TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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INTERMISSION14 お見舞い・タピオカ・懺悔

「────ありがとう、マリアンヌさん」

 

 花冠を胸に抱いて、彼女の存在が虚空へと還元されていく。

 為すべきことを為し遂げたという満足げな表情だった。

 それもそうだろう。すでに悲劇で終わったはずの彼女が、反則じみた方法で舞台にしがみつき、ついには起こるはずだった悲劇を食い止めてみせたのだ。

 

 その光景は眼前ではない。スクリーンに映し出されていた。

 なるほどこれは夢なのだな、と、すぐ分かる。

 肘掛けに頬杖をついて、わたくしはこのお涙頂戴のシーンを冷え切った目で見ていた。

 くあ、とあくびをする。IMAXだろうか。シートが揺れたりはしねえのかな。見るなら4DXで逆シャアとかF91とかが見てえよ。

 電気が落とされた劇場で、ただ彼女が消えていくのを眺める。

 

 周囲の席からはすすり泣く音が聞こえた。

 居心地が悪く、席にもぞもぞと座りなおす。ひじ掛けの飲み物置き場に手を伸ばすと、ちょうど反対側の席に座った人が手を伸ばすのが見えた。あっこっちじゃなかったっけ。

 静かに視線を上げる。隣に座っているのはわたくしだった。何でもありかよ。

 軽く会釈して、行き場を失った手を膝の上に戻した。なんとなく、もう反対側に手を伸ばしても、そこに自分の飲み物はない気がした。

 

 背筋を伸ばす。服の内側に定規を入れたみたいに、ぴしっとした。そうする必要があると思った。聞こえる音が身体の中で膨らんでいるように、胸がいっぱいになる。

 画面いっぱいに映し出された少女の笑顔。最後の最後、ラストシーン。映画のクライマックス。ビターエンドと呼ぶべきなのだろうか。主人公が誰なのかという前提によるか。

 少女は消えていく。願いを成就させ、勝ち逃げしていく。

 

 凄い子だ。

 その努力を、結実を、誰も否定することなんてできない。

 彼女は確かに勝利した。望むものを手に入れた。他の誰よりも彼女がそうなることを望み、結果として引き寄せた。

 

 だからこの笑顔には価値がある。

 

 

 

 だから──わたくしはこれを、悪夢だなんて絶対に呼ばない。

 

 

 

 

 

 

配信は二時間後の予定です。
 
上位チャット▼


日本代表 さすがにこれはまずいな

雷おじさん あの、また力を引き出される感覚があったんですけど

日本代表 多分不正アクセスが常態化してるんだよな

雷おじさん マ?

日本代表 マ

外から来ました 誰か時間操作気づいた?

火星 いやーマジで気づかなかった、うわあって感じ

宇宙の起源 ここまで権能落ちてるんだな俺たち……やっぱつれえわ

雷おじさん ?????

外から来ました お嬢がいる世界で時間遡行があったらしい。それも世界全体でのロールバック。俺たちが喪失した権限をまだ保持してるやつがいるな

雷おじさん えええええ!? ってことは、アレですか、もしかしてゼルドルガくんが……?

無敵 多分な

宇宙の起源 ゼルドルガとミクリルアの権能が、完全な形で生きてるんだとしたら……そりゃこんな状態の俺たちが気づけないのは当然だ

無敵 だがどうするんだ、あれは単体では動かねえぞ。契約した奴がいるってことだ。そいつに好き放題やらせるのか?

日本代表 現段階だと私たちからは手出しのしようがねえ。それとなく、お嬢に調べてもらうしかないだろうな……

タイトル未設定

7 柱が待機中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピースラウンド家邸宅。

 わたくしは屋敷内を多くの人影が行ったり来たりしてるのを、応接間のソファーに腰掛けてぼうっと眺めていた。

 

「おい、これさあ……壊れてからちょっと日数たってんじゃねえか?」

「割れた断面に雨風がしみて大変なことになってるわよ。これ、壁ごと施工する必要ある箇所があるけど大丈夫なの?」

 

 夏休み初日、謎の集団によって破壊されていた我が家。

 重い腰を上げてやっと修理を発注した。相手は王立工房を持つレーベルバイト家の建築部門だ。

 

「……依頼が遅れたのは、立て込んでいたので。支払いに関しては好きにしてください、いくらでも支払います」

「ああ、ハインツァラトゥスで一悶着あったらしいな」

 

