「転校生を紹介します~!」
合法ロリ先生の言葉に、教室がざわめいた。
既に新学期が始まって一定時間が経っており、ある程度はグループも定まっている。
休み時間になると集団を作る生徒たち。声がデカい集団とそうでもない集団。あるいは集団になれていないぼっち。色々ある。
だが全て関係ねえ。何故なら、クラスカーストの頂点に、単独でわたくしが居座っているからな!
「この時期に転校生って、珍しいですね」
「平民入学したアンタには負けるわよ」
この、当然のような顔で両隣に座っている女共、邪魔。
わたくしという存在は孤高にして頂点。友人など不要なのだ。
「どうして二人ともそこに座っていますの? 魔法で床パカッてしますわよ」
「絶対魔法じゃないわよねそれ。明らかに仕込んであったでしょ」
「こんなこともあろうかと夜なべして作業しておりました」
「努力の方向音痴すぎる」
「え? ていうか冗談だと思ってたんですけど、本当にやったんですか?」
「モチロンですわよ」
ポケットからスイッチを取り出して押した。
パカッとわたくしの席の床が開いた。
「おおおおんん!!」
椅子が落下していき、わたくしは床面に両手でしがみつく。
押すボタンミスった! 徹夜作業はやっぱり精度が下がるからダメだな……
「馬鹿オブザ馬鹿」
「本当に何をやってるんですか……?」
両隣に引っ張り上げられた。なんか捕獲された宇宙人みたいにされたな。
床を元に戻したが、椅子が落ちてしまったので仕方なく空気椅子に座って足を組む。滅茶苦茶キツイ。だが令嬢とは足を組んで優雅に座っているもの! 全身がプルプル震えていても、我慢だ! 両サイドからビシバシ冷たい視線が突き刺さっているが、我慢だ!
そうこうしている間に、もう転校生は入ってきて教壇に上がっていた。
「俺はユート! 名無しのユートと呼んでくれ!」
特徴的な外見と元気のいい名乗り。印象に残りやすいだろう。
生徒たちは驚いたように目を見開き、隣と何事か小声で話したりしている。……単純な驚愕ではない様子だった。
「……名無しだなんて言ってるけど、れっきとした王子だったはずよあの男。私たちの国と直接戦争したことはないけど、経済面ではライバルね」
リンディの言葉に、ユイさんがそうだったのかと驚愕する。
教室の生徒たちが狼狽えてる中でのそのリアクション主人公っぽくて好きだよ。
まあそれにしても、ふむ、なるほどな。
流石に魔法学園の生徒、要するに貴族の子供なだけある。皆自国だろうと他国だろうと、お偉いさんをある程度頭の中に叩き込んでるわけだ。
……わたくしはまあ、人の名前とか覚えるの苦手なので。仕方ないね。
「色々立場はある身だが……この学校に通う限りは忘れてくれ! 俺はこの学校中の生徒と
最後の言葉に、一層ざわめきが強くなる。
まあ他国の王子なんてモロに戦力偵察って感じだもんなあ。
「以上だ、よろしく頼むぜ!」
ユートは白い歯を輝かせてそう締めくくると、先生に促され教壇を降りた。
ちょうどその時だった。
空いてる席に座りに行こうとしていたユートと、わたくしの視線が重なった。
「おっ、マリアンヌも同じクラスだったのか!」
「ええ。今朝方ぶりですわね」
どよめきが広がった。
ああそうか。他国からの転校生だから、わたくしと知り合ってるとなると辻褄が合わないか。
「元気そうで何よりだ! ところで、なんで空気椅子なんだ?」
「今朝、手助けしてくださったその心意気には感謝しますわ。ですがあの程度は自力でどうとでもできました、なれなれしく話しかけないでくださいます?」
「つれないなあ。だが、美人ってのはそういうものだからな、分かるぜ! ところで、なんで空気椅子なんだ?」
「ふっ、不調法者にも華の美しさは分かるようですわね。そう、荒野に凜と咲き誇る一輪の花こそこのわたくし。それさえ理解出来たら、大人しく自分の席に戻りなさい」
「そうだな、だけど俺はお前と
うるっせえ! スルーしろや!
