TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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PART17 避けられぬ贖い(後編)

 ジンがその正体を現し、リョウが一人になり、マリアがいなくなった直後。

 

『…………っ!?』

 

 地下階層で何かが起きた、と地上の大聖堂で戦闘している面々は嫌でも分かった。

 騎士の加護とリョウ一味の加護が、同時に消え去ったのだ。

 

「隊長!」

「なんだ、どうした!?」

「我々の加護が消失しました! これは……!?」

 

 な、とジークフリートは部下の報告に絶句した。

 無際限に湧いて出る天使の殲滅に集中していたが、周囲を見渡せば確かに騎士やリョウ一味が、狼狽しながら陣形をいったん崩して後退している。

 

(まずいなそれ……ッ! 一気に崩れるぞ!)

 

 ユートの頬を冷や汗が伝った。

 変わらぬ戦闘能力を有しているのは、もとより加護を授かっていないロイとユート。

 そしてジークフリートや大隊長といった、加護を自分自身のものとして完全に制御している一部の騎士だけだ。

 しかし。

 

「各員、()()()()()()! スリーマンセルで行動しろ! 孤立は絶対に避けるように!」

 

 大隊長ゴルドリーフの号令を受けて、騎士たちは一つ頷くと剣を構えなおした。

 

「な……退かせないんですか!?」

「ミリオンアーク君、だったかい? シュテルトラインの騎士は加護が消えた程度じゃァ、絶対に屈しないんだよねェ~」

 

 淡々と語る大隊長チェルグラスは、いつの間にか葉巻をくわえていた。

 

「……チェルグラス卿、大聖堂は流石に禁煙だと思いますよ」

「おっとォ、ここで真面目な指摘が飛んでくると言い返せないねェ~……でも待ってくれよミリオンアーク君、この大聖堂ってのは敬虔なる者のための場所だろォ~? 今は敬虔じゃない連中ばっかりだ! つまり大聖堂じゃないんだよ、今ここはさァ~」

 

 とんでもない屁理屈が飛び出てきて、ロイは流石に閉口した。

 ガハハと笑って誤魔化そうとするチェルグラスだったが、彼の葉巻の先端がジュッと音を立てて消し飛ぶ。

 隣で戦っていたゴルドリーフの斬撃だ。

 

「敬虔でなき者のためにもこの大聖堂は存在する。大隊長なのだから、それぐらい分かっているだろう。でなければ私も貴様も入れん」

「ハッハッハ……アレェ~? ゴルドリーフ君? ちょっと今、自分ごと私まで悪しざまに言わなかったかィ?」

 

 大隊長の3分の2が敬虔でないのなら大問題なんだが、と聞いている一同は頬をひきつらせた。

 

「ともかく……我々の負担が増えることに変わりはないが、過剰に援護する必要もない」

 

 ジークフリートの低い呟きに、ロイたちは頷く。

 シュテルトライン王立騎士団に所属する以上、最大の武器は確かに加護だ。

 しかし加護がなければ戦えないなど、騎士の名折れにもほどがある。

 

「あらあら、向こうがこれだけ気合入ってるのなら……こっちも頑張らないとねえ」

 

 加護を失いながらも天使相手に奮戦する騎士たちの姿を見て、ハーゲスが肩をすくめた。

 リョウ一味は本当に加護頼りの勢力であったため、戦闘力は喪失したといっていいはずだが──

 

舞い踊れ(romancia)羽根持つ者たち(guardian)聖なる泉の傍で(spring)驚きを齎すもの(magician)

 

 ハーゲスが発動した四節詠唱風魔法『疾風響』が、本体には作用せずとも聖堂の床板を剥がす形で強引に天使たちを吹き飛ばした。

 聖堂の長椅子を振り回して天使を遠ざけていたデンドーがギョッとする。

 

「ハーゲス、お前魔法使えたのか!?」

「いいオンナには秘密があるのよ」

 

