TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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PART18 輝けるものたち

 超大型魔力ブレードを振り回して、マリアンヌが天使の軍勢を薙ぎ払う。

 神代の戦いのような光景を、瓦礫に背を預けて座り込みながら、ユイは呆然と眺めていた。

 

(かえって、きてくれた……)

 

 そしてまた自分を肯定してくれた。

 

(いつもそうだ。私はこの人に背を押されて頑張ってきた。いや……背を押されなきゃ、頑張れなかったのかもしれない……)

 

 今の自分は度重なる傷のせいで、ロクに動くこともできない。

 もしも聖女としての力──すなわち『大和(ヤマト)』の権能──があれば、加護を重ねがけして無理矢理に体を動かせたかもしれないが、それはもう失われた。

 自分に殺人技巧を叩きこんだ最悪の恩師、ジン・ムラサメに奪われてしまった。

 

「……っ?」

 

 絶理の戦闘はその余波だけで瓦礫を消し飛ばす。

 逃れるべく身動きをしようとした時、ふと背後に気配を感じた。

 

「姉さん、生きてるみたいだな」

「リョウ……」

 

 闇の中からぬうと姿を現したのは、同門であり、ジンに利用されていた弟分。

 

「マリアは……」

「必殺・悪役令嬢デロリアン轢き逃げパァァ────ンチッッ!!」

 

 彼の言葉を遮るようにして、爆音と共に魔力凝固ブレードが天使たちを焼き潰し、消滅させた。

 マリアンヌが駆け抜けた後には天使の姿は跡形もなくなっており、融解した床が残されるばかりだ。

 

「轢き逃げとパンチは両立しねえだろ……」

 

 意味不明な叫びと共に暴れまわるマリアンヌを見て、リョウは少しまぶしそうに目を細めた。

 

「これが本当の姿、姉さんがよく知るマリアンヌ・ピースラウンドか。似ても似つかないじゃんか、はは……」

「…………」

 

 彼も自分と同様に、権能をジンに奪われたのだと見て分かった。

 気ままにジンが書き上げた戯曲は、それまでの主役であったはずの自分たちを、何の予兆も躊躇もなく舞台から引きずり下ろしてしまったのだ。

 

「……今更、何をしに来たんですか。もう私たちにできることなんて」

「ユイ・タガハラを殺しに来た」

 

 あっけらかんと言い放たれ、ユイは数秒硬直した。

 

「戦闘者としてのユイ・タガハラには今日で死んでもらう。手足の筋を切って、内臓をいくつか潰して……一生戦えないようにする」

 

 淡々と告げられた内容に呆然としながらも、一方でユイは不思議なほど冷静に受け止めていた。

 

「そう、ですか。リョウは……もう、私を倒さなきゃ、前に進めないんですね」

「ああそうだ。俺はもう……あんたを倒すために走ってきた以上、走るのをやめるわけにはいかない」

 

 覚悟の言葉に、ユイは頷いた。

 

(私も……戦わないといけない)

 

 軋む体に鞭を打ち、歯を食いしばって痛みをこらえる。

 

(聖女としての力は、もう、ない。それでも……!)

 

 もうユイ・タガハラではない。

 教会に拾われた理由である聖女としての加護はない。

 加護があったからこそ通えていた学校も、この戦いが終われば追い出されるかもしれない。

 

 それでも、彼女は戦う道を選ぶ。

 ()()()()()が立ち上がるその雄々しいさまを見て──リョウがその双眸に、激憤の焔を宿した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ハァーッ、ハァーッ……!」

 

 わたくしの目の前で、レーザーブレードで上半身を焼きつぶされた天使が、ゆっくりと崩れ落ちる。

 撃破ペースは落ちていないが、消耗度合いが今までになく激しい。

 

 

つっきー えこれ何?

苦行むり 予想なんだけど、使っちゃいけない力かなあ

 

 

 コメント欄の神様たちは参式にビビっていた。

 その割にはキルスコアが伸びないんだけどおかしくない? 新キャラの性能低いとみんなちょっとがっかりするよ? ちゃんとインフレさせてくれ。

 

「意識を逸らしましたね?」

「……っ!」

 

 天使たちの合間を縫うようにして先生が迫る。回避が間に合わない!

