TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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INTERMISSION10 今こいつ────

 蒸気を上げて、蛇女の死骸がほどけるように消えていく。

 その光景を眺めながら、わたくしたちは小休止を挟んでいた。

 どうやらユートはシンプルに頑張りすぎたようだが、ロイの様子がおかしい。異常に消耗している。単なる負傷だけじゃない。ここまで息の上がってるこいつは初めて見た。

 

「ロイ、アナタ……」

「ん……大丈夫。得るものは大きかったから、これぐらいどうってことないさ」

「成程。どうやら一つ、何かを掴んだようですわね──ならば話を進めますわ。残る上位存在は二体ですわ、早急に片づけましょう」

「あ、ああ」

 

 ユートの返事は、歯切れの悪いものだった。

 どうかしたのかと顔を横に向けると、男子二名は訝し気にワームシャドウの死骸を眺めている。

 

(おいロイ。マリアンヌは気づいてないみたいだがよ……)

(うん。ルシファーの端末は、内側にルシファー本体が入ってきたから自壊した。ファフニールは混沌が顕現する材料にされて……そして、混沌の死骸は消えることなく、回収されていった。倒しただけで勝手に消滅するのは、道理が合わない)

 

 男二人はなんかひそひそ話を始めていた。ひそひそ? ブーム的にはコソコソ噂話か。

 

 

 ここで流星コソコソ噂話! 『カメさんこんにちは』は作詞・作曲共にわたくしですが、歌詞については本当にアイディアが降ってきたと言うほかない代物でしたわ。あんなドラマティックな歌詞が書けるなんて、もしかして作詞家としての才能すら持ち合わせているのでしょうか……?

 

 

外から来ました おい

無敵 おいこれ

日本代表 分かってる後で話すぞ

 

 

 コソコソ噂話を終えると、コメント欄も男子二人もなんかやけに不気味な沈黙が残っていた。

 え? わたくしが何か喋んないとだめ?

 なんか空気重くて嫌なんだけど。

 

「えーとそれじゃあ、どうします? 上のフロアに戻って次の敵へと……」

 

 全体の流れを再確認している、その時だった。

 身体が咄嗟に戦闘態勢を取った。コンマ数秒後にロイとユートも続く。

 ワームシャドウの死骸が静かに起き上がっていた。

 

「……仕留めそこねた、でしょうか?」

「いや。もう戦闘能力はないと思うよ」

 

 ロイの言葉に少し警戒態勢を緩める。

 確かにワームシャドウは、もうこれ以上は、戦闘行動を一つでも取れば自壊するような有様だった。

 ああ、何より、力なく両腕が垂れ下がった蛇女は、腹部に先程会話した少女の顔を残している。

 

「…………アナタ、ワームシャドウではありませんわね?」

「うん」

 

 一歩進んだ。

 ロイとユートが制止する声が聞こえたが、手で制した。今は違うんだ。勘弁してくれ。

 コアに据えられた女の子。

 彼女の声を聞きたい。

 数秒の沈黙が流れた。

 

 

「ありがとう」

 

 

 少女が微笑んでそう言った。

 光の粒子に還っていく中で。

 彼女は最期に──感謝を、告げていた。

 

「…………ッ」

「マリアンヌ、聞かない方が……」

 

 隣のロイが、わたくしの肩を抱いた。

 だが、そうはいかない。首を横に振った。にじむ視界の中で、なんとか彼女と視線を重ねた。

 

「ごめん、ね」

「……何を、謝ることが」

「わたし、おねえさんのうた……じゃま、しちゃった……」

 

 まだ齢一桁ほどだろう。

 だがこの女の子は、確かにわたくしを見据えて笑っていた。

 

「あり、がとう……」

「……何が。何がありがとうですか。何も……何も! 何もできていませんわ! わたくしは何もッ」

 

 蛇女全体が光の粒子に還っていく。

 少女もまた、笑顔のまま分解されていって、それは数メートルほど宙に浮かんでから、溶けるようにして消えていった。

 

「……何も……わたくしは」

「ありがとう」

 

 最期の言葉だった。

 それだけ言って、彼女の顔は、輝きの中に消えた。

 

「…………………………」

 

