眼前に立ちはだかる我が婚約者、ロイ・ミリオンアーク。
いいや正確に言えば、同じ顔をしたまがい物。
「そんな目で見られちまうと、悲しくなるぜマリアンヌ……おれだってロイ・ミリオンアークなんだがな」
「黙りなさい!」
「へいへい」
わざとらしく肩をすくめる偽ロイ。
いいや、『
思えばロイは、二重覚醒者として安定する前、確かに『
運動会のヴァーサス決勝では、わたくしを本気で殺そうとしていたぐらいだし。
まぁあれは出力を上げるためにわざとやってたっぽいけど――今回がそれとは別件なのだということぐらい分かっている。
なにせ明確に人格が乗っ取られているのだ。
権能が人格を上回るなんて聞いたことがない。
……聞いたことがない?
本当に? なんか、類似した例がなかったか?
「――ちょっと待ってください」
対峙する偽ロイに対して、わたくしは顔をひきつらせた。
知っている、知っているぞ。
お前みたいに『七聖使』の権能が暴走して人格がどっかに吹っ飛んじまってるやつを、わたくしは知っている!
「まさかアナタは……『
わたくしの問いかけに、偽ロイが少しだけ目を見開いた。
「お? そういや『
「自慢げに言うことですかそれ」
「違いねえな」
ハハッと笑う偽ロイ。
普段の彼とは、笑い方も違う。やはり別人なのだと痛感する。
どうやったら元に戻るんだこれ?
自分に対する洗脳を弾くことはできるが、他人のを解除する能力は持ってないんだよな……これを洗脳と呼ぶのかについては、大いに議論の余地があるが。
「まあ『
「へぇ……やはり複数の『七聖使』の権能が動作中ですか」
「明かしたところで、何かが覆るわけねえだろ? そっちは問題が増えるだけ、逆転のきっかけにもなりやしねぇ!」
悔しいがその通りだ。
事態の深刻さが浮き彫りになっただけである。
ただし――あまりにも深刻過ぎて、こういう時には解決策が絞られているのが救いだ。
ここから複雑な謎解きパートだったり、複数のお使いをこなしたりしなくてもいいわけだからな。
「……その目、いい目だ。おれが惚れ込んだだけある」
「わたくしに愛を囁いていいのはアナタではありません」
一つ息を吐いてから、拳を握る。
自分で言うのもなんだが、わたくしはかなりの面食いだ。
ユイさんにしろロイにしろ顔がいい。というかリンディにジークフリートさんにユートといったメンツだって、選別したわけではないが、ずっと顔のいい連中ばかり仲良くなってきた。
だけど――意外なことに。
わたくし、顔だけで見てるわけではなかったらしい、今自覚した。
「そのニヤケ面、ムカつきますわ! 粉砕します!」
足場を蹴り砕いて一気に加速し、偽ロイめがけて右の拳を叩き込む。
偽ロイは間合いを維持するように後退しつつ、無作為な雷撃をバラまいてこちらを牽制する。
網状に張り巡らされたその雷撃を、時には避けて、時には踏み砕いて、時には叩き切って前進する。
今のところ、対処は難しくない。戦いが始まってすぐに分かった、出力にかなりの差があるのだ。
「ハッハァ! さすがは最新にして最小の宇宙! 質量差で押されるだけで詰んじまいそうだ!」
戦況はわたくしが有利である。
ナイトエデンとの戦闘を通して、わたくしの宇宙は存在の密度をさらに高めることに成功した。
いくら七聖使の二重覚醒者といえども、権能の規模感ならこっちが圧倒しているのだ。
加えて――
「その新フォーム! おれのために組み上げたのか、感無量だなァ!」
左腕から伸びる刃は、偽ロイがばらまく雷撃を一振りごとに断ち切っている。濡れた薄紙を裂くようにしてだ。
何故なら、これは単なる物理的な斬撃ではない。
「その刃――いいや、ほぼギロチンか! おれの権能を断ち切る特別製と見た!」
「対象はアナタだけではありません! アナタごときに、そんなリソースを割くもんですか!」
別に口先だけじゃあない。
この刃は神聖なもの、特に勇ましく恐れを知らないものを叩き切ることに特化している。
要するには――
これは少し前から『七聖使』メタを考えてた時、ボツ気味のアイディアとして出ていた代物。なにせ仮想敵であるナイトエデンには、当たれば勝てる武器を生成したとて当てなきゃ意味がなかったからだ。
しかし、それをこの場で切札に昇華したってワケだ。
「このまま押し切ってブチ殺しますわ」
「怖いなァ! 愛する女に殺されるってのも、いつもなら悪くないんだがッ」
「だからァ! アナタ如きが、わたくしに愛を語るんじゃありませんッ!!」
左腕の刃を乱雑に振るう。
剣を扱う術に精通していないわたくしでも、権能の出力にモノを言わせれば突破は容易い。
しかし偽ロイは余裕たっぷりに笑みを深める――何か来る!
