TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

48 / 196
PART7 湯煙旅情ゲットアンダースタンド

 マリアンヌがカサンドラと二度目の邂逅を果たしていた、同時刻。

 旅館の露天風呂をぐるりと囲む竹藪の中を静かに進む、二つの人影があった。

 

「……何でついてくるんだい?」

「こっちの台詞だぜ。俺の行く先にお前もいるだけだ」

 

 ロイ・ミリオンアークと、ユートミラ・レヴ・ハインツァラトスであった。

 二人は旅館から大回りして、外部にせり出す形の露天風呂へ外側から接近している。

 一体全体、何のために。

 

 

 ────覗きである。

 

 

 マリアンヌの部屋の入浴時間は既にリサーチ済み。

 後はこの竹藪を無事突破し、外壁をよじ登れば、そこには愛しい少女の裸体が待っているはずだった。

 

「ハッ。風呂覗きにミリオンアーク家の嫡男が手を出すとは、泣けるな」

「そういう観点だと君の方がまずいだろう。帰るなら今のうちだよ」

「冗談きついぜ」

「……フッ」

「……へっ」

 

 奇妙な連帯感に、二人は思わず口元を綻ばせる。

 どちらが言い出したというのはない。

 ただ二人とも、気づけば同じタイミングで、同じルートを歩き、こうして女子風呂を覗ける裏道を進んでいた。

 

「だが覗けるのは一人だけだ……決着を付けようか、ユート」

「ああいいぜ、上等だ」

 

 互いに雷電と火焔を身体各部から迸らせ、にらみ合いながら進んでいく。

 見た瞬間に鼻血ドバドバになるとかは関係ない。上等だった。失血死する恐怖など計算に入らない。ただ今は、とにかく、あの子のお風呂姿が見たい!

 猛進する二人が、しかし──はたと歩みを止めた。

 女子風呂を囲む、竹を編んで重ねた外壁のすぐ傍。

 

「来ると思ってました……ロイ君、ユート君」

「用件は分かってるわよね? あんたたちはここで終わりよ」

『……ッ!?』

 

 一緒に風呂に入ってるはずの、ユイとリンディが、仁王立ちで待ち構えていた。

 

「何をしに来たのか、とは問いませんよ。一目瞭然ですから」

「……どうかな。ここは獣道とはいえ、れっきとした散歩道だ。覗きの現行犯ではないだろう?」

「ええ、そうです。現行犯ではありません」

 

 そもそも、本気で二人を糾弾するのなら、実際に覗きを始めたところを捕まえれば良かった。

 だがユイはリンディに頼み込み、そうではなく堂々と待機する形を取った。

 理由は至極明瞭。

 

「一秒たりとも、マリアンヌさんの裸を覗かれる可能性があるのなら。それはもう嫌なので……覗きをしようとした、と判断した段階で、私は正当な罰則ではなく私のルールでお二人を叩きのめします」

 

 言葉と同時、次期聖女の身体を起点として絶死の予感が吹き荒れた。

 身体が硬直するのは数瞬。

 次の瞬間には、強襲の貴公子と隣国の第三王子が、揃って戦闘態勢に入っていた。

 

「迅速に終わらせましょう、リンディさん」

「ええ、そうね。いやまあ私はこの二人相手に戦えるとは思わないから、応援だけど」

「そしてその後、私がお風呂を覗きます」

「ええ……えっ!? 待って!? 取り締まりじゃなくて競合相手を潰しに来てたの!?」

「あの人のお風呂を覗くのは、この私だけでいいッ!」

「上等じゃねえか、ユイ。一つ勝負と行こうぜ!」

「誰が相手でも──僕は、この道を絶対に譲らない!」

「覗き魔VS覗き魔VS覗き魔!? 何この史上最悪のバトルロワイヤル!?」

 

 リンディの悲鳴をゴング代わりにして。

 三人は同時に踏み込み、激突した────!

