『何!? 何だこいつ!? えっ……ルシ……ルシファァァアア!? なんで!? なんでルシファーが女の子になってるんだ!?!? えっあれ違う!? ルシファーのはずなんだけど……はあ!? 何? 何これ?』
「ま、ま、マリアンヌが……つ、翼が……!? ていうかそんな格好とメイクは……何が……え──ひ、
戦場に激震走る。
ただ二人の超常存在が雌雄を決する場面、そのはずだった。
まっただ中に割り込んで、空気を激変させた女さえいなければ。
「もはや既に遅いですわ。平伏して謝ろうとも絶対に許しません」
漆黒の翼が空を裂く。
深紅眼が戦場を睥睨する。
「わたくしを舞台から下ろし、勝手な演目を勝手に始めた罪。五億回死んでもなお償いきれませんわよ」
ただ自分の願いを譲らないという、それだけのために舞い降りた少女。
その在り様はこう呼ぶしかない。
──英雄。
「それはそれとして、空を飛べるというのはいいですわね! 跳躍ではなく飛翔こそ、高貴なる存在であり一切の他者を見下ろすわたくしには相応しいですわ! ヘヘヘッ……これでもう背が高いイケメンに見下ろされてムカつくこともありませんわ! 飛行能力、最高!」
……英雄!
上空にて翼をぱたぱたとはためかせてドヤ顔を浮かべるマリアンヌ。
いや、まりあんぬ★メテオ。
『そんな巫山戯た真似で!』
膨張した身体から、にじみ出すようにして小さな影が一気に放たれた。
蝗害のように飛翔するは、羽根を持った混沌兵団。空を覆い尽くすほどの軍勢。
「群れなければ成立しない存在など、笑止千万!」
咄嗟にマクラーレンが魔剣を拾い上げて迎撃しようとする中。
マリアンヌは不敵な笑みを浮かべ、頭部に二門のバルカンポッドを召喚。
「撃射・悪役魔法少女令嬢バアアアアアアルカン!!」
砲口が火を噴いた。
秒間数百に及ぶ斉射。それが視界を埋めんとした小型飛行タイプの混沌兵団を、片っ端から撃ち落としていく。
「な……な……何だ……それ…………」
余りにも性能が高すぎる。
単純な魔力弾の射出としては破格の性能だった。
圧倒的な火力で虫の群れを薙ぎ払いつつ、マリアンヌは地面にて唖然としているマクラーレンへ視線を向ける。
「お父様! 先ほどの言葉、決して看過できませんわよ!」
「……ッ!? 何、を……?」
「親子が揃ったのなら為すべきは継承ォォ!? 全ッ然違いましてよ!」
彼女はビシイと右手で父親を指さした。
それから、毅然とした態度で叫ぶ。
「為すべきはただ一つッ! そう、授業参観ですわ!!」
「────は?」
予想外の言葉をぶつけられ。
マクラーレンの機械じみた緻密さ・精密さを誇る頭脳が、完全に停止した。
「なに、を、言ってるんだい?」
「授業参観! 第二弾ですわ!」
「そんなワガママ、よりにもよって今……!」
マクラーレンが厳しい表情をマリアンヌに向ける。
「状況が分かっていないのか! ああいや──認識がまだズレているんだ。ぼくは……私は、お前の父としては、もう存在しない。お前の父親は死んだ。ここに在るのは兵器であり、刃であり、黎明を護るための舞台装置に過ぎない!」
「やめてください! 状況が状況だけにかっこいい気もしますがよく聞いたら結構イタい内容じゃありませんか! 実の父親が中二発言しまくっていると流石に死にたくなります!」
「えっ、何?」
爆発的に敵を駆逐しながら、マリアンヌは悲鳴を上げた。
それからこほんと咳払いをすると、
「それはさておき。知らなかったのですかお父様?」
「ッ?」
「わたくしは、誰よりも先を往く悪役令嬢!」
「……悪役令嬢って何だい……?」
「他人の願いなんて無視して、自分の欲望のためにこそ力を振るう! あらゆる障害を粉砕・踏破し、ぜェェェツたいに最後まで諦めないことこそ、悪役令嬢の誉れッ!!」
「……悪役令嬢って何だい……?」
ビシリと見得を切っての発言。
同時に背部ウィングが蠢動した。
三対六枚の翼が、花開くようにして展開、輝きを放つ。
「斬烈・悪役魔法少女令嬢フルバ────ストッ!!」
その光が圧縮され、レーザービームの刃となり、混沌めがけ無数に放射された。
飛翔する混沌兵団を貫き、そのまま本体へ到達。甲高い、金属をへし折るような破砕音が響き、半固体の表皮が極光に引き裂かれていく。
「これがわたくしの力ァッ! さしずめインフィニットでジャスティスでストライクでフリーダムな攻撃といったところですわ!」
ぐらりと混沌の巨体が揺らいだ。
確実にダメージが入っている──相対するだけで魂が砕かれそうになる邪神を相手に、有効打を入れている!
