TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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INTERMISSION19 暗闇の中に咲く華

 神聖な場所。

 邪悪な者が立ち入ることは許されない礼拝堂。

 

 

 残念ながら今この時に限っては、敬虔な心を持つのはわたくしだけだった。

 

 

日本代表 開幕大嘘モノローグやめろ

red moon 黙ってろ禁呪保有者兼大悪魔の因子持ち

無敵 ここ神聖さ失ってるからむしろお前にお似合いだろ、神への反逆ダブルビンゴ女がよ

 

 

 いやいやいやいや。

 でもさ、わたくし以外は全員マフィアなんだぜ?

 しかも聖堂をアジトにして、神の加護がなくなるレベルまで機能を損なわせた連中ときた。

 この中でだれが一番マシかっていえばそりゃわたくしでしょ。

 

「僭越ながら、祈りは済ませましたか? 今ならわたくしが代わりに祈ってあげてもいいですわよ、来世はなんとか虫にまでオマケしてもらえるようにと」

「言ってくれるな」

 

 目の前のスキンヘッドの男は動じなかった。

 だが周囲は違う。殺気が膨れ上がる。トリガーに指がかかるのを空気の流れで感じた。

 わたくしは今聖堂のちょうど中央に佇んでいる。まんべんなく全方位に敵が控えていた。二階席からもクロスボウが向けられている。

 シャワールームじゃなくて良かったよ。まあわたくしはニコラス・ケイジみたいにイケてるから死なないがな。

 

「それで……結局のところ、目的は何だ」

「マルコというおぼっちゃまに用件があります。ラカンさんへの抹殺命令の取り消しをお願いしたいのですが」

「……ボスに直接会うことは考えなかったのか」

「効率的ですがスカッとしませんわね」

 

 右の拳を胸の前まで上げて、ごきりと関節を鳴らした。

 その音が合図だった。四方から攻撃が再度浴びせられる。

 

星を纏え(rain fall)

 

 馬鹿が。たとえ魔力を激発させる形式の火器であっても、魔法使いの一節詠唱はそれより早い。発音言語が追いつかずとも意味言語は即時発動する。挙句の果てに原始的なクロスボウときた。

 顕現した流星のビットが散った。ヴェール状に展開されわたくしへの攻撃を阻み、逸らし、別方向へと受け流す。

 

「ギャッ」

「ぐわっ」

 

 そこらの三下がひっくり返り、二階席の刺客が肩や腹部を押さえ一階に落下した。

 スキンヘッドの男──めんどくせえハゲでいいや。ハゲはさっと首を傾げ、自分に逸らされた銃撃を回避した。彼の背後で聖像の頭部が弾け飛ぶ。

 

 

外から来ました 敬虔な人間は聖像の頭部を破壊しないぞ

 

 

 これは……その……

 じ、事故だよ事故。事故だからしょうがねえだろ。なあ!

 

「魔法で攻撃の方向を変え、同士討ちさせたのか……魔法使いにとってはたやすいのか?」

「わたくしにとっては、ですわ。残念ですがアナタの前にいるのは、大陸最強の魔法使いです」

 

 これが魔法使い同士の激突であれば話は変わっただろう。

 相手を害するための魔法を簡単に跳ね返すことはできない。

 

「通していただけます?」

「できないな」

 

 ハゲは言うや否や踏み込んできた。間合いを殺せば、か。逆だっつーの。

 コンパクトに振るわれた拳を、かがむ形で回避する。

 

「むっ──」

「──シッ」

 

 息を吐いてこちらからローキック。素早く片足を持ち上げ回避された。

 素早く足を戻し、今度はこちらから距離を詰めつつワンツー。拳の裏で打ち払うように無効化される。

 こいつ、攻撃はそれなりってレベルだが、防御はかなり()()な。前世で言うムエタイに近い技術を織り交ぜてるのか。

 ワンツーを放った右手を戻し、その際の勢いを、腰を介して左腕に伝達。ガードごと突き破るべく左ストレートを打ち込んだ。

 

「フッ」

 

 だがそれも空を切る。ガタイに反して俊敏な動きで、左腕を掴まれた。

 関節を即座に極められそうになる。

 

「チィッ……!」

 

 舌打ち交じりに、身体をぐるんと回転させる。

 肘を引き抜きつつ、勢いを載せて顎を狙いアッパー。だがハゲはのけぞって避けた。

 訂正する。打撃以外の攻撃もなかなかやる!

 へえ、いいねいいねいいねえ!

