ディルド茶道   作:プリン

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進んでいくディルド茶道講義と、潜水艦を訪ねる木曾。


ディルド茶道 十・十一

 

「だいぶ泡立ってきたな。長い道のりだった」

 

「私のも負けちゃいないぜ」

 

「お、お茶はカプチーノじゃないのです、そんな泡だらけにしなくてもいいのです」

 

 モコモコと泡立った長門、武蔵両名の抹茶を、電が見とがめた。暁にとっては、武蔵の茶については泡以上に気になることがあった。

 

「武蔵さんのなんて、なぜか墨色になってるわよ! 一体どうしたの」

 

 実際、武蔵の器に立った泡は、なぜか墨色になっている。どういう理屈かはわからないが、長門はなんとなく主砲の威力と関係ある気がしてしまった。

 

「どうも何も、無心でかき混ぜていただけなんだがな」

 

 当の武蔵はそれが誇らしいとは思わなかったし、本人としてはもっとおいしそうな茶を点てたかった。

 

「くっ……ディルド茶道、道だけあってすぐに極められるものではないか」

 

「別にいいじゃない! 初めなんてみんなそんな感じよ。初心者なら仕方ないし、もっと私たちを頼っていいのよ!」

 

 思わぬ躓きに屈辱を覚えた長門を、雷がすかさず宥めた。

 

「ああ、頼む! この長門、何としても淑女の嗜みたるディルド茶道を極めて、提督に究極の一杯を……」

 

「抜け駆けかい? そうはいかないぜ。私も至高の一杯を振る舞ってやる」

 

 ただでさえ真剣そうな二人の眼差しは、もはや闘志を滲ませるがごとく熱を帯び始めていた。

 

「その調子よ! じゃあ、暁流秘伝を教えてあげるわ!」

 

「もう、雷! 勝手に秘伝を広めないでよ!」

 

 調子づき始めた雷を暁が諌めると、秘伝がどうのから口論が始まり、自分の担当だの、お互いの腕前だの、教え方だので言い争い始めた。気付いた電が止めに向かったが焼け石に水で、おろおろするばかりであった。

 

 一方、部屋の半分ですったもんだしているにも拘らず、那智は静かに器の中で円を描いていた。

 

「ふむ、これで出来上がり、なのか」

 

 那智が器を置くと、響がそれを覗き込んだ。そして、何も言わず、ただじっとその緑を眺めた。静かに、ただひたすらに。

 

「何だ」

 

 数十秒経って那智が尋ねると、響は那智の方を向き、ようやく口を開いた。

 

хорошо(ハラショー)。初めてでここまで理想に近いお茶を点てるなんて、那智はディルド茶道の申し子なのかもしれないね」

 

 師の惜しみない称賛を受けても、那智の表情は相変わらずであった。

 

「ふむ、光栄だな。しかし、私のディルド茶道はまだ序の口だ。この相棒とともに、さらなる高みに上り詰めるぞ!」

 

 しかし、その言葉は実に楽しげでやる気に満ちていた。

 

「それはいい心がけだね。でも、そんなに肩肘を張る必要はないよ。ディルド茶道でみんなが豊かな時を過ごすことができれば、私達は嬉しい」

 

 響はそこまで言い終えると、自分の茶を啜った。

 

「……不知火は、少し余裕が無かったのかもしれません」

 

 二人の様子を見て、不知火は再び、肘も使って器に円を描き始めた。もはや自室での屈辱などどうでも良かった。 

 

十一

 

『戦艦寮での収穫は伊勢と日向だけだったな。陸奥には逃げられるし大和は留守。扶桑と山城は何やら花を活けているようだったし、金剛姉妹は茶をしばいていた。まぁ、機密の一端でも掴めただけよしとするか』

 

 そんなことを考え、歩みを進めた木曾の視線にあるのは、この鎮守府でも特にコンパクトな寮。外観は平屋の一軒家にしか見えない。

 

『とにかくだ、魚雷の話となると餅は餅屋。ここしかないだろう』

 

 潜水艦寮。戦艦寮の二人部屋の倍はあろうかという玄関に上がり、木曾は居室の戸を叩いた。引き戸を叩いたとき特有の枠同士が当たる音と、戸の軋みが響く。

 

「お客さんとは珍しいのね」

 

 木曾を迎えたのは伊19。三か所で結んだ珍妙な髪型をしている。顔は駆逐艦程度の歳に見えるが、いろいろと年齢の推測を困難にしている事情がある。幼い顔立ち故、スクール水着を着ているのは分かるが、それに覆われた肢体は顔とはアンバランスなほどの発育を見せている。

 

「ああ、邪魔するぜ。にしても、着任以来滅多に会っていない気がするが」

 