 向かいのソファーに腰かけているのは、先ほどまでは修理の概算をはじき出すべく現場を見て回っていたアキトとジェシーさんだ。二人揃って来たあたり相当にヒマだったのだろうか。にしても親子で来てるはずなのに若夫婦感半端ないな。

 

「異国に表彰されるなんてそうあることじゃないわ。アンタ何したわけ?」

「まあまあ、ジェシーさん。別に何したっていいだろ? 少なくとも褒められることだってのに間違いはないんじゃねえか?」

「それは、そうだけど」

 

 …………二人は明らかに、どこまで踏み込んでいいのか分からないといった様子だった。

 どうやら既に貴族の間で噂は広まっているようだ。ハインツァラトゥス王国からの表彰。まだ詳しくは聞いていないが、どうやら名誉貴族の椅子も用意されているかもしれないらしい。

 ピースラウンドの家の名は、またその格を高めたと言っていいだろう。

 だからどうした。ふざけんじゃねえぞクソが。

 

「まあ、ちょっと世界の危機を救って来ただけですわ」

「……そう」

 

 来客用に出した紅茶も、自分用の紅茶も、テーブルの上で既に湯気を失っていた。

 レーベルバイトの職人たちが屋敷を歩き回る物音に、しばらく耳を澄ませた。

 

「……気持ち悪いわ」

「はい?」

 

 ジェシーさんはわたくしを睨んで、組んだ腕を指で苛立たし気に叩いている。

 

「賢しい嘘のつきかたね。でも賢しいだけよ。事実しか言っていないけれど、真実は伏せている。だから声色に嘘偽りはない。ピースラウンド、だけど貴女そんなことをするタイプだったかしら? 随分としょぼくれているじゃないの」

「……ッ」

 

 図星だった。

 世界の危機を救ったのは嘘ではない。だがそれは、胸を張れる結果とは直結しない。

 

「ジェシーさん、その辺で……」

「いいえ。アキトも言ってやりなさい」

 

 それとなくとりなしに入ってきた息子をミサイルにしようとしてやがる。

 アキトは複雑そうな表情を浮かべた後、冷めきった紅茶を一口すすった。渋そうに頬を歪めた後、わたくしの目を見る。

 

「お前、ひどい顔だぜ」

「……ッ」

「なんつーか、分かんねえ。俺は戦闘の方は、やる気そんなになかったし。誇りとか……譲れないものみたいなの。お前ほどに考えたことはねえ。だから正直お前がそんな顔をしてるのには、想像も及ばねえ理由があると思う。だから……その、あれだ。心配っつーかさ……」

 

 言葉を探して、アキトは唇をしばらくぱくぱくと開閉させ、頭をかいた。

 ……ああ、そうか。

 心配をかけてしまったのか。

 

「アンタは無数の勝利に裏打ちされた自信を持ってる」

 

 無言のわたくしに対して、かつての好敵手が淡々と語りかけた。

 

「私もそうだった……一応これでも先輩だから、分かるわよ。アンタ以外には負けなしだし」

「……そう、ですわね」

「勝つたびに削ぎ落とす人間もいる。勝つたびに……背負うものが増える人間もいる。アンタは間違いなく後者ね。だからどんどん、弱点が増えていく。脛の傷も増えていく」

「…………」

「割り切れとは言わないわ。でも現状の貴女は、健全な状態じゃない」

 

 何から何まで、的を射ている。

 このままでいいはずがない。だが、あの時何もできなかった。今までの自分を全否定されたような気分だ。吐き気がする。

 

「とにかく、ピースラウンド。依頼主にしみったれた顔で居座られても仕事の邪魔なのよ、どっか行きなさい」

「……それは……その。どこか、と言われましても」

「あー。ピースラウンド、これはあれだな。気分転換に行ってこい、って言ってんじゃねえか? マジ伝わりにくいから言い方考えなって」

 

 アキトは苦笑いを浮かべ、隣のジェシーさんを小突いた。

 彼女の頬にさっと朱が差す。図星だったのか。まさか今の接触で照れたわけじゃねえよな?

