TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA   作:佐遊樹

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INTERMISSION21 まりにゃんぬ

「まりにゃんぬですわ!」

「何がですか店長??」

 

 王都のメインストリートに面した一等地。

 私財を投じて買い上げたそこに可愛らしい店舗を立ち上げ、わたくしはミニスカメイド服を着てババンと見得を切っていた。

 

「わたくしの源氏名……やっべ間違えた。ええと……メイドネームですわ!」

「あ、そういうのが必要なんですね」

 

 王国にまだメイド喫茶が存在しないのは確認できた。

 あったら死ぬほどビビったと思うけど。

 よって、わたくしが第一号になることにしたのだ。フフン。

 

 

宇宙の起源 ウオオオオオオオオオオ!!新規立ち絵!!メイド!!!ウオオオオオオオオオ!!!

red moon 夏休みをいいことに店を立ち上げる令嬢、何?

TSに一家言 いやでもこの流れは確かになろうっぽいぞ

 

 

 そうそう。

 転生主人公として、なんか店を開いて雑に成功するのはノルマだからな。

 

「にしてもすごいっすねー店長……オープン前にこんな並んでるとか……」

 

 地道なビラ配りを欠かさず、庶民がよく利用する施設にもポスターを張ったおかげか、オープン初日の開店前であるにもかかわらず30人程度の列が店外にできていた。

 まあ先頭らへんにいるの、大体知り合いっぽいけど。

 

「わたくしとて何の勝算もなく店を開く愚行はいたしません。コンセプトの斬新さだけでなく精査したメニュー、引き抜いてきた精鋭シェフ、わたくし直々にスカウトした顔面偏差値激高メイド陣を揃えました。条件はすべてクリアしましたわ……!」

「てんちょって普段頭悪そーなのに時々めっちゃ頭良くなるの何なんすか?」

「さあ……でも普段ちゃらけてる人が急に真面目になるの"良い"からいいと思う」

「え、怖……」

 

 メイドたちがなんかひそひそ話していたが、全員顔が良いので、良い。許す!

 こいつらは全員、王国において下位に属する貴族の家の娘だ。なんだかんだでピースラウンドもミリオンアークもハートセチュアも最上位に位置する家系だから錯覚しそうになるが、貴族間でも上下関係はある。正直死ぬほどどうでもいいが、まあユイさんやリンディに頼むのは気が引けた(彼女たちのメイド服姿を他人に見せるの正直キツイ)のでわたくしがスカウト担当として声をかけたのだ。

 

「アナタたちこそ、単なるお願いなのによく受けましたわね。貴族の娘が給仕役をする喫茶店……正直受ける理由はないのでは?」

「や、そこはてんちょが()()()()()()()()()だったかんね」

 

 ギャルっぽい見た目だったのでギャル枠として採用したメイドが、当然だろと言う顔で言った。

 まあ下位貴族にとっては、逃すわけにはいかない絶好のチャンスってことか。ピースラウンドとのつながりを得られるのなら、死に物狂いになるだろうさ。

 

「店長、フード準備終わりましたー!」

「ドリンクもおっけーです!」

 

 店を開くための手続きを役所に確認してみたところ、第一王子の手によって食品衛生責任者だの防火管理者だのが必要だとシステムが構築されていた。

 そのためバイトだけでなく、下位貴族の邸宅でメイドをやっていた経験のある女性などを選抜し、こちらは正社員として雇いこちらの負担で資格を取ってもらった。

 マジで何なんだよこの世界。バランスが狂ってんだよ。

 

「さてと」

 

 時間を確認すれば、開店十五分前だった。

 

「はい、では全員いったん作業中断。最終ミーティングを行いますわ」

 

 フロア担当、キッチン担当の美少女たちがわたくしの前に集まる。

 ふふん。えりすぐりかつ属性が被らないよう揃えたメンツだ。正直美少女水滸伝みたいな勢いがある。

 

「リーダーは報告を」

「フロア異状なしです。掃除も終わりましたし、接客マニュアルは全員テストで合格点に到達してます」

「キッチンも問題ないです。下準備はOK、ファストメニューやドリンクも注文されて二分以内に出せます」

「上々ですわね」

 

 わたくしは腕を組み、メイド服の部隊を見渡す。

 

「面接時にもお話しましたが、これは決して貴族の道楽ではありません。わたくしは真剣に、メイド萌えをこの国に普及させるため、その第一歩としてこの店舗を成功に導いてみせます」

「あれ聞いた時は本当にどうかしてると思いました」

「シャラップ」

 

 

日本代表 そらそうでしょ

つっきー むしろよくこれだけ集まったよ

 

 

 人望だよ人望。

 バッと右手を広げ、腹の底から声を出す。

 

「アナタたちには正社員アルバイト問わず、気楽にやっていただきますわ! 必要以上に何かを背負わせはしません! だからとにかく──楽しみなさい! 店長として求めるのはそれだけです! アナタたちが楽しく勤務できない要因悉くを討ち滅ぼします! 胸を張り、メイドメイドしてきなさい!」

『はい!!』

 

 さあ、出陣だッ!

