〇鷲アンチ ダメダメダメダメ無理無理無理無理無理
〇適切な蟻地獄 逃げろはよ逃げろ!!!
〇日本代表 ああクソ、やっぱり異物の混入が確認できない! 上限値取っ払ったせいで、こっちを認識できるレベルにまで存在位階を上げた奴がいるのか!? 誰だ!?
コメントが一気にぶわーっと流れていった。
向こうは向こうで恐慌状態になってんな。
ジークフリートさんの指示で、騎士が護衛に付きながら王子たちが離脱していく。
「ピースラウンド! 貴様も逃げるんだ、何をしている!?」
第二王子の叫び。
逃げろって……何処にだよ。
このルシファーとかいうやつ、わたくしをずっとガン見してんだけど?
「『流星』の禁呪保有者か」
腕の一振りだった。
咄嗟に『流星』ガードを、展開した、それごと吹き飛ばされた。
地面を数十メートルぐらい転がって、デカい木にぶつかって身体が止まる。攻撃を防げはしたが、衝撃を殺しきれなかった。
喉元からせり上がった血がゴボッと地面に落ちた。数秒視界がブラックアウトした。
「がぷ、う、痛ぅ~~~~ッ……!」
「────各員攻撃開始!」
わたくしへの攻撃を見て、ジークフリートさんが騎士たちに指示を出した。
剣が迸り、全方向から刃が、白と黒の大悪魔に突き立てられる。
「神の存在を、感じるか」
接触した切っ先から、剣が砕けていった。
僅かな身じろぎすら見せない。騎士たちの動きが止まる。
「この世界を見下ろす存在を、感じるか」
ルシファーは周囲を一瞥した。
分かる。攻撃対象を定めている。やばい。
「神の息吹に触れたか。神の指先を舐めたか。神の視線に晒されたか」
声にならない声。超高速で『流星』を生成して顔面めがけて射出する。
ルシファーは首を傾げるようにして避けた。真後ろで闘技場の側面に着弾、轟音が響く。
「適切な時間に適切な程度で出力されて、初めて神の御業は形を成す」
ロイが雄叫びを上げて斬りかかる。リンディが魔法を放つ。逆方向からジークフリートさんが踏み込む。
三人の同時攻撃。ルシファーが腕を一振りして、三人とも逆方向に吹き飛ばされた。
「ひれ伏せ。神は失墜する。大地の息吹が天を焦す」
特殊な攻撃は何一つしてないと分かった。
存在の密度が違う。存在の位階が違う。
「我は地獄を統べる大悪魔ルシファーの端末。権能が一部。貴様らの絶滅を確定させるために降臨した」
怪獣が、歩くだけで、街を壊すように。
隕石が、降るだけで、大地を砕くように。
ただそこにいるだけで総てが滅ぶという、理不尽な厄災。
いっみわかんねえ!! こんなの乙女ゲーに出すことある!?
〇無敵 お前の前世には世界破壊攻撃とか余裕で打てるキャラが乱舞するエロゲーが沢山あっただろ
は? このタイミングでマジレスすることある?
つーかそういう世界観だって知らなかったんだけど!
「い、ぎぃっ」
口元から血を零しながら、わたくしは大木に手をついてなんとか立ち上がる。
攻撃が通用せず防御が一方的に貫通されているのに、相性差は感じない。多分そういうレベルの話じゃない。根本的に出力が違いすぎる。
無理。無理じゃん。
「莫大な闇と、強大な禁呪。それらの位相が重なり、そして召喚術式が作動したことで──我は呼び出された。喜べ、世界の破滅を望む者。汝の願いは届いた」
ああああああああああああああああもおおおおおおおおおおおおおおムカつく!!
なんだよこいつ初狩りかよ! 下の次元に来てイキってんじゃねーよ!
〇火星 こいつ今、召喚術式が作動したって言ったな
〇無敵 言った。意図的に呼び出されてる。呼び出した奴がいる。レギュがずれてるから最終チャプターが前倒しになった可能性もあるけど……さっきの脚本家ってやつが俺たちを認識してるから、これは多分……
〇脚本家 そうだよ、原作知識パワーだね☆
クソ、コメントを読む気力がねえ。
なんか最低系オリ主がいるのだけは分かった。もしかしてわたくしたち、断罪される側か……?