 光の粒子は、空気中に解けていくようにしてかき消えていった。

 ロイに肩を抱きしめられながら、その光景を見続けるのが嫌すぎて、乱暴に腕を振り払った。彼もそうだろうなという表情で引き下がってくれた。

 

「俺たちが倒した個体にも、今の子みてえに……」

「……そう、だろうね」

 

 舌打ちしそうになる。

 腕でごしごしと乱暴に涙をぬぐい、わたくしは顔に影を差す男子二名に向き直った。

 このバカ共、何か根本的に勘違いしてやがるな。

 

「どんな戦いだったとしても! 勝利にケチをつけるのはやめなさい! まず結果を誇りなさい!」

 

 うなだれていた二人が、びくんと肩を震わせ顔を上げた。

 

「何とどう戦うべきかを考えるのもいいでしょう。ですがそれは、今ではありません。なぜなら戦うべき相手は分かり切っていて、戦わなければならない場面にもう入っているからです」

 

 滔々と語る。

 自分でもわかっていた。これは半分、己に言い聞かせている。

 

「さあ、次ですわ……後悔は、五体全てを殲滅した後にしましょう……!」

 

 聞いた概要によれば、あと二体の『虚像骨子(ボーンミスト:レス)』『外宇宙害光線(アンノウンレイ)』こそ三対一で順次制圧していくべき相手だ。

 前座を片付けるのに、予定より時間をかけてしまった。早く次のステージに進まなくては。

 ──その時だった。

 

「……! マリアンヌ!」

 

 わたくしが反応するより先に、ロイが剣を構えてわたくしの前に飛び出した。

 気配を察知するのが遅れた。精神的な疲弊もあっただろうか。まず、ここは崩落した先の地下空間。相手からくることはないと思っていた。

 

「な……」

 

 絶句するユート。だが、彼女が出てくること自体は、予想の範疇である。

 

「殲滅された神殿から逃げ出した一派……に、所属していたのでしょうか」

「ええ、その通りでございます」

 

 先ほどとは違い、その辺に転がる信者たちと同じ礼服に身を包み。

 スカートをつまんで恭しく頭を下げる女性。

 ユートの乳母だったというミレアさんは、明瞭なほどに、わたくしたちの敵だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ユートおぼっちゃま。このような形での再会となったこと、深くお詫び申し上げます」

 

 すぐに戦闘が始まるかと思えば。

 ミレアさんは無表情のまま、ユートへの懺悔を始めた。

 

「……やっぱり、そうなのかよ……何でだよ、ミレアおばさん。何でこんな、国を裏切るような真似を!」

「申し訳ありません、ユートおぼっちゃま」

 

 返事として成立してない。

 ぐっと拳を握り、ユートは懊悩の吐息を漏らす。

 

「そう……じゃ、ねえだろッ……謝る、くらいなら……! なんでだ! なんでそんな風なことするんだよ!?」

「幼い貴方は覚えていなかったでしょう。私はもとより、神殿から乳母として派遣された身でした。だからこの敵対は、自明の理なのです」

 

 成程な。背景は大体見えた。

 ファフニールの顕現を実行に移す前に、脚本家の少年はこっちの国の神殿を介してルシファーの端末を実験的に召喚していた。

 恐らく、目的は達成されたものの、残された神殿の残党は未だに与えられた目標を目指しているんだ──それが果たして何なのかは知らねえが。世界の滅亡とかか?

 

「頼むミレアおばさん。降伏してくれ」

 

 顎に指をあてて、ミレアさんの挙動を注視する。前に進み出たユートは、どうやら禁呪を解除していなかったらしく、マグマの鎧を瞬時に纏っていた。わたくしの隣ではロイがいつでもユートのフォローに入れるよう、位置取りを調整している。

 正直言って、ここで時間は食いたくない。迅速な突破を狙うなら、人間体で来てくれたのはありがたいんだ。今、向こうが反応できない速度で攻撃すれば、それだけでカタがつく。

 つくのだが────

 

(……彼に任せるかい?)

