TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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INTERMISSION3 ぱじゃまぱーてぃー!

 ずぶぬれになったリンディを回収して、わたくしはとりあえず彼女をシャワールームへ叩き込んだ。

 馬車を引いていた馬は、雨でぬかるんだ地面に足を取られていたらしい。彼女の家の馬は、ひとまずはわたくしのヴァリアントと魔法による浮遊補助で屋敷まで運び、明日の朝一番に獣医へ見せる手はずとなっている。

 馬の怪我って前世だと結構致命傷になりがちなイメージだったが、こっちの世界だとそうでもないのだ。妙なとこでは現代社会を超えてるから困るんだよなこのファンタジー世界。

 

「一緒に乗ってた御者さんは大丈夫でしたか?」

 

 リンディ用の着替えを適当に見繕っていると、後ろからユイさんが声をかけてきた。

 うーん……なんと言ったものか。

 

「大丈夫、だとは思いますわ」

「……?」

 

 歯切れの悪い返答をしてしまった。

 振り向くと、ユイさんは訝しげな表情をしている。

 

「大丈夫だと思うって……屋敷に入れてあげないんですか?」

「固辞されましたわ。それに、馬車をひとまず倉庫に誘導した後、御者の方はリンディをお願いする、とだけ言って……寝てしまいました」

 

 まあ、とユイさんは目を丸くした。

 そりゃ馬車で寝たって聞いたらびっくりするわな。

 

「そんなに疲れてたんですね……なおさら寝床を貸した方がいい気もしますけど、断られたんですよね? それなら仕方ないかもしれません」

「……そうですわね」

 

 詳細は、まあ伝えてもいいし伝えなくてもいいだろう。

 あのハートセチュア家お抱えの御者は馬車の中で、()()()()()()()()()()()にして、一瞬で意識を落とした。

 訓練を受けた兵士でもあんな寝方はできない。おいおいのび太君かよと思ったが、何の理由もなくのび太君みたいなことをやれるはずがない。

 

 ハートセチュア家、か。

 確かな胸騒ぎを覚えつつも、わたくしは棚から引っ張り出した着替えを抱え、シャワールームへと歩き出した。

 

 

 

 

 

配信中です。
 
上位チャット▼


苦行むり ぱじゃまぱーてぃーの話の時間だ!

TSに一家言 キタキタキタキタキタ!

宇宙の起源 野郎ども!録画の準備はできたか!

ミート便器 この瞬間を待っていたんだよな

トンボハンター 百合勢多くない?

適切な蟻地獄 なんだかんだ全員美少女だからな

red moon チンパン戦闘マシーンオカンの三段構えか

木の根 頼むから普通に百合百合してくれ

みろっく 本当にみんな顔はいいな……

外から来ました なお中身

日本代表 今日ぐらいはゆっくりできそうだな

無敵 フラグ乙

日本代表 フラグじゃねーし!ガチだし!もうベッド入ったから!

無敵 そのベッド、消えるよ

【百合咲き誇る】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【パジャマの園】

2,298,456 柱が視聴中

 

 

 

 

 

「ふー、ありがとね。助かったわ」

「いえいえ、お気になさらず」

 

 普段わたくしが寝ている寝室にて。

 窓際の小さなテーブルを挟み、向かい合う形でユイさんとくつろいでいると、ドアを開けてリンディが入ってきた。

 濡れそぼった髪をタオルで拭きながら、彼女は部屋を見渡す。

 

「前に来たのはだいぶん前よね。本棚いくつ増えてるのよこれ。書斎使えばいいのに」

「書斎はお父様の書物でパンパンですわ。別の部屋を書斎にするのも考えましたが、なんというか生活空間を一つにまとめたかったというか……」

「ふうん? あんたそういうとこ結構庶民寄りの感覚よね。空間が広いと持て余してもったいないってよく言ってるし」

 

 ぎくっと肩が跳ねた。中身を見透かされている……!

 

「ま、まあ個人の好みでしょう。部屋にものが多いと不安ですか? 地震が起きても倒れないようしっかり固定していますわよ」

「ああ、固定魔法? 便利よねー」

「いえ。レーベルバイト家が作った『転倒防止! ふんばりくん』を差し込んでいますわ」

「何??」

 

 フフン。何を隠そうこれは魔法が使えない庶民向けに、わたくしがアイディアを持ち込んで生産してもらった商品だ。

 前世の日本のような地震大国ってわけではないが、備えがあるに越したことはない。意外とプチヒットしたらしく、それなりの分け前をもらったぜ。

 

 

火星 知らんうちに前世知識無双してるぞこの女!?