 唇に指を当ててハーゲスが片目をつむる。

 子供たち殺すのに使って以来だから調子でないんだけどね、とは口にはしなかった。

 

「しかし加護が消失したというのは、一体どういう──」

「我々の加護は教皇様から授かったものだ。教皇様に何かあったのか、あるいは」

 

 ロイの疑問に答えながら、ジークフリートは地下深くへと続く大穴を見た。

 

「タガハラ嬢の身に何かがあった、かだ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 先天的に生まれ持ったもの。

 後天的に掴みとったもの。

 人間が有する能力はこの二つに大別される。

 

 その中でも先天的に生まれ持つ──俗に才能と呼ばれる──ものは、どうあがいても生まれた瞬間にすべてが決定づけられており、人の手では左右できないものと認識されている。

 卓越したセンスを持つ者とそうでない者の間に横たわる厳然たる差は、血のにじむような努力の末でしか埋められないと。

 

 だがもしも、その領域を人為的に操作できたのなら──と、誰もが一度は夢想する。

 母の胎から産み落とされるよりも前に、その子供に()()()()()()()()を施すことで才能を与えられたら、様々な問題が解決されると期待する。

 

 例えばそれは、人類の進歩と呼ばれた。

 例えばそれは、神への挑戦と呼ばれた。

 

 

 或いはそれは、生命への重篤な冒涜と呼ばれた。

 

 

「教皇、または聖女……シュテルトラインの教会の頂点に立つ者は代々、他者へと加護を与える権能を有していました。これは初代聖女であるユキ様がそうであったからです」

 

 ユイの頭を押さえつけた姿勢で、ジンは滔々と語る。

 

「もう知っていますよね? 『七聖使(ウルスラグナ)』という人類を守護するための七つの聖なる権能……その中の一席が、代々教皇が発現させる『大和(ヤマト)』と呼ばれるものでした」

 

 知っている。

 既にユイは『七聖使』と接触はおろか、交戦経験もある。

 そして恐らく自分がその覚醒者であることも分かっている。

 

「これが大変に見えて意外と合理的でして。歴代の『大和』覚醒者はその神秘から、各所に配置した教会の神父が見出せますし、場合によっては神託を受けたとして自主的に教会に来てくれます。そうして本部にて善なる人間として、情を失わず、機械にならず、人々のために力を使う人間になれるよう教育を施して……とまあ、身をもって知っていますかね、君なら」

 

 口調は優しかった。

 まさしく、教本の内容を噛み砕いて教えてくれる、先生そのものだった。

 

「ただ……『大和』を用いて騎士団という一つの勢力を作るのは、初代覚醒者であるユキ様が考案された使い方でして、()()()()()()()()()()。私はそれが引っかかっていました」

 

 だから私は『大和』が欲しかったんです、とジンは語った。

 

「なんで……そんなに、詳しいんですか……」

「無刀流はユキ様が考案された流派です。代々の宗家と同様、現宗家たる私は、教会最上層部に属していたんです」

 

 そう言って、ジンはユイの頭から手を離した。

 

「…………私は、作られたんですか」

「我々最上層部は歴代教皇の人生を見守り続け、ある教訓を得ました──これは人間に任せるには余りにも酷だと」

 

 現教皇がそうであったように、『大和』は余りに多くの使い道を有しており、それ故に多くの義務が生じている。

 人類の繁栄に致命的な損害を与えるような事件は、事前に察知することで防ぐか被害を最小限に留めなければならない。

 人と人の絆を収束させて力にするという戦闘用の権能が、いつの間にか人と人の絆を操作する支配的な能力になり果てていった。

 

「であるならば、そのためにイチから人間を作ってみるのはどうか、とある者が提案しました。私の先々代宗家は猛反対しましたが、計画はひそかに進められており……私の代で成功し、君が生まれました」

 

 生命の尊厳を踏みにじって生み出された存在。

 効率化のためだけに製造された人間ではない何か。

 それが、ユイ・タガハラだった。

 

