神殿残党に対する奇襲から、少し時は遡る。
朝イチでルシファーと状況を確認した後、意識を取り戻したわたくしが制服姿のまま最初に向かったのは、ハートセチュア本家邸宅だった。
「おはようございましたああああああああああああッ!!」
ユイさんと彼女の部下たちも一緒くたに連れてきて、わたくしは邸宅の正門を蹴破り屋敷の入口ドアもこじ開け中に躍り込む。
「ちょっ、ちょっとマリアンヌさん!?」
「出てきなさい
入口広間で怒鳴り散らしていると、何事かと給仕たちが駆けてくる。
その中には、恐らく朝食中だったであろう、ナプキンを首から下げたままのリンディの姿もあった。
「ピ、ピースラウンド様ですか!? これは……!?」
「こんな早い時間から何してんのよ!? ていうかなんで制服? ユイ、こいつ、ついに錯乱した!?」
「……い、いえ。多分この感じは……本気です。何かあったんだと思うんです」
そう、今は早朝だ。
だからまだ間に合うっつってんだよ!
「
「……っ。あいつらが何かしたの? それならますます私を通してもらわなきゃ困るわ」
「何もされていません! これからされるのです!」
はあ? とリンディが困惑する。
話してる時間が惜しい。一刻を争うんだよ。
「
殺傷能力を極限まで削った三節詠唱改変発動!
思い切り床を踏みつけると同時、右足から散った火花が光となって疾走、屋敷の隅から隅までをコンマ数秒で駆け抜けた。
建物の構造を把握する。一部弾かれる個所があった。三節詠唱とはいえ禁呪を弾く空間がいくつかあった。1つは屋敷最上階。これは恐らく現当主の部屋だろう。他は……地下にいくつか。チッ。絞り込めねえな。
「地下に行きますわよ! しらみつぶしに──」
「ちょ、ちょっとちょっとストップ! 今来たって!」
その時、奥のドアを開けて、猟犬部隊隊長の青年が大慌てで走ってきた。
赤茶色の髪の青年は、見れば両腕の袖からいつでも暗器を射出できるようにしている。そりゃそうか。どう考えても討ち入りだもんな。
彼にキッと目を向ける。
「やっと来ましたわね、猟犬部隊隊長」
「ええ、そーです。そーですよっと。俺たちみたいな犬っころに、リンディ様の大親友様が何の用でございましょ」
……ああそうか、この時間軸だと初対面か。
成程。敵だけでなく、第三勢力、さらには味方に対してもわたくしは情報アドバンテージを獲得している。使えるな、これは。
ならまどろっこしい探り合いはカットだ。初動で主導権を握らせてもらう。
「アナタたちがリーンラード家に貸し出したものが、アナタたちの手を離れて暴走しています」
「────」
隊長は目を見開き、絶句した。
ピースは揃っていた。結末を見届けた後、何かを回収に来た。後日、自分たちが処理すべきだったと謝った。ならこいつら……いいや、ハートセチュアから、リーンラードに技術的な協力があったと考えるのは自然だ。当然、上位存在絡みでな。
「……なん、で、おたくがそれを」
「具体的に何を貸し出したのか、そして何のために貸し出したのかまでは知りません。ですが計五体の上位存在が顕現し、ハインツァラトゥス王国王都を攻める手はずになっています」
「……いや、いやいや。流石に意味分かんねぇーって。そんなことして何になるっていうんですか? 大体どこで知ったのか分かんない情報を鵜呑みには」
「実際に起きたことですわよ。三年近く戦火が広がりました」
「ハァ?」
わたくしのセリフに隊長は胡乱なまなざしを向けてくる。
だが数秒後、彼はカッと目を見開き、唇をわななかせた。
「あ、ああッ……!?」
「お気づきになりましたか。今アナタの目の前にいるのが、どんな存在か」
「クソッタレ、冗談だろ……ッ!? あいつらッ、ゼルドルガを世界単位で行使したのかよ! 理論上不可能のはずだってのに、どうやって……!」
「そのための上位存在たちです」
「それだけじゃあできねえッ! できねえから貸し出したんだッ!」
「恐らくアナタがた以外のバックボーンがあります。そちらの力を合わせたのでしょう」
ユイさんとリンディが不思議そうな顔でわたくしたちを交互に見やる。
「そして五体の上位存在顕現は
「────ッ!! 猟犬部隊全員出動!