 

「盛り上がってきましたわね!」

「待っていたのは、お前じゃないがな」

「……あ゛あ゛!?」

 

 突然冷や水をぶっかけられ、わたくしは一瞬でキレた。

 

「全部わたくしですが!? 世界で最も選ばれし存在! 万物万象の頂点に立つ女! そんなわたくしの相手をしておきながら、お前じゃないですってェ!?」

「想像の百倍ヤバい女だったな……」

 

 わざわざ魔法を使わず接近戦を挑んだのは、こいつの土俵だからだ。

 同じステージでぶちのめしてこそ意味がある。前哨戦を相性差でゴリ押してどうするんだ。

 

 

 遠距離から圧殺したところで、勝利の美酒がノンアルになってしまいますからね!

 

 

宇宙の起源 申し訳ないけど流星(メテオ)今すぐ返上してもらえるか

 

 

 だめでーす。

 既にわたくしと流星は一心同体なので返品不可でーす。

 

 

 コメント欄がぶわっと罵詈雑言であふれかえった。

 見るに堪えないので無視。もたざる者の嫉妬は醜いねえ。まあ反骨精神ってとこまでいってれば大好きだけどな。

 

「さて、仕切り直しましょうか」

 

 大体の戦法は分かった。

 ガンガン攻めてくる感じじゃない。どっちかっていうとカウンター主体。ならやることは簡単、向こうの返す刀より早く打ち抜くだけ。

 脳内で瞬時にシミュレーションを済ませた。百回やって百回わたくしが勝つ。

 

「……ッ」

 

 気配の変化をきっちり感じ取ったのだろう。

 ハゲが一歩後ずさった。

 わたくしは一歩距離を詰めた。

 その時だった。

 

「嬢ちゃん。悪いがそこまでにしてくれないか」

 

 振り向けば聖堂の大扉が開け放たれていた。

 右足はわたくしが治療した。解呪したのだから、そりゃ自由に動けて当然か。

 

「ラカンさん……」

「お前の相手は俺だ」

 

 バトルジャケット姿の掃除屋は、粛然と告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「いいんですね?」

「マルコも俺がカタをつけたいが。嬢ちゃんの気が晴れないか」

「話を聞くだけでムカついてきます。是非とも前歯をすべてへし折ってあげたいですわね」

「なら頼んだ。俺はこいつを片付けた後、入れ歯の注文をしておく」

「よろしく頼みますわ」

 

 マリアンヌは無防備にすたすたと歩き、ローガンの隣を過ぎていった。

 

「残念ですがお遊びは終わりですわね。アナタ勝てませんわよ」

 

 通り過ぎざまの、忠告にもならない一言。

 それを聞いてもローガンは動けなかった。なぜなら、ラカンが視線の先にいたから。

 背後でバタンと扉の閉じる音がした。それを確認してから、ラカンが静かに唇を開く。

 

「ローガン……マルコにつくとは、馬鹿な真似を」

「……何とでも言えばいい」

「これ以上は言わない。かける言葉もないほど、愚かで、手遅れだ」

 

 言うや否やだった。

 ラカンは懐から魔導器(アーティファクト)を引き抜いた。注視していたのにまったく追えなかった。

 遠い平行世界では拳銃と呼ばれる形のそれを見て、ローガンが微かに表情を硬いものにする。

 確かにマリアンヌには及ばなかった。だがローガンも早撃ちに関しては卓越した使い手だ。そのローガンが、ラカンには一度も速度で上回れたことがない。

 既に抜かれた。撃たれるまでコンマ数秒もない。死を覚悟した。

 

「これでいい」

「────────」

 

 カランカランと空々しい音が響いた。

 見慣れた魔導器が床に転がっていた。ラカンはそれを投げ捨てた姿勢で、無表情でこちらを見つめている。

 ローガンは自分の視界が真っ赤になるのを感じた。

 

「貴様」

「これで対等だ」

 

 両手を膝の側に落とした自然体で、ラカンはローガンを見つめた。

 武装はない。互いに徒手空拳。

 過程こそ想像の埒外だったが、ローガンが待ち望んだ光景がここにあった。

 

「お前が求めていたのは、これだろう?」

「……恵んでもらうつもりはなかったがな」

 

 ラカンは両手を持ち上げたスタンダードな構え。

 一方のローガンは、相手と比べて高い位置に両腕を置いた。

 

「かかってこいラカン……雌雄を決するときだ」

「そうか。俺はそんなこと、考えたことなかったがな」

「ほざくなよ……!」

 