『馬鹿な……! 何故我を傷つけられる! 我と同じ、神格にまで至ったというのか!?』
「馬鹿も休み休み言いなさい!」
狼狽する
マリアンヌは右手の人差し指で天を指し、雄々しく叫ぶ。
「わたくしは神のように強く在りたいのではありません! 神だろうと倒せるぐらい強くなりたいだけッ! アナタと同じ領域にたどり着いたのではありません──アナタは、通過点の一つ! わたくしの踏み台になれるという栄誉を噛みしめて、そして果てなさいッ!!」
その啖呵を遠くに聞いて。
ロイは、深く、深く息を吐いた。
(ああ、そうだ。マリアンヌ……君はここで立ち上がれるから、君なんだ)
ずっとその背中を見てきた。
追いつきたくて、諦めたくなくて、もがいて、必死に。
遠い、余りに遠いその背中。
(誰にもできないことをするんじゃない。君は、誰もが時間をかけて決心すること、成し遂げられること。それらを一足飛びにやってみせる)
だけど今は違う。
今の自分はきっと、まだ隣には並べなくても、彼女の進む道を切り拓くことならできる。
だったら──今動かなければ意味がない!
「行こう! 今すぐ……! 僕たちにも、できることがあるはずだッ!」
「……ッ!?」
遠方にて、極光が飛び交う絶死の戦場を直視し。
ロイが一歩踏み出し、そう告げた。
ユートは思わず目を見開いた。あの戦場で何ができるというのか。明らかに存在の位相が違う。マリアンヌが対抗できているのも、大悪魔による助力あって、更には幾重もの奇跡が重なった結果だ。そこに自分たちが突撃しようなどと──蛮勇、無謀の誹りは免れない言葉だった。
しかし。
「行きましょう、ロイ君」
瞳に決然とした光を宿して。
次期聖女が、胸の前でぐっと拳を握った。
「ユイ!? お前まで……!」
「だって……まだ、私、諦めたくないです。できること全部やって、それでも届かなかったのなら、仕方ないなって思います。でもまだ、まだ全部はやれていない」
自分の存在意義は自分で決めなければならない。
ユイという少女にとって、それはマリアンヌが教えてくれた原初のルール。
彼女がいたからこそ、自分という存在はこうして立っていられる。
「……流石に、ちょっと私は手出しできないわね。後ろで騎士の人たちと、あんたたちが失敗したときに避難できるよう準備しとくわ」
「助かります、リンディさん」
できることとできないことが分かっているからこそ、リンディは息を吐いてそう告げた。
それから、残りの男二名へ視線を送る。
「そっちの二人はどーすんのよ?」
問われ、ユートとジークフリートは顔を見合わせる。
最初に動いたのはユートだった。頭をがしがしとかいて、唸り声を上げる。
「あ~~……ッハァ~~…………マジで頭おかしい連中ばっかだな……」
「そうさ。僕たちはみんな、頭のおかしい彼女に引っ張られてるんだ。彼女の隣に居続けたいのなら、ある程度は狂わなきゃやってられない。それが問題とは思わないよ。むしろまだそこだったのかい?」
「テメェ! 言いやがったな!」
あろうことか発破をかけるのとマウントを取るのを両立されて、流石のユートもキレた。
