TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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PART8 暗雲は突然

次の配信は二時間後を予定しています。
 
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ミート便器 結局聖女回りどうなったんだろうな

鷲アンチ やっぱブッキングしたのかねえ

恒心教神祖 聖女に権能が分割されてるくさいんだよね

適切な蟻地獄 デバッグはしておけとあれほど…

雷おじさん このままだと一生ち〇ぽが勃たなくなってしまう

red moon 草

みろっく 草

木の根 助かる

太郎 急にどうしたんだ……

日本代表 色々分かったけどまあ見守っていこう

外から来ました 怖すぎるッピ

無敵 どうせ聖女は聖女でRTAしてんねんやろ?ええ?

日本代表 まあこっちから再調整はしない感じになったから

無敵 図星やな?

日本代表 っせーな黙ってろ

無敵 ごめん

日本代表 急にしおらしくなるなよ

無敵 いや、踏み越えていいライン超えちゃった感じがした、マジでごめん

日本代表 いいよ、気にするなよ、普段通りでいいって

日本代表 逆にこれはこれできついんだよ

日本代表 ギスるの苦手なんだよ悪かったって

無敵 ごめん

日本代表 ふぉぉん!

【魔法使いと】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【騎士】

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 実家から手紙が来た。

 王立騎士団の中隊長から突然手紙来たから転送するわ。あと最近元気? という手紙だ。

 

「やはりわたくしの家、ちょっと貴族院と教会の勢力争いに混ざれてない感じがしますわよね……」

 

 わたくしだけがおかしいのかと思っていたが、父や母も基本的に勢力争いとかどうでもいいから魔法の威力と速度上げようぜ! しか言わなかった傑物である。現に騎士団から手紙来たの完全にスルーしてるしな。

 戦術魔法における代表格のはずなのに完全にいないもの扱いされてるピースラウンド家、かわいそうすぎる。

 

「……近衛騎士、ですか」

 

 もう一通の手紙は、やはりジークフリートさんからだった。候補者たちの中から見事に中隊長の座を獲得したという報告。いろいろ世話になったというお礼。それらが、意外なほどに繊細で美麗な文字で書き綴られている。嘘だろこいつわたくしより字がうまいじゃねえか。

 

「というわけで、知り合いが中隊長になりましたわ。お祝いの品でも送ればよろしいのでしょうか」

 

 金髪ショートカットのかませが『ふふん。私は今日ミリオンアークのお茶会に誘われたけど? あんたは? ん? 誘われたけどどーせ忘れてんでしょ?』とマウントだかなんだかよくわからん挑発をしてきた。おかげでお茶会を思い出せた。

 正直同級生や先輩方と交流を深めるなんてミリも興味ないが、こういう社交性のある連中の知恵を借りたいとは思っていたのだ。

 

「わあ、すごいことなんじゃないですか!?」

 

 同じテーブルに座るタガハラさんが、目をキラキラさせて言う。

 どうせタガハラさんの逆ハーレムになるんだろうけど、まあ人気の出そうなキャラ造形だった。わたくしはホモじゃないので興味はないけれど、それはそれとして面白くない。

 若干むくれながら紅茶を啜っていると、何故か同卓している金髪かませことリンディが、ジークフリートさんからの手紙をしげしげと眺め始めた。

 

「ふーん、あの竜殺しと知り合ってたなんてやるじゃない」

「はい! どういう人なのかは知りませんが、さすがピースラウンドさんです! すごい人脈ですね!」

 

 タガハラさんがわたくしを持ち上げに持ち上げる。その様子を見て、あいさつ回りから帰ってきたロイが苦笑を浮かべていた。

 ふふん。太鼓持ちがいるとやはり気持ちいいな。ここのところ変態ストーカー王子やわたくしにツッコミをやらせる天然とかばっかと話してた気がするから、久しぶりに感じるぜ。

 

「まあ、中隊長クラスじゃ辺境に飛ばされるか王城内で飼い殺しかのどっちかで数年潰れるわね。人脈にカウントできるのはその後よ」

 

 だがリンディが続けて放った言葉を聞き、わたくしは数秒フリーズしてしまった。

 ……えっ、そうなん? チラッとロイに視線を向けると、彼は神妙な表情で頷いた。

 

「まあ、最近の話だけど……議会はすっかり反騎士派閥に染まっているよ。僕も剣術道場へ通うのをやめさせられそうだ」

 