頭を振って全身に回復魔法をかけているとき。
砂利を踏む音がした。弟王子が、ルシファーに歩み寄っていた。
「は、ハハッ……お前、俺が呼び出した、ってことだよな」
「肯定する。ルシファーの端末は、お前の心の闇と、その禁呪『灼焔』を触媒として召喚された」
〇日本代表 ああそうか、王子に禁呪もたせたら条件をクリアできるのか!
〇脚本家 これが一番早いと思います(暗黒微笑)
さっきからやたらイッタいコメントしてるなこいつ、インターネット歴が浅いのか?
まあいい。回復魔法は十全に働いた。
なるほど負けイベですか、理解しました。死なないように立ち回ればよろしくて?
〇外から来ました それでいい。最悪原作キャラも見捨てろ、とにかく生き残れ
〇脚本家 尻尾巻いて元の場所に帰ってなさいってこと
〇ミート便器 ほんとムカつくなIP抜いてしばくぞお前
〇日本代表 レイヤーっていうかネットワーク帯がマリアンヌと同じなのは分かるんだけど、端末まで絞れない……!ガード噛ませてんなこいつ……!
原作キャラを見捨ててでも、か。それは流石に無理だな。
倒れ伏すロイやジークフリートさん、リンディを見る。奥では呆然と立ち尽くしたままのユイさんもいる。
全員揃って撤退するために、何をすればいい? どうやればこのイベントを終わらせられる?
原作知識はないが、これがゲームの世界だというメタ視点をわたくしは持っている。フラグ管理さえすれば意図的に物語を進行させられる、という前提を認識している。だから導き出すしかない、この負けイベの終わる条件を。
時間経過。一定ダメージ。特定キャラのアクション。どれだ。考えろ。リアルタイムなんだから時間切れでゲームオーバーだってあり得る。考えろ……!
「はははははは! いいなお前! 最高だよルシファー! こいつら全員殺せ! このまま攻め込んだっていいじゃないか!」
「……訂正する。我はルシファーではなく、ルシファーの端末に過ぎない。そしてもう一つ、訂正事項がある」
弟王子に対して、ルシファーの端末が手をかざす。
あっ。
「我が滅ぼすのは人類そのもの。お前が、最初の礎となれ」
「……えっ?」
オイオイオイ。あいつ死んだわ。
絶対に助からないなあれ。無理無理。諦めが肝心だな。
そう分かってるのに。
────何飛び出して庇ってんだ、わたくし。
「
「
足下で『流星』を炸裂させ一気に加速し、弟王子とルシファーの間に飛び込む。
短縮三節詠唱による『流星』顕現。
だがルシファーが、羽虫でも払うように手を揺らして。
バツン、と嫌な音。こちらの魔法が押し負けた。貫通した威力が身体を叩いた。
「あ、が、ぎぃ、ぃいい……ッ」
口からボタボタと血を流しながら、背後の弟王子を突き飛ばす。
身体がふらつく。耳鳴りがひどい。誰かに名前を呼ばれている。
「
「それは十全に知っている」
片腕の一振りで、顕現させた『流星』が砕かれる。
ルシファーはわたくしの髪を掴んで頭を持ち上げると、至近距離で瞳を覗き込みながら言った。
「邪魔だ。それだけだ。貴様は邪魔なだけだ……『流星』、ハッキリ言って、貴様では肩慣らしにもならん」
間近で見ると、恐ろしいほどに美しい貌だと思った。
血涙のように頬を赤いラインが走り、真っ赤な瞳にはわたくしの、血に濡れた顔が映り込んでいた。
「勝負にならないと言っている。貴様が何をしようとも、時間の無駄だ」
「そ、れを、決めるのは──」
「決める? おかしなことを言うな。もう決まっている」
ああ畜生反論できねえ。
巻き返し方わかんねーんだもん。
「教えておこう、『流星』使い。それは範囲特化型の禁呪ではない。範囲以外に取り柄がないから、結果として特化型に見えているだけの
ルシファーが乱雑にわたくしを放り捨てた。
今度は受け止めてくれる人もいない。べしゃと地面に落ちる。
すぐ隣にユートが倒れ伏していた。
〇第三の性別 もういい、一人で逃げろ!