「……私が、生まれた意味は」

「犠牲になるためです。それが許せなかったから、私は計画に関わっていた面々を壊滅させた後に教会を出奔し、君を孤児院へと預けました……来る日に君を迎え入れるために」

 

 君の人生はすべて私が仕組んでいました、という堂々たる自白だった。

 もうユイには起き上がる気力すらなかった。

 

「だったら……あなたは、私に、なにをさせようと……」

「本来ならば、君が教皇になるのを阻止したかったのですよ。自然の摂理に反する形で生まれた君を、私は純粋な殺戮マシーンとして運用したかった……人間じゃない存在に教皇をやらせるなど論外ですが、それではせっかく作られた君の存在がもったいない。人間でないにしろ命ではあるので、有意義に使い潰そうかなと」

 

 だが、ユイは『大和』に選ばれた。

 ジンにとっては余りにも早すぎる覚醒だった。故に彼がかりそめの場所として作ったカルト教団は壊滅させられた。

 

「私は本当は……ただそれだけだったんです。ですが驚くべきことに、適当に作ったカルト教団には、リョウという『大和』の第二候補がいた。それで思いついたんです、君たちをいつか来るべき時期に激突させれば、『大和』を奪えるんじゃないかと」

「……あなた、は……」

()()()()()()()()()()()? 私が『大和』の権能を手に入れたら、シュテルトラインを滅ぼせるんじゃないかなと。一度きりの人生ですし、試してみたいんですよねぇ」

 

 思い付き──その場のひらめき。

 そんな簡単な理由で、ジンは二人の姉弟の人生を致命的に狂わせた。

 多くの子供たちを犠牲にして血の海を作り、自分の強さを突き詰めようとした。

 

「どうでしたか。学校に通って、友達を作って、人間ごっこをしていたようですが。生きていたいと思いましたか?」

「…………」

 

 ユイは、こくりと頷いた。

 生きていたい。ただ他の人と同じように、自分も色づいた世界で生きて、彼女と同じものを見たい。

 その気持ちに嘘偽りはない。

 

「『大和』の権能は完全に私の手中に収まりました。すべての加護を切って、全リソースを私に回しています。つまり私の目的は達成できました。君はもうお役御免なのですが……」

 

 そこで言葉を切って、ジンは膝をついてユイの顔を見つめる。

 

「放っておけば仲間たちが迎えに来てくれますよ。聖女の資格を失った、人間モドキの殺戮マシーンとしてしか価値のない君を。でも、今は……お友達と会うのは嫌ですか?」

 

 ユイは──こくりと、頷いてしまった。

 自分の存在を許せる理由を失ってしまった。

 みんなと一緒に過ごした時間が、根底から崩された。

 

(私はみんなに受け入れてもらえたと、思っていた。でも私もみんなも……知らなかったからだ。造られた命だなんて、分かってなかったから……)

 

 正しく生きていたいと思った。

 正しさのために拳を振るう彼女の背中を見たから。

 正しさを気高く謳い上げる彼女の瞳を見たから。

 

(でも私は──生まれてきたことが、正しくなかった)

 

 愕然とする思いだった。

 今まで積み重ねてきたもの、築き上げてきたものが全部崩れていった。

 

「そうですか」

 

 痛ましそうに表情を歪めて、ジンは首を横に振る。

 

「残念です。教え子を手にかけるのは本意ではないのですが……」

 

 その右手が貫手の形をとった。

 無刀流一ノ型、基本中の基本。

 

「本人の望む先へと旅立たせてあげるのも、教育の一つの形ですね」

 

 一歩踏み出した。殺害可能距離。

 腕を振り上げた。ユイは目をつむることすらせず、ただ結果を受け入れた。

 

 

(……?)

