TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

66 / 187
INTERMISSION5 正直帰りたい……

 リーンラード家の研究室にて。

 わたくしはユートとロイの前に進み出た形で、兄妹と相対していた。

 

「お話は分かりました……ですが、いくつか質問がありますがよろしくて?」

「もちろん構いません。ご協力いただけるのなら、我々に支援できる限りのことはしましょう」

 

 アズトゥルパさんが頷くのを見て、わたくしは問いを発した。

 

「何故わたくしを選んだのですか?」

 

 あっうわっこれ言ってからなんだけど就活面接っぽくてすげー嫌なセリフだな。どうして弊社を選んだのかってお前が募集かけてたからに決まってんだろタコ。記憶喪失か?

 

「それはもちろん、精霊の声が貴女を呼んだからです」

 

 迷いなく、アズトゥルパさんは言い切った。

 

「精霊、ですか」

「はい。恐らくラインハルト陛下からお聞きしているでしょう」

 

 ────精霊。

 わたくしも直接見たことはないが、いわば上位存在とは別種の、人知を超えた生命体である……らしい。

 前世でいうところのUFOと言うべきか。存在は確実には証明されておらず『広大な宇宙には地球外生命体がいて当然、その地球外生命体が地球を視察に来ているのは不自然ではない』といった推測の域を超えないレベルだ。

 要するにはいるんだかいないんだか知らねえけど、いるって言ってる人はやたらいることに固執してるし、いねえだろって人はいるって言ってる人をクソバカにしてる感じだ。いや言葉がすげえややこしいな。

 まあ、つまり、前世でいうところのUFOだ。

 

 精霊の声に導かれた結果、わたくしを選んだということだろうか。

 フフン。見る目のあるやつがいたもんだな。

 

「ならば仕方ありませんわね。わたくしはこの世界で最も選ばれし者!」

 

 わたくしは右手で天空……ではなく天井を指さして叫ぶ。

 その様子に、アズトゥルパさんは静かに頷いた。

 

「それでこそです。世界で最も、という点は私には担保できませんが、あなたが選ばれし者だということには疑いの余地はない」

「……あ、ありがとうございます」

 

 んんんんなんか調子狂うなこれ!

 やがてなんとか平静さを取り戻した様子で、ロイとユートも話に加わってきた。

 

「あー……まだ俺たちは引き受けるか決めてねえからな。不確定要素が多すぎる」

「そもそもどうしてです? 何故上位存在が5体も出現するんです? 僕たちだけで対応しなければならないのは何故です?」

 

 チッ。こいつら本当に冷静だな。

 

「我々リーンラード家での研究……それは、上位存在に対抗するため、上位存在に類する存在を生み出すことでした。しかしその研究は、途中で方向を歪められた」

 

 アズトゥルパさんはそこで言葉を切って、数瞬の間を置いた。

 

「家を乗っ取られました。先日制圧された、我が国の神殿……巫女を討伐することには成功しましたが、その残党は一部が逃げおおせました」

「な……ッ!?」

 

 ユートが驚愕の声を上げる。わたくしとロイも揃って言葉を失った。

 特級選抜試合において、ハインツァラトス王国の神殿に、何者かが潜り込み、王族への情報・精神操作を行っていたのは知っている。そして選抜試合の際にそれは解かれ、無事国王の手によって神殿は鎮圧された。

 口ぶりからして発端は脚本家の少年、そして彼に知識を与えていたファフニールだった。

 つまり──

 

「あの大邪竜が遺した残党、ってことか……」

「冗談じゃねえ! まさしく国軍を動かす事態だろうが!」

 

 王子として看過できないのだろう。

 声を荒らげて、ユートは今にもアズトゥルパさんにつかみかからんとする勢いだった。

 わたくしは手を挙げて彼を制止する。

 

「マリアンヌ……!?」

「順当に考えればそうでしょう。ですが彼は、わざわざ国王を介してわたくしたちにコンタクトを取ってきた。何か理由があると考えるのが自然です」

 

 状況説明が進み、段々と思考が回ってきた。

 わざわざプロではなく学生を呼びつけたのは……恐らく単純な質の問題だけではない。

 

「ピースラウンドさんのおっしゃる通りです」

「察するに、数を用意すると不利になるのでしょう。上位存在は独自の法則性を持っています。5体いるのなら、対軍勢処理に特化した個体がいてもおかしくはありません」

 