「あーもういいぜ! 腹括れってんなら、括ってやるさ! 今の俺は、お前らがいるからこそ生きてんだ! ここで逃げたら生き残っても死んでるみてーなもんだしな!」
そう。
ユートミラ・レヴ・ハインツァラトスは、死んでいた。
ずっと死んでいるのに、生きているような顔をしていた。
冷たく、粘土のように固まった仮面──それをマリアンヌに剥がされた。
「だけど……俺にやれることか。成程な。お前らはすぐ行くだろ? ちょっと別ルートで行く。まあ遅れはしないけど、取ってきたいものがあってな」
「了解だ。ジークフリート殿は?」
ロイの声には少し遠慮の色があった。
何せ元々は邪竜の討伐作戦だった。そこでジークフリートは多大な働きを、というよりもほとんど単独で竜殺しを成し遂げている。既に一つの戦場を終結させた、よりにもよって直後なのだ。
──だというのに。
紅髪の騎士の両眼には、鋭い光が宿っている。
「オレの意思は変わらない。諦めるマリアンヌ嬢も、また一つの、彼女の面なんだろう」
「……ええ、そうですね」
「だからこそ。彼女が諦めてしまったときには、オレたちが諦めなければいい。何故なら、オレたち全員が諦めてしまった時こそ、いつも彼女は立ち上がってくれた」
身体に力がみなぎっていく。
体力はとうに限界。あらゆるエネルギーを使い果たした後の、ぼろ雑巾のような状態だ。
しかしジークフリートは。
「だからこそ、彼女が立ち上がったなら、オレたちも立ち上がるべきだ。そして何より……オレ個人としても。あの戦場に向かう理由がある」
気迫だけで、周囲の騎士たちがたじろいだ。
視線は真っ直ぐに、
「理由?」
「ああ────先祖の墓荒らしをされて、少々腸が煮えくりかえっていてな」
翼から放射するレーザー光線。
絶えず放つそれで、わたくしは兵団を押し留めつつ本体を切り裂く。
【しかし驚いたな】
「はい?」
脳が茹で上がるような集中だった。
世界がスローモーションになり、どこへ攻撃を放つべきかをコンマ数秒ごとに再計算する。
恐らくわたくしの演算能力にも、ルシファーの補正がかかっているのだろう。
【端末とは言え、おれを
「えっ、そうでしょうか?」
【逆におれのどこを『
ブローチがぴかぴかと光りながら言葉を話す。
地獄を統べる大悪魔の問いに対して、わたくしはふふんと胸を張って。
「アナタは天より来たる終末そのもの! すなわァち! 天から降り注ぐのなら、アナタも流星ですわ!」
【絶対に違うぞ】
「でも流星になりましたわよね? 反論がないならわたくしの勝ちですが?」
【強盗が金品を奪ってから所有権を主張しているんだが……】
〇TSに一家言 明らかにお前の理屈はおかしい
〇無敵 盗人猛々しいの語源かよ
チッ。外野がうっせーな。
だがリミットがあるにも関わらず戦場は膠着状態。
……これ、DPSが足りてねえな。
ならば!
「お父様! 迎撃を任せます!」
「……ッ! 分かった、けど何をするつもりだ!?」
翼からの放射を切り上げると同時、お父様が無詠唱で剣群を召喚。打ち出し、炸裂させ、羽虫共を薙ぎ払った。
この絶え間ない物量作戦に勝利するためには、同じ土俵で戦ってはいけない。
恐らく向こうのリソースが有限ではないのだ。だったら別の角度から殴るしかねえ!
