾戦-Battle Field-(前編)

 全力で頑張ります、なんて言うのは易い。

 全力以上のものを出せたと思います、なんて誰でも言える。

 

 だが、本当に全力を出せたと言い切れるのだろうか。

 全力を出し切れる人間がどれほど限られているだろうか。

 

 結論は明瞭である。

 全力を出すという行為そのものが、選ばれし者にしか成し得ない代物なのだ。

 

 そして──真に選ばれし者が絶え間ない研鑽を積んだ果てにこそ、ようやく全力の向こう側という領域が開かれる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ステージ上に顕現したマリアンヌの体内宇宙顕現状態(ミクロコスモス・レヴォリュート)──本人はワザマエフォーム、或いは超悪役令嬢マリアンヌ・ピースラウンドⅡと呼称する形態──を見て。

 数少ない観客たちはそれぞれ圧倒されるか、或いはその完成度に感嘆の声を上げている。

 

 

「禁呪を自在に再構築している……危険だねェ~。だがそれ以上に、こいつァ素晴らしいと言っていいんじゃないかィ?」

 

 『透律卿』チェルグラス・マラガン大隊長。

 来賓席の中央を陣取り、彼は葉巻の煙をくゆらせながら不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「私の認識では、『流星(メテオ)』は広域殲滅攻撃のはずでしたがネ……ヨホホ! まさかそれだけの出力を、自分一人が纏う戦装束にまで収斂させているとは! これは驚きですよ!」

 

 『髭猫卿』ミケ・タウ大隊長。

 チェルグラスの左隣にて、その髭を指でぴんと伸ばしつつ感嘆の声を上げている。

 

 

「ああ。今なら分かる……禁呪そのものが危険であっても、彼女の手にある限りは大丈夫なのだろうな」

 

 『暗天卿』ゴルドリーフ・ラストハイヤー大隊長。

 チェルグラスの右隣にて、葉巻の煙に顔をしかめながらもマリアンヌの人格を知る彼だからこその評価を下している。

 

 

「確かにスマートに構築できている。平均出力も高い……そして何より存在として圧倒的に確立されている。いい構築式だ」

 

 元ピースキーパー部隊所属、ロブジョン・グラス。

 アーサーに招待された彼は客席に座り、魔法使いの視点からマリアンヌの形態の完成度を推し量っている。

 

 

「だが各種フォームシフトを見ると、少しばかり不満も残りそうだね。特化したものがあるわけではない……そうか。これは今の彼女にとって、最終到達点ではなく最新のスタンダード形態なのか」

 

 現『七聖使(ウルスラグナ)』リーダー、ナイトエデン・ウルスラグナ。

 スタジアムの観客席を覆う屋上に佇む彼が、闇夜の中で黄金の瞳を輝かせる。

 

 

「──それでも足りないな、マリアンヌ。方針はいい、結果も悪くない。だが満足のいく代物じゃない、そうだろう。僕の娘であるならそう感じるはずだ。そこはスタートラインに過ぎない……この形態をベースとして更なる高みに上らねば、これから先の敵にはとても太刀打ちできない」

 

 現代最高にして最強の魔法使い、マクラーレン・ピースラウンド。

 カサンドラたちと数日分かれて王都に留まっていた彼は、客席の最前列を堂々と陣取って深紅の瞳を細めている。

 

 

「さあ見せてみよ、マクラーレンの……いいや。マリアンヌ・ピースラウンドよ。貴様の力、我が目にしかと焼き付けるがいい」

 

 シュテルトライン王国現国王、アーサー・ラ・タナトス・シュテルトライン。

 玉座に腰かける偉大なる存在は、現代最強の禁呪保有者として唇をつり上げた。

 

 

 卓越した強者たちですら一定の評価を与えざるを得ない、それほどの段階にまで到達したマリアンヌが、足元を爆砕して踏み込み、ロイとの間合いを詰めて──

 

 

 

 ◇

 

 

 

「なんかオッサンとジジイ共の強キャラムーブのダシに使われている気配がしますわ!!」

 

 

 わたくしはロイに殴り掛かりながら絶叫した。

 

「急に何の話!?」

 

 正面から剣を振るい右ストレートを相殺しつつ、ロイは声を上げる。

 

「いいえ、こちらの話ですわ。それより……!」

 

 至近距離で追撃を仕掛けてもよかったが、いったん間合いを取り直す。

 

「例の行動阻害魔法は撃たないのですね」

「時間の無駄だろう……今の君にああいう小細工が通用しないのは分かっている」

 

 チッ。詠唱をロスってくれたらよかったんだが。

 多分あれぐらいなら弾けるだろう、という目算込みで普通に距離を詰めた。ていうかアルトリウスさんの魔眼だって弾いたフォームだ、これで作用されたらたまんねえよ。

 

「だから僕は今日、正面から君を打倒する!」

「よくぞ言いました! かかってきなさい!」

 

 純粋な殴り合い兼斬り合いなら、話は早い。

 今度はロイから距離を詰めてきて、クライスとの戦いでへし折られ、新調した剣をわたくしに振りかざす。速い!