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもカサンドラさん、アナタもヴァカンスに来ていらしたのですね」

「バカンスってわけじゃないけど……まあ、観光も半分はあるかしら」

「ノンノン。ヴァ・カ・ン・ス、ですわ」

「ならそうね、ええ。(わたくし)もヴァカンスに来てるようなものよ」

 

 温泉に二人で浸かりながら、笑みを交わす。

 彼女が言うにはここはカサンドラさんが貸し切りにした、臨海学校とは別枠の露天風呂らしい。

 つまりわたくし、普通に旅館で迷子になっていたようだ。

 まあ結果論結果論。結果的にはカサンドラさんと出会えたからセーフ。

 

「マリアンヌは学校の?」

「ええ。臨海学校……つまりはヴァカンスですわね」

「ふふっ。学びを怠ってはいけないけれど、貴女にはそんな指摘をするだけ野暮というものね」

「当然ですわ! 自分が強くなるためなら、積み上げるべきものはしっかり積み上げますもの!」

 

 言いつつも、カサンドラさんの顔を見ることができない。

 当たり前である。彼女もわたくしもタオルを身に纏ってはいない。温泉の透明度が低いから見えていないだけで、隣には裸の女性がいるのだ。

 グエー! 緊張するに決まってんだろ! 生まれて初めてだぞ混浴なんて……! いや混浴じゃねえんだけど! 混浴ではないんだけれどもさあ!

 

「どうかしたの?」

「い、いえ……」

 

 悶々としながら、お風呂に鼻まで浸かってぶくぶくと泡を立てる。

 当然身体は洗った後、髪はタオルでまとめて湯に入らないようにしてる。

 

「そういえばこの旅館、ボイラーに火属性八節詠唱魔法を付与していると聞いたわ。一般的と言えば一般的だけど……この間話したレーベルバイト家の新魔法が成立したら、このあたりも大きく変わりそうね」

「え、えぇ。そうですわね」

「本来の用途である燃料運転を考えると、むしろボイラーへの付与などをテストとしてやっていく形になるのかしら。貴女はこの国で、レーベルバイト家と話す機会はないの? せっかくならそのあたりも知りたいわ」

「それは……まあ……」

 

 全然話に集中できねえ!

 さっきからチラチラと視線が吸い寄せられる。

 いや。

 いやまあ、言い出したらわたくしだってそうなんだけど。

 

 おっぱいでっけ~~~~~~~~~~~~~!!

 

 お風呂に浮いてる! 浮いてるよ! 

 これが浮力の実験ですか、わたくしに負けず劣らずだ……!

 

「……まったくもう、話聞いてないでしょう。見過ぎよ」

「あっすみません」

 

 やべえ普通にバレてた。

 カサンドラさんは特に頬を赤らめるでもなく、『めっ』とわたくしの鼻を人差し指で弾いた。

 耳まですげえ熱い。温泉に浸かってるからだけじゃないというのは重々分かっている。

 そのまま彼女はすーっと近寄ってきて、妖艶な笑みを浮かべ囁いた。

 

「ふふっ……(わたくし)のカラダに……触りたいのかしら?」

「はい」

「あっ即答するのね」

 

 そりゃね。

 ……これもしかして触らせてもらえるのかな。

 いけるか? 土下座とかすればワンチャンスあるか? 全然土下座しようかな。

 

「も、もう。(わたくし)のカラダなんて、触っても何もないでしょう」

「あると言ったら?」

「……だ、だからといって。(わたくし)たち、まだ顔を合わせるの二度目なのよ?」

「しかし、あえて……!?」

「あっこれ勢いで無理矢理押し通そうとされてるわね」

 

 婚約者のマジックワードを使ったところ、カサンドラさんは我に返ってすすーっと離れていった。

 クソが!

 ロイ、お前ホント無能!!