 アズトゥルパさんは目を丸くした。

 

「……そこまでおわかりとは、驚きました」

「単純な戦力予測です。それで具体的には?」

「はい。顕現予定の上位存在の中の1体、『暗中蠢虫(ワームシャドウ)』は、人間の恐怖を糧に強くなります。つまり人数が多ければ多いほど、対応は難しくなる」

「少数部隊の派遣はできませんか」

「上位存在へ対抗する上では、()()()()()は重要ではありません。問題は存在の格です。いかに精鋭揃いであろうとも、同じ土俵に立てなければやつらの餌になるだけでしょう」

 

 ……筋は通ってるな。

 仮にハインツァラトス王国の戦力に、わたくしより強いやつがいたとして(まあいないと思うしいてもぶっ倒すが)、そいつが対人戦でわたくしに勝てても上位存在相手に餌になってちゃ意味がない。

 ならば、既に上位存在を打倒した経験がある、即ち確実に相手の法則性を破れるわたくしたちを呼ぶのは自然だ。

 

「詳しいお話は、お三方とも引き受けてくださる場合にまたお話しします。本日はお休みくださって構いません」

「……分かりましたわ」

 

 わたくしとしてはそれなりに乗り気というか、勢いでOKしたけど腕試しとしてはちょうどいいかもなぐらいに落ち着いてきた。

 しかしロイとユートの顔色は優れない。当然か。

 

「この話、わたくし一人というのは……」

「話は終わったかしら? ねえお客様方、町に行きましょう!」

 

 どうやらずっと暇していたらしい、マイノンさんが凄まじい速度でインターセプトしてきた。

 わたくしの周りをぴょんぴょこ跳ねながら、彼女は窓の外を指さす。

 

「このあたりはリーンラード家が土地の権利を持っているのだけれど、お兄様のおかげで町が栄えているのよ! 是非見て欲しいわ!」

「こら、マイノン……」

 

 アズトゥルパさんが困ったような顔をしている。

 堅物兄を振り回す妹って感じか。Twitterでバズりそうな組み合わせだな。そうか? 後輩にした方がいいかもしれん。

 わたくしが男女漫画で一山当てる方法を模索している内に、マイノンさんの跳ね方がいよいよ激しくなってきた。

 

「ねえねえ、聞いてるかしら?」

「えっ、ああすみません。ちょっとオンラインサロンを開く準備をしていました」

「……お、おんらいんさろん?」

「気にしないでくれ。こいつ時々意識が異世界に飛ぶんだ」

 

 意識だけじゃ済まなかったからここにいるんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 城下町ならぬ邸宅下町は、確かにマイノンさんが言うとおり活気づいていた。

 さほど高層建築物こそないものの、人々が行き交い金を使い、経済が循環している。

 

「マリアンヌさん、こっちこっち!」

「え、ええ。今行きますわ」

 

 その中で、わたくしはマイノンさんに先導される形で、あちこちの冷やかしに付き合わされていた。

 手を引っ張られたりしてるわけじゃないけど、目を離すには危なっかしい少女だ。兄妹ということなら、わたくしたちとさほど変わりない年齢に思えるのだが……

 

「これは……何でしょうか。置物……?」

「ふふっ、面白いでしょう? すぐ傍の鉱山で採れた金属を加工しているのよ!」

 

 確かに色々あって面白い。

 面白いが……店員はこちらを一瞥もしない。大丈夫かこの店。

 

「向こうには自然公園があるわ!」

「分かりました。分かりましたから余り先へ進みすぎないでくださいな」

 

 油断するとすぐ遠くなる背中を必死に追う。

 町民たちの間をすり抜ける。舐めるな、新宿駅に比べりゃマシだ!

 

「あ、あいつなんであんなスイスイ進めるんだよ……! この人混みの中を!」

「流石だマリアンヌ、なんだかんだで姉属性も持ち合わせているとは……!」

「もみくちゃにされておかしくなっちまったのかロイ!?」

 

 男二人は置き去りになっていた。

 ついでにアズトゥルパさんは屋敷に残っている。

 

 

 このイベント大体どれくらいで終わりますの……?