隊長の叫びと同時、給仕服の女性のうち一人が頷き、地下へ続く階段を駆け下りていく。
「ユイさん、ジークフリート中隊にも出撃要請を。リンディはロイとユートに使い魔を送ってください」
「……ッ! 分かりました」
「ちょ、ちょっと……ねえ。何が起きてるのよ……?」
すぐさま部下に連絡の指示を出すユイさんと、目を白黒させているリンディ。
説明は行動をしながらだ。まずは足を動かさないと、間に合わねえ。
「ここから先は一刻を争う勝負ですわ! 疑問は後! すべてわたくしの指示に従いなさい!」
右手で高い天井を指し、わたくしは叫ぶ。
「戦力は極力数を絞り、猟犬部隊とミレニル中隊と対魔部隊、そしてわたくしたちのみ! 敵は上位存在、累計5体! 『
〇日本代表 ……あの、ゼルドルガって言った? え? もしかしてお嬢二周目してる??
〇火星 知らないRTAが始まった……
〇みろっく うわぁ! 急に黒の騎士団総司令になるな!
気づくのがおっせーんだよダボ共!
配信中です。 | 上位チャット▼ 〇苦行むり は? 〇TSに一家言 は? 〇トンボハンター は? 〇ミート便器 は? 〇つっきー は? 〇適切な蟻地獄 何なんすかねこれ 〇日本代表 オギャ…… 〇red moon 帰ってこい 〇太郎 この世界お前の管轄やぞ 〇みろっく ゼルドルガとミクリルアは流石に知ってる、作品存在に落とし込んだ運営補助プログラムだろ? 〇外から来ました だからそれを乗っ取られると一番まずいので、一番まずい 〇日本代表 バブ…… 〇無敵 このままだと31ターン突入するぞ 〇日本代表 うおおおおおおおおんんんんもおおおおおおやだああああああああああああああ |
【夏の風物詩】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA EXTRA CHAPTER【といえばRTA!】 2,962,419 柱が待機中 |
「敵は『
疾走する馬車の上で、風切り音に負けないよう声を張る。
わたくしが砲撃を開始してから数十秒。モニターに表示される人間に被害が及ばないよう狙いを定めつつ、上位存在たちの身体を粉砕していく。
「ぐっ……ユート! やらせていいんだな!?」
わたくしが一向に砲撃をやめないので、ジークフリートさんはガバリと振り向き、並走する馬車の上によじ登ってきたユートを見た。
「ああ、もう好きにやらせろ! そもそも、今何発も撃ち込んでるけど、本来ならもう山ごと崩れてなきゃおかしい威力を叩き込んでる! これで崩れねえってことは──」
「山を要塞化しているようですネ、王子殿下」
ユートの隣にさらっと佇む青騎士が、顎をさすりながら告げた。
前回はたった三人だったので、直接内部に侵入する形で戦闘を開始したが、どうやら軍勢で攻めるとルート分岐するらしい。
だが敵の手札は既に割れている。負ける理由はねえ。
「ぐっ……!」
左手に構えた弓に、魔力の矢をつがえて放つ。
放物線を描き着弾するそれは、儀式場を粉砕することで召喚術式を乱し、完全な顕現を阻止する。
絶妙に間に合うか間に合わないかのラインだったが、少なくとも前回よりかは遥かに弱体化させることに成功している。
だが何よりも狙うべきは!