 

 

 舐めるな。わたくし、隙あらば無双していくからな。

 本棚の底部と天井接触部に取り付けられたストッパーを眺め、リンディは感心したような声を上げる。

 服装がワイシャツだけなので、ちらちらライムグリーンの下着が見えていた。ユイさんはそれに気づき、そっと顔をわたくしに向けた。

 

「あの……マリアンヌさんが、用意した服ですよね……?」

「? 何か?」

 

 何か言いたげにしている次期聖女だが、何の問題があるんだ。

 おん? 何か文句があるのか? オォン!?

 

「うわー、知らない本がたくさんね……あっ、デザイン衣装のカタログがしれっとあるのね……」

 

 リンディは本棚の片隅から薄いカタログを抜き取ると、勝手知ったる他人の家といった様子でベッドに腰掛けた。

 なまめかしい生足を優雅に組んで、鼻歌交じりにカタログを開く。

 

「──ってそうじゃなくってェ!! 何よこの服装!?」

「お似合いですわよ」

 

 見事なノリツッコミありがとう。

 彼シャツ状態のリンディを眺めながら、わたくしは優雅に紅茶を啜った。

 対面ではユイさんはちょっと気まずそうに視線をあちこちへ回している。

 ちなみにあのワイシャツはわたくしが一人で美少女彼シャツごっこをするために特注で作らせたものだ。暇なときにあれだけ着て姿見の前でしばらくポーズ取ったりしてた。

 

「あ、ああいうの好きなんですか……?」

「大好きですわね」

 

 迷いなく断言した。

 ユイさんは目を左右に泳がせた後、意を決した様子で礼服に手をかける。

 

「ぬ、脱ぎます……!」

「何で!?」

 

 さすがに絶叫した。

 止める間もなく、ユイさんはするすると上着とスカートを脱いで、礼服用のブラウスと下着だけ身に纏った格好となる。

 

「ちょっ……いや、あんた張り合わなくていいから」

「だってさっきからマリアンヌさん、リンディさんのことずっとガン見してるんですよ!? 視線はずらしていても意識が常に太ももに向けられています! 私の目を誤魔化せると思わないでください!」

 

 ばらすな。

 ユイさん(彼シャツ状態)の発言を受けて、リンディ(彼シャツ状態)がさっと顔を赤くする。

 

「へ、ヘンタイ! こっち見んな!」

「ふっ……感謝いたしますわ。ありがとうございます!」

「何にお礼言ってんのあんた……!?」

 

 萌え袖状態の両手で必死にワイシャツのすそを引っ張って肌を隠そうとしているそのポーズに対してお礼を言っているんだよ。

 

「ど、どうですかマリアンヌさん! 私も同じ格好ですよ!」

 

 と、その時視線の先に割って入ったユイさん(彼シャツ状態)がくるりと一回転。

 流れるようにハイキックを放ち、シャドーでいくつかのコンビネーションを放った。

 

「……あんた、なんで格闘術披露してんの? パンツもろ見えたんだけど」

「…………!!」

 

 多分回転動作から身体が慣れ親しんだ殺人技術に勝手に移行したんだろうな。

 真っ白な下着が眩しかった。ユイさん(彼シャツ状態)は額のてっぺんまで真っ赤にすると、その場にしゃがみこんだ。

 

「きゅっ、きゅうぅ…………!」

 

 何今の。カピバラの鳴き声か?

 顔を膝に埋めてぷるぷる震え始めたユイさん(彼シャツ状態)に、リンディ(彼シャツ状態)がそっと歩み寄る。

 

「まあ気にしなくていいわよ。白似合ってたわ」

「そういうもんだいじゃありません~~~~……!」

「うん、まあ、そうなんだけど」

 

 彼シャツ状態の美少女が彼シャツ状態の美少女の肩を叩いて慰めている。

 その光景を眺めていると──紅茶がめっちゃおいしかった。美少女は、最高だな!

 

 

第三の性別 映像切りやがったなお前!おい!何が起きてたんだよ!

太郎 この野郎……!配信者としての矜持がねえのかよ!

宇宙の起源 パンツ見せろ!パンツ見せろ!見せてください!この通りです!靴舐めます!