 

 婚約者が視線で問うてくる。

 わたくしは嘆息して、肩をすくめた。しょーがねーだろ。わたくしだって散々ワガママ通してるし、これぐらいは大目に見なきゃ釣り合いがとれねえ。

 何より、下手に手を出して決定的に決裂しちまえば、ユートに良くない傷が残ることになる。それは友人としてあんまり看過できねえ。

 

「ユートおぼっちゃま……どうかここで諦めてください」

「何、を」

「後ろのお二方は分かっているようです。私は、上位存在の贄としてここにいます」

 

 やはりな。

 問題はどっちなのかっていうところだけど。

 うーん。

 

「アナタは……『虚像骨子(ボーンミスト:レス)』、の召喚用人員ですか?」

「!」

 

 驚愕の表情が正解だと物語っていた。

 直感も馬鹿にはできないな。

 

「……ええ。流石はユートおぼっちゃまの心の闇を払ったお方です。私は、そして既に討伐された三体はあくまでサブプラン。本命である『外宇宙害光線(アンノウンレイ)』の降臨を妨げさせるわけにはいきません」

「ご丁寧な解説痛み入りますわ。やることが分かりました」

 

 最速でこの女を倒して、ボスラッシュの終点を目指す。明瞭なルートだ。

 だが……問題は、ユートの踏ん切りがつくかどうか。

 どうしたものかと唸っていたその時だった。

 

 

 

「では失礼します。【起動(Boot)】──【簡易召喚術式(Removable devices)】」

 

 

 

 こいつ今BIOS開かなかった?

 

 

red moon は? ……は? やばくね?

日本代表 分かってる! 運営プログラムの悪用だこれ!

 

 

 プログラムの悪用。

 確かに詠唱面でドライブの起動順番指定されたら、納得せざるを得ない。え? 本当に納得していいとここれ? そんなことある?? ていうか世界ってそんな雑なの?

 

 

宇宙の起源 お嬢の認識レイヤーに合わせて言語がすり替えられてるだけで、実際のところ正式な発音は俺たちにしか聞こえない運営用言語で喋ってるな

 

 

 なるほどなあ。

 感心してる場合か!

 

「しまッ────」

 

 とっさにロイが飛びこもうとしたが、それよりも変化の方が早かった。

 右手をかざすと同時、魔法陣が展開される。駄目だ間に合わない! ユートの首根っこを掴んで飛び下がる。

 ミレアさんの身体を、吹き上がった煙幕がかき消した。

 

「ユート! 下がりなさい!」

「ミレアおばさんッッ!」

 

 必死に手を伸ばす彼を押さえ込みながら、顔を上げる。

 濃い煙が、二階層をぶち抜いた空間だというのに天井近くまで達している。それは真の姿を覆うのではなく、まさしくこの姿こそが上位存在の顕現。

 

「これが、『虚像骨子(ボーンミスト:レス)』……!」

 

 我知らずつぶやいていた。

 ランプの魔人────を、最初に連想した。

 身体として成立しているのか怪しい、おぞましい紫の霧の集合体。だが煙越しに微かに透けて見える、白骨で構成された内骨格。

 

「ロイ!」

「分かってる! 雷霆来たりて(enchanting)邪悪を浄滅せん(lightning)──放射(straight)!」

 

 名を呼ぶと同時、ロイが二節詠唱分の魔力を剣に充填し、そのまま振りぬいた。

 ソニックブームのように放たれた雷撃。

 それを、虚像骨子(ボーンミスト:レス)は。

 

『……!』

 

 右手をかざし、防御用であろう魔法陣を展開。雷撃を受け止めると、弾くというよりは逸らした。

 ……ッ。直撃を嫌がった?

 戦闘用思考回路が即座に起動するのを感じた。間合い。位置取り。攻撃を受けても仕方ない場面。攻撃をまともに受けたくないならもっとマシなポジショニングをするはずだ。それをしていない。余裕があるから? 違う。そういう感じもない。

 ならば。

 

「アナタ……足止め用に、切り捨てられましたね?」

『────ッ』

 

 動きが止まった。

 図星だろうな。

 おそらくこの間合いでの直接戦闘には向いていない上位存在なんだ。どちらの自我が今表にあるのかはわからないが、戦闘に消極的過ぎる。召喚されたところで時間稼ぎにしかならないと、命令した側も、された側も分かっていたのだろう。

 

「……! だったらもう、そっちに味方なんてしなくていいだろう!?」

 

