TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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PART14 光輪戴冠ジャガーノート

「……ここは」

 

 目を開けば、ジークフリートは見知らぬ世界にいた。

 荒廃した大地が広がっている。あちこちに火の手が上がり、人々の悲鳴が遠く響く。

 世界の終末そのものだった。

 

(世界を上書きされた!? いや……違う。ファフニールが広げたものとは違う。系統は似ているが、あれよりも遙かに……!)

 

 身体が総毛立つ。

 大邪竜がトカゲの子供に思えるほど、圧倒的な畏怖と迫力が身を包んでいた。

 

 周囲を見渡せば、曇天の宙を夥しい数の黒点が埋め尽くしている。

 目を凝らしてそれらを視認し、ジークフリートは絶句した。

 

「……ドラ、ゴン……ッ!?」

 

 火を吐く竜。

 多くの神話や伝承において、人々の平和を脅かす悪しき存在として描かれる存在。

 一体現れただけでも脅威であるはずの竜たちが、文字通りに宙を埋め尽くしている。

 

かっこよすぎる……

うそだろ? いやまって、ほんとまって

ジークフリートさんかっこよすぎないか? しってたけど。いやそうじゃなくて

え、うそやばい、まじでなみだでてきた。おれのおし、かっこよすぎないか?

やばいやばいまじなに? かんじょうこわれちゃった……

 

「……ッ!? 誰だ!?」

 

 突如として響いた声。

 人間には理解出来ぬ神聖言語であり、聞いただけでジークフリートの脳髄に痛みが迸る。

 痛みをこらえながら背中の剣を抜き放とうとして、一切の武器がないことに気づいた。

 

ん? え? あれ!? あれ!?!? これげんかくじゃないの!?

「……オレをここに呼んだのは、お前だな?」

うそだろ……やべぇ……ジークフリートさんがめのまえにいる……

「何のために呼んだんだ。オレには為すべきことがある、元の場所に戻してくれないか」

 

 毅然とした態度で騎士が言う。

 それに対して、姿のない偉大なる存在は。

 

かおめっちゃいい、うそだろ? めちゃくちゃかおがいい……

「……っ。こちらの言葉も通じないのか、どうなんだ……?」

あっ! い、いえむししてたわけじゃないんです……ヘヘッ、いやこうちょっとまってまじでまって、なに? どうすればいいの?

「オレは……オレは戻らなくてはならないんだ! 彼女を一人にするわけにはいかない、したくない! 彼女に道を指し示してもらった! 次はオレの番なんだ!」

やば………………かっこよ………………

 

 その時だった。

 

【新規接続者を確認】

 

 ジークフリートの全身に、温かい力が流れ込んできた。

 

「……ッ! これは!?」

ん!? まったまったなにそれ? え!? なんでけんのうにアクセスしてんすか!?

 

 身体に満ちる加護。

 それが邪竜の、更なる源泉のものであると、感覚が理解した。

 

【主権者からの認可を待機……エラー。処理の不具合を確認】

 

そりゃちからのたいはんはけんげんをそうしつしてるからなあ! えっまって、もしかしてこれ、おれいがいにあくせすできるやついるの? あっえっまってそういうこと!? あっこれそういうことだったの!?

 

【必要条件を確認。緊急性を確認。擬似認可を許諾】

 

「そうか……そうだったのか。あなたが、オレやファフニールの原点だったのですね」

 

【第三天との接続安定化を確認】

 

てか、ええ……? おれ、おしのたんとうしてるつもりだったのにほんとうにちからのみなもとてきないみでもたんとうだったのかよ……やべえてあせとまんねえ……

 

【迎撃権限を譲渡】

 

「先ほどまでの失礼を詫びます。そして、ありがとうございます……オレは、あなたのおかげで戦える。あなたのおかげで、彼女の力になれる! 新たなる力、お借りいたします!!」

いや……それしらんのよ……なんでにんげんがあくせすできるんだよ……こわ……

 

【適切な処置を行い、対象の未確認プログラムを排除せよ】

 

「また会う日があるかもしれません。その時には、改めてお礼を言います。オレの名前はジークフリート……あなたにとっては取るに足らない矮小な存在かもしれません」

いや、おしです。たんとうしてます

「ですが、あなたの因子を継ぐ者です。あなたから繋がれていった希望の、最新の継承者です。ですから、ありがとうございます……行ってきます!」

…………(そくし)

 

【そのために】

 

 

 

 

 

 

 

【────汝に不屈(キボウ)の加護を与えよう】

 

 

 

 

 

 

 