 ローガンは獣のような体捌きで間合いを詰めた。

 左腕を目くらましに突き出しつつ、まるで針のように瞬間瞬間繰り出される右ストレート。一つ当たれば意識を刈り取り、そこから敗北へとつながるのは必然。

 ラカンは軽いフットワークでそれを避けていく。掠る気配すらない。

 

「お前はそうやっていつも! 自分はなんでもできると思いあがって……!」

(そんなことはない。俺はいつだって、自分にできることをしてきただけだ)

 

 表情に変わりはない。ラカンはいっそ冷たいと言えるほどの表情で的確にローガンの猛攻を捌く。

 余裕があるわけでもなく、ただいつも通りにポーカーフェイスを維持するだけだった。

 

「流れ者の分際で……!」

「…………」

 

 憎悪を口走りながら、ローガンがコンビネーションを繰り出す。

 すべてを逸らし、弾き、捌きながら、ラカンの冷たいまなざしはローガンの右腕の振りが微かに膨らんだのを見ていた。

 

「お前は」

「ッッッ」

打撃手(ストライカー)向きじゃない」

 

 一瞬だった。

 先に振りかぶったはずなのに、折り曲げられたラカンの二本指がローガンの喉を突いていた。

 呼吸が詰まる。体勢が崩れる。右腕を掴まれ、そのまま床に投げ飛ばされた。

 頭部のない聖像だけが決着を見守っていた。両腕を完全に剥がされたローガンの顔面に、ラカンは一切の躊躇なく拳を数度叩き込んだ。鼻の骨が折れる音。視界がバチンと火花を散らし、それでローガンの意識は途絶えた。

 

「……ふう」

 

 立ち上がり、ジャケットを羽織りなおす。

 周囲に転がっている敵の中に、息絶えた姿はない。ここはあの少女の流儀に合わせることにした。随分と根の甘いことだ、と嘆息する。

 だが恩人だ。彼女の決着も見届けなければならない。

 静まり返った聖堂の中を、ラカンは魔導器を拾い上げてから歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 奥へのドアを開け、廊下を突き進む。

 聖職者の服装で武器を持った男が何度か出てきたが、全員ワンパンで静かになってもらった。

 マジで楽勝だ。レベリングしきった後でダンジョンを進めている感覚に近い。

 

 

苦行むり 大陸最強の魔法使い、ぶっちゃけそんなに嘘でもないもんな……

火星 冷静に考えてしょうもない国のしょうもないマフィア相手に、歴代随一の禁呪保有者をぶつけるのは無法が過ぎるだろ

 

 

 コメント欄は相手への同情一色になっていた。

 わたくしが訪れたのは完全にめぐりあわせなので、まあアレだ。マルコっつーやつの運がどん底だったんだろうな。

 

「お邪魔しまーす! ウーバーイーツですわ!」

 

 一番奥の扉を蹴破った。

 四角いカバンこそないが、気分は完全に配達屋だ。ピザでも買ってくれば良かったかな。

 アジトとして改造された奥の間には、武装した護衛数人と、妖艶な美女を侍らせソファーに腰掛けこちらを睨むお坊ちゃまがいた。

 

「お前が観光客を名乗って、ウチのファミリーに喧嘩を売ってきた馬鹿か」

「ご名答ですわ。注文は破滅か、ラカンさんへの殺害命令の取り消しか、どちらでしたっけ?」

 

 問いかけると、ソファーに座っていた女が手を叩いて笑った。

 

「面白い娘じゃない! 度胸があるわね。指名客がたくさん付きそうだわ」

 

 どうやらわたくしを売り飛ばした後の算段を立てているらしい。

 嘆息して、鼻をつまんだ。

 

「ババアは黙っててくれます? 加齢がうつります」

「────ほざいたな小娘!」

 

 沸点ひっく……

 ババアの金切り声が合図だった。武装した男たちがこちらに殺到する。

 わたくしは腕を組んで、ダンと右足で床を蹴りつけた。

 

天を焦がし(sky burn)地に満ちよ(glory glow)

 

 流星の輝きが右足から床を伝い、詰め寄ってきた男たちの足元で炸裂。

 破裂音と共に連中を四方八方へ吹き飛ばした。

 ロイが開発した卑劣極まりないクソ技に着想を得た、自分以外のものを経由して流星を発動させる遠隔技巧だ。ある程度の遅延も可能なので、尋常な立ち合いならそこらに地雷として仕込んでもいいスグレモノである。

 

「…………え? 終わりです?」

 

 吹き飛ばした奴らが立ち上がってくるのを待っていたが、彼らはまったく動かず呻くだけだ。

 よ、ヨワ~~。

 

「ちょっと……質の最高値があのハゲだとしたら、いくら何でも平均値すら低すぎませんか? 偏差値30いってないですわよこれ。Fランマフィアなんです?」

 

 絶句しているババアと、その隣のお坊ちゃまに声をかける。

 手下の全滅を見ながらも、マルコは余裕の表情を崩していなかった。

 へえ?