「当然! 勝つための工夫でしてよ!」
叫ぶと同時、意識を集中させる。
バルカンもフルバーストも、やろうと思えばやれた。
単純な魔力放出ではない。わたくしがイメージしやすいプロセスを経ることで、格段に威力や精度が上がっているのだ。
「イメージするべきはこの場で最も適切な攻撃方法! 面制圧ではなく突破力ッ!」
【ん? ちょっと待て。いやそのイメージは違う。流石にそれはちょっと違うぞマリアンヌ違う! 何してるんだ!?】
翼の根元に光が結集して、形を作っていく。
──長大な射程を誇るロングカノンブラスター。
右肩に背負って両腕で構えて撃つ、必殺の戦略兵器!
【よせ! やめてくれマリアンヌ! おれのそこはそんな風には曲がらない!】
「うるっせえですわ! 前にわたくしの身体で好き放題したでしょう! 当然の報いでしてよ!」
【その件に関しては本当にすまなかった! だがこれは────ちょっ待っ、あっ】
「断撃・悪役魔法少女令嬢ブラスターッッ!!」
【曲がったわ…………】
完成!
真っ白な砲身が展開される。ガコンと音を立てて砲口がスライド。火花を散らして魔力をチャージ。
網膜に
「消し飛べぇええええええええええええええッッ!!」
チャージ完了と同時に発射。
砲撃というよりは光の波濤だった。滞空しながら放ったにもかかわらず、余波で地面が蒸発していく。
外しようがない。敵の軍勢を分子レベルに分解しながら極光が迫る。
『そんなもの……!』
ぎょろり、と。
混沌の頭部らしき箇所に、金色の球体が浮かんだ。
それが眼だと理解した途端、向こうも光を放った。魔力砲撃と魔力砲撃が激突。完全に相殺し合う。
激突の余波に大地が爆砕する。押し込もうとするが、止められた。数秒間放出しきった後、お互いの放射が同時に止まった。
チッ、防がれたか。だけど、軍勢生成が止まった。
「リソースは無限であっても、同時にやれることは有限のようですわね!」
『……貴様。コケにしてくれるな……!』
怒り心頭と言った様子だ。
おいおい。神様気取るんならもっと余裕持った方がいいぜ? いやでも神聖存在って結構レスバしてたしこんなものなのか。
「うおおおおおおい! 娘の攻撃に巻き込まれて死ぬところだったんだけど!?」
一人納得していると、眼下から絶叫が聞こえた。
見れば断絶次元でなんとか爆発の中心点で生き残ったらしいお父様が、煤けた頬とちょっと焦げたスーツで叫んでいる。
ふーん。へ~~~~~~~~。
「あら? お父様? あらあら? わたくしのお父様は死んだはずでは?」
「…………………………後でお説教だ」
お説教! 心の躍るフレーズだ。
人生初のお説教にちょっとワクワクしていると。
〇火星 気づいてるか知らんけどお前今落ちてるぞ
は?
慌てて確認すれば本当に浮遊能力を失って落下していた。
【どうやらこの状態では飛行に割けるリソースが残っていないようだな】
「なァに冷静になっちゃってるんですかこの人!?」
【人ではないが?】
うるせえよ!
ブラスターをしまうか悩んだとき。
遠くから──エンジン音が響いた。
「……ッ!」
知っている。その音は知っているぞ。
ガバリとそちらを見る。黒髪の男が溶岩の鎧を纏い、こちらへ疾走している。
またがっているのは鋼鉄の駆動機械。
「マリアンヌ──!
「ユート!?」
正式名称
即ち────超かっこいいバイクだ!