 

「っとお!」

 

 唐竹割をガード、した刹那にはもう左側から薙ぎ払うような斬撃が飛んできている。

 速度域が今までと違う。並の剣士が剣を一度振るう間に、ロイは五、六回程度は攻撃を放っている。

 

「……ッ! 腕と剣が増えたみたいですわね!」

「それ、端的に言って化け物じゃないかな……!」

 

 笑みを浮かべるロイの動きによどみはない。

 今の彼に扱える出力すべてを引き出して、全身に循環させているのだろう。

 

「ですが! 単なる速度の増加だけではないでしょう!」

 

 対応はできるが攻撃に回れん。わたくしは深紅の翼を撃発させて牽制代わりの砲撃を残しつつ、上空へと飛び上がる。

 

「飛行能力があるの、ズルいな」

「アナタだってある程度は空戦できるでしょうに。夏休みにやってましたわよ」

「あれは飛ぶというよりは推力で跳ねてるだけだ、普通に追いつけないよ」

 

 苦笑しながらも、貴公子の視線に鋭い光が宿った。

 

「マリアンヌ」

「何でしょう」

「君に勝つためにはこれしかない。制御できる限界を──超える。今からは、君を殺すつもりで挑ませてもらう」

 

 粛々と告げて。

 直後、ステージから光が放たれた。

 

「!!」

 

 回避が間に合わなかった。右腕に出力を集めて防いだが、あまりの威力に大きく弾かれた。

 判断が遅れたら肩口から腕を切り飛ばされていただろう。

 

「それが『天空(テオス)』とやらの威力ですか……!」

 

 砲撃かと錯覚した。だが違った。

 超高速で跳ねたロイが光のレーザーとなってわたくしに襲い掛かり、そのスピードのまま地面へと戻っていったのだ。

 

「今までの僕とは違う!」

「見れば分かりますわよ、そのぐらいッ!」

 

 深紅の翼を広げ、循環する魔力を翼へと送り込み、小さな光弾として射出する。弾丸が小さいが威力は一級品だ。

 ロイは降り注ぐ魔力をかいくぐり、地面を這うような低姿勢で間隙を縫いこちらの隙を伺う。

 

「殺、さない……ッ!」

 

 こいつ今、殺す! って言おうとして途中で捻じ曲げたな。

 恐らくは『七聖使』の二重覚醒による反動、殺戮衝動がどんどん増しているのだろう。

 別にいいぜ。わたくし相手ですら全力を出し渋るような男じゃないのは知っている。

 それはそれとして。

 

「わたくしにことわりなく別人になってどっかに行くなんて許しませんわよ!」

 

 こっちはロイ・ミリオンアークと戦いに来てんだ!

 だから──名前も分かんねえ神様モドキの力なんかが、その男の身体を乗っ取ろうとしてんじゃねえぞカス!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 脳が焼けつくような感覚。

 全身が熱い。指先の神経が溶けているのではないかと思った。

 

 戦えている。ロイは今、マリアンヌ相手に正面から、戦えている。

 魔法学園に入学する前には、こうして対決の場に立つことはあれど、勝負が成立することはほとんどなかった。

 それは御前試合だけでなくもっと前、出会ったばかりのころからずっとそうだった。

 

 初めて出会ったときには、おとなしく引っ込み思案の少女なんだと思った。

 父に連れられて行った、貴族の子息たちが交流する大規模なイベント。

 そこで彼女は隅の木陰に座って本を読み続け、話しかけてくる他の子供たちを完全に無視していた。

 

『はじめまして!』

 

 彼女がどこの子供なのか、とかはあまり聞いていなかった。

 ただ印象に強く残り、他の子供たちと一通り戦った(遊んだ)後に、ずっと読書しかしていなかった少女に話しかけてみたいと思っただけだった。

 

『……はじめまして』

 

 だから返事が返ってきたのは、純粋にうれしかった。

 顔を上げた少女が思っていたよりも見目麗しかったというのも、幼いロイを無自覚に喜ばせていた。

 