〇無敵 起きろ! そこで気絶したら殺されるぞ! おい聞いてんのか!
ああ、クソ、やばい。
視界がどんどん暗くなっていく。
こんな、ところで────
「そもそも『流星』の本質とは……いや。もう聞こえていないか」
がくん、とマリアンヌの頭が落ちるのを見届け、ルシファーは嘆息した。
周囲を見渡す。
「────ジークフリート殿ッ!」
「おおおおおおおおおおおおッ!」
左右から二人の男が突貫する。ロイ・ミリオンアークとジークフリートだ。
(間違いなく上位存在! そんなもの、この世界に定着できるはずがない!)
(必ずルシファーをこの世界につなぎ止める、固定術式があるはずだ!)
マリアンヌがメタ視点で負けイベと認識していたのとは、違う視点。
二人はこの世界に生きる人間だからこそ、人の住む領域とは異なる存在に対しての有効打を導き出していた。
「……存在固定の術式を破壊するつもりか? 浅はかな考えだ」
そして当然、ルシファーの端末もそれを認識している。
軽く手を振っただけで二人の身体が塵屑のように吹き飛ばされた。だが空中で体勢を整え、同時に着地。
「ごふ……ッ!?」
「ミリオンアーク君! くっ……!」
衝撃を殺しきれなかったロイが膝をつく。
ジークフリートもまた、一秒後には身体から力がかき消えそうだった。
「諦めろ。貴様らの絶滅は確定した」
地獄を統べる者が、翼を広げて宣言する。
それから、左手で天を指さした。
「抵抗は無意味だ。神の時代は終わりを告げる。ここに世界の終焉を約束しよう」
その宣誓は、事実だった。
事実としか思えなかった。世界の真理を告げているという声色だった。
だから、倒れ伏し、曖昧な意識のまま、ユートはここで終わりなんだと諦めていた。
(……しょうもねえ人生だったな)
誰にも期待されず。
誰かに期待されたくて。
それを利用され。
(なんか、これ巡り巡って……俺のせいでも、あるのか……)
自分なんかに禁呪が宿ったから。
もっと上手く使える人や、強い人だったら、こんな風にはならなかったはずなのに。
(どうして、俺だったんだろう)
栄光への切符だと思った。期待してもらえる。これで、この力があれば、もう自分の存在をなくさずに済む。そう思っていた。
とんだ勘違いだった、と自嘲する。地獄を顕現させる、災厄への片道切符だったのだ。
もう本当に何もなくなったな、とユートは思った。
死んでもいいと感じた。目を閉じたまま、終わりを待つほかない。
その時だった。
「……の……す……ユー……」
声が聞こえた。
女の声だった。
「────ユート……!」
ふわりと、手の先に温かい感触がした。
死ぬ間際の人間は、天使が迎えに来るという。
天使はどんな貌だろうかと、目をそっと開けた。
黒髪があった。血に濡れた貌に、深紅眼が煌々と光っていた。
「わたくしを見ろと言っているのです、
大地を這いずり。
マリアンヌ・ピースラウンドが、ユートの手を握っていた。
「……まり、あんぬ……」
「最初に、こう名乗りましたわよねアナタ。名無しのユートと。なら応えなさい、第三王子でもなく、禁呪保有者でもない。全部なくしましたわねアナタ、
身体はもう死にかけだというのに。
彼女の表情は笑みすら浮かべていた。
「さあ、面白くなってきましたわよ。まずあいつはぶっ飛ばします……! 絶対に……!」
「……おれ、は、もう」
「悩むなら、勝ってからにしなさい……ッ!」
ユートの手を握ったまま。
あろうことか、彼女は地面に手をついて、決死の思いで立ち上がる。