「ぐ、うううう……!」
唸り声をあげ、必死に身体を制御する。
ちらりとジークフリートさんを見た。彼は即座に察して頷くと、わたくしの肩に腕を回し、きつく抱きしめ、姿勢を固定してくれた。
「これでいいか!?」
「はい!」
「良くないですね……」
いつの間にか馬車の上に上がっていたロイが、完全に据わった目で逆サイドからわたくしの身体を抱いて固定する。
え……え、えっっ!? 何このイケメンサンドウィッチ!? わたくし、具!?
〇宇宙の起源 具の主張が強すぎる
〇つっきー 超高級パンの間にウコン入れんな
「僕を差し置いて二人でラストシューティングなんて、看過すると思いましたか? ジークフリート殿」
「い、いやこれは非常時であって、そういう意図はなかったんだが……しかし、言い訳できる体勢ではないのも事実……」
真面目かよ。
「うっさいですわねロイ! アナタわたくしの記憶では二人でこれやってましたからね!? しかも翼生やして『今は、今だけは、僕が君の翼になる』とか『僕とマリアンヌの共同作業!』とか言ってましたし!」
「な……ッ!? そ、そんな羨ましいことをしたのか!? 僕以外の人間と!? 許せないッ……」
「アナタのことですが?」
未来の自分への嫉妬に狂うロイ。マジでどうかしてると思う。
だが精鋭二人に支えられ、照準は定まった。
狙うは無論、『
「威力調整……物理演算修正……着弾威力の指向性を……」
ぶつぶつ呟きながら、次の一射を必死に練り上げる。
モニターに映る儀式場は混乱に見舞われている。だが山中からは、迎撃用と思われる信者の部隊が既に出撃を始めていた。
表示される逆三角形の
貫くだけでは回復されるのでダメ。そして逆に、コアを完全に砕いてしまってもダメ。
「照準よし……威力よし……発射角度修正……」
脳が茹で上がるような感覚。
モニターは機械的に動作しているわけじゃなく、あくまで権能の分割だ。故に、わたくしの精神に呼応し、どんどん解像度が上がっていく。
遠方にある山の中に作られた儀式場で、身体を半分砕かれ這いずっている『
カチリと、
「……ッ!! 砕け散りなさいッ!!」
放たれた光条が空を駆け抜け、緩やかなカーブを描いた後山腹に着弾。
わたくしのモニターに、打ち下ろされた光にコアを貫かれる『
光の粒子となって解けていく身体。その中で、地面に一人の少女が倒れ込んでいる。ズームすれば、呼吸に胸が上下しているのが見えた。
「────く、ふっ」
安堵に息をこぼし、わたくしは馬車の上で膝をつく。慌ててロイとジークフリートさんが身体を支えてくれる。
目的は達成した。
遠距離砲撃によって、対峙することなく『
ベストオブベストの結果だ。というかこれができないと話にならないので、サジタリウスを記憶できていたのは僥倖だったな。
サジタリウスフォームを解除。巨大な弓や片目のモニターが霧散する。
「星を──ぎッ!?」
続けてツッパリフォームに移行しようとしたところで、突然視界がバチバチと明滅し、わたくしの臓腑を激痛が走った。思わずその場に膝をつく。
そりゃそうだ。必死こいて思い出したサジタリウスフォームを無理矢理起動させて、散々酷使したのだ。わたくしの身体は今、ボロ雑巾寸前である。
「ジークフリートさん! ポーションを!」
ロイの声を聴いて、ジークフリートさんは弾帯ベルトから試験管を引き抜くと、密閉用コルクを指で弾く。
思ったより消耗が酷く、腕が上がらねえ。
目線は正面に向けたまま、顎を斜め上に向け口を開ける。
二人が数秒固まった。
「はやく」
「ヒュッ……あ、ああ」
「えっちょっまっ……」
ジークフリートさんの持つ試験管が唇に当てられ、わたくしはそれをヒナのように必死に飲む。唇の端から霊薬が垂れていく。
「????????????」
「ミリオンアーク君、その、そんな顔をするな。いや気持ちは分かるんだが」
え、何……? 人が真剣に消耗回復しようとしてんのに空気おかしくない……?