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 ロイとユートは地面に膝をつき、肩で息をしていた。

 息一つ乱さず、ユイは腕をだらんと下げた自然体で二人を見下している。

 

「これ、が、無刀流……ッ!」

「ぜぇっ、くそっ、ここまで一方的にやられるとはな……!」

 

 戦闘としてギリギリ成立するかしないかのレベルだった。それほどに次期聖女は圧倒的だった。

 動体視力を魔法で強化し見守っていたリンディは、その結果を見届け嘆息する。

 

(当然といえば当然ね。ミリオンアークとユートの得意属性は、それぞれ雷撃と火……ここじゃ満足に使えない)

 

 チラとリンディは視線を後ろにやった。

 確かに露天風呂を囲む竹の壁は高いが、月夜の中で雷撃魔法や火属性魔法など発動したら即座にバレるだろう。

 

(一方のユイにとって、夜闇の中での近接戦闘なんてまさしく彼女の領域だわ)

 

 リンディが見ている間、ユイの戦闘は圧巻だった。

 バトルロワイヤル形式を完全に支配し、自分に飛んでくる攻撃を最小限に留めつつ、隙を見せた相手に有効打を打ち込み続ける。

 基本に忠実なヒットアンドアウェイは、ノーダメージでの完封という結果をもたらした。

 

(そして相性差だけじゃない。見てきたから分かる……ユイのやつ、抜群に上手くなってるわ)

 

 例えばそれは、相手の呼吸を盗み見る技巧。

 例えばそれは、相手に有利な位置取りを譲らない身体捌き。

 格闘術に関して素人のリンディですら、モノが違うと分かった。

 

 

 ──カチカチと脳裏で音がする。歯車の回る音がする。

 

 

 目が肥えてきているのだろうとリンディは自覚した。

 動体視力を強化すれば三人の高速戦闘を見て取ることができた。自分がいかにハイレベルな戦士に囲まれているのかも自覚し、思わずため息をつきそうになる。

 

 

 ──カチカチと脳裏で音がする。歯車の回る音がする。

 

 

 リンディ・ハートセチュアは気づかない。

 たかが数ヶ月を共にしただけで、これほどまでに戦闘の趨勢を見て取れるようになることが異常なことだなどとは気づかない。

 彼女の視点では、彼女以上の天才に囲まれているから。

 比べて自分のなんと非才なことかと、諦め半分に呆れているのだから。

 

 

 

 ──カチカチと。

 ──歯車が、噛み合う時を待っている。

 

 

 

「じゃあリンディさん、覗きましょう」

「覗かないわよ!? 普通に戻ってお風呂入るわよ、もう!」

「えっ、ちょっと、私勝ったんですよ!? 勝者の特権は!?」

「あんたやることなすこと本当にあいつに影響受けまくってるわね! 覗かなくても一緒にお風呂入ればいいでしょうが!」

「それじゃあスリルが……生き死にをかけた興奮が……ッ!」

「うっさい! 時間なくなってきてんのよ! ほら歩いた歩いた!」

 

 烈火の如く怒鳴って、リンディが無理矢理ユイを引きずっていく。

 残された男二人は、膝をついていた姿勢から、ゆっくりと立ち上がった。

 

「おいおい……マジでいなくなったけど、どうするよ」

「僕らは敗者だ……大人しく帰るさ」

「だな」

 

 ここでしめしめと覗きに走るのは負け犬以下の行いだ。

 覗き魔の時点で負け犬以下ではあるのだが、中途半端に美意識は持っているらしい。

 二人は肩を落としてとぼとぼと来た道を引き返す。

 

「……なあ、ロイ」

「ん?」

「お前雷撃魔法、撃たなかったんじゃなくて撃てなかっただろ」

「……ッ」

「ま、詳しくは聞かねーけど……いざって時にも撃てねえんなら、首は突っ込むなよ」

「………………」

 

 月だけが二人の背中を見ていた。

 ユートの隣で、瞳に言い知れぬ色を宿したロイの様子に、月光以外に気づく者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと時間が経てば、まあそこそこに緊張はほぐれた。

 直視するのは流石に憚られるが、カサンドラさんと二人並び夜空を見上げて談笑する。

 気安く話せる、と言うには大切な時間。

 前から知っていたような、と言うには新たな発見に満ちた時間。

 