手を引かれた姿勢で、ユートは顔を上げた。一帯に散らばる瓦礫と騎士たち。虫の息ばかり。それでも生きてはいる。ああ、まだ、何も終わってなんかいなかった。
「ユート。相手がどんなに強大であっても。譲れないものがあるのなら、立ち上がりなさい! それを譲ってしまったとき、諦めてしまったときが、本当に人の死ぬときですわ! わたくしはまだ死んでなんかいない!」
視界が開けるような心地がした。
見えていなかったものが見えた。胸の奥で心臓が跳ね、血液と魔力が一気に吐き出された。
「……諦めたくない。俺、まだ、生きていたい」
「ええ、ええ、そうでしょう」
立ち上がっただけで、もう限界だった。
ぐらりとマリアンヌの身体が傾いだ。
けれどユートが、彼女を受け止めてみせた。
「マリアンヌ。そこで休んでいてくれ」
彼女の華奢な体をそっと、そっと、半壊した壁に背を預け座らせる。
振り向いた。ルシファーと視線が重なる。それだけで膝から崩れ落ちそうになる。落ちそうになるだけだ。もう、ユートは決して膝をつかない。
ちらりと兄を一瞥した。長兄は震えながら、震えているのに、半狂乱の弟や騎士を一人でも引っ張って逃げようとしている。ああなんだ。かつて憧れた兄の姿を見ることができた。最後まで諦めない人だったと、今更思い出した。
だから憧れた。
だから、ああなりたいと思った。
「ルシファー、の端末とかいったな」
「肯定する。我は大悪魔ルシファーの端末。世界の終わりを確定させる者だ」
「オーケイ。だけど訂正させろや。世界は、終わらねえ」
「何……?」
眉根を寄せる上位存在に対して。
ユートは拳を握り、自分の胸を強く叩いた。
「俺たちは生きてる! 今、そしてこれからも生きている! まだこの世界は! そして何よりも──俺は、終わってなんかいねえッ!!」
叫びは至極明瞭、単純明快だった。
「俺は────俺はもう、何も諦めたくなんかないッッ!!」
譲れないものを諦めてしまったときが、本当の死だとマリアンヌは言った。
その言葉を借りるのならば。
譲れないものを見つけた、今この瞬間。
ユートミラ・レヴ・ハインツァラトスの人生は、ここから始まるのだ。
「だから応えろ、『
次兄へ手を伸し、ユートは叫んだ。
「頼む……! 俺はもう諦めない! 何度倒れても何度でも立ち上がってみせる! だからもう一度……!」
言葉を紡ぐ最中に、ハッとした。
力が流れ込んでくる。温かい力だった。
「……ありがとよ」
パチン、と学ランのボタンを全部外す。
漆黒のマントのように、風にはためかせて。
ユートはルシファーの真正面で、口を開いた。
────
ルシファーの端末は微かに目を細めた。
動くことなく、静観の構え。
────
世界を循環する魔素が、その流れを変えた。
一帯の魔素が大地に吸い込まれ、そして大地を介して、ユートへ流れ込んでいく。
────
それは、大樹が栄養を取り込むように。
それは、大輪が花開くように。
────
ユートは胸に手を当てた。
鼓動を感じた。自分はここに生きている。
誰かに期待されようともされなかろうとも、ここに存在する。その事実は覆せない。
後ろに振り返った。壁に背を預けて、半死半生といった様子のマリアンヌが、ニィと口元をつり上げて。
『それでいいんですわよ、ユート』
微かな唇の動きが、明瞭にメッセージを伝える。
カッと頭の中が熱くなった。
ルシファーへと顔を向ける。打倒すべき敵がそこにいる。
────
顕現するは、人類史に残してはならない最悪の禁忌。
厄災を前に、新たなる厄災が産声を上げる!