 木曾は部屋を見渡した。畳張りのがらんとした部屋の真ん中で、やかんが火鉢にくべられしゅんしゅんと音を立てている。これから茶にするつもりだろうか。

 

「イムヤたちはだいたいいつも出撃してるわよ」

 

 ショッキングピンクの一つ結びを垂らした頭が、上がり込んだ木曾に振り向く。姉の伊168だ。

 

「例の資源確保か。ずっと鎮守府を支えているお前たちには本当に頭が上がらないな」

 

 彼女たち潜水艦が、日夜資源を拾うべく反復出撃しているのは鎮守府では周知の事実であった。むしろ彼女らにとって、今や戦闘よりも物資調達が主な任務と化している。

 

「それで、話って何なんですか~?」

 

 部屋の隅で本を読んでいた伊8も、来訪者の声に顔を上げた。

 

「いや、魚雷の話でな、お前ら魚雷には詳しいんだろう」

 

「魚雷さんの話なら負けないでち!」

 

 いつの間にやら伊58も木曾の後ろで正座していた。部屋の中央まで来た木曾が四方を囲まれた形となった。

 

「だったらお構いなく聞かせてもらおう。ディルドとは何か、教えてくれ」

 

 その言葉を聞くと、潜水艦一同は顔を見合わせ、19と168は視線で会話をする。

 

『魚雷とは関係ない気がするのね』

 

『ワオ! 流れがさっぱりわからないわ』

 

 助けを求めようにも皆戸惑うばかりなので、58、8は露骨にシラを切った。

 

「え? 何でち?」

 

「私も知りませんね~』

 

「おい、どういうことだ? 多摩姉は確かに魚雷だと言っていたぞ?」

 

『本当に知らないみたいなのね……』

 

『多摩さん……面白い方のようですね』

 

 いつも水中にいるからか、潜水艦らは目配せだけでほぼ完璧な意思疎通を見せた。

 

「ディルドなんて知らないでち、力になれなくてごめんなさいでち」

 

「ほかに何か質問はないの?」

 

「おいおいとぼけるなよ、ディルドが秘密なことぐらい知ってるから、気にしなくていいんだぜ」

 

 しかし、何か知っているのは明らかなので、木曾はやはり食い下がった。

 

「私達が気にするでち! ハッ!」

 

『まずいわ! 根掘り葉掘り聞かれたらごまかしきれないじゃない!』

 

 うっかり本音を漏らした58を168が無言で叱責した。

 

「やっぱり知ってるじゃないか。いいだろう? 教えてくれても」

 

「ごめんなの、ディルド茶道については一切力になれないのね……」

 

「あまり大きい声でする話でもないわ」

 

 大きい声でする話でないのは事実であった。

 

「そうかい、お前たちも提督側か……。仕方ねぇ、これ以上聞いても無駄ってことだろ? 邪魔したな。機会があれば、また魚雷の話でもしようぜ」

 

 これ以上根掘り葉掘り聞いても無駄だと察し、木曾は退いた。とりあえず潜水艦たちはディルドを秘匿したいというのは確定事項となった、それで良かった。

 

「ごめんなさいね……」

 

 その後ろ姿を8が見送る。最初の剣幕に反して妙に潔いのが、潜水艦たちには引っ掛かった。

 

『緘口令か、まどろっこしいな』

 

 提督が想像以上に周到に秘密を作ったことがわかり、木曾は苛立った。

 

 しかし、ここで諦めては提督の思う壺だと、木曾は知り得た情報を整理する。

 

『連中にとっても隠しておきたいこと……何がある? 資源関連でなければ戦闘……? 潜水艦といえば先制雷撃――!! 

 

 なるほど、ディルドは俺たちと潜水艦以外にも先制雷撃を可能にするのか! 普及すれば連中はいよいよ被害担当と資源稼ぎしか使われなくなる、それで頑なに!』

 

「わかったぜ、また一つ。聞けば聞くほど恐ろしいじゃねぇか、ディルドって奴は」

 

 *

 

「そろそろ行ったかしら?」

 

 その姿が見えなくなったのを確認し、8が玄関と居室の戸を閉めた。

 

「海の底で見出した秘伝は門外不出なのね」

 

「絶対にこれを極めて、私たちはオリョクるだけの船じゃないことを知らしめるのよ」

 

 そして、押し入れから風呂敷包みを取り出す。

 

 風呂敷から現れたのは器と、棗と――それぞれの相棒だ。

 

「ディルド茶道・伊流、特訓を始めるでち!」

 

 19の決然とした合図で、彼女らは一斉に相棒を手にした。

 

 さっ。

 

 ちょろろ。

 

 しゃかしゃかしゃかしゃか………………。 

 

 




潜水艦の交戦セリフってどのタイミングで言ってるんでしょうね。
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