 気がそれた瞬間に、ユートがわたくしの拘束を弾いた。

 制止する間もなく前へ進み出て、わたくしたちに向き直る。

 

「ここでミレアおばさんを倒さなくても……!」

「どうやって進むのですか、その場合」

 

 嘆息交じりに問うた。

 言葉に詰まり、王子様が端正な顔を歪める。

 答えは持ち合わせていないらしい。そりゃそうだろうな。持ってたら感情より先にそっちを言うよこの男は。なのに感情が先走ってるってことは──理性は、もうどうしようもねえって理解してるからだ。

 潮時だな。

 

星を纏い(rain fall)天を焦がし(sky burn)地に満ちよ(glory glow)裁きの極光を、今ここに(vengeance is mine)
 
星を纏い(rain fall)天を焦がし(sky burn)地に満ちよ(glory glow)裁きの極光を、今ここに(vengeance is mine)
                

 

 四節詠唱を二重詠唱、計八節分。

 前方と後方にそれぞれ四枚の魔法陣を展開。幾何学的模様の節々から光のラインが伸び、弓矢のように砲身を象る。

 長大なカノン砲を光の紐で補佐するような形。わたくしは即座に砲口を敵へ突き付けた。

 

「そこまでにしなさいユート。もう撃ちます」

「ふざっっけんな……ッ!」

 

 ちょうど盾になるような格好で、彼は両腕を広げて立ちふさがった。

 駄目だ、全然動く気がねえ。

 ロイに目配せを送る。彼は奥歯を噛み締めた後、小さく頷いた。

 タイミングを合わせる必要はない。この男相手なら、合図を送らずとも完璧にコンマ数秒単位で行動は合致する。

 

「時間を無駄にできねえのは承知してる。だけど、納得はできねえよっ! 足止め用の相手を順当に蹴散らすだけなら誰だってできる……! だけど!」

「だけど? 禁呪使いが二人もいるからなんとかできると? わたくし達にできるのは、あくまで効率的な殺戮であるということをお忘れですか?」

 

 自分で言葉を並べながら。

 いら立ちに、地面を蹴りつけた。

 

 ……何を偉そうなこと言ってやがる。しょうもねえ御託を並べて、子供に言い聞かせる大人みたいなことしてやがる。

 わたくしはいつからこんなダサい真似をするようになった?

 

「……時間をかけるわけにはいきません。だから……だから……」

 

 理詰めならいくらでも言い負かせる。実際に、論理的な正しさは全部こっちにあるんだ。

 だけど感情は、それでいいわけねえだろと叫んでいた。

 

「……っ」

 

 思わず、ロイに視線を向けた。

 自分でも知らずのうちに、助けを求めていたのかもしれない。

 彼はわたくしの目を見て、数秒目を閉じてから、口を開いた。

 

「僕は、君が君の意志を貫く限り、永遠に味方でいることを約束しよう」

「……いつも、そればっかりですわ」

「うん。だけど、君が君の意志をないがしろにすることは、僕には許しがたい。君は本当にそんなことを言う人だったかい? 君が今考えている決着の図は、本当にそれでいいと胸を張れるのかい?」

 

 見透かされている。

 ああそうだろうな。わたくしのことをこの世界で一番理解している男がこいつだ。

 だからバレてるだろうな。

 

「──ユート。譲るつもりはないのですね」

「ああ」

「……ええ、そうでしょう。わたくしだってアナタの立場なら譲りませんわ」

 

 構えた魔力砲が、輝きを強めていく。

 

「だから最後に一つだけ」

「……最後?」

「ええ。上位存在は召喚のコアに人間を必要としています──引きはがせる可能性はゼロではありません。先ほどわたくしは失敗しましたけれど」

「!」

 

 あとは分かるな? と目で問う。

 ユートは息をのんで、それからはっきりと頷いた。

 右手の延長線上にある砲口を、上位存在の胸部へ向けて。

 

()()

 

 ど真ん中。

 直撃した数瞬後に、遅れて身体の内側が円状に吹き飛んだ。手ごたえはない。おそらく芯を外した。

 舌打ち交じりに、身体ごと砲塔を回頭させる。霧は不定形な分、単純な砲撃で貫通しようとすると難しい。

 