 そうして現実世界に帰還したジークフリートは。

 ゆっくりと、握っていた大剣を構えた。

 

「往くぞ、ファフニール」

『何をォッ……!』

 

 吐き出されるブレス。

 全ての存在を焼却するそれを、ジークフリートは()()()()()()()()()()()真っ向から受けた。

 

「ジークフリートさんッ!?」

『訳の分からぬ真似をしたところで! 二つの可能性を混ぜ合わせるなど、できるはずがない!』

 

 吹き荒れる爆風に、マリアンヌが悲鳴を上げる。

 だが。

 

「通じるわけがないだろう、ファフニール」

『な……ッ!?』

 

 大邪竜が明確に狼狽した。

 ガードされたのならともかく、ブレスは確かに直撃したのだ。一片たりとも残らず消し飛んでいなければおかしい。

 だというのに、黒煙を切り裂いて。

 無傷の騎士が、悠々と歩いてくる。

 

『何が起きている!? そんな……あり得ん! 何故通じない!?』

「答えは簡単だよ、ファフニール。格が違うんだ」

 

 発現したその銘は『光輪冠するは不屈の騎士(レギンレイヴ・ジャガーノート)』。

 それは加護のように自分の内側を流れるだけでなく、加護を裏返すことで自分の身体を覆う、(ルール)の鎧。

 神域──悪性の極地にアクセスすることで、自身を究極の悪と定義。

 自分以下、即ち一切の悪性による攻撃を遮断する、対悪絶対無敵状態。

 傷がつかない、など当然。傷つけようという考えがまずおこがましい。

 

「先に侘びておく」

『……!?』

「大層なお題目を掲げてきたというのに、相対するオレときたら……ちっぽけな矜持しか持ち合わせていない」

 

 ジークフリートの瞳には光が宿っていた。

 雷雨の中でも決して色あせない、鮮烈な輝きだった。

 

「オレは彼女の願いを叶えたい。彼女の祈りに応えたい。ただそれだけだ」

『馬鹿なことを! そんなちっぽけな──』

「その通りだな。だが! 聞くがいい大邪竜ファフニール! そのちっぽけなプライドが、貴様を打ち滅ぼすッ!!」

 

 振り向くことがなくとも。

 彼の意識の先に自分がいると、はっきり理解出来て、マリアンヌは言葉を失った。

 

「彼女のためなら。マリアンヌ嬢、君のためならオレは、運命が相手でも打ち勝ってみせよう」

「ひゃい……」

「さあ大邪竜、滅びの時が来た。貴様の結末は、ここで果てることだッ!」

 

 裂帛の叫びと同時、ジークフリートは地面を爆砕して飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 最奥部での決戦が佳境を迎えていたその頃。

 不死の兵たちに攻め込まれていたジークフリート中隊並びに学生チームは、緊急の防御陣形を組んでなんとか持ちこたえていた。

 

「副隊長、B小隊が孤立しています!」

「……ッ! C小隊を!」

「だめです、おれたちも身動きが取れません!」

 

 一秒のロスが死に直結する戦場において。

 自分も剣を振るって目の前の兵を薙ぎ払いながら、副隊長は奥歯を噛みしめた。

 

(まずい! どこかが崩れたら、一気に落とされる! 隊長たちはまだか……!?)

「もう諦めろ! 我々に対抗できるはずがないだろう!」

 

 こちらを嘲りながら、敵兵が自分の腹部を撫でた。

 確かに致命傷を与えたのに、もう傷一つ残っていない。

 相手だけが死なないという理不尽────しかし。

 

「大丈夫です。私が行きます」

「!」

 

 横を小さな人影が駆け抜けていった。

 夜闇と雨にぼやけながらも、黒髪が跳ねる。破壊され凸凹になった大地を獣のように疾走し、あっという間に彼女──ユイ・タガハラが、孤立しているB小隊の元にたどり着く。

 

「……ッ! タガハラさんか!? 一人で来たのか!?」

 

 小隊メンバーが彼女の姿を認識して驚愕の声を上げる。

 取り囲み、確実に追い詰めつつあった敵兵も、増援を認めた。しかしそれが学生服の少女一人と知るや、訝しげに眉を寄せる。

 

「学生一人だと? 何を────」

「無刀流、一ノ型」

 

 次の瞬間に意識が落ちた。そこから強制的に再生が始まる。身体の内側でうじゅるうじゅると臓物が再生していた。

 自分が地面をごろごろと転がっていることに、再生してから気づいた。

 文字通り、気づけば死んでいた。

 

「……ッ! その女はやばい!」

 