「だからァ、おれみたいなのはこういう手を使うッ!」
刹那、生存本能の閃きに身を任せて、わたくしは身をよじった。
襲い掛かってきた不可視の刃が、四方八方から殺到し、その中の一つが左肩を深くえぐる。
「ぐぅっ……!?」
左肩を押さえながら、大きく後退する。
わたくしの足元にぼたぼたと血が落ちて、赤い道筋を作った。
「なんですか今のは……!?」
「おれは上位存在を格納・合成・行使する権能なんだ。手持ちのカードをフル活用しないわけがないだろ」
そうか、そういうことか……!
わたくしが『流星』の諸要素を組み替えて権能を練り上げているのと、理屈は一緒。
しかしこいつは、文字通りに桁違いの組み換え候補を持っている。
具体的な数までは分からないが、『軍神』が掌握している上位存在の量など、数えるのも馬鹿らしいぐらい存在するだろう。
わたくしが特定の弾のカードだけでデッキを組み上げるレギュレーションでやっているとしたら、向こうはスタン落ちしたカードも含めてあらゆるカードからデッキを組んでいるようなものだ。
「今のは……わたくしの特定の要素に狙いを定めましたね? 何らかの特攻性能を感じました」
普通の攻撃なら、こんなにダメージを負うことはない。
押さえている手の下で、損傷した左肩の肉体が『流星』によって修復されていくが……その治りもやけに遅く感じる。
間違いなく、わたくしを殺すための
「ああ、『女殺し』の権能だよ。弱い女子供に対して特に高い殺傷性能を発揮する、弱者を狩るための権能だ。マリアンヌ、お前は強いけど、それでも女だからなぁ」
「――ロイの口から、そんな言葉は聞きたくありませんわね」
頭の中でいくつもの血管がはじけ飛ぶ音がした。
こいつ、わたくしの地雷を全部踏むRTAでもしてんのか?
「……しかし直撃、したよな? 一発当たれば死ぬような出力のはずなんだが、なぜ生きてる? まさかと思うが、性別まで宇宙になっちまったのか?」
「それは――……あー……」
あー…………
まあうん、純粋な女かって言われるとまあ……うん……
説明めんどくせーな、性別宇宙で理解してもらった方がはるかに楽。
でもその場合は宇宙じゃなくって、性別『流星』で頼むわ。
「ハッ、なんだよ。その反応からしてちゃんとした理屈はあるんだな――じゃあこいつはボツだ! どんどん行くぜェ!」
カチリ、と権能の切り替わる音。
おそらくはこの世界で最も上手に『軍神』の権能を扱える存在が、持ちうるすべてをつぎこんで、わたくしに襲い掛かってくる。
普段ならきっと高揚している、強敵を倒すというのは、わたくしの強さを証明する機会だから。
だけど。
■■■
……。
…………。
………………こんな形で対等に戦いたくなかった。
身体が自由に動かない、わけじゃない。
思考能力が奪われている、わけでもない。
ただ、おれという人間が、持つ力と対峙する相手に合わせて、根っこから作り替えられてしまったような感覚だ。
こうしてぼんやりと漂っている自分ですらも、彼女を傷つけることに、今までほどの抵抗がない。
主観視点で、自分と彼女の戦いを見つめ続ける。
戦況は現状互角。こちらが権能を適宜切り替えて対応するのを、彼女は高い出力に任せて次々と粉砕している。
どちらの息切れが先なのか、それが勝敗を決する最も重要な要素になるだろう。
しかしこちらは無限に近い手札を持っている。
彼女が無限のリソースを自由に使えない限りは、勝利は難しいだろう。
だから多分だけど、このままなら、おれが勝つ。
実感はないけど、あれほど焦がれた彼女への勝利が、手の届く場所にある。
だけどこんなものが、こんな血みどろの光景が、おれの願いだったとでも?