 

 

 来ない。結果が訪れない。

 光を失った瞳で、ユイはぼんやりとジンを見上げた。

 どうして殺してくれないんだろうとすら思った。

 

「……ッ!?」

 

 ジンの腕を、目に見えない何かが固定していた。

 見渡せば禁呪を弾くはずの天使たちすら、動きをギシリと止められている。

 

「これは、何かが空間そのものに作用している!? 誰ですか!?」

 

 ジンには分からない。

 分子運動を操る権能は、空間の分子を凝固させることであらゆる運動を遮断する。

 とはいえ改めて出力を引き上げれば難なく突破できるだろう。

 だが、それよりも先、一手分遅れた時間を縫って。

 

 

 

「アーマードコアⅧはどこですかああああああっ!!」

 

 

 

 太古の聖堂の壁が吹き飛ばされ、すぐそばにいた天使たちを吹っ飛ばした。

 

「世界観は!? 地続きですか!? また変な緑色の環境破壊粒子出てきますか!? いやもう出てこなくてもいいし出てきてもいいんですけど! わたくしは早くイレギュラーになりたいだけなんですけども!!」

 

 地下階層そのものを揺らす激しい衝撃と共に砂煙が吹き上がる。

 

「フーッ、フーッ……チッ。今の感覚、道を舗装してもらいましたか。リインの戦闘力を予想より数段階引き上げないといけませんわね……あいつ一人ですることないからずっと見えない形で特訓してるんですかね? リイン陰キャ過ぎワロタですわね。リイン陰キャ過ぎると話題に」

 

 ぶつぶつと何かを呟きながら。

 それまでおさげの形で束ねていた髪をいつものスタイルに戻して。

 深紅の両眼に星々の輝きを宿して。

 

「で──久しぶりですわね先生。かわいいかわいいマリアちゃんが、アナタの野望を全部ぶっ壊しにやって来ましたわよ?」

 

 砂煙が切り裂かれる。

 ユイが目を見開き、ジンが苦い表情を浮かべる。

 

 

 マリアンヌ・ピースラウンドが、瓦礫を蹴り飛ばしながら、神秘の聖堂へと踏み込んできた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ったく、これっきりだからんな」

 

 地下深くの太古の聖堂から少し離れた区画。

 悪魔憑きを匿う秘密の部屋の中で、女が呟く。

 

「この距離ならギリ届いて良かったよ。稼げるのは一手分だが十分だろ? 大遅刻した分はちゃんと活躍して払えよアホが」

 

 ()()()激震(クエイク)』の禁呪保有者がせせら笑う。

 

「ま、聞くに堪えない内容だったしな。指導者のツラして子供を利用するクズは、悪魔に引っぱたかれて地獄行きって相場が決まってるんだぜ? ……今回は悪魔より悪魔らしい女だけどな」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 久々に動かす体は、なんかめっちゃエイムがあったまっていた。

 一挙一動で神秘が炸裂するもんだから出力の調整が逆に難しい。

 記憶に混乱しまくっている面もあるが、今は置いておこう。大聖堂での融合召喚とか絶対にもう一度やりたいし。あれわたくしだけどわたくしじゃない状態でやってるのズル過ぎるだろ……!

 

「マリア……」

「さっきまではそうでしたが。今はマリアンヌ・ピースラウンドですわ」

 

 先生と、そのすぐそばで地面に這いつくばっている血まみれのユイさんが目を見開く。

 ……あ? 何してんだお前殺すぞ。

 

堕ちろ(fall)

 

 単節詠唱の流星を先生に向かって放つ。

 直撃の寸前、魔力の弾丸は割り込んだよく分からんクリーチャーに防がれた。

 うじゃうじゃと気色悪い。頭の上にわっかあるし天使なのかな。この世界の天使気持ち悪すぎだろ!