 ロイの補足を聞いて、わたくしは手紙を見てしょんぼりしてしまう。

 そっか、ジークフリートさん、しばらく会えないかもなのか。せっかく喧嘩友達ができたと思ったのに。

 

「今まではそうじゃなかった。勢力争いは均衡していた。でも今はそうじゃない。貴族院が積極的に謀略を仕掛けるようになった。裏を返すと、それだけ焦りがあるんだ」

「そうね──やっぱ、聖女の登場から、若干バランスが崩れてるのよねえ」

 

 ロイとリンディの言葉を聞いて。

 わたくしはほへ~と馬鹿みたいな顔をしていたが……視界の隅で、タガハラさんが、不意に一切の感情が抜け落ちた無表情になっているのが見えた。見えてしまった。

 

「ちゃんと分かってんの、マリアンヌ。あんたは全然他人事じゃないのよ」

「え? わたくし?」

 

 そちらに気を取られている間に、リンディが猫のような目を吊り上げて、ティースプーンをビシリと突き付けてきた。

 

「待ってくれ、ハートセチュアさん。それは──」

「やだやだ。ミリオンアーク、あんた知らないままで通せると思ってんの? 気に入った相手を鳥かごに閉じ込めたがるのは男のサガかしら?」

 

 あっなんか空気悪くなった。

 ロイの視線が鋭くなっている。リンディはちょっとたじろいだが、咳払いをしてから普段通りに薄い胸を張った。

 

「このままじゃ何も知らないうちに巻き込まれるわよ。何? 徹頭徹尾、あんたが守り抜けるの?」

「……僕ならできる。できるはずだ」

「きついこと言うわよ? できるわけないじゃない。むしろ旗を振ってんのはあんたの実家よ」

「……ッ」

 

 むむ、珍しいものを見た。リンディが誰かを言い負かしている。

 まあロイ、嫡男で非の打ち所がない評判と実力持ってるから許されてるだけで、考え方は結構実家と反目してるっぽいしな……

 

「で、あのー。わたくしに関する話なんですわよね。張本人を置き去りにするというのはいただけませんわ」

 

 わたくしが説明を求めると。

 それに回答したのは、意外にもタガハラさんだった。

 

「貴族院側は────()()()()()()()()()()()()()()ってことですよね」

 

 驚くほどに冷たい声だった。

 思わず彼女の顔をまじまじと見る。紅茶の水面を見つめるタガハラさんの両目には、一切光が宿っていなかった。

 ん? あれ? こういう主人公って、こう……そういうの鈍いんじゃないの?

 

「……そういうことよ。庶民にしては頭回したじゃない」

 

 素直に感心したような声をリンディが上げる。

 こいつ庶民散々見下してるスタンスのくせに、ちゃんとしてる相手だとわかったら即座に対等な感じ出すのなんかズルいよな。

 

「癪だけど、私たちがこうして通ってる学校も、貴族院の連中からの寄付あってこそよ。だからあいつらが見返りを求めるのは、今まで切ってなかっただけで常に存在するカードだったわ」

 

 スプーンで紅茶とミルクを混ぜながら、リンディが淡々と告げる。

 

「マリアンヌ。あんたは貴族院にとって、まさに自陣営の聖女扱いってわけ」

「確かに聖女の如き美しさはありますわね」

「勢力争いの象徴が欲しいのよ。聖女のような存在さえあれば負けないって腹積もりなんでしょうね。もう神輿は動き始めてるわ。祀り上げられて、その評判が学内に浸透するのも時間の問題でしょうね」

「確かに聖女の如きカリスマはありますわね」

「向こうは何よりも教皇に資質を見出されて、それに応えたという実績が大きいわ。だから多分……貴族院も、あんたに何かの試練を課す。それを乗り越えさせて、名声を高めさせる。マッチポンプなわけよね」

「如何なる試練だろうと問題ありませんわ。何せわたくし、世界で最も強く、最も選ばれし者ですもの」

「その自信どこから補充してるの? 品切れの気配がまったく見えないわね」

 

 全方位に隙はない。何せ欠点らしき欠点がないからな。ガハハ!