星を纏い(rain fall)天を揺らし(sky burn)地を砕け(glory glow)

 

 三節の改変詠唱を瞬時に終わらせ、弾丸として装填。

 光の砲身がガコンとスライドし、巨大な砲弾をいつでも放てるよう構える。

 空間中に漂う霧と、ふとした瞬間に透けて見える骸骨。

 ────そこか。

 

「ばんッ!」

 

 改変詠唱の弾丸が飛翔する。

 髑髏が一瞬光った個所から、狙うべきポイントを割り出す。両目に魔力を通して、物理的に見えるもの以外も認識できるよう感覚を延長した。

 果たして、狙い過たず。

 骸骨の肋骨内側に弾丸が真っすぐ飛び込んで、内側で炸裂した。

 

『Giッ』

 

 言葉に書き起こしにくい悲鳴だった。

 殺傷能力に重きを置かず、炸裂後に霧を光で焼き尽くす方向性に調整した。おそらくこれがビンゴだ。

 

「ミレアおばさん……ッ!」

 

 そして霧が吹き散らされた先。

 ミレアさんの身体が、そこには収められている。

 

「ユートぼっちゃま!?」

「そこから出てきてくれ! まだ間に合う!」

 

 鎧の出力を最大限に引き上げ、ユートは彼女のもとへと飛び上がる。

 彼は霧を焼き尽くしながら、彼女に手を伸ばした。

 

「意味わかんねえよ突然敵になったとか言われても! 俺の中で、やっぱり敵なんかじゃねえんだッ!」

「……!」

 

 説得の最中にも、霧は無際限に湧き出て、ミレアさんの姿を覆いつくそうとする。

 それらをわたくしは、魔力砲撃を繰り返して押しとどめていた。

 

「ユート! 早く!」

 

 コアを切り離されてはたまらないのか、向こうも必死だ。

 わたくしめがけて、地面を這う触手のようにして霧が伸びてくる。

 チッ。対応しようとすると砲撃が緩む──が、瞬時に前に進み出たロイが、それらを切り払った。

 

「君のもとへは指一本届かせやしない! 君は君の役割を!」

「感謝いたしますわ!」

 

 おかげでわたくしは、絶え間ない砲撃に集中できる。

 

「来い! ミレアおばさん……! まだ俺はあんたに全然恩返しできてない! だから!」

「ユート、おぼっちゃま────」

 

 露になっていたミレアさんの顔が、奇妙に歪んだ。

 ああ、その光景。

 砲撃しながらも、既視感に脳が痛んだ。知っている。それを知っている。

 上位存在が、髑髏がせせら笑うようにこちらを見た。お前たちはいつもそうだと。目の前に見えるもの、それにしか必死にならない。だから、取りこぼすのだと。

 

「ロイッッッ!」

 

 名を呼ぶだけで意思伝達は完結した。

 急加速したロイがユートを引き倒すような勢いで、後ろに引っ張っていく。ユートの愕然とした表情がいやに鮮明に見えた。

 霧がぶわあと膨れ上がった。ミレアさんの身体が見えなくなった。

 

 その刹那だ。

 わたくしと上位存在との間に、障害は何もなくなり、まっすぐ視線が重なる。

 その瞬間を読んだかのように。

 

 前方の虚像骨子(ボーンミスト:レス)は、霧の奥に見える髑髏は。

 

 ハッキリと、笑みを浮かべていた。

 

 

 

バカがよ

 

 

 

 こいつ。

 

 こいつ。

 

 こいつこいつこいつこいつ!!

 

 

 今……煽った……!!

 

 

 ガチン、と、頭の奥で音が響く。

 多分それは、覚悟(ガチギレ)という名の撃鉄が落ちる音だった。

 

 

「必殺────」

『?』

 

 光の砲身が花開く。

 鋭角な刃に転じさせたそれを、右の拳を起点として組み合わせ、巨大なドリルを構築する。

 踏み込み一歩で地面を爆砕、ケタケタ笑っていた髑髏のもとへ刹那に到達。

 

 

「悪役、令嬢ッ」

 

 

 頭蓋骨のデッカイ額に、思い切りドリルを叩きつける。

 接触のインパクトに空間が軋んだ。

 火花に視界が埋め尽くされる。禁呪を再構成したドリルが先端から砕け散っていく。

 

 

「ロケット、ドリルッ」

 

 

 だが、少しずつ、少しずつ。

 確実にわたくしのドリルが、押し込まれていく。

 

 

なんだ、なにをしている、このおんなのいのちがおしくないのか!?