 

 

 

 

 

 

 

 ガラス張りの入口を開け放ち、先頭の二十五名を店内へ入れる。

 

「お帰りなさいませですわ、ご主人様!」

「うわっ本当にやってる」

 

 ふざけた話だが、開店前の朝八時ぐらいから店頭でスタンバイしていたのは、ユイさんとリンディである。二人ともよそ行きの可愛い服を着ていた。

 わたくしは二人を丸いテーブル席に案内する。他のバイトの子も、先頭集団を順次席に連れていく。横目に対応を観察していたが、仕上がりは完璧だ。わたくしの思い描いた、というか知っているメイド喫茶に限りなく近い。

 

「こちらメニューですわご主人様!」

 

 普段通りなら腕組んでテーブルにメニュー投げつけるぐらいの気持ちだが、今のわたくしはメイド令嬢。そんな粗野なことはできない。

 にっこり笑って、ユイさんにメニューを差し出す。

 だが彼女はこちらをぼうっと見つめたまま動かない。

 

「ちょっとユイ、受け取ってあげなさいよ」

「この刹那を永遠にしたい……」

「ユイ?」

 

 らちが明かないのでリンディにメニューを渡す。

 彼女はさっと開いて、内容を見て頷いた。

 

「結構凝ってるじゃない。あんたが言ってたコンセプトカフェてやつ? 名前はこっぱずかしいけど、ちゃんと大抵の飲食物を網羅してるわね」

「あったりまえですわ! このわたくしが考案──いいえ。ご主人様たちに最高の時間を過ごしていただくためですもの!」

「マリアンヌ、あんた仕上げてきてるわね……!」

 

 途中で軌道修正したわたくしを見てリンディが戦慄する。

 だが呼び名がいただけない。わたくしは自分のネームプレートを指さす。

 

「ご主人様。わたくしのことはまりにゃんぬとお呼びくださいませ」

「え、嫌……」

 

 真っ向から拒否られた。最強の拒絶タイプかよ。

 一方でテーブルの上に広げられたメニューを熟読し、ユイさんが顔を上げる。

 

「まりにゃんぬさん。おはようございますはいくらですか?」

「えっ? わざわざそんなの頼む?」

 

 ユイさんの注文を聞いて、リンディが首をかしげる。

 一応メニュー表にはセリフ希望のシステムがあるので、注文として特に間違いはない。

 

「いいじゃないですか! 誰かと一緒に迎える朝なんて値千金ですよ!」

「こないだやったでしょう!?」

「? はい、そうですけど……え? それが何か?」

「? やっぱりそうじゃない……え? どういうこと?」

 

 なんかディスコミュニケーションが聞こえるな……

 結局ユイさんはおはようございますとティーセットを注文する。

 わたくしはリンディにも満面の笑みを向けた。

 

「ご主人様は?」

「私はこのトロピカルティーが欲しいわ。あとチェキで」

 

 チェキというのは写真だが、この世界ではフィルムカメラはまだ発明されていない。

 代わりに魔力を専用の紙に念写する形式の写真がある。

 ぶっちゃけ超高度な専用施設が必要なので一般には到底流通してない代物なのだが、そこはわたくしが気合で自作してなんとかした。

 

「あら、チェキを頼むとは思っていませんでしたが」

「末の妹におみやげよ。アンタの話をよくしてるけどまだ会わせてあげられたことがないから……」

「ふーん? 別に直接お会いいたしますわよ?」

()()()()()()()

 

 さらっと言われ、わたくしはそれ以上何か言うのをやめた。

 できるメイドは踏み込まない。

 ただ。

 

「リンディ。困ったことがあれば、言いたくなったタイミングでいいなさい」

「……その言葉遣いはどうなのよ、まりにゃんぬさん」

「この一瞬だけはマリアンヌ、アナタの友達ですわ」

「…………ありがと」

 