〇木の根 ロイ君の性癖が破壊されてしまう
〇外から来ました お前のせいで一人の青少年の人生が完全に狂ったんだよなあ
〇火星 もう狂ってる定期
ポーションが胃に落ちてからカッと熱を持つ。
神秘の加護が全身を循環し、腹の底から活力が湧く。
「ッシャアアッ! 完全回復ですわ!」
わたくしは勢い良く立ち上がり、口元のポーションを指で拭い舌に乗せた。それなりに美味しいんだよなこれ。美味いしキメ過ぎるとトリップできるから、横流しのポーションで中毒者が続出したこともあるらしい。
それはそれとして、いよいよ近づいている山を見据えながら、わたくしは詠唱を開始した。
──
──
──
──
──
十三節詠唱のツッパリフォームを発動。
ここで出し切っていい。
だからわたくしはロイから剣をひったくり、それを首筋にあてがう。
「えっ」
間抜けな声を上げる婚約者の前で、わたくしは首に刃を食い込ませ、頸動脈を切り裂いた。
ぶしゃっと血が噴き出る。それらは地面に落下することなく、意思を持ったかのように滞空し、わたくしの周囲に鮮血のヴェールとなり展開される。
剣に付着した血も回収し、ツッパリフォーム・ギラギラモードの完全な発動を確認。
わたくしは頷き、ロイに剣を差し出した。
「ありがとうございますロイ、お返ししますわ! さあもうすぐ到着でしてよ!」
「う、うわ……ちょっとマリアンヌ……」
「何ですか!」
「君は……僕を……どうするつもりなんだ……?」
ロイは顔が青くなったり赤くなったりしていた。
なんだ? 信号みたいでおもしれえな。
山中から出てきて、防衛用の陣を敷いている信者たち。
多国籍部隊と化したマリアンヌ率いる一団は、それに真っ向から突撃した。
厳密にいえば、作戦を立てる暇を惜しんだマリアンヌが単騎で突撃し、それに追随する形にならざるを得なかったわけだが。
「どきなさい! わたくしの通る道です!」
魔力砲撃を放つ信者たちを攻撃ごと蹴り飛ばして、マリアンヌは減速することなく山道を駆け上る。
身に纏う鮮血のヴェールは変幻自在に形を変え、地面を噛みとめ加速し、死角からの狙撃を防ぎ、立ちふさがる障害を穿つ。
続く騎士たちも順次制圧し、殺すことなく敵を無力化していく。
相手にならなかった。根本的に一人一人の質が違うのもある。しかし。
「……ッ。あれが、マリアンヌ・ピースラウンド……!」
猟犬部隊隊長ですら、震撼する。声が震えている。
ただ一人何の迷いもなく敵を蹴散らし、突き進む。
彼女を止めるべく、山腹を砕き、身体を回復させた二体の上位存在が姿を現した。
「あれは!?」
「マリアンヌが言ってた通りなら、『
ジークフリートとロイが足を止め、その荘厳な姿に目を見開く。
彼女の情報は正しかったのだ。信者たちが勝ち誇り、騎士や機械化兵、神父たちが慄く。
しかしただ一人、マリアンヌだけは止まらない。
「邪ッ魔ッでッすッ──わあああああああああああああああああッ!!」
人類の安寧を脅かす、現実とは異なる法則で生きる超常生命。上位存在という表現に偽りなし。
だがそれらは、遠距離砲撃により顕現術式を破壊されたため、記憶の中よりはるかに弱い。
人の理を越えたはずの存在が、少女の一挙一動に爆砕され、溶断される。
たったの二秒と少しで『
「そいつらは任せますわ!」
コアを露出した状態の二体。当然、ロイとジークフリート、ユイが即座に攻撃に転じ、コアから生贄となっていた人々を引きずり出す。
その光景を眺め、ユートは変な笑いが込み上げてきた。
「ハハ……んだよ、これ。本気も本気じゃねえか……」
正しく鬼神。
戦場を駆け抜ける美しい真紅の嵐。
彼女の直進が敵陣を引き裂き、上位存在を打ちのめす。
「敵は総崩れだ! 一挙に突撃、制圧せよ! ただし殺害は許可しない! 魔法攻撃を弾き、順次無力化しろ!」
ジークフリートの指示を受け騎士が走る。
「我々も突撃しなさイ! 相手は守るべき国民だから──ウム! 今回は誰も傷つけずに終わらせようじゃないカ!」
青騎士の号令を受け、機械兵団が加速する。