 

「……事実だよ。父上も、君こそが権力闘争の切札だと考えている」

 

 ロイが不意に、歯がゆそうな表情でそう言った。

 

「意外ですわね。なんというか……わたくしの家、そういったもめ事には混ぜてもらっていなかったので。今さら急にどうしたんですの?」

「逆よ馬鹿! ピースラウンド家は意図的に、徹底的な不干渉を貫いてきたってだけ。貴族院がそれにしびれをきらしたのよ」

「そうだね。確実に敵にだけはならない、という状況に不満を抱いているんだ。現当主を説得することは難しい。白羽の矢が立つなら、それはマリアンヌをおいて他にはあり得ないだろう」

 

 えっわたくしの両親そんな難しいこと考えてたの?

 そんな……! あの二人がちゃんとしてたら、わたくしが遺伝性ではなく突然変異の純粋な馬鹿みたいじゃないですか! 冗談じゃありませんわ!

 

「ふむ、なるほど……つまり、このマリアンヌ・ピースラウンド。政治闘争においても最強だということを証明する時が来たわけですわね」

「どーすんのよ、何か考えでもあるの?」

「平時と変わりません。わたくしが最も優れていることを証明する。わたくしこそが最も強き者、最も選ばれた者であることを証明する。お誂え向きの戦場が向こうからやってきただけですわ」

 

 そう言葉を紡ぎながらも。

 わたくしは歓喜に全身が震えぬよう、自分を律するので精いっぱいだった。

 

 勢力争い。完全に蚊帳の外過ぎて考えていなかったが、ここにきて突然、自分が渦中の存在となりつつある。

 逃す手はない。

 ド定番だ。

 

 要するにこれ────追放チャンスじゃん!!

 

「ふふふ……雌雄を決する時が楽しみですわね」

 

 聖女相手にタコられるだけで、もうそれは完全に追放案件だ。

 敗北した勢力側の、担ぎ上げられた指導者がどうなるかなんて歴史を学べば小学生でもわかる。

 なんてこった、完璧だ。早く敗北が知りてえよ(ガチ)。

 

「ふふふふ……ふふふふふふふ………!」

「ねえこいつ、権力闘争の意味ちゃんとわかってる? 聖女とのタイマンしか考えてなさそうな顔してるわよ」

「そうだね。頭の中は聖女でいっぱいなんだろう。素直にムカつくね」

「は?」

「……今のは完全に僕が馬鹿だった。忘れてくれ」

 

 リンディとロイが小声で何やら話しているが関係ねえ。

 わたくしは公衆の面前で、いかに無様に恥をかかされるのかを真剣にプランニングし始めていた。

 

 

 ────だから。

 タガハラさんがずっと、この話題の間は、普段が嘘のように感情の色を見せなかったことを、すっかり忘れてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お茶会は陽が沈むころに終わった。

 黒髪をなびかせ、マリアンヌはユイと二人並んで、女子寮への道を歩いていた。

 

「むむ……やはり直接的な決闘は最後に取っておくべきでしょうね。他の面でどうにもならないほど追いつめられ、やけになったわたくしが禁呪を打とうとして取り押さえられる。最後の着地点はきれいに描けましたが、問題は過程ですわね……」

 

 小声でブツブツとよく分からないことを呟いているマリアンヌ。

 隣のユイは心ここにあらずといった様子で、怪音声が耳に入っていなかった。

 

「小さな嫌がらせから仕掛けていきましょうか……聖女の靴に画鋲を入れておくとか。いやちょっとリアル路線過ぎますかね。やはりでっち上げた風聞を流しましょう。聖女は夜な夜なショタを集めてえっちなパーティーを開いている。いい感じですわね、タガハラさんはどう思います?」

「えっ? あ、は、はい。いいと思います、私そういうの好きです」

「アナタこういうのが好きなんですの!?」

 

 適当な返しをしたせいで、マリアンヌの中でユイはおねショタ乱交が性癖のヤバイ女になった。

 うわ……と表情を引きつらせながら。

 迷わず帰路を進んでいた二人の歩みが緩やかに減速し、最後には止まった。

 

「こんばんは、ピースラウンド様」

 

 前方。

 一人の紳士が、道を塞いでいた。

 白を基調とした礼服が、普段の通学路とまったくなじまない。異様な異物感があった。

 隣でユイが静かに息をのむ、と同時。

 

「そこで、何をしているのですか?」

「────!?」

 

 マリアンヌの背後で、空間が軋んだ。

 

「もう一度問います──そこで、何をしているのですか?」

 