「もしかしてイジメか……!? 誰だよマリアンヌの椅子を持っていった奴は! 許せねえ!」
「本人です」
「こいつをいじめられるやつクラスにいないわよ」
「マリアンヌがマリアンヌをいじめているのか……?」
ユートは混乱して目を白黒させていた。
「まあ、イジメじゃねえってなら別にいいぜ。よろしくな」
手を差し出された。握手か。
鼻で笑い、わたくしは顔を背ける。
「ちょ、ちょっと相手は王子よ? 流石に……」
「いやあ、気にするな。マリアンヌがそういう手強いやつだって言うのは分かってるさ」
リンディに小突かれるも、ユート自身があっさりと手を引っ込めた。
「だけどなマリアンヌ。まずお前だぜ。お前をこの学園での
胸張って言うことかよ……
「……マリアンヌさん、どうします? この間合いならやれます」
「何がです? 何をするつもりです?」
ユイさんが完全に据わった目でそう言ってきた。
怖い怖い怖い。
〇木の根 乙女ゲーっぽくて草
〇ミート便器 矢印がズレてんだよなあ
〇第三の性別 隣で猟犬みたいに目をぎらつかせてる人工聖女、本来の第一号はお前だよお前
「そういやマリアンヌを朝、学校まで連れてきたときには会えなかったんだが……俺の護衛がいるらしくてな」
「まあ、立場が立場ですし当然でしょうね」
ユートは周囲をキョロキョロ見渡す。
「なんでも呼べば来るとか言ってたんだが、相当に強そうな人だったぜ。学園での
「──ユート、オレならここだよ」
低い声が聞こえると同時。
教室の片隅に、いままで意図的に消されていた存在感がぶわっと噴き上がる。
そこにいたのは紅髪長身、屋内戦闘用に軽装備を着込んだ騎士だった。
「ジークフリートさん……!?」
「やあ」
〇外から来ました やあじゃないが
〇鷲アンチ お前本当はここが初登場だろうが!
「オレが彼、ユートの護衛として任命されてね。護衛対象にタメ口を要求されるのは初めてで驚いたよ。それと、今回はミレニル中隊の部下も来ている。今度紹介しよう」
ちょっと久しぶりの再会だった。
思わずわたくしはテンションが上がって、とてとてと彼の元へ駆け寄ってしまう。
「あらあら、いいですわね。特上の茶葉を用意してもてなして差し上げましょう」
「お手柔らかに頼むよ。オレもそうだが、お茶の味が分かるやつはいないものでね」
「そんなの特に期待してませんわよ、お馬鹿さん」
「手厳しいな」
薄々気づいてはいたが、この騎士、わたくしとかなり波長が合う。
こうして会話をしているだけでも楽しいのがその証拠だ。
「紹介って……騎士に、マリアンヌを紹介するんですか」
その時、ロイがやたら低い声を出した。
なんか変なこと言ったか?
「……? ああ、そのつもりだ。オレにとっては貴重な友人だからな」
「──!」
「まあそうですわね。ジークフリートさんならば、ギリ友人として認めて差し上げましょう」
「ふっ。君から認められるとは、光栄だな」
ユートがちょっと羨ましそうにジークフリートさんを見ている。
ふふん、付き合いの差ってやつだよ。
「ちょっとちょっと、いいのあれ。お互いの立場忘れてんじゃないのあれ。確かに教会の抜本的な改革は既に始まってるらしいけど」
「滅茶苦茶ムカつくね」
「そうですね。トップの教皇様こそ据え置きですけど、その……次は私って、ほとんど決まってますし。私も、ちゃんとやるつもりですし。改革派の若い聖職者さんたちが、構造を一新し始めてますよ。報告がよく来ます」
「それでも対立はそう簡単にはなくならないわ。貴族院と教会、魔法使いと騎士は、まだ相対する宿命から逃れられたわけじゃない」
「滅茶苦茶ムカつくね」
「でも……世界を変える。いいや、世界の頂点に君臨すると叫ぶためには……あれぐらいできなきゃ、だめなんですよ。きっと」
「…………かも、しれないわね」
「滅茶苦茶ムカつくね」
三人組がわたくしとジークフリートさんを見てなんか難しいこと言ってた。
まあ、関係ないか。
とりあえず騎士たちとお茶して加護のブチ抜き方考察しておこっと。毒が効くかどうかはかなりデカいからな。
「あっそうだ、ピースラウンドさん~」
「? はい」
とりあえず時間が取れそうなのはいつかとジークフリートと話しているとき。
合法ロリ先生がわたくしのすぐ傍に来て、非常にイイ笑顔を浮かべた。
「教室の無断改造について話がありますので~、放課後職員室に来てください~」
「はい……」
〇TSに一家言 残念でもないし当然
〇幼馴染スキー RTAなのに時間を無駄にしまくるプレイヤーの屑
ぐうの音も出ねえ。
ユートを転校生として迎えた最初の授業。