「俺たちは側面に回ってフォロー! 殺さないのは慣れてないと思うけど、この戦力差ならいけるッ!」
隊長の声に頷き、猟犬部隊が音もなく配置につく。
「……ユイ、私たちも行きましょう。ただ、大勢は決してるわね。向こうの上位存在が気になってたけど、この勢いじゃマリアンヌを止められそうもないわ」
「リンディさん、油断は……」
「油断じゃないわよ」
ユイの言葉に、リンディは首を横に振る。
「守り自体は固いものだったわ。正面から正攻法で仕掛けたら時間がかかるように陣を敷いてる。まあ聞く感じ、全員洗脳されてるみたいだから、多分上に立ってるやつの軍事的手腕なんでしょうけど……それでも、あいつを止められない」
リンディの視線の先、マリアンヌは山腹に展開されていた敵を悉く叩きのめし、そのまま横穴に駆けこんでいった。
「まあ強いて言うなら、あいつを本気にさせちゃったのが運の尽きだったってことかしら」
「そう、ですね」
「……もっとも。うちの家が、根本的に一枚かんでるみたいだけど」
ちらりとリンディは、コアを破壊され、生贄を奪取され、声を上げることもできず分解されていく上位存在たちを見た。
「…………ラボからの技術提供。ということは、これはお父様が……」
「リンディさん?」
「ん……なんでも。なんでもないわ」
顔を向けて笑みを浮かべるリンディに、ユイは複雑そうな表情を浮かべた。
戦場では、姿を現した『
トンネルを必死に走る。
入口から差す光が消えた中を、流星の輝きで行く先を照らし、ひたすら走る。
まだ『
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
戦闘時間は短いが負荷が重すぎた。肩で息をしながら、前回戦闘場となった空間を抜けて、ついに儀式場へ到達する。
「マイノンさん!! アズトゥルパさん!!」
大声を上げて儀式場に突入したわたくしを。
誰もいない空間と、痛いほどの静けさが出迎えた。
「は、あ……!?」
完全な無人だった。
わたくしの砲撃を受けて天井に大穴の開いた空間には、誰もいない。
馬鹿な。なぜ。どこだ。
「……ッ!」
一縷の望みをかけ、来た道を逆走する。
暗いトンネルを疾走し、前回三体の上位存在たちと戦った空間を抜け、光のさす出入口へ全力疾走する。
果たして外に飛び出したわたくしを待っていたのは、完全に制圧を終えたらしく、今にもこちらへ飛び込もうとしていたユイさんたちだった。
「マリアンヌさん!? 中は……」
「ハァッ、ハァッ……外、に、宇宙の上位存在は!?」
「え……『
外に出てきてもいない!?
顔を振って一同を見渡す。圧勝ムードだった彼らが、だんだんと顔から喜色をそぎ落としていく。
そんな──それ、じゃあ。
「マイノンさんたちは!? リーンラード家の兄妹は!?」
「見つけてねえ。中にいるんじゃなかったか」
「誰も……! 誰もいなかったのです!」
ユートの問いに答えてから、思考が、カチリと一つの結論を導き出す。
「取り、逃がした……? またしても……?」
敵は『
「~~~~~~~ッッ!!」
そばにあった大木に拳を打ち付け、歯を食いしばる。
メキメキと音を立て、木が折れていった。
「……一応良いニュースもありますぜ」
「何よ」
音もなくやって来た猟犬部隊隊長に、振り向きもせずリンディが続きを促す。
「ゼルドルガのデータスペックはこっちで把握してます。権能をフルで使うためには、多くの条件が必要だ。ピースラウンドさんは巻き戻されて即行動を起こしてるんで、逃がしたからと言ってまた巻き戻されちまうってことはないですね」
「……次の巻き戻しまで猶予があるということか」
ジークフリートさんが腕を組み唸る。
隣に立っていたロイが一歩前に進み出た。
「あの、ではその猶予は……」
「俺たちが貸し出したもの以外にも何かを使っているっぽいんで……それ次第だけど、どんなに最悪の見積もり方をしても、一週間やそこらじゃ再補充できるとは思わねえ。反則に反則を重ねて束にして、一カ月ってところですね」
「なるほど……」
〇みろっく どうなん?
