短編集   作:むかいまや

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「未読メッセージが1件あります」と通知が来た。
開いてみると、そこには――


未読メッセージが1件あります

 拝啓、utana様……いいえ、田中雄一様。こちらの名前でお呼びするのは、初めてですものね、驚かれるでしょう。アカウントには、お名前、書いておりませんものね。今まであまりお話したことはありませんけれど、今、勇気を出してお手紙を……ダイレクトメッセージですけれど、書いております。

 

 さて、お元気でしょうか。お元気ですよね。知っていますとも。先日、おっしゃっていた通り、風邪をお引きになったそうで、私も胸が締め付けられるような思いで過ごしておりました。今朝方、体温が下がったようで、大変、安堵の思いを抱いたところでございます。

 

 失礼しました。愛してやまない貴方のこととなると、少しばかり周りが見えなくなってしまいます。申し訳ございません。

 

 これはあなたに送る、些細なお手紙でございます。ずっと、ずっと貴方のことを見てきました。繋がっておりました。貴方のアカウントを通して、貴方をずうっと、ずうっと、お慕いしておりました。

 最初に貴方に出会いましたのは、出会いましたきっかけは、些細なものでした。

 確か、絵を描く方がよく使われるハッシュタグで貴方のツイートを見かけましたのがきっかけでございます。何の気なしに「いいね」をしましたら、そうしたら貴方様からフォローをしてくれたのでございます。その頃は、貴方のアカウントは、フォロー数も多くなく、私のツイートにも「いいね」してくれていましたのを覚えております。

 出会ったきっかけは、ええ、あの時ツイートなさっておりました、昔のアニメのパロディイラストでした。本当に可愛らしいイラストです。美術館に飾られないのが惜しいくらいと思います。けれども、あれが大衆に晒されるというのも口惜しく思います。なので、ひっそりと、過去ツイートの底の方と、私の心の中に輝き続けていてくだされば幸いでございます。ほのかにエッチで、けれど迷いや照れの無い素晴らしいイラストでございます。言う成れば、出会いのきっかけでありますし、些かの贔屓目をもって言いますと、私達をつないだ天使のようにも思われます。

 

 と、脱線しましたね。申し訳ございません。

 

 ともかく、あれがきっかけと思いますと、まことに感慨深いものです。今でも、貴方のことを思いながら、貴方がイラストを描いている姿を思いながら、貴方がイラストに込める思いを噛み締めながら、えぇ、胸をときめかせてしまいます。

 

 電子レンジを擬人化したときのことなど、私も大変笑わせていただきました。貴方様は覚えていらっしゃいますでしょうか? いいえ、覚えておりますよね。私がリプライしたのですもの、覚えていてくださらなくてはなりません。そうですよね? 忘れてなんて、いません。えぇ、そうですとも。

 あの時などは、私の言葉をリツイートまでしてくださりました。そのときのこそばゆさと言ったら! こればかりは貴方にはわかりませんでしょうね。けれど、本当に嬉しくて嬉しくて、声を出して跳ねてしまったくらいです。

 ですけれど、その後のことは憎々しくてハンカチを噛んでしまった程でした。だって、貴方、他の方にかまけて、私のことはそれっきり。恨めしいところです。私のツイートがそこそこの盛り上がりをしたのは、それはそれで嬉しく楽しいことですが、私が一番ほしいのは貴方の言葉です。貴方の思いです。貴方の視線です。あぁ、貴方がずっと見つめているスマートフォンの画面に取って代わりたい位です。けれど私は人なのですから、貴方の視線を別の方法で、それこそ私自身を愛してもらえるように努力すればよいだけのことです。ですから、そんな悔しさは我慢できます。

 

 また、貴方が一度、声をアップしたときがありましたね。声を変えて遊ぶアプリ、でしたよね。あの時、私も感化されて声をアップしました。そうしましたら、私のことを「良い声」とリプライしてお伝えしてくださりました。あれなどは本当に興奮してしまいました。嬉しくって嬉しくって……。けれど私は声に自身があるワケではないのです。なので削除をしてしまいました。いいえ、私のことなどどうでも良いのです。貴方の声は何度聞いても身体が震えてしまいます。よくある声などと仰る方もおりましょうが、けれども、私にとっては貴方の声が世界で一番美しい響きのようで、愛おしく、何よりも元気になる言葉でした。毎日、私のためだけに囁いて、声をかけて、欲しい。

 それは叶わぬ夢と考えていました。ですが、それは私の勘違いです。やってもいないことをやる前から諦めるなんておかしいと貴方もおっしゃりました。そのとおり、そのとおりです。その言葉のおかげで、貴方も、私のことを愛してくれているのだと……少なくとも意識してくれているのだと思いました。涙さえ流しました。嬉しかったです、ありがたいばかりです。

 

 私も貴方に感化されて、色々と創作活動に手を付けてみました。

 写真に、動画、小説や……絵も、もちろん。

 どれもいまいちで、中途半端で、評判は良くはありませんけど、けれど貴方は見てくれていましたね。最初に写真に挑戦したときも、動画を作ってみたときも、小説を書いたときも、絵を描いたときも、「いいね」をくれましたもの。その一回一回が貴方が私を見ているのだという証拠で、見つめてくれているのだという証拠で、意識してくれているのだという証拠で、愛してくれているのだという証拠ですよね。そうだと思っています。そうだと信じています。その筈です。ひとつひとつの好意の積み重ねが、私の気持ちを変えていきました。

 