火星 いや待て……音だけ残ってるんだよな……そういう戦術(プレイ)か?

日本代表 キモ……

 

 

 当然ながらコメント欄の連中におすそ分けする義理なんてないので映像はカット。音声だけでお楽しみくださいって言おうと思ったらもう楽しんでる奴いた。怖……

 配信画面から視線を切り、ふう、と息を吐く。

 それからわたくしは鼻元を指で擦った。鼻腔からあふれてきた鮮血が指にべっとりついていた。

 

「うわっ……あいつ鼻血だらっだらじゃない……ほ、ほらユイ! マリアンヌがあんたで興奮したってことよ! これを良しとするなら友人としてそれなりに厳しいけど、でもあんた的には嬉しいでしょ!?」

「……どうせリンディさんの太ももですよ……」

「それはそれで極めて厳しいわね」

 

 にしてもこう、あれだな。

 二人は彼シャツ状態で、わたくしは一応私服(鼻血だらけ)。

 普通に美少女を鑑賞して楽しくなるつもりだったが、明らかに差がついている。

 

「好き勝手やってくれるじゃありませんか」

 

 静かな怒りを込めて、わたくしは低い声を発した。

 その様子に二人ははっと動きを止める。

 

「す、すみません。はしゃぎすぎましたよね……」

 

 ユイさんが顔を上げて申し訳なさそうに言う。 

 違うんだよ。わたくしだって美少女なんだ。なのに一人だけ、こんなスケベキャラの絵面でいいはずがない。

 わたくしは椅子から立ち上がると、来客を迎えるために着ていた、お嬢様然とした私服に手をかけた。

 

「負けるわけにはいきません────!」

「は?」

 

 バサアッ! とマントのように上着とスカートを脱ぎ捨てる。

 両足を肩幅に開き、右手で天空……ではなく天井を指さす。

 

「露出に関してもわたくしは天下無双、古今最強! とくと御覧じなさい! このマリアンヌ・ピースラウンドの彼シャツ状態(血まみれ)こそが頂点であると思い知り、そして負けて死になさいッ!」

「死んでるのはあんたの脳細胞よ」

 

 リンディの視線はマジで冷たかった。

 

「…………」

 

 すっとユイさんを見る。

 ユイさんの視線はマジでギラついていた。

 

 

適切な蟻地獄 脱ぎバトルやめろ

日本代表 お色気スポーツ漫画かよ

外から来ました 一生プールの上で尻相撲してろ

 

 

 競泳水着を着たら婚約者がすっ飛んできそうで嫌なんだよな……

 

 

 

 

 

 

 

 それから就寝時刻が迫り、わたくしとユイさんもシャワーを浴びてきた。

 

「大浴場とかないんですか?」

「その質問何度目ですか? シャワー浴びる前にも散々ごねていましたが、浴び終わった後にも聞いてくるのは流石に恐怖を感じますわよ」

「そうですか……それで……大浴場とかないんですか?」

 

 もしかしてバグった?

 同じ言葉しか発さないユイさんと連れ立って歩き、寝間着姿で寝室に戻る。

 リンディは完全にリラックスした様子で、ベッドに転がってカタログを読みふけっていた。こいつ勝手にショートパンツ引っ張ってきて穿いてるじゃねえか。

 

「あら、戻ってきたの? 早かったじゃない」

 

 紙面から部屋の入口に視線を向け、そこでリンディは目を丸くする。

 わたくしは普段通りのパジャマだ。前世でちょっと憧れのあったジェラート〇ケをイメージして特注で作ってもらった、ふわふわもこもこのパジャマである。ふふん、我ながら可愛い!

 

「こうして一緒に寝るのは久しぶりですわね……ユイさんはこういう経験は?」

「あっ、いえ! 特になくて……」

「なるほど初めてですか。肩の力を抜いてくださいな。大丈夫ですわ、緊張しなくていいですわよ」

「なんかあんたの声のトーンがいやらしいんだけど気のせい?」

 

 リンディがじとっとした視線を向けてきた。

 わたくしの隣に立っているユイさんは、教会の方で誂えてもらったのだろう。紺色を基調とした、ほどよくふわっとしてだぼっとしたパジャマを着ていた。

 スケスケのベビードールとか着てこられたらさすがに身の危機を感じていたが、大丈夫だったようだ。

 

「ふーん。じゃあこのベッド広いし、横になる?」

「あっ、すみません。お風呂上りなのでちょっと運動を……」

「わたくしもですわ。リンディはゆっくりしていてください」

 

 告げて、わたくしとユイさんは広い寝室の床で距離を取る。

 

「シッ、シッ」

「フッ、フッ」

「………………」

 

 その場でわたくしはスクワット、ユイさんは指一本の腕立て伏せを始めた。

 いやこの次期聖女、乙女ゲー主人公の自覚あるのか?