 世界が啼いていた。大気そのものが罅割れている。

 魔法陣が互いを上書きし合うように重複しながら展開され、破壊の光が漏れだす。

 発射直前の状態で固定された計30にも及ぶ流星(メテオ)が、砲口の如く紳士に突き付けられていた。

 

「………………え? え? ちょっ、殺意高くないですか?」

「これで最後ですわ、次はありません。そこで、何をしているのですか?」

 

 紳士の全身からドッと汗が噴き出た。

 分かった。分かってしまった。この女は、本気でやる。

 会話のペースを握らせないためではない。もっと根源的な理由。気に入らない相手の話を聞く気がないのだ。

 

(ピースラウンド家め、政治に興味がないふりをして、()()()()()()()()()()()をきっちり教え込んでやがる! 無意識のすり込みか? いいや、それはもういい。イニシアチブを取るという考え方を捨てるしかない!)

 

 紳士は恭しく一礼をしてから、声が震えないよう気をつけながら口を開いた。

 

「私は教会から遣わされた者です」

「…………!」

 

 使者が胸元に手を伸ばすと同時、ユイが即座にマリアンヌの前に出た。

 だが取り出されたのは凶器ではなく、教会からの認定を証明する羊皮紙。それを見せて、使者は手を上げて自分に害意がないことをアピールする。

 

「できれば、その魔法を解除していただければと思います」

「……ピースラウンドさん、あれ本物ですね」

 

 文字を読むには離れ過ぎていたものの、ユイの目は書面に記された文言と聖女のサインを判別可能だった。

 その言葉を聞いて、マリアンヌは流星(メテオ)をかき消──さなかった。

 

()()()()()()()?」

「えっ」

「わたくしの進む道を塞ぎましたわね? わたくしの行く先を遮りましたわね? ならば誰が相手だろうと関係ありません。それは、叩き潰すだけですわ」

 

 全身から過剰魔力が吹き荒れる。

 マリアンヌの戦意に呼応して、それらは黄金色の雷撃となって、無作為に周囲の地面を砕いた。

 

「こ──これは、これは。さすがに魔女と謳われるだけはある……恐ろしいですね」

「魔女?」

 

 口に出してから、マリアンヌは即座にその意図を理解した。

 聖女に真っ向から対峙する者。聖なる存在と対になるのならば、それは確かに魔女と呼ぶにふさわしいだろう。

 

「気を悪くされたのなら失礼──」

「採用ですわ」

「はい?」

「わたくしこそが最強の魔女! この世界の頂点に君臨する、魔の道を究め、魔の意志に導かれた女! マリアンヌ・ピースラウンドは今この瞬間をもって、魔女を名乗りましょうッ!!」

 

 あふれ出ていた魔力がペカーと輝きを増し、後光のように展開される。

 天を指さし、彼女はビシィとポーズを決めて雄々しく叫んだ。

 

「なんだこの女……」

 

 使者はドン引きしていた。

 

「……ええと、それで。結局何の御用でしょうか」

 

 話が進まねえとユイが代わりに本題に入るよう促す。

 使者は片腕を真上へ突き上げたまま未だキメキメであり続ける女を見て、顔を引きつらせながらも、懐からもう一枚の羊皮紙を抜き取った。

 

「王立騎士団、新設部隊──ミレニル中隊の結成に伴い、近衛騎士ジークフリートが王立騎士団中隊長に任命されました」

「ええ、拝聴いたしました。ご本人にはまたの機会になりますが、中隊長ご就任を心からお祝いしておりますわ」

 

 知った名前を聞き、やっとマリアンヌの意識が現実に帰ってくる。

 

「つきましては、正式な任命式を国王陛下の御前にて行いますので、ピースラウンド様にぜひご出席いただければと思っております」

「……ッ!?」

 

 ユイは目を見開いた。情勢を理解していれば、それは明らかな異常事態だった。

 騎士団の任命式に、貴族を招待する?

 

「あら、いいですわね。わたくしもぜひ、彼には面と向かってお祝い申し上げたかったところですわ」

「ええ────そこでピースラウンド様には是非、近衛騎士ジークフリートと御前試合を行っていただければと思っております」

「…………は?」

 

 使者の顔が笑顔を象った。

 それは相手への友好を示すには、いささか不気味で、うすら寒い、醜悪な表情だった。

 

 

 

 


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