ディルド茶道   作:プリン

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それぞれの想いを胸に、いざ運命のディルド茶会へ。
ディルド茶道、ついに閉幕。


ディルド茶道 十六~十八

十六

 

「大ディルド茶会は海域解放の二日前、一週間後です! 提督には攻略を目指して絆を深めるための食事会と伝えておきました! サプライズゲストです!」

 

 六日間、艦娘たちは出撃や鍛錬の合間を見つけてディルド茶道の研究を重ねた。皆、提督の賞賛を受けたいという一心だった。

 

 

 ――そして当日、ディルド茶人たちが大広間に集まった。

 

「暁流こそ真のレディーの道よ! 見てなさい!」

 

「淑女の称号は私にこそ相応しいわ! さあ、行くわよ!」

 

「私が皆にディルドの本当の使い方を教えてあげるわ……見ててね、北上さん」

 

「大勢でやるのも、悪くない」

 

 暁、足柄、大井、若葉。ディルド茶道四巨頭と呼ばれる艦娘たちである。もはやどのような経緯でこの競技が生まれたかも覚えていないが、彼女らには第一人者という誇りがあった。のだろうか。

 

「今こそ潜水艦の力を見せる時! 遊びでディルド茶道をやってる艦になんて、負けないわ!」

 

 そして、伊168。潜水艦の待遇を向上するという明確な目標がある彼女は、負けるわけにはいかない。こんな時が来るのを待ちわびて、伊流一門はひたすら己のディルド茶道を極めてきた。のかもしれない。

 

「皆、気合は十分なようだな。しかし私も負けてやる気はない! 研究の末辿り着いたビッグセブンのディルド茶道を見せてやる!」

 

「フッ、全力で戦うまでさ、主砲以上の衝撃を皆に与えてやろう」

 

「足柄に羽黒……ディルド茶道の経験は浅いが、私は優れた師を持てた。何より私自身、ディルド茶道に真剣に向き合ってきたんだ。那智の名とこの相棒にかけて、勝たせてもらおうか!」

 

「人がどうあろうと不知火は不知火です。私の最高傑作を、必ず……」

 

 そして、あの日、暁たちから技を授かった四人。

 

 それぞれ、真剣な顔で座して号令を待つ。己の全力を、彼に捧げるために。

 

 が、当の本人はそんなことは知らず、単なる食事会だと思ってひょっこり現れた。

 

「凄いじゃないか! 本当にこんな大勢を集めてくれたんだな! 感謝するぞ青葉」

 

「広告も企画も、青葉におまかせ!」

 

 到着した提督が、上座に置かれた座椅子に腰掛けた。青葉は得意げだ。

 

「それでは皆さん! 覆いを外してそれぞれの道具をお取りください!」

 

 続く号令と共に、一斉に座った艦娘たちの前の覆いが外された。

 

 ばさっ。

 

「っ!?」

 

 ずらりと並んだディルド。提督は、ただただ驚愕した。

 

「準備はよろしいでしょうか? では、合図に合わせて、それぞれの作法に従って始めてください! 制限時間は一時間! よーい、始め!」

 

 

 すっ。さーっ。ちょぽちょぽ。

 

 しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか。

 

 しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか。

 

 

「う、うわあああああああああ!」

 

 狂乱する提督。艦娘たちが揃ってディルドで器をかき回しているのだから、無理もない。

 

「どうしたんですか提督! 皆の美しい立ち振る舞いをご覧になってください!」

 

 確かに皆が正座し、器をかき回す様は優美そのものだ。しかし、その手に握られているのはディルドである。ディルドなのだ。

 

「ヒッ、ひいい」

 

 悪夢を超えた、美しき地獄の顕現に、ただ戦くことしかできない。

 

「……督、提督!」

 

 いつの間にか座椅子から転げ落ちた提督に、頭の後ろから呼びかける者がいる。

 

「う、あ……」

 

「しっかり皆の姿を見るんです!」

 

「みょ、妙高?」

 

 それは、あの日と同じく、妙高であった。厳しく提督を鼓舞する妙高。

 

「みんな提督に最高の一杯を振る舞うために頑張っているんです!」

 

「そ、そうなのか」

 

 全く意味がわからないが、とりあえず提督は立ち上がった。

 

「ほら、ご覧になってください。一心に器をかき混ぜるその所作、これ以上に美しい物がございますか?」

 

 艦級を問わず、ずらりと並んだ艦娘たち。誰もが真剣な面持ちで、一心に、ひたすらに茶碗に向き合っている。その胸に浮かぶのは。

 

『提督……!』

 

『提督……!』

 

『提督……!』

 

『不惑』

 

『レディー……!』

 

『勝利……!』

 

『地位向上……!』

 

『北上さん……!』

 

 ただ一つ、という訳ではないようだが。

 

「皆、俺のために……! あんなに真剣に……!」

 

 見ていた提督は感動したらしい。

 

「ああ……」

 

 目に涙まで浮かべ、感じ入っている。近頃は執務室に籠りきりだったので、艦娘たちの顔もろくに見られていなかった。それなのに彼女たちがここまで自分を想ってくれているのが嬉しかった。隣で妙高が、控えめに笑っている。

 

「ふふ、私も習いたかったですね、ディルド茶道」

 

『そこまで言って自分はやってないんですか?!』

 