 

「………………あんたたち、なんていうかほんと……」

「フッフッフッフッフッフッフッ」

「うっさいわね!」

 

 筋トレで呼吸は大事なんだよ。うるせえのはそっちだ。

 セットをこなして水差しからお水を一杯飲む。ユイさんは無心といった様子で、黙々と身体に負荷をかけていた。

 

「……まじめを通り超えていますわね」

「そうねえ。あんたも大概だけど。ただ……私たちの年の子供がやるトレーニングなの? あれ」

 

 微妙だな。

 ユイさんの端正な顔に汗がにじむのを、ぼうっと眺める。

 身体を見るだけで伝わってくる。彼女の肉体は、効率的な戦闘に特化した柔軟性を維持している。不要な筋肉は削ぎ落しつつ、滑らかに力を伝導するマシーンとしての機能は最大限に。パワーを炸裂させるバネとしても、あるいはスピードを乗せる加速機構としても、彼女は極限まで鍛え上げられていた。

 

「…………」

 

 独学ではたどり着けない領域だ。適切で、なおかつ厳格な指導が透けて見える。

 恐らくは無刀流なる流派の下、厳しい訓練を積んできたのだろう。

 

 こういうタイミングで、ふと思い知らされることがある。

 わたくしは彼女のバックボーンを何も知らないのだ。

 ただデータとして、人工聖女で、原作主人公で、そういった……タグやラベルのようなものが、知識の大半を占めている。

 

「ふぅ……お待たせしました」

「……お疲れ様ですわ」

 

 水の入ったコップを手渡すと、ユイさんは気持ちよさそうにそれを一気飲みした。

 

「まあ、トレーニングもいいけどね。ユイは特に最近、左半身を鍛えてるみたいだし、何か目標ができたのよね?」

「えっ? あ、はい。左右どっちでも戦えるようにはしてるんですが、左だと右に比べてパワーが落ちるので……って、言いましたっけ?」

「えっ? 見たら分かるじゃない」

 

 分かんねえよ。

 何言ってんだろうこいつ、と思いながら、リンディが見ていたカタログを手に取る。

 

「そういえばこんなカタログ来ていましたわね……」

「あ~、送られてきただけ? あんた結構おしゃれにも気を遣うから、買ったのかと思ってたわ」

「あんまりこのメーカーはピンと来ていませんの。フリルが多すぎますわ。引きちぎりたくなります」

「本当にマリアンヌさんおしゃれに気を遣ってるんですか?」

 

 わたくしの発言を受けて二人の視線が疑わしいものになった。

 明かりを絞り、ユイさんがベッドに横たわるのを見て、わたくしはベッドわきに座り込む。

 

「え?」

「え?」

「え?」

 

 順番にユイさん、リンディ、わたくしである。

 二人は驚愕の表情でこちらを見ていた。

 

「何してんの?」

「えっ……いくら広いからと言って、三人横になるのはアレなので……」

「いやいや、マリアンヌさんの部屋ですからね。マリアンヌさんが寝ないと意味ないじゃないですか」

 

 うるせええ!

 これだよ! これが嫌だったんだよ!

 冷静に考えて第二次性徴を迎えた女子と同衾するなんて前世でもなかったんだから無理に決まってんだろうが!

 

「お気になさらず。大丈夫ですわ」

「大丈夫じゃないわよ、流石に家主を床で寝かせるわけにはいかないわ」

「そうですよ!」

「いえいえ。大丈夫ですって」

 

 やんわりと、しかしかたくなに拒む。

 リンディは申し訳なさそうな顔をしているが、ユイさんは真顔だった。

 数秒黙り込み、思案するように指で唇を撫でた後、次期聖女が静かに口を開く。

 

「床で寝るの、慣れてるんですか?」

「慣れっ……ては、いませんが。一晩ぐらい大丈夫ですわよ」

「骨格が歪んで右ストレートの精度が落ちますよ?」

 

 ────は?