 

「そうか。記憶を取り戻したんですね」

「マリアンヌ、さん……」

「色々と言いたいことはありますが……まず、ユイさんから離れてもらえますか?」

 

 感情に呼応して、わたくしの身体から過剰魔力が放たれる。

 薄気味悪いノッポの天使たちが、行く手を遮るように複数立ち塞がった。

 

「……彼女たちはエテメンアンキから転送された素材で構築しています。君の力がいかに強大であっても、禁呪を元としている限り通用しませんよ」

 

 へえ、なるほど。

 だから外殻に弾かれたのか? 禁呪が通らないようになんかの性質を後付けしてあるってことか。

 いやそれにしては通らなさ過ぎるな……そもそもそういう性質を持った材質っぽい。

 存在理由そのものが禁呪に対するメタである七聖使(ウルスラグナ)なんて連中もいるぐらいだし、どっかでそういう材質が生成されていても不思議じゃないか。

 

 つか何がどうなってんの?

 リョウはどこ? 先生が何で出張ってんの?

 詳細キボンヌ。

 

 

日本代表 さっき言ったじゃん!さっき言ったじゃん!

つっきー ユイが『大和(ヤマト)』の覚醒者でリョウが覚醒者の第二候補ぐらいだったけどその子をそそのかしてた先生が権限奪い取ってやりたい放題してるんだよね、止めないと王国ぶっ壊れるから倒してくれ

日本代表 ハァ……?おま、さっき私がおまっ……お前お前お前ェェェ────ッ!!

 

 

 情報㌧クス。

 

「じゃあ試してみましょうか」

 

 告げて、自分の内側で怒り狂っている力のうち三つを選別する。

 あの時──体育祭の最後で、わたくしは三体の宇宙人間たちの権能を混ぜて行使した。

 マリアとして活動していた時──聖堂内の戦闘で、わたくしは三体の宇宙人間たちを現実世界に転写した上で融合させた。

 

 なるほどな、と思った。体育祭の時はやり方を間違えていたのだ。

 この複合形態は、もっとわたくしの思い通りにやっていいのだ。

 ならば!

 

「サジタリウスさん!」

 

 キモイ天使が突っ込んでくるのを、瓦礫の山を蹴り上げてかわす。

 

「アクアリウスさん!」

 

 放たれた光の矢を、壁を蹴り回避。

 

「ジェミニさん!」

 

 着地地点で光の矢を片手に待ち構えていた天使を殴り飛ばす。

 

 

「全てを焼き尽くす暴力、お借りしますわ!」

 

 

 左手で天井を指さして叫ぶと同時、わたくしの全身に神秘の輝きが着装される。

 胸から右肩までを覆う銀河の鎧と同時に、右腕を覆う形で複合ユニットが接続。

 その複合ユニットが自動的に稼働し、計6つの砲門を形成した。

 

「この狭い空間で砲撃戦を? 正気かい……?」

「ハッ、アナタじゃ分からないでしょうね」

 

 先生の言葉を鼻で笑い飛ばす。

 6つの砲門へと魔力が充填されると同時、先端からジェットバーナーのように凝固魔力が噴き出し、刃となって固定される。

 固着が安定化したのを見計らって、6本の刃が筒を描くように円状へ再配置された。

 

「……マリア。なんですか、それは」

「不明なユニットですわ」

「分かってないんですか!?」

 

 あんまし。

 わたくしは右腕をぞんざいに振るった。それだけで、周囲に展開されていた天使たちが外殻を溶断されて消し飛んだ。

 

「は……?」

「こういうのは火力のゴリ押しが一番ですわね!」

 

 地面を蹴って駆け抜け、機械的にこちらを迎え撃とうとする天使たちを次々に消し飛ばしていく。 

 

「サジタリウスさんの圧倒的な火力を、アクアリウスさんの力で凝固ブレードとして出力! それをジェミニさんの力で複製! これがわたくし流のオーバードウェポンですわ!!」

 

 圧倒的に選ばれた者、つまりわたくしみたいな存在はなァ!

 せこせことメタを積んでくる雑魚共をメタ無視して全部破壊する瞬間が一番気持ちいいんだよなァ!!