「
誰もが、その場に、火山を幻視した。
ユートの足場にひびが入り、そこから深紅の魔力が溶岩のように噴出する。
決して彼を傷つけることなく、魔力が彼を覆い、固着化する。深紅から土気色を混ぜ、どくどくと脈打ちながら鎧を成す。
「完全解号に至ったか──だが」
ルシファーはあくまで冷たく、左手をユートへかざす。
そこから前兆も予備動作もなしに極光が迸った。
「ひれ伏せ」
「もう誰にも、運命が相手だろうとも! 頭は垂れねえェッ!!」
流石にその光景を見て、その場にいた誰もが悲鳴を上げそうになった。
回避など考えることなく、ユートは真正面から、両手を突き出して極光とぶつかったのだ。
両腕の鎧が接触と同時に蒸発する。だが押し負けない。消滅した片っ端から、新たな鎧が補填されている。
「ああ畜生! 楽しかった! スッゲー楽しかったんだよ、学校がよ、あの毎日がよぉ! だからもっとだ! 俺は欲張りだから、もっとあそこに居てえって思っちまった! そのためには──ここで誰かが死ぬのなんて、一人たりとも許せるモンかよォッ!!」
意志を叫びながら、ユートが両足を大地に突き立てて踏ん張る。
無尽蔵ともいえる再生が、衝突した極光を、シャワーヘッドを手で押さえたように四方八方へ飛び散らせていく。だが後ろへは、マリアンヌの元へは決して通さない。
「お────おおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
裂帛の叫びと共に。
ユートがその両腕を左右へと広げ、極光を引き裂いた。
「ほう……適合数値が極めて高いようだな。それだけ『灼焔』を扱いきれるのは、賞賛に値する」
ルシファーが淡々と評価を下す。
「だが足りない。我は総てを理解する者。ルシファーの知識は告げている、貴様たちの絶望は覆らない」
「それを決めるのは俺たちだァァァァッ!!」
雄叫びを上げ、背中のマグマを炸裂させ一気に加速。
ユートが踏み込む。ルシファーが迎え撃つ。
神話の如き戦い。
その舞台から少し外れたところにいて。
マリアンヌ・ピースラウンドは。
────
視界が明滅する中、頭に叩き込んだ詠唱を口ずさむ。
ああくそ唇が切れてて詠唱しにくいな。
────
駆け寄ってきたユイさんが必死にわたくしの名前を呼んでいる。
あ、これ、意識朦朧としながら詠唱してるから、ヤバイ奴だと思われてんのか。
────
魔力循環が絶えてないのが幸いか。
なんか地面から凄え魔力を吸える。ユートが禁呪を使った直後だからだろう、幸運が味方してくれている。
────
詠唱改変が正確に作動。
このパターンは初めてでぶっつけ本番だが、やるしかねえんなら、やってやるよ……!
「
無理矢理に身体を起こす。
意識が一気にクリアになった。一か八かの賭けに勝った。
ユイさんが口をパクパクさせて、驚愕に目を見開く。他にわたくしを見ている者はいない。
「ま、マリアンヌさん、なんでそんな元気に……?」
「『祝福』は打てますか」
「……ッ。ごめんなさい、さっき無理をしすぎて、もう……」
「そうですか。ならばゆっくり休んでいなさい」
舞台から明らかに外されたという実感があった。
ユートもルシファーも、至近距離で殴り合い、攻撃を潰し合い、お互いしか見えてない。
ふつふつと、胸の奥から怒りがわき上がってくるのを実感した。
〇脚本家 へえ、まだ立てるんだ。じゃあさっさと逃げた方が良いよ?
うっさいですわね、キッズは黙ってなさい! 門限守らないとママに怒られますわよ?
〇脚本家 き、キッズ……!? お前、馬鹿にしてんのか!
ああそうだ、馬鹿にしてんだよ。何せ散々馬鹿にしてくれたからなあ!
ムカついた。超絶ムカついた。久々にムカつき数値のマックスが更新された。
絶対に許さねえ。タダでは帰さねえ。
〇101日目のワニ 勝算あるんか?
〇宇宙の起源 てか復帰直後にブチギレてるけど、どうしたんだ……
どうしたんだ、だと?
これが怒らずにいられるかよ!
だってあいつ、わたくしの『
〇red moon あー……
〇脚本家 えっ、そこ? そこが理由?
