自室にて、羊皮紙に走らせていたペンを止める。
昔から考えをまとめるときには、紙に手書きでメモするのが習慣だった。実際に身体を動かすことで、物事をより立体的に理解出来るような気がした。
さて、と一息つく。
まとめる分にはまとめ終わった。
「どうかしたんですか、マリアンヌさん」
当然のように部屋に居座り、本を読んでいたユイさんが話しかけてきた。
「ええ。ユートさんのことを考えておりました」
「……ッ!?」
よせ。そんな暗殺者みたいな目をするな。
「やはり他国の王子相手ですからね。接触は慎重にした方が良いかとは思いまして」
「……接触するんですか」
「ええ。何せわたくしも令嬢の端くれ。つくっておくべきつながりはつくっておくべきでしょう」
「…………むう」
わたくしがちゃんと理性的な口調で諭せば、ユイさんは頬を膨らませながらも頷いた。
冷静にかんがえるとこれわたくしがユイさんをなだめてるのどう考えてもおかしいだろ。こいつ主人公だよな? なんでわたくしが機嫌とってんの? ありえねえだろ。ナンセンス極まりない。
「だけど、マリアンヌさん、そういうのってできるんですか」
「そういうのとは?」
「社交界もサボってばっかだって、ロイ君とリンディさんに聞きました」
何告げ口してんねんあいつら。
どうにもこいつら、最近すっかりわたくしのことをナメてやがる節があるな。
嘆息して、わたくしはユイさんの瞳を覗き込む。
「でしたら、確認してみますか?」
「…………え?」
次の配信は五分後を予定しています。 | 上位チャット▼ 〇苦行むり 新キャラも出ていよいよ二期って感じだな 〇TSに一家言 なんだかんだ新規は減ったね 〇恒心教神祖 精鋭だけが残された感じある 〇ミート便器 まあS1のラストかなり賛否あったからね 〇外から来ました 運営側がチラつくどころか局部露出レベルで出張ってたから仕方ない 〇適切な蟻地獄 雷爺はいいやつだったよ、どうでも 〇3DSから 3DSから記念 〇red moon 3DSどうやって持ち込んだの!? 〇太郎 言い値で買う 〇みろっく このタイトルには詳しくない。この王子ってどんなキャラ? 〇火星 仮面ライダーに変身する比企谷八幡 〇日本代表 バケモンじゃねえか 〇無敵 お前の国のそこらへんにおるぞ |
【不良王子と】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA CHAPTER2【悪役令嬢】 8,449 柱が待機中 |
そういうわけでマリアンヌはユイを連れ立って、男子寮まで出かけてきた。
ユイを連れてきた理由は『ちょっと最近、アナタわたくしのこと完全にナメてますわよね? わたくし、一応貴族の令嬢ですからね? ここらで上下関係というのを叩き込んで差し上げますわ!』というもの。
「男子寮に来るのは初めてですが……入り口はどちらなのでしょうか」
「あ、こっちです。正面玄関だと入れないので、裏に回りましょう」
慣れた様子でユイが先導し始めて、マリアンヌは衝撃に数秒硬直した。
「あ、アナタ……入ったことがあるのですか……?」
「えっ? いや、あはは……ちょっと冒険してたら迷い込んでしまったことがあって……」
その時にロイ君に助けられたんですよと、ユイは朗らかに笑う。
(ふむ、なるほど。いかにも恋愛ゲームのフラグ立てってカンジだな。つーかいつの間に君づけの名前呼びになってたんだ、流石に主人公はダテじゃねえな)
本来は男子しか入れない男子寮に、ユイは卓越した身体能力であっさりと生け垣を跳び越え、マリアンヌも魔力障壁を足場にして侵入する。
ちょっとスパイごっこっぽくなってきて、マリアンヌのテンションは3上がった。
「ではユートさんを探さなければなりませんわね。男子生徒には見つからないよう、もし万が一発見された場合には迅速に気絶させましょう」
「えっ!? 隠密魔法使うんじゃないんですか!?」
このあいだリンディさんがかけてくれましたよ、とユイが驚愕の声を上げる。
「チッ……それやると本当につまらないんですわ」
「舌打ちしてる……まあ、まあ。見つかっちゃうよりはマシじゃないですか」