 

「……これほどまでとは。流石は十三領域に接続できるだけのことはありますね」

「ぐだぐだ言ってんじゃありません! 人を導くための役職を振りかざして子供を追い詰めるカスは、お星さまに蹴られて星座になるのがオチですわ!」

 

 ……いや星座になったら光栄か? じゃあダメじゃね?

 まあいいか。汚い輝き方をしていても、人はみんな夜空に煌めく星だからな。

 

「ということで、どきなさい」

 

 ブレードを回転させながら先生に告げる。

 

「嫌だと言っ──」

「じゃあ失せなさい」

 

 地面を蹴り上げて跳躍し、ユイさんに当たらないよう頭上から先生めがけてブレードを叩き込む。

 先生の身体がブレて、わたくしの一撃が聖堂の床を粉砕する。

 

「乱暴ですね……」

 

 先生の姿は聖像のすぐそばにあった。どうやって移動したんだよ全然見えん。

 まあ今はどうでもいいか。

 

「ユイさん」

 

 わたくしはしゃがみこむと(複合ユニットが邪魔過ぎる)、ユイさんの肩に手を置く。

 余りにも華奢な体だった。一つ息を吐いて、治癒魔法をありったけ叩き込む。

 

「ユイさん? 大丈夫ですか?」

「……ぅ、ぁ」

 

 血を流し過ぎたのか? 返事が不明瞭だ。

 

「ユイさん、ただいまです。お帰りなさいはまだですか?」

「さわらないで、ください……」

「────」

 

 なんか好感度が下限割ってた。

 普通に死にたくなった。死のう……

 

「わ、たし、ばけもの、だから」

「えっ、あ、わたくしが何かしたわけじゃないんですね」

 

 ていうか化け物なのは今更だろ。おかしいんだよ戦闘力が。

 チラリと先生を見れば、彼は肩をすくめて苦笑していた。余裕たっぷりである。ブチ殺してえ。

 ギリギリと奥歯を食いしばっている間にも、俯いたユイさんが、うつろな表情で言葉を続ける。

 

「私は、聖女になるために生み出された存在、だって……」

「……?」

「教育を受けたとか、そういう問題じゃなくって……! わたし、人工的に作られて、人間じゃないって……!」

「…………?」

「私、最初から、いちゃいけなかった! みんなと一緒に過ごす資格なんて、なかった……!」

「……………………??」

 

 顔を覆って、ユイさんはワッと泣き出した。

 え、今更何?

 

 

社長 (ピロロロロロ…アイガッタビリィー)

日本代表 うるせえ!

適切な蟻地獄 これキャンセル効くんだ

ケーキ それ以上言うな!

red moon 本当にそれ以上言わなくなっちゃったよ

後光 ニャメロー!

外から来ました 何を止めるんですかね……

社長 アハァー…♡

つっきー 中途半端に続いてて草

遠矢あてお ただ興奮してるだけの人じゃん

 

 

 あっそっかそれって本人すら知らないんだっけ!?

 うわやべえ既出知識だと思ってた! そっかわたくし知識チートしてたわ!

 

「あー、その、えっとですねえ……」

「……軽蔑、しますよね」

「ああいえその、わたくし、知ってたというか、なんとなくそういう感じなんだろうなーとは思っていたというか……」

 

 まさか神様から聞いてましたとは言えない。

 普通に頭がおかしいやつ扱いされてしまう。

 

「……ぇ」

「ショックを受ける気持ちは分かりますが、わたくしにとってはどうでもいいです。だから何ですか? アナタが人間だろうとそうじゃなかろうとわたくしの友達でしょう?」

 

 ていうかこれアレじゃん。主人公あるあるのイベントじゃん。出自を明かされて心が折れるやつだ。

 だからまあ、放っておけば立ち直るんだろうけど……でも、友達がそうなってるのを見過ごすのは、主人公とかそういうの抜きにしてナシでしょ。

 それにユイさんはいずれわたくしを追放する主人公だからこんなところで心が折れてもらっては困る、という理由もある。

 