挙げ句の果てにユートはなんかベタ褒めだし!! ハア~~~~~!? わたくしの『
〇適切な蟻地獄 逆ギレっつーか斜め上ギレ過ぎる
〇無敵 お前の沸点は高い低いじゃなくてz軸がズレてるんだよ
完全に沸騰した。
わたくしは深く息を吸う。眼前でルシファーとユートが攻防を繰り広げている。攻防が成立している時点で異常だ。明らかにルシファーの出力は、わたくしたちの理を凌駕していたのだから。
ならば。
わたくしとユートの差を分けたのは、一体どういう要因だったのか。
IQ5億の頭脳がギュインギュインギュインと稼働する。
そして────
Downloaded
(完全に理解した)
腰を落とす。
全身が沸騰したように熱い。光を身に纏い、湯気すら出ている。それもそうだ。今、わたくしの温度は急激に上昇しているのだから。
長くは保たないだろう。だがそれでいい。
あいつをぶっ飛ばすためには、デメリットを換算している余裕はない。
今ここに──新たなる力が完成する。
「マリアンヌ・ピースラウンド────ツッパリフォームッッ!!」
〇脚本家 なんて??
大地を爆砕して疾走。脚部から放出される光がアフターバーナーのように身体を押し出す。
ユートが一歩引いた間隙に割り込む。ルシファーからすれば、突然わたくしが現れたように見えただろう。
「な────」
「ブッ飛ばして差し上げますわ!」
腰の捻りから爆発的にパワーを乗算させ、拳に乗せて解き放つ。
ルシファーの頬にわたくしの拳がめり込み、余波に大地が裂ける。
「ごッ、ぱ……!?」
有効打、一発目!
振り抜いた拳の残光が宙に尾を残す。
ルシファーが吹き飛び、瓦礫に突っ込んだ。
「……は?」
後ろでユートが呆然とした声を上げた。
「ここからはわたくしもダンスに混ぜてもらいますわ。円舞曲は得意でしてよ」
「い、いやそうじゃなくて……!」
「何か文句でも? もう十分、アナタの見せ場は作ったでしょう。ルシファーにも褒められてましたし。良かったですわね~~~~」
腕をブンブン振り回しながら笑顔で告げる。
うん、身体は問題なく動く。死にかけとは思えない。
回復なんざミリもできてねえ。実際、わたくしの身体は、死亡寸前のままだ。
だが動く。動ける。
「剣は避けず、『
そして幸いにも。
禁呪を身体の一部に、あるいは身体そのものとして組み込む見本例は。
まさに今、すぐ傍にあった。
「馬鹿な。動けるはずがない……何をした、『流星』使い……!」
「ハッ、ならば教えてあげましょう。わたくしの『
身体を起こし、呆然とこちらを見やるルシファーに対して。
わたくしは右手で天をビシィと指さし、名乗りを上げる。
「それを自在に操るわたくしこそ、世界で最も選ばれし存在! わたくしの名はマリアンヌ・ピースラウンド! 最強にして、最速の令嬢ッ!!
さあ、レースを始めようぜ!
配信中です。 | 上位チャット▼ 〇適切な蟻地獄 なにこれ? 〇TSに一家言 えーっと、流星の応用かな(意味不明) 〇無敵 隠しボスをチャプター2で殴り倒す女、マジで何? 〇脚本家 待って待って待って待って何それ 〇火星 もしかしてこいつ……自分の身体を宇宙だと仮定して、そこで流星を顕現させてるのか……? 〇みろっく えぇ……(ドン引き) 〇苦行むり 反動で死ぬゥ! 〇鷲アンチ 死ぬ前に殺せば良いんだよ 〇red moon ウッキウキで顕現したルシファー君、訳の分からない女に殴り飛ばされた模様 〇太郎 初狩り狩りお姉さん 〇脚本家 そんなの聞いてない!!頭おかしいんじゃないかこの女!? 〇外から来ました 今更過ぎる 〇ミート便器 おいおい初見か? 〇日本代表 これが俺たちのお嬢なんだよ!!……残念なことにな |
【熱血令嬢マリアンヌ】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【始まります】 7,777,777 柱が視聴中 |
https://twitter.com/Aitrust2517/status/1287220109023432708?s=20
碑文つかさ様よりマリアンヌのイラストをいただきました!
完全に理解してるときの例のアレです。このイラストを使ってみんなもDownloaded!