 

「余裕ぶっこいてる女が好きなんだよ、俺。そこから苦痛に歪むのがたまらなく興奮すんだ」

「丁寧な三下アピールどうも」

「警戒せず突っ込んできたお前の方が三下だぜ?」

 

 あ? なんつった?

 ブチンと脳内で音がした。わたくしは一気に踏み込もうとして、そこで足を止めた。

 体内に、何かが入っている。

 

「俺の魔法だよ。無害な魔力を体内に侵入させ、その後毒素に変換して内部からお前を焼き尽くす……お前、部屋に入った瞬間詰んでたってワケ」

 

 無害なものとして入り込んだあと有害性を発揮する。

 なるほどな、絡め手を仕込んでいたからの余裕か。

 

「じゃあいい声聞かせてくれよ。泉の底に沈む沼(spring fallen)おぞましき精霊の息吹(hate breath)日没に砕け散れ(daybreak break)

「嬢ちゃん、首尾はどうだ」

 

 マルコが三節詠唱を口ずさんで毒性を発動させる。

 ちょうどその時、破壊したドアの向こう側から、どうやらハゲを片付けたらしいラカンさんが顔を出した。

 

「アナタねえ……この魔法知ってたのなら、何で言わなかったのです」

「直感だが、関係ないだろう。瞬時に解呪してたじゃないか」

「そうですわね」

 

 まあ他人の毒なら魔法で解除するけど。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は?」

「余裕ぶっているところ申し訳ないのですが、わたくし、毒物が効かない体質なのです」

 

 体内で有害性を発揮した毒素が、片っ端から焼き尽くされていくのを感じた。あの大悪魔の加護だ。

 遅延発動? 無害なふりをして侵入?

 だからなんだ。結局は毒だろうが。

 別に悪魔の加護がなくとも、そもそも体内で流星を循環させて毒素を焼却するだけだがな。

 

「……は、はァ……ッ!?」

「あら、いい声ですわね」

 

 今度こそ焦りをあらわにして、マルコは弾かれたように立ち上がり、ソファーの後ろの壁に飾っていた武器を手に掴んだ。

 一瞥し、眉根をひそめる。ただの剣って感じじゃない。

 ……ああ、なるほどな。

 

「魔法使いがなんだ……! ならこっちでぶっ殺してやるよ!」

「虎の子というわけですか」

 

 それは大型の対魔法使い装備(フェンリル)だった。

 白銀の両刃剣。刀身まで色とりどりの装飾が施され、儀礼用にしか見えない。

 

「マフィアよりかは、貴族が持ってそうな代物に見えますが……ああ、貴族気分が味わいたかったのですか。アナタでは一生手の届かない場所ですものね」

「…………!! テッメェェェッ!!」

 

 あ、何か地雷踏んだっぽいな。

 マルコは剣術なんて習ったことないであろう、見るも無残な、遅く劣悪極まりない斬撃を繰り出す。魔法剣士を見習ってほしい。あいつの斬撃普通に時々音超えてねってなるぐらいだぞ。

 向こうの剣が到達するまでに四回は反撃を差し込んで確実に絶命させられる。

 だが、それじゃ気が済まねえ。

 魔法を使って他者を足蹴にするカス相手に、そんな終わらせ方じゃ納得がいかねえ。

 

 わたくしは──組んでいた腕を解くと、そのまま両手を落とした。

 

「な!?」

「あ!?」

 

 見ていたラカンさんだけでなく、襲い掛かってきたマルコすら驚いていた。

 フルスイングされたフェンリルが、モロにわたくしの側頭部を打ち据えた。硬質な音と同時、ぐわんと視界が揺れた。床に血が飛び散った。

 3%の防御は切断こそ防いだが、一部魔力を食われて衝撃を通している。

 数秒の静寂。振りぬいた姿勢で硬直しているマルコに対して、ゆっくりと顔を向け、至近距離で視線を重ねる。

 

 

 

「で?」

 

 

 

 本当に、心の底からの疑問だった。

 それでどうした? まさか有効打のつもりか?