 とっさに防御壁を十枚展開した直後、先生の手が優しく添えられた。

 

「絶・破」

 

 防御壁十枚が跡形もなく消し飛ばされた。

 貫通した威力を受けて、複合ユニットが軋む。

 

「ぐうううっ……!」

 

 レーザーブレードを振り回すが、既に先生の姿はそこにはない。

 代わりに天使の軍勢が視界を埋める。

 厄介だな、固い天使の軍勢に紛れて即死魔法みてえな攻撃を叩きこんで来る奴がいるのか。

 

「この天使たち、エテメンアンキから転送された素材とか言ってましたが、どういう理屈で禁呪を弾いているのですか?」

「禁呪を根幹から否定している……とでもいうべきでしょうか」

 

 説明になってねーよ。

 声が反響してどこにいるのかを探れない。ヒットアンドアウェイのお手本みたいな進め方をされているな。

 

「丸ごと焼き潰してみましたが、中身に手応えがないというか……これ外殻が厄介なのは確かなのですが、()()()()()()()なんじゃないですか?」

「その通りです。転送された外殻で包んでいるものこそが、『大和』の力ですよ」

 

 ……なるほど。

 確かに、あれだけの数の騎士たちを仕立て上げるには莫大なリソースが必要だろう。

 で、それを人型に練り上げて戦闘用の人形にしているってわけか。

 

「そしてこういうこともできるようですね」

「まだ何かあるのですか……」

「手に入れたばかりの力なので、まだ手探りなんですよ。精度が低いのはご容赦を」

 

 先生がくいと指を曲げると、新たな天使たちが姿を現した。

 今までの連中とは違い、出現した段階ですでに光の槍と大きな盾を手に持ち、背中に三対の黒い翼を背負っている。

 

 

第三の性別 明らかにパーツ付け足して差分にしただけの上級種じゃねーか!

トンボハンター ダンジョンRPGかよ

無敵 ダンジョンRPGをナメるな

 

 

「『大和』から分け与えられた権能を自分で育てることによって、騎士団のエースたちは絶大な力を保持しています。ですが……与える先を絞れば、育てる必要などなく、彼らを凌駕する存在を作れると思ったんです。想定よりはマシな出来ですね」

 

 先生が説明している間にも、同様の上位天使が次々に出現し、わたくしを取り囲む。

 流石に頬を冷や汗が伝った。存在感が今までとは桁違いだ。

 これ全部大隊長クラスか……ちょっとキツ過ぎ。帰っていいか?

 

「工夫を織り込んだりせず、素直に権能を使うのですね。今まで戦ってきた敵の中でも、一番シンプルに力を行使している気がしますわ」

 

 向こうの攻勢が始まる前に、ふと思った疑問をぶつけた。

 他の連中は変に捻ったことをしてきたから、逆にそこを崩せば勝てた。

 でもこの人は……先生は、なんか違う。仕掛けがシンプル過ぎてやりにくい。

 

「いやあ、少し情けない話になるんですが」

 

 面目なさそうに先生が頭をかく。

 

「例えば大隊長クラスが使う『摂理』……ああいう複雑な力、向いていないんですよ。拳を振るって相手を殺すことばかりしてきたものでして」

 

 ……やっぱりそうだ。この人、戦闘用(タクティカル)思考回路(シンキング)がわたくしにめちゃくちゃ似ているんだ。

 余計にこねくり回すよりも、自分で把握している強みをきっちり伸ばして、相手を正面から叩き潰す。

 

「ただ、本当にうまくいっているのか確証はないんですよね。君との戦いも刺激的ですが、後で大隊長たち相手にぶつけて、本当に質が匹敵しているのか確かめたいものです」

 

 先生の声がそこで途切れた。

 上位天使たちが、槍と盾を構えてわたくしに殺到する。

 

「そうやって試算を確かめるためだけに、悲劇をいくつも作ってきたわけですか……!」

 

 ブレードを振り回すが、盾に受け流される。

 えっ嘘!? 焼き切れないの!?

 

 

外から来ました 外殻より硬いのか!?

火星 禁呪を否定する性質の濃度を高めてるんだろうな、これめちゃくちゃキツいぞ……!

みろっく え、勝ち筋どこ……?

 

 

 ここ! わたくしが勝ち筋なの!

