自宅待機の暇つぶしにでもなれば嬉しいです。
『クチバシティ』
ハナダシティを南下した先にある港町。頻繁に客船が発着するクチバ港が有名。
「ふねのチケットを拝見し」「うるさい、ゲンガーさいみんじゅつ」
その日の夜。僕とブルーはクチバ港を襲撃していた。
いや、おかしい。どうしてこうなった。
「船に乗るなら、言ってくれればよかったのに。チケットぐらい買えるよ」
自慢ではないが、「じてんしゃ」を定価で何台も買えるぐらいのお金はある。こんな乱暴すぎる手段を選ぶ必要なんて全くなかったのに。
「このへんに寝かせておけばいいかなぁ?ピクシー、サイコキネシスでそこの地面に運んでおいて。レアコイルはそこの監視カメラに10まんボルトをお願い」
「無視……」
焦る僕をスルーし、ブルーはポケモンたちに指示を出す。どうもこういったことには慣れているようだ。
(そういえば……ハナダのどうくつに入るとき、いつもいる警備員がいなかった)
実力はともかく、ジムバッジやリーグ制覇などの実績を作っていないブルーがハナダのどうくつに入れてもらえるとは思えない。ポケモンを使って強行突破したと考えていいだろう。
……洞窟を出るときから今まで何事もなかったかのように振る舞っているのは、本人にとってはどうでもいいことだからだろうか。背筋が寒くなった。
「よし、行こ」
「あとでちゃんと起きるよね?この人」
「当たり前!ずっと起きないさいみんじゅつなんて、あるわけないでしょ」
「まぁそうだけど……」
そもそもポケモンの技を人間に使ったことが無い。
簡単に流される自分が怖い。これがロケット団だったらどうだろう?止めていたかもなぁ。僕って、こんなに女の子に弱かったんだ……
手をつないだまま、船に乗った。ここだけ切り取ると普通のカップルみたいだ。
今日はサント・アンヌ号が来ている日ではないはずだから、これは定期連絡船かな?
「どこへ行くの?」
「知らない」
「ええっ!?」
どうやら何も考えていなかったらしい。何の目的もないのに、ブルーの気分で昏睡させられた職員の方がものすごくかわいそうに思えてきた。
「まぁ、どこでもいいよ!レアなポケモンがいればいいな」
「レアなポケモン、かぁ」
その言葉に、ふとハナダシティのマサキを思い出した。
彼のポケモンにかける情熱はすごかった。ポケモン預かりシステムの開発をはじめ、ポケモン界に与えた業績は数知れない。もっとも、会った当初はポケモンと合体するただの変態コレクターだと思っていたが……
……いや、ブルーのポケモンになってもいい、などと思っている僕が言えたことではないか。
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すぐに船は出航となった。
『ご利用ありがとうございます。高速船アクア号です。アサギシティへの到着時刻は……』
アナウンスが聞こえる。どうやらこの船は、アサギシティへ向かうらしい。
「ブルー、聞いた?アサギシティだって。僕ジョウトへ行くの初めて……あれ?」
気づいたらブルーの姿がない。周りをキョロキョロと見回す。
握っていた手を離されたことにショックを覚える自分が情けない。本当にブルーのポケモンのようになってしまった。もはや逃げるつもりもないだろうと判断したのかどうかはわからない。
仕方ないので、船内を探し回ることにした。サント・アンヌ号ほどではないが、それなりに豪華な客船だ。乗っている人々も、お金持ちな雰囲気を纏っている者が多い。多いのだが……
「! そこのお前!目が合ったら勝負だ!」
やはりと言っていいかなんというか、こういうトレーナーもいる。
子供だから簡単に倒せると思って、賞金を巻き上げようとする輩。
(めんどくさいなぁ。早くブルーのところに行きたい)
「ゆけっ!ゴルバット!」
「頼むよ、ウインディ」
ガルルルル!と威勢よく飛び出すウインディ。
全ての能力が高くまとまっており、パーティの主力の一角だ。
「しんそく」
目にも止まらぬ動きで、ゴルバットに襲い掛かる。
クリーンヒット。急所にも入ったかもしれない。予想通り一撃KOだ。
並のトレーナーが使うポケモンなら、動く前に瞬殺することができることから、ウインディに行ってもらう機会は多い。そのため雑魚ばかり狩らせてしまっている形となり、不満を持たれていないか常に心配であった。
その点、ブルーとの戦いではイキイキとしていた。ブルーのキュウコンと相対し、一進一退の攻防を繰り広げた。結果的にはインファイトを多用したことが響き、キュウコンのはかいこうせんで瀕死となったが、あのときのウインディの表情はどこか誇らしげだった。
僕は、ウインディのことを心から尊敬すると同時に、とても申し訳なく思った。普段から
弱い相手を潰す戦い方と、強い相手に対する戦い方は全然違う。知らず知らずのうちに、僕たちは四天王に挑んでいた頃とバトルスタイルが変わってしまった。疑うことなき強者であるブルーに対して、弱者に対する戦いに近い戦術を取ってしまった。インファイトの連発など、長期戦では愚策であったはずだ。
僕の中で、あのバトルは負けに等しいものだったと思っている。
最強のポケモンであり、本来はバトルの場で使用すべきでないミュウツー以外は全滅したのだ。それはもはや僕の実力ではない。トレーナーとしてはブルーの方が上だと僕は認めている。
その後の3体ともウインディのしんそくを受けることはかなわなかった。男から賞金を受け取り、次の場所を探索する。まったくもって、つまらないバトルだった。
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「ふんふーん♪」
「おーい、どこに行ったかと思ったよ」
「あっ、カケル!見て見て!」
ブルーを見つけた。その横には、見たことのないポケモンがいた。
図鑑を広げてみると、登録不可。どうやらカントーのポケモンではないらしい。
「このポケモンは?」
「知らないの?ヨーギラス!カントーにはいない、とっても珍しいポケモン」
ヨーギラス。聞いたことはあるが、見るのは初めてだ。
ヤマブキシティとコガネシティを結ぶリニアが開通してからというもの、カントーとジョウトの往来は大幅に増加した。そのため、ジョウトのポケモンも昔よりは見かける機会が増えたものの、それでも珍しいことに変わりはない。
「……えーと、一応聞くけど、どうやって?」
「え?わかんないけど、わたしが見つけたんだよ!」
『お客様に迷子のポケモンのお知らせです。船内でヨーギラスを発見した方は、至急スタッフにお知らせください』
「これ、人のポケモンだよ!」
「違うもん、わたしが見つけたの!」
ひとのものをとったらどろぼう!