「悪滅激昂パンチ…………ッ!!」

そのままおれをほろぼしたところで、このおんなもしぬんだぞ!? おまえがいってなかったこれ!?

 

 

 至近距離。

 髑髏の、瞳のないぽかりとした空洞を覗き込み。

 

 

 

わたくし(おれ)の前から、消え失せろッ!!」

 

 

 

 瞬間。

 バチン!! と音を立てて、視界が切り替わる。

 ドリルが右手から掻き消える。足場に流星を展開して、空中に佇む。

 

そんな、るしふぁー、なぜおまえが……!

「ほざくなよ、死の不確定性の恐怖などという、ごく小さな畏れのみ依代とした低級神格の分際で。アナタ(きさま)のような虫けらが存在する場所などこの世界にはない」

 

 口から勝手に言葉がこぼれていった。

 虚像骨子(ボーンミスト:レス)が何か、押しつぶされるようにして、小さくなっていく。

 

おまえと、ことをかまえようなど、こちらは……

「発言を許した覚えはない────アナタ(きさま)は、ここで、死に果てろ」

 

 右手をかざし、握りつぶすように拳をぐっと握った。

 それきり、バキベキギキバキギギギギと乱雑な音を上げて、霧と髑髏が一緒くたに潰され。

 

「────ミレアおばさん!」

 

 その、押しつぶされていく球体からこぼれるようにして、彼女の身体が落ちていく。

 慌てて駆け出したユートがそれを受け止めると同時、虚像骨子(ボーンミスト:レス)は跡形もなく、紙くずみたいに潰れて死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 意識を失っているミレアおばさんの身体を抱えて、崩落した山内部の儀式場を脱出する。

 まだ日が傾いてもいない。なんだかんだで迅速に四体を処理できたな。

 ほかにも、気絶している信者たちは多数いたが、ひとまずはあそこに置き去りにしてきた。さすがにあの人数はまとめて動かせねえ。

 

「まず、喜ぶべきなんだよな」

「ええ、もちろんそうですわ」

 

 岩の上に寝かせたミレアおばさんの寝顔を眺めた後、ユートと顔を見合わせる。

 互いにもう禁呪を解除した状態。視線を重ねて、わたくしも彼も、ゆっくりと口角が上がっていき、ほおが緩んだ。

 

「やりましたわー!」

「やったぜー!」

 

 わたくしたちは達成感と開放感から思い切り抱き合っていた。

 正直もう駄目だと思ってたし! まさかマジで完璧なところまで持っていけるとは思ってなかったし!

 過程は不可思議というか、正直あれ多分大悪魔の力ちょっと借りてたな……とは思うのだが、それは後で考えよう。

 

「ふぅん」

 

 抱き合ってキャッキャと喜んでいると、恐ろしく冷たい声が聞こえた。

 ロイは能面のような顔でこちらを見ていた。

 あっ……

 

「そ、そうですわね。婚約者の前でやることではありませんわね」

「……だとよ。お前がここからいなくなればセーフってことらしいぜ?」

「言葉の綾ですわよ!? あっちょっロイ抜剣しないでああああああもうまだ五体目いますのよ!」

 

 そう。

 五体目、すなわち向こうの大本命である『外宇宙害光線(アンノウンレイ)』を()()()()()()()()()()

 

「まさか普通に俺たちをシカトして、王都へ向かうとはな」

 

 遠く、遠く、遠方に微かながらシルエットが見えていた。

 切り立った山々を越えた先なのでおぼろげにもほどがあるが、足元に信者をひきつれた上位存在が、真っすぐに王城を目指している。

 

「使い魔で連絡は入れた。すぐにでも軍隊に指令が出るだろう。俺たちはどうする?」

 

 ユートはわたくしを(少し名残惜しそうに)腕の中から解放した後、難しい顔で問うた。

 まあそうだよな。体感だけど……こいつの親父さん、つまりハインツァラトゥス現国王が出張ったら一瞬で終わりそうな予感はあるんだよな。

 