 ……と意気込んでみるが、やはり魔力凝固ブレードでは盾を突破できない。

 普通にチートすぎ。何なんこれ。

 

「悲劇は好きですよ。脳の普段使わないところを刺激される感じがしませんか」

「じゃあ一人で勝手に読んでてください! それが至高であると他人に押し付けたり、現実に反映させたりするなんてもってのほかです!」

 

 上位天使の槍が連続して叩きつけられ、ブレードのうち数本が表面を削られ光の粒子を散らす。

 わたくしは地面を蹴って距離を取ると、投擲される槍をかわしてから物陰に飛び込んだ。必死に酸素をかき集める。消耗がとにかくひどい。マジできつい。

 

「生まれ持った資質なんでしょうかね。私は他人を見た時、まずその人がどうすれば苦しむのかを考えてしまう。何を奪えば、誰を傷つければいいのかと……」

「人間としての倫理を持たない、獣以下の馬鹿が考えそうなことですわね」

 

 削られた魔力凝固ブレードを補填しながら、深く息を吐いた。

 思考能力のない絶望信者じみた言葉に付き合っていられるほどわたくしは暇じゃない。ブレードの補填が完了次第潰す。

 

「それは自分が安全圏にいるからこそできる思考、愚の骨頂ですわ。アナタは共感能力に欠けていて、それを自覚しているのに改めたり取り繕ったりしていないだけです」

「これはこれで個性と言ってくれると嬉しいんですがね」

「馬鹿馬鹿しい! 許容とは双方向的なもの! いい年して自分だけを受け入れてほしい、認めてほしいと喚くだけでは友達ではなく同じ穴の狢としか仲良くなれないでしょうねえ!」

 

 叫びと共に物陰から飛び出し、筒状に束ねたブレードを構えて突っ込む。

 五体の天使が瞬時に陣形を組むと、盾を重ねるようにしてわたくしの前に突き出し、ブレードの刺突を受け止めた。

 大気を爆砕する轟音と共に切っ先が砕け、天使たちの足が床にめり込む。

 

「チィッ……!」

 

 いやこれで押し切れないのかよ! ふざけんな理論上こっちの手札の中でも屈指の火力なんだぞ!

 六つのブレードを、突き立てた状態で高速回転させる。

 

「砕け散りなさいッ!!」

 

 ガガガガガ! と鼓膜をつんざく破壊音と共に、向こうの盾の表面を掘削の要領で削り取っていく。

 重ねられた盾をまとめて弾き飛ばすと同時、複合ユニットへと命令。砲門の一つから凝固ブレードを解除。

 

「この距離なら!」

 

 上位天使めがけてほぼゼロ距離から、サジタリウスさんの砲撃を叩きこむ。

 盾さえなければ外殻ごと吹き飛ばせるという見込み通り、上位天使の体の半分が消し飛び、ゆっくりと崩れ落ちた。

 

「一つ……っ!?」

 

 ようやく一体かよとあきれ返った刹那だった。

 四方八方から光の槍が飛来し、わたくしの肩や腿を貫いて地面に縫い留めた。

 ぶしゅ、と散った血飛沫が槍の表面に付着した瞬間に蒸発する。

 

「ぐううう……っ!」

 

 

日本代表 お嬢!?

red moon これマジでやばくない?

適切な蟻地獄 ちょ、いったん地上戻って合流した方がいいんじゃないの……?

火星 無理だろ逃がしてもらえないだろこれどうすんの!?

 

 

 ヤッバイ! マジでヤバいこれ本当にヤバい!

 確実に詰みに近づいてる! ヤバい! 分からん殺しされるとかじゃなくて、戦力差を覆させてもらえないままデッドエンドに押し込まれてる!

 ていうか怯んでる場合じゃない先生が来る!

 

「絶・破──六連」

「ふおおおおおおおおおおっ!?」

 

 わたくしは光の矢を砕いて転がりどく。

 右腕の複合ユニットをパージして、先生の奥義を受け止めてもらった。六発食らっても壊れねえの流石だな……

 

 いや言ってる場合じゃない追撃が来る! さっきからずっと何かが来てんじゃん!

 ダメだこれ参式じゃ対応できねえレオフォームかいやレオだと手数足りねえ!

