ポケットモンスター レポート 作:サトシ
『ポケットモンスター、縮めてポケモン。
この星の、不思議な不思議な生き物。
海に森に町に。
その種類は、100,200,300。
いや、それ以上かもしれない。』
そんな台詞を聞いたのは、一体どの映画だったか。
現実の世界で、ポケモンは1匹もいない。
ポケモンというコンテンツは世界で愛され続けており、新作ゲームは定期的に発売されている。最近は少し緩やかになっているとはいえ、いつしかポケモンの種類は1000匹を超えていくのだろう。
かくいう俺も、物心つく前から、ポケットモンスター赤を楽しんでいたらしい。その時は親がやっているゲーム画面を見ていただけとはいえ。
しっかりと記憶として残っているのは、サファイアからだろうか。VC版としてクリスタルをつい最近やったので、なんだか曖昧だ。そういえば、ポケモンGOはもう1年以上やってはいないし、いまだ鮮明な最新作もいつしか過去のデータとなるのだろう。アプデ待ちだったのにな。
ともかく、俺の頭の中にはポケモンのデータが『レポート』されていた。
走馬灯のように思い出したことが、英単語や漢文単語を差し置いてまで憶えている『レポート』なのだ。大学のレポートそっちのけで、しっかりとデータをまとめていた。最新版のように『おまかせレポート』できるまである。
苦笑いが漏れる。
そんな特技なんて、履歴書に書こうと決して思わなかったのにな。
大学の帰り道に、『ここまでのかつやく』の何を書くかを考えていたはずだ。レポートするときは、『でんげんきらないでください』って、聞き飽きるほど言われていただろうに。
―――目の前が真っ暗になった。
ゲームと真逆で、旅の終わりがトラックだなんて、そんなストーリーを知りたくはなかった。文字にしてはいないデータは壊れて読み込むことすらできない。
まあ、マサラタウンから次の町へ着いた程度のデータだから、別に問題はないかと思った。決してリセットはできないデータだったけれど。
でも、その時には1匹はポケモンを持っていたんだっけ。そう考えると、後悔は残るのかもしれないな。
****
俺は目を開くと、真っ白な世界に立っていた。
「夢……?」
思わず、自分の腕を掴んでいた。
何かを掴んでいるという感触は確かにある。
「初めまして」
「……ども」
もしこんな挨拶をしては、面接官は顔を顰めるだろう。
まあ、目の前の老人はリラックスして学校椅子に座っている。学校机で両肘を支えている彼の微笑む顔を見ていると、不思議と心が落ち着いてくる。この空間の雰囲気にどこか懐かしさもあった。
俺は自然と、対面式に座って背筋を伸ばした。
「まずは自己紹介からしてもらおうかの」
「はい。俺は……」
そんな、ありふれた質問に言い淀んだ。頭の中の靄がかかったようなデータ、それを読み込もうとすると、顔が歪む。それは、定期テストの時に付け焼き刃で憶えた内容を思い出すときも味わったことだ。
老人がほんの少し気難しい顔をしたが、気のせいだっただろうか。
「えー、きみの名前は、サトシじゃったかな?」
「あ、はい」
思わず、肯定してしまった。その名前には聞き覚えがある程度なのに。
「さて。本題なのじゃが……お前さんは死んでしまったんじゃ」
「いや、生きてますけど……」
そう口に出したものの、老人の真剣な顔から揶揄うような気はないことはわかる。
でも、ここにはちゃんと俺がいる。
「その原因は我々、神にある。申し訳なかった」
腰を椅子から浮かして、机に両手をついて大きく頭を下げる。そんな老人を見て、自然と俺も席から立った。
神と自称した老人が、自然と神なのだと思えてしまう。本来、畏まるべきは俺の方なのだと自然と思わされた。
「具体的には言えんが、エラーが生じたことが原因じゃ。サトシ君は本来死ぬはずではなかった」
「な、なるほど……」
その言葉が他人事のようにしか思えないのは、実感がないからだろう。いや、消してくれたのだとわかった。死んだ瞬間のデータなんて記憶に染み付いていたら、俺の精神は耐えられなかったかもしれない。
嫌なことや苦痛を感じることはとにかく避けたい、その例に俺も漏れていないのだろう。
「えっと、俺はこの後どうすれば……」
「別の世界で生まれ変わることを提案しよう。君が元いた世界に戻すことは、リスクがあってな」
俺には理解できない要因もあるのだろう。まあ、その提案に載ることは確かだ。
だが、記憶が欠けているとはいえ、両親や友達の顔くらいは憶えている。今までの繋がり全てを断ち切って、たった1人分の片道切符が与えられたということだ。それは、酷く不安なことだ。権利を与えられたが、決心は渋ってしまう。
だから、曖昧な答えを導いてしまった。
「わかりました。」
その優柔不断な答えに、神は不満な顔をしなかった。再び学校椅子に腰かけ、俺にも座るよう促した。
「さて。こちらでサトシ君に適する世界を選ばせてもらったが……いいかの?」
「もちろんです」
「その……転生特典、いわゆる特殊能力や種族については?」
「いや、特に希望は……」
神は満足したのか、大きく頷いた。彼は「最近は『選ばせろ』という声が多くての」と小さく呟いたことには、苦笑いで反応しておく。
やがて、大きく咳払いをした。
「さて、君が生まれ変わる世界なのじゃが……」
俺はごくりと息をのんだ。
「ポケットモンスター、縮めてポケモン。その星の、不思議な不思議な生き物」
その詩的な文章は、耳にスッと入ってきた。
どのラノベだっただろうか。『どこか別の世界には本当にあの城が存在する』そう信じていた人がいたはずだ。そして、その世界を1つの仮想世界として創りあげた。彼の書き上げた『レポート』は、良くも悪くも人々に影響を与えた。
もしかすると、誰かが思い描くごとに、世界は次々と生まれていっているのかもしれない。
「ポケモン1匹1匹が世界各地で、生きておる。君にはその助けとなる力を与えよう」
その世界ではポケモンはデータじゃない。生き物。
その考え方を反復して、自分に言い聞かせる。
「この力を持つ者は『癒す者』と呼ばれる。ポケモンの心を読む力、そして癒す力は、良くも悪くも影響を与える。どう使うかは君次第じゃ」
俺はこくりと頷いた。
その『力』の重さに責任を持てということだ。
どう生きるかも、俺次第。
「さあ! ゆめとぼうけんに溢れた世界へ、レッツゴーじゃ!」
目の前が真っ白になった。