屋外グラウンドにて、マリアンヌたちは火属性魔法の実践講義を受けていた。
「まずは転校生。君の実力を測っておきたい」
担当講師が彼を前に呼び出す。
彼はユートの爪先から頭頂部をスッと見ると、目を細めた。
「ほう……まさしく火属性を得手とする魔法使いだな。祖国で相当に訓練を受けたと見える」
「見ただけでも分かるのか! 先生、あんたやるな!」
「言葉遣いには気をつけたまえ」
釘を刺しながらも、教師は少し開けた場所を指さした。
「二節でできる限りの規模を撃ってみなさい」
「あいよぉ! ……って、二節かあ」
詠唱を重ねれば重ねるほどに魔法の威力は増し、また複雑さも増す。
これは詠唱によって形成された、結果として発生する事象を事細かに設定できるからだ。
故に、安全地帯で詠唱できる時間があればあるほど魔法使いは有利となる。
「これはあくまで実践講義だ。そして、一年次の頃から、
視界の隅でマリアンヌが凄い勢いで頷いていた。
彼女もまた詠唱改変に関して一家言ある身だが、火属性担当講師はこの辺りが実に彼女と意見が合う。
機会があればお茶でもしながら大詠唱の切り詰めに関して討論したいとお互い思っていた。
悪役令嬢になる日はとても遠い。
「ん~~~~」
魔力を練り上げながら、ユートは目をつぶって唸り。
「ふむ。こうかい? ──
顕現するは巨大な炎の龍。
グラウンドに現れたそれは、蛇のような胴体を巻きながらも、頭部が校舎屋上に並ぶほどの巨躯を誇っていた。
全身から立ち上る熱量に、じりじりと空気が焦される。
「たった二節詠唱で『炎龍』を!?」
「五節分ぐらいの魔力を感じるぞ……!?」
数秒、クラスメイトたちが目を見開いた。
二節詠唱とは思えない威力。通常、詠唱を切り詰めれば切り詰めるほどに威力は弱まる。単純に用いる魔力量が減るのは無論、発動する魔法に不具合が生じないよう、ある程度は魔法の規模・構成そのものを削らなければならないからだ。
故に魔法使いの優劣を決める要因として、詠唱改変の技巧は大きなファクターとなる。
優秀な魔法使いは、威力の変動を最小限にしつつ詠唱を切り詰める。
しかし。
数秒目を見開いた後、クラスメイトたちは「へーすごーい」と、
(……ッ、おいおい。結構自信あったんだがな、こいつを普通に流すかい?)
その様子を観察していたユートの方が逆に面食らってしまう。
(これでも驚かないってなるとなあ。よっぽど平均レベルが高いのか、あるいは……
意識のレベルを見極める上では重要な材料だ。
静かに生徒たちの様子を観察していた、その時だった。
「──
横合いから飛来した流星に、炎龍は身体の半分以上を消し飛ばされた。
「……ッ!?」
ユートは思わず目を見開いた。
不定形であるはずの炎を穿ち、破壊するという理不尽。
炎龍が解けるようにかき消える中、ガバリと流星の飛来元へ顔を向けた。
「……暑苦しい上に見苦しい魔法。わたくしのいる場には相応しくありませんわね」
ぞわりと。
屈指の魔法使いであるはずのユートの背筋を、悪寒が走った。
──マリアンヌ・ピースラウンドが、冷え切った眼差しでこちらを見ていた。
「人にお見せできるような出来だと思いますの? ほら、花が焦げてしまいますわ」
「あ……」
炎龍がいた場所に歩み寄り、マリアンヌは花弁の半分が黒く焼け焦げた花を見下ろした。
白く細い指で、それを丁寧に摘み取り。
「美しさで終わるはずのものが、醜くなってしまうなんて……なんて哀しい」
ぐしゃりと手の中に握り潰す。
その横顔は、妖しくも美しいとユートには感じられた。
わたくしは激怒していた。
授業中にすごい魔法を使ってみんなを驚かせたの、普通に死ねよと思った。
こっちが『流星』ブッパしても全然リアクションなかったもん! またかよ……みたいな顔してたもんこいつら!
わたくしより目立つなんて許せませんわ。やはり嫌がらせを敢行しようと思います
〇適切な蟻地獄 堂々と言うことか?
〇red moon もうちょいやることある
まずは服装ですわね。短ランをわたくしも着込んで、あの男の個性を潰してやりますわ!
〇みろっく ファンの人みたいになるね……
〇火星 完全に『族』が完成するな
ならば逆! あれを没収して無個性にするというのはどうでしょう!
〇外から来ました 秩序維持側なんだよなあ
〇ミート便器 風紀委員悪役令嬢かな?
ぐぬぬ……な、ならもう……決闘でブチ殺すしか……
〇日本代表 それやれっつってんだよ!
〇無敵 最後の最後に当てずっぽうで正解選ぶカスのクイズ番組やめろ
そういうことになった。