「ナイスなタイミングですわ! アッシーの称号を差し上げましょう!」
「なんかよく分かんねえけどそれ凄え嫌だ! 遠慮しとくわ!」
飛行能力を再起動させることなく、ユートのバイクの座席後部にダイナミック着地。ギビィンと嫌な音がしたけど、まあわたくしはリンゴ三個分の重さしかないし大丈夫だろ。
ちょうど二人乗りの姿勢にて、砲手のように悪役令嬢キャノンを構える。
「いい見た目になったじゃねえか! それは大悪魔の趣味か!?」
「わたくしの趣味ですわ! こんなハイセンスな衣装が顔と声と強さしか取り柄のない悪魔に思いつくはずがないでしょう!」
【切るぞ】
「あっ嘘ごめんなさい待って今それされたら本当に困ります」
力貸してくれてる相手に喧嘩売っちゃダメだな。いやでもいつかは倒す相手だしな……
超高速で疾走するバイクの上でも、照準にブレはない。
混沌がこちらへ目玉を向ける。砲撃の予兆。
「もっと速度は出せないのですか!?」
「
遅い。正直ちょっと速度が足りていない。
だが飛んできた砲撃を、マシンランナーはすり抜けるようにして回避した。
敵の攻撃が当たらない。ユートが地形をうまく使っているのだ。
いいや……それだけじゃない。
「倒せない相手じゃない、な!」
「ええ!」
混沌の足下。
兵団の一部を引きつけてロイとユイさんが戦っている。
陽動か──無茶な真似を!
「流石に下がった方が────」
そう呼びかけようとして、目を凝らして、ちょっと絶句した。
混沌兵団が湧き上がっている、そのもっと奥。
「再度、力をお借りします! ────
なんだあの人無敵か?
〇無敵 えっ嘘アレ!? パス安定してるの!? は!? 待って待って流石に二度目は反動に耐えられるか怪しいって止まってジークフリートさん!! ダメだ絶対止まらねえわこれ!!
どうやら本当に無敵だったっぽい。
単独で混沌の前に躍り出ると、ジークフリートさんは大剣を振るって斬撃を飛ばす。
表皮に斬撃痕が刻まれ、ぶしゅりと体液が噴き出た。うわっ嘘、なんでダメージ入ってんだよ!?
『何だ、貴様ッ……? 邪魔だ!』
「邪魔ときたか! ならば盛大に邪魔させてもらおう!」
混沌がかがみこんで、ジークフリートさんへ至近距離から砲撃を放つ。
それに対して回避せず、騎士は真っ向から剣を叩き込んだ。
「あ──あの人、なんて無茶を……!」
「ハッ……手前が言うかよ。いや、ジークフリートも
ユートの軽口に、しかし開いた口がふさがらず言葉を返せない。
真っ向から受け止めたというのに──無傷!
「なるほどな。反吐の臭いがすると思えば──やはり貴様も悪だったか」
魔力砲撃を叩き切って、ジークフリートさんはフッと笑みを浮かべる。
『────馬鹿な。あり得ない。何故……何故、生きている!?』
「貴様はファフニールのコアを材料に召喚されている。だから、本来どういう存在なのかは知らないが……
真正面で啖呵を切って、彼は全身から加護の光を放った。
眩い光と、正反対の昏い光。決して相容れないはずの、二色の光をまぜこぜにして身に纏う。
何度見ても光と闇が合わさり最強過ぎる。これマジ? 最低系主人公じゃん。
『……ッ!? 貴様、なんだそれは……ッ!? 2つの相反する加護を合わせ持つだと!?』
混沌が薙ぎ払うような形で魔力を放つ。
雨あられに降り注ぐそれを、ジークフリートさんは意にも介さず正面突破。
勢いのまま飛び上がり、かがんでいた混沌の頭部へ直接大剣を叩き込んだ。
「それはオレが──人間だからだッ!」
乾坤一擲。
渾身の唐竹割りが、頭部を真っ二つに切り裂いた。
「貴様とは違う! 人間だから、善悪の両面を持つ。愛憎の両面を重ねる。異なる他者でも──受け入れられる!」
……ああ。
そうだ。その通りだよ、ジークフリートさん。
わたくしたちは人間だ。人間だからこそきっと、矛盾するような二面性を持つ。
だけどそれは悪いことじゃない。
いつかの敗北のために勝利を積み重ねたいわたくしは、矛盾しているように見えても、生き物として成立している。
「それはそれとしてわたくしを無視してんじゃねェェ────ですわ!!」
とっくの昔に完了していたチャージ分を叩き込んだ。
真横から直撃。キレイに二つに分かたれていた混沌の頭部が、根こそぎ消し飛んだ。
「うわっ急に叫ぶなよビックリした!」
【直撃か。しかし足りていないようだぞ】
ルシファーの指摘通りだ。
消し飛んだ頭部が、根元からうじゅるうじゅると再生していく。
「まだ再生するのかよ……!?」
〇外から来ました いや……再生、ってのはおかしい。再生なんてする必要ないはずだ……
再生がおかしい?