 わたくしは注文票をキッチンへ持っていく。

 ドリンクができるのを待っていると、ちょいちょいとギャルメイドに腕をつつかれた。

 

「どうしました?」

「あっちのお客さんから、後で構わないけどってご指名来てますよー」

「へえ?」

 

 見れば帽子をかぶり、明らかに素顔を伏せている男がいた。

 せわしなく足を組み替えている様子からして、極度の緊張状態。隣に立ってるメイドがにこやかに話しかけるたび、ぎくっと肩を跳ねさせ、挙動不審になっている。

 これだから童貞は……

 

「お待たせしました、まりにゃんぬですわ」

 

 既に受け持ってくれていたメイドにアイコンタクトで交代を告げて、黒髪童貞王子の隣に立つ。

 そこで彼、ユートはやっと顔を上げた。

 

「お、おお。いや、やっと知り合いの顔見れて良かったわ」

「ユイさんとリンディも来てますわよ」

「マジか」

 

 指さした方を見れば、苦笑いを浮かべる二人が手を振っている。

 

「ご主人様も一緒に来ればよかったですのに」

「流石にこういう店に男女で来るのってどうなんだよ」

「意外といいところを突いた指摘ですわね……ですがここはあくまでメイド喫茶。どのようなご主人様であっても、ルールさえ守ればそれはご主人様ですわ」

「そういうもんなのか……」

 

 ただまあ、やっぱり知り合いを除いた客は一人の男性客が目立つ。

 女性客もそれなりに来てるが、女性層へのリーチはもう少し時間を置かねばならないだろう。

 

「来たはいいけど完全に場違い過ぎて困っちまったぜ」

「そんなことありませんわよご主人様」

「だといいんだがな」

 

 どうでもいいけどこいつご主人様呼びにはまるで反応しねえな。

 さすがは第三王子、敬称には慣れ切ったもんか。

 

「それでご主人様、ご注文はございますか?」

「ん、ああ……まあ……えっと……アイスコーヒーと、この……サンドイッチを……」

「かしこまりました! ご奉仕まぜまぜコーヒーのアイスと、メイドさんの愛情た~っぷりサンドイッチですわね!」

「馬鹿! デカい声で復唱すんな! 馬鹿!」

 

 顔を真っ赤にして怒鳴るユートに対して、わたくしはぐっと顔を寄せ頬をつんつんする。

 

「え~? ご主人様ってば照れ屋なんですから~」

「おっ、お前っ、手玉にとれるからっていちいち近いんだよ……ッ! マジでユイとリンディの視線が痛い! やめてくれ! 店出たら無刀流に闇討ちされそうで怖い!」

 

 ユートの頬をつんつんし……うわっ肌スベスベ! テメェふざけんなよ……こっちが毎日スキンケアしてる横でしれっと美肌なのおかしいだろ……!

 つんつんつんつんしてるとユートは器用に赤い顔のまま眉根を寄せていく。

 

「う、うぜえ……」

「それは半分。もう半分は照れくさい、でしょう?」

「もう来ねえ」

「こらこら」

 

 どうやら拗ねさせてしまったようだ。

 わたくしはユートの注文票をカウンターへ持っていき、そのままユイさんとリンディの飲み物を受け取る。

 

「お待たせしました。それとご主人様、おはようございます」

「……!」

 

 ユイさんはそれを聞いて、突然、涙を滂沱と流し始めた。

 ッ!?

 

「……一つ、夢が叶っちゃいました……」

「ユイさん…………」

「メイド服のマリアンヌさんに、おはようございますって言ってもらう夢……」

「……え!? メイド服も組み込まれた夢なの!? おかしくない!?」

 

 隣のリンディが何やら騒いでいたが、感動シーンなので黙っていてほしい。

 

「てんちょー」

「はい、今行きますわ」

 

 泣きじゃくりながらティーセットを味わうユイさんと、納得いかない様子でトロピカルティーをすするリンディに、一礼してから背を向ける。

 ギャルメイドが苦々しい表情で店頭を指さしていた。

 

「10番でーす」

「……! 分かりました。わたくしが対応しましょう」

 

 マニュアル的に、メイド間の意思疎通は番号で済ませられるよう設定してある。

 4番はトイレ、9番は休憩、といった具合だ。

 そして10番は不審者あるいはマナーの悪い厄介客の来店を意味している。

 

「間もなく席が空きますので、お待ちくださいご主人様方」

 

 にこやかに言いながら、列の先頭に立つ男三人に声をかけた。

 