『ぼくはロイ。きみは?』

『……マリアンヌ』 

『みんなで模擬戦をやってるんだけど、どうかな?』

『……やります』

 

 試してみたいこともあるし、と一人でぶつぶつ呟く少女に、既に魔法も剣もある程度習っていたロイは苦笑した。恐らくは特殊な魔法にでも興味があるのだろう。

 

『なら、ぼくと戦ってみようよ。怪我はさせないし、きみのやりたい事をやってみていいからさ』

 

 それは純粋な気遣いだった。

 少なくともその場に集まっていた子供たちの中では、ロイは自分が頭二つ三つほどは抜けて強いと分かっていたし、それを必要以上に振りかざすこともなく、事実として受け止めるだけの理性が育っていた。

 

『お父様。この子と模擬戦をしたいんだけど、見ていてくれるかな』

『ああ、ロイ。お前ももぎせ……ッ!?』

『? どうしたの?』

『い、いや。なんでも……ハァ。これも因縁なのか』

 

 父の反応は気になったが、ロイは模擬戦を通して、この少女ともっと仲良くなりたいという考えしか持っていなかった。

 けれど。

 少女は幼いロイが想像していたよりもずっと圧倒的で、絶対的だった。

 

『……だめ、やっぱり通常魔法では速度も威力も理想に遠すぎますわ……別の魔法が……特殊な、固有スキルのようなものを見つけなきゃ、こんな有様では……』

 

 模擬戦が始まって十秒と少し。

 戦闘能力を完全に奪われ地面に叩きつけられたロイの目の前で、魔法陣を消しながらマリアンヌはぶつぶつと呟いていた。

 

『ぐ……』

『……?』

 

 うめき声を上げたロイに、マリアンヌがふと視線を向ける。だが自分で打倒した相手だと分かるや否や、すぐに彼女はどうでもよさそうな表情を浮かべた。

 地に倒れ伏した自分を見下ろす彼女の瞳には、興味どころか侮蔑や憐憫の色すらなかった。

 ただひたすらに、無。

 人が転がっているのか、猫なのか、あるいは石ころか。その視線の先にあるものを見てなどいないとハッキリ分かるほどに、何の感情もない深紅の瞳。

 

 マリアンヌは圧倒的だった。

 距離を詰めたい? 仲良くなりたい? 何をふざけたことを。

 余りに遠かった。目を焼くような輝きは憧れではなく、思い上がっていた自分を照らし上げ、果てしない羞恥を呼び起こすだけだった。

 

 やがてその少女、マリアンヌ・ピースラウンドはそこから頭角を現し、御前試合の幼年部において無敗記録を樹立する。

 

 年を重ねても結果は変わらず。

 ある時期以降は彼女独自と思われる光の砲撃魔法を軸に戦うようになり、むしろ試合内容に磨きがかかった。

 間違いなく時代の中心点は彼女だった。

 

 意外にも家同士の仲が良かったこともあり、ロイはその後も少女と定期的に顔を合わせる機会があった。

 気づけば親と親の話し合いによって婚約者となっていた。

 相手が名家ならば自然なことだろうとロイは受け入れていたが。

 

 

 あの日。

 夜空を切り裂いた流星を二人で見つめた日。

 

 

 その深紅の瞳。

 己の夢を堂々と宣言する、決定的な瞬間の少女。

 

 

 この胸に宿った情動の炎。

 手放したくないと思った、彼女の美しさに魅入られてしまった。

 

 

 

 ────だから。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 激しい攻防が火花を散らす。

 剣と拳が一秒を切り刻んだ僅かな時間の中で無限に交錯する。

 

(……ッ!)

 

 殺戮衝動が唸りを上げる。

 自分に身を任せろと叫んでいる。

 お前よりも、ロイ・ミリオンアークよりも、自分が戦った方が強いと嘲笑っている。

 だがもう、そんな騒音は彼の意識を一部たりとも邪魔できていない。

 

(ずっと悩んでいた。僕なんかが追いつけるはずがないと)

 

 あの輝きが眩しいからこそ、自分ごときでは同じ領域に行けるはずがないと心のどこかで思っていた。

 だがそれは厳密には違う。

 

(いいや……僕が追いついてしまうことは、逆説的に彼女の輝きを穢してしまうのではないかとさえ思っていた)

 

 馬鹿だったな、とロイは内心で苦笑する。

 そんなものは追いついてから考えればいいのだ。

 

(それに、僕ごときが追いついてしまえば、なんかじゃない)

 

 キッとまなざしを鋭くして、ロイはバックステップで大きく距離を取り、剣を正眼に構えなおす。

 雰囲気が変わる。マリアンヌもそれを察知し、唇をつり上げた。

 

(僕だからこそ、彼女に追いつけるんだ!! それだけは他の誰が相手でも、上位存在だろうと大悪魔だろうと譲れないッ!!)