 

 

red moon あっ

宇宙の起源 さすが原作主人公過ぎる

火星 本当に選択肢ミスらないなこの子……

 

 

「う。うぬぬぬぬぬぬ」

 

 それを言われるとさすがにぐらつく……! いや、しかし……!

 

「それに……せっかく、こういう機会ってないですし。臨海学校も慌ただしかったから。私こういうの憧れてたんです。ほら。生まれが生まれだから本当に、初めてで」

「ぐ、ぬぬぬぬぬぬぬぬ……!」

 

 お前! お前お前お前ェェェ────!

 出生を引っ張ってくるのはズルくない!?

 さっきからすべてが適切にわたくしの反論を潰している! いや反論の余地はあるのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 狙い撃ちじゃねえかこんなん!

 

 

「……だめ、ですか?」

 

 

 最後に。

 ユイさんは不安そうに、こちらを覗き込みながら、か細い声で問うた。

 眉がしゅんと下がったその表情を見て。

 

「だめじゃないですわ」

 

 口が勝手に動いて、直後に次期聖女はガッツポーズしていた。

 

「言質取りました! マリアンヌさんって自分の言ったことは裏切らないですよね? ほらどうぞ! ベッド温めておきました!」

 

 こ、この女……ッ!?

 

 

トンボハンター K.O.

今年は申年 ベッドに帰るんだな。お前にも待っているヒロインがいるだろう……

 

 

 完全に言いくるめられた。これマジ? わたくしがGMだったら台パンで机割ってるぞ。

 

「ユイ……あんた理性と感情で挟撃したの……?」

「マリアンヌさん、感情で動くようで、どっちも大事にしてますから……片方で徹底的に言い負かすんじゃなくて、両面からある程度の説得ができたら、納得してくれるんですよね……」

 

 なんか傾向と対策の分析をされている気がした。

 渋々ベッドに上がると、ユイさんはリンディとわたくしとの間で、嬉しそうにあおむけになっている。

 

「えへへ。こうして……誰かと一緒に寝るの、本当に、本当に憧れてたんですよ」

「……そう、ですか」

 

 そうだ。

 彼女は、嘘は言っていない。

 だから、こうして言いくるめられても、仕方ないか、という気持ちになれた。

 

「……別に今回限りじゃないわ。機会を作れば何度だってやれるわよ。添い寝以外にもたくさん。あんたがやってこれなかった、やりたいこと」

 

 リンディは彼女に毛布を掛けて、優しい表情で告げる。

 うおっ、急に聖母が出てきてびっくりした。

 

「そう、ですかね?」

 

 問いはわたくしに向けられていた。

 彼女の瞳はまどろんでいる。なんだかんだで昼は仕事をしてもらったのだ、疲労だってあるだろう。

 わたくしは苦笑して、彼女の髪をそっと撫でる。

 

「ええ、もちろんですわ。たくさんの思い出がこれから先のアナタを待っています」

「……それは、きっと……マリアンヌさんとも……いっしょに……?」

「それは────」

 

 数秒言葉に詰まった。

 その間に、彼女の声が微かに途切れ、言葉はうすぼんやりとしていった。

 ユイさんが寝息を立て始めたのを聞いて、わたくしとリンディは顔を見合わせる。

 

「ほんっと……懐いてるわよね。懐くとかそういうレベルじゃない気もするけど、まあ懐いてるって言っときましょうか」

「くあ……まあ、そうですわね」

 

 ぬん。ベッドに横になると、思ったより眠くなってきた。

 リンディはわたくしの寝ぼけ眼を見て、くすくすと笑う。

 

「もう寝る? それなら明かり消すわよ」

「いえ、いえ。貴重な機会ですわ」

「貴重って言っても、何するのよ。チェス?」

「チェス盤に突っ伏して寝るのは流石に嫌ですわ……せっかくならあれしましょう。恋バナ。そう、恋バナにちょっと憧れがあったのですわ」

「恋バナ……? 恋愛話、ってことかしら。あいにく、私そういうの考えてないわよ」

「むう。ならわたくしから。先日、ハインツァラトス王国の国王から、わたくしに求婚したい向こうの貴族を取り次ぐ手紙が届きましたわ。明日からちょっと向こうでお話してきます」

 

 

 数秒の沈黙。

 

 

「は?」

「はぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 リンディのぽかんとした声と。

 飛び起きたユイさんの絶叫で、わたくしの眠気は二度と帰ってこなくなった。

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