純粋に高みを目指してではなく、息を切らして誰かのために刃を振るう彼女の貌が、おれの大好きな少女の最大の見せ場だとでも?
確かにおれは君の隣に立ちたかった。
でもそれは、隣なら、君の笑顔を一番綺麗に見れるからだ。
こうして正面から見るっていうのは……実のところ、まだあんまり慣れてない。
君はいつもおれよりずっと前を進んでいた。
一番見慣れてる君の姿って、本当はこっちを向いてない、後ろ姿なんだ。
だからこうやって戦えて嬉しい。
おれを見てくれて嬉しい。
嬉しい、はずなのに……
――嘘はつけない。嬉しくなんかない。
だって戦っているのは、やっぱりおれじゃないから。
ああ、畜生、最期までどうにもならない人生だった。
彼女の隣に立つために、そのために強くなったのに。
結末は、自分自身の弱さを信じるしかないなんて。
もしも身体があれば、奥歯が全部砕けていただろう。
握りしめすぎて、指の骨も折れていただろう。
不甲斐なさに涙すら尽き果てていただろう。
愛する少女と殺し合うなんて、陳腐な悲劇だ。
陳腐なのに、誰かが打ち砕くべきなのに、ここには脚本通りに動く人形以外いやしない。
「――しかしそれが君の役割だ」
声がした。
視界の片隅に居座っている男が、その片方の金色の瞳を輝かせて、慈悲深い表情で語っている。
「彼女を殺せるかどうか、その結末はどうだっていい。『七聖使』の二重覚醒者と、現状最強の禁呪保有者。両者の激突こそが時空の壁を砕き、エテメンアンキへ至る道を切り開く」
……やはりそういうことか。
どちらが死んだっていい、むしろ、すぐにどちらかが死んだりしないようにしたんだな。
彼女を手にかけなかったのは、休息すら与えたのは、ここでおれと存分に死合わせるためだな。
「加えるなら、『主人公』をやってもらうためかな。君たちもそうだろう? いつも
貴様が彼女のことを分かったように喋るな。
「いや実際分かってるんだよ。だからこうして、『主人公』に専念してもらった結果、彼女は的確な手段を選び、適切な結果を出力している。演算装置のあるべき姿だ――ほら見てごらん、素晴らしい空だ。これは彼女と君の共同作業が生み出したものだよ」
空を見上げれば、異様な光景が目に入る。
巨大な亀裂が、王都の真上に浮かんでいるのだ。
この世界が箱庭だとして、外から強い衝撃が入って天井が破れたら、こんな風になるのだろうか。
何よりも異様なのは、その亀裂に向かって立ち上る巨大な光の柱。
それはおれたちがいる場所から、もっと言えば、激突を繰り返すおれと彼女から出ている。
「今の彼女は十三領域の中でも、最も殺意に満ちた紅き星……権能自身すらもが恐れから己を封印したいわくつきの力に手を出している。その状態の彼女の願望を叶えてやっているだけだ」
ほざくなよ、黒幕気取りの傍観者が。
「おお、怖いなあ。最近の若者はキレやすいっていうのは、ちょっと前の風潮だったんじゃないのかい?」
エテメンアンキというのは、『
やはり貴様らの本当の狙いはそこか。
「本当の狙いと言われると難しいな。『混沌』はあくまでも、道具の一つに過ぎないからね」
なんだと?