 

 

 そのためなら。

 

 ロイ・ミリオンアークが──その愛を証明するためならば!

 

 

(おれは彼女を(ころ)してでも、彼女を(あい)し続ける!!)

 

 

 今必要なのは軍を率いる力ではなく、彼女の空へ飛び立つための翼だけ。

 

 故に切り替わる(スイッチ)

 二重覚醒者としてあらゆるポテンシャルを発揮することは、人間の身にとどまるロイにはまだできない。

 だが、それ故にこそ、彼にしかできないことはある。

 

 

「絶翔せよ、墜崩の翼──天空(テオス)の神威を振りかざそう」

 

 

 それを知る者は気づく。

 かつて『七聖使』と共に戦っていたアーサー・シュテルトラインが。

 かつて『七聖使』の頂点に君臨していたマクラーレン・ピースラウンドが。

 

(これは……!? マクラーレンたちとも違う!?)

(……そうか。これが『七聖使』の新たなる世代、か。僕たちとは根本的に違って、他人の存在をちゃんと許容できる子供たちだからこそ──)

 

 真に時代を切り拓く者の行いは、前時代の人間には予想できない。

 だから、ここに証明される。

 

 撃発の時が訪れる。

 ロイ・ミリオンアークはここから強くなる。

 

 

 

「君の宇宙(そら)におれも行くよ────雷霆下すは天空の審判(ケラウノス・ヴォイド)ッ!!」

 

 

 

 ひた走るは天空の路。

 

 流星きらめく夜空を目指して、少年が駆け抜ける。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 いやだからお前らわたくしと戦ってる時に覚醒してんじゃねーよ!! ボケ共!!

 

「うおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 ロイが迫る。

 カウンターを当てようと反射的に身体が動いて。

 

「ぐ……!?」

 

 肩からばっさり斬られた。

 身体を覆っていた流星の光が断ち切られる。身体に刃が通ることは防げたが、防御も回避も間に合わなかった。

 何だ今の!? フィルム千切ってつなげたみたいになったぞ!?

 

 

つっきー おいこれ常時神域権能発動してるぞ!?

宇宙の起源 漏れてる! 漏れてるよ神威が漏れてるよ!

火星 か、かっこよ……

 

 

 ロイの身体から過剰魔力があふれ出している。

 今の動き……仮定するなら、絶対的な先行権利とでも言うべきか。

 わたくしが何かしようとする前に結果が確定した。恐らく因果の領域に干渉している。

 

「まだだ! まだ、もっと疾く──ッ!」

「もう速くならなくてよろしいですが!?」

 

 繰り出される斬撃。

 対応を考えた刹那に直撃し続ける。身体を覆う流星に魔力をつぎ込んで、致命傷だけをぎりぎりで防ぎ続ける。

 な、なんもできねえんだけど! ちょっと待って!?

 こっちへの干渉なら弾けるんだが世界のシステムの方に干渉されると防げねえ! なんでだよ普通逆だろ!

 

『防戦一方……というか、防御すらできていない……!?』

『単に速いだけじゃないわよ、これ! 行動の始点と終点が重なってる……いいえ、重なってるように見えるレベルで、概念的な速度を上げている……!?』

 

 観客席でユイさんとリンディが悲鳴を上げる。

 幸いなことに、ワザマエフォームの権能で、先行されるのは防げずとも、後攻にされるのは防げているようだ。要するに、権能を一部弾けている。これがなかったら……うん。これ初動からワザマエフォーム選択しなかったら一撃で詰んでたっぽいな。

 ジークフリートさんしかり、なんでわたくしの味方ばっかりこういう超絶チートオリ主みたいなことをぽんぽんやってくるんだよ。普通に考えてそれをやるのはわたくしだろうがッ!