 だったら……いったんこれか。

 

 ──星の煌きを纏い(rain all)偽天を焼き焦がし(sky done)大地を芽吹で満たそう(glory true)

 

 わたくしめがけて天使たちが投擲した光の槍が、空中で静止する。

 聖堂内に展開したわたくしの宇宙が、攻撃を無理矢理防いでいるのだ。

 

 ──宣せよ(shouting)暴け(exposing)照らせ(shining)光来せよ(coming)

 ──正義(justice)純白(white)執行(execution)聖母(Panagia)

 ──悪行は砕けた塵へと(sin break down)秩序は新たな姿へと(judgement goes down)

 

 不可視の障壁へと機械的に光の槍を撃ち込んでくる天使たち。

 防御が限界になる直前、わたくしはゆっくりと立ち上がった。

 

 

 ──さだめの極光は、唯ここに(vengeance is mine)

 

 

 詠唱完了。

 わたくしを起点として過剰神秘が解き放たれ、天使たちの外殻を軋ませ吹き飛ばす。

 

 

「超悪役令嬢マリアンヌ・ピースラウンド(ツヴァイ)、見参ですわッ!!」

 

 

 ワザマエフォームになった瞬間、周囲にわたくしの宇宙を展開する。

 負った傷たちを宇宙パワーで治していく。失ってしまった血は代わりに星を流してなんとかする。

 っぶねー。まさか新フォームお披露目補正が働いてないとは思わなかった。拘泥してたら今頃光のハリネズミになってた……

 まあわたくしの状況判断能力の高さが勝ったな。

 

「第二ラウンド開始ですわよコラァ!」

 

 接近してきた天使を殴り倒しながら叫ぶ。

 その刹那、こちらへと伸びる殺気を感じ取った。

 

「そこですか!」

「!」

 

 わたくしは脚部から流星を噴射して反転、一直線に先生との距離を詰める。

 周囲に展開していた天使たちが迎撃に槍を放り投げてくるが──

 

「な……!?」

 

 天使たちをシカトして、好き放題に攻撃させる。光の槍が肩胸腹足あちこちに突き刺さる。

 が──無視。

 

「でりゃあああああああああああっ!」

 

 お構いなしの突撃と共に拳を叩きこむ。

 虚を突かれたのか、先生は両腕をクロスさせてわたくしの右ストレートを受け止めた。手応えはない。何か大きなもの、岩とか壁とかを殴る感触に近い。

 いや岩とか壁とか殴り壊せるが?

 

「くくっ……歓迎しますよマリア、いいや、マリアンヌ・ピースラウンド。君との戦いで、私はもっと強くなれる……!」

 

 

鷲アンチ このしょうもないサイコパス思考で本当に自分の強さを突き詰めまくってきたからダルすぎるぐらい強いキャラなんているんだ

日本代表 ていうか無刀流上手いね やってた?

トンボハンター 天使がダルすぎる 広範囲攻撃の効かない強力なユニットをどんどん出してくるの、こっちも複数ユニットいないとだめでしょ

宇宙の起源 スパロボとかGジェネとかのヤバいステージじゃん

 

 

 ああああああもおおおおおおお!

 反撃で落としまくって経験値稼ぎまくれるステージになってくんねえかなあ!

 

 

 

 ……スパロボ?

 あ、もしかしてこれいけるか?

 

 

 

 ◇

 

 

 

 マリアンヌが第二ラウンドを開始した一方で。

 聖堂から外に出た薄暗い廊下で、鈍い殴打音や鋭い風切り音が響いていた。

 

「が……ッ!」

 

 血を吐いてユイがうつぶせに倒れ伏す。

 

「……決着はついてるはずだろ、もう」

 

 ほとんど死に体である彼女は、もう無刀流の奥義を放つことすらできない。

 であるならば、身体は万全であるリョウを相手取って、敵うはずもない。

 

「もう立つな、姉さん」

 

 冷たく宣告しながらも、リョウはユイの出血量を目測で計算し、本当にこれ以上は危険だと表情を歪めた。

 

(もう、立たないでくれ……本当に殺してしまう……)

 

 やはり彼女の無刀流の技術は、錆びてなんかいない。

 正面衝突で圧倒できているのは、彼女が消耗しているから。

 

(こんな汚い形で……それでも、勝ちは勝ちだ。目的にたどり着くためなら、俺は誰に何を言われようとも……!)