 

「軽々しく触るんじゃないわよ」

「は? この間髪乾かせって……」

「あー! あーーーー! あああああーーーーーー!!」

 

 ビンゴだったっぽい。

 成程確かに、二人がいちゃつくのには邪魔かもしれない。

 わたくしは苦笑を浮かべると、ティーカップを手に持った。

 冷めていても紅茶は紅茶。一息に飲み干した。苦くて渋い。微かに残った茶葉の切れ端が、カップの底にこびりつく。

 きっとそれを捨てることが、今のわたくしにはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 外行き用の服に着替えた。革製のジャケットとジーンズ。

 貴族らしくはない服装だ。髪も一つに結んだ。傍から見れば町娘だろうか。

 屋敷を出て共用馬車に乗り込み、王都にまで来た。

 目的地は王立病院だ。

 

「……それで、調子はどうだい?」

「見ればわかるでしょう。どん底ですわ」

 

 ベッド傍の椅子に腰かけて、リンゴの皮をむく。リンゴと勝手に言っているだけの別の果実で、確か別に名前はあった。覚えていない。

 ウサギさん型にキレイに切ると、入院服姿でベッドに横になっているロイは感心したような表情になった。

 

「君は本当に何でもできるな……」

「基本的に使用人を雇っていませんからね。実家にいる間は自炊せざるを得ません」

「貴族としては型破りだ。あるいは食道楽か」

「どちらでもいいですわ」

 

 リンゴに楊枝を刺し、皿をロイに手渡す。

 婚約者は唇を少し尖らせた。

 

「あーんは?」

「目に行きますわよ」

「悪かったよ」

 

 ひょいぱくと自分で食べ出すロイを眺め、嘆息する。

 検査の結果は異常なしだったが、立場が立場なので、念のため検査入院期間が続いている。もう二日ほどになるだろう。

 

 

宇宙の起源 リンゴ!!!うおおおおおおお!!うまい!!!うまい!!!

つっきー は? ……え? 何?

火星 こいつまさか、画面越しのリンゴを自分で食ったと自分に錯覚させてるのか……!?

宇宙の起源 うまい!!!うまい!!!うまい!!!

無敵 この日輪刀のためにカスタマーレビュー☆0にできる機能実装してほしいわ

 

 

 うわっ……キモ……

 一応お世話になったことがあるらしき神様の奇行を、わたくしは見なかったことにした。

 腕を組んで思考を切り替える。あの黄金の翼……恐らくは、神域へのアクセスだ。それも不正アクセスの方である。ジークフリートさんと同枠ということになる。

 デメリットは大きいだろう。だがロイとしては、ひとつ高みに上った認識なようだ。わたくしもその認識でいいと思う。ただ、安易な発動は絶対にしないようにと釘は刺しておいた。

 

「それにしても」

 

 周囲を見渡した。

 彼一人に割り当てられた広い病室は、あちこちからの見舞いの品で半分ほど埋まっている。つながりの深い家やらなにやら、見ればクラスメイトの名前もあった。

 

「人気者ですわね」

「君には負けるよ」

「皮肉ですか?」

「……いや、別に事実なんだけどね……」

 

 どこがだよ。こちとら悪役令嬢だぞ。

 いかに自分が日ごろから立ち位置を確保するために苦心しているか説教してやろうとしたとき、病室のドアが開いた。

 

「おや、マリアンヌ嬢も来ていたのか」

「ジークフリートさん……」

 

 紅髪を一つに結んだ騎士が、私服姿で入ってきた。

 非番か。シャツにベストの服装。目の保養あざす!

 

「ミリオンアーク君が無事なのは知っていたが、入院と聞いてはやはり心配でな。午後休を取ってきた」

「午後休の概念がある騎士団、かなり驚きますわね……」

「第二王子殿下が職場環境改善のためにいろいろとやってくれているよ」

 

 

みろっく そんな流れあったの?

第三の性別 うーん、覚えてないけどまああっても不思議ではない、かな

red moon 相当な現実主義者だしね、あの王子

 

 

 へー、そうなんだ。

 メガネの第三王子の方がリアリストっぽい気が……ああいや。思い出した。あいつめっちゃ理想主義者だったわそういえば。

 

「それはマリアンヌ嬢からの差し入れか」

「ええ。ひとついかがですか?」

「遠慮しておくよ。ミリオンアーク君への心遣いだ、オレが食べるわけにはいかない」

 

 んんんん、好感度の上昇する音がわたくしの内側から聞こえた。

 