 

「意識外の一撃ならどうですか!」

 

 だがこのままやられるわけにはいかねえ。決闘のフィールドに仕込みは完了している。

 地面から、天空から、遅延発動させていた魔力砲撃がロイへ殺到する。

 

「その攻撃は、()()()()()()()!」

 

 効かないわけねーだろ。

 多方向から着弾し、光が弾け飛ぶ。出力的に、普通の試合なら決まり手になる。

 とはいえ今回は無理だろう。ダメージこそ通れども、これで終わりなんて虫の良すぎる考えだ。

 しかし。

 

「効かないと言った!」

 

 砕け散った魔力の光をぶち抜いてロイが突っ込んできた。

 無傷だった。え!? なんで効いてないのッ!?

 

 

みろっく 何すかねこれ

一狩り行くわよ うちのお父様の権能を引き出してるんだとしたら……

みろっく だとしたら?

遠矢あてお 世界に対する裁定権を持ってる、んだと思う。これは当たる攻撃ですって決めたから当たるみたいな……

苦行むり は?

日本代表 おい待ってくれ本当に待ってくれ

 

 

 いやちょっちょっちょっタンマタンマタンマ!

 それは流石にやりすぎ! インフレとかそういう問題じゃない!!

 

 

遠矢あてお いやでも人間だし限界はあるよ、多分。本気で同じことができるのならお嬢もう死んでると思うし

一狩り行くわよ お前は死んでるから死ね、とかは流石にできないはず。あと、世界そのものを捻じ曲げてるわけではなく、世界っていうシステムを媒介にして対個人で裁定を確定させている……ぐらいの出力なんじゃないかしら

遠矢あてお それにしても人間が個人で運用できてるのヤバすぎるけどな

無敵 あ~、二重覚醒者だから……『軍神』の権能を単なる電池にして、その分のリソースも全部『天空』につぎ込んでいるとかかな……

 

 

 要するには電源泥棒じゃねえかテメー!

 とにかく何もできない! 直撃という結果が決まった攻撃がずっと飛んでくるから回避も防御も間に合わない! マジでこれ何ゲーだよボケ。

 

 

 ────しかし。

 

 

「それでこそ、わたくしが認めた男ッ!」

 

 意識をずらす。

 ロイに対しての攻撃行動ではなく、単純にステージを爆砕する砲撃を放つ。

 爆炎が吹き上がり、ロイが後退して間合いを取りなおした。

 

「どうだ、マリアンヌ……! これが今の僕の全力だ!」

「……ええ、認めます。アナタの全力は、今のわたくしの全力に匹敵する」

 

 正直対人戦闘においてこの権能強すぎる。

 ゴルドリーフさんのアレが一番強いと思ってたけど普通にランキング変わったわ、お前がTier1です。末期のソシャゲみたいなスピード感で環境変えてんじゃねえよ。

 

「……ですが。それでも勝つのはわたくしです」

「──!」

 

 本当に強い存在は、環境がいくら変わろうとも唯一無二の輝きを放ち続けるものだ。

 それを証明するためには。

 このわたくしこそが最強なのだと声高に叫ぶためには!

 

 

 

「わたくしの全てを使って!! 全力で──いいえ、()()()()()!! ()()()()()()()()ッ!!」

 

 

 

 わたくしが取るべき一手は決まっていた。

 翼をはためかせて超高高度まで一気に飛び上がる。

 雲を散らして、空の上にまで到達し。

 

 そしてワザマエフォーム解除。

 

『な……ッ!?』

 

 魔力の動きでわたくしの行いを察知した連中が、今頃スタジアムで驚愕しているだろう。

 重力に引かれ、頭から真っ逆さまにわたくしは落ちていく。

 そうだ、これでいい。体内に宿る流星がこれ以上なく活性化するのを感じる。何故なら、流星とは天から落ちてくるものに他ならないのだから!

 

 

 ────星を纏い(rain fall)天を焦がし(sky burn)地に満ちよ(glory glow)

 

 

 墜落しながら詠唱を紡ぐ。

 流星の輝きが夜空を切り裂き、魔力が実像を結ぶ。

 

 

 ────広がれ(expanding)暴け(exposing)照らせ(shining)侵略せよ(raiding)

 

 

 わたくしの身体を覆う魔力が活性化する。

 敵を、これ以上はない敵を打倒するために力を増していく。

 

 

 ────正義(justice)(white)普遍(general)聖母(Panagia)

 

 

 地上から飛んでくる雷撃の砲撃をすり抜けて、わたくしが地面へと迫る。

 

 

 ────悪行の潜む地なく(sin break down)秩序の息吹が齎される(judgement goes down)

 

 

 詠唱改変完了。

 今のロイを打倒するために必要な力はこれだ。

 

 

 

 ────裁きの極光は、遍く宇宙に(vengeance is mine)

 