僕の言葉になぜか涙目になるブルー。返せと言われるのが嫌らしい。
「……あー、わかったから。そんな顔しないでよ」
頑張りたくなるじゃないか。
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「いやぁ、ありがとう。こんな珍しいポケモンが手に入るなんて」
「いえいえ、僕もちょうどヨーギラスが欲しかったものですから。大事にしますね」
「こちらこそ。ずっと欲しかったポリゴン、大切にさせてもらうよ」
僕はヨーギラスの持ち主を探した。慌てた様子の男性がすぐに見つかった。そして、僕は男性にポケモン交換を申し込んだ。
ポリゴン。ヨーギラスとつり合っているかはわからないが、自信を持って珍しいと言い切れるポケモンを出すと言ったら、ポケモンコレクターと見られる彼はものすごい勢いで食いついてきた。
「ありがとう。いい旅を」
「こちらこそ、ありがとうございました。またどこかで」
上機嫌の男性は手を振って立ち去っていった。
「ポリゴン、あげてよかったの?」
「いいよ、だいぶ前にもらった子だけど、ちゃんと育ててあげられなかったし」
「でも、もったいない……ありがとう」
「どういたしまして」
ブルーは微笑みながら、ヨーギラスの入ったボールを受け取った。
「……カケルは、わたしのことあんまり否定しないよね」
「というと?」
「わたしが何かしようとすると、周りの人はいつも、間違ってる!そんなことしちゃダメだ!……なーんて、すぐに否定された」
「……なるほどね」
「本当に、みんなだいっきらいだった!」
それは多分、ブルーのことを思って言ってるんだ。
そう思いつつも、僕は何も言わず頷き、話の続きを促した。
「でも、カケルは違った。どうしてかな?」
「そんなの決まってる。ブルーを好きになったからだよ」
ブルーの顔が急に赤くなった。
これは僕の本心ではあるが、内面では『違う』という言葉が心を蝕む。ブルーの将来に危機を感じ、諫める大人たちがいた。そして、惚れた弱味からブルーのそういう部分を一切矯正しようとせず、望むがまま振舞っている僕がいる。いったい、本当に愛しているのはどちらだろうか?
「わわわ……ほ、ほんとに?」
「うん。というか、僕は君のポケモンなんだろ。マスターのことは大好きに決まってるじゃないか」
「……そうだったね!」
この上なく上機嫌なブルー。
傍から見れば、僕たちはどんどん悪い方向に進んでいるように思えるだろう。きっと、お互いの両親が見ていたら間違いなく止めてくるはずだ。この関係は、二人でどんどん落ちていく不健全な状態にしか見えない。
しかし、それも悪くないかと思ってしまうぐらいには僕も壊れていた。
ポケモンを鍛え、共に戦い、ジムバッジを集めるために日夜戦略を練っていた毎日。
最近の生活は、その美しく楽しかった日々と比べたら、酷く退屈でつまらないものでしかなかった。事務、調査、弱い挑戦者とのバトル……僕にとって、無意味と思える作業を繰り返すのはこの上ない苦痛だった。
ロケット団のサカキを一方的に打ち負かし、共に来ないかと勧誘されたヤマブキシティの夜。あの時、提案を受けておけばよかったかもしれないと思ったことすらある。
それを打ち破ってくれる少女がここにいる。唯一無二の発想、僕と互角以上の力を持つブルーは、他の何よりも輝いて見えた。
そう、僕は彼女に心酔していた。
チャンピオンとしての毎日より、今が楽しいと思えるから。掴んだ栄光は全て過去のもの。もはや大した価値は感じられない。
「うーん、ミュウツーを探しにいったら、ミュウツーよりもっと良いものが手に入っちゃった」
「それはよかった」
「カケルがいてくれたら、他のことなんかどうでもよくなってきたかも。ふふふ、もう絶対逃がさないから覚悟してね」
僕に肩を寄せながら、ブルーは囁く。
(それは、僕のセリフだよ)
船内での一夜は、とても短く感じた。