 一部始終を見ていた青葉は、なぜいい話っぽくまとまりそうなのか全く理解できなかった。

 

 そうして、参加者たちがひとしきりかき混ぜ終わり、持ち時間は終了した。若葉はやや悔しげであった。あと十八時間はやるつもりだったが、時間切れ扱いで中断されたのだ。

 

「さて、終了です! それでは審査に移ります! 提督、よろしくお願いします!」

 

「待て青葉、俺にそれはできない」

 

「えっ? 何でですか?」

 

 青葉は予想外かつ予定外な審査辞退に面食らっている。

 

「なまじ皆の真剣な姿を見てしまったばかりにだ。こんな大勢が俺のために集まって、俺のために一心不乱に器をかき混ぜている。俺はそれがとても嬉しかった……。優劣など付けられない。皆の尊い姿勢を踏みにじる訳にはいかない」

 

「待ちなさいな! 私は最高の淑女の称号を賜るために……!」

 

 やるからには勝ちにこだわろうとした足柄。しかしそれを那智が制した。

 

「やめておけ足柄。私たちが間違っていたのだ。ディルド茶道は腕前を競うものではなかった」

 

хорошо(ハラショー)……。さすがはディルド茶道の申し子だ」

 

 響はやはり無表情である。しかし、その眼差しと声は満足気だった。

 

「フッ、提督め、糞真面目なのは相変わらず、か。まあいい、私達が欲しかったのは名誉なんかじゃない、だろう?」

 

「ああ」

 

「ディルド茶道に終わりはない、ですか」

 

 長門、武蔵、不知火も、ディルド茶道を通じて、それぞれ得難い物を得られたようだ。ディルドで茶を泡立てる技術など、敵を討つことからは見つけようも無かっただろう。

 

「俺ももっと皆と向き合う時間を取ったほうが良かったみたいだな。皆が戦場以外でこんなに活き活きとした表情を見せてくれるなんて」

 

 提督は、近頃の己の姿勢を省み、悔いた。皆こんなにも自分を慕ってくれている。自分なりに思いやってきたつもりだったが、これからはもっと皆と交流しよう、そしてもっと彼女たちを知ろうと、提督はそう思った。

 

「ちょっと待ったクマ! 最優秀者を決めなきゃ賭けにならないクマ!」

 

 観戦に徹していた艦娘たちが困惑している。

 

「どうしても品評会がしたいなら、あらかじめ俺と皆にそう伝えて、ルールも決めて来てくれよ。あと賭けはするな。青葉は後で執務室に来るように」

 

「ひいっ」

 

 まさかの大目玉の予感に、青葉は縮こまった。

 

「それじゃあ皆の点ててくれたお茶を飲むとするか」

 

 そう言って、提督が上座から艦娘たちの元へ向かおうとしたその時。

 

「ちょっと待った!」

 

 大音声が響いた。下座あたりの障子が乱雑に開けられた。思い切り障子を押し、右手が水平に伸ばされたままのポーズで、片目で提督を睨みつけている艦娘。

 

「お前か……木曾」

 

 俯き加減で、口元には掴み所のない笑みを浮かべている。

 

「おい提督よ、俺に秘密を作ろうなんて思っても無駄だということを教えてやるぜ」

 

 意図の読めない闖入に、広間に集められた艦娘たちがひそひそとざわめく。

 

 提督は困惑した。木曾の求めた秘密は、艦娘たちの前や、脇や、手の中にいくらでもある。

 

「期間限定海域に投入するつもりだったんだろう? どうやらとんでもない兵器だったらしいが、俺たち三人で造ったこれには敵う筈もない」

 

「工作艦明石、会心の出来です!」

 

「試験は完璧よ! これはまぎれもなく傑作だわ」

 

 木曾に続き、明石と夕張が入場する。広間は一層騒然とした。

 

「明石に夕張……?」

 

 ますます意味が分からず、提督は、得意絶頂に浸る木曾をぽかんと眺めるほか無かった。

 

 その間抜け面の意味など分からない木曾は、顔の前に拳を握り、音吐朗々と語りだした。

 

「高威力の先制雷撃が可能! かつ! 軽巡以上のあらゆる艦に搭載可能! しかも夜戦でも使える! これこそがお前が隠し続けてきた秘密兵器 『ディルド』 だ! しかもおそらくこっちの方が高性能だぜ!」

 

「え」

 

「は?」

 

「え……何それ……」

 

 木曾が不意に取り出した、得体の知れない艦載機のような何かを眺め、明石、夕張、そして提督は、それぞれ理由は違えど同じように、ひたすら茫然とした。

 

 その様子を見て木曾は、ふん、と鼻を鳴らした。着任以来、最高のしたり顔であった。

 

 

 

 

十七

 

 新兵器ディルドは、夜戦における先制攻撃で一方的に深海棲艦を殲滅。期間限定海域を凄まじい速度で攻略したこの鎮守府は、一気にその評価を上げることとなった。

 

 

 

 ディルド茶道は禁止された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一八

 

「山城、ディルド茶道が禁止されたみたいよ」

 

「姉さん、ついに私達に運が回ってきましたね」

 

 

 

「いよいよ扶桑型の時代を作るときが来たのよ」

 

「私達二人が始めた」

 

 

 

「オナホ華道で!」




「オナホ華道だと!?」

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