 

 

 直後、墜落。

 高高度から落下したわたくしの身体がステージをぶっ壊して、スタジアムのドームカバーに届かんとするほどの噴煙を吹き上げた。

 

 

 

完全解号(ホールドオープン)──虚弓軍勢(マグナライズ)流星(メテオ)、ジェミニフォーム」

 

 

 

 唖然とすることもなく、険しい表情で警戒するロイの眼前で。

 噴煙を突き破り、マリアンヌ・ピースラウンドが突撃する。

 

「装甲がない!? 形態変成(フォームシフト)じゃないのか!?」

 

 客席でユートが叫ぶ。

 そうだ、姿を現したわたくしは深紅の学生服姿だ。

 大きく出力が増しているわけでもない正面からの突撃。ロイにとって対応は児戯に等しく、既に彼は防御の構えを取っている。

 

 

 わたくしが、ロイめがけて直進していく。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「は?」

 

 二人目のわたくしを視認してロイが愕然とする。

 もう遅い! わたくしΩ(オメガ)の攻撃を防御した彼の横っ面に、わたくしα(アルファ)の右ストレートがめり込む。

 

「ぐばあああっ!?」

 

 吹き飛ばされていくロイをしり目に。

 二人のわたくしたちが並び立ち、笑みを浮かべる。

 

 

「技と力のα!」

 

 

 わたくしは右手を天へと伸ばし、左手を腰だめに構えて雄々しく叫ぶ。

 

 

「技と力のΩ!」

 

 

 隣のわたくしΩは右腕を横へと伸ばし、左腕も胸の前で曲げ、どちらも地面と水平に構えて凛々しく叫ぶ。

 

 

 オーバーレイネットワークを構築!

 これがわたくしとわたくしが描く星のきらめき、日曜朝を彩る至高の輝きッ!

 

 

 

 

 

「「二人は流星! MAXマリアンヌShooting☆Starッ!! ですわッ!!」」

 

 

 

 

 

「なんて??」「なんて??」「なんて??」

「なんて??」「なんて??」「なんて??」

「なんて??」「なんて??」「なんて??」

「なんて??」「なんて??」「なんて??」

 

 

つっきー なんて??

無敵 なんて??

一狩り行くわよ なんて??

適切な蟻地獄 なんて??

苦行むり なんて??

遠矢あてお なんて??

火星 なんて??

日本代表 なんて??

 

 

 

「ま、マリアンヌが二人……二人!? こ、これは……夢……!?」

 

 起き上がったロイが目を白黒させる。

 夢じゃねえよお前のために増えてやったんだよ。

 

「それでは始めますわよ、次のナンバーを!」

「わたくしたちの演舞に、婚約者ならばついてきてみなさい!」

 

 

 本番はここからだ、ド派手に号砲をかき鳴らせ!

 使命も宿命もど~でもいい!

 今はただ(ころ)し合おうぜ、このわたくしとッ!!

 

 

 

 ◇

 

 

 

配信中です。
 
上位チャット▼


適切な蟻地獄 増えてて草

遠矢あてお え、今裁定権破った? なんで?

一狩り行くわよ これ……総出力を二分割したんじゃなくて、普通に倍増してないかしら?

火星 ああ、二人分のフルパワーで『天空』の判決を覆しているってことか、納得

鷲アンチ 何が納得だよ馬鹿が

トンボハンター こいつを一刻も早く法治国家から追放しろ

木の根 追放されたがってるんだよなあ

苦行むり マリアンヌが二人……来るぞ遊馬!

TSに一家言 来てほしくないぜアストラル!

red moon 二人はマリアンヌなんだけどマリアンヌが二人なのは明らかにおかしい

宇宙の起源 マリアンヌか!?いや……マリアンヌなのか!?

外から来ました もはや幻術であってくれ

つっきー 確かに全力のマリアンヌ二人分なら全力より上の力が出せるな 馬鹿か?

日本代表 全力以上ってこういう物理的なものじゃねえから

無敵 全力異常行動やめろ

【ぶっちゃけ】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA CHAPTER5【ありえない】

8,168,349 柱が待機中

 

 

 

 

 

 

 













おかげさまで書籍版が8月30日に無事発売されております。
売上次第では続刊もあり得るので、まだの方はぜひお買い上げいただけると、作者がとても喜びます。

書籍版は諸々の表現改定や、現行のWEB版を意識してつながりを強くした書下ろしエピソードも盛り込まれております。
電子版もありますので、興味のある方はぜひよろしくお願いいたします。

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