「でしたらゼールの競技会では負けなしと! 腕が鳴りますわね!」

「ふふっ、ノータイムで参戦を宣言したわね。国籍違うと出られないわよ……?」

「ご安心を。わたくし、国王アーサーにツテがありますので」

「一般的には安心から最もかけ離れた発言ね」

 

 他愛ない会話の隙間で、ちらと彼女の横顔を見る。

 やはり歴戦。やはり傑物。

 会話の節々で感じてはいたが、ゼール皇国はどうにも閉じた国のようだった。彼女の名は聞かなかったし、わたくしについても本当に風の噂で知ったのだという。

 まだまだ研鑽が足りないな。大陸の端から端まで、わたくしの名を轟かせなければ。

 

「参戦はともかくとしても、交流試合すらありませんものね。お互いいい刺激になると思いますのに」

「同意見だけれど……無理でしょうね。ウチの国は、そういうことはしないと思うわ」

「なるほど。ですがまあ、いつかはお伺いしたいですわね。見知らぬ土地、見知らぬ戦士。わたくしの力を試す絶好の場ではありませんか」

 

 肩をグルグル回しながら言うと、カサンドラさんは微笑を浮かべる。

 

「その真っ直ぐさ、(わたくし)は好きよ」

「え?」

「そしてそれ以上にシンパシーを感じてもいるわ。強くなるためには、努力を惜しまないというストイックさ。こちらの国ではみんな真剣に強くなろうとしているものね」

 

 ……こちらの国では、か。

 ゼールだと違うんだろうか。間違いなく、何者かの手によって、ゼール皇国は原作とは異なる強化をされている。

 ならその強さの根幹には、何があるのか。

 

(わたくし)も負けてはいられないわね。もっと頑張らないと」

「まあ、そうですわね……わたくしも頑張ってはいますが、カサンドラさんもまだ、強くなりたいと?」

 

 こないだの喫茶店の一件からして、そして国内無敗というのが本当なら、相当の実力者だろう。

 流石に禁呪使うとお話にならないかもしれないが、それを抜きにすればわたくしに匹敵しうると見ている。

 

「ええ。たくさん犠牲にしてきたもの」

「はい?」

 

 だからその言葉に、数秒反応できなかった。

 

「強くなる上で、犠牲はつきものでしょう?」

「…………」

 

 積み上げるべきものを、積み上げる。

 同じ言葉だと思っていたのに──違う。露天風呂に浸かっているというのに、背筋が寒くなる。

 努力じゃない。

 彼女は犠牲と言った。

 

「カサンドラさんは……積み上げた犠牲の分だけ、強くなれるとお思いで?」

「絶対とは言わないわ。だけど、不要なものを切り捨てなければならない場面は、必ずある」

 

 慎重に意見を探る。

 思ってたより複雑な家庭だったりするのかな。わたくしが言うのもアレだが、その思考回路は結構危ないぞ。

 ここは友人として、一肌脱がなければ。

 

「理解は、できますわ。わたくしのお父様がそうでした」

「……貴女の、お父上」

「ええ。有名人ですが……マクラーレン・ピースラウンド。王国建国以来の秀才。我が国の魔法体系は、現在のものに限ればお父様が九割をまとめたと言っていいでしょう」

「凄いお人ね」

「親としては失格ですわよ」

 

 ここは普通に、恨み辛みを抜きにしてそう思う。親らしいことなんてされた覚えがない。

 家とは、研究の場だ。お父様もお母様も自室にこもって研究を進めていた。顔を合わせることもない。研究室には基本的に入らないからいるかどうかも分からない。気づけば家に立ち寄った痕跡があって、ああ生きているのだと分かった。それだけだった。

 だからこそ、保護者参観に来たのはぶったまげた。食事を共にしたのなんていつぶりだろうか。

 これは客観的な評価だ。あの人たちは、親としての役割なんて何一つとして果たしていない。もし前世の記憶がなかったら相当グレてたかも分からん。

 けれど。

 