 

 

 さすがに呼びつけられて上位存在と戦えと言われて妹の面倒を見てる現状、ちょっと飽き飽きしてきた。

 いくらなんでも計画性がないというか、提示された目的に対して過程が雑すぎるんだよ。

 

 

red moon ん~……サブクエとしての空気は原作ママだな

第三の性別 だけど上位存在なんて全然知らないというかなんというか

火星 リーンラード家、原作ではサブクエ一つに絡んで、他に出てくるとしたら追加DLCなんだよな

 

 

 追加DLC!?

 追加DLCあるんですかこの乙女ゲー!?

 追加DLCある乙女ゲーってそもそも何!?!?

 

 

 流石にビビリ倒してしまった。

 えぇ……超大作じゃん。まさかとは思うがDLCでルート分岐してトゥルー到達したりしないよな?

 

「ほらマリアンヌさん、こっちよ」

「あ、はい」

 

 手招きされるまま、わたくしは彼女を追って市街地を抜け自然公園にたどり着いた。

 他に人気のないそこで、二人で木陰に座り込む。

 白いワンピースを着た彼女は、汗で前髪を額に張り付かせながらも朗らかに笑っていた。

 

「ねえ、お兄様には秘密よ? マイノン、クッキーを持ってきたの」

「クッキーですか?」

「ええ。大好きなの!」

「なるほど。いいですわよねクッキー」

 

 言われてみれば片手に手提げ袋を持っていたな。

 彼女がそこから取り出したのは、随分と古めかしいクッキーのカンカン箱だった。

 いや……ほこり被ってんですけど。

 

「あら? あらあら? 食べてくださらないの?」

「ええとですね、少々お腹いっぱいと言いますか……」

「もしかして。苦手で食べられないのかしら?」

「はあ!? 食べられますが!?」

 

 わたくしはカンカン箱を開けると、ほこりっぽい臭いのするクッキーを引っ張り出して猛然とかきこんだ。

 う~ん湿気てる!

 

「マリアンヌさん、面白いわ!」

「これわざとやってるわけではありませんわよね……?」

 

 嫌がらせとしてはかなり精度が高いな。

 しかし彼女はハッと顔を逸らすと、公園の片隅に咲いている白い花の一群を指さした。

 

「見て見て! お花よ! この季節に咲くなんて珍しいわ!」

「まあ。夏でも綺麗に咲く品種のようですわね」

 

 前世で言うシロツメクサに近い見た目だ。

 マイノンさんは花々に駆け寄ると、しゃがみこんでしげしげと眺め始めた。

 余り木陰から出るのは気が乗らないが、渋々わたくしも彼女の元に歩いて行く。

 

「お花も好きですか?」

「ええ、好きよ! 可愛らしいもの!」

 

 クッキーといい花といい、好きなものの多い子だな。

 わたくしは白花をそそくさと摘むと、その場で花冠を編む。昔取った杵柄ってやつだな。

 

「わあ……器用なのね」

「これぐらい容易いですわよ。ほら」

 

 完成した花冠を彼女の頭に乗せる。

 同年代ぐらい、だと思ってたんだけど……見た目もそうだが、精神的にも彼女は幼く感じる。

 なんとなく、庇護欲をそそられるというか。

 

 

火星 お姉ちゃん要素助かる

 

 

 よせよ恥ずかしいだろ。

 

「マリアンヌさん、ありがとうなのだわ! せっかくだし、お兄様の分もつくってくださらない?」

「えっ……えぇ……? お兄さん、似合わないのでは……」

「あら残念……作れないのかしら?」

「作れますがァ!? ……ハッ!」

 

 気づけば絶叫して超高速で花冠を作っていた。

 嘘だろまた乗せられたのか……!?

 

「いいわね、こうして沢山、キレイなものを作れるって。きっと私も作れたら楽しいわ!」

「……やれやれ」

 

 手元の花冠を、わたくしは自分の頭に乗せた。

 

「簡単ですわよ。花も沢山在りますし、作り方を教えて差し上げましょう」

 

 告げると、彼女は目を丸くする。

 

「いいの?」

「ええ、もちろん」

「やったわ! ありがとうマリアンヌさん!」

 

 はしゃぐ彼女を見て。

 なんとなく……分かった気がする。

 彼女は、当たり前の善性を持っていて、当たり前に平和を愛せる人だ。

 その喜びを、ストレートに表に出せる子だ。

 

 いい子だな、と思った。

 優しい子、誰もがいつの間にか失ってしまう優しさを、当たり前に持てている子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷の中で、来客用の寝室を二部屋割り当てられた。男部屋と女部屋だ。