 額を伝う鮮血に視線が吸い寄せられているのを感じた。そんなもん見てんじゃねえよ。お前が流させただけだろ。こっちを見ろよ。

 

「ヒッ」

 

 呼吸の詰まる音。

 マルコはヤケクソにすら届かない、完全な条件反射の追撃を振りかぶった。

 遅すぎる。大きく振りかぶってどうすんだ。だがいいぜ。それぐらい無様な方が、反射的な迎撃も出ねえし。

 右肩への袈裟斬り。当然防がない。鎖骨の砕ける音がした。がくんと足から力が抜け、膝をつく。

 

 だから、なんだ?

 

 わたくしは両刃剣の刀身を右手で握った。

 ブシュッと手から血が噴き出る。

 

 だから、なんだよ?

 

「アナタは何もかもを勘違いしている……何も、かも……!」

 

 フェンリルが魔力をかみ砕いている。わたくしが身に纏う流星の輝きを食らっている。

 お前如きが。安っぽい機械如きが、思いあがったな。

 歯を食いしばり、全身を循環している魔力を一気にフェンリルへ注ぎ込んだ。

 放電音と共に紫電が散った。ロングソードが軋みを上げる。

 

「ひっ……な、なんだよ! なんだそれ! 魔法使いなんだろ!? お前!?」

 

 宣伝文句は、魔法使い相手に圧倒的な優位性を誇るとかそんなんだろう。

 だからマルコはこう考えたのだ。魔法使いがこれを持てば無敵じゃないかと。

 浅い。あっっっっっさい。

 

「本当に、強いというのは……! 相性差がどうこうではありません……!」

 

 そうだ。

 流星(メテオ)禍浪(フルクトゥス)に勝てない道理はないように。

 人の頭を踏みつけ、高い酒を飲める人間が勝者なのではない。

 

 それを教えてくれたやつがいる。

 負けても心まで折れることはなく。

 何度でも立ち上がってくる、我が婚約者が、体現してくれている。

 

「────っぅぅぅぅぅぁあああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 裂帛の叫び声を上げて、立ち上がる。

 必死に押さえつけようとするマルコを至近距離で睨みながら、刀身ごと押し返して、立ち上がる。

 紫電が一層激しく散る。それは魔力同士の激突による黄金色から、フェンリル内部での動作不良による白へと変化していった。

 右手に瞬間的な過剰魔力を込めた。魔力を食らうシステムがついにオーバーロードを起こす。

 そして最後には、刀身がバキンと音を立てて、手の中で真っ二つに折れた。

 

「はッ……は、はあああああ!?」

 

 狂乱し、マルコが後ずさった。

 手の中に残った刀身の半ばから先を眺め、ぽいと投げ捨てた。過剰な装飾を施された虚栄の剣が、むなしい音と共に転がっていった。

 

「……アナタのそれは、動物の理論ですわ。人間の強さじゃない」

 

 それを言い放ち、壁に背中を張り付けるまで後退したマルコに目を向けた。

 

「終わったな」

 

 背後でラカンさんが嘆息する。

 その時、足音が聞こえた。

 ラカンさんのさらに背後から、ぬうと黒服の男たちが数名入ってきた。

 

「どちら様で?」

「……ディックか。ボスの命令で?」

「そうです、ラカン様。現時刻をもって、貴方への殺害指令が取り消されました」

「あいつ、最初から分かってやがったな……本当に死んだらどうするつもりだったんだ……」

 

 ラカンさんはがしがしと頭をかいてから、懐から煙草を引き抜き口にくわえる。黒服の一人が素早くマッチを擦り、そこに火をつけた。

 成程。

 どうやらわたくしたち以外の場所で、きっちりケリはついていたのか。

 

「マルコ様。ボスからの言伝を」

「ぇ……」

「『最初から分かっていた。もしお前が本当にすべてを成功させたのなら、私は席を譲ってもよかった。だが失敗した。お前はその程度だ』」

 

 ……言いぶりからして、ここの様子を知ってたっぽいな。

 周囲を見渡す。アジトの壁にかけられた絵画や美術品。それらから微弱な魔力を感じた。

 

「アナタ監視カメラに囲まれてるの全然気づかなかったのです?」

 

 指摘すると、マルコだけでなくババアまで面白いぐらい青ざめた。

 がっかりだよ。もう少しはやるかと思ってたんだがな。

 額を伝う血を、その辺に落ちてたハンカチで拭う。全部終わったな、と一息ついた。

 そして。

 

 

 

「まったく、なんでアナタなんかが生き延びて、彼女が……」

 

 

 

 ────意図せず零れた言葉を聞いて、自分で凍り付いた。

 身体の動きが止まった。自分の拍動がいやに聞こえた。

 

 ああ、そうなのか。

 

 だからわたくし、ずっと怒ってたんだ。

 

「……クソッ!」

 

 固まったわたくしを見て好機と思ったのか、マルコが裏口から走って逃げる。置き去りにされたババアが何か喚いていた。

 

「あいつ逃げる気だな、ここの倉庫には魔導重機があったはずだぞ……!」

 

 ラカンさんが戦慄した様子で叫ぶと同時、アジト自体がグラグラと揺れた。

 後を追えば、教会裏手の倉庫を半壊させ、ハートセチュアの家紋を肩に刻んだ巨大なロボが立ち上がっている。

 は?