でも上位存在って再生している印象が──いや。ルシファーは傷ついたのを見たことないわ。ファフニールは権能として再生を持っていたからんっあっあああああこれそういうことか!
「完全に理解しましたわ!」
「は?」
「ユート、援護ありがとうございました。勝負を決めに行ってきます!」
ブラスターを一時的にしまい込んで、翼に飛行用エネルギーを充填する。
意図を理解したらしく、ユートはフッと笑った。
「ああ。行ってこいマリアンヌ。思いっきりぶちかましてやれ!」
「ノンノン。今のわたくしは、悪役魔法少女令嬢まりあんぬ★メテオ! クラスの皆さんにはナイショですわよ?」
「クラスっつーか国家機密行きだろなあこんなんんん!!」
ユートの絶叫を背中越しに聞いて。
マシンランナーの椅子を蹴って、わたくしは大空へ舞い戻る。
真っ直ぐに混沌めがけて飛翔し、高度を調整。
ちょうどジークフリートさんの隣にハードランディングの形で、地面を削りながら着地した。
「マリアンヌ嬢!」
「突破します! やつはファフニールのコアを原料としていました! ただここに在るだけではありません、存在を固定するための座標がある! そこを叩けば崩せるはずです!」
〇第三の性別 お前その理解力をもうちょっとRTAに生かしてみない?
〇red moon 一生できなさそう
そこは素直に褒めるだけでいいだろ! なんでけなしてくるんだよ!
コメント欄を顔で威嚇していると、ジークフリートさんが得心したように頷く。
「なるほど理解した。そしてコアの座標は、ファフニールの気配を辿ればいいということか!」
「そういうことですわ!」
互いに視線を交わし、同時に顔を前へ向けて踏み込んだ。
全身に加護の力を滾らせたジークフリートさんと、大悪魔の力を纏ったわたくし。
『
はあ!? 知らねーよバーカ!!
「少しばかり激しいナンバーですが、ついてこれますか!?」
「ダンスは不得手だが、剣を使っていいのならば話は別だ! 遅れは取らん!」
「流石ですわね!」
無数の攻撃をかいくぐり、時には弾き。
極光の嵐の中を猛進していく。
『……ッ。貴様ら、愚かな選択をしたな』
【──! マリアンヌ!
ブローチが一層光って危機を告げた。
同時、隣のジークフリートさんが、がくんと膝をついた。
え?
ちょっ……え? 急にどうしたの?
慌てて周囲を見渡す。ロイとユイさん、ユートまでもがその場に倒れ、目を見開いていた。
そしてあろうことか、お父様でさえもが、ぐらりと身体を傾がせ、魔剣を支えになんとか立っている有様だった。
何? 何? 何?