 わたくしは自分の荷物を寝室に置くと、ロイとユートが待つ男部屋に来ていた。

 

「お待たせしました」

 

 部屋に入ると、挙動不審な二人が出迎えてくれた。

 

「む。どうかしましたか」

「いやなんか……お前が男部屋に来るの、落ち着かねえなって」

「臨海学校の時は、こういう風に部屋に来るとかなかっただろう? ユートは緊張しているんだよ」

「そういうアナタの両足は残像が見えるぐらい震えていますが……」

 

 わたくしが指摘すると、ロイはさっと視線を逸らした。

 思わず嘆息する。深刻に考えるのか旅行気分になるのか、どっちかにしとけ。

 

「悠長なことを考えている場合ではないでしょうに」

 

 これから先どうするのか、三人で話し合わなければならないのだ。

 

「それではお二人の意見をお伺いしましょう。まずはロイ、どう思います」

()()()()()()()

「……同意見ですわね」

 

 こいつ一発で核心突いてきたな。

 あの二人、上位存在の研究をしていた一族の当主とその妹にしては、いくらなんでも考えが浅はかすぎるだろ。

 

「正直帰りたいですわ」

「……俺も同意見だ。つーか、上位存在の内1体が恐怖を餌に強くなるつったって、流石に援軍がいた方がいいに決まってるだろ……」

 

 不満も露わに、ユートはベッドに腰掛けた姿勢で息を吐いた。

 

「ただ……少し、僕なりに考えてみた。それで思ったんだけど。今回の件、僕たちが考えているよりも複雑なのかもしれない」

 

 深刻な表情でロイが告げる。

 

「と、言いますと?」

「上位存在五体相手に、僕らだけ呼ぶなんて馬鹿げてる。数を増やせないとしても……特級選抜試合のことを知っているのなら、絶対に呼ぶはずの人がいる」

「──ジークフリートか! 確かにあいつを呼ばない理由はないな」

 

 ああ、確かに。

 あの人現状、超王道の最低系主人公やってるもんな。呼んだら普通に一瞬で解決してそう。

 

「話に聞いたところ、ジークフリート殿はファフニールとの戦いを経て、対悪性存在に対して絶対的な防御を獲得したそうだね」

「ええ。意味はよく分かりませんでしたが、そういう加護を得た……得た? 組み合わせて作ったそうです」

 

 何度聞いても意味分からん。

 加護でミキシングビルドするなよ。

 

「なら、なぜ呼ばないのか。悪性でない存在が相手だから? それはデメリットじゃない、彼は守護がなかったとしても十分に強い」

「そうですね」

「答えは明瞭だ。()()()()()()()。そう考えると自然じゃないかな?」

 

 一瞬思考が止まった。

 強くて困る? なんで? 倒して欲しいのに?

 

「……! つまりこういうことか? ──単純に倒されては困るって?」

「僕はそう考えている」

 

 ユートの言葉を聞いて、やっと得心がいった。

 

「負けたいわけでもない。最後には倒して欲しい。だが圧殺されては困るんだろう。上位存在相手に、それなりの激戦を展開して欲しいんだ」

「それは……制御下から外れそうという話も嘘だと?」

「そこまでは判断が付かない。しっかり制御はできていると考えても筋は通るし、本当に制御できていないにしては悠長な真似をしている。だが、彼らがその気になればすぐ制圧できると考えれば頷ける」

 

 あ~……話がこんがらがってきたぞ。

 ちょっと頭の中で要約するか。

 

 大前提。

 リーンラード家は上位存在5体を顕現させた後、これとわたくしたちを戦わせたいと思っている。

 理由は不明だが、推測するにはデータ取りの面が強いか。

 

 パターン1。

 彼らは上位存在を確実に制御できており、すべての予定は仕組まれている。

 だから余裕を持ってデータ取りができる。

 

 パターン2。

 彼らは上位存在の制御に失敗しているが、何か停止スイッチのようなものを保持しており、いざとなれば確実に上位存在の排除は可能である。

 この場合も結局、ある程度の余裕は持ってデータ取りができる。

 

「どのみち当て馬では?」

「うん、そうなる」

 

 クソが!!!!

 全然気が乗らない。超絶気が乗らない。

 

 

 

 めっちゃ帰りたい……









若干キリが悪いですが文字数の都合でここで切ります

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。