 

「これは?」

「ボスが外国から買い上げたっていう最新鋭の重機だ……!」

「重、機……?」

 

 頭部にV字型のアンテナついてるんですけど。

 

 

みろっく クソワロタ

第三の性別 あ~これあるよあるある、一周目クリアしたらショップで買えるんよ

 

 

 原作要素なんかーい! 潜水艦といいどうなってるの? 発展レベルっていうか、考証がガバガバすぎないか??

 巨大ロボが腕を振り回す。教会の塔にそれが当たり、半ばから上をすっ飛ばした。

 空中を滑った建造物が空き地に沈む。砂煙が吹き上がり、大地が激震した。

 

「って! 普通にこれシャレにならないのでは!?」

「野郎、住宅地に向かってるぞ!? 国境をアレで越える気か!?」

「イカれてますわね……!」

 

 どうする? 流星でぶち抜くか?

 ただなあ……

 

 

外から来ました お嬢どしたん?

 

 

 自分でもびっくりするぐらいモチベが下がっていた。

 だってさっきまで怒ってたの、完全な八つ当たりじゃん。

 うわあ……心狭っ……

 

「PUGYU!」

「ん?」

 

 慌てふためいているラカンさんや黒服たちの背後でうんざりしていると。

 不意にわたくしのスーツの裾を引っ張る何者かがいた。

 振り向く。

 

 タイヤを足代わりにつけたデカいネズミがいた。

 

 は?

 

 

木の根 マジで鼻水吹いた

みろっく え……これモル……

日本代表 違う違う、ネズカーな。全然別物だから。ほら……なんかこう……違うだろ……?

 

 

 ネズカーとやらは裾を器用にはんで引っ張っていた。

 わたくしと視線が重なると、目をつり上げて元気に跳ねる。

 

「PUGYU!」

「自分を使えと?」

 

 

red moon なんで意思疎通できるん???

 

 

 よく見ると、前世における自動車とかなり酷似していた。

 何だこれ……と戸惑っているわたくしに対して、ラカンさんが神妙な顔で近づいてくる。

 

「そいつもボスが買い上げた、あの最新型二足歩行重機とは対になる兵器……じゃなかった重機、試作型四足歩行重機『パラベラム』だ」

「今兵器って言いましたわよね?」

「あれもこれも動作には運転手の魔力を必要とする。頼めるのは嬢ちゃんだけだ……!」

 

 誇り高き掃除屋が、ガバリと頭を下げた。

 わたくしは暴れながら進んでいくロボの背を見た。そうか。姪さんが巻き込まれる可能性だってある。

 みんな必死だ。応援を呼ぶ黒服の人。意味なんてないのに武器を取り出して必死に攻撃する人。

 わたくしだけが勝手に熱を失い、勝手にステージを降りようとしていた。

 

 それは、違う。

 

 誰もが多分必死に生きている。

 わたくしもそうだ。

 

 そして何より。

 

 

 ────彼女も、そうだったはずだ。

 

 

 視界が揺れた。臓腑の底から何か、熱いものがせりあがってきた。

 パシンと自分の両頬を叩いた。失っていた何かが充填されるのを感じた。

 キッとネズカーを見据える。

 

「……ッ! パラベラム、やれますわね!?」

「PUGYUPUGYU!」

 

 ネズカーのまなざしには決意の焔が宿っていた。

 わたくしはラカンさんに頷くと、勢いよくネズカーのピンク色の車内に乗り込んだ。

 ハンドル代わりに備えられた二本のグリップを掴んだ。インジケータが浮かび上がる。魔力を流し込めば、エネルギータンクが急速に色づいていった。

 pipipiと起動音が響く。薄暗かった車内で次々にモニターが点灯し、外部を映し出していった。

 

 え?

 自動車っぽかったけど普通にこっちもコックピットだわ。何なんだこれマジで。

 

 

無敵 新令嬢戦記マリアンヌ(ワロタ)じゃん

 

 

 名作を汚すな!