「差し入れに、部下から聞いた評判の焼き菓子を持ってきた」

「ありがとうございます。今から検査がありますので、終わったらありがたく頂戴します」

「あら、そんな時間でしたか」

 

 魔力循環とかを見てもらうらしい。

 ロイは自分でゆっくり立ち上がり、拳を握ったり開いたりする。

 

「感覚は元通りだ。でもあの翼……天空(テオス)、だったっけ。あの時の感覚もまだ、思い出せる」

「忘れなさい」

 

 自分でも驚くほど自然に即答していた。

 だがロイは軽く笑って、首を横に振る。

 

「ありがとう。でも大丈夫。僕はあれを多分、忘れるわけにはいかない。いつかの到達点だと思うから」

「…………」

 

 ジークフリートさんが微妙な表情で、わたくしを視線で諫める。

 こうなったら聞かないぞ、ってか。うるせえな知ってるよ。

 まったく、ままならないことばかりだよ最近。

 

 

 

 

 

 

 

 検査に向かうロイを見送った後、わたくしとジークフリートさんは二人で病院を出て、街道を歩いていた。

 

「む。これは……」

「あら。屋台ですか……タピオカ? えっ!? これタピオカですか!?」

「急にテンション上がったな、どうしたんだ」

 

 看板には東方名物のグレッシェンドティーとある。うるせえよ。何でも東方だの西方だのつけりゃいいと思ってんじゃねえ。これは誰がどう見てもタピオカミルクティーの屋台だろうが。

 

「これはタピるしかありませんわね……! すみません! タピオカミルクティーを二つ! 片方はシロップタピオカマシマシで!」

「お客さん、タピオカって何ですかい?」

 

 とぼけやがって!

 

「あー……このグレッシェンドティーを二つ、片方は砂糖と糖丸を多目で頼む、ということです」

「へい!」

 

 ジークフリートさんが通訳してくれた。

 ありがてえ。

 さくっと用意されたティーを受け取る。財布を取り出そうとしたら、その時にはもうジークフリートさんが紙幣を店員に手渡していた。

 

「君は学生、オレは就職済みだ。我慢ならないのなら代金を受け取りはする」

「……ありがとうございます」

 

 ぐっ……応対完璧かよ……

 そのまま二人で並び、ベンチに腰掛けた。ズズズッとタピオカを吸う。

 ジークフリートさんはおっかなびっくり、ちゅるちゅるとストローから液体を啜っていた。

 

「どうですか?」

「甘いな……だが、美味しい。飲んだことがあるのか?」

「ええ。一時期家で作ろうと躍起になっていましたわ」

「君のその、フロンティアスピリッツには頭が下がるよ」

 

 タピオカ、作るの自体は意外と簡単だからな。

 

「だが、元気が出て良かった」

「……そうですわね」

 

 ハインツァラトゥス王国での顛末。

 この騎士が知らないはずがない。ユートの友達(ダチ)だからな。

 

「だが同時に、少々不思議でもあった。君がそこまで落ち込むとはな」

「……それはどこかに、鼻持ちならないほどの慢心があったのだと、思います」

「そう、かもな」

 

 しばらく無言でタピオカを啜る。

 きゅぽん、と丸っこい黒真珠を吸う音が、間抜けに響いていた。

 

「君がそんな戦いをしている時に、側にいられなかったことを悔やんでいるよ」

 

 騎士の声色は心の底からの後悔に濡れていた。

 それは、無理な話だ。

 想像に過ぎない話だが、マイノンさんの言葉では、上位存在を討伐するため派遣された部隊の戦いぶりすら、恐怖の一因となりワームシャドウを強化していたという。

 恐らくジークフリートさんはその枠だ。だから呼ばなかった。代わりに、ワームシャドウに単体で対抗しうるわたくしを呼んだ。ロイは完全に勝手についてきたので、目当てはわたくしとユートだけだったのだろう。

 実際、あの段階の五体なら正直なところ、順番に戦えばわたくしとユートの禁呪で圧殺できたと思う。戦力分析は完璧だった。何せ一度見ているんだから。

 

「……大丈夫です。あの結果は……わたくし個人が我慢ならないだけで……彼女は……」

「……オレに話すとなると、どうにも本質的な個所に踏み込めそうにないな」

「……ッ」

 

 そうかもしれないと思った。

 顔見知りだからこそ、言えないことがある。いいや逆か。言わずとも伝わってしまう。多分今のわたくしは、そのあたりを言葉にしなくてはならないのだ。

 

「いい場所を知っている、送ろう」

「……?」

 

 ジークフリートさんはズズッ、とティーを飲み干した。

 カップ半ばまで、タピオカだけがうずたかく積まれていた。これ笑っていいところ?