「……うれしい、です。でも、もういいんです……むしろ今、最後の最後に、本当に恵まれてます。だって私、死ぬのなら、あなたの隣がいいって……」

 

 ユイさんの呟きに、首を横に振る。

 

「いいえユイさん。今は死ぬ時ではありません」

 

 ステンドグラスから光が差すことはない。

 でも簡単に差す光はきっと、大事なものを照らしてくれない。

 

「……まだ、頑張らないとだめですか?」

「ええ。それが生きるということですから」

 

 光の届かない地下空間だとしても。

 雲に覆われた夜空の向こう側では、変わらず星が輝いているのと同じだから。

 

「でも今はちょっと休んでおきなさい。友達のわたくしが、アナタの代わりに頑張ってきますわ」

 

 告げて、立ち上がる。

 わたくしは複合形態──え、何? 体内宇宙(トリニティ)複合顕現(レヴォリュート)参式(・ドライ)? の出力を上げる。

 エーテル仮定領域を通したのだろう、宇宙人間のうち一体が教えてくれた。だからエーテル仮定領域って何だよ。知らない単語が勝手に頭の中に出て来るの本当に怖いんだよ。

 

「色々とユイさんに吹き込んだみたいですわね」

 

 怒りのあまり声が震えた。

 にらみつけると、先生はぱちぱちと手を叩く。

 

「流石マリア……リョウのために色々と頑張ってくれたのは、君の本質ですね。そのリョウもそろそろ来るでしょう」

「彼を起点にしてわたくしを説得するのは無理です。わたくしはユイさんの友達ですから」

「……っ」

 

 がしがしと頭をかいて、先生は深く溜息を吐く。

 

「どう考えても、ユイ・タガハラの存在は間違っているでしょう」

「アナタにそれを決める権利はない。死になさい」

「君のように生まれ持った強さを持つ存在ならば分かる。だが人為的に生み出された管理者など、一例を許した瞬間に社会が崩れますよ」

「倫理を語っているという顔を止めなさい。死になさい」

「全然話が通じないですね」

「アナタがワケ分かんない鳴き声しか口にしていないのですわ。死になさい」

 

 言い分はまったくかみ合わない。

 てか先生の言葉、正直一ミリも聞いてない。聞く価値ないもん。

 

「だったら……戦うしかないですか」

「そうなりますわね。得意でしょう?」

「苦手ですよ。得意なのは殺しです」

 

 先生が何かの合図をしたわけでもないのに、不気味な天使たちがぞろぞろと出てきて、わたくしを取り囲んだ。

 冷静な戦闘用思考回路は、この数を相手取ると先にガス欠が起きると告げている。

 参式は確かに強大な出力を有しているが、今のわたくしが引っ張ってこれるリソースは無限ではない。確実に消耗戦の末にこちらが敗北すると分析ができている。それだけ、この天使たちの性質が、禁呪保有者殺しとして厄介なのだ。

 

 だからどうした。

 雑魚をいくら並べても結果は変わらねえ。勝つのはわたくしだ。

 何故ならこの陰険クソメガネの歯を全部へし折って王都中に晒さなきゃ気が済まねえからだ。

 

「アナタは罪を贖わなくてはいけませんわ」

「……罪、ですか。確かに、多くの罪を犯してきました」

「そっちの†血塗られた過去†みたいなどうでもいい方は知りません。チラ裏にでも書いておいてください」

 

 は? と先生が間抜けな声を上げる。

 

「アナタの罪は単純明快にして唯一無二です」

 

 右腕のユニットが、わたくしの意思に呼応して蠢動する。

 目の前のカスを全否定しろと叫んでいる。

 わたくしは左の拳を胸の前に持ち上げると、ゴキリと鳴らした。

 

 

「わたくしの友達を泣かせたという罪! 五億回死んでも贖えませんわよ!」

 

 

 贖いの話の時間だ! コラァ!

 

 

 











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