「ノゥ! 絶対にノゥですわ! 見つかるか見つからないかの瀬戸際が楽しいのでしょうに、わたくしはまだ小島のことを諦めておりません」
「誰??」
とまあ、こんな風に騒いでおけば、見つかるのも当然であって。
「……君たち、コソコソ何やってるんだい?」
茂みに隠れてコソコソしている二人を、上からロイが覗き込んでいた。
頬が微妙に引きつっている。それもそうだ。名家ピースラウンドの一人娘と次期聖女が、雁首揃えて不法侵入である。
「あっ。ロイ君ちょうど良かったです」
「み、見つかってしまいましたわ!?」
「これだけ騒いでたら、そりゃ気づくよ!?」
「チッ……見つかった以上はゲームオーバー、大人しく正規の手段を取りますわ」
「あのねえ、それなら最初から入り口で普通に言えば良かっただろうに……」
言いつつ、ロイはつまらなさそうな表情だった。
「で、一体どうしたんだい? まさか本当に、彼のお友達にでもなりに来たのかい?」
「それこそまさかですわ。友人などわたくしには不要と言っているでしょうに」
「友達ができない子の言い訳だね。典型的だ」
「黙らっしゃい。わたくしはできないのではなくつくらないのです」
「いざというときに孤立する、と何度も言っているんだけどね」
「孤立は孤立でも『栄光ある孤立』ですわ」
「四方を敵に囲まれることが栄光なのは流石に頷けないんだけど……」
「あら、それはアナタも敵になった状況?」
ミリオンアーク家の嫡男はダテではない。相手の言葉一つから心理を読み解き、瞬時に言葉の裏側を弾き出す。
マリアンヌは四方が敵に囲まれた状況を想定した際、最初にロイも敵になったのかと確認した。これはつまり、
更には敵に囲まれている=ロイも敵というのは、
ここにマリアンヌ・ピースラウンドとロイ・ミリオンアークの明瞭な差が窺える。
そのものズバリ、こと観察力においては、マリアンヌはロイの足下にも及ばないのだ。
「さあ……どうだろうね……」
興味なさげにしつつ、ロイは背中に回した右拳でガッツポーズしまくった。
「まあ無駄話はここまでにしておきましょう」
マリアンヌは茂みから立ち上がる。
「屋外テラスでお待ちしておりますわ。ああ、お茶もあるといいですわね。使用人の方を何名かお借りしても?」
「放っておけば勝手に来るよ」
ロイはユートを探しに寮の中へと戻っていった。
その間にマリアンヌとユイは屋外テラスへと向かう。
ロイの言葉通り、席に着くとすぐさま執事が数人やって来てお茶を淹れ始めた。
「ありがとうございます」
「良いお手並みですわ。感謝します」
「お二人からそのように言っていただけるとは」
「我々にはもったいない、ありがたき御言葉です」
執事二名が恭しく頭を下げる。
ふと見上げれば、寮の窓越しに男子生徒や執事がこちらをちらちら見ていた。知名度トップクラスの二人だ、当然のことだろう。
「アナタたちは、ミリオンアークの?」
「いえ、寮の付き人です」
「へー、全員男性なんですね。
「ふん。どうせ過去に
「あっ……」
「……ピースラウンド様。お戯れもほどほどに」
「でもそういうの、無理矢理手込めにするとかは流石に嫌な気分になってしまうのですが、ラブロマンスが生まれる可能性もありますわよね。そっちの可能性が潰れるのは残念ですわ。メイドの窮地にわざわざ王子が立ち上がって『この子は僕の恋人だ』って言うアレ。正直女視点でのトキメキは分かりませんが、男視点でのああいった助け船を出すシチュエーションは憧れがありますわ」
「ピースラウンド様? 熱でもありますか?」
確かに熱のこもった演説だった。
失礼、と咳払いして、マリアンヌは紅茶を口に運ぶ。
「おう、マリアンヌ! 俺を訪ねてくれるとはな!」
元気の良い声だ。
視線を向ければ、ロイとユートが並んでこちらに歩いてきている。
後方にて、紅髪の騎士が壁に背を預けているのが見えた。
「それで、何の用だ?」
「いえ。アナタのおっしゃる
ほう、と笑みを浮かべながらユートもテーブルに着いた。
ロイが目配せして、執事たちが新たにカップを2つ運んでくる。
「国は違えど同じ人間ですもの。アナタの根本的な考えには理解が及びます。立派だとも思いますわ」