 

 動かなくなったユイへと、彼女を戦士として再起不能にするべく、リョウが一歩踏み出そうとする。

 

(…………た、て。たて、立て立て立てッ! 戦え勝て立て立ち上がれ私! ここで立てなきゃ意味ない!)

 

 だがそれよりも先に、数秒だけ朦朧としていた意識をユイが無理やりに引き戻した。

 どこかを動かすだけで激痛が走り、血が流れる。

 そんな状態でも、ユイはまだ諦めていない。

 膝を震わせ、壁に手を突きながら立ち上がるユイの姿に、リョウが唇を噛む。

 

「だから、アンタは──!?」

 

 踏み込んでトドメを刺そうとした瞬間に、ユイの奥、太古の聖堂内部で繰り広げられている光景が視界に入った。

 

「……は?」

 

 何が起きているのか分からず、思わずリョウは凍り付いた。

 それを見て、ユイもゆっくりと背後へと振り向く。

 

(マリアンヌ、さん……え? なんかめっちゃ天使減ってる)

 

 彼女がワザマエモードあるいはマリアンヌ・ピースラウンドⅡと呼ぶ形態──体内宇宙顕現状態(ミクロコスモス・レヴォリュート)は、確かにダメージ回復という点では優れている。

 しかし上位天使相手には、盾はおろか外殻を砕く火力すら出せず、有効打を与える方法がないはずだった。

 

「弾けなさい差別主義国家ァッ!!」

 

 盾の上からぶん殴られた上位天使が、数瞬遅れて、内側からぶくぶくと膨れ上がってはじけ飛ぶ。

 その光景を見ている先生は、身を隠すことすら忘れて、表情をビッキバキに引きつらせていた。

 

「何を……何をしているんですか、なんですかそれは……?」

「中身にわたくしの宇宙を流し込んでバーンです! 要約すると、レンジでチンですわ!」

「説明になってないんですが!?」

 

 悲鳴を上げる先生の前で、禁呪に対して無敵を誇るはずの上位天使たちが次々と処理されていく。

 

「見てくれが立派でも、どれだけ強固な外殻を持っていたとしても……中身がしょうもないのならたかがしれますわね」

 

 マリアンヌはちょっと冷めた表情になると、指をパチンと鳴らした。

 彼女を起点として宇宙が広がり、範囲内に収まった上位天使たちへと宇宙を流し込み、内側から破裂させる。

 一瞬ですべての上位天使が、破れた風船のように散らばっていった。

 

「…………」

「次はどうしました? 食べ放題が取り柄でしたわよね? もうトレンドじゃあないと思いますけども」

 

 先生は一つ息を吐いて、それから構えを取った。

 

「そうこなくては──あ」

 

 同様に構えを取ろうとした刹那、マリアンヌは何かを察知したように背後へ勢いよく振り向く。

 視線の先には、ズタボロの状態でこちらを見つめるユイの姿があった。

 

「ユイさん……」

 

 逃げてと言うのは簡単だ。

 任せてと告げるのは楽勝だ。

 

 マリアンヌは数秒黙った。

 脳裏をよぎるのは、学園祭、アルトリウスを前にして、彼女にかけてもらった言葉。

 高貴な令嬢は借りを作らない、作ったのならばきちんと返さなくてはならない。

 

 だから────

 

 

 

 

 

()()()()()()()!!」

 

 

 

 

 

 これが正解だ、という自信満々な表情で、マリアンヌはとんでもない無茶ぶりを叫んだ。

 その言葉を聞いて──半死半生だというのに──ユイは思わず吹き出しそうになった。

 

「ふ、ふふふっ……無茶言わないでください、よ」

 

 納得したように数度頷いて、彼女は弟分へと振り向く。

 視線が重なった瞬間、リョウの全身が震えた。

 

(……誰だ?)