「手なら、ある。今すぐに戻れる」

「え……?」

 

 不意にロイが声を上げた。

 マジでか、とわたくしたちは期待のまなざしを送った。

 しかしロイは真顔で、ユートに向かって口を開く。

 

「でもその前にさっきのハグについて、腹を切って話そう」

「お、おう……ん!? 死んでね!?」

 

 確かに死んでるなそれ。

 

 

 

 

 

 

 

 ごくり、と青騎士は唾をのんだ。

 第三王子ユートからの大至急の連絡で、王国軍にスクランブル指令が下されたのはつい先刻。

 王都へ侵攻する上位存在あり──機械化兵団にとっては初の経験。不安になるのも仕方ない。

 

「……さっきも言ったけどネ。どんな相手であろうとも、我々の後ろにあるのは王都だ。避難の終わっていない国民たちが大勢いる。死んでも止めるんだ、我々が」

 

 部下たちにそう告げてから、ふうと息を吐いた。

 ここを命を捨てる場面と認識するのはたやすい。だが、死んで勝てる相手なのか。

 

 視認可能な距離まで迫った上位存在は、異様な姿だった。

 球体四つが連結されている。

 巨大なものを中心として、左右に一つ、最も小さいものが上に一つつながっている。

 

 マリアンヌがそれを見たら、『銀河が四つ連結してますわ!? 超銀河合体ロボ!?』と絶叫していただろう。

 

 

 

「銀河が四つ連結してますわ!? 超銀河合体ロボ!?」

 

 

 

 戦場に声が響いた。

 さすがに戦士たちが周囲を見渡す。何が起きたのか。えっ誰? どういう意味?

 

「まあそれはそれとして──メテオバーンキィィック!

『ぐぎゃぁぁっっ!?』

 

 まさしくそれは流星の如く。

 飛び蹴りが叩き込まれた。横殴りの衝撃を受けて、上位存在が大きく傾く。

 

「円谷さん! タカラトミーさん! 版権の力お借りしましたわ!」

「よく分かんねえけどお前マジで黙った方がいいんじゃねえかなそれぇ!」

 

 駆け抜けていった流星は、その勢いのまま仲間たちのもとへ着地する。

 

「つーかマリアンヌちょっとお前、よく見たら流石に重傷だろこれ! なんか身体内部グチャグチャになってねえか!?」

「治療班を待とう! いや……二体撃破したんだから本当に休んでていいって!」

「ありがとうございますロイ。ありがとうございますユート……」

 

 仲間たちの声をやんわりと、しかしほとんど聞くことなく無視して。

 

「効率的な戦闘……充実した死生活……キャリアウーマンですわ」

 

 小高い丘のてっぺんで。

 貴公子と王子を両脇に侍らせて、マリアンヌ・ピースラウンドが不敵な笑みを浮かべ、そこにいた。

 

「相手の存在の格が違うから戦えない? フッ……ダメ魔法使い」

「ダメなのはお前の認識能力だよ」

「存在の格が違う相手に喧嘩を売る方がダメだよね」

「攻撃が通らないから勝てない? では、質問です」

 

 男子二名の声は届かなかった。

 マリアンヌは天を指さし、唇をつり上げて問う。

 

「アナタたちは──所詮雑魚。アナタたちにはできませんわ」

「質問は!?」

「この長さで罵倒だったのか!?」

 

 黒髪の少女が、真紅眼に光を宿して。

 銀河を束ねた究極の存在と相対する。

 

 

「地球上に、わたくし未満の存在は大体数十億! 銀河を重ねても宇宙を自由に駆ける流星には敵わないことを、その身に刻んであげましょうッ!!」

 

 







あけましておめでとうございます。


ぬくもり様よりマリアンヌのイラストをいただきました!
https://img.syosetu.org/img/user/9944/74730.jpg
いろんなマリアンヌで欲張りセット!アッパー顔が結構好きです。ポニテタンクトップは思春期男子に見せてはいけない破壊力があってやばい


次話はマリアンヌ誕生日編の短編です(誕生日が1月1日なので)
マグロ漁に行きます
今年も頑張っていくのでよろしくお願いします
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