「けれど……犠牲にしたくて、犠牲にしたものなんて、きっとお父様にもありませんわ」

「……ええ。それはもちろんそうよ。(わたくし)だって、好きで捨てたわけじゃないわ」

 

 カサンドラさんは、ちゃぷと湯を手にすくい上げた。

 両手の中の水面には月が映り込んでいた。

 

 揺らめくそれは、しょせん虚像に過ぎない。

 彼女の手から水が零れていくと共に、形が歪み、拉ぎ、最後にはかき消えてしまう。

 

 それを眺めながらカサンドラさんはぽつぽつと言葉を紡ぐ。

 

(わたくし)ね、ずっと考えていたのよ。魔法を使えてどうするんだ、って」

「……と、いいますと」

「だってこんなもの──人を素早く殺せるようになるだけだわ」

()()()()()()()()()()

 

 何の気なしに相づちを打った。

 だというのに、カサンドラさんは勢いよくこちらに振り向いた。

 

「えっ……?」

「え? いえ、だって魔法なんて極めたところで、人を適切な速度で、適切な消費で殺せるようになるだけでしょう?」

「それ、は」

「ですが、()()()()()()()()()()とも信じています。きっとこの力も、誰かを幸せにできると。悪人を誅するというのは少々直接的すぎますが、例えば……魔法に夢を見る子供たちの、夢を守ることはできますわ」

 

 どこまでいっても、わたくしにとって、この世界は個人の主観でしかない。

 きっとどこかには違う意見の人がいる。誰かを傷つけるためにしか発展していない魔法に絶望した人。或いは実際に魔法で傷つけ、傷つけられた人。

 思えばお父様はきっと、誰よりも魔法に詳しいからこそ、誰よりも魔法の残酷さを知っているのかもしれない。

 

「ですからきっと、わたくしももっと強くなれば、また別のものが見えるでしょう。また別の障壁に当たるでしょう。それをどう受け取るかは自分次第ですわ」

「…………」

「まあわたくしは誰よりも強く在りたいので、如何なる困難があろうとも乗り越えるだけですが……お父様だっていつかはわたくしが倒しますわよ」

 

 のぼせそうな感じがしてきたので、温泉から上がって、縁取り用の岩に腰掛ける。

 足だけちゃぷちゃぷと湯に浸す姿勢。

 するとカサンドラさんも同様に湯を上がって、わたくしの隣に座った。

 

「そう。貴女は、そう思っているのね」

「ええ。お気に障ったのなら──」

「いいえ、まさか。……ありがとう。(わたくし)も同意見よ」

 

 そう言って、彼女はふうと息を吐く。

 

「ごめんなさい、マリアンヌ。そろそろ上がるわね。(わたくし)これから仕事があるの」

「あら、これからですか……お忙しいのですね」

 

 カサンドラさんは月の光を浴びて、寂しそうに笑う。

 

「その……半分旅行、とおっしゃっていましたが。何か用事があるので?」

「そうね。旅行って言うのは本当よ。それと、仕事を兼ねているの。とっても大きな仕事……だけど、今はどうでもいいわね」

 

 ふと自分の手に、温かさを感じた。

 野良猫でも乗っかってんのかと思ったら、カサンドラさんの白く細い指が、わたくしの右手を撫でていた。

 

「!?!?!?!?!?!?」

(わたくし)、貴女に出会えて良かったわ」

 

 至近距離で見つめ合って。

 わたくしの手に、彼女のそれを重ねての発言。

 完全に自分の顔が茹だっているのが分かった。

 

「少し悩んでいたの。魔法をどう使うのか。この使い方は、本当に正しい使い方なのか、って」

「……それは」

「決めるのは自分自身なのでしょう? ……ふふっ。突き放すようで、誰よりも優しい人なのね」

「かいかぶりですわ。無責任この上ない言葉でしてよ」

「無責任であることを自覚していることが、この上なく責任に満ちているのではなくて?」

 

 ぎゃー言い返せねえ!