「ああ!? もう待ってかれこれ数時間だぞ!」

「早くメイド服のスカートをめくりてえんだよこっちはよ……! 兄ちゃんもそう思うだろ?」

「まったくもって同意しかねるね。スカートをめくったところでそれは0か1かの事象を固定してしまうだけ。僕はその、0と1の間に横たわる無限を観測しに来たんだ」

 

 なんか一人別格がいるなと思った。

 無地のズボンにTシャツにジャケットという比較的ラフな服装だが、損なわれることのない気品。朝日に煌めく金髪と、澄み渡る碧眼。

 ロイ・ミリオンアークだった。

 

「ロイ、アナタが一番乗りだと思っていましたのに。わたくしに興味をなくしましたか?」

「そんなわけないだろ。気がはやって向かいの喫茶店にオープン前から陣取り、客入り状況を把握していたのが仇になったんだ」

「彼氏面が進化して経営者面になるの、初めて知りましたわ」

 

 ロイが片手に持つメモ帳には、来客人数やそれらの特徴が事細かに記されていた。それ後でほしいわ。

 いや……こいつ何しに来たんだ。マジで何してんの?

 

「それはそうとご主人様、スカート捲りと言うのは……」

 

 当然ミニスカメイド服なので、そんなもん対策してるに決まってる。

 これはミニスカだが内部にはショートパンツを内蔵しているのだ。見えるわけねえんだよボケナス。美少女のパンツを命かけないで見れると思うなよ。

 

「ミニスカってのは見られるための服装だろうが」

「兄ちゃんもそれが目的だろう?」

 

 聞いてるだけで不愉快になって来るな。

 マニュアル通り、破廉恥な行為……というか、公共の場に相応しくない行為をされる方には退店していただく場合があると注意しようとした時だった

 

「話にならないな」

「何……?」

 

 二人組のしょーもない客の後ろで、ロイが厳かに呟く。

 

「君たちを排除する」

「なっ!? お前、列の並びを無視するタイプの厄介勢か!?」

「いやアナタ方もどこに出しても恥ずかしい厄介勢ですが……」

 

 なんだか大事になってきたな。

 店内の客も不安そうにこちらを見ており、各メイドが心配いりませんよと言っている。

 店長兼用心棒として、迅速に収める必要があるのだが。

 

「僕は厄介じゃない。僕は……すでに、ご主人様だ」

「なんて??」

「こいつやべえよ……」

 

 もう三人まとめて出禁にしてえな。

 

「獣相手に言葉を交わす義務はないな。武力を以て排除させてもらう!」

「何なんだよお前!?」

「どけ!!! 僕はご主人様だぞ!!!」

 

 二人と一人が取っ組み合いを始めてしまった。まあ当然攻防が成立するわけもなく、二人がボコボコにされていく。

 うわ、どうしようかなこれ。まとめて吹き飛ばしていいか?

 婚約者の暴れっぷりを見ながら嘆息しているときだった。

 

「ミリオンアーク君……気持ちは分かるが、そこは堪えなさい」

 

 ひょいとロイが摘み上げられた。

 高身長の彼が猫みたいにされているのは意外な光景だ。

 ただまあ、後ろにいつの間にか佇んでいた紅髪の騎士の体格は圧倒的だ。これも一つの結果である。

 

「すまないなマリアンヌ嬢。いや、まりにゃんぬ嬢か。今回ミリオンアーク君はオレの連れだ、どうか大目に見てやってくれないか」

「アナタが言うのなら構いません。ご協力ありがとうございます、ご主人様」

 

 シャツにベストと目の保養オブザイヤーな服装のジークフリートさんに頭を下げる。

 

「いや、いい。今日は非番だが、騎士として往来で白昼堂々迷惑行為に走る光景は見逃せない」

 

 すぐさま駆けつけた騎士たちに説教され、男二人は哀愁漂う背中で立ち去っていった。

 それを見送ってから、わたくしはロイとジークフリートさんを二人席に案内する。

 

「ジ、ジークフリート殿……先ほどは申し訳ありません」

「分かってくれたならいいさ。失礼メイドさん、チェキ付ハートフルにゃんにゃんオムライスセットを頼みたい。あ、この一緒にたのしくゲームオプションとメイドさん指名オプションも頼む。指名相手はまりにゃんぬ嬢だ」

「そうじゃないのは分かっていますが、頼れる大人ムーブからシームレスに注文されるとバグったのかと思うのでやめていただけます?」

 

 すげえなこの人。顔色一つ変えずにメニュー完璧に言ったぞ。突然店内にイカレ散らかしたイケボが響いて他の客たち硬直してるじゃん。

 どうやらこの二人は最初から二人で来ていたようだ。

 

「かしこまりました。ゲームは少々準備時間をいただきますが、よろしいでしょうか」

「構わない。ミリオンアーク君は?」

「僕はチェキ付はふはふらぶらぶ・ハヤシライスセット。メイドさん指名オプションでまりにゃんぬと、呼び方変更オプションを二つ」

 

 こいつら何で一切表情変えずにメニュー読み上げられるんだ。無敵か?