〇無敵 合ってると思う。というか作品内存在だけでゼルドルガを行使するなんて本来は無理だ
〇宇宙の起源 その無理を通すだけでも大変だろうからな……年単位じゃないのが奇跡ってレベルだよ
会話が聞こえてきて、コメント欄も見て、少し、息が楽になった。
ああそうだ。負けじゃない。確かに兄妹を奪還することはできなかった。黒幕には逃げられた。しかし。
「戦略的には勝利したということですわね」
「ええ、そこは断言できるんじゃねえですか? 奇襲は完全に成功した。敵の勢力も、逃げ切れたのはごく一部でしょうよ。次があるならそこで確実に潰せる」
「フム。神殿残党の取り逃がした数と比較しても、今回の戦闘で敵勢力は大きく削ぎ落せたネ。正直言って、向こうはもう組織として成立する数ではないヨ。首謀者のヤハト君を捕らえられなかったのは残念だが、まあ立場以外は小物だからねエ」
猟犬部隊隊長と青騎士さんの言葉を聞き、顔を上げた。
そうだ。次がある戦いなんだ。希望は切れていない。むしろ、繋ぐことができた。
「敵の目論見は粉砕し、撤退に追い込んだ。向こうが一発逆転のカードを握っているのこそ不愉快ですが、切れる状態にはない」
現状を滔々と語りながら、仲間たちの顔を順に見ていく。
事態を把握して、彼ら彼女らは力強く頷いてくれた。
「ならばわたくしたちのやることは明瞭! 奴らを見つけ出し、今度こそ徹底的に叩く!」
右の拳を左手に打ち付け、わたくしは唇を吊り上げる。
リンディがフッと笑みを浮かべた。
「やっといつもの調子になったじゃない」
「ええ。いつも通り、ちいさくてかわいいいきものになりました」
「あんたは小さくないわよ……」
「器が大きすぎましたかね」
「態度よ」
誉め言葉じゃないか? 誉め言葉だな……
まあともかく。
騎士たちがやって来て、ジークフリートさんたち隊長格が現場制圧・検証の指示を始める。
わたくしは手を叩き、メインメンバーの注目を集めた。
「では、すべて説明します。わたくしが見聞きしたこと」
一同が緊張に顔をこわばらせる。
空はだんだんと雲に覆われてきていた。
「あれはそう────ユイさんとリンディとわたくしの三人でパジャマパーティーをした時から、話は始まりました」
「……ッ!? そんなことしてたの!?」
「……ッ!? なんでリンディさんが参加してるんですか!?」
「……ッ!? 見物料金はいくらだい!?」
「……ッ!? お前のパジャマって何柄だ!?」
同級生四人の反応はマジで速かった。
わたくしは話の入りミスったなと思いながらジークフリートさんを見る。
「…………大変だな、君も」
「アナタとはホテルのスイートルームで一泊しました」
「ミリオンアーク君!! 真剣はやめてくれ!!」
居合切りを防ぎながら竜殺しが悲鳴を上げる。
いやあ、味方相手にも情報アド稼げてるの最高だな。
ていうかこれわたくし今なら捏造し放題じゃないですか?
ロイに婚約破棄されたことにして布石打っておきますかね!
〇火星 一気に信じてもらえなくなるぞ
はい……
逆行系主人公ムズくね?
シンジ先輩ってすげえんだな~って思いました。完。