 血を吐きながらの叫び。だがもう遅い。

 闇の中を徒手空拳の少女が稲妻のように疾走した。すれ違った兵士がもんどり打って倒れ込む。身体内部を破壊され、絶叫を上げていた。

 

「死なないなんて、本当にいいですね……手加減しなくて済みます」

 

 B小隊の兵士たちは言葉を失った。背筋を嫌な汗が伝う。

 敵の制圧に十秒かからなかった。行動を止めて、彼女がゆっくりと、こちらに視線を向ける。

 闇夜の中に輝く双眸。

 

「私の無刀流は、人体の破壊に特化した技術。必然……一定以上のレベルにある相手でなければ、振るってはいけない。あるいは不殺を貫くのなら、威力を制限しなければならない。でも今は違います。死んでも蘇ってくれるんでしょう?」

 

 味方だ。

 味方なのに──この戦場で最も恐ろしいのは、彼女だ。

 小隊騎士たちは恐怖に立ちすくみそうになった。

 

「……ッ! いいや、心強い。助かりましたよ!」

 

 頭を振って、小隊長が声を上げた。

 

「ええ。では早急に戻りましょう。陣形を立て直す必要があります」

「了解です!」

 

 倒れ伏した兵士たちが、再生して立ち上がろうとする。

 それを無造作に蹴り飛ばして、ユイは戦場の俯瞰図を意識した。

 

(……こっちが防衛陣形に切り替えてから、持ちこたえられてはいる。だけど、時間の問題?)

 

 冷静な思考回路が窮地を告げていた。

 だがふと、蹴り飛ばした敵兵を見る。再生が追いついていないのか、まだ立ち上がれていない。

 

 追いつかない?

 

 最初は────あっという間に再生していたはずなのに。

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

「こいつら……! さっきから再生速度が落ちてる……!?」

 

 ジークフリート中隊副隊長を擁する本陣にて。

 騎士たちと合流し防戦を継続していたリンディが叫んだ。

 互いに背を預け合い、不死の兵たちを吹き飛ばし、近づけさせない。だが疲労は蓄積している。

 

「本当かい!? 僕には、全然分からなかったけど……!」

 

 肩で息をしながら、ロイが応じる。

 憲兵隊『ラオコーン』の兵士たちは変わらず、致命傷を受けても回復して戦列に戻ってきている。

 

「いや、なんとなくリズムが変わったぜ! なんつーか、戻ってくると思ったのに戻ってこねえタイミングがある!」

 

 一人で左翼を丸ごと担当しているユートが、声を張り上げて応じる。

 単体ユニットとしては最強クラスである以上、負担が増えるのは道理。だが実戦慣れしていない彼が限界に近づきつつあるのは明白だった。

 何か打つ手はないかと誰もが考えながら、戦っている。

 そんな中。

 

「いいえ、違います──再生の全体的なペースは落ちていない、けれどサイクルが発生しています。絶えず再生し続けるのではなく、ダメージを受けて、一定の時間経過で回復するよう方式が切り替わったんです」

 

 正面。

 四人ほどがこちらに向かい前進していた。その四人ともが宙に舞った。

 首や四肢があらぬ方向に曲がっている。強い衝撃だけではない、人体の脆弱性を的確に突いた攻撃だった。

 

「そのエグい攻撃は……ユイね!」

「リンディさん、その認識のされ方は、反論できないですけどかなり抵抗があります」

 

 B小隊を救助して戻ってきたユイが、そのまま本陣に戻る。

 副隊長だけでなく、ロイたちにも聞こえるように、ユイは腹の底から声を出した。

 

「ロイ君、ユート君、リンディさん! 私に考えがあります!」

「どうせ死ぬほど残酷な方法だろ!?」

「なかったことにしていいですか?」

「よしてくれ! ユート謝れ! 彼女に詫びるんだ!」

「いやもうホント俺が悪かった。完全に俺が馬鹿だった、ホントごめん」

「皆さんの中で私の認識どうなってるんですか……」

 

 まったくもう、と頬を膨らませる彼女に対して、副隊長も顔を背けた。

 

「……ねえ。怒らないので、その辺一度話し合いませんか?」

「……ごめんね、ユイ」

「謝られるのが一番傷つきます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 何度か目をこすった。

 一応幻覚ではないらしい。

 ふと顔を横に向けると、水のヴェールこそ展開したまま、カサンドラさんが呆然としていた。

 彼女もゆっくりとこちらを向く。わたくしはもう何も言えなくて、適当に微笑んだ。向こうも曖昧に微笑む。

 

「ハァアァアアアアアアアアッ!!」

『ぐぎゃああああああああああああああ!?』

 