 

「顔を見ることなく、心の内を吐露する。君に最も必要な場所を、オレは知っている」

 

 いやその、タピオカそれ食べるんです。全部残ってない? ねえ?

 

 

 

 

 

 

 

 そうして案内された先。

 ジークフリートさんは建物の前までついてきてくれた後、しばらく時間を潰す、と言ってその場を去ってくれた。

 本当に何から何まで……なんていうか。頼れるお兄さんだ。

 

 でもタピオカ超絶残って飲み物だけ消えたカップ片手だったからそこマジで笑いこらえるのに必死だったけど。そこを指摘すると彼はマジの真顔になって、『どうやって?』と聞いた。わたくしの食べ方見てなかったのかよ。

 

「さて、失礼します」

 

 小声でそう言いながら、建物の中に入った。

 人々が行きかっている。天井が遥かに高く、そこには神話の一場面を直接書き込んだ壮大な絵画が広がっていた。

 そう、ここは王都に位置する教会の総本山。

 ユイさんが次期聖女として勤める、国内最大の大聖堂である。

 

「おや、ピースラウンド様」

 

 神父服を着た小太りなおっさんがにこやかに話しかけてきた。

 うん、作り笑いではあるものの、根っこも友好的な笑顔だ。怪しんではいない、礼を失することがないように笑みを浮かべているだけだな。

 

「タガハラ様にご用事ですかな? 連絡いたしますので、少々こちらでお待ちくださいな」

「何か飲み物をお持ちいたしましょうか。西方から良い葉が届いていますぞ」

 

 小太りの神父と何か話していた別の神父さんも歓迎してくれている。

 次期聖女の友人であり、さらに現在進行中の、教会の抜本的な改革に関わっているからか、びっくりするぐらい優しく接してくるな。

 

「ああ、いえ、お構いなく。ユイさ……タガハラさんにも連絡しなくて結構ですわ」

「おや。となりますと、教会に用事が? ……いいでしょう。防音の個室を空けておきます。異端ですか? または何か怪しい金の動きを発見された? ご心配なく、タガハラ様直轄の隠密退魔部の副部長が私です。あらゆる不正を根絶しましょう」

「そういうお話でもなく! ああもう気を抜いたら陰謀やりたがりますわね皆さん!」

 

 この小太りのおっさんこえぇよ!

 てゆーかわたくし以外の人々、常に難しい話をし過ぎなんだよな。

 咳払いをして気を取り直し、わたくしは神父さんに問うた。

 

「ええと、懺悔室はどちらでしょうか」

「はい?」

 

 信じられないものを見た、という目だった。

 なんか周囲もピタッと動きを止めて、重い沈黙が下りている。

 なんだ? こちとら貴族とはいえ、教会相手だと一般人だぞ。そんなやつが来るとしたら、懺悔か礼拝かどっちかだろ。

 

 

苦行むり お前の祈りは乱数調整っぽくてめちゃくちゃ嫌

火星 俺ら相手に舐めた態度取っておきながら礼拝は無理でしょ

 

 

 コメント欄はマジで冷めきっていた。

 一応祈祷ってお前らに届くものじゃねーのかよ。

 

「……失礼、ピースラウンド様。年のせいですかね、耳が遠くなっておりまして」

「いや多分聞こえた内容で合ってますわよ。懺悔室ですわ。懺悔しに来たのですが……」

 

 再度告げると、彼は何度かまばたきをして、それからゆっくりと周囲に目配せした。

 目配せというか視線で助けを求めていた。彼に助けを求められた人がまた他の人にこれマジ? と目で問い、次の人へ困惑が連鎖する。

 そうして最後に全員やっと、わたくしが何を言ったのかを理解した瞬間。

 

 

『『『大変だー!』』』

 

 

「聖女様をおよびしろ!」

「偽物なんじゃないのか!? ピースラウンド様が懺悔なんてするはずない!」

「いいや違う! これは悪魔のしわざだ……!」

 

 本当に大悪魔降臨させてやろうかお前ら。

 

 

 

 


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