 こちらの起動に近づいたのか、ロボが足を止めて振り返る。

 

『ハッ、そんな燃費最悪の骨董品で──!』

 

 やつはその辺にあった廃墟をぶん殴り、破片をこちらに打ち出してきた。

 黒服の皆さんが慌てて退避する。わたくしたちの周囲に雨あられのようにがれきが降り注ぐ。

 カンカンと硬質な音が響いた。ネズカーには傷一つついてない。

 

『何ィ……ッ!?』

「これがわたくしの、いいえ! ☆5スーパーカーの力ですわッ!」

 

 グリップを一気に押し込んだ。

 ネズカーの瞳がカッと光り、タイヤがフル回転。

 数秒の空転を経た後、地面を噛みとめて、猛スピードで発進した。

 

「そうか、そういうことですかパラベラム……! アナタもまた、()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

「PUGYU!」

 

 次々に振り注ぐ瓦礫を巧みなハンドリングで回避。

 距離を詰めるまで十秒もかからない。

 

『く、来るなッ! 来るんじゃねえイカレ女!』

 

 雑魚が何か言ってるが関係ねえ。

 道はあのロボが自分で開いてくれている。

 うず高く積もった瓦礫を射出台に見立て、わたくしとパラベラムは最速で乗り上げ、そのまま空中へ飛び出した。

 

「と……」

「と……」

『飛んだァァ────────ッッ!?』

 

 黒服の皆さんにラカンさん、そしてマルコが絶叫した。

 何を驚くことがある。翼がなかろうと、自分の道をきっちり分かってる奴なら、いつでも飛翔でき(とべ)るんだよ……ッ!

 

「さあ、仕舞といきましょう!」

「PUGYU────!」

 

 車内で叫ぶと同時、パラベラムがまばゆい黄金の光を身に纏う。

 過剰魔力を前面に展開して、まさしく弾丸──いいや!

 流星となって、巨大ロボめがけて真っすぐに飛翔する!

 こいつで決まりだ!

 

 

 

「必殺・悪役令嬢サーバー内1位パァァ────ンチ!」

 

 

 

 狙い過たず。

 交錯は刹那だ。ロボのどてっぱらをぶち抜いて、そのまま道路へと着地。車体を横向きにしてパラベラムが急停車する。

 

 

宇宙の起源 パンチじゃなくてこれひき逃げって言うんよ

無敵 危険の擬人化が危険運転するな

 

 

 インジケータを見れば魔力は既にすっからかんだった。

 今ので全部使いつくすってなると確かに燃費は最悪だな。

 だが──最新型と試作型だろうと、勝敗は覆らない。

 

『ばか、な……! こんな……! こんなワケの分からねえ女と魔獣モドキに……!?』

 

 がくんと膝をつき、巨大ロボが全身から火花を散らす。

 わたくしはネズカーから降りて頭をひとなでしてやると、ロボに背を向けた。

 背後でカッと閃光が湧き、遅れて爆風が一帯を揺らした。

 

 ばさばさとはためくジャケットを肩にかけなおし。

 わたくしは右手で天を指さした。

 

 

 

 

 

「これこそが10連ガチャの呼吸! 生まれ変わりが貧民スタートでも最強のガチャであっという間に勝ち組! サーバー内に敵なし! 見下してくる人間を全員張り倒して最強の座に君臨するのがわたくしことマリアンヌ・ピースラウンドッ!! よく考えたらガチャなんて要らねえですわ! ☆6だろうと10だろうとかかってきなさいッッ! ☆無量大数令嬢がぶちのめしてあげましょうッ!」

 

 

 

 

 

「ガチャが何だか知らないんだが、結局今殴り倒してなかったか?」

 

 

 

 駆けつけたラカンさんのつぶやきに、ネズカーが『PUGYU……』と悲し気な目をしていた。

 よせよ。反論できねえからって弱い顔をするな。聞かなかったふりをするんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊された貧民街について。

 プライム・ファミリーが土地を買い上げて、新たに公共の避難所を造るそうだ。

 もともと、決まっていたらしい。

 

「ボスは方針を転換するつもりだった。自分たちだけが甘い汁を啜ってちゃ、未来がないと気づいたんだ。だからマルコは反発してたのさ」

 

 夜闇に沈んでいる廃墟の中。

 ビルの屋上にて、貯水タンクの傍に座り込んで足をぶらぶらさせていたわたくしの隣に、音もなくラカンさんが現れた。

 彼はくわえた煙草に火をつけると、煙を吐き出す。

 