 わたくしたちの眼前。

 大邪竜の解体ショーが始まっていた。

 ブレスや、翼による殴打、あるいは尻尾での打ち払い。

 抵抗こそ派手だが、ジークフリートさんにはまったく通じていない。ブレスは切り裂かれ、翼はへし折られ、尻尾が根元から切り飛ばされた。

 超速再生によってコンマ数秒で元の姿に戻っているが、痛いだけだと思う。

 

「諦めろ、ファフニール! 貴様の落日は既に訪れたぞ!」

『黙れェェェエエッ!』

 

 都合何度目かも分からないブレス。

 ああなるほど。こいつ、存在が強力すぎて、攻撃パターンがそんなにないんだ。

 ジークフリートさんが剣を真っ向から振り下ろした。ブレスを両断し、その勢いのままに飛翔した斬撃が、ファフニールを縦真っ二つに切り分ける。

 

「……貴様が因子を継いだ。人間に、邪竜の因子を与えた。巡り巡ってそれが今、貴様を討つ。皮肉なものだな」

 

 無限に再生し続けるファフニールを、無限に殺し続けるジークフリートさん。

 ある意味では膠着状態だった。

 気の毒そうにすらしている騎士に対して、邪竜が怒りの息を漏らす。

 

『ああ、間違いだった! あんな愚かな真似を何故したのか……!』

「山にでも、若い女をさらったのか?」

『気の迷いだったのだ……!』

 

 流石にジークフリートさんも目を丸くした。

 えっ? えっ、恋愛したの? え?

 

『あれは……気の迷いだった。あんな女に、一時でも惹かれた自分が愚かしい。常に自信に満ちあふれ、我が道を信じて疑わない。愚かとしか言いようのない女だった』

 

 へ、へえ。すげえな異種間恋愛じゃん。しかもこれ悲恋か?

 

 

みろっく へえ、そんなことあったんだ

日本代表 知らん知らん知らん!責任者ァ!

無敵 いや……ちょっとすみません……今マジ……言葉でないッス……

日本代表 オーバーヒート起こしてんじゃねえよ!

 

 

 まあ色々あるんだなあと思って、視線を前に戻す。

 ジークフリートさんは──笑っていた。

 え、なんで? 笑えるポイントあった?

 

「邪竜ファフニールよ。我が遠い遠い祖先、一つの原初よ。一つだけ同意したいことがある」

『……なんだ』

「分かるさ。自分を疑わないことが、貴くて、美しくて……ああ分かる。分かるとも。きっとオレとお前は似たところがあったのかもしれないな。その在り方は、ひどく眩しく見えたんだろう?」

『……! 黙れ小僧! 知ったような口を!』

 

 ファフニールが翼を広げ、大空に飛び立った。

 その威容に、後方で聞こえていた戦闘音がやむ。兵士たちも見上げて呆然としているだろう。

 存在のスケールが違った。一方的な膠着状態ではあったが、今なら分かる。ジークフリートさんが殺し続けていなければ、大邪竜は一瞬で戦場をひっくり返せてしまうのだ。

 

『我は新たなる世界を築く! そこでは一切の善を許さない! 非道、悪逆こそが正位置となる! 正義を振りかざすだけの虫けらに生きる場所など与えない! 与えてたまるものか……!』

 

 いやに感情的な声だった。

 ああ、そうか。

 あいつにも理由があったんだな。

 

「……そうだな。お互いに理由があって、ここにいて、敵意を向け合っている……」

 

 何か納得したように、ジークフリートさんは数度頷いた。

 それからゆっくりと、こちらに顔を向ける。

 

「マリアンヌ嬢……君の言う通りだったよ。オレは騎士であり、騎士でない面も持つ」

「……それは、ええ。そうでしょうね」

「自己の追求を至上とすることは、決して正義ではない。ならばオレは騎士であり、人間であり、そして同時に……悪ですらある。この力に適性があるのも当然だ」

 

 誰よりも強くなりたいというエゴイスティックな面。

 己こそが最強だと叫びたい独善的な面。

 それもまた、ジークフリートという男を構成する確かな要素だ。

 

「そしてそれは──君だって同じだ」

「……!」

 

 飛翔する大邪竜から視線を切って、彼はわたくしに歩み寄ってくる。

 

「心が砕け、挫けそうになって、憎悪に身を任せそうになる君がいたっていい。だがそれだけに呑まれてはいけない」

 

 お父様を殺された。

 憎悪が止まらなくなって、心の一部が欠けてしまったようだった。

 初めての感情は堰を切って、殺意の奔流となってルシファーの召喚に至った。

 