 

 

無敵 チェキになんとかして俺の思念を念写できないか

外から来ました それ心霊写真って言うと思うんだけど

 

 

 余計なことを言ったから余計なやつが釣れたな。

 うるせえよ。わたくしとジークフリートさんのツーショなの。邪魔すんな!

 

「ってご主人様、呼び方変更オプションを二つ、ですか?」

「うん。最初はロイお坊ちゃまで、食後からはあなた呼びで頼むよ」

「……? …………ッ! 年上メイドとの禁じられた恋と、それが結実したハッピーエンド後の世界!?」

「即座に理解できるまりにゃんぬ嬢も大概だが……」

 

 こいつ、メイド喫茶で一つの物語を組もうとしてるのかよ!

 ロイの計算高さに戦慄していると、隣のテーブルに新しい客が入ってきた。

 わたくしとて店長、入ってくる客は全員観察する。これまた帽子をかぶり顔を見せないようにしている二人組だが、動作である程度の予測は……ッ!?!?

 

「おっふぉ!?」

「あ、おい、静かにしろ」

 

 驚愕の声を上げたとたん、片方の男……第二王子ルドガーに諫められる。

 もう一方の第三王子グレンはほくほく顔でわたくしを見つめていた。

 

「お、お忍びですか」

「まあそうなりますね」

「まったく、王子二人がここにいると知られたら大騒ぎだぞ」

 

 だろうな。隣の席のロイとジークフリートさん、完全に硬直してるし。

 

「それにしてもメイド喫茶か。これを成功させるとなると、認めざるを得ないな」

「ん? すみません、アナタその言い方からして、『メイド喫茶』を知ってます?」

 

 第二王子ルドガーのつぶやきは、聞き逃せない内容だった。

 詰め寄ると、彼は肩をすくめる。

 

「ああ、知る人は少ないからな。兄上……第一王子が以前、期間限定で開いてみたんだ」

「傍から見ている分には成功していると思いましたが、兄上は『何かが違うんすよねー……なんか本質を押さえきれてないっつーか。これはボツっすね』とかなんとか言ってすぐに畳んでしまいましたね」

「……ッ!?」

 

 このファンタジー世界はアンバランスだ。

 明らかに『萌え』の概念は浸透しているし、コスプレもある。だがこういったコンセプトカフェは先駆者がいなかった。

 それゆえに油断していたが……

 

「第一王子……現地民が、自力でメイドカフェにたどり着いた……!?」

 

 わたくしはメイドカフェの何たるかを、反則技(前世)によって知っている。だからむしろ、この試みは成功しなければ名折れなのだ。

 

「なるほど、第一王子マルヴェリス……! 認めましょう。アナタもまた、いつかわたくしが倒すべき相手……ッ!!」

「おい、反逆罪じゃないのかこれ」

「まあまあ」

 

 気炎を上げているわたくしを見て、王子二名がそれぞれ困惑と苦笑を顔に出す。

 なんだかんだで王子にも気に入られてる、のかなあ。じゃなきゃお忍びで来ないか。

 と、その時だった。

 

「てんちょー、10番」

「またですか」

 

 辟易しながら振り向く。

 そこにはギャルメイドを羽交い絞めにして、その細い首にナイフを突きつける覆面の男がいた。

 10番ではもう済まなくない?