 

 雰囲気が激変していた。

 今にも死にそうになっているとは思えない、ただそこにいるだけで勝利を予感させる、まっすぐな佇まい。

 明らかにマリアンヌの一言が、何かを切り替えた。

 受け入れられない。リョウはそれを断じて受け入れるわけにはいかない。

 

「なんで、だよ……! あいつに言われたからって、そこまでして……」

「違う……違います!」

 

 ユイの叫びに、リョウはびくりと肩を震わせた。

 

「誰かのためじゃない! 誰かに望まれたからじゃない!」

 

 血を吐きながらも、ユイはその瞳に命の輝きを灯す。

 

「私はここにいる! 私のためだ、私が私として輝くため……私が、私を勝ち取るためだッ!」

「……っ、ふざけたことを! 弁えろ、あんたの出る幕なんかない!」

 

 どうして分かってくれないんだ、とリョウは胸をかきむしりそうになった。

 もう舞台上に自分たちの居場所はないのだ。だからあんたもこのまま、無為の闇の中で寝てしまえばいい。激しい芝居も身を削る叫びもいらない、そんなことする必要ないじゃないか。

 

「あんたはただのユイだ、それでいいだろ!? 聖女だの無刀流だの、要らないじゃないか!」

 

 悲鳴じみた彼の言葉に対して、ユイは歯を食いしばりながら首を横に振る。

 

「違う! 本当はそうだとしても! それでも、今だけは!」

 

 ただ流されるまま、与えられるまま。

 死んだように生きることすらできず、生まれていなかった自分。

 それを変えてくれた────と思っていた。

 

(ただのユイでいいって、唯一とか、田ヶ原とか、いらないって! そう思ってた──でも違うんだ! 私は私で在りたい、ここで負けない、彼女以外に負けない私で在りたいッッ!)

 

 違ったんだ、と理解できた。

 ずっと誤解していた。彼女に変えてもらったんだと思っていた。

 

 

(私は……彼女のおかげで、自分で自分を変えようって思えたんだ)

 

 

 だからここで立てない時、裏切ってしまうのはマリアンヌではない。

 ここで立てなければ、変わりたいと願った過去の自分を裏切ってしまう。

 

 

 だから叫ぶ。

 唯一の目的のためだけに作られた少女が、自分で掴み取った無二の願いを叫ぶ!

 

 

 

「今の私は、ユイ・タガハラでありたいから────!!」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 流星が夜空に輝くのなら。

 きっとその後には、日が昇るのだ。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

【新規接続者を確認】

 

【主権者からの認可を待機……エラー。処理の不具合を確認】

 

【必要条件を確認。緊急性を確認。擬似認可を許諾】

 

【第二天との接続安定化を確認】

 

【迎撃権限を譲渡】

 

【適切な処置を行い、対象の未確認プログラムを排除せよ】

 

【そのために】

 

 

 

 

 

【────汝に大和(ヤマト)の加護を与えよう】

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 理解した。

 

「絆だけじゃ、ダメなんですね」

 

 ジンの顔色が変わった。

 天使が呼び出せない。

 奪い取ったはずの『大和』が、影も形もなくなっている。

 リョウが狼狽し、マリアンヌは拳を収めて腕組んで頷き始めた。

 

「そういう、前向きなものだけじゃなくって……嫌だった人とか、嫌いな人とか、苦手な人とか。そっちも全部ひっくるめなきゃいけないんですね」

 

 だって今のユイ・タガハラは、血塗られた暗い過去の上に立っている。

 そしてそれでも、ユイはユイだ。

 

「絆だけじゃない、すべての縁があってこそ。マリアンヌさんたちと同じぐらいに……先生やリョウのおかげで、私は今ここで生きているんですね」

 

 すべてを理解して、少女は右手を掲げた。

 指さす先は地下区画すべてを貫いた上。

 

 今は夜だけど、明日が来れば日が昇る。

 夜は暗くて誰がいるのか分からない、未知の孤独の世界。

 でも日が昇れば、隣の人の顔だってちゃんと見える。

 

 すべてのつながりは、太陽の下に結ばれる。

 

 

 

「招来せよ、団結の詔──大和(ヤマト)の令を下しましょう」

 

 

 

 膨れ上がる神威。

 先生とリョウ、あとついでに『えっやりすぎじゃない? あれ? あっ嘘えっこれ最終フォームじゃないですか!? 原作主人公の最終フォームお披露目回!? そりゃ参式なんてゴミにもなりますわね!』と悲鳴を上げるマリアンヌたちの視線の先で。

 

 

 太陽の光と熱を完全に掌握して。

 宇宙を飛び回る流星ならば、彼女がいつも帰ってくる目印になればいいと、少女が燃え盛る。

 

 

 

 

 

未来(あした)を紡ぎましょう──和を以て貴しとなす(サンライズ・アマテラス)ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 











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