いや、そうか。『混沌』の権能を使うだけなら、現状でも不足ない。
ならば本体を欲するほどの規模感で、何かするなら――
「シュテルトラインが誇る巨大クリスタル。それを『混沌』と『開闢』の権能で制御すれば、世界を滅ぼすなんてたやすい。60秒程度あれば、8度は世界を滅ぼせるだろう」
……なぜ教えるんだ。
「いや、興味だ。これを知った君が、ここから何かできるのなら……それを見てみたい」
そうか。
そういうことか。
「どうしたんだい?」
貴様は傍観者ですらない、いつまでも観客の気分なんだ。
「…………」
みんな必死で舞台に立ち、与えられた役割に悩み、脚本と向き合って、そして自分の人生を生きている。
だけど貴様だけは、観客席に座っている。自分の身に降りかかった悲劇を客観視しているようで、実のところ、単にわが身のこととして受け止められていないだけだ。
貴様には生命の価値が何もわかっていない。
貴様は生きてなんかいない。
「……これは手厳しいね。君たち若者って、頭がキレるんだな」
黙れ、そうやって見ているといい。
おれが命を使い果たす瞬間を。
彼女がずっと謳っていた、生命の持つ輝きってやつを。
今から、見せてやる。
■■■
何かがおかしい。
超高速の攻防を繰り広げながら、わたくしはそう感じ取っていた。
放出する力が際限なく膨らんでいく。
制御ギリギリのはずが、制御できる範囲ごと、権能そのものが大きくなっている。
まるで外側からの要求に、内側から応えているように。
わたくしの知らないところで何かが起き続けている。絶対に正しい挙動じゃない。
「考え事かぁ!? おれだけを見てないなんて、悲しいぜェ!」
「ぐっ……!」
偽ロイの猛攻が激しさを増す。
左腕の刃、当たれば
そうだそれだけでいい、殺す。なんとしてでも殺してやる!
身を焦がす衝動と共に、わたくしも呼応するようにして加速する。
前進してくる偽ロイに対してカウンターの形で刃を振るう。
こんなの当たるわけない、当たれば死ぬと向こうも分かっているからだ。
だから避けられた、あるいは防がれた後の読み合いを展開する。
ここからの攻防はすべてが一秒未満。思考が遅れた瞬間に死ぬと思わなければ――
――しかし結末に、予兆はなかった。
ギシリと。
外側から押さえ込まれたかのようにロイの身体が動きを止める。
「え?」
「あ? クソ、マジか――」
慌てて止まろうと――
パッと散った返り血が、わたくしの服を濡らす。
自分がやったことだというのに現実味がない。
「テメェ、今まで、様子見を……クソッ……まだ、おれは……」
左腕のブレードが、ロイの胸を貫いている。
偽ロイは一度自分の胸を押さえた後、血に染まったその手を、わたくしの顔へ伸ばした。
ぬるりと、頬に生温い感触。
それと同時に、ロイの表情がふっと緩み、大好きな人の顔に戻る。
「え、あ、え……ろ、ロイ……?」
「はは、やっぱりすごいな、マリアンヌは……君なら、一瞬の隙があれば、おれを殺せるって……そう、信じてたよ……」
言葉を紡ぐだけで、彼の口端から粘性を伴う血がとめどなく溢れてくる。
いやな鉄のにおいが鼻を突く。
わたくしは身動きの取れないまま、緩やかにもたれかかってくる彼の身体を受け止めるのに必死だった。
「あ、いえ、ちがう……こ、こんな、これ、え? わた、わたくしが?」
ぽろぽろと、自分の両眼から涙がこぼれる。
悲しいとかではなく、混乱して、感情がおかしくなって、エラーの結果出たみたいな涙だった。
それを見たロイが、緩やかに首を振った。
「……ごめん……泣いてほしくなんか、ないのに」
それから、力なくロイの頭がわたくしの肩に乗る。
手の感触が信じられず、言葉が出ない。
「泣いてる君も、きれいだなんて……今、そんなこと、考えるタイミングじゃないのに……」
嫌だ。聞きたくない。
「最期に見るのが、泣き顔なんて……バチが、当たったのかな……」
聞きたくない聞きたくない聞きたくない!
そんな死に際の言葉みたいなの、聞きたくない!