 だけど、それでもいいのだと。

 ただ、それだけではないのだと。

 彼は言っていた。

 

「君が羨ましかった。だけどそれ以上に、君という存在はオレにとっての救いだったんだ」

「え……?」

「あの令嬢は月のようだ、と言ったな。だが……オレにとっての月は君だ。夜の闇の中でも、歩く道筋を示してくれる存在(ひかり)なんだ」

 

 少し恥ずかしそうにはにかんで。

 そこから一転して、騎士は真っ直ぐわたくしを見つめる。

 

「君は……君は、どうありたい?」

「……わたくしは」

 

 胸に手を当てた。

 確かな鼓動が響いている。

 果たしてこの心臓は、何のために動いているのだろう。

 

 わたくしは、負けない自分で在りたい。

 最後の瞬間に敗北を宿命付けられているからこそ。

 燃え尽きるまでの輝きだけは、誰にも譲りたくない。

 

 なら、ここは?

 今この瞬間は、待ち望んだ決定的敗北の瞬間なのか?

 

 

宇宙の起源 ……そうだな。そうだったな。お前はここで立ち上がれるんだよな

日本代表 え? 何?

宇宙の起源 諦めるのか? そんなわけないだろう。諦めないだろう、お前は

宇宙の起源 あの日、契約資格もないくせに俺の力を行使した女が、ここで諦めるはずないだろう?

日本代表 えっ待って何の話? え? 待って待って待って

宇宙の起源 すまん今思い出した

日本代表 は?????????

 

 

 ……違う。

 そうだ。彼女を倒したいのは、復讐が全てではないのだ。

 今ハッキリと、願いが、意思が、焦点を結んだ。

 

「……ふふ。あの時とは逆ですわね。これでは借りの方が増えてしまいましたわ」

「む? ああ……なるほど、ルシファーの端末と初めて遭遇したときが二度目なのか、なるほど。せっかくだ、終わったらちゃんとドラゴンをまたいで通ってみるか?」

「んもおおおおおお! それやめてください! いつまで覚えているんですの!!」

「いだっ、ちょっ、すまないこの呼び方が好かないのを忘れて、いだっ。マリアンヌ嬢オレが悪かったから腹部をドスドス殴らないでくれ痛い、本気で痛い」

 

 一通り八つ当たりが終わり、息を吐いて離れた。

 その場のノリで名乗るもんじゃないなやっぱ。

 

 彼は真っ直ぐ大邪竜の元へと。

 わたくしは、銀髪の令嬢の元へと。

 別の方向へ歩き出す。

 

「ジークフリートさん、邪竜は任せます」

「ああ」

「そして信じてください、わたくしが彼女に打ち勝つことを。わたくしも、アナタの勝利を信じますから」

「ああ、ああ……! 無論だとも! 君が信じてくれる限り、オレはその信頼に必ず応えよう!」

 

 周囲に滞留する鮮血のヴェールに、魔力を循環させる。

 鮮やかに輝くそれが、力を取り戻す。

 

「マリアンヌ──貴女は。貴女は、貴女って人はどうして!」

 

 向かい合う。

 混迷を極める戦場の中心は、間違いなくここだ。

 

 わたくしとカサンドラさん。

 

 勝敗だけなら────全部ジークフリートさんに投げちまった方が、勝率は高いだろう。

 でも違う。そんなもん全ッ然違うね!

 

 だって彼がわたくしに問うたんだ!

 どんな自分で在りたいかって!

 だったら答えは一つだろうがッ!

 

「さあカサンドラさん、決着を付けましょうッ!!」

「……ッ」

「あの大邪竜も! あの最高の騎士も! いずれわたくしがこの手でぶっ倒しますわ! ですが今は違う──今、決着を付けるべきは、わたくしとアナタです!」

 

 右手で天を指さした。

 邪竜の咆哮轟く戦場にて、もう彼女以外は見る必要もない。

 後ろには信頼できる友人たちがいる。

 隣には最強の騎士がいる。

 

 

 なら、わたくしは、わたくしが為すべきことを為すだけだ。

 

 

「ゼールの悪逆令嬢、カサンドラ・ゼム・アルカディウス! アナタの相手はこのわたくし! 王国きっての悪役令嬢、マリアンヌ・ピースラウンドですわ!!」

 

 

 さあ、クライマックスだ!

 











ぬくもり様よりマリアンヌのイラストをいただきました。

【挿絵表示】

前話のラストシーンですね、うーんなんだこの美少女!?
やっぱり時々乙女反応をするぐらいがちょうどいい塩梅なんやなって
またロイの脳が破壊されてしまう……

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