「背景なんて知りません。結果としてこの国を腐らせたのはアナタたちです」

「必死だったんだ。俺たちが覇権を握るまで、王都の再犯率は何パーセントだったと思う」

「…………」

「180%……貧しさから犯罪に手を染め、仮につかまっても、釈放されてから他に食い扶持がない。旅行者へのスリや恫喝、他国から他国への密輸……それらをボスが管理した。今の方が、昔よりかはマシになった。別に平和のためじゃない。邪魔だったからだがな」

「必要悪を名乗るには、矜持が足りないかと」

「その通りだ。自己弁護をすることはできない」

 

 だが、頷ける点はある。

 ……別にどうでもいいけどな、こんなしょうもない国。

 

「誰にも明日がない暗闇よりはマシだって……若いころは、あいつと一緒にそう考えてたんだ……だけど……間違ってたよ。はっきりと、分かった。俺たちは間違っていたんだ。暗闇の代わりに暗闇を作っていただけなんだ」

 

 暗闇。

 わたくしは闇に溶けるシルエットだけの街並みを見渡した。

 確かに最悪の都市だったが、それでもまっとうに生きている人はいた。その場所はきっと、ラカンさんたちが生み出したものなのだろう。

 

 後始末やら事情の説明やらで、夜はあっという間に過ぎていった。

 全身を包帯でぐるぐる巻きにされたマルコが、担架に乗せられてどこかへ運ばれていくのが見えた。

 

 夜が明ける。水平線の向こう側から光が差す。

 目を細めた後、ポケットからサングラスを取り出してかけた。

 

「この光を見るのは、夜を生き延びた者の特権ですわ」

「そう、だな」

 

 たとえ暗闇に咲いた花でも、太陽は平等に照らす。生きてさえいれば日は何度も昇る。

 

「生きて勝ち取ったのです……生き残れなかった人たちの、彼女たちの代わりに」

「……ああ、そうだ」

 

 何か逡巡するような気配があった。

 振り向けばラカンさんは腕を組み、難しい表情で唸っていた。

 

「嬢ちゃんはどうする」

「……え?」

「この光を見ることができなかった人が、いる。俺にもいる。そして嬢ちゃんにもいるんだろう」

「……それは」

「だから、どうする。嬢ちゃんには明日がある。その明日をどうするんだ」

 

 幾重の修羅場を潜り抜けてきたのだろう。

 彼の問いはずんと腹の底に響いた。

 

「わた、くし、は」

 

 視線を逸らした。

 サングラス越しなのに、陽光が眩しかった。

 

「わたくしは……」

 

 息苦しいと思った。

 のどにつかえるそれを、必死に吐き出す。

 

「わたくしは……生きます」

 

 嗚呼。

 やっと言えた。

 

 なんで彼女に帰る場所はなかったのにと、帰ってからずっと思っていた。

 なんで彼女は明日を投げ捨てたのにと、彼女の明日を生きながらずっと思っていた。

 

「生きます。生きてみせます。彼女の分までなんて、安い言葉はいりません。ただわたくしは生きていきます。明日も、その先も、最期の瞬間までずっと……」

 

 ずっと思っていた。

 背負うって、なかったことにしてしまうんじゃないのかなと。

 

 あんなに綺麗に消えてしまったんだ。それをそんな綺麗な言葉で包んでしまったら、もう何も見えない。

 飾りだけは綺麗だけどその包の中には何もない。何もないんだ。空虚な空白しか残りはしない。

 

 だからきっとこれでいい。

 痛いままでいい。

 痛くなきゃいけないとは言わない。

 でもかさぶたすらないまま跡一つ残らないよりは、ずっとずっとマシだ。

 

「そうか。なら、良かった」

 

 ラカンさんは静かに紫煙をくゆらせながら、ただそこにいてくれた。

 日の光が眩しい。眩しすぎて視界がにじむ。

 

 

 誰かを照らすために、日が昇っていく。

 それをただ見つめていた。

 わたくしじゃない誰かのために、もっと輝け、と願った。

 

 サングラスをかけていて、良かった、と思った。

 

 












ボス「その嬢ちゃんに罪状が二十ぐらい出ててもみ消しに時間かかるから数日拘留させといてくれ」
ラカン「ですよねー」

姪「おかえりなさい! ご無事でした?」
頭流星「しばらくここに住みます」
姪「なんて??」

アーサー「やあ」
魔法使いの軍勢「どうも」
王国騎士団「こんにちは」
ロンデンビア「えへへ(土下座)」



書けたら書こうと思ってたけどカットしました
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