「待ッ――」
何かを言う前に。
彼は優しく微笑んで、わたくしを突き飛ばした。
「生きてくれ、マリアンヌ」
わたくしの婚約者の身体が、光の粒子に還元されていく。
その粒子は天へと立ち上っていった。
見上げた先、そこで初めて気づいた。
空に亀裂が走っている。かつてわたくしが引き裂いた空に非常に似ている。似ているが、ずっとおぞましい。
「アナタ、まさか……」
「こうするしか、なかったんだ」
見ただけで分かった。
彼は自分を依代として、上空の異様な何かに打ち込もうとしている。
知っている――臨海学校でお父様がやろうとしていたことだ。
お父様は自分のすべてをささげて、『混沌』を封じ込める算段だった。
ロイは、今それをやり遂げようとしている。
「ま、って」
あの時は防いだ。
だから今回だって――ルシファーは応えない。
姿も現さない。
彼のチップもない。
打つ手がない。
目の前で大好きな無二の存在が使い潰されるのを見ているしかない。
「あ、なたが死ぬなら、わたくしだって」
「ダメだよ、マリアンヌ……君にはやることがあるはずだ」
ロイの微笑みは優しかった。
わたくしが理解できない優しさだった。
「君の輝きが、たとえ一瞬だけ空を照らす刹那のものだとしても……そのきらめきを追いかけて、僕はここまでこれたんだ」
いやだ消えないでいやだ
そんなのいやだ
あっちゃだめだ、だって、アナタはわたくしの
「――だからその一瞬で、すべてを救ってくれ。僕たちを、みんなを救い続けてくれ。僕はそんな君が大好きで、ずっと愛しているから」
■■■
「……二重覚醒者として見込んでいたんだけど。なるほど肩書以外の、ロイ・ミリオンアークという男を見くびっていたようだね」
グレイテスト・ワンが肩を落としながらつぶやく。
王都はもう物音ひとつしない。
すべての戦闘が終結していた。
「君の婚約者は立派だな。君たちにとって最大限の仕事、つまり私たちにとって最低最悪の働きをしてみせたよ」
彼がちらりと見上げた先。
空に浮かぶ亀裂はすでに閉じられており、ただの線だけが残っている。
ロイ・ミリオンアークがその存在全てを還元し、亀裂を縫い留めるストッパーになっているのだ。
「しかし、こんなものはあくまで時間稼ぎに過ぎない。最短経路が消えようとも次善策はある」
彼はそう言って、マリアンヌに振り向く。
「見たまえ。顕現したエテメンアンキは、経路を閉じられたとしても、存在するだけでも効力を発揮する。我々が妨害していた既存の魔法や加護は、ついにすべてダウンした。この環境下では君の『流星』もうまく動かないだろう」
彼の言う通り、シュテルトラインの空はその様子を大きく変えていた。
閉じられたはずの亀裂から『黒』がにじみだし、星々の煌めく夜空に塗り替えている。
異様なことに、夜空は常に星が流れていた。
視界を埋め尽くすようにして、偽物の流星が、ずっと空を覆い尽くしていた。
しかし返事はない。
へたりこんだ少女は俯いていて、垂れた黒髪に隠され、その表情をうかがえない。
「ここから先は、一気に詰めに入る。君は……そうだな、しばらくはここにいるといい。シュテルトライン崩壊を眺める特等席だ。まあ気に入らないなら、どこへでも行くといいよ」
それだけ告げて、彼はその場から立ち去った。
足音が遠ざかっていくのを、少女はもう聞いていなかった。
エテメンアンキによって塗りつぶされた夜空は、怒りがわいてくるほどに綺麗な星空だった。
しかしそれは偽りの空に過ぎない。
通常ではありえない密度の星々が、そうプログラミングされたがゆえに、絶えず尾を引いて流れている。
空一面を流星が埋め尽くすという異様な光景。
降る星々は、恐らく。
涙を使い果たしてしまった少女の代わりに、そうしていた。
SYSTEM MESSAGE ▼
条件を満たしました ▼
【極夜の来訪/愛はなにも救えない】ルートに突入しました ▼
SYSTEM MESSAGE ▼
条件を満たしました ▼
【極夜の来訪/愛はなにも救えない】ルートに
突入しました ▼
今章あと一話だけあります