 貴方は気付いていらっしゃるのだと思いますが、全部に愛の思いを密やかに込めていました。例えば、写真では貴方の好きなキャラクターのフィギュアがこっそりと見えるように、動画では貴方が好きなアニメに言及を、それもとても好意的なものを。小説では貴方のツイートを参考にしていました。それに、絵……ソフトの使い方を勉強している内に、気づきました。色とレイヤーを紛れさせて、貴方への愛の言葉を直接お伝えする。言葉にすると恥ずかしいですね。二番目に描いた絵の、服の、シワの、赤色の中に、桃色と陰の色との中に、そっと、そっと。貴方はずっとそれに気付いていてくれました。ですから「いいね」と喜んでくれていたのですよね。気付いていないのだなんて言わせません。貴方の思いが何であれ、事実として積み上がってきたものを否定など、させません。

 込めた思いなどは別にしても、貴方ほど美しく綺麗な絵を私は描けません。客観的に見ても、主観的に見ても。けれど、込めた思いなら負けません。貴方のことをお慕いしているのですから、貴方に捧げる作品に、込める思いは果てしないのです。

 願うならば、貴方を題材にして写真を、映像を、絵画を、物語を……編んでみたいものです。今まで、それは叶わなかった、などということは……ございません。どなたにも見せていませんけれども、貴方の姿をモデルに、一枚の写真を。その写真を手本に一枚の絵を……描かせていただきました。

 

 嘆かわしいことに、現実の貴方は本当に疲れた姿でいらっしゃりました。

 

 確かに、あの頃の貴方は忙しいとおっしゃっていて、何も出来ないとおっしゃっていて、画面越しに見ている私でさえ、どうにかなってしまいそうなくらいでした。普段お忙しいのは存じておりますので、時折貴方がツイートをするのを見かけるとどうしても嬉しくなるのです。貴方の言葉を見かける度に生きる希望というものが胸にこみ上げてくるのです。

 そんな私が、貴方を愛する私が、数日に一度しか貴方のお言葉をいただけないなんてこと、耐えられると思いますか? ありえない話なのです。

 貴方がお忙しいとおっしゃっていた頃、私は気が狂いそうで気が狂いそうで、一日千秋の思いでずうっと、ずうっと過ごしておりました。身が引き裂けそうなくらいの寂しさの中、ひとつ、天啓にうたれました。

 

 現実の貴方にお会いすればよいのだと。

 

 勝手なことをして申し訳ございません。けれど、私が貴方を愛するように、貴方も私を愛してくれている筈です。否定などさせません。恥ずかしいだなんておっしゃらないでください。愛の言葉を紡ぐのは、とてもとても、大切なことですから。

 

 さて、きっと貴方は「どうやって?」とお思いでしょう。

 単純です。貴方の言葉をずうっと見つめてきた私です。貴方の言葉のひとつひとつを見つめて、かけらを拾い集めるだけ。貴方だってそれを望んでいるのでしょう? そうでなくては、アレほど思わせぶりな言動、なさいませんもの。いわば愛する貴方から送られた挑戦状です。やりがいというものを感じたのはあの時以上にございません。

 

 仕事の種類、朝出かける時間、夜帰ってくる時間、忙しい時期、余裕のある時期、天気、電車の遅延、交通事故、イベントの話題、ささいな写真から覗く景色、生活のリズム、趣味の話題、最近の買い物、行ったお店……まるでパズルのピースのようなひとつひとつを集めて、組み上げて、幾つかの候補地が絞られました。そうして見つけたら、後はその場所に向かうだけ。

 

 幸運でした。貴方のお姿を見つけられたのは、えぇ、忘れもしません。あの雨の日です。貴方が黒地に茶色の縁取りがされた傘を使っているのは、ご自宅の写真から推察しておりましたから、絞り込んだひとつ目の会社から出てくるのを見つけた瞬間、身体に電気が走ったような心地がしました。すぐ、見つけられましたよ。きっと神様の思し召し、なのでしょうね。幸い、ゴミ捨て場の方に「今日届いた」とツイートなさっておりました通販のパッケージが捨てられていましたから、それのおかげで、私の推測は確信へと変わりました。月曜日に届いた荷物のダンボールを、火曜日にすぐ捨てるなんてマメな方なんだなぁなんて、もっと貴方のことが好きになってしまいます。

 

 その後は、すぐにでも貴方とお近づきになりたかったのですけれど、でも、すぐに貴方に話しかけてしまったら、きっと驚かれるでしょうから、私は貴方のことを知ることにしました。

 例えば、家族構成、住所、生活の範囲、恋人の有無……ネット上の貴方と、現実の貴方と、その間にどのような嘘があって、どのような真実があるのかをここのところ、ずっと……。危惧していたのは、全部が嘘であるという可能性。ですが、貴方は正直でいらっしゃって、殆ど嘘などついていないのだとすぐにわかりました。正直な方です。尊敬する人です。愛している人です。お慕いしている人です。恋人が居なくて、良かったです。私が、私だけが、貴方に愛されるべき人で、私が、私だけが、貴方を愛する人なのです。

 

 終わりに、クイズです。

 人が文字を読む速度って、ご存知ですか?

 一分間に四百文字から六百文字なのだそうです。けれど、貴方は文章を読むのが遅いのでしょうね、今まで見てきた貴方の仕草から考えますと、おそらくは一分間に三百文字程度でしょうか。

 

 今、この言葉を読んでいる頃は、貴方が既読のマークを付けてから十五分くらいの筈です。私がどれほど貴方のことを思っているかの証明に、貴方がこれを読み終わったタイミングでチャイムを鳴らしますね。奇跡って起こると思います? お部屋、片付けなくても結構ですよ。どこに何があるのか、知っていますもの。

 

 では、お邪魔しますね。




俺のアカウントをネタにしてみろって言われたんですけど、別物になりました。
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