 なんかこう……ハズい! 照れる!

 

「まあ、まあ……犠牲を払えば、その分だけ強くなるという保証はないとだけ言っておきますわ」

「重々承知していてよ。払った犠牲に見合う結果は、当人が出すしかないのだから」

 

 なんか伝わってねー気がするんだよなあこれ。

 とはいえ、わたくしだって相応の犠牲を積んできた節はある。軽々しく否定することはできない。

 何よりも……空を見上げて、碧眼に月を映す、カサンドラさんの横顔。

 

「マリアンヌは、これから先も……犠牲を払う覚悟はあるのかしら」

「……犠牲、ですか」

 

 犠牲。

 強くなるための犠牲。

 ああそうだ──わたくしはただ、追放される悪役令嬢に相応しい強さを願っていた。

 ならきっと。

 カサンドラさんの方がずっと真摯に、強さを求めているのかも知れない。

 

「わたくしは」

「そろそろ時間ね、ごめんなさい……返事はまた今度に聞くわ」

 

 その言葉はすっと受け入れられた。

 間違いなくどこかで、また出会うと感じていた。

 

「それじゃあ、またね、マリアンヌ」

「……ええ。また会いましょう、カサンドラさん」

 

 最後の問いに答えられなかったのは心残りだったが。

 わたくしたちは微笑み、笑顔を交わして、別れた。

 

 ──次に彼女と会えたとき、ちゃんと答えないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく一人で露天風呂を堪能してからお風呂を上がり、自分の部屋に戻る。

 窓際の椅子に座ったリンディが、呆れた様子でわたくしを迎えてくれた。

 

「長湯だったわね」

「至上のお風呂でしたわよ」

「ふーん。で、あんたどこ行ってたわけ? いないからユイが死んじゃったわよ」

「迷子になって個人用のお風呂に入ってましたわ……え? 死んだ?」

 

 見ればユイさんが布団にうつ伏せに倒れていた。

 耳を澄ますと『見れなかった……何も……何も見れなかった……』とブツブツ言っている。

 

「まあまあユイ。明日だってお風呂あるんだし、元気出しなさいよ」

「わたくしは明日のお風呂が怖くなってきましたが!?」

 

 風呂で何をするつもりだったんだよこの女。

 恐怖に震えながらも、そういや大事な話があるんだっけと思い出し、配信画面を立ち上げる。

 

 

日本代表 邦キチは数年後に映画とか全然見ないフットサルが趣味の男と付き合ってるよ

red moon オメーまたそれかよ

宇宙の起源 逆張りしかできないならもう生きてる価値ないよ

101日目のワニ 漫画読むの辞めろ

日本代表 夢見すぎなんだよオタク共が

外から来ました かつてポエムブチ上げてキッズにドン引きされたお前の方が夢に溢れてるよ

無敵 和を以て貴しとなす、ってな!(笑)

日本代表 お前らほんと殺すぞ

 

 

 寝ていいか?

 

 

 

 









ぬくもり様よりイラストをいただきました!

まずは水着姿のマリアンヌ&ユイです!

【挿絵表示】

嗚呼^~
二人とも作中描写を拾ってもらいつつ、決めていなかった部分などをキャラクターに合わせて仕上げてくださっています……!
やっぱり自信満々系と小動物系が並ぶと天使がラッパを吹いて大地に花が満ち俺が涙を流すんですよね
最高です!

続けて原作主人公ユイの設定画です!

【挿絵表示】

なんだこの高クオリティ!?
ユイを見るのは初めて(??)なんですが完全にイメージと嵌まってビックリしました。
原作主人公に相応しい正統派のかわいい系美少女! やっぱり普段小動物ニコニコ有事戦闘マシーン系女子が世界を救うんだよね
こうしてユイというキャラクターを描き上げてくださったこと、本当にありがとうございます!
右下でサタデーナイトフィーバーしてる女、何?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。