「はっはっは! それはいいな、そこまで褒められると照れるぜ!」
「そこでせっかくですから……今まで
「……! いいね、流石だマリアンヌ。いい目の付け所だ。西にずっと行ったところの、砂漠地帯の話なんてどうだい? 心が躍るだろう?」
「まあ。それは楽しみですわね」
執事たちが茶を淹れている間に、マリアンヌとユートはすっかり盛り上がっていた。
豪放磊落なユートはともかく、相対する令嬢は、普段の破天荒さがなりを潜めたかのような、見本的な令嬢っぷりだ。
しかし。
(……違うな)
ロイは本能的に見抜いていた。
マリアンヌの所作は確かに礼儀正しく、相手と交流する上で適した代物だ。
だが違う。いわゆる一般的な、社交界における礼儀正しさとは微妙に違う。
(交流する気がない。相手がどうこう、自分がどうこうっていう話にほとんど興味がない。貴族同士の交流は、相手がどんなカードを持っているかの確認。そして意図的に自分の手持ちのカードを見せて、友好関係を結ぶかどうかの価値判断を迫ること。だけどマリアンヌは……それすらどうでもいいと思ってる)
ユートが次々に繰り出す異国の話。
実に愉快な話だった。実際にユイは目を輝かせて聞き入っている。
だがマリアンヌは違った──確かに話を聞き、要点を押さえた質問をし、絶妙なタイミングで続きを促す。
半日後にどんな話だったかを聞いても、きっと明瞭な答えが返ってくるだろう。
だがそれだけだ。
頭に入れていても、心はまるで動いていない。
その微細な差は、幼馴染であるロイにしか見抜けないものだった。
(自分も他人もどうでもいい。本来の価値基準はこんなくだらない世間話では測れない。その分、相手に話をさせ続けるだけに終始する。……成程。社交界をサボっているのは彼女なりの判断だったかもな。これじゃあ
相手に気持ち良く話をさせる、との一点だけに特化した話術。
平時の彼女とはまるで逆だというのに、それは洗練されきった、何十年も磨き上げ続けてきたかのような技術だった。
「それにしてもマリアンヌ、乗馬は初めてだったのか? ありゃとんでもない暴れ馬だったが」
「まさか。共に育った愛馬でしたわ。ただ、鎧を着けてみたところ、随分興奮しまして」
「なんで鎧を着けたんだ……」
「どうしても必要だったのです。まだ、まだここからですわ。マリアンヌ・ピースラウンドはここからが強い……!」
「ふぅん、成程な。ウチの国じゃ、最近は馬じゃなくて、馬を再現した機械絡繰が造られてるからなー。まだ庶民にゃ出回ってねーけど、俺はすっかりそっちに……おいどうした、マリアンヌ。すげえ目になってるぜ。親の仇でも見つけたみたいな目だ」
「いえ。いえ。その機械絡繰……大変興味がありますわ。今から、ひとっ走りいかがですか?」
「俺は大歓迎だぜ! だが、あの馬は大丈夫なのかよ……?」
「問題ありませんわ。今度こそ乗りこなしてみせましょう」
気づけば話は、マリアンヌとユートがこれからツーリングをするという方向でまとまっていた。
「大丈夫なんでしょうか、今朝結構ひどかったですよね」
「ああうん……でも、ヴァリアントがあそこまで暴れるのは、僕も初めて見たから。流石に落ち着いてくれているんじゃないかな」
席を立ち、校舎敷地外苑へと向かう間。
マリアンヌの両眼が恐ろしいほど据わっていることには、誰も気づかなかった。
〇木の根 なんかメッチャ仲良くなってたな
〇みろっく 普通にツーリング始まることになってて草
〇ミート便器 どうやって決闘に持ち込むんだよ
バイク……バイク……バイクほしい……
〇火星 !?
〇red moon 草
〇第三の性別 自我失ってるじゃん
あの人、バイク、持ってるそうですわね
〇適切な蟻地獄 バイクを手に入れられない哀しきモンスターちゃん
別に持ち主さえいなくなればどうとでもできますわ
例えば、破損が激しく処分したと言えばいい
例えば、発見できなかったと言いつつ崖下に保管しておけばいい
〇太郎 は?
〇みろっく 待って、ちょっと待って
〇TSに一家言 怖い怖い怖い怖い
バイク……バイクぅぅぅ……!!! ブォォォォォォォオン!!
〇無敵 お前がバイクになってどうする
〇木の根 RTAっていうかPOVじゃねえかこれ!