 

「うっ、動くな! 金を出せ!」

 

 こってこてのセリフが響くと同時だった。

 各席の客たちが速やかにスタートを切った。

 

 最初に飛び出したのはユイさんだ。

 神速の踏み込みで間合いを詰めると、右手でナイフの柄をぐっと掴んで固定し、恐ろしい柔軟さでギャルメイドと男の間に左腕を滑り込ませ、抱える形で彼女を取り返す。

 

 男の思考が追いつかないうちに、ユイさんと入れ替わりでユートが腰に組み付く形のタックル。

 開け放たれたままのドアから大通りへと飛び出し、男を地面にたたきつける。

 かふ、と酸素の零れる音。シームレスにユートが男の上を前回り受け身の形で飛び退く。

 

 起き上がろうとした男の鼻面に、ロイの靴底がめり込んだ。

 もう惚れ惚れするほどの低空ライダーキックだった。ぶしゅっと鼻血を上げてノックアウトされる強盗の背後でロイが着地、残心を取る。

 

 最後に、真顔のジークフリートさんがのしのしと歩み寄り、気絶した男を手早く拘束した。

 ストリートが騒然とする中、ロイとユートが互いに顔を見ないまま、拳をぶつけ合う。

 

「何ですかこれ、ショー?」

「だとしたら怪人側の見せ場がなさすぎるだろう……」

 

 二人の王子はあきれ返っていた。

 

「ったく、本当に荒事向きの友人ばっかになってきて憂鬱だわ」

「アナタも一員でしょう?」

「一緒にしないでよね!」

 

 ぷんすこと怒るリンディに苦笑する。

 にしても用心棒の名折れだな。どうせならわたくしが一撃でダウンさせてやりたかったが、別に経験値も貰えなさそうだしいいや。

 騒然としていた店内に、もう大丈夫だと呼びかけるべく、視線を外から外す。

 

 

 それから、ふと、気づく。

 

 

 気づけば背後の席に、新しい男性客が座っていた。

 サマーセーターを着こなした、ラフながらも整った服装。

 赤茶色の髪を撫でつけた、ちょうどジークフリートさんと同じぐらいの年齢と思しき好青年だ。

 

 

「ああ、ごめんなさいね、順番が来たから勝手に座っちゃったよ。このご奉仕まぜまぜアイスコーヒーを頼めるかい?」

「かしこまりました。アナタ何者ですか?」
 
星を纏い(rain fall)天を焦がし(sky burn)地に満ちよ(glory glow)
                       

 

 わたくしが裏側に貼り付ける形の三節詠唱を完了して流星のビットを顕現させると、ユイさんたちが一斉にぎょっとした。

 男はおいおいと肩をすくめる。

 

「ちょっとちょっと。注文しただけだよ」

「気づきませんでした。荒事が起きて、数秒ではありますが臨戦態勢に入ったわたくしに気づかれず、強盗を取り押さえている最中の入口を通ってきた。異常性に気づけと言うアピールでしょう?」

「うーん、八十点。本当は見て見ぬふりをしてほしかったんだけどなあ。サスペンス小説でよくあるだろ? 店員さんにこそっと紙切れを渡すやつ、憧れててさ」

 

 男はそう言って、折り畳まれた紙切れを一枚、わたくしに差し出す。

 何も魔力は感じない。本当にただのメモだ。

 

「だから口頭でも言っとく。本当にごめんな、マリアンヌ・ピースラウンドさん」

「……っ?」

「んじゃ、コーヒーは諦める。またいつか来るよ」

 

 席から立ち上がり、彼は()()()()()()()()()()、颯爽と店外に出ていった。

 

「追うかい?」

「追えますか?」

 

 ロイに聞き返すと、彼は外を見て、それから愕然とした。

 もう影も形もなくなっているだろう。

 

「……ッ!? え……?」

 

 隠密行動に関してはどうもかなりやるようだ。

 別に暗殺者如きなら対応できる、向こうが何かする前に一節詠唱の方が早い……だが、姿を見せたうえでのこれは、末恐ろしいな。

 

「はい、業務に戻りますわよ」

 

 ぱんぱんと手を叩き、メイドたちがハッと仕事に戻っていく。

 その喧騒の中で、わたくしは静かにメモ切れを開いた。

 

 

『あの時は悪かった、俺たちが片づけなきゃいけないのに、嫌な役目を押し付けてしまった。それを詫びる』

 

 

 ──何のことなのか、不思議と一瞬で理解した。

 

 五体の上位存在同時顕現。

 最後に見た、ハートセチュアの家紋付きのローブ。

 リンディに礼儀を示した。

 

 彼、なのか。

 

 ガバリとリンディの方に顔を向けた。

 彼女はストローに口をつけたまま、視線を伏せ、ただ虚空を見ているだけだった。

 

 

 









サンバイザー様よりマリアンヌとカマキリ(??????)のイラストをいただきました!

【挿絵表示】


カマキリ……カマ……キリ……?
どう見てもパニック映画のラスボスですが、まあこいつレベルならかばって死ぬのもやむなしという気がしますね。
サンバイザー様、ありがとうございました!
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