【やつの法則は抽象的なものだ。名付けるならば『破線・流転』といったところだが……】
『そうだ。既にこの一帯は、我の法則内にある。ここではあらゆる個体が我を失う──生存するのは一にして全のみ。全であり一でもある、この我だけだ』
え? 何言ってるのか全然分からん。
マジで吟遊は勘弁してくれって。
【やつの権能は、境界線を破るんだ。個の存在として成立するための防衛ラインをかき乱す。言葉としてはパッとイメージしにくいものの、効果は絶大な代物だぞ】
確かに、お父様にすら効力を及ぼしているのと言うのは、驚愕に値する。
……それはそれとして。
「────で、わたくしには効いていないみたいなんですけども?」
『何で……?』
【分からん……】
わたくしと作中ラスボスと作品外邪神は、揃って首を傾げる。
なんかとりあえず曖昧に微笑んでおいた。
「いやほら……わたくし、自分で言うのもあれですが……ちょっとだけ我の強いタイプですから……」
『いやちょっとだけで法則に抗われても困るんだが』
【見てきた人間の中で最も我の強い女だからな。おれも鼻が高い】
『え、もしかして付き合ってんの?』
「そんなわけねえでしょうがあああああああああああ!! 断撃・悪役魔法少女令嬢ブラスタァァ──ッッ!!」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
至近距離でブラスターを展開、即時発射!
頭部を焼き払って、わたくしは怒り心頭のままに叫ぶ。
「わたくしは孤高にして唯一の存在! 夜空を切り裂く一筋の流星ッ!! 群れることなく、他者と混ざり合うなんてもっての他! わたくしの願いを叶えられるのはわたくしだけなのだから、アナタの法則なんて知りませんわ!!」
真っ向から叫ぶ。
混沌は損傷を回復しながらも、目玉をこちらに向けて呻いた。
『ふざけるな……マクラーレンの娘とはいえ、ここまでの力を有するはずがない!』
「ええ、わたくしが強いというだけではないでしょう。ただ……
『────────────は?』
うん。
叫びながらなんとなく分かった。
ルシファーの解説もあって理解出来た。これはおかしい状態なんだ。
「混沌、ってこれ、法則化させたら意味ないでしょう」
『何、を』
「もしかして自覚していらっしゃらない? でしたらなんと哀れでしょう! アナタ本当は、そういった法則をかき乱す存在でしょう?」
これは本来、法則化しない権能のハズだ。
それが世界の理という枠組みに押し込められてしまっている。
本来の力なんて発揮できるはずがないのだ。
【知っているか、
その時、胸元のブローチがぴかぴか光った。
『ルシファー、貴様……!』
【聞け、
ずんと、腹の底に重力を感じた。
それだけの迫力、いや凄みのある声だった。思わずわたくしですら息を止めて、耳を澄ましてしまう。
ルシファーはブローチの形でありながらも、圧倒的な存在感にままに語り始めた。
【おれは山田は市川が好きに違いないと思い、確証を持っているからこそ安心して読めた。だが違ったんだ……邦キチが部長に対して向ける感情が恋愛なのかどうなのか、おれには分からない。だがその不確定性が良いんだ。先の読めなさこそが、おれを昂ぶらせている……!】
『えっ…………キモ……』
【今だマリアンヌ!!】
「
経緯は最悪だが隙ができた!
ブラスターを解除。
わたくしは右手に全ての力を載せて、最高速度で飛び込む。
『しまッ』
おっせえよバーカ。
狙いは定まっている。
膝をつきながらも、ジークフリートさんはずっと一点を見つめていた。わたくしに最後の道標を示してくれた。
みんながつないでくれた。
みんなが支えてくれた。
だから、負けるわけにはいかねーんだよッ!!
「必殺・悪役魔法少女令嬢楽園追放パァァァァァ────ンチッッ!!」
渾身の力で。
右ストレートを、ただ真っ直ぐに撃ち込んだ。
『ぐ、ぅおおおおおおおおおおお!?』
混沌の本体へと命中。
身体を削りながら、真っ直ぐど真ん中を貫く最強の拳。
『貴様は……!? 貴様は、何だ!?』
「言ったでしょう! 悪役魔法少女令嬢であると!」
魔法少女とは、誰かの願いを叶える存在。
だがそれだけじゃない──
「魔法少女とは! 誰かの願いを叶える存在であり、誰かの願いを守る存在であり! そして、決して負けない存在!」
だから!
「だから、人々の願いを食い物にする『神様』如きが! 魔法少女に勝てるわけないでしょうがッ!」
火花が散る。視界を極光が灼く。
『こんな───こんなこと! あってたまるものか!』
混沌の抵抗が僅かに、攻撃の進みを遅らせた。
ルシファーの力が解けていく。クソ、リミットかよ。
コンマ数秒でいい。あとコンマ数秒でコアを破壊できる!
ほんの刹那──────────
温かい感触が。
優しい水の感触が右手を支えて。
狙い過たず。
バキン、と、存在そのものを破壊する音が響いた。
雨雲が途切れる。
夜が明ける。
天へと続く光の梯子が、雲の切れ間から差していた。
長い、長い夜が、やっと終わった。
人々が顔を上げる。
音が消えていた。
寄せては返す波の音。
そして誰もが、自然と、一点を見た。
舞い降りた神。神に値する存在。
倒れ伏したその残骸の上で。
天を指さして、少女が意気揚々を胸を張り、不敵な笑みを浮かべている。
「上位存在!? 滑稽至極! 神域存在!? ヘソでプールが沸きますわ! 存在の格ごときを誇って馬鹿馬鹿しい! 最後に立っていた者こそ勝者! 肩書きも地位も名誉も栄光も全ては勝利の後に立つもの! 故に言いましょう! アナタが下でッ!! わたくしが上ッ!! このわたくし、マリアンヌ・ピースラウンドの名を刻んで一人寂しく無為の常闇に還りなさいッッ!!」
「ヘソでプールを沸かせるのか、凄まじいスキルだな……」
ジークフリートの感嘆するような声に、マリアンヌはさっと顔を逸らした。
天魔(と一緒に)覆滅する
碑文つかさ様からマリアンヌのイラストをいただきました!
https://twitter.com/Aitrust2517/status/1303989467716268032?s=20
https://www.pixiv.net/artworks/84280321
悪役魔法少女令嬢のイラストです!悪役魔法少女令嬢って何?
ポージングはなんとぼくの大好きなクウガを意識してくださったと言うことで、感無量です……!
あと顔が凄く良い。メッチャクチャ顔がイイ感じ。可愛い。本当に可愛いんですよねこのマリアンヌ……
ぬくもり様からイラストを三点いただきました!
https://gyazo.com/a6d09c49549b636705c41ad2ae2a8ceb
3-10における史上最悪のアベンジャーズ・アッセンブルのシーンです。
それぞれがイメージしてるマリアンヌ、服装はもちろん表情まで細かく違うの凄くないですか?解釈の精度エグすぎて椅子から転げ落ちました。そうそう全員微妙に違うマリアンヌを見てるんだよな。
それはそれとしてアロハシャツ騎士の破壊力がヤバイ。普通にこれは違法なのでは?腹筋ヤバ……
https://gyazo.com/6450b3974794501dd691e04d4ac9060f
続けて悪役魔法少女令嬢です!
こっちは悪そうな顔してますね。地味に服装が身体のライン出まくるやつでえっちだ……ロイの性癖が破壊されてしまう!
なんでもポージングの際にこちらもぼくの大好きなデスティニーガンダムを少々参考にしたとかで、異常に作者の性癖がバレまくっててウケてます。
https://gyazo.com/8150c02f69fea499cb94d0a6d3c5437e
こっちはキラキラしている悪役魔法少女令嬢です!
なんかお菓子と一緒についてきそうな顔してんなお前な。
過剰魔力の噴射をファーとして表現していただいたの結構好きです。ルシファーの力を借りてるからファーなんですね。すみません